158話『不安を乗り越えて信じるまで』セリ編

フィオーラと生死の神から離れた場所でレイは俺を下ろしてくれる

足に刺さった氷の矢を抜いてくれたけど俺は回復魔法を使う気にもならなかった

俺がフィオーラ達に向かってたら殺されるってわかったからレイは俺の足を射抜いて止めてくれた

俺は頭も気持ちも追い付いて来なくて

気持ち悪くて…ふらふらだ

立っていられないくらい…目の前が真っ暗に見える

震える俺の肩を掴んでレイが顔を覗き込む

「セリ…大丈夫かい?」

大丈夫な…ワケない……

「和彦さんが…殺されるなんて……

オレも予想外で」

ずっとレイは最初から俺の後を付けていたんだ

それを和彦も香月もわかっていたんだろう

俺だけ気付いていなかった…

いや…今はそんなコトより……

「和彦が…殺された?レイが言うなら…俺の見間違いじゃないってコトなんだ…」

「あっ…」

レイが口をつぐむ

人に言われて、それが現実だって受け入れたくないのに受け入れていくと悲しみが募っていく

「和彦が……あの和彦が…

ウソだ…信じてない……

でも……和彦が隣にいないってコトは…やっぱりそうで…うっ…うぅ…

嫌だ…うわぁ…和彦…和彦……」

手で覆う顔の下は涙が止まらなくて声を上げて泣く

レイはそんな俺の姿を静かに見守っていてくれた

散々泣いて涙が枯れる頃には少しだけ落ち着く

落ち着くと言うよりは虚無だった

「セリ…」

「ダメだ…俺、今何も話したくない

1人にしてほしい…」

1人になるのは危ないってわかってるけど、もうどうでもいい

死んでも構わない…

死んだところで、俺は和彦と同じ所に逝けるワケじゃないのに…

和彦とこんな別れ方…嫌だ…

和彦に恥ずかしくて嫌いって言ったままで終わるなんて嫌だ

「悪いが…1人には出来ない」

そう言われるってわかってた…

暫く沈黙が続く

俺はずっと俯いたままで、レイは気遣って近くの木陰に座るように言ってくれた

腕の中に顔を隠して…

つい最近もこんな風に…あっそうだ、和彦がプロポーズしてくれた時を思い出す

昨日のコトなのに、かなり昔みたいに感じる

ポケットに手を入れると指輪に触れた

俺は取り出すのをやめた

これ以上悲しくなってどうするんだ…

「……指輪、しないのか?」

レイに聞かれて顔を上げる

なんでも見てたんかレイの奴、まぁストーカーなのは前からだしもういいや

「和彦がはめてくれなきゃ意味がない…

それにやり直すって約束したんだ

なのに…約束破って…死ぬなんて…ウソつき

ウソつき…和彦の…ウソつき……

ずっと一緒にいるって、死んでも離さないって言ったのに

全部、ウソじゃん…」

言葉が震える

責めてしまう

和彦はウソ付かない、約束は守る男だった

なら…ウソじゃなくて本当にしてよ

無理なコトばっか…自分勝手に和彦の死を受け入れたくなくて、こんな酷い言葉が出る

「和彦さんはウソを付かない、約束だって守る人だった」

隣にいてくれたレイは立ち上がると俺に手を伸ばした

「会いに行こう、和彦さんに」

会いに…?それって死者の国に行くってコトだ

人間の和彦は、そこにいるってコトくらいはわかる

でも、俺が気にしてるのは

「最期に別れを言えって…?

そんなの…なんで、そんなの嫌だ!?

和彦は人間なんだ、人間は生まれ変わったら姿形も変わって当然生前の記憶なんかない

俺のコトなんか忘れて……

俺が愛した和彦がいなくなるコトを…受け入れろって?

酷いコト言うんだな…レイ」

レイは…酷くなんかない、わかってる

何も言わないまま別れるより、最期に会えて話せた方が良いって俺を思って言ってくれてるんだって

でも、俺は…嫌だよ…そんなの

突然の別れでこんなに辛いのに、面と向かって別れを伝えてサヨナラするのは……

死ぬほど…俺は…辛い…耐えられない

まだ時間があるって思ってたから余計に…

「そうじゃない、オレだって和彦さんが死ぬなんて受け入れられないんだ

あの和彦さんだぞ?

セリを置いて悲しませているのに、簡単に死を受け入れると思うかい?」

レイは俺の手を掴んで引っ張ると無理矢理立たせる

あの和彦が…?

いつもの和彦はどんなだった…?

俺の知ってる和彦は…

簡単に諦めるような奴じゃない

どんな困難も不可能も、乗り越えて可能にする

アイツは人間を辞めた人間だ

「それにオレはセリを二度も泣かせる和彦さんを許せない、1回殴ってやる」

今回の生死の神に命を奪われた事も、偽和彦悪魔事件も、和彦は何も悪くないのに殴られるのか

それは可哀想じゃ…

「どんな状況でもセリを泣かせる奴をオレは許さないさ」

レイは俺を見下ろして笑う

そのレイの笑顔は俺が諦めたコトをひっくり返しにいく自信に満ちていた

レイは和彦のコトよく思ってないのに、俺より和彦を信じてる…

俺は和彦を愛してるのに信じられなかった…

「…いつも、それをレイが言うかって話だぞ

オマエにだって俺は何回泣かされた事か」

ちょっと笑ってしまう

「そ、それは…泣かせたくて泣かしてるんじゃなくて……

その時のオレは自分で自分が止められなくて…言い訳みたいだが

それでもだ!オレはいつも、セリの笑顔が見たいよ…」

レイは俺の頬に残る涙を指で拭うと悲しい顔をする

「和彦さんに出来ない事はない」

「何言ってんだ、人間の和彦を買い被りすぎだろ

これが現実なんだよ…いくら化け物じみた和彦でも…やっぱり人間だから」

「セリが愛した人がただの人間なわけないだろ

ただの人間で愛してもらえるなら、オレだって苦労しない」

俺は人外レベルのヤベェ奴しか愛せないとか言われた

うっ…確かに…レイが言うように、俺に普通の恋愛なんて無理だ……

この身体も普通じゃ満足出来ない…

妙に説得力があるな、レイ

和彦なら…あの和彦なら、死んでも生き返りそうって前向きに思えてくる

「どうしてそこまで…

レイにとったら和彦は邪魔な1人なんじゃ」

レイの顔が見れなくて俯くとレイは俺の顔を手で包んで上を、自分の方へ向けさせる

「オレはセリを幸せにするって決めたんだ

その為には和彦さんは絶対に必要

オレにとって邪魔なのは否定しないが、セリにとって必要なら

オレはセリの為に、和彦さんを生き返らせる」

レイの深く綺麗な夜色の蒼い瞳は俺だけを写してくれる

レイは…いつも俺のコトを考えてくれて

ずっと俺だけを見ていてくれる…

ずっと味方でいてくれるんだな…

たまにメンヘラこじらせて敵側に回るコトもあるが、それも全部俺のせい

それすらも俺だけしか見えてない

だから…レイは信頼出来るんだ

レイの言葉に俺はまた立ち上がれる

「…和彦を…生き返らせる?出来るのか?」

「わからないが、まずは死者の和彦さんの様子も確認したい

行こう、セリ

オレがついてるから大丈夫だ」

差し出すレイの手を、今度は自分から取った

正直、死者の和彦に会うのは怖い…

俺は和彦を生き返らせるコトを諦めないって決めたけど

本人が諦めていたら…?死を受け入れてたら…?

別れを言われたら…?

それが1番怖い…

絶対に別れたくない……また和彦に触れてほしい、名前を呼んでほしい

和彦の言葉をウソにしたくない、約束を守ってもらいたい

だから…怖くても、会いに行くよ…和彦



レイと一緒に死者の国の近くまでやって来た

「レイ…死者の国には招待されないと入れないんじゃなかったか」

前もそんなコトあったな

「そう言われてるだけで、本当に入れないかどうかは試していないだろう?

当然、正面からは無理だ

とりあえず骸骨天使の警備が薄い場所を探そう」

レイは俺に後ろをついて来るように言う

その後ろ姿を見て俺は思う

「レイ…協力してくれるのは嬉しいが…ここまででいいぞ

後は俺が自分でなんとかする」

レイは嫉妬深いし独占欲だってある

そのレイが俺の恋人である和彦を生き返らせるコトを協力するのは…レイの気持ちを思うと辛いんじゃないかって

「遠慮される方がオレは嫌だな

今回の事はオレが言い出した事でもある

いまさら手を引けなんて出来ないぞ

確かに、和彦さんに嫉妬はないとは言えない

さっきも言ったが、オレがセリの為にする事だ

オレの勝手はセリにもやめさせられない

それにセリ1人じゃ心配で、気が気じゃないな」

「レイは…いつも優しいな」

俺がレイの立場だったら、出来ないかもしれない

自分が傷付くのが辛いからってすぐ諦めてしまう…

昨日のように、和彦は本当は女の子の方がいいんじゃないかって…

俺は和彦から逃げようとした

自分を言い訳にして…本音を隠して、ワガママなのにワガママにもなれず

だけど、レイはまっすぐに折れずに想いをぶつけてくる

それがたまに刺さって悪い意味で致命傷になるコトもあるけど

いつも頼りになる……

こんな時でも…頼っていいのか?

「優しいじゃなくて…下心があるからだ…

セリの信頼を得られれば得られるほど、好きになってもらえるだろうって

やましい考えがあって…結局は、オレはセリの為って聞こえの良い事を言って

自分の為なんだろうな…」

ハハハとレイは苦笑する

それが…優しいんだよ…

俺が遠慮しないように、言ってくれる

まぁレイのコトだから本当に下心があってやましい考えなのかもしれないが

でも、レイは最初からいつも優しいよ

そんなレイに俺は心を開いてる

「だから、セリはそんなオレを遠慮せずにいてくれればいい」

「じゃあ…お言葉に甘えて」

俺が何を言ってもレイは決めたコトには食いついて引き下がらない性格なのも知ってる

俺がありがとうって笑うと、レイは少し顔を赤らめていつもの爽やかな笑顔を見せた

死者の国は当然だが広い、だからこそどこか入れる隙はあると言ってレイはそれを見つけるために死者の国から離れた場所を歩きながら観察する

レイの視力は果てしない距離の遠くまでも見えるみたいだ

俺には遠くの方にうっすらと国っぽいなんかあるなくらいしか見えない

任せろと言われているから俺は信じてレイの後をついて歩くしかなかった

「そういえば、レイってずっと俺の後つけてたんだな」

今とは逆で、レイはたぶん魔王城に行くコトになった最初からストーカーしてたと思う

「………それは…」

「怒らないからいいよ

覗きはするなって約束ももういい、どうせ全部見られてたんだろうし」

「見てた…すまない、セリ」

素直でよろしい

が、やっぱり覗かれるのは嫌だしストーカーもされたくないな

レイにしたらバレずに俺が帰る直前で先回りして何事もなく出迎えたかったんだろうけど

フィオーラと生死の神のせいで、姿を現さなきゃいけなくなった

ストーカーされてたから俺は助かったようなものでも…

和彦が殺されるなんてレイも俺も思いもしなかった…

嫌な予感がした時にはもう遅くてどうしようもなくて…

「うん…」

「セリ……

もうすぐ和彦さんに会えるから」

レイはらしくない俺をずっと気遣ってくれる

いつもなら怒るコトも、どうでもいい

本当に…ごめん、レイ…俺には全然余裕がない

暫く歩いているとレイが死者の国に入れそうな隙を見つけた

「もうすぐ日が暮れるから少し待とう

夜の暗闇に紛れて忍び込むぞ」

「うん」

待ってる間、悪い方へ考えがいってしまう

普通に考えて人間が生き返るなんてありえない……

やっぱり…会うのが怖い

別れを伝えられたら……俺も死んでしまいそうになる

何度も和彦が殺された場面が頭を過る

その度に涙が零れる

怒りより悲しみの方が強くて、自分が生きて仇を取るより死ぬほど苦しい思いをするなら……

「行くぞ、セリ」

レイに手を掴まれ引っ張られる

「ま、待ってレイ…やっぱり俺…行きたくない…」

俺の言葉を無視してレイは無理矢理に死者の国に連れ込んだ

死者の国に一歩足を踏み入れる

「招待がなくても入れたな」

薄暗く何の音も聞こえない静まり返った死者の国の外れ

レイは死者の国に入れたコトによかったと俺へと振り向く

「それじゃあ和彦さんを」

「レイ、セリくんを連れて来てくれて感謝するよ」

捜そうかってレイの言葉に和彦の言葉が重なる

その声に俺の心臓は大きく跳ねた

怖くなった…会うのが…でも、もう俺の視界の隅にいる

レイは声のする方へ向いた

「和彦さん…オレ達が来るってわかっていたんですね」

俺は和彦の方を見れなかった

「レイがセリくんをストーカーしてた事はわかっていたし

死者の国に入るにはこの場所がベスト」

いつもと変わらない、声は和彦だ

でも…姿は……死者で、触れるコトすら出来ない

その姿を見るのが…怖かった

本当に死んだんだって……突きつけられるようで

「レイはセリくんのこの様子を放っておけない事も

セリくんはオレに会うのを拒んだだろ?

それでも無理にでもレイなら連れて来てくれると思っていた」

「気に入らないガキのオレの事をよーくわかってくれているみたいで光栄ですね」

「そっちこそ、気に入らないオレにセリくんを連れて来てくれてありがとう」

「このまま帰ってもいいんだぞ、今のあんたには引き止める事も出来ない」

「出来なくはないが?」

暫く沈黙が続く

「…………セリが何か言ってくれないと喧嘩にしかならないぞ!?!?」

レイがいたたまれなくなって俺の方に向く

和彦が俺の方へ近寄って来るから俺は俯いた

「セリくん…顔を上げて、今のオレはセリくんの顔を上げてやる事が出来ない」

「ウソつき……」

声が震える…涙が視界を覆う 

溢れる想いをぶつけるように言葉が出る

認めたくないって…ウソつきって信じたくない現実を否定したくてワガママになる

伝えないから…最後、嫌いって言葉のまま

ここで好きを最後に伝えたら本当に最期になってしまう気がするから…

「ウソつき…死なないって、俺を置いて死なないって言ったくせに!!

プロポーズやり直すって約束したのに!!

和彦は負けないって……負けてるじゃん…カッコ悪いよ……!

こんな…こんな姿の和彦見たくなかった!!」

俺は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて和彦に抱き付いた

でも、和彦の身体に触れられなくて俺はそのまま地面へと倒れ込む

だから……見たくなかった…わかりたくなかった……

支えてくれる和彦がいないんだって…

「レイ、セリくんに手を貸してあげて

オレにはそれが出来ないから」

和彦の言葉でレイは俺の手を掴み立たせてくれる

「セリくん聞いて、オレは死んでない

オレは嘘は付かない、約束は必ず守る」

触れられないのに…死者の姿なのに…死んでないって……何言ってるの…

「あまり長い時間は話していられない

セリくんが見つかる前に用件だけ伝える

死者のオレはここから出られない

遊馬とセリカと一緒に来てくれるか」

「和彦さんそれは…」

遊馬とセリカ?なんでここでその2人の名前が?

ハッキリ言って…神族相手じゃ2人は戦力外…

遊馬は悪霊や妖怪には強い、セリカは俺と同じで魔族と魔物に強い

この2人が神族と天使が集結してる死者の国に来ても何も出来ない

それは和彦もわかっているとは思うが…和彦には何か考えがあるのか?

「わかりました、和彦さんには何か考えがあるんだろう

セリ、見つかる前に行こう

ここで見つかるとセリカと遊馬を連れて来る事も難しくなる」

レイに手を掴まれ引っ張られる

俺はなんだかんだ言いながらも和彦へと目を向けてしまう

目が合うと和彦はいつもと変わらない自信に満ちていた

その姿は生きてる時と何も変わらなくて…

俺はそんな和彦に、期待する…すがってるのかもしれない

それでも、和彦ならなんとかしてくれるって…思わせてくれる

本当に…?お別れにならないなら、なんでもいい

和彦とこれからもずっと一緒にいたいから…



イングヴェィの城に帰る手前の道で香月が迎えに来てくれた

先に帰ったハズの俺の姿がないから心配してくれたんだろう

「香月…」

香月の顔を見ると、なんでかな…弱くなる

「香月……和彦が……」

「はい…」

ポロポロ零れる涙がまた止まらなくなる

ダメだ…ずっと泣いてばかりなんて

でも、香月に会うと…

俺は香月に抱き付くと気が緩んで何もかも全ての弱さが出てしまうようだった

ふっと意識が途切れる

あまり眠れない日々が続いていたからか、香月と会って緊張が解けてしまったんだ

数時間後、俺はハッと目を覚ます

ない意識の中で寝てる場合じゃないって焦りがあった

「すぐに…遊馬とセリカを連れて…」

俺が起き上がろうとすると、香月が俺の身体を押さえて戻される

「香月…俺は寝てる場合じゃなくて」

「レイから話は聞きました」

「そう…だから」

「休んでください」

心身ともに休めって香月は気遣ってくれて、それでも急ぐ気持ちがあったから

遊馬を呼び寄せてまだ着いてないと言われて俺は仕方なく落ち着いた

香月はレイから話を聞いたみたいだが、何も言わない

俺が何か言えば応えてはくれるだろうけど、自分からはあまり話してくれる方じゃないんだ

「……和彦は…何か考えがあるんだってのはわかるんだけど…

本当に…大丈夫なのかなって、不安で…

だって、アイツあれでも人間だもん…」

鬼神のコトだって心配だった

和彦はいつか鬼神に殺されるかもって

なのに、鬼神じゃなくて生死の神に殺されるなんて

何が…神族を殺した罰だ

思い出したら腹が立つ

オマエらが殺そうと襲って来たから返り討ちにされただけのくせに

許せない…絶対に……殺してやる…

「…人間ですが、あれはもう人間ではありません」

「まぁ…化け物だけど」

「和彦は運命に抗う者、死さえひっくり返すかもしれませんね」

「香月は…和彦を信じてるの?」

意外な香月の言葉に俺は目を丸くする

レイも…和彦を信じていた

別に和彦に特別な想いもなく仲良くもない、むしろ悪いと言ってもいい

なのに、2人は和彦を信じて俺はまだ不安で信じ切れてない

なんで…どうして、そんなに人間の和彦を信じられる?

「私に信じる心はないが

私のセリが、簡単に死ぬ…その程度の男を好きになるとは思わない」

香月は俺の頭を撫でて、和彦に対して言い切る

その程度の男…プライドの塊の和彦が聞いたら怒りそうだ

和彦はそんな言葉を言わせない男だから怒る事がない

だから…和彦は死んでも死なない、生き返るコトすら可能にする男だって?

香月は…和彦じゃなくて、そんな和彦を好きになった俺を信じてる…?

香月に信じる心がなくても、俺のコトを考えてくれてるってコトだよね

「確かに…和彦が普通の人だったら好きになってないと思う」

それって、俺は本当にヤバイ奴しか愛せないみたいじゃん…

そうかも…俺はワガママで欲張りだもんな

死んでも一緒にいてくれる人じゃなきゃ嫌だ

永遠に愛してくれる人がいい

それを人間の和彦に求めるなんて、俺は酷い奴だな

こんな俺でも、和彦はそれでもまだ愛してくれる?

和彦が生き返るコトが出来たなら、きっとそれが答えだ

「香月…ありがとう、俺は和彦を信じるよ

アイツなら絶対になんとかしてくれる」

「はい」

「それじゃあ俺はこれからたっぷり睡眠取って、起きたらしっかりご飯食べて、遊馬と合流するまでに元気になる!!」

香月と話して少しだけ前向きになれた

ありがとうって香月に微笑むと、香月は頷いてくれる

目を閉じると数分でスッと眠りに入れた

疲れた心身を休めて、俺は遊馬が来てくれるのを待つ



遊馬と話すにはセリカが1番聞いてもらいやすいってコトでイングヴェィと一緒にセリカが行くと言ったみたいだ

今の俺は待つしか出来ない

みんな大丈夫って言ってくれるけど…やっぱり、俺の心は曇りがかって不安と怖さしかない

香月に和彦を信じるって言ったのに、日に日にその心が大きく揺れる

みんな信じてるのに、1番信じなきゃいけない俺がいつまでも信じ切るコトに迷いがある

大丈夫、信じろって言い聞かせてるだけで…

どうにもならなくて別れの未来しか待ってないんじゃないかって不安に襲われる

そんなの絶対に嫌だ…死ぬほど辛い…

和彦が生き返るなら…俺はどんなコトだってするから…

「はぁ…」

ため息しか出ない、何もやる気が出ない

レイには1人になりたいって言って俺はセリカの部屋で、何もせずただ時間が過ぎていくのを待つ

そんな時間が続いてる中でドアが優しくノックされる

誰だろうって重い腰を上げてドアを開けた

「結夢ちゃん」

ドアの前には結夢ちゃんの姿があった

トレイを持っていて、その上には甘い香りのする美味しそうなパンケーキが乗っている

それを見た俺はそういや今日は何も食べてないコトを思い出す

落ち込みすぎて食欲がないと言うか…

部屋に迎え入れると、テーブルにパンケーキと紅茶を置いてくれて俺にどうぞと微笑む

「これって結夢ちゃんが作ってくれたのか?食べていいの?」

そう聞くと結夢ちゃんは頷く

俺は好きな食べ物の1つがパンケーキなのだ

食欲がなかったハズなのに、好物を目の前にすると甘い香りに誘われて手が伸びる

フォークでパンケーキをすくうとふんわりとした感触が、そのまま口に含むと中で甘くとろけた

やばっうまっ!?結夢ちゃんはパンケーキの天才では!?

「めっちゃ美味い!!スゲー美味しい!!」

俺が言うと結夢ちゃんは嬉しそうにする

「結夢ちゃんもほら」

1人で食べるより一緒に食べる方が良いだろって俺はフォークですくった一口のパンケーキを結夢ちゃんの口元へと運ぶ

「あれ?結夢ちゃん?」

間があったから食べたくないのかなって思ったけど、結夢ちゃんは目の前のパンケーキを口に含むとすぐに反対側に向いてしまった

「もういいの?」

俺が聞くと結夢ちゃんはあっちを向いたまま首を縦に振った

またすくったパンケーキの行方が俺の口の中に決まる

美味しいのに一口で良いなんて、俺だったら全部食べたいくらいめっちゃ美味いぞコレ

「ありがとう結夢ちゃん、本当に美味しかったよ」

綺麗になったお皿を見て結夢ちゃんはまた微笑んでくれる

食欲がないからって食べなくなるのはダメだよな…

結夢ちゃんのおかげで少し元気が出た

紅茶も美味しいし

ふと、窓から微かに聞こえる外の賑わいが耳に入る

窓から外を覗くと何人かの商人がやって来ていて城の人達が買い物で賑わっていた

さっきまで何も聞こえなかったのに

何も聞こえないくらい俺は落ち込んでたのか…

「はっ!?今日って、そうだったのか!?」

すっかり忘れてたって慌てて立ち上がると結夢ちゃんもどうしたの?って一緒に立ち上がる

定期的に商人達が来て買い物をしたり見たりするのが城の住人の楽しみの1つだ

セリカもそうで、商人の持ってくる中でハンドメイドのアクセサリーや雑貨がお気に入りで毎回見るのも買うのも楽しみにしている

お気に入りの作家さんの新作とかセリカはいつも楽しみだったのに、遊馬の所に向かってるセリカの代わりに今回は俺が見て選んでやらなきゃ

「結夢ちゃんも一緒に見に行こうぜ、きっと楽しいから」

早く行かなきゃ売り切れるかもって思った俺は結夢ちゃんの手を掴んでちょっと強引に連れて行ったかもしれない

セリカがお気に入りにしてる商人の品物の前で俺はどれにしようか悩んでいた

「いつもありがとうございます、セリカ様

今回はセリカ様がお気に入りの作家さん達の新作が多数ございますよ」

顔を覚えられてるのか商人のお姉さんにニコニコと笑顔を向けられる

うーん、どれも可愛くて迷うな…

セリカの好みは俺だからそこは迷わないんだが、好みのものがありすぎて迷うんだよ

それに良いと思っても似合わなかったら選ばない

気になるイヤリングを2つ、左右の耳に持っていって鏡を見る

そして結夢ちゃんの方を向いて聞く

「どっちが可愛くて似合う?」

すると結夢ちゃんは俺(セリカ)が似合う方を微笑んで指差す

「やっぱそう思う?こっちも可愛いんだけど、こっちの方が似合ってて可愛いよな」

そんな感じで他のアクセサリーも結夢ちゃんに聞きながら選ぶ

可愛い雑貨もセリカが好きなものをまとめて買う

「ありがとうございました」

めっちゃ買った

セリカが帰ってきたら渡そう、絶対喜ぶってその顔が見たい

そしてアクセサリーを付けた可愛いセリカが見たい

セリカがお気に入りのぬいぐるみ作家さんの新作ユニコーンさんも買ったし

ぬいぐるみを見てると天使の顔も過ったからセリカと色違いのユニコーンさんも買った

他の商人の品も見て回ると、結夢ちゃんに似合うヘアピンが目に入って足が止まる

「これ、結夢ちゃんに似合うんじゃないか?」

月と星の飾りがついた綺麗なピンだ

結夢ちゃんの暗めな茶色の髪に当てると、よく映えてキラキラしてる

星の飾りがユラユラ揺れるタイプだから光に当たって可愛い

「アクセサリーとか興味ない?」

結夢ちゃんはいつもアクセサリーは何1つ付けてなくて、服も真っ白なワンピースなものが多い

俺の言葉に結夢ちゃんは首を横に振って、俺がかざした自分のヘアピン姿を鏡で確認すると嬉しそうに微笑んだ

気に入ってくれたんだろう

よく考えたら、結夢ちゃんは今まで俺とタキヤ以外は見えない存在の女神だった

1人で好きなものを買うってコトも出来なかったのかもしれない

「でも、こっちも似合うかな

ってか結夢ちゃんは可愛いからなんでも似合うよ」

褒めると結夢ちゃんは顔を赤くする

結夢ちゃんは恥ずかしがり屋だから可愛い反応するけど、俺は褒められても当たり前だろって心の中で思いながら笑顔でお礼言うようになった

褒められたら恥ずかしがるくらいが可愛いんだ

「さっきのパンケーキのお礼にプレゼントするよ、どっちが良い?」

そう聞くと、結夢ちゃんは遠慮するように首を横に振る

「うーん…俺はどっちも良いと思うし、じゃあどっちも買うか」

もう1つはお花のヘアピンでこれも可愛い

俺は2つのヘアピンを買うと結夢ちゃんに渡す

「…迷惑だった?」

渡してから、さっき首を横に振ってたからもしかして嫌だったのかもって思ってきた

よくよく考えたら俺も遠慮するもんな…

仲良い人からだとありがとうって受け取るけど、仲良くない人からだとプレゼント貰うのは遠慮する

俺は結夢ちゃんのコト大切な友達だと思ってるけど、結夢ちゃんはそう思ってなくてただの知人程度かもしれんぞ

もしかしたら俺は結夢ちゃんにとって知人なのかもって不安になって見てると、結夢ちゃんは最初に似合うと言った星と月のヘアピンを髪に挿して笑顔を見せてくれた

ありがとうって聞こえる笑顔に俺も嬉しくなる

「よかった」

セリカが楊蝉とショッピングに行くと、お互いに似合う可愛いって褒め合って選ぶって言ってた女の子同士の買い物の仕方を聞いたコトが役に立った

俺は女の子と関わりがまったくなかったからそういうのわからないんだよな…残念なコトに

可愛い似合うも本音だし、結夢ちゃんも楽しんでくれたみたいでよかった

結夢ちゃんといるとさっきまでの暗い気持ちも紛れる

パンケーキを作ってくれたのも、俺を元気付けるために心配して気を使ってくれたんだろうな

ごめんな…心配かけて…だから、ありがとう



それから数日が経って、遊馬が来たってレイに声をかけられて俺はエントランスへと走った

「セリさん!久しぶりっす!!」

相変わらずの元気な姿、俺を見た遊馬は駆け寄ってくる

「オレは眼中にないのかい、このガキ」

レイは遊馬のコトもあまりよく思っていない

遊馬はセリカのコトを慕っているからだ

レイにとってセリカに好意を持つ男は敵

遊馬の好意は恋愛感情じゃないのに、虫にすら嫉妬するレイには関係がなかった

近付く男は全て敵、だそうだ

そのタイミングで結夢ちゃんもやってきた

「おぉ!女神結夢様!お会い出来て光栄っす!」

遊馬は結夢ちゃんの手を掴んで握手する手を大袈裟に振る

「可愛いっすね!オレの好みっす!!」

ニカーッと笑う遊馬の手を俺は叩き払うと遊馬は笑顔を崩し俺を見た

「なんすかセリさん?ヤキモチ?

もしかしてセリさんも女神結夢様の事が…」

ニヤニヤと笑う遊馬を結夢ちゃんから遠ざける

「下手な演技はやめろよ」

「はい…?」

勇者の剣を引き抜き遊馬の首筋に刃をあてた

「すっとぼけても無駄だ

怪しいんだよオマエ、前にもセリカが鬼神のコトで遊馬を見抜いたコトがあるが

それとは違う

オマエは偽者」

「偽者?冗談キツいっすよセリさん」

オマエはアハハと笑うが、俺は笑えねぇよ

「まず、遊馬の好みのタイプはセリカだ

結夢ちゃんは可愛いが、セリカとタイプが異なる

その結夢ちゃんを好みと言うコトがおかしいんだよ

そして、女神結夢は俺とタキヤ以外は見えなかった

有名な女神なら姿がどんなものか世間から知られているのもわかるが、はじめて見て女神結夢の姿だとわかるのは

タキヤ…オマエだけなんだよ」

遊馬の姿をしたタキヤを蹴り飛ばすと、タキヤはクククといつものいやらしい笑い声を零す

「ククク、小僧…本当に貴様は邪魔ですねぇ…!!」

フィオーラの件もあって、もう目に見える姿形は信じられねぇ

コイツは遊馬の姿をしていても遊馬じゃない

「女神結夢を取り返しに来ましたよ、私から女神を奪った憎き小僧めが」

「熱くなるな、ここでオマエ1人で勝ち目はあるのか?」

俺は勇者の剣を引っ込めて逃げ道を作ってやる

結夢ちゃんに酷いコトをした怒りがタキヤに向くが、結夢ちゃんの守護の加護がある限り攻撃は出来ない

それが歯止めになる

タキヤを攻撃するってコトは結夢ちゃんにその怪我を負わせてしまうってコトだから

「ちぃっ失敗しましたねぇ…この姿なら馬鹿な小僧は騙されると思いましたがね」

「その馬鹿に見破られたオマエはもっと馬鹿ってコトになるぞ」

「クソが!!小僧の周りから始末して追いこんでやる!!…神族の皆様が

私は小僧が自殺する時を何より楽しみにしていますよ!!」

捨て台詞を吐いてタキヤは逃げ出した

なんか途中ダサくなかったか?

俺の周りを始末するってところ、神族がって小声で言ってたぞ

まぁ俺の周りって強すぎるからタキヤじゃ無理だもんな

俺は結夢ちゃんが傷付くからタキヤに手出しは出来ないが、俺の周りの奴らは結夢ちゃん諸共タキヤを殺すだろうから

「大丈夫か?結夢ちゃん」

タキヤが消えたのを確認してから結夢ちゃんの方へ振り向くと、結夢ちゃんは怖かったのか顔を真っ青にして震えている

……その気持ちは…よくわかる…

俺は気分が悪くなった結夢ちゃんを部屋まで送って休ませた

「女神結夢の事は心配だろうが、ここにいる限りは大丈夫だ

タキヤが簡単に連れ出す事は出来ない

こちらも神族が姿を変えて来るとわかっていて警戒している

隣の部屋には光の聖霊もいるからな」

「そうだな…確かにここにいるのは安全だってのはわかる

でも、タキヤのしつこさはレイもわかっている通りだ

アイツをなんとかしない限り結夢ちゃんはずっと危ない」

結夢ちゃんの守護をどうにかタキヤと切り離せないか…

神族の決まりなんだろうか…結夢ちゃんが自らの意志でタキヤを守ってるとは思えない

「オレ達は神族に詳しくはない

女神結夢が司る守護についてわからない限り、何も出来ないだろう」

レイの言う通り、結夢ちゃんの守護の力は結夢ちゃんの国の人々のみなのか、信仰してる人々のみなのか、何か決まりはあるんだろうが

話せない結夢ちゃんには聞くコトも出来ない

もしかしたら結夢ちゃん自身も守護の力についてわかっていないかもしれない

俺の持ってる天魔法が何かわかってないのと同じで…

「それに、タキヤはまだセリの事を諦めてないみたいじゃないか

セリが死ぬように追い込むなんて、絶対にさせはしない」

レイの言うタキヤの言葉から思い出す

神族はやっぱり俺の周りから狙ってるってコトか

和彦を潰したコトで向こうは勢い付き調子に乗って次のターゲットを選び作戦を立てているところだろうな

和彦のコト………絶対に許さない…

時間はあまりかけられそうにない

次は誰を狙われるか、そんなコトさせてたまるか

もう話し合いなんて言ってられねぇ、神族を倒す…

そのためなら……こっちだってどんな手を使っても

「あっ…」

急にレイに抱き寄せられるようになって、俺は反射的に避けた

「ごめん…今は…和彦のコト思い出して」

レイは心配してくれてるんだろうけど、触れられたくなかった…

「…顔に出ていたよ

心配になって、つい抱き締めたくなって…オレの方こそすまない

……セリ、今は和彦さんを生き返らせる事だけを考えるんだ」

「レイ…ごめん……でも、いつもありがとう」

レイは俺に休むようにと部屋へ連れて行ってくれた

オヤスミってドアを閉めた後に呟いたレイの声は俺には届かない

「……香月さんは良くて……オレじゃ、駄目なんだ……セリ」


ベッドで浅い眠りの中、声が聞こえる

「おきなさい…勇者」

あれこれなんか冒険はじまる?

「起きなさいって言ってるんでしょうが!!」

光の聖霊に叩き起こされた

半分寝ぼけてて…えっなんかまだ暗いんだけど?朝じゃないじゃん、深夜じゃん

「なんだよ光の聖霊…夜中に男の部屋に来るなんて、女の子が夜這いなんてはしたないぞ」

「3人も男の恋人がいて何言ってんの」

鼻で笑われた

レイはまだ違うもん

「光の聖霊がこんな時間にどうしたんだよ」

「これ、見なさいよ」

そう言って光の聖霊は俺の目の前に手紙を突きつけた

「この手紙…俺じゃ読めない文字だぞ」

色んな世界から来てるこの世界は会話は通じても、文字だけは前の世界のものが様々混ざっていて読める文字はほぼない

「世話が焼けるわねもう、この手紙は神族が女神結夢に宛てたもの

簡単に言うと女神結夢に自分達の下へ戻れって書いてるわ」

「そんなの無視すればいいだろ、神族は信用ならないんだ」

「私達ならそうするわね、でも女神結夢は無視出来ないわ

この手紙には、女神結夢が戻らないと勇者に酷い事をするって書いてあるの」

もうすでに酷いコトして来て何言ってんだコイツら…

和彦を殺したコトなんて…これ以上の酷いコトなんてあるか……

「結夢ちゃんが戻った所で、神族は何かと理由を付けてこれまでと変わらないだろうよ」

「私もそう言ったわ、でも女神結夢はそれでも行ってしまうのよ

あんたを守るために…

あんたじゃなきゃ…勇者じゃなきゃ、だめなのよ

私じゃ止められないから、止めてきて」

光の聖霊はもどかしいと強く訴えた

俺を守るために…そんなの俺は望んでない

また同じコトを繰り返すつもりか

そんなの…絶対にさせちゃダメだ

俺はすぐに着替えて、光の聖霊にどっちへ行ったか聞いて俺は走って結夢ちゃんを追い掛けた

暫く走ると追い付いて、名前を呼んで足を止める

「結夢ちゃん…!」

ちょっと待って、その前に呼吸を整えたい

めっちゃ走ったから息切れがヤバい

最近動いてないから、ない体力がさらになくて…

「はぁ…結夢ちゃん…何処に行く気だよ」

息が落ち着いてきて俺は結夢ちゃんの顔を真っ直ぐに見る

「光の聖霊から話は聞いた

俺のために行くって言うならやめてほしい」

結夢ちゃんは俺から目を逸らすから、きっとそれで合ってる

「神族の所へ戻るってコトはタキヤもいるってわかるだろ?

神族は結夢ちゃんが戻っても何も変わらないよ」

それを結夢ちゃんもなんとなくわかっているのか、表情は暗い

「俺のためを思うなら行くな、俺の傍にいろ

もう結夢ちゃんが傷付くのは絶対に嫌なんだ」

結夢ちゃんへと俺は手を差し出す

「俺のコトは俺が解決する

だから、もう自分を犠牲にして守ろうとするのはやめてくれ

そっちの方が辛いんだ…

俺と一緒に帰ろう、結夢ちゃん」

この手を取ってくれれば一緒に帰ってくれる

もし取らなかったら…俺でも結夢ちゃんを止められない

結夢ちゃんは話せないから光の聖霊も俺も、俺のための行動だと思ってるだけで

本当は神族の所へ帰りたいのかもしれない

ないと思いたいが、結夢ちゃんの好きな人がまさかのタキヤかもしれない

タキヤの言う通り、俺の方が悪者なのかもしれない

俺かタキヤかを選べ

示して、行動で

静かに…俺は結夢ちゃんの目を見て彼女の次の行動を待つ

そして、結夢ちゃんは色んな迷いを振り切って俺の手を取ってくれた

「…うん…帰ろう、結夢ちゃん」

嬉しかった

結夢ちゃんが俺の手を取ってくれたコトが

笑顔でその手を握ると、結夢ちゃんはポロポロと涙を零した

「えっ!?なんで!?嫌だった!?」

「あーあー泣かした~」

近くで隠れてた光の聖霊が姿を現すと、深夜の闇もほんのり微かに明るくなる

結夢ちゃんの表情が…泣いてるけど、笑ってる?

「な、泣かして…いや、俺が悪いのか?」

「言葉が悪い、俺の傍にいろとか一緒に帰ろうとか」

「じゃあなんて言ったらよかったんだよ」

「さぁ?」

光の聖霊はいつもこうだ

全部俺が悪いって言う

結夢ちゃんは涙を拭うと光の聖霊の方を向いて微笑んだ

「…………。」

「おい、黙ってねぇでなんか言ってやれよ」

光の聖霊は結夢ちゃんの目を見て言葉が出ない変わりにあたふたする

「結夢ちゃん、光の聖霊と友達になりたいんだろ

いつも助けてくれるからって感謝してると思うぞ」

「なんでそこは的確に読み取れるのよ勇者!?

肝心な所はわからないくせに偉そうにするんじゃないわよ!!」

光の聖霊は照れながら俺の腕を強めに叩いた

「あっ?もしかしなくても光の聖霊、友達いたコトないんだろ?

だからどう接していいかわかんねぇんだ?」

アハハと笑うと強めのビンタが飛んできた

「あんただってろくに友達いなかったくせに!!」

「ストーカーばっかしてたらキモがられるぞ

素直に友達になりたいって真正面からぶつかりゃいいのに」

「ストーカーメンヘラDV男と関係持ってるあんたに言われたくないわ」

微妙に空気がピリッとした所で結夢ちゃんが間に入って止めてくれる

結夢ちゃんは右手で俺の手を、左手で光の聖霊の手を掴んで微笑む

仲良くしろってコトか

「ちょっと!手を繋ぐなんて!私にそっちの趣味はないわよ!?」

光の聖霊は顔を真っ赤にして手を離そうとする

「バカだな光の聖霊は、女の子は友達同士で手を繋いだり腕組んだりするのは普通なんだぞ

それに特別な意味はないって」

光の聖霊は結夢ちゃんを挟んで俺に真顔で

「そういうとこよ、勇者」

って意味深に伝えてくる

そういうとこってなんだよ!?俺は適当言ってねぇだろ!?

全ての女の子がそうじゃないだろうだが、そういう女の子もいるのは本当だろ

光の聖霊は結夢ちゃんの手を振り解くコトなく握り返した

「女の子の友達って…そういうものなら、いいわよ」

ぎこちなくて照れてるけど、嬉しそうな光の聖霊を見てると

いつも俺にキツく当たってるのに、可愛い所もあるんだなって一面が見れた

結夢ちゃんも、はじめての女の子の友達が出来て嬉しそうだ

「女の子って何話すの?」

沈黙が続いて光の聖霊は俺に助けを求めるように見る

男の俺に聞くかそれ…

「うーん、やっぱり定番恋バナとかか?

俺もよくわかんないんだよな」

女の子はキラキラした可愛いお喋りするんだってイメージしかないぞ

「たまにセリカが楊蝉とポップで女子会してるから、今度参加してみたらどうだ?」

「そうねぇセリカと話してみようかしら」

楽しみねって光の聖霊が笑うと結夢ちゃんも微笑む

ふと結夢ちゃんが俺の方を見て繋ぐ手に力がこもる

光の聖霊と友達になれて嬉しいんだろうな

こうして2人が仲良くしてる所を見ると和む

結夢ちゃんの笑顔を見てると、その間だけ辛いコトを忘れられる…

それは結夢ちゃんの肌に触れると世界の不幸が見えるのと関係あるんだろうか

普段は手袋をしてるからこうして手を繋いでも大丈夫だけど

俺が不幸と感じる辛いコトを結夢ちゃんが変わりに背負ってくれてるんじゃないかって…

思うと、それも辛いな…

とにかく結夢ちゃんを引き止められてよかった

もう…俺のせいで誰かが傷付くのも、失うのも嫌だから……



次の朝に鬼神が帰って来たと聞いたら、目の前に一緒に現れたのは

「セリ様、こんにちは」

めっちゃ嫌いな男フェイが立っている

鬼神は和彦の話を聞いて、和彦が殺された場所を調べるのと遺体の回収と言って出ていた

その時に俺も一緒に行くと言ったが、気を使ってくれた鬼神からここで待ってるように言われたんだ

鬼神は和彦の残された武器しか持って帰って来なかった…

その武器を和彦の部屋まで運んでくれて、俺はそこで鬼神に聞いた

「和彦は…」

「えっ?あー…えっと…その…」

俺が和彦の遺体のコトを聞くと鬼神は目を逸らし濁す

その隣でもう1人の鬼神に小突かれ

「ありませんでした!!」

「そう…」

あってもなくても、和彦が殺されて死んだコトには変わりない

「いやぁ、思った通りセリ様は一緒に行かなくてよかったっすよ

鬼神のオレから見てもかなり惨かったの…で!?はっ!?」

またもう1人の鬼神に強く小突かれ鬼神は慌てて口を閉じた

それだけで、和彦の遺体はなかったってのはウソで

かなり惨い形で放置されていたんだろうって…わかる……

それって俺が後で戻るコトを考えてアイツらが和彦の遺体に酷いコトをしたってコトなのか…?

許せない…そこまでするなんて……

絶対に殺す…

手に強く力が入る

その手をフェイが掴み上げた

「無理ですよ、セリ様には敵討ちなんて

殺されるだけです

弱いんですから泣いてるだけで何もしないでください」

フェイの言葉にカッとなって掴まれた手を振り払う

ムカつく…ムカつくけど…フェイの言ったコトは全部図星で言い返せない

キッと睨み上げるだけで…

俺だって敵討ちができるくらい強かったら…

「言い返せないでしょう?

和彦様は何にも負けない方でした

それが今回殺されたのは貴方が一緒にいたせい

和彦様はセリ様の事になると足を掬われて弱くなるのです

神族を恨む前にご自分の弱さを恨んだらどうです?」

どうしよう…泣いてしまう

フェイの言うコトに言い返せないくらい本当すぎて

偽和彦悪魔事件の時だって、ウソの俺の話を信じたから和彦は鬼神の牢獄に落とされたって聞いて

それって…やっぱり俺のせいじゃん…

フェイがいつもより意地悪言うのも、自分の主人が殺されて腹が立つのも悲しいのもわかる

それをぶつけるのも俺なんだってわかる

フェイはいつもムカつくけど、今回は俺が悪い

「ちょっと先輩!セリ様を泣かせるのは可哀想じゃねぇか!!?」

鬼神ってフェイのコト、先輩呼びしてるんだ…急にちょっと笑う

鬼神の方が遥かに年上なのに和彦に長く仕えてるのはフェイだから先輩ってコトか

「この人、すぐ泣くんです」

言われたくないが…それも本当で言い返せねぇ…

「そんな意地悪ばっか言って、先輩は和彦様の話を聞いた時に真っ先にセリ様の心配をしたじゃん」

「うむ、和彦様の事よりも先に」

鬼神の言葉にフェイは少し固まって、一瞬で顔を真っ赤にする

珍しく…フェイがガチで怒るなんて

「はっ…はぁ!?な、何を言ってんだオメーら!?

オレがこんな阿呆で馬鹿で間抜けで鈍感で可愛くもない奴を好きな訳ないだろ!!!??」

めっちゃ悪口言われんじゃん

「先輩がセリ様を好きなんて一言も言ってない…」

いつもと違うフェイの勢いに若干鬼神が引いてる

さらにフェイはその鬼神の言葉にもこれでもかってくらい顔を赤くして怒鳴った

こんなにフェイが怒るなんて…めちゃくちゃ俺のコト嫌いなんだな

「こんな奴、オレは全然好きじゃねぇからな!!!」

「必死なのが逆に…

ってかセリ様の悪口言ってんじゃねぇ!!

セリ様は抜けてる所も天然な所もたまにあるくらいで、阿呆で馬鹿で間抜けじゃねぇぞ!?

可愛くないっててめぇの目が腐ってんじゃねぇか!?

天女様だろうが!!どっからどう見ても綺麗だろ!!」

鈍感以外全部否定してくれた鬼神、さすがセリカのファン達は心強いな

ん?鈍感?俺は自分でそう思わないけど、割と色々気付いてると思うぞ……たぶん

いや、レイの気持ちとか全然気付かなかったし…やっぱり鈍いのかな俺…ちょっとショックかも

ってか何コレ、なんの喧嘩なんだよ

「可愛くないから可愛くねえって言ってんだよ!

オメーらの好みを押し付けてんじゃねぇぞ!?」 

えーっと…とりあえず、誰か止めて…俺しかいないか

「まぁまぁ、フェイも鬼神も落ち着いて」

俺が間に入るとフェイと鬼神は互いの睨みをやめて俺を見下ろす

「セリ様が言うなら」

鬼神は素直に引いてくれたが

「ちっ…か、勘違いすんなよ…全然っすす…す好きじゃねぇ…こんなブス」

フェイは俺から目を逸らして捨て台詞を吐いた

えらい言われようだな…

「わかったわかった、フェイが俺を嫌いなんて最初からわかってるって

最初から意地悪だったろ、勘違いなんてしないよ」

「ちが!?意地悪してるのは好きだから…じゃない…です……」

うんうんってフェイの話を聞いて座るように言った

フェイが俺を好きじゃないコトくらいはわかるよ

コイツは恋人がいる人を寝取るのが趣味な変態なだけで、俺はその変態の趣味に無理矢理されたコトがあるけど

フェイにとっては好きとかじゃなくてただのやべぇ性癖な奴だから近付かない方がいい

俺もフェイのコトめっちゃ嫌いだし、そういう意味で両想いだろ

「セリ様にブスってなてめぇ殺す!!」

また鬼神に火がついたから俺は宥めて鬼神にもお座りさせる

「…とにかくセリ様は悪くねぇよ、和彦様が弱かったから負けた

それだけの事だろうが」

鬼神は不機嫌なまま言い放つ

和彦が弱い…?それは絶対ありえない

負けた理由は俺のせいだ

和彦が弱いってコトだけは絶対ない!!

「和彦は…弱くない、負けたのは俺のせい俺がいなかったら和彦は絶対に負けてない」

「……セリ様とは言い争いをしたくないんで、部屋に戻りますよ

ただ1つだけ、オレ達鬼神は何を言われても

和彦様が負けたから殺されて死んだ

それは弱いって事なんで、それじゃ」

鬼神は俺相手だからと引いてくれたが、これ以上は気分が悪いからと部屋に戻ってしまった

強い和彦を慕っていた鬼神も複雑な思いがある

何も…言ってやれない……

和彦を信じろって言葉が俺には出なかった…

鬼神が出て行って沈黙が続く

ふと、和彦の部屋ではあるから他の人の邪魔にはならないが、鬼神が置いた和彦の武器がドアの前にあって端に移動しようと思った

持ち手の長い斧に手をやると、まったくビクともしない

「何これ…めっちゃ重い」

力を入れてみたが持ち上がるどころか傾きもしないぞ

「その斧はセリ様が持てるほど軽くはありません

私も持てませんから、鬼神も重いと言ってここまで運ぶのに苦労しました」

鬼神が持っても重いってどういうコト!?

和彦は軽々しく扱ってたけど…やっぱアイツ人間辞めてんじゃん…

どんだけの馬鹿力なんだよ…

「そんな事より」

フェイはソファから立ち上がり俺の方へと近付いてくる

「どうして言わなかったんですか」

「えっ…?」

「鬼神に、和彦様を信じていると」

フェイの言葉に息が詰まる

「私は和彦様を信じていますよ

あの方は、死んでも死なない」

「……俺は目の前で和彦を殺されるのを見たんだ…

そうじゃなかったら…俺だって和彦が死んだなんて信じないし

和彦なら絶対大丈夫だって信じられる

でも…みんなが和彦のコトを信じるって言う度に俺はその時のコトを思い出して」

不安になって怖くなって、悲しくて苦しくて辛くて……

どうやって信じたらいいの?

和彦は人間なんだよ…死んだら……終わりなんだよ…?

「なんで…俺だけ信じられないんだろう…

なんで、みんなそんなに和彦を信じられるんだ」

「誰よりも傷付くから、セリ様が和彦様を信じるのも辛いのでしょう

和彦様は嘘を付きません

貴方を置いて死にはしませんから信じてください

また和彦様にお会いするのに、そんな顔をしていたら呆れられますよ」

フェイは俺の頬に残る涙を指で拭ってくれる

そして、そのまま顔に手を触れたまま離れなかった

「……フェイは、俺のコト嫌いなのに…優しくしてくれる時もあるよな

セリカの時も優しくしてくれて」

「嫌いとは言ってません」

じっとフェイの顔を見上げると、フェイは目を逸らして

「……自分の主人である和彦様の恋人を寝取る事が1番興奮するのです

セリ様をはじめて寝取ってから、他の人ではもう駄目なんです

主人の恋人…私にとってそれ以上の人がいますか?」

うーん…俺は寝取る寝取られって嫌いだからよくわかんねぇけど、フェイの考えから言うとそうなのかな

そんなコトで俺はコイツから嫌なコトされなきゃなんないのか

フェイが目を逸らしていたかと思うと、急に俺に顔を近付けて唇を奪う

「ほら…今のセリ様はつまらない反応しかしません

そんな、何もかもどうでもいいって反応のセリ様は好きじゃありません」

どうでもいい…確かに、そうかも

今はフェイにキスされても、このまま寝取られても、どうでもいいって思って抵抗する気もない

フェイは俺が嫌って嫌がるのが好きだって言ってたから、これ以上は何もしなかった

「帰ります」

「あっ…うん…気を付けて」

フェイは荷物を手にしてドアに手をかけると振り返って笑った

「和彦様が生き返ったら寝取りに来ます」

その笑顔は和彦が必ず生き返るって信じている顔だ

フェイは…和彦を信じてる

「…前もそんな台詞聞いたような」

フェイが笑って変なコト言うから俺も釣られて少し口元が緩む

「前はセリカ様に免じて先延ばししただけです

でも、次は…私ももう我慢出来ないので」

「和彦が生き返っても我慢しろ、いや諦めろ」

「無理です、だって私はセリ様が…いえなんでもありません

それでは失礼します」

最後フェイは俺の顔を見ずにドアを開けて出て行った

和彦が生き返るって信じてる…か

俺だって……信じたいけど、怖いんだ


不安な中、夜も遅く静かな部屋で指輪を眺めていると、レイが訪ねて来てくれた

1人でいたいって言ったけどレイは心配して来てくれてるんだってわかる

「…眠くないのか」

いつも心配してくれるレイに、いつまでもこんな調子じゃダメだって思うよ

俺は指輪をポケットになおしてレイの傍へと近寄って

「たまには……一緒に寝よっか」

俺はレイの腕を掴んで胸に額を預ける

「オレを…頼ってくれるのかい?嬉しいよ」

「レイからしたら和彦のコトは関係ないから、いつまでも俺がこんな調子じゃな…嫌だろうし」

ちゃんと今まで通りにしなきゃ…

でも…笑えない、レイといつもどんな風に接してたのかもわからない

「違う……そうだな、セリがそんな調子だと嫌だ」

「うん…でも、大丈夫だよ

だから」

レイは俺の肩を掴み引き離す

「だから、和彦さんを生き返せたいんだ

それまで無理するなって言ってるんだよ

オレに気を使ってくれてるんだろうが、今のセリは和彦さんの事でいっぱいだろ

そんなセリは…オレは嫌だ…

前はちゃんとオレの事も見ていてくれた」

自分の肩から伝わってレイの手が震えてるのを感じる

俯くレイの表情が見えなくなった

「本当は抱き締めたい…キスだってしたい…

でも……」

「レイ…?」

声が変わる…複雑な思いが混じって、心配になった俺はレイの顔を覗き込もうとしたら突き飛ばされる

「香月さんには頼るのに……オレには頼る事すらしてくれない

それどころか拒絶までされたんだぞ

いつになったら……セリの全てが手に入れられるんだろうな…

本当は邪魔なのに…でも、セリの為に邪魔なものだって受け入れなきゃいけない

死んでくれて清々するのに……」

レイの言葉にゾッとする

いつものレイと違う裏の顔は恐怖だって感じるのは、はじめてじゃない

今の俺のメンタルは良いとは言えない

でも、そんなレイも受け入れるって決めたのをなかったコトには出来ない

和彦は俺の恋人で愛してる大切な人

その人が殺されて死ぬほど辛いし、それを目の前の人は清々してる

それでも、俺はレイも大切な人だから

何度も離した手を、もう離さないって決めたならまた掴みに行くよ

俺はレイの手を掴んで引っ張った

そのままレイは俺に覆い被さる

「和彦に対して香月もだろうけど、そう思ってるコトくらいわかってる

正直、酷いって思うしなんだコイツってなるけど

拒絶した俺が悪かった

余裕がなくて、今だって余裕なんてないけど

レイだって俺の大切な人だよ

確かに俺は無理してるかもしれねぇけどな

それは状況が状況だから仕方ないだろ

でも、どんな状況だって

レイが俺の大切な人で大好きだってコトには変わりないんだから

あんまりメンヘラこじらせて俺を困らせるなよ」

そう伝えてレイの顔を掴んでその唇に自分の唇を重ねる

「……セリ…またオレは…」

落ち着いたレイは申し訳ないって顔で俺から目を逸らした

いいよ、だんだん扱いもわかってきたし

「すまない…」

「レイの方こそ、無理するな

嫌だったらいいんだよ

和彦のコト、無理に協力しなくて」

「違う…和彦さんが死んでくれて清々する気持ちもあるが、それでセリが悲しむなら

前にも言ったがセリの為に和彦さんを生き返らせたい

本音はセリの和彦さんと香月さんへの気持ちが冷めてなくなって、オレだけを愛してくれるのが良いんだが」

心の声を素直に声に出すタイプのメンヘラ

わかってる、レイがどんな奴かってのは

レイは俺を抱き締めようと腰に手を回す

うーん…嫌がるか受け入れるかどうしよっかな

「例え、俺の気持ちがなくなってもあの2人は俺を絶対に離さないよ」

「へぇそれは信じるのかい?

香月さんはそうでも、和彦さんは人間で浮気性なら心変わりだってする事もあるかもしれないぞ」

レイの手が腰に触れるのを感じて俺はレイの肩に手を置いた

「それは絶対にねぇよ、和彦は俺を手放さない

浮気はされるかもしれないが…

和彦はウソを付かない、だから死んでも俺を離さないんだよ」

レイの腕に力が入って引き寄せられる

潰れるくらいの力で締め付けられて、苦しいけど…レイの愛を感じて

俺はレイの背中へと手を回して抱き締める

「それじゃあ、和彦さんの事をもっと信じてやったらどうだ

あの人は死んでも死なない

死んでも、和彦さんはセリをオレに渡す気はないんだから」

「…………レイの言う通り、かも」

和彦が1番信じてほしい人は、自惚れかもしれないけど俺だもん

不安になって怖くなって最悪なコトばっか考えて…信じ切れなかった

でも、そんなわからない未来がどうのこうのより

和彦自身を信じるか信じないかの話だったんだ…

みんなが信じてるのもそうだ

俺は…和彦を、信じる

アイツが出来ないコトなんて何もなかったから、これからだってそうだ

和彦なら死んでもなんとかする

だって、和彦は最初から人間辞めたような奴だったんだぞ

俺を悲しませたりしない…和彦は俺を泣かせたりしないから

「ありがとう、レイのおかげでまた和彦を信じるコトができるよ」

レイの頬にキスして、心が晴れたように微笑む

少しずつレイの顔が赤く色付くのを見て、そんなに俺のコト好きなんだって嬉しくもなる

「レイって本当に俺が好きなんだな」

ふふって笑うとレイはからかわれてると思ったのかムッとする

「我慢してるのに、あまりからかうと襲ってしまうぞ」

「空気読んで偉い偉い」

からかってるかな~?なんて言うかレイに好かれて嬉しい気持ちもあるから



そんなこんなで数日を待っていると、セリカが遊馬を連れて来てくれた

「セリカさんから話は聞きました」

遊馬は俺の顔を見ると強い不満を示していた

「オレは和彦さんと鬼神の事で話をしたんすけど、約束…守れなかったんすね

それどころか、セリカさんを置いて死ぬなんて

セリカさんを悲しませて泣かせるなんて許せないっす…」

あれ…遊馬の奴、和彦がセリカの恋人だと思ってる?

俺が泣いたらセリカも泣くから遊馬から見たらそう勘違いしてもおかしくはないか

「でも遊馬、私は和彦を信じてるわ」

セリカが口を開くと遊馬はセリカの方に向く

「酷な事を言うっすけど、和彦さんが生き返るって無理な話でしょう

人間は死んだら終わり、オレは人間が生き返ったなんて話聞いた事がな…うわー!?セリカさん!?」

遊馬の言葉にセリカの表情が少しずつ変わって涙を零す

それを見た遊馬は慌てておろおろするしかない

和彦が遊馬と一緒に来いって言ってたから、遊馬なら何か知ってるかと思ったのに…違うのか?

それじゃあ和彦はなんで遊馬を連れて来いって言ったんだ……

最後の頼みの遊馬の言葉に俺も不安になって…和彦を信じられ

「セリ、急ぎ和彦さんに会いに行こう」

信じられなくなりそうになった時、レイが俺の肩を叩いた

考えても仕方ないから言われた通りにと

そう…だな、ここからは和彦に会いに行って確かめなきゃ

もう一度死者の国に行くコトになって、人数が多いと目立つからってコトで

和彦が指名した俺とセリカと遊馬の他に万が一の時に頼りになる光魔法を使えるレイの4人で行くコトになった

香月は魔王の気配が強すぎて無理だし、イングヴェィも行きたがったが人数は少ない方がいいってセリカに宥められて決まる

しつこいタキヤから守ってもらえるよう結夢ちゃんのコトもお願いして、香月とイングヴェィがいてくれたら安心感しかない


遊馬の言葉で不安は残るが、俺は和彦を信じるって決めたんだ

だから…大丈夫

和彦なら絶対になんとかしてくれる

そのためなら、俺はなんだってするから

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