第9話『太陽みたい…その笑顔』セリカ編

「それにしても、セリカさんは優しいんですねー」

えっやっぱりついてくるの?

私は超警戒しながら隣を歩く梧をイヤそうな目で見る

梧は私のファンと言うから、私のコトを語るのはもう幻想と妄想の域だった

誰だよそれ

「さしずめ聖女や女神って所、もう生きた伝説ですね!!」

褒められてるハズなのに、自分が認めてない自分の話をされるのは好きじゃない

私は少しも優しい心なんてもってない

助けなかったら後悔するから、力のない私は動けなくていつも後悔しか残らないの

自分が同じ目にあったら助けてほしいって思うからよ

この世界で守りも助けも救いもないのに

…誰もやらないから私がやるの

そしたら、この世界にもこんな人(私)がいるんだよって期待できるから

でも……ないのにねそんなものなんて

「僕なら他人を助けるなんてできないな~

だから、それができるセリカさんは凄いですよ」

梧の言葉に私の刀を持つ手に力が篭っていく

憎しみも苦しみも悲しみもこの心いっぱいにある

私は凄くなんかない

そんな気持ちが心を支配してるのに、助けないとって矛盾した気持ちもある

でも、やっぱり憎しみが大きくなれば

見捨てる時もあるわ…

よくわからなくなるの

私はどうしたいのか

人間が消えてほしいのか、救いたいのか……

「綺麗だし優しいし勇気もあるし」

人間なんて大嫌い…醜く汚い生き物

私なんて大嫌い…私も人間だもの

身体の穢れだけじゃない

私の心も醜いわとっても

私は人間が死ぬほど憎い

私自身も含めて…

………私は聖女でもなんでもない

「もう…やめて」

ポツポツと空から冷たい雨が降り出す

この世界は本当によく雨が降る

雨は冷たく心も身体も冷やす

でも、とても綺麗な濁りのない色をしてるのよ

この世界の汚れを洗い流すように感じるのに

この雨はいつも悲しい感じがするね

「わっ!?何!?」

「うわわわわ~~~!?地震だ~~~!!」

突如、地面が激しく揺れて立っていられなくなる

かなり強い揺れで半壊した建物はさらに崩れ周りの地面は避け始めた

すぐに揺れは治まるが、1分くらいの短い時間の揺れでもこの街を破壊するには十分だった

私と梧は運良く、建物が倒れてきたり地面の裂け目に巻き込まれるコトなく無事でも

遠くでは助けを呼ぶ声がたくさん湧き出ていた

「驚いたーこれだけの地震は始めてじゃないですか?

助かってラッキー」

ほっとする梧に私は眉を寄せる

この先でたくさんの助けを求める声が聞こえる状況で自分は助かってラッキーなんて…

こんなの全然ラッキーじゃないわ…

みんな無事じゃないと意味がないのに……

雨は一層激しく降り出し、雷が轟く

そして、地震はさらに厄介なものも連れてきたようだ

「ひゅ~、この街に巨大地震が来るってばあちゃんの予言はどんぴしゃりだなー!!」

「へっへっへ、あにきやっとチャンスがきやしたね」

建物の残骸に足をかけて、悪役がよく取るポーズで登場する集団が…数十人

「げげ!!全然ラッキーじゃないですよ!

あいつら隣街のクズ集団

世界を支配するとか言ってて、弱い癖に近隣街にちょっかいかけてる悪党達です」

説明ありがとう

私はそういう情報に疎いから助かる

「この街はさっきの地震で虫の息!

野郎共!美人が多いと言われるこの街の女は持ち帰れ、それ以外は一人残らず殺せ!!」

あにきと呼ばれた奴が合図すると集団は散り散りになって街へと攻めてきた

地震が起きるのを待ち弱った所を狙いに来るなんて、とんだクズ集団だ

まっ…そんなコト珍しくもないか

だけど、やっぱり今日はおかしい

世界の不幸が一気に起こるなんて…

「せせせセセリカさんんん!!!何する気ですか!?」

街に入ってくる悪党どもに刀を構えて待っていると梧はハゲそうなくらい顔面蒼白になって身を引いている

「………………。」

梧の質問に私は自分でもよくわからなかった

悪党達が一斉に来るのが視界に入った梧は逃げ走りドコかに隠れたようだ

「あの女が最初か~?逃げないのはびびってんのか!?」

向こうがそう言うなら私も最初に向かってきた男に刀を振る

刀が私の持つ右手を使って勝手に動いてる感じがする

身体はそれに釣られ振り回されているのが現実で悪党の持つ刃物の攻撃には完全に避け切れなく身体に少し傷がつく

でも、私が致命傷を負うより先に私の刀が敵を簡単に殺してくれる

「なんだこの女!?まぐれか!?」

1人殺られてやや動揺してる悪党達だが、引く気はまったくない様子

遠くから銃を撃ってくる奴もいるな

遠距離の敵はマズイ

一方的に殺されるだけ

私の刀はそれをわかっているかのように他の奴は放置にして私を遠距離の敵へと走らせる

何発もの弾丸が身体を掠る

服を裂き肌を傷付け血が滲む、痛みはあるけれど私の足は止まらない

刀で遠距離武器を持ってる数人を切り殺すと

あにきが手を挙げながら私に近付く

「その細い身体で大の男を簡単に殺すなんて大した女」

「……………………。」

私が刀を向けるとあにきは距離を保って足を止める

「わかったわかった降参

あんたにゃ敵わないってわかったから、見逃す事にする

だから、そこどいてくんない?」

「…どかないと言ったら……?」

「どして?殺人したいならよそでやってくれ

おれらはお嬢さんみたいな強い殺人鬼とは殺りあいたくないって言ってる

美人だからって油断してた」

「私が…殺人鬼?」

人間を殺したのだから…当たり前だよ……コイツの言う通り

何も間違ってないハズ

私は血に濡れたままの刀を眺める

「いや…違う、私は今弱ってる街の人達を一方的に襲おうとするオマエ達を止める為にここにいる」

今の私は…力があるの

ずっとほしかった弱い人間を守る力を

だから、私は…人を殺す…?

一瞬、静まり返ったあと火がついたように悪党達が大声で吹き笑い出した

「だーっはっはっ!!!!!」

「なんだそれ!?新しいお笑いのネタか?」

「おいら達を止めるってあの死に損ないの雑魚共を守るって言ってるのかー!?傑作っ!」

笑いのツボを一通り言って落ち着いた悪党達

そして、あにきが私に問う

「それでお嬢さんに何か得がある?守るって何?それをして何になる?

本当はただ人殺ししたいだけでは?」

強く冷たい雨が私の心を洗い流していく

何になる…何にもならない

それどころか、生きてきたこの23年間で随分と憎しみが溜められてきた

苦しみも悲しみも常に一緒にいて

私はいつからか、人間を……酷く……

私の洗い流された心は酷く醜かった

守るなんて上辺の私の正義かよくわからないものは一瞬で流れ落ちる

小さい時は人を救う力がほしかったのに

辛いコト痛いコト気持ち悪いコト苦しいコト悲しいコト…全部全部私を毎日苦しめる記憶の数々が頭を巡る

忘れたくても消えてくれない私の汚く醜い記憶達

早くこんな世界…私なんて消えてなくなってしまえばいいのに……!!

「好きに…したらいい」

私は刀を降ろし悪党達に街に行けと言った…

「あんがとさん」

あにきは私の肩をポンッと叩いて手下を連れ私の横を通り過ぎる

この後、街にいる人達の耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえるのをわかってて…私はアイツらを止めなかった

今のこの刀がある私なら、無傷じゃなくてもアイツらを全員殺せたのに…

私は……この街も世界も愛してない

人間も嫌い思い出も大嫌い

消えてなくなって

私が…消えてしまえばいいのに

激しく降っていた雨が治まっていく

暗い雲の隙間から光が射しているコトにも私は気づかなかった

「好きッ!」

突然ふわりと香るとても良い匂い

今までにない太陽みないな温かくて心が落ち着くようなめちゃくちゃ良い匂い

「…えっ!?」

急に私を包み込む誰かがいる

全然気付かなかった

私は知らない男の人に抱きしめられて、一瞬何が起きたのか理解できない

貴方の冷たい肌に私の手が触れてハッとする

えっ何この人!?誰!?

知らない人…なのに、私の心は不思議とまったく警戒するコトなく突き放すコトもできなかった

催眠術かなにかだろうか…このまま私は騙され操られ良いようにされるのか……?

と、この世界の当たり前みたいな悪い展開が頭を過ぎったケド

それでも私はこの人ならそれでもいいかもと思ってしまう

やっぱり催眠術か何かの類…!?

固まって動けない…

初対面でいきなりこんな抱きしめられてビックリしたのもあるケド

私は超人見知りだし、やっぱり男は恐いって気持ちが…

「ッセリカちゃん!?」

貴方は透き通るような綺麗な明るい声で私の名前を呼ぶと少し離れ、私の姿を眺めるように両肩を掴んだ

目が合った瞬間、色のなかった私の世界に光が射したように眩しくキラキラして神秘的な色で染め上げる

こんなに綺麗に世界が輝いて見えたのははじめて…

世界はこんなに美しく幻想的な色をしていたなんて…知らなかったわ

私はちゃんとその人の姿を顔を見て

めっちゃくちゃ美形な人…と顔が熱くなった

こんな人間離れした美しい人始めて見た……

ワインレッドの髪にガーネット色の瞳

冷たい肌は真珠のように白い

見た目はカッコイイ美人なタイプだケド、太陽みたいな笑顔を見せる

こんな人はじめて見た

本当に人間かしら、とても美しい男の人…

まるで王子様ねって笑っちゃう

私は夢を見てるみたい

「貴方は…?どうして私の名前を……?」

「君の運命の恋人だよ

イングヴェィって言うの」

貴方は私の前にひざまずいて、バラの花束を差し出してきた

あっ、この人変な人だった

私は綺麗で可愛いからこうしたストーカーって珍しくないから冷静でいられる…

「セリカちゃん、君を迎えに来たよ」

うぅっ…変人のストーカーだってわかってるのに

なんでかな…貴方を見ていると声を聞くと、私を見つめられると私に話しかけられると、心がドキドキして顔が熱くなる

雨に打たれたから風邪かな~…

私は差し出された綺麗なバラの花束を受け取る

見たコトもない美しく咲くバラなのに、それが霞むほど目の前のイングヴェィって男の人のほうが美しかった

でも、やっぱり変な人

プロポーズするみたいな気合い入れた服装だし

初対面なのに…もしかして、女の子なら誰にでもそう言ってるのかな?

そう思うと私の心はズキンと痛んで、無意識にバラの花束と刀を持つ腕に力が入る

「っ………セリカちゃん…?

このアザや傷は…どうしたの」

貴方が私の頬に触れようと手を伸ばすのに気付いて私はビックリして身体を後ろに引いてしまった

あっ…貴方が凄く傷付いた顔をした

表情豊かな人、隠すコトなく感情がそのまま見えるわ…

私は自分の身体が傷付いてるのを見られてとても恥ずかしくなった

今までアザがあろうが傷があろうが、こんな汚れた身体ならどうでもよかったのに

貴方には見てほしくなかった…何故か…貴方には綺麗な私を見てほしいと思うから……

どんなに頑張ってももう綺麗になんて…なれないのに

「逃げないで…君を傷つけるのは何……」

イングヴェィは私が身を引いても追い掛けるように手を伸ばしてくれる

眩しい…貴方はずっと私が見たかった…あの

「セリカさん危ない!!」

突然、イングヴェィの手を払いのけて梧が私の手を掴み連れて行く

「逃げましょう!!」

逃げるって何から?

梧は私が危険でもなんでもないのに私を引っ張る

待ってと言いたいのに、梧が引っ張るまま私は振り返ってイングヴェィの姿を見る

何事って顔でまるで時間が止まったかのように動かないイングヴェィに私はなんて声をかけていいかわからなくて梧に待ってと言えなかった

もっと見つめていたかった太陽みたいな笑顔

もっと聞いていたかった透き通るように耳に心地好い高く綺麗な声

豊かな表情、温かな笑み、それには合わない冷たい体温で、触れてほしかった

貴方に…

イングヴェィの姿はあっという間に見えなくなる

輝いた世界はまた暗闇へと変わる

私は夢を見ていただけなのだと現実に引き戻されたような気分よ

刀を握り直すのは現実に向き合うため

また気を張り詰めてないと…やられちゃう

腕の中にある美しいバラの花びらが1枚落ちてしまった



-続く-2015/02/08

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る