156話『ずっと待たせてた約束の時』セリ編
セリカが和彦達と離れた場所で何やら深刻な話をしているのを横目に俺は長旅で疲れてる結夢ちゃんを休ませたくて部屋へ案内する
空いてる部屋は好きに使っていいって前にイングヴェィが言ってたし、後で許可取ったらいいよな
セリカである俺に優しいイングヴェィなら絶対良いって言ってくれるもん
その途中、廊下の曲がり角で人影が飛び込んできた
「わっ!?」
飛び込んできた人影が結夢ちゃんにぶつかってお互い尻餅をついてしまう
「いたた…ってごめんね!?大丈夫!?」
何が起きたのか理解した人影こと、天使は跳ねるように立ち上がると結夢ちゃんへと手を差し伸ばした
結夢ちゃんは顔を上げて天使の手を取る
「あっ可愛い、怪我してない?」
天使の笑顔と褒め言葉に結夢ちゃんの顔が赤く染まっていく
すぐに結夢ちゃんは首を横に振って怪我がないコトを伝えた
あっそうか、天使と結夢ちゃんって初対面だったな
「大丈夫みたいだね
廊下走ってごめんなさい、危ないってよくわかったよ
怒られる?」
天使が不安そうに見るから結夢ちゃんは笑微笑んで首を横に振った
「コラ天使、暫くは危ないからこっちには来るなって言っただろ」
「えー…?だって……」
誤魔化すように笑顔で乗り切ろうとする
「セリカちゃんが心配なんだもん…」
今度は情に訴えかけてきた
そう可愛く言われると強く言えないな…俺とそっくりな姿なのに
天使はやりにくい相手だ
レイが苦手と思うのもわかる気がする
「俺だってセリカちゃんを守りたいんだ
から」
「ダメなもんはダメだ
天使に何かあったら、オマエのせりかさんに何て言えばいいんだ」
セリカを守りたいって言ってるが、天使自身も危ない
俺とそっくりな容姿だから間違えて狙われるコトだってあるだろう
そんな危険だってわかっててこの世界に置いておけねぇ
落ち着くまでは安全な向こうの世界に暫くいてもらうのが1番良い
「むー…」
天使の大切な人の名前を出すと天使は不服だけど何も言えないと態度で不満を表す
「……わかった…セリくんが正しいね
この件が落ち着いたらセリカちゃんはまた遊んでくれる?」
「そりゃもちろんだ、セリカは天使を気に入っているから」
「レイも遊んでくれる?」
「レイは天使が苦手みたいだから無理じゃないか…」
嫌いじゃないみたいだが、かなり苦手なのは見ててわかる
「なんで?俺はレイとも仲良くしたいのに」
「さ、さぁ…?なんでかはなんでだろうな…」
レイは天使を見てると罪悪感がなんとかかんとか言って俺もよくわからん
セリカと仲良くしてるのも気に入らないとか言うし
「あっちの世界のレイとは大親友なのに…」
ぽそっと呟いた天使の言葉は聞こえなかったが、天使はまっいいやと笑顔に戻る
やっぱり天使は笑顔が1番似合う
天使はみんなと仲良くしたいみたいだから、イングヴェィともよく話してるし
和彦と香月にはまだ会ったコトないけど
「今度会う時は君も一緒に遊んでくれる?
あっその前に名前が知りたいな
俺はせり、みんなには天使って呼ばれてるけど天使じゃないんだよ」
真っ白な翼を背に持って天使は結夢ちゃんに向き直ると笑顔で言う
「あぁ、紹介するよ
彼女は女神で名前は結夢」
「結夢ちゃん?名前も可愛いんだね」
結夢ちゃんは照れてしまう
天使…素直で正直だからなんだろうが、無闇に女の子を褒めたらいけないぞ
軽い男みたいに見えるから
まぁ天使に限ってそうは見えないから不思議だよな
身体は俺にそっくりな成人男性でも中身は9歳の子供だし
いや…俺の見た目も10代に見えるから微妙か…?
23歳の俺が18歳のレイより年下に見えるって言われるし、レイが大人びてるのもあるが
そもそも東洋人は幼く見えるもんか
「約束だよ?」
そう言って天使が結夢ちゃんに小指を向ける
ずっと照れて戸惑っていた結夢ちゃんも微笑んで天使の小指に自分の小指を絡めた
「それじゃあ、またね
セリくんは落ち着いたら絶対に俺に教えてね!
セリカちゃんと結夢ちゃんに会いに来るからね!」
「はいはい、わかったよ」
「はいは1回だよ」
うぜぇ
セリカの時は何も言わないくせに
そして天使は手を振って消えていった
静かになった廊下で俺は結夢ちゃんに話し掛けた
「なんか騒がしくてごめん、天使は子供だから気が向いたら遊んでやって」
結夢ちゃんは俺に小指を見せて約束したからと微笑み頷く
みんな天使には甘いなぁ、俺もか
立ち止まっていた廊下をまた歩き出す
光の聖霊が何かと結夢ちゃんを気にかけてくれていたし、結夢ちゃんも光の聖霊を頼りしている様子もあった
ちょうど光の聖霊の部屋の隣が空いていたハズだからその部屋に結夢ちゃんを案内する
「何かあったら……ん?」
俺は感じたコトのある気配に気付く
さっきまでわからなかったが、少しずつその気配が強くなってる
この感じ……すぐにわかった
香月だ
香月が帰っているのか?
でも、なんでここに?俺に会いに…?
結夢ちゃんは俺の様子に顔を覗き込む
「あっ…いや…まだ結夢ちゃんの傍にいるよ…」
慣れない場所だろうし、あんなコトがあった後に1人にするのは…
そんな俺の言葉に結夢ちゃんは首を横に振って香月のいる方へと指差す
結夢ちゃんも香月の気配に気付いているのか
えっもしかして倒して来いって?勇者の使命を果たせと?
「結夢ちゃん…なんで、泣いてんの…?」
泣いてるのに、でも笑顔を見せて
恋人の香月に会いに行けってコト?
結夢ちゃんは俺が香月と和彦の恋人ってコトは知ってるから、気を使ってくれてるんだろうけど
その後、俺の背中を押すようにして部屋から出された
「いやいや!?なんで?悲しいのか…寂しいのか……」
泣かれたら…ほっとけないじゃん
閉め出されたドアを開けようとしたが、鍵を閉められてしまった
「何やってんのよ、乙女の部屋の前で
無理矢理ドアをこじ開けようなんて最低よ」
「光の聖霊」
なんでここにって、隣の部屋が光の聖霊だから当たり前か
「だって、結夢ちゃんが泣いていたから心配なんだよ」
「仕方ないわよ…私だってレイの事で泣いたんだから……」
光の聖霊は眉をひそめて呟く
「とにかく、あんたがしつこいと女神結夢が可哀想でしょ」
「可哀想?心配するのが?」
「心配するのはいいけど、その優しさが逆効果だって言ってんのよ!
あんたはさっさと恋人にでも会いに行って、それが女神結夢の願いでしょ
彼女もまた勇者の幸せを願ってんのよ
私がレイの幸せを願うようにね」
光の聖霊は俺の鼻をつまみ引っ張った
女の子の少し長めの爪が食い込むのが痛かったりする
「うー…俺だって結夢ちゃんには幸せになってほしいって思ってるぞ」
光の聖霊は鼻から手を離してくれたが苛立ちが凄かった
「ここからは男子禁制だから、女神結夢の事は任せて
勇者はさっさと行く事!
このまま魔王の気配が強くなったら死人出るよ!!」
はい!早く!と光の聖霊は手を叩いて俺を追い払う
俺は結夢ちゃんへの心配が残りながらも部屋から離れた
光の聖霊に言われて香月が抑えてる魔王の気が強くなったら、確かに死人が出る
その前に香月に会って抑えてもらわないと
俺は香月の気配がする方へと走った
近付けば近付くほど、足がもつれるように走りにくくなる
そのうち足が止まって動かなくなってしまう
完全なる魔王の香月は勇者の俺でも恐怖を感じる
でも…今はそうじゃない…例え恐怖を感じてもそれを超える特別な感情があるから
それが邪魔して足が止まったんだ
会いたい…
会いたいけど…
会うコトに臆病になる
好きすぎて、その気持ちに押しつぶされてどうにかなってしまいそうで
勇気が出ない
いやいや…何をいまさら
香月とは何度も生まれ変わって何度も恋をして…愛して……
でも…何度だって慣れないよ
好きってある意味恐い
「セリ」
動けなくなった俺の前に現れたのは、ずっと待ってた…香月の姿
人間でもない幼くもない、本来の本物の魔王の香月
懐かしいような…よくわからない感情が込み上げてくる
今までよりずっとずっと…重く深い愛を感じる
人間の時も子供時代も好きに変わりはなかったのに、それがハッキリして
あーはじめて好きになって愛されて本気で愛したのは、この人なんだって思った
そんな懐かしいような淡い初恋のような、不思議な感じ
「香月……」
香月の顔を見て、香月が俺に歩み寄ってくれると、涙が押し寄せた
俺に触れようと香月が手を伸ばそうとするより先に俺は頭を下げた
「ごめん!!香月……俺…香月のコト…殺したりなんかして……」
「私は自分の姿を取り戻せたので」
香月が人間から魔王に戻るには俺が一度香月を殺すコトが条件だった
でも、俺はそれを後悔した
自分がされて嫌だったコトを香月にしたコトが許されなかったんだ
俺が前の世界で和彦に殺されて死ぬほど辛かったのに、それを俺が香月にするなんて……
本当にバカで最低だ
あの時の俺はどうかしてた……
香月まで信じられなくなって……
「どうしてもこの姿を取り戻したかった
また次もセリと出逢えるように」
香月は頭を下げる俺の顔を上げさせる
視線が合って、急に熱が上がる
ヤバい…姿変わってないハズなのに、魔王の香月死ぬほどカッコイイ……
「えっ…?聞いて…なかった…」
なんか、凄く嬉しいコト言われたような気がするのに、いっぱいいっぱいで…
「あっ…それから……待っていろって言われたのに、待てなくて……死んじゃいそうになったコトも…ごめんなさい」
和彦がいなかったら俺はここにはいなかったな
本当、アイツには感謝しかない
「二度と、させません」
香月は俺を引き寄せて抱き締めた
二度と…?それって…ずっと俺と一緒にいてくれるってコト?
俺は前世の何回かは自殺したコトがある
この先だって何回生まれ変わってもいつかその選択を取るコトだってありえるのに
これからは死んで生まれ変わっても…大丈夫ってコト?
いいの…?これからもずっと…永遠に、俺を愛してくれるの?
「……うん…香月がいてくれたら…死ぬなんて絶対しないよ…」
ずっとドキドキして苦しいのに
香月の手が頬に触れると、それくらい死んじゃうくらい心が騒がしくなる
顔が熱い…
香月の顔が近付いてくるからストップをかけた
「う…嬉しいけど…ここ廊下だし、人に見られたら…」
恥ずかしくて死ぬ
「私の気配で誰も近付けませんよ」
「ハッ!?それだ!香月、ちょっと抑えて」
「また私に人間の姿になれと?」
香月は表情を変えないけど、嫌そうなのはわかる
子供の姿の香月は少しは表情があって可愛かったんだけどな~
「そうじゃないと一緒にいられないだろ
魔族や魔物しかいない時ならいいよ」
魔王城とかならオッケー
他の種族がいる場所では香月が人間の姿になってくれないと魔王の気配だけで人が死ぬ
それだけ香月の雰囲気は人を恐怖させる
「…仕方ありませんね、その前に」
香月は誰も近付けさせない今のうちにと俺にキスをする
身体が緊張して震える…変だ…はじめてじゃないのに、いつまでもはじめてのようなドキドキが……
「誰も近付けないって?」
声が聞こえて香月から離れると和彦が傍まで来ていた
誰も近付けないって言っても和彦とかイングヴェィとかならなんとか
「ッ和彦!?オマエ、セリカ達と話してたんじゃ…」
「もう終わったよ
そんな事より、セリくんのその顔は香月にしか見せない」
ん?なんか怒ってる?
前にも何回か香月といる俺に不機嫌な態度を見せてたコトあったけど
「わかってる…セリくんは香月が1番で、香月を選ぶんだって」
「どうしたんだよ和彦?らしくないって言うか…」
まるで嫉妬じゃん…レイみたいな…
和彦が荒れているようにも見えた
セリカとの話で何かあったのか?
だとしても、ちょっとやそっとのコトじゃ和彦は変わらない
いやどんなに大きなコトでも和彦は和彦らしさを崩すコトはなかった
「らしくないか、そうかもな
セリくんにオレか香月を選べって言ったらどうする?」
「……選んでほしいのか」
「香月を選ぶなら、香月を殺してセリくんを奪うまで」
和彦は俺の腕を掴むと自分の方へと引き寄せた
「それなら貴方を殺して取り返します」
2人の空気だけで床や壁にまで響くように揺れる
はっ!?どういうコトだ!?
そんなの和彦が死ぬまで終わらないぞ
魔王の香月は勇者の俺以外に殺せないから…
「ちょっと待てよ和彦!いきなりそんな、俺は……
選べって言うなら考えて答えを出すよ」
ちゃんと向き合う…こんな関係、いつまでも続くなんて…やっぱり変だったんだ…
「……冗談だ…」
和彦は俺から手を離して、いつものように笑う
さっきのコトなんてウソだと言わんばかりに何事もなく、いつも通りの和彦
「オレはセリくんが誰の恋人でも関係ない
セリくんの気持ちも…関係ない
手放すつもりはないよ
これからもオレと香月の恋人で」
2人に愛されて2人の恋人、俺も最初は戸惑ったが今は2人をちゃんと愛してる
だから…1人に決めるには…かなり辛い選択になる
「和彦が嫌なら…俺は選ぶよ」
「嫌じゃないさ、それは本当
オレは嘘は付かない」
確かに和彦はウソはつかない…冗談は言うけど
「じゃあ…何かあったんだ……
和彦が荒れてるのはじめてで珍しいから」
「……それ以上、言ったらセリくんでも許さない」
強く睨まれて、俺はそんな和彦ははじめて見た
俺にそんな目を向けるなんて…やっぱり和彦なんかあったんだ
和彦はずっと強い自分を見ていてほしいってプライドの塊みてぇな奴だから
心配してるって口にするのも嫌がる
わかってた…俺はそれに口出したらダメなんだって
でも、やっぱり心配になるって…好きな人のコト心配するのは当然だろ
俺が和彦にしてやれるコトって…何もないんだ、それが許されない
和彦はなんでも自分で解決する、それが出来る男だ
今回は自信がないのか…?
それってよっぽどのコトなんじゃないのか…?
「さてと、それじゃセリくんには約束守ってもらおうか」
和彦はすぐにいつもの調子に戻る
「えっ約束?なんかしたか?」
いつもの和彦の笑顔はちょっとホッとする
心配はあるが、和彦はなんでも可能にして来た男だ
運命すら変えるような
俺が出来るコトはそんな和彦を信じるコトだよな
「香月が大人に戻ったら…って約束
完璧な魔王の姿、もう断る理由もないだろ」
全然ホッとしなかった
そうだ…そうだった!?すっかり忘れていたけど、約束してた!?
「あー…えっと……約束は…守る…守るよ
でも、今夜はちょっと用が…」
ないけど
「明日も忙しいし…」
なんの予定もないが
「明後日も…いや暫くは…」
言い訳させてくれ!?心の準備が出来てない!!
そもそも久しぶりなのに、2人の相手するとか死ぬぞ!?
過去の俺はその場の雰囲気や勢いで約束なんてしないで、未来の俺のコトも考えろ!?ピンチだぞ!?
「待ったは聞きません」
香月なら優しいからと思ったら、待ったなしって言ったような気もする!?
「セリくんもう覚悟を決めた方がいい
オレも香月も今夜はセリくんを逃がさないよ」
「わ、わかった!その前にレイが心配するから今夜は帰らないって伝えに」
ゆっくり後ろに下がって逃げ…じゃなかった一度部屋に戻ろうとしたら捕まった
「レイに助けてもらおうって考えてる?」
なんでもお見通しなんだな…
「いいよ、レイに帰らないって言うくらい
でもそのまま戻らなかったら容赦しない」
和彦に離してもらって、俺は少しだけ部屋に帰るコトを許された
あぁ…気が重い……
なんか恐いしか感じない…
足が重いまま俺は部屋へと帰って、レイと顔を合わせた
「セリ、いつもより顔色が悪くないか?
香月さんが来ているんだろう、そんな浮かない顔」
「う、うん…そうだな……」
言わなくても香月がいるってわかってたレイは俺が帰れないコトもわかっていた
下手に話すのはやめよう
レイを巻き込むのは嫌だし、2人の邪魔になったら最悪殺される
やっぱり今夜は覚悟を決めるしかないか
俺だって2人のコトが大好きだから、久しぶりだししたくないワケじゃないけど
いきなり3人でじゃなくて、できれば1人ずつがよかったなって
「今日は帰らないと思っていたぞ」
「うん…今からまた、今日は帰らないよ」
それならってレイは俺に手招きする
俺が傍へ寄るとレイは俺を膝へと座らせた
「……そうか、2人と約束してるんだから長くは引き止められないな」
レイの唇が俺の唇へと触れる
今日の1回分って、短いキス
「2人とは別れるよ」
「えっ…?」
「俺はレイが好きだし、レイの恋人になりたい」
もっとキスして触れてほしい…
レイの首に手を回して顔を近付ける
だけど、レイは俺の肩を掴んで引き離した
「それは……嘘だ
セリが2人と別れたいなんて絶対に言わない」
レイの恋人になりたいは否定しないんだ…
「また変だ…」
「レイは俺と付き合いたくないの?」
「………。」
「レイ………」
俺が目を閉じると、レイは迷いながらもまたキスしてくれる
「…あっなんかぼーっとしてた
すまん、そろそろ行かないと」
俺はレイの膝の上からおりる
気が重いけど、行かないわけにはいかねぇし
最近たまに意識が途切れるコトあるが、疲れてるんだろうか
それもそうか、色々あったもんな
「オレは…セリの本心じゃなくても、それでもいいなんて思って…最低だな」
「どうしたレイ!?」
目の前で急に落ち込みはじめたレイに俺は戸惑う
和彦もレイもらしくないぞ…みんな疲れてるのか
「香月さんと和彦さんが待っている」
「そうだけど…レイ、疲れてるならゆっくり休んでくれよ
しんどいなら俺が看ようか?
2人には事情言えばわかってくれるから」
決して俺は2人から逃げたいワケじゃなく、レイが心配だからだ!
どうせいつまでもは逃げらんねぇし、約束は絶対に守る!
ただ、覚悟するにはちょっと時間がほしいって言うだけだ
「セリに看病してもらえるなら仮病してでも」
「ウソつきは嫌いだぞ
そんな冗談が言えるなら元気じゃん」
アハハと俺は苦笑する
「2人との約束が終わったら……オレとの約束も守ってもらうから」
レイは俺の手を掴んだ
その手から視線を動かし見上げて視線が交わると、恥ずかしくなる
そうだ…レイとも……
今度は自分の意思でレイを受け入れる…
あぁ…それも緊張してきたな
レイのコトは大好きだが、やっぱり大親友だって気持ちがあるから
でもキスは毎日たくさんして慣れてきたし、きっとそれ以上だってすぐ慣れる…
レイは特別だから…
「約束は守るよ」
俺がふわっと照れながら笑うとレイも釣られて照れながらも笑い返してくれる
そして、俺は香月と和彦のところへ戻る前にセリカにも会って話をしておいた
フィオーラの話を聞いて、俺と会ったフィオーラとセリカの会ったフィオーラは別人のようだった
セリカの会ったフィオーラは信用していいのかもしれない…セリカがフィオーラを信用した理由は教えてくれなかったが
セリカが信用してるのに俺が信用しないってコトはない
とにかく、勝利の神のコトは厄介だな
見た目を変えられるみたいじゃないか
骸骨天使がレイに化けていたコトもあった…
もしかしたら、他の人に化けて近付いてくる可能性もあるってコトか…?
そんなのどう気を付けたら……
考えても仕方ないか、良い方のフィオーラが調べてくれてるみたいだからそれを待つしかないか
ちょっと待てよ、それじゃセリカの部屋に入って来た変態は良い方のフィオーラじゃないって誤解だけは解けたってコトになるな
自分の姿で変なコトされたら最悪だな
俺もセリカもあの時は完全にフィオーラが変態だって思ってたもん
その後、香月の部屋を訪ねてドアを開けると小鳥の形をした魔物が俺へと飛び込んできた
「わっビックリした」
手のひらに乗せると魔物は落ち着くように座り込む
ふわふわしてて可愛いな
って、なんで魔物がここに?
「セリ、私は一度城へ戻ります」
「何かあったのか?」
香月が突然戻るなんて、この魔物が知らせに来てくれたのか
それにしては緊急性もなく落ち着きまくってるけどこの小鳥魔物
「いつもの植物ですよ」
「あーアイツらね、香月がいない時に狙って来るんだよ」
「雑草みたいに厄介じゃん」
和彦には話したコトがあるから、植物モンスターが香月のいない間にしつこく襲って来るコトを雑草みたいと揶揄した
「でもキルラやポップがいれば大丈夫なんじゃねぇのか?」
魔族も魔物も、香月が魔王に戻ったコトで自分達の強さも取り戻しているハズ
植物モンスターなら相手にもならないくらい簡単に追い払えるだろ
「キルラもポップも他の魔族魔物を連れていないんだとさ
残ってる楊蝉とラスティンで何とか持ちこたえてるってその小鳥が言ってるらしい」
和彦が俺の手の中にいる魔物を指して言う
おいおい、おかしいだろ
なんで魔王城を魔族でもない天狐と白虎の2人が守ってるんだよ…
キルラもポップも自由奔放だとは言え、香月がいないってわかってるのにあまりに勝手だな
本来の力を取り戻しちゃってはしゃいじゃったか?
そりゃ植物モンスターも楽勝やん!って来るわ
香月が出掛ける準備を終えて部屋を出ようとしたから
「俺も手伝うから一緒に連れてってくれよ香月」
香月の横に立って見上げる
「セリが手伝う事はないと思いますが」
まぁ今の香月なら一瞬で無傷で終わらせるか
でも、せっかく会えたからもう少し一緒にいたいって…思ったもん…
「好きにしてください」
「やったー!じゃあ一緒に行くね!」
オッケーを貰って嬉しいから甘えるように香月の腕に抱き付く
「セリくんが行くならオレも一緒に行くよ」
和彦の言葉に香月を見ると、香月は和彦にも好きにしていいと言った
2人が共闘するのってはじめてなんじゃ!?
見たいようで見るのも恐そう…
でも、この2人が組んだら何にも負ける気がしない
そうなるとますます俺の出番ってなさそうだ
そうと決まったらすぐに出掛ける準備をして魔王城へと向かった
魔王城の近くまで来ると遠目からでもわかるように植物モンスターが群がっている
アイツら本当にしつこいんだよな…まるでタキヤのよう
俺の炎魔法は有効だけど、なかなか俺じゃ殲滅させるのは厳しい相手で悪い思い出しかない
それなのに、香月と和彦は短時間で植物モンスターを殲滅
本当に俺は何もしなかった…
2人が怪我するコトもなかったし、香月も和彦も俺を守りながら戦ってくれてたから
俺自身も危ない目に遭うコトはなく終わる
植物モンスターを蹴散らした先には肩に大怪我を負ったラスティンとそれを心配そうに手当てをする楊蝉の姿を見つけて駆け寄った
「大丈夫か、ラスティン」
俺はすぐに回復魔法で治すとラスティンは痛みも消えパッと顔を明るくした
「セリカ!来てくれて助かった」
ラスティンは俺とセリカの区別が付かない
ラスティンにとって俺とセリカは食い物って認識だからだ
「楊蝉も無事か?」
「助かりましたわセリ様
私達では植物モンスターを食い止めるには限界がありまして」
「キルラとかポップは出掛けてるんだって?戦える魔族も魔物も少なそうだな」
俺が姿を見せると力の弱い可愛い動物達の姿をした魔物達が寄ってきては甘えに甘えてきた
みんな可愛いから抱っこしたり撫でてやったりする
「キルラさんもポップさんも勝手ですわ
出掛ける前も、大丈夫大丈夫とか言ってこの事態ですものね」
アイツらの大丈夫大丈夫は、近くに香月がいるからって考えてか?
小鳥魔物が助けを呼びに来てこうして大丈夫ではあった
でもいくら近いって言っても数日はかかるのに
おかげで寝不足なんだが…
「香月に怒ってもらわないとな
楊蝉もラスティンも疲れただろ守ってくれてありがとな
ゆっくり休んでくれよ」
2人はふらふらになりながらも立ち上がって微笑むと自分の部屋へと帰って行った
「セリくん、さっきから気になってるけど
勇者が魔物にめっちゃ懐かれてるってどうなんだ?」
和彦はお腹すら見せてる魔物に苦笑する
「たぶん、飼い主(と言うか魔族と魔物の王様)の香月が俺を敵に見てないからだろ
だいぶ昔だけど、香月が俺を敵と見てた時はコイツらだって牙も爪も剥き出して襲い掛かってきたし」
力は弱い魔物達だが、敵だった頃は可愛い見た目に倒すのに戸惑ったな
コイツらは俺を殺す気で来てるから戦うしかなかったのはある
「とりあえず…寝不足でめっちゃ眠いから昼寝させて!!」
もう眠気の限界だと香月に抱き付く
「人間のセリには無理をさせましたね」
「オレの心配はしてくれないのか?」
和彦も人間だった
寝不足のくせによくもまあ植物モンスターと戦えたな
軽い睡眠は取れたからそれで和彦は十分なのかもしれないが、俺は無理だ
それなりに寝ないと辛いぞ
「ううん、俺は楊蝉とラスティンが心配だったから無理しても全然良いし大丈夫だよ
でも、安心したら眠いからとにかく寝たい」
そんなこんなで俺は自分の部屋で思い切り寝た
和彦も一緒に寝るってコトで2人して爆睡
いつ来てもいつ帰ってきてもいいように、俺の部屋はずっとそのままにしてくれる香月が大好き
自然に目が覚めると真っ暗だった
夜か…時計を確認すると21時前、昼寝にしてはガッツリ寝たな
まぁそうだよな、疲れも眠気も溜まってたし
和彦はまだ寝てるのか
隣に感じる温もりに俺はまた横になって寄り添う
待てよ…真っ暗で視界が悪い
この隣に寝てるのは和彦と思い込んでるだけで本当は誰かわからないってコトはないか?
死者の国ではぐれないようにとレイと手を繋いだつもりが、実は全然知らない誰ってコトあったのが頭を過る
それはない…だって和彦の匂いがするから、見えなくても間違えたりしない
「和彦、そろそろ起きるか?それともこのまま朝まで寝る?」
昼も夜もご飯食べてないから何か食べた方がいいかもと思って和彦の身体を揺する
「後少ししたら…」
和彦は寝ぼけながら俺を抱き枕のように抱き締めて寝息を立てた
動けなくなった、俺は目が覚めちまったんだけどな
和彦は意外にも睡眠時間が長い
鬼神が一度寝たら数日は起きないってのと似てるのか、和彦は体力を使ったら睡眠で回復する感じなんだろう
こんなによく寝るのに身長はそんなに伸びなかったと…
俺が唯一和彦に勝ってるのは身長だけ
まぁ3cmだけだけど………どんぐりの背比べがなんだって!?
和彦は身長が低いコトにコンプレックスを持ってないから、キルラがよく和彦にチビとか言っても怒ったりしない
キルラからしたら和彦を怒らせたいみたいだが、和彦って全然怒らないし
そんなとこも好きなんだよな
俺はもっと身長ほしかった、男らしくなりたかったって思うのも
和彦見てたら、今の俺で良いんだって思える
今の俺をみんな愛してくれるもん
そんなの、贅沢な幸せでしかないよな
なんて…ちょっと恥ずかしい
動けなくなった俺はうとうととして来てまた眠くなる
だけど
「起きる」
急に和彦はぱっちり目覚めて起き上がった
「寝ようと思ったのに、起きるんかい」
「夕食にしよう、それから風呂」
和彦はベッドから下りると電気を付ける
眩しいな
「お腹空きすぎて寝れないって?和彦って意外に大食いだもんな」
よく寝てよく食べる
それくらいしないと和彦の体力は持たないのかもしれない
「空腹は我慢出来ても、セリくんは我慢出来ない」
「ん…?」
すっとぼけて作ったような笑顔になる
忘れてた…約束、それって今夜!?
「寝てる場合じゃない、今夜こそ逃がさないよ」
ずっと我慢させられていたんだからって和彦は笑う
………俺も覚悟を決めるか…
和彦も香月も、ずっと待たせてたんだ
約束通り…もう待ったはなし
時間はあっと言う間に過ぎた
夕食も風呂も終えて、俺は香月の部屋にいる
緊張で身体が強張ってしまって、2人の顔が見れない
「セリくん…力抜いて」
和彦に肩を触れられるだけでさらに身体に力が入るようだ
「いや…なんか……久しぶりだから…緊張するって言うか」
「身を任せてくれればいいから」
それが恐いんだよ!?大丈夫か!?俺は生きて明日の朝を迎えられるのか!?
「やっぱり1人ずつ…」
「それって今夜はオレか香月を選ぶって事?」
和彦に言われて、俺は無意識に香月に視線を送った
その質問はズルい…俺は
「…どっちも選べない」
しか言えない
だってどっちも大好きで愛してるから
だから、もう覚悟は決める
約束は絶対に守るから、待ったなしだ
「……いいよ、大丈夫
でも、手加減はしろよ…」
「それはどうかな?オレも久しぶりだから」
そう言って和彦は俺にキスをする
和彦の唇が離れると横にいた香月が俺の顔を自分の方へ向けて唇が重なる
あぁ…香月…大好きだ……キスされるだけで幸せ
片手を掴まれ指を絡めて、キスも激しく深くなった
ゾクゾクとする…頭がクラクラして座っていられなくなるほど腰に来る
和彦は俺の服のボタンを外して脱がせると、首筋を舐められて身体が軽く反応する
「んっ…ぁ」
香月と重なる唇の隙から思わず声が漏れてしまう
和彦の舌がくすぐったくて、そして的確に俺の弱い部分も刺激する
思わずもう片方の手を和彦の肩に伸ばすと、その手を掴まれて和彦の指が絡む
首、肩、胸、下へと唇と舌と手と指を感じる
全身が熱い…どうにかなりそうなくらい
太ももに香月の撫でる手が触れるのがわかると少しずつ靴下をズラされて足を広げられる
思わず足を閉じようと力が入って、香月とのキスをストップする
「はっ…恥ずかしい…よ、香月」
「それは待ったと言う事ですか?」
「…待ったはなしって約束だから……」
めちゃくちゃドキドキする…死ぬんじゃないかってくらい
でも、死ぬほど幸せな時間
愛しい人に愛されて…繋がれるんだから
「…でも、恥ずかしいもんは恥ずかしいって言うか……」
めっちゃ俺ヘタレじゃん…
「すぐに恥ずかしいなんて思う余裕もなくなるよ」
アハハと笑う和彦は俺のもう片方の靴下を脱がす
「オマエは恥ずかしいって感情ないんか!?」
「ないな」
くそ~…コイツに黒歴史とかあったら弱みを握れるのに…
和彦とは中学の同級生で大人になってから再会したが、ちょうど黒歴史を製造する中学時代は同じクラスってだけでとくに仲良くなかったから何も知らねぇんだよな…
香月は感情がないし、俺だけ恥ずかしいって不公平?だ…
いつの間にか和彦は服脱いでるし…
「香月も脱いだら、恥ずかしがり屋のセリくんはオレが脱がしてやるからさ」
「バカにしやがって」
「可愛いって言ってるのに」
「言ってねぇだろ」
無駄だとわかってたけど、抵抗してみたがあっさりと簡単に脱がされてしまった…
和彦は俺を押し倒して見下ろしてくる
「ここからは恥ずかしいって言ってられなくなるくらいの事するから、覚悟して」
「……好き…しろ」
緊張するし、やっぱこの2人相手ってのは恐いし
でも、ずっと待たせてたんだ
俺だって…ずっと……愛されたかった、愛したかった
「セリくん…好きだよ、愛してる」
和彦がキスしてくれる
「セリ、愛しています」
香月がキスしてくれる
「俺も…香月が大好き、和彦が大好き
2人とも愛してるよ」
2人の顔を見上げて微笑む
こんなに幸せな気持ちにたくさん照れながら、3人で夜を過ごす
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