第11話『君が目を覚ますまで』イングヴェィ編

別世界で人が死ぬと、運命が強ければこの世界で目覚める

俺もリジェウェィもユリセリさんもカトルもみんなそうだった

だから、君も必ずこの世界に来る

この世界で目が覚める場所は1ヶ所だけ

生命の廃墟と呼ばれてて棺桶がたくさんある所

棺桶とこの世界のガイドブック(神族作成)がある

空気が澄んでいて、生者を守る不思議な力があるんだよね

俺はユリセリさんの能力が切れて、君の世界からこの運命の世界に戻ると

自分の城に戻るコトなくその足で生命の廃墟へと走った

ここから俺の足だと5日か…

目を覚ますのは人によって様々、1日だったり1年かかったりする人もいる

外は危ないから、もしもう目覚めているなら廃墟の中で俺を待っていてほしいと願いながら

俺は君を迎えに行く



生命の廃墟につくと、俺がこの世界に来た時と何も変わらないままの景色があった

でも…わかる……

この無数にある棺桶の中から、君がドコにいるのかすぐにわかった

運命だもの…君がドコにいるかなんて簡単で、君のコトでわからないコトなんてない

「見つけた…セリカちゃん」

天井に穴が空いていてそこから太陽の光が射す元にいたよ

そっと蓋を静かに開けるとまだ目覚めない君がそこにいる

死んだかのように静かに息をしながら眠ってる

あっちの世界ではアザや傷がたくさんあったけれど、この世界に来たセリカちゃんの身体には傷1つなく

本来の綺麗な白い肌が光に当たって眩しくなるくらいに輝いてる

服も破れたりしてる所もあったのに、新品みたいに綺麗だ

俺は君を棺桶の中から抱き上げた

羽根のように軽く、小柄で細くてもやっぱり人間の女の子

柔らかくて温かくて良い匂いがする

早く…目を開けて、声が聴きたい、触れてほしい

君と生きたい

「…………………。」

君が目を覚ましたら、何を話そう何をしようか

そんなコトを考えながら俺は廃墟から君だけを連れ出した

何か忘れてるような気なんて…君に浮かれすぎてて、気付いたのはもっと後でになる



「ただいま」

久しぶりに自分の城へ帰ると、城の中は普段の2倍か3倍くらい賑やかになっていた

「イングヴェィ、やっと帰ってきたのだな」

リジェウェィが出迎えてくれたけれど、俺は知らない人がたくさん城の中をうろうろしているコトが気になってエントランスホールから動けない

「お前がいない間に、プラチナのファンだから仲間になりたいと言う人間が大勢この城にやって来たのだ

オレはイングヴェィもいない事だし、人間を多く迎え入れるのもどうかと思ったのだが

カトルは仲間は多い方がいざという時に盾になると言うのだ

それには同感してしまい、この状況だ」

いざって時に盾にするのは仲間って言わないよね……

人間か…無意識に他種族を魅了してしまう俺のプラチナの能力に影響されてなんだろうケド

俺はセリカちゃん以外の人間をよく知らない

何より、天がたった1人創った人間がセリカちゃんで、それ以外の全ては神が創った人間

人間は人間でも、生まれが違うんだよ

だから俺はセリカちゃん以外の人間は未知なんだよね

一度リジェウェィ達が迎え入れちゃったから帰ってとも言えないし…

セレンさん達神族が愛している人間なんだから悪い人達ではないハズ……

「盾にしちゃ可哀相だよ」

「ところでイングヴェィ、その女は…」

腕の中で眠るセリカちゃんを見てリジェウェィは言う

「セリカちゃんだよ

えへへ~可愛いでしょ!」

「…可愛い系と言うよりは綺麗系では……

しかしまあ、その様子では全て思い出したみたいだな」

俺の変わった様子に気付いたリジェウェィはよかったとほっとしてくれる

「おかげさまでね!

セリカちゃんに触れた瞬間に記憶は全部取り戻したんだケド、何故か俺のプラチナの力はまだ戻ってないんだ

どうしてなのかな」

「そうなのか?

色々と調べてみないとわからないが」

俺のプラチナの力、能力は想像したコトが現実に起きる

想像力が乏しいから、見たコトがあるとかしたコトがあるとかの記憶を当て嵌めて使うのが主

つまり…スッゴイ能力なのに想像する力があんまりなくて宝の持ち腐れってやつ!?

まぁそのうち何かのきっかけで力は戻るよねって結構楽観的だったり…

だって、大切な君がここにいて大切な君との思い出を取り戻しただけで今は十分だもん

「それじゃリジェウェィ

俺はセリカちゃんを部屋のベッドに寝かせに行くね

セリカちゃんの部屋もすぐ用意してあげなきゃね」

またねとリジェウェィに笑うと

「ふふ、イングヴェィはそうでなくてはな

その太陽みたいな笑顔がまた見れて嬉しいぞ」

「ありがとう」

気付いてなかった

でも、そうだ俺はこうやって笑ってたんだ

廊下を歩いていると壁にかけてある鏡に目が止まる

暫く失っていた笑顔は前と変わらずに帰ってきていた

君がいなきゃ、セリカちゃんがいなきゃ俺は笑うコトさえできない

このプラチナの何もない心にたくさんの感情が生まれたのも君に出逢った瞬間だった

恋をする愛を知るコトがプラチナにとっての心そのもの

なんじゃないかなって思うよ



セリカちゃんを連れてきてから1日が経った

まだ君は目を覚まさない

俺の部屋のベッドの上で静かに眠る

「眠り姫のように唇にキスでもしたら目が覚めるんじゃない?」

ドアがノックされたと思ったら、カトルがリンゴを食べながら部屋に入ってきた

「キ、、、キっ……ッス!?何言ってるのカトル!!」

顔が真っ赤になって熱くなるのを感じる

体温のないプラチナは何をしても熱を出すコトはないケド、心が燃えるように熱く感じているのが顔にまで上がる感覚

キスなんて…前世のセリカちゃんにはじめて出逢った時に勢いでしちゃっただけで

その後は感情が生まれたコトで恥ずかしくて…ね……

手を繋ぐとか抱きしめるとか額や頬や手へのキスとかは照れずにやっちゃうんだケド

恋人同士がするようなコトは…恥ずかしいよ……

………したいケド…

「何……500年も生きてて……まさか、まだ…」

「怒るよ?」

信じられないとカトルは好物のリンゴを落としてまでの驚きぶりに俺はニッコリ笑顔で返した

500年…生きててセリカちゃん以外に恋をしたコトなんてなかった

恋愛や女性ってものにも興味がなかったもん

「…………………。」

こうしてベッドの上でセリカちゃんを見ていると想いが溢れて爆発しそうになるよ

セリカちゃんのコト大好き愛してる

見つめていると好きが溢れ出して、顔に触れて額へキスしちゃう

もっと触れたいよ…

恥ずかしいってのもあるケド

それはセリカちゃんを傷付けるコトになるんじゃないかって心が止めに入る

俺は君のコトを知っているからこそ…

傷付けたくない……

「………あぁそうそうイングヴェィ

今ルナの町で面白いものが見れるぞ」

何かを察したカトルは思い出したように話題を変える

ルナの町はここの城から2番目に近い人間が暮らしてる所だよね

夜が長くイルミネーションがとても綺麗な町

とくに運河の明かりの美しさは有名で色んな人達が観光に来る

「面白いもの?」

「人間が白虎を見世物にして金儲けしている

あの神獣の白虎

なんて間抜けなのだと面白い話だと思わない?」

くくくとカトルは落としたリンゴを拾い上げる

「神獣が…どうして人間に捕まるの?」

「どう入手したのかは謎だが、悪魔の束縛の鎖がついていた

いいや…神獣白虎ならそんなもの簡単に破壊できるはず

あの白虎はまだ100歳にもならない若造と言う所

力も弱く間抜けとなればさらに面白い話になる」

ハハハとカトルは笑って部屋から出て行った

………俺を気遣って面白い話をしてくれた気持ちは嬉しいけれど

全然笑えないよ面白い話じゃないよそれ!!???

白虎が人間に見世物にされてるなんて………

人間達はわかっていないの……?

神は人間を愛して守っている

それを見世物にしてお金儲けするなんて……なんて悲しいコト

白虎に会いに行ってみよう

「ちょっと出かけてくるね

すぐ帰ってくるから、待っててねセリカちゃん」

俺は返事のない君の頬に触れてから、ルナの町に行くコトにした



そして何故かカトルもついてきた

「面白そうだから」

夜の長いルナは魔法で町だけをそうしている

一歩外に出ればまだ昼間でもね

ルナの町が太陽の光を浴びるのは1日に2~3時間程度と言われている

「何度来ても圧倒されるほどイルミネーションが綺麗な町だね」

「とくに運河の明かりはロマンチック、カップルに人気」

カトルはさっそくお店で飴玉を買っては食べながら周りのカップルに袋から取り出し飴玉を弾いてぶつけた

「そういうコトしないの~」

「イチャつきやがって人間のカップル達」

俺が注意してもカトルのリア充への妬みが消えるコトはない

少し町を回ってみたケド、白虎が見世物にされているのはドコだろう?

と思っているとカトルが狭い路地裏を指差す

「この奥」

カトルは大通りみたいな街の華やかさがある所より、こうした街の裏で闇が渦巻くような所を歩き回って見たりするのが好きな悪趣味の持ち主だったりする

人間だけじゃない、天使でも妖精でも色んな人達の闇を見るのが楽しいと感じるタイプ

白虎が見世物にされているのを見つけたのも、そんな自分の趣味の時間から偶然になんだろうな

少し歩くと地下に続く階段がある

階段を下りて中に入ると広い部屋にたくさんの人達が集まっていた

「こんな所に人がたくさん…」

静かな路地裏の道と違い一気に騒がしい音に溢れる

「いつもは寂れた見世物屋

あの神獣白虎となれば、誰もが一度は見てみたいと興味を持ったよう

この繁盛振りだ」

たくさんの人達が囲む中心に目を向けると、カトルの言った通り本物の神獣白虎がいた

白虎は傷だらけでやせ細りかなり力を失って今にも息絶えそうなほど弱っている様子

手足には悪魔の束縛の鎖…

「良いタイミング

人間がこれから白虎に芸をさせるようだ」

カトルは空いている席に座りポップコーンを食べながら見物モードに入ってしまった

俺は白虎が本当に見世物にされているのを目の当たりにして戸惑い立ち尽くす

人間は観客から見えない奥の部屋から火の輪を引っ張り出してきた

そして、白虎に鞭打つ

「ご注目!ご注目~!!

これから白虎がこの火の輪を見事にくぐり抜けてみせます!!」

白虎に鞭打つ人間の男がそう叫ぶとここにいる人達はみんな楽しみだと拍手する

「無茶だよ…いくら白虎でもあんなに弱ってるのに、立ち上がるコトすら辛いハズ……」

「失敗確実、しかしここの人達は寛大のよう

失敗してもこの状況」

カトルがそう言うと、鞭打たれた白虎は力を振り絞って立ち上がり火の輪に飛び込んだが上手く通り抜けるコトができず輪にぶつかってしまった

輪の火が白虎の身体に燃え移り、白虎はあまりの熱さに転げ回る

その瞬間、観客達はワッと盛り上がり笑い出した

「な、何……何が面白いの………?」

俺には理解ができなかった

火の熱さに苦しみのたうちまわる白虎を見てここにいる人達はその光景が面白いと指を差したり手を叩いたりして笑うんだ

「なんで…おかしいよ……

どうしてみんな笑ってるの!?」

俺は見ていられなくなって、観客席を飛び越え近くにあった水の入ったバケツを持って白虎の火を消す

白虎は気を失いその場に崩れた

俺の行動に観客席から上がっていた笑い声はピタッと止まりシーンと静まり返る

「ショーの邪魔をする馬鹿は何処のどいつかと思えば

これはこれは白虎よりも珍しいあのプラチナじゃございませんか」

見世物屋の男がそう言うとまた観客席がざわつく

どうやら俺も珍しい面白いものだと思われたらしい

「こんなコト、いくらだって邪魔をするよ

人間…神獣が何か知らないワケじゃないよね」

神獣じゃなくてもこんなコトしないで

俺は気を失っている白虎の手足に嵌められている悪魔の束縛の鎖を断ち切る

「とても珍しい白虎族を知らない者の方が珍しいかと」

「神は人間を愛し守ってくれる存在

それをこんなに弱らせては見世物にして、傷付く姿を見て笑うなんて…人間はどうかしてるよ」

「誤解ですよ~これは商売なんですから、ただのコメディー

コメディアンが熱湯風呂や熱々おでんでリアクションする面白さと同じ」

コメディー?全然笑えなくて理解できないのは、俺が人間じゃないから?

これが神が創り愛している人間達と言うの…?

なんて……理解できない存在なんだろう……

カトルはあくまで見物を貫き通す姿勢で俺を見ている

「くくく、イングヴェィは本当に感情を取り戻している

あの無茶苦茶するプラチナが、感情を持ち動く姿を見るのも飽きなくて面白い」



-続く-2015/02/22

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