第10話『ここから私を連れ去って』セリカ編
さっきの人…なんだったんだろう
私は手の中にあるバラの花束を見つめながら、さっきのコトを思い出す
こんなにも綺麗なバラの花…見たコトない
この世界の植物は人間と同じで死んでいるかのようにしか咲かない
私はお花や植物が大好きだけれど……
あの人がくれたこの紅く美しいバラは、人の心を癒してくれるほど香り高く…まるで本当に生きているみたい
私の名前を知っていていきなり好きとか、もう私と恋人とか言ってたし
よくよく考えたらただのストーカーで危ない奴なんだケド……
でも、とても素敵な人だった…
ウソの笑顔を振り撒く奴らはたくさんいる
それなのにあの人の笑顔はまるで太陽みたいに明るくウソの1つもないようだったわ
太陽なんて見たコトないし、想像でしかないよ
太陽はきっとあんな風に明るく温かいものなんだろうなって思う
なんだか、この世界の人じゃないみたいだった
それとも、そういう風に思わせて貴方も私を傷つける人なのかしら…
イングヴェィの太陽みたいな笑顔を思い出す
なのに、私は笑えない
笑顔って…どうやるの…
両手で自分の頬に触れると鏡が割れそうなくらい酷い顔をしているのに
「…梧、もう手を離して」
暫くしてから現実に引き戻された私は立ち止まる
「すいません!つい、セリカさんを助けるのに夢中で
危なかったですね!
僕もセリカさんみたいに誰かを助ける事ができるなんて、僕がセリカさんを助けたんです」
何言ってんだコイツ、悪党が襲ってきた時とか隠れていたのに面白いコトを言うな
「イングヴェィは…あの人は私に危害を加えていないわ
梧の勘違いよ」
「……………………。」
私がそう言うと梧は黙り込んでイヤそうな顔をした
梧は私のファンだったね
私が他の男の人を庇ったらそんな顔をするのも当然かもしれない
でも、私はバラの花束に視線を落とし思うの
本当のコトを言っただけ…
あの人は…イングヴェィは……
「セリカさん、付き合ってください!!」
「えっ?ドコに?」
突然、梧が大きな声を出す
「僕の彼女になってくださいの意味です!!」
ちっ、すっとぼけたのに…
「イヤです無理です」
梧の突然の告白に私は無意識にまたバラの花束を抱く腕に力が入る
付き合ってって言うのは私が好きだからってコトだよね…
でも…好きが伝わってこないのは
私が好きの意味をわからないから?
好きってどんな感じ…
瞬きをするとイングヴェィの姿が映る
ねぇ好きってどんな感じ…?
私は気を抜いていたのかもしれない
背後から近付く人の気配に気付かなかった
この世界で気を抜くヒマなんてないのに……
「…ハッ!?」
「梧ーーー!!奪ったわよ!!」
背後から近付かれ、女が気を抜いていた私から刀を簡単に奪い取る
しまった…
腕の中から刀がすり抜ける感覚に気付いた瞬間じゃもう遅い
女は梧の名前を嬉しそうに呼び駆け寄る
「ふぅ…セリカさん残念です」
梧に刀を渡して女はそのまま梧の腕に抱き着く
梧は私の刀を鞘から抜き刃を私に向けた
「さっきの告白でOKしてくれれば、この刀はセリカさんに向けずに済んだのに
あっセリカさんから刀を奪ったこれは僕の彼女です」
「彼女いたのに、私に告白したの?」
「本命はセリカさんですよ
僕のものにならないならここで死んでもらいます…美奈」
美奈と呼ばれた梧の彼女は私に近付き、私を羽交い締めにした
あッ!?女の子だからって油断した!?
まんまと身動きを封じられた私はなんてバカだ
「殺す前にちゃんとセリカさんで楽しまないとね?
こんなに綺麗に生まれて、今までにもよく言われませんでしたー?」
梧は身動きのとれない私に近付き、頬に触れてくる
ぞわっとするイヤな感じが触れられた頬から全身に回るのは何度も体験したコト
このイヤな感覚…慣れない
何度だって恐いし気持ち悪いわ
「色気があるわけではないのに、そういう気持ちで見ると言うよりは
その神秘的な綺麗さと幻想的な輝く美しさは
汚してしまったらどうなるんだろうと思います
神聖なものを汚したくなるのは人間の醜い1つの部分ですねぇ」
「…梧の言う通り、よく言われるよその言葉」
他の人に私がどんな風に目に見えてるのか言われてもわからない
私は自分がとても醜いと思っているから
憎しみも苦しみも悲しみも強く深くある私の心が綺麗だとは思えない
私はオマエ達と同じこの世界の住人に相応しいくらい汚い人間だよ
「な、美奈さん、離してください
梧がこれから私に何をするのか君だってわかるハズ
梧の彼女である君がそんなの見たいワケないわ
私を逃がして?」
「梧が決めた事なら正しい」
正しくねぇよ!?意味わかんねぇよ!!??
現実逃避並の答えが返ってきてどうしたらいいの
………違うわ…
梧の彼女、口では平気と言っているけれど
その表情は傷付いて悲しんでいる
羽交い締めにされてるから見えないケド、声でわかる
梧は彼女の顔をちゃんと見たコトがあるのか
きっとそれに気付いていない
彼女は梧のコトが好きだから自分が我慢してでも黙って従っているのかな…
そう考えると梧に対して怒りしか沸いてこない
なのに、私はいつものように抵抗もする気が起きない
非力な私がどんなに抵抗したって、逃げられないし力で捩伏せられるだけ
そうわかってるのよ
今までそうだったし…
抵抗してイヤなコトが長引くくらいなら、大人しくして1秒でも早く終わるコトに耐えて我慢するだけ
私はいつも負ける…
弱い自分は何もできない
なんでもできるとか強くなれるなんてのは、空想の世界だけよ
現実はハッキリしてるわ…
でも…でも……やっぱりいつも恐いんだよ……!!
イヤだよって叫びたいよ逃げたいよ!!
なのにどうしようもないから、いつも心が薄くなって消えていく感じがするの
何度恐い思いをしても慣れない
イヤなものはイヤ、恐いものは恐い、気持ち悪いものは気持ち悪い
「セリカさんの肌は今まで触れた事ないくらい本当に綺麗で気持ちいい…」
梧の手が私の服の下に入り肌を撫でる
助けて助けて助けて誰か…歯を食いしばって何度心の中でそう……
「セリカちゃん!?」
私の名前を呼ぶ綺麗な声が透き通るように私の耳に届く
それと同時にとっても良い匂いがする
幸せな気持ちになる声と香り
なのに、目の前の光景は一瞬きで梧の首が空に跳ねた
「えっ…」
って理解する前に二瞬きの目の前の光景は、さっき出逢ったイングヴェィの姿がある
跳ねられた梧の首の切り口からは血がまったく出ず私を汚すコトはなかった
少しだけ梧の身体に触れると氷のように冷たく凍ってる
すぐにイングヴェィが梧の身体を押しのけて私の前に立ったけれど
「セリカちゃん!セリカちゃん!?大丈夫!?」
私の肩を掴み貴方は確かめるように私を見て心配してくれた
「あっ……」
イングヴェィの声に姿に触れる手に…強く感じる
ううん…違う…そうじゃない
私が今強く感じてるのはイングヴェィの気持ちだわ
今まで人の心が自分に伝わったコトなんてなかった
梧の告白も何も感じなかった
「……たくさん…怪我してる……ね…
俺が回復魔法を使えたらこんな傷は綺麗に治せてあげるのに……」
でも、イングヴェィの気持ちはストレートに強く伝わってくるのを感じるの
表情が豊かなのもあるケド、それだけじゃない
「もっと…セリカちゃんを早く見つけてあげられたら、ちゃんと守ってあげられたのに
もっと…早く思い出せていたら……ゴメンね…セリカちゃん……
本当にゴメンね……」
素直な言葉も震える手も涙が滲む瞳も…ウソじゃないってわかる
どうして、いつもなら疑うのに
貴方のコトは何1つ疑えない…
さっき始めて会ったばかりなのに…不思議な人
「……………………。」
イングヴェィの後ろで梧の身体が倒れ首が転げ落ちている
気付かなかったケドいつの間にか私は羽交い締めから解放されていて梧の彼女の姿が見当たらない?
私が見ていなかっただけで、梧が殺されたコトにビックリして逃げたか
私はピンチになって、はじめて助けてもらったのか…
今まで、どんなに助けて助けてと祈っても助けてもらったコトなんてない
痛くて汚くて気持ち悪くて苦しくて悲しくて…憎くて……
その全てを味あうまで終わりなんてなかった
死ぬのが恐くても、いっそ殺してくれれば楽だったかもしれないのに…
「もっと早く追いついていれば、君に指一本も触れさせなかったのに…
でも、もう大丈夫だよ」
イングヴェィは申し訳なさそうに私にそう笑顔で言ってくれるケド
私はイングヴェィの後ろに変なマスクを被ってチェーンソーを持った男に気付く
こっちに向かってくる明らかに殺人鬼ですって奴に気付いた私がイングヴェィに伝えようと声を出そうと
「これからは俺が君を守ってあげるからね」
する前に、すでに殺人鬼に気付いていたイングヴェィはブーメランを投げ殺人鬼の身体をバラバラにしてしまった
ブーメランなんて武器、この世界じゃ珍しいな
しかも、とっても強い…
「……イングヴェィはどうして私を守ると言うの」
「好きだからだよ」
「好きって…さっき会ったばっかりなのに」
「一目惚れだよ~
でも、君に触れて全部思い出した
俺は君が、セリカちゃんのコトを過去も未来も現在も…愛してる」
高く明るい声が、最後の言葉だけ口にするのが恥ずかしかったのか、落ち着いて囁くように
顔を真っ赤にして微笑んだ
それに釣られて私の顔も熱くなってしまった
超人見知りな私だから赤面するコトはよくあるケド、それとは違う熱さ…温かさ……
「…私は貴方を知らないのに……」
「仕方ないよ
セリカちゃんは人間だもん
俺のコトを覚えてなんていられないんだ…
それはちょっと寂しいし悲しいケド
でも、セリカちゃんは俺の運命の恋人だから
いつかは俺を好きになってくれる愛してくれる…よね!?」
よね!?って聞かれても!?
そんなの…わからないよ…
私はイングヴェィから視線を反らした
自分の心の中に変化があったのは確かでも、小さい頃から染み付いた他人を信用しない疑いの心が邪魔をする
助けてもらったのが生まれてはじめてで信じられなかった
「もう一度言うねセリカちゃん、俺は君を迎えに来たんだよ」
「……っ」
私はその言葉をずっと待っていた
私はずっと待っていたんだこの時を貴方を
この世界から逃げ出したかった私はずっと願っていたの
助けてほしい救ってほしい守ってほしい
そんなのこれから先もずっと叶わないものだと諦めていたのに…
やっと…叶ったの?
私のお願いが……
「君を迎えに、それはセリカちゃんを…殺しに来ました……って意味なんだケドね」
差し出されたその手は最初に会った時と変わらない
貴方は私から目を反らし苦しく悲しい顔をして言う
その顔が滲んでいく
私の瞳に涙が溜まって熱くなる
「イングヴェィ…私は貴方の笑顔が見たい
そんな顔をしないで
私を迎えに来たんでしょう?」
私がイングヴェィの冷たい手に手を重ねると、イングヴェィの手が私の手をシッカリと握る
冷え症な私より冷たい手をしてるなんてと思ってしまった
イングヴェィの冷たい手は私の低い体温が少しずつ伝わっていく
「大好きな君を殺さなきゃいけないんだよ…
笑えないよ……」
私が笑ってほしいと言ったからなのかイングヴェィは苦笑いをする
「イングヴェィ、変
貴方は私を迎えに来たと言ったの
それが例え死であったとしても…私は嬉しい
死ぬのは恐いって思うのが人間の本能だから、恐いよ
死にたくないって思うよ
それでも、私はいつもここから抜け出したいと思ってた」
もっと早くに、最初に会った時に貴方の手を取るべきだった
恐怖からなのかそれとも嬉しさからなのか、私の涙は溢れ出して止まらない
考えたら楽しそうよ
だって、ここじゃない新しい世界に連れて行ってくれるんだもん
会いたかった…会いたかったよずっと…イングヴェィ…私はずっと会いたかった……
貴方は私がずっと見たかった太陽
「私を連れて行って、イングヴェィ」
止まらない涙と一緒に私は生まれて始めて笑ってみた
自然と笑顔が生まれる
どんな顔してるかわからない
変な顔で笑ってるかもしれない
この世界からの解放と、救いに…
ずっと力が入っていた私の心は…はじめて安らいだ気がする
「セリカちゃん…
君が殺されるのを拒否しても無理矢理にでも殺して連れて行くつもりだった
でも、こうして君を目の前にしていると……」
「イングヴェィ…」
「ううん…これは俺の弱さだね
俺も君を連れて行くコトを望んでいる
君もそれを受け入れてくれている
だから…一度だけ、君を殺すね……
一度だけ…そしたらもうずっと一緒だもん、何も恐れるコトなんてないよ」
イングヴェィは何かを振り切ったように曇らせた顔を晴らして笑ってくれる
「はい…」
目を閉じる
死の恐怖はあるわ
今まで生きてこれたのが不思議なくらい
でも、やっと終わりがきた
その暗闇は一瞬で、次に目を覚ましたら世界は明るく変わって
また貴方の太陽みたいな笑顔を見れるんだ
私は生まれてはじめて誰かを信じた
それでも染み付いた疑いの心は消えないから
もし、最後も騙されていたとしてもと考えてしまう
それでも良いと思えるくらい私は貴方に心を許してる
この世界からの解放も救いも…
私の運命は貴方に出逢った今から動き始めるの
-続く-2015/02/15
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます