157話『和彦の本気の誓い』セリ編

次の日、丸1日寝た

「おはようセリくん…ってまだ寝てる」

「起きてはいる……起き上がれねぇんだよ…バカ」

和彦はベッドで横たわっている俺を見て笑っている

笑い事か!!

昨日はむちゃくちゃしやがって!!

手加減しろって言っただろ!ホンマに久しぶりだから慣れるまで1人ずつにすればよかった

「手加減はしたつもりだよ」

「つもりってなんだよ!?」

「まだ物足りない」

「俺はオマエら2人相手にして大変だったわ!毎回言うけど俺だけしんどいやつ!!」

恥ずかしいって思う余裕もないくらいわけわかんなかったぞ

途中からあんまり記憶ないし

「でも、気持ちよかっただろ?」

「うるさいな…」

幸せで気持ちよかったよ…

でも、やりすぎなんだよ

しかし…和彦が物足りないって言うなら、俺じゃ和彦を満足させられないってコトなのか?

それは嫌だな…

和彦も香月も満足させてあげたいもん

って言うか、3Pなんて2人相手は絶対無理

2人っきりの時は俺の体力じゃ無理かもしれないが出来る限り満たしてやりたいとは思う

「暫く3人ではしないからな」

「4人ならいいんだ」

「いいワケあるか!!?わかるだろ!?」

和彦はベッドに腰掛けると俺の頭を撫でた

「昨日のセリくんは最高に可愛かったよ」

………どの辺が?

まぁ…可愛いって言われるのは…嬉しいけど

「久しぶりだったし、もっとセリくんに触れたい」

「今日は無理だぞ…それより香月は?」

触んなってツンとして和彦の手をはたく

ここ香月の部屋なのに

「香月ならどっか行った」

「いないからどっか行ったんだろうくらいわかるわアホ」

それから和彦は香月の部屋ではくつろげないとか文句言いながらも俺がいるからって部屋から出て行かずお互い適当に過ごしていると、香月が戻ってきた

俺は香月の顔を見るとパッと明るくなって身体を起こす

もう起きれるくらい元気にはなったよ

「香月!おかえり!」

「セリ」

香月に抱き付くといつもみたいに頭を撫でてくれる

いつも通りの接し方だけど、昨日のコトを思い出すと急に恥ずかしくなって身体が固まった

「セリくん元気になったならそろそろ帰ろうか」

言われて、まだ神族との問題が解決してないからゆっくりしてる場合じゃないな

フィオーラが色々と調べてくれるってセリカから聞いてるから、アイツがまた来てくれるのを待つしか今はないが…

しかし、セリカから聞いたフィオーラの話じゃ俺の時にセレンと一緒にいたフィオーラは勝利の神の可能性が高い?

神族や天使は変化が得意なのか?

フィオーラも最初に会った時は結夢ちゃんの姿に変化していたから…

骸骨天使がレイに化けてたコトもあったよな

そうなると見た目で信じるのは…

それじゃあセレンが俺と結夢ちゃんを殺そうとしたのも…本当のセレンじゃない??

「香月も暫くはセリくんに協力してくれるんだろ?」

和彦が聞くと香月は表情を変えず視線だけ向ける

「えぇ、ですが私は後から行きます」

キルラ達がいない今、城を空けるワケにはいかないみたいだ

そりゃそうだよな、また植物モンスターみたいなのがわいても困るだろうし

キルラ達に帰るように伝えたから戻る数日はここに残って待つ

そしてキルラ達は怒られるんだろうな、プププー

って言っても和彦同様、香月が怒った所も見たコトないんだよな

香月は感情がないから怒るコトもないんだ

「じゃあまた少しの間、離れ離れかー」

「すぐに向かいますから」

わかってるけど寂しいって膨れると香月は宥めるように撫でてくれる

うーん、機嫌直した

俺は香月の手を握ってニッコリ笑った

早く来てねって伝えると香月は頷いてくれる

そして、香月は残って後から来るってコトで和彦と俺は先に帰るコトになった



帰り道の途中

とにかく暑い…俺は炎魔法を使えるけど、暑さには滅法弱かった

夏は苦手なんだよな

いつもレイと一緒だから、氷魔法が使えるレイがいると夏でも涼しかったりする

逆に炎魔法が使える俺は冬は暖かく出来たりする

寒さの度合いにもよるが

「暑すぎん?」

「えっ暑い?セリくん、涼しそうに見えるけどオレは暑いよ」

それよく言われるんだが、涼しそうに見えるってどんな感じなんだよ!?

「あまり汗かかないし色が白いからじゃ?」

「俺だってめっちゃ暑いぞ!?」

「まぁセリくんは夏になると暑さで体調崩す事も多かったな」

無理はするなと和彦は気遣ってくれる

暑いと言っても、俺達の前の世界の暑さとはまた違うしそこまで高温多湿でもないからこの世界の夏は比べたらマシかもしれない

でも暑いもんは暑いんだ

「あれ?和彦、帰り道ってこっちだっけ?」

なんとなく和彦に釣られて道を歩いていると、ふといつもと違う道だと言うコトに気付く

「寄り道」

ふっと笑う和彦

「寄り道してる場合か!?」

「神族が狙ってるのはセリくんだろ

もし神族が襲ってきてもオレは倒す自信があるし、神族の事も死者の国の事もフィオーラが来るのを待つ必要がある

その間、寄り道してる暇くらいはあるって事さ」

うーん…確かに、和彦が言うコトはそうかも

実際に神族倒した実績もあるもんな

フィオーラは敵だと思ってたが、セリカの話を聞くとどうやら違うみたいだし

怒りに任せてどんな手を使ってでも神族を皆殺しにしてやるって思ってしまったコトも忠告された

それは勝利の神につけ込まれるって

神族もタキヤも俺はやっぱり許せないけど…結夢ちゃんはそれを望んでないって光の聖霊にも怒られた

だけど…仲良くは絶対に無理だ…

とにかく、今は何もするなフィオーラを待てってコトかな

「和彦が俺と2人っきりの時間を長引かせたいって言うなら仕方ねぇなぁ」

自分の方が優位なんて小悪魔っぽく笑ったのに

「そう」

あまりに和彦は素直に笑うから…

負けた気がして照れて真っ赤になって何も言い返せなかった

暫く歩くと花の甘い香りが鼻を掠める

目の前には自然と緑の強い街が広がった

「こんな所に癒しの場所があったのか」

と思って足を踏み入れると、植物モンスター達が普通に生活してる植物の街だった

なんか最近戦った奴らにめっちゃ似てるけど…大丈夫かこの街?

俺達は敵だって思われねぇか?何度も戦ってる気がするぞ

俺はちょっとヤバいんじゃってハラハラしながら周りを警戒して歩くのに

和彦は気にしないのか普段通り、すれ違う植物モンスター達も俺達を知ってか知らぬかとくに何かしてくるワケじゃない

大丈夫っぽい…?

「この街のおすすめ観光場所だってさ」

ちょっと目を離した隙に和彦は何やらチラシを貰ってきたみたいだ

街のはずれにあるかなり大きくて広い植物館と書かれていて、美しく可愛い花や木などの植物に囲まれた癒しの空間だとか

「セリくん、花とか好きだったな」

「まぁ好きだな」

セリカがお花好きだからな、俺も好きなんだよ

よく見たらこのチラシ割引券付いてんじゃん!ラッキー!

通常は二千円のところ半額の千円だって!行くしかねぇな!!

「それなら行こうか」

和彦がチラシに書かれた簡単な地図を見て指をさした

なんか…寄り道がデートっぽくて、ちょっと照れる

でも、嬉しい

植物館の入口まで来ると、思ったより広い

前の世界で和彦と植物館に行ったコトあるがそこもかなり広いところだったのに、それの3倍くらいはあるか?

さすがは植物モンスターが誇る植物館だ

「ワクワクして来た!!」

「それはよかった」

楽しみって笑顔の俺に和彦も笑ってくれる

和彦はいつも俺が好きそうな場所や行きたい場所に連れて行ってくれるんだ

たまには和彦の好きな所も行きたいって言ったコトがあるんだが

和彦は俺と一緒なら何処でもってカッコ付ける

和彦に好き嫌いってあんまりないのかなって思うくらい好き嫌いを聞いたコトがない

あっ好きなものなら俺か、なんてノロケ

趣味とかもとくに聞いたコトないかも

身体を動かすコトは好きって言ってたかな

あー女も好きだった、浮気が趣味ってくらい昔は酷かった

なんか腹立ってきた

「急に機嫌悪くなるじゃん」

「ふん!!」

勝手に思い出して勝手にへそを曲げる自分勝手な俺…

でも、すぐにそんなコトは忘れて植物館に目がいく

チケット売り場に来るとやっぱりスタッフも植物モンスターだった

「はい、百万円」

「2人で二千……はっ???????」

予想外の言葉に聞き違いかと返す

和彦は言われた通り、百万の札束を取り出した

「面白ぇコトすんなよ!?待て待て待て、和彦もなんでサラッと出そうとしてんだよ

っつか百万持ち歩いてたんか!?そんな奴いる!?」

和彦を阻止して俺は身を乗り出す勢いで植物モンスターにチラシを見せて聞く

「この割引券で2人二千円だと思うんですけど、俺の計算が間違ってますか!?」

「失礼しました」

ホッとした、なんだただのギャグか

初対面でボケる奴、乗馬体験のおじさん以来はじめてだぞ(実話)

今まで会った中で最強のボケと怒涛のボケラッシュを併せ持った乗馬体験のおじさんを思い出した

友達と一緒に行ったが、友達曰わく息継 ぎも見せない息を吐くようにおじさんのボケに圧倒されてるのに俺のツッコミのやり取りに剣戟の攻防が凄かったように見えたと言って感心してた

俺はお馬さんと触れ合える癒しを求めに行ったのに死ぬほど疲れたわ!!

「2名様で二百万円です」

「オマエがぼったくるって言うなら、俺も脅し使わせてもらうぜ?」

炎魔法を手にして植物モンスターにちらつかせる

「ここは火気厳禁ですよ!?」

植物モンスターの弱点は炎だから、かなり怯えた様子を見せた

「チケット代は2人で二千円、合ってるよな?」

「ちっ勇者めが」

植物モンスターは営業スマイルから素に戻って毒を吐く

「俺を知ってたのか」

「魔王城を襲った時に勇者に焼かれた」

そう言って腕っぽいツルをひらひらと見せてきた、ちょっと焦げただけじゃん

「それはオマエ達が襲って来るからだろ

俺だって出来れば戦いたくないが、攻撃するならこっちだって守るために抵抗するぞ」

そもそもなんでしつこく魔王城狙うんだよって話だ

「魔王城の土地は植物にとって素晴らしい環境なのだよ」

「そうなんだ?確かに魔王城に咲く花は綺麗だな」

コイツらにとって住みやすい場所を求めてのコトだったのか…

「この世界で100番目に良い土地」

「諦めろや!!!!」欲張りすぎだろ!?

「我らは世界を緑で支配したい」

「すでに世界は緑と仲良く共存してると思うけど」

「………そうだった!?我らはどんな種族も受け入れてくれる仲良くなれる」

「そうだな」

今までの戦いなんだったんだ…

身体に穴空けられたり薬の副作用とか散々な目にあったぞ…

「長に話してみる」

「頼むよ」

これで香月の所も安心…?この子の話を長が聞いてくれるといいが

「仲良し記念で無料にします

ようこそ勇者様と恐い人、歓迎します」

和彦恐い人!?

チケット売り場の植物モンスターは優しく俺達を迎えてくれた

植物館に入るとすぐに花の香りに包まれる

美しい花々、優しさ溢れる緑の植物達、センス良く飾られ癒しの空間が広がった

「めっちゃ綺麗…」

思わず言葉が零れるほどの感動

静かな空間だが、チケット売り場で貰ったパンフレットには音楽と花、動物と花なんて様々なテーマの空間もあるそうだ

俺は音楽も動物も好きだから楽しいしかない

和彦に早く行こうと手を引っ張った

まずは近かった動物と花の空間へとやってきた

「可愛い…」

小動物達が放し飼いで気ままに暮らしていて花も植物もまるでメルヘンな景色

「とにかく可愛い」

小動物達のおやつが百円で売ってたからそれを買って近くのリスにあげる

「いつもとあまり変わらないんじゃ」

和彦ははしゃぐ俺に笑っている

確かに、この世界って自然が多く動物達とも身近な存在で触れ合えるコトもよくあるけど!!

この花と植物のメルヘンな空間がまたコイツらの可愛さを引き立ててるんじゃん!!

よく思い出したら普段から住んでる所も花も綺麗だし植物も多いから、やっぱりあまり変わらないのか…?

「うーん…違和感があると思ったらウサギがいないのか」

色んな種類の小動物や草食動物がいても、触れ合いの定番みたいなウサギが見当たらない

「この世界でウサギって動物は珍しいからな

セリくんのウサギ3羽はかなりレアだよ」

そういやそんな話があったっけ、可愛いのにウサギ

「和彦もおやつあげてみたら?可愛いぞ」

おやつを持ってるだけで人間に近付く小動物達はいつの間にか俺を囲っていた

人懐っこく、肩に乗ってくる子までいる

おやつを和彦に渡すと

「………なんで?」

誰も和彦には近寄らなかった

俺の手の中に乗り込んでおやつを食べていたリスを和彦の方に持っていくと、リスは俺の腕から上り肩へと移動した

「セリくんの方が好きらしい」

「いやいや、この子達はおやつが好きなだけ」

まぁ…和彦って恐いから…動物ならそれを感じ取ってるのかも

香月だって魔物以外の動物は近付けないからな

「和彦は動物好き?」

「普通、セリくんの方が好き」

「そういうのいいから」

急にさらっと恥ずかしいコトを言う

お客さんも少ないからあまり近くに人がいないとは言え、外で顔が赤くなるようなコトは言われたくない

不意打ちは…照れるよ

それにしてもカップルが多いな…

こういう場所ってデートにもってこいだろうし

ちょっと恥ずかしくなった俺は次行こうと足を速めた

次の空間は花の香りを楽しもうがテーマらしく、花の香りが強く感じられる綺麗な花々が並んでいた

「めっちゃ良い香りしかしない」

金木犀の香り、薔薇の香り、百合の香り、ジャスミンの香り、ラベンダーの香り、他にもたくさん

「セリくん匂いフェチだったな」

「良い匂いが大好きだよ

和彦も香月もレイもイングヴェィもみんな良い匂いする」

みんな違う匂いだけど、みんなめっちゃ良い匂いする

香水とか付けてるワケじゃないのに、自然なその人の匂い

「ふーん、オレもセリくんの匂い好きだよ

花の香りよりずっと」

そう言って和彦は俺の首へと顔を近付けるから離れた

恥ずかしいから…また顔が熱くなる

さっきから、比べんなよ…

「ここは花の香りを楽しむとこなんだよ!

近付くな!」

「外じゃ触らせてくれない」

「当たり前だ!!」

せっかくの植物館なのに、和彦を意識して楽しめない

いやせっかく来たんだし気を取り直して楽しむぞ!!

「この香りを持って帰れたらなー」

「土産コーナーで売ってるって」

看板で宣伝してる!?

和彦に言われて見ると、ここの花を使ったアロマオイルが売ってあるみたいだ

セリカがアロマ好きだからお土産に買って帰ってやるか

同じ花のアロマでも作り手によって香りが全然違うらしい

なかなか好みの香りに当たるコトはなく、色々試し中だとか

ここなら植物自身が作ってるだろうから期待出来るんじゃないか

セリカは女の子らしくて本当に可愛い

「和彦はどの花の香りが1番よかった?」

せっかく遊びに来た場所の話題がないのは寂しいから、この空間の出口付近で俺は隣にいる和彦に聞いた

「百合の花の香りかな、カサブランカ」

「あー俺も好き!姿も綺麗なのに香りまで良いとか最高だよな」

「それってセリくんの事じゃん」

ふふっと和彦が吹き出すように言う

「花の話してるのになんで俺!?

今日の和彦ちょっと変だぞ…めっちゃ嬉しいコト言うじゃん…調子狂うから」

また和彦しか見えなくなる

好きとか褒められたら、照れるだろ

和彦とはもっと気軽に付き合える関係のハズなのに

「もっと好きになってもらいたいから?…なんてな」

ハハハと和彦は先にこの空間から出て行った

なんだそれ…なんだその言い逃げは!?

もっとって何?今だって…死ぬほど和彦のコトは大好きで愛してるのに…

これ以上好きになれって死ねって言ってるようなもんだぞ

次の空間は真っ暗な場所だった

「えっ!?何も見え…」

ビックリしてると手を掴まれて落ち着く

すぐに和彦の手だってわかったから

暗い場所に目が慣れると、暗闇で光る淡い花々達がロマンチックな空間を演出していた

和彦に手を引かれて少し歩くと椅子があってそこへ座る

ここは静かにくつろぎながら小さく可愛い光る花を眺めて過ごすんだろう

離れた間隔でいくつか椅子はあるが、この空間には今は俺達以外はいないみたいだ

花の小さな光が和彦の顔を照らす

まるで星の海のように輝いて

「ここも綺麗だな…」

雰囲気が良すぎる

男同士で来る場所じゃない、完全にカップル向けだ

……でも、和彦と俺だって恋人同士だから…カップルでいいよな…

「ふふ、前にセリくんと行った所より広いな」

ふと和彦は思い出したかのように話す

「覚えてたのか?」

「オレは記憶力も良い方だが?」

そうだな、和彦なら俺がすっかり忘れてるコトすら全部覚えてるんだろう

和彦にとって俺との思い出って大切に思ってくれてるのかな

俺はもちろん、大切だよ

色々ありすぎて全部は覚えてないけど、前世を数えなきゃこの世界の誰よりも付き合いが長いから

和彦が隣にいるのが当たり前でいなくなるコトなんて考えたコトもない

死んだら…他の人と違って二度と会えない人…

それだけが、時々考えると怖くなる

この空間に入ってからずっと手を繋いでいてくれた和彦の手を俺は握り返した

「いつもなら離すのに、人前ではこういう事したくないんじゃなかったか」

「周りに誰もいないもん、だから…少しだけ」

和彦とも…ずっと一緒にいたいって思うんだよ

でも…人間の和彦とはいつかは……

死が別れの時…

「薄暗いしな」

前に鬼神の話を聞いてから、和彦はやっぱり人間なんだって…

いつも人間離れしてて不可能なんか何もない和彦に不安なんて感じたコトなかった

だけど、やっぱりちゃんと考えると人間の和彦と永遠には一緒にいられない

って考えにたどり着く

それが…嫌だ…失いたくない……

「和彦とずっと一緒にいたい」

「オレはセリくんを離さないよ」

俺は死んでも生まれ変わってもずっとって意味なのに、和彦にはそこまでは伝わらない

それをちゃんと言えない

言ったところでどうしようもないんだから

和彦の手が頬に触れるのを感じて

顔を向けさせられて、和彦の唇が触れるのを感じる

薄暗さの中よく見えなくても、肌で和彦を感じて嬉しい気持ちが強くなる

ずっと一緒にいたい

不安になるけど、考えないようにしよう

一緒にいる今の時間を大切にするために



次の日、昨日は寄り道が久しぶりに気分転換になったのか朝起きたら気分もスッキリで調子もよかった

さすが花と緑の癒し効果

植物モンスターの街のホテルの部屋も観葉植物や花に囲まれて癒された1日となっていた

食事もハーブを使った料理が多くてそれが凄く美味しいのに健康にも良いとか

このところ、神族となんたらかんたらあったから疲れていたのかもしれん

たまには息抜きも大事ってコトか

それじゃ帰ろうってコトになったが、1日で帰れる距離じゃないからまた近くの街で泊まるコトになる

その日の夜、和彦と一緒に夕食を終えてホテルに戻る道のコトだった

「今日もずっと歩きだったから疲れた~

そういや、客室に露天風呂付いてたよな!

しかも源泉掛け流し!

1日の疲れを風呂で……って、和彦?」

隣にいる和彦を見ると、和彦の顔は反対側に向いていて視線が合わない

えっ?何?俺の話聞いてないって?

むーって思いながらも和彦の視線の先に目をやると、2人組みの女性の姿が…

どっちも和彦好みの巨乳だった

「むー」

「セリくん、温泉とか好きだよな

何処行きたいか聞くとだいたい温泉でゆっくりしたいって言う」

話は聞いてるみたいだけど…そうじゃないだろ!?

俺と一緒にいるのに!?他の人に目移りするなんて……

……でも、和彦って元から女好きだし…

俺と一緒にいるより…俺が恋人じゃない方がいいんじゃないか

ずっと一緒にいたいって思うけど、和彦にとっての幸せは男の俺より女の子の方が……

「あれ、また機嫌悪くなってる

さっき余所見してた事に拗ねた?」

「………。」

俺は和彦より足を速めて無視した

「セリくん」

でも、和彦に手を掴まれて足を止められる

「……和彦は…やっぱり女の子が好きだから…」

和彦の目が見れない

また…まただ

俺は言いたくないコトも言ってしまうあまのじゃくだ

本当はそんなコト思ってないのに、不安になると

そうしちゃいけないってわかってるのに、悪い方へと持っていってしまう

自分を追い詰めてしまう、悪い癖

レイにメンヘラだって言っておいて、俺だって十分メンヘラで重い男だ…

「俺と別れた方がいいんじゃ…」

別れたくない…絶対に、死んでも一緒にいたい

なのに、喉が熱く痛くなるような言葉が出てくる

「別れないよ、死んでも別れなかっただろ」

前の世界の話までされる

俺を殺して死んで、この世界に来てる

俺は殺された時に和彦とは終わったと思ってたのに、和彦は俺と終わってないって言い切った

「だって!俺、最低だよ!?

和彦の他にも恋人がいるのに、なのに和彦には浮気してほしくない

他の人をそういう目で見ただけでヤキモチ焼くもん!

しんどいよ…一緒にいるの……

こんなに最低なんだよ…俺って奴は…」

何…言ってんだろ……

嫌われたいのかな、本当は愛されたいのに…

嫌われるようなコト言ってる、スゲーウザイ俺…

「オレはセリくんにオレ以外の恋人がいても気にならない

最初から言ってるのにまだわからないのか

他に恋人がいる事よりも、セリくんが誰か1人を決めて触れられなくなる事の方が許せない

そいつが独り占めするなら殺す

自分を言い訳にするな

オレの事はセリくんが決めるんじゃない、オレ自身が決める

セリくんが別れたいって言っても絶対に別れない」

和彦の掴む手が強くなる

わかってる…和彦と香月だから成り立つ関係だって、だから俺達は上手くいってる

俺は和彦の言う通り、自分を言い訳にしてた

俺は最低だからって…

和彦の事は和彦が決める事なのに

やっぱり……こんなコト言う俺は最低だ……

自分が大嫌いになる

「…ここで待ってろ」

和彦は俺から手を離すと、どこかへ行ってしまった

1人になると落ち着いてきて自己嫌悪しかない

ダメだ…もっとしっかりしないと、和彦に迷惑かけるなんて絶対にしたくないのに

でも考えれば考えるほど、やっぱりこんな自分はってマイナスな思考にしかならない

それでも…和彦は俺を選んでくれる

なのに、なんでこうなるんだよ

不安になって…しんどくなって…疲れて…

たまにこうなってしまうから…

道の端でしゃがみ込んで腕に顔を埋める

溜め息しか出なくて、和彦が戻って来るのを待つ

少しすると

「セリくん」

頭上から和彦の声が聞こえたけど、俺は顔を上げられなかった

和彦は俺の左手を手に取って引っ張っても俺は動きたくなくて

だけど…左手の薬指に触れられて違和感があって…思わず顔を上げた

「……オレは…セリくんだけが本気」

この時の和彦の顔ははじめて見たかもしれない

夜の暗がりの外灯の明かりの下、和彦の照れて真っ赤になった顔が…珍しくて

「えっ…」

そのまま和彦に掴まれた手に視線を移すと、俺の薬指には指輪が嵌まっていた

時間が止まるような感覚、理解がまだ追いつけない……

「オレが結婚するならセリくんを選ぶ」

「………えっ?」

「だから」

和彦は俺の手を強く引っ張って立たせる

向かい合って目の前の和彦の視線と交わる

「たまに、セリくんが不安になるから

わかるようにしてるんだよ」

和彦は自分の左手も上げて俺に見せた

同じ指輪が和彦の左手薬指に嵌まっているのが目に入る

「……ま、待って…結婚?えっ…いきなり?

そもそもこの世界って男同士で結婚出来るのか?」

「知らないが」

混乱する、物凄く自分の今の置かれた状況が…よく………わからな……

わかった…

わかると、溢れる涙が止まらなくなって俺は右手で自分の顔を隠す

「ちょっと待って…意味わかん、ねぇ…

何それ……死ぬほど…嬉しい…よ…」

わからなかった

男の俺は、男が恋人だから

結婚とかそんなの全然考えてなかったし、諦めてたと言うか出来ないと思ってたし

なのに…なのに、プロポーズされるコトが…こんなにも幸せで満たされるなんて…

わからなかった…知らなかった

「セリくんがプロポーズ断っても無理だから、死んでも離さない」

「和彦…らしい、その言い方」

涙を拭いて、その後には笑顔が溢れる

照れてどうしようもないけど

さっきまでの不安な気持ちなんか吹き飛んで、もう…大丈夫

「嬉しい…嬉しい…和彦」

外だってコトも忘れて俺は和彦の胸で泣く

人通りは少ないと言っても、通りすがりの人達も目に入らないくらい俺は和彦しか見えなくなっていた

「言葉が出ない、なんて言っていいかわからない」

「何も言わなくてもわかってる」

和彦が優しく抱き締めてくれて、俺はもう二度と不安にならないって約束してくれたんだ

俺も、ちょっと他の女に目がいくくらいでヤキモチ焼いたりしないよ


それから時間が経って落ち着いてからホテルへ戻った

露天風呂に入って疲れを癒してから部屋でくつろぐ

やっぱりお風呂は最高にゆったりできるな

さっぱりするし

冷静になるとあれやこれやと浮かんで来る

「そういや、1番大事なコト聞いてないや

これから浮気はしないって言え

まさかこの指輪を言い訳にして、他の人は遊びだからってコトはないだろうな」

ホテルのソファで飽きるコトなく指輪を眺めながら言う

鋭い指摘に和彦は笑顔のまま間を作った

「……この先、浮気は絶対しないとは言えないな」

「はっ?」

ウソを付かない和彦は自分の未来に浮気は絶対しないと言い切れる自信がなかった

「これまでだってセリくんが本命で他は遊びだっただろ」

「今までと変わらねぇじゃねぇか!!」

「そんな事より」

「はぐらかすな!!」

和彦は俺の手を掴んで眺める

「セリくんの指は女みたいに細いな、手も小さいし」

和彦は褒めてるんだろうが男として嬉しくないぞ…

「俺は男でも、見た目は女の子のセリカと変わらない

指輪のサイズもセリカの方がワンサイズ小さいくらいだからな」

「セリカは小柄で華奢だから、セリくんが手も足も小さくて身長が低いのは仕方ないか」

「うぜぇ、身長はオマエの方が低いだろ」

でも手も足も和彦は俺より大きくてちゃんと男らしいから余計ムカつく

だけど、俺はこの姿が好きだから良い

俺はセリカで、セリカは俺

俺が男らしい見た目だったら、セリカが男っぽい女になってしまう

セリカはあの可愛くて綺麗で女の子らしい姿だから良いんだよ

この見た目しか認めない、許さんぞ

セリカが綺麗で可愛くいてくれるなら俺は中性的で女みたいな自分の見た目も大好きになれる

セリカは自分自身、だって俺は自分大好きだからな

「はっ!?今大事なコトに気付いた…」

和彦に手を触られて指輪を眺めていてハッとする

浮かれてて忘れてたけど

「重婚って出来るのかな…」

2人も恋人がいる俺にとって誰か1人のものになるのは無理だ

ってか、香月も和彦もそれは許さないだろうから

「どうだろうな

それにその指輪を見たらしたがるんじゃないか」

「香月は気にしないよ

でも、香月からプロポーズされたらもう倒れる

息できなくてそのまま死ぬ」

「オレの時は倒れるほど嬉しくないんかい

香月じゃなくてレイだよ

あのレイなら絶対にしたがる」

「レイはまだ恋人じゃないもん!!

確かに、レイならペアリング絶対したがる

指輪が3つも並んだら指キモイな…」

それは微妙だな…俺はあんまりアクセサリー付けるの好きじゃないし

「だけど、まさか和彦が最初にプロポーズしてくれるなんて思わなかった

和彦は一生女遊びして死ぬと思ってたから、結婚とか考えてないと思ってたぞ」

甘えるように俺は和彦の膝へと頭を置いて横になる

「オレは女好きだが幸せにしたいと思ったのはセリくんだけ

それが伝わらないからわかりやすい方法を取ったまでだ」

なるほど…だからちょっと待ってろって言って、ペアリング買って来てくれたのか

「うーん、欲を言えばプロポーズはもっとロマンチックな場所がよかったな

例えば昨日行った植物館の光る花の空間とか、あそこなら雰囲気も良かったもん

定番だけど夜景の見える場所とか、良い感じのレストランとか」

「セリくんってセリカみたいな事言うんだな」

はっ!?セリカが夢見がちのメルヘンな女だってキルラにバカにされたって怒ってたけど、セリカがそうなら俺も少なからずそうなんじゃん!?

セリカは女の子だから~って笑ってたのに

俺は和彦の膝から起き上がって和彦に向き直る

「シチュエーションとか気にするんだ」

ふふって笑う和彦の言葉に顔が赤くなる

女っぽい?こういうの憧れって…なんか恥ずかしい

「そ、それ、別に…なんでもいい」

どんな場所も、今日のタイミングを超えるコトはない

俺にとって和彦からのプロポーズは今日のがよかった…

それとはまた別に憧れもあったって話で、もしもの話だったんだ

「いいよ、今度やり直そう」

和彦は俺の左薬指から指輪を抜いてしまった

「えっ!?ヤダ、抜かないで」

自分の指輪も抜いてテーブルに置くと、和彦は俺を押し倒した

「もうちょっと待て、すぐに嵌めるから」

「それ別の意味だろ!?」

近付く和彦の胸を押し返す

「あの指輪はセリくんが持ってて」

プロポーズはやり直すけど、あの指輪に誓ったコトはウソじゃないから

俺を安心させるためにって和彦は言う

「…本当に…嬉しかったよ……

やり直しなんかいらないくらい」

「いや、やり直す

セリくんが満足するプロポーズしたいんだよ」

プライドの高い男め

俺はそんな和彦を見上げ笑みがこぼれる

「もう十分満足してるのに

まぁそこまで言うなら、楽しみにしてる」

和彦の顔が近付いて俺は目を閉じてキスを受け入れた

キスだけで溶けそうになる

息が荒くなって身体も熱くなっていく

和彦に抱き上げられてそのままベットへ連れて寝かされる

「この前…香月と3人でしたばっかなのに……」

「今夜は2人っきりで」

和彦しかいない空間で、和彦だけを見て全てを感じられる

3人でするのもたまには良いけど、俺はやっぱり2人の方が好きだな

その時だけはその人だけで頭をいっぱいにさせてくれるから

今夜は和彦のコトしか考えられない…

大好きで、愛してる…

和彦に愛されて俺は幸せ

だから、ずっと一緒にいたいって思う

和彦とこうして繋がれて…

「っ…あ、ぁ…はぁ……和彦…

さっき…俺を…幸せにしたいって言ってくれたけど

ん…っ和彦は……俺と一緒にいて、幸せ…?」

「そうじゃなきゃプロポーズしないだろ

でも、最近は不満があった」

「えっ…?」

「平等に愛してくれたらいい、香月くらいオレの事も愛して」

和彦に口を塞がれて何も言えない変わりに吐息だけが漏れる

不満なんて…和彦が感じていたなんて

たまに香月と違うって言われたコトはある

でも、俺は何度も同じくらい愛してるって言ってきた

確かに…香月と和彦は違う

香月は永遠の初恋で、ずっと恋をしてる気持ちが続く

逆に和彦は長年連れ添った夫婦みたいに、恋じゃないけどそれとは別の愛情がある

端から見たら、香月が特別に見えるかもしれない

だけど、俺は2人に愛の差はないと思ってる

……それは思い込んでるだけで、無意識ではどっちがより好きかはあるのかもしれない

「香月と同じくらい愛してるって言っても信じられないだろうけど、俺は何度だって言うよ

和彦のコト愛してるって」

「何度も聞かせて、セリくんの口から

オレがセリくんを愛してるって気持ちは香月にもレイにも負けない」

和彦の言葉に腰が疼く

香月もレイも知ってるとは思うけど、俺への愛はヤバいぞ

和彦は2人よりは俺をそこまで愛してないって思ってたけど…

あの2人に負けないくらいって…嬉し…いや、怖いわ

恐怖しか感じないわ

でも…それなら俺だって負けないくらい、愛してるよ…

これ以上ないくらい胸がいっぱいで…嬉しい、幸せ…

いつもより優しくて、心の距離が近くなったような気がする…気持ちいいのも、幸せ…



次の日、目が覚めたのは昼だった

あーそう…そう、夜は早めに寝ないとこうなるからまた帰る日が遅くなるな

と言いつつ、半分寝ぼけながら隣で寝る和彦の腕に頭を預け身体をくっつけて目を閉じる

二度寝するほどではないけど、この眠いのかよくわからないふわふわした気分の時はめちゃくちゃ甘えたくなるんだもん

暫くそうしてると和彦はお腹が空いたのか目を覚ました

「支度して何か食べにいこ」

おはようって和彦に笑顔を向ける

帰る準備もするから露天風呂をもっかい楽しもうってコトで2人で入る

昼のお風呂も良いもんだ、夜とはまた違った景色があるしな

「セリくんは腰も細いからいつも折れるんじゃないかって思う」

昼間からセクハラか、和彦は俺の腰を掴む

「人間はそんな簡単に折れねぇよ

和彦の馬鹿力だと折れるかもしれんから気を付けて扱えよな」

「今までそう思って手加減してきたが、よく考えたら折れてもセリくんなら回復魔法で治せるからいいじゃん」

手加減してるのか?あれで?いつもむちゃくちゃするじゃん、昨日は珍しく優しかったくらいで

「そういう問題か!!人の心ないんかオマエには!?」

「人の心がないオレがセリくんは好きなくせに」

「うっ…和彦なんか…嫌いだ」

どんな和彦だって好きだが、言われるとなんか負けた感じがしてつい反対のコトを言ってしまう

嫌いって言ったのに和彦は本当は好きってわかってるって余裕の笑みがまたムカつく

腰を折られても俺は和彦が好きだろうな

なんたって俺は前の世界で和彦に殺されたのに、それでも好きだったから…

「照れてるセリくん可愛い」

むっとする俺に和彦はキスして笑う

「うるさい…」

また顔が熱くなる

なるべく和彦の顔を見ないように目線を逸らす

「あまり長湯はやめよう、セリくんのぼせて倒れた事あったんだ

無理はするな」

そんな昔のコトまで…

俺は温泉とか好きなんだが長湯ができない

一度のぼせて倒れたコトがある

恥ずかしい話だ…

でも、この顔が赤いのは和彦のせいで長湯だからじゃなくて……いやもうどっちのせいかなんてわかんないか

風呂から上がって帰る用意をする

着替えた俺はテーブルに置いてある2つの指輪を手に取ってポケットに入れた

それを見てた和彦が

「その約束は守るから」

と笑った

別に…俺はこの指輪で十分嬉しいのに……

昨日も思ったけど、和彦がやり直すって言うなら俺はそれを楽しみに待ってよう

指輪を見るだけで、俺の口元は自然と緩む

そんなこんなで昼ごはんも食べたし、俺達は街を出た

暫く歩いてすれ違う人も少なくなり、俺は周りを確認して誰もいないコトがわかると

和彦の腕を組んで寄り添う

「セリくんが甘えてくるなんて珍しいな」

「たまにはいいじゃん」

いつも和彦のコト好きだけど、今はめっちゃ好き

「いつでも好きな時に甘えてくれたら嬉しい」

「いつもそうしてる!」

和彦は嫌な俺もちゃんと受け止めて応えてくれるもん

俺はこんな自分嫌いだって、昨日みたいに最悪なコト言っても…

和彦は俺を選んでくれて、俺が良いって言ってくれるんだ

だから俺は和彦が大好き

最初は最悪で大嫌いだったのに、今じゃ…こんなにも大好きで愛してる…

俺は和彦と出逢えて死ぬほど幸せ

ずっとずっと一緒にいたい

これからも俺をいっぱい愛してね

「セリくん、ちょっと」

和彦にそう言われて身体を強く引っ張られる

すると、さっきまで歩いてた場所に大きな音とともに地面がえぐれた

……急に何!?

距離を取った目の前にはフィオーラの姿と、フードを深く被った男の姿があった

「おい!フィオーラ!邪魔すんなよ!?」

オマエ、愛の神だろ!?何物理的にカップルクラッシャーみたいなコトしてんだ!?

キッとフィオーラを睨み付ける

「って…あれ?」

待てよ、よく考えたらフィオーラが俺達を攻撃するなんてありえねぇ

このフィオーラの姿をした奴…結夢ちゃんの時の偽者?勝利の神か?

「さっきの攻撃を避けるなんて、さすが神族を4人も簡単に殺した人間」

感心感心とフィオーラの姿をした奴が笑顔で拍手を送ってくる

なんでコイツ、こんな余裕なんだ?

神族を4人も倒した和彦の前に2人で現れる…?

なんだろう…凄く嫌な予感がする……

「セリくん…逃げるよ」

隣にいる和彦が小声で呟くと俺の手を引っ張って来た道を戻ろうとする

あの和彦から逃げるって言葉は聞いたコトがない

俺の嫌な予感がさらに強くなっていく

「逃がさない」

フィオーラはいつの間にか俺達の戻る道に立ち塞がる

コイツ…いつも気付いたらそこにいるんだ

和彦は道を塞ぐフィオーラを倒そうと俺の手を離した瞬間に、俺は後ろにいたフードの男に捕まって和彦と引き離される

「和彦…!?」

すぐに気付いた和彦は振り返り俺に手を伸ばしてくれたから俺も和彦に手を伸ばす

でも、その手は二度と掴むコトが出来なかった

「強すぎる君にも弱点がある、それがそこにいる天の異物」

和彦は俺のせいで隙を見せてしまった

それを逃さないフードの男は俺を突き飛ばすように離して、和彦に触れた

フード男の手が少し和彦に触れただけなのに、和彦は人形になったかのようにその場に崩れ倒れた

「えっ…」

一瞬だった

フィオーラは倒れた和彦の頭を掴むと首を切断する

そのままゴミのように首を地面に捨て踏みつけた

「呆気ない、所詮は人間

生死の神は人間の生死を決める力がある

本来はしない事だが、神族を4人も殺した当然の罰だぁあ!!」

フィオーラの高笑いが響く

フード男は隠したフードの中で不気味に笑っている

その言葉で時間が止まっていた俺は、何が起きたかやっと理解が出来た

和彦が……殺された…?

和彦が…和彦が……信じられないのに

和彦が俺を助けてくれないってコトは……そうなんだ……

「……絶対ッ…殺す……!!」

怒りと悲しみで何も考えられない

とにかく目の前の奴らを殺すコトで頭が支配される

勇者の剣に手をかけると、俺の片足がガクンと地面に膝が付く

膝を付いた足に目をやると太ももに氷の矢が刺さっていて、氷魔法の音が聞こえたかと思うと目の前のフィオーラと生死の神が氷付けになる

「セリ!」

レイの声が聞こえて俺の身体が地面から浮く

「レイ、待って!?」

レイは俺の言葉も聞かず、俺を抱きかかえてこの場からはなれた

氷が割れる音が聞こえる

少しの時間稼ぎが溶けた音

「もう1人仲間がいたのか」

「逃がそう、あのエルフには僕ら2人じゃ少し厳しい」

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