155話『鬼神の行方』セリカ編

お留守番の私はイングヴェィと一緒に近くの街へと買い物に来ていた

その帰り道、私はセリくんから伝わる感情に思わず足が止まる

「どうしたのセリカちゃん?」

心配したイングヴェィが私の顔を覗き込む

……フィオーラとセレンは敵……

邪魔をするなら神族は皆殺し……タキヤは絶対殺す

結夢ちゃんを傷付けた奴らを許さない……

「こんにちは、セリカ様」

私の目の前に…いつの間にかフィオーラが姿を現す

イングヴェィは警戒して私を背に隠すように守る

「フィオーラさん…セリくん達と一緒のハズじゃ…」

イングヴェィを無視して、フィオーラは私の真横へと姿を見せた

「約束通り、セリカ様に協力しに来たんだねぇ」

私は短剣を引き抜き、フィオーラの顔を切り裂く

「つつ…セリカ様?」

当然のコトに驚き私から距離を取ったフィオーラは切られた顔を手で押さえ痛みに耐えた

「オマエは敵よ」

「敵?待ってほしいね、僕はセリカ様の味方に」

「味方?裏切ったくせに、私はセリくんよ

セリくんが感じたコトは私に伝わるの

オマエが裏切ったコト、直接聞かなくてもわかるわ」

「僕が?裏切った?」

とぼけるフィオーラに、教えてあげる

セリくんの目に見える光景が見えるワケじゃないからどんな状況でどうなったかは聞かなきゃわからない

わかるのは、伝わるのはその感情や感覚だけ

私はフィオーラとセレンに裏切られて、結夢ちゃんに酷いコトをした怒りと悲しみを話す

「僕が…女神セレンと一緒に、女神結夢に酷い事を?」

「私はとても弱いの、だから神族のオマエを倒す力はない

なら、強い者の力を利用するしかない…」

そう言うコトはしたくなかった…

私のために誰かにしてもらうなんて、嫌だった

でも、私は弱すぎて…力がないなら、力ある者を利用してでも

オマエ達、神族とタキヤを殺したいの

「イングヴェィ…」

私は1番大切な人の力を利用する……

最低な…私

「セリカちゃん、ダメだよ

利用するなんて後悔するコト

俺はセリカちゃんのためなら何だってするよ

でも、それでセリカちゃんが傷付くなら出来ないかな

だから…これは俺がコイツを、神族をタキヤを許せないから殺すね

俺の意思で殺すんだよ」

イングヴェィは私にニッコリ微笑んでからフィオーラの前に立つ

…イングヴェィ……こんな卑怯で最低な私に……優しくしてくれるなんて

私…怒りでまた自分を追い詰めた…自分と大切な人を…

「イングヴェィ…やっぱり」殺さないで

「それは聞けないかな、俺の意思だからね」

フィオーラはイングヴェィの攻撃を避けながら私に話し掛ける

「女神結夢に酷い事を僕がするわけないねぇ

美と愛の神の僕は、女神結夢の愛はとても美しいものだとわかっているからね

神の名にかけて女神結夢を傷付ける事はしない」

結夢ちゃんの愛…?コイツ、わかってるのか

結夢ちゃんがセリくんを好きなコト…

「待って!イングヴェィ!」

フィオーラを追い詰めるイングヴェィは私の声に武器をしまう

私のコトはなんでもわかるイングヴェィは本気で止めてるコトもわかる

「結夢ちゃんがセリくんを好きなコト、オマエもわかっていたの?」

「さすがセリカ様、女の勘で気付いてるみたいだねぇ

セリ様はまったく気付いてないのに

僕は姿が見えない女神結夢がどんな姿をしているか知らないけれど、その美しい愛だけは感じ取っていたね」

「セリくんは直接好意を伝えられない限り自分が好かれてるコトには気付かないわよ

それも好きとか友人として受け取れるような曖昧な表現もわかんないから

そういう所は凄く鈍感だもの」

私から言うワケにはいかないしね…

フェイが本当はセリくんのコト大好きだってコトにも気付いてない

あんなの好きな子に意地悪する小学生みたいなわかりやすい愛情表現なのに

やり方は小学生らしくないけど…

「セリ様は女神結夢を友人として思っていらっしゃる」

「そんなコトまでわかるの?」

「僕は愛の神だからねぇ、セリ様が誰を愛してるかくらいわかるね」

フィオーラは得意気に笑う

私も自分のコトだからわかるわ、香月と和彦よ

「はい!セリカちゃんが愛してる人は誰!?」

イングヴェィが食い気味に手を挙げた

「ちょっとイングヴェィ!?」

急に恥ずかしくなって顔が真っ赤になる

「僕を殺そうとした人が聞くかねぇ?

言わなくても、君ね君

セリカ様を僕の花嫁にしたかったんだけどねぇ…残念」

苦笑するフィオーラと違って、イングヴェィはヤッタね!と喜んでいる

も、もう……やめてよね……わかってて聞くの

「切ないねぇ…女神結夢の恋は叶わない

あんなに美しい愛が、切なさに一層美しく輝く所が僕は特別に見ている

だから、僕が女神結夢を傷付ける事はないね

美と愛に誓って」

フィオーラの言葉を聞いて、ウソはついてないと思う

じゃあどうしてフィオーラにこれだけの怒りがセリくんから伝わるの?

おかしいわね…

「あぁ、僕を殺そうとした君の愛も僕は好みかな

セリカ様への愛だけは認めるよ」

フィオーラの褒め言葉にイングヴェィは当然でしょと笑う

美と愛の神に褒められるくらいのイングヴェィの愛…

そんな愛を私が受けているなんて…

「セリカちゃん聞いた?」

「はいはい、聞いてましたよ」

イングヴェィがデレデレになって私を抱き締める

「僕の前でいちゃつかないでくれるかねぇ…

これでも僕は美しいセリカ様を気に入ってたんだけどね」

別に私はイチャついてないわ!?イングヴェィが一方的に抱き締めてくるだけよ!?

「でも、フィオーラの言葉を信じるなら変だわ

どうしてセリくんはフィオーラに怒りを持ってるの?

よくわからない新キャラの神族ならまだしも、セレンにまで…」

私はうーんと考え込む

フィオーラはもしかしてと口を開いた

「勝利の神の仕業かもしれないねぇ…」

「勝利の神?何か強そうね

そんな神がいたら私達は負け確定かしら」

「いや、勝利の神は必ず勝利をもたらすって事ではなく

どんな手を使ってでも勝利を掴む、そのためなら何だってやる…違うね正確には出来る神だねぇ」

勝利のためなら何でも出来る神…?やっぱ最強じゃん

「もし勝利の神が関わっているとなると…

セリカ様、怒りで勝利の神と同じ思考になっては漬け込まれるからねぇ

貴女を愛してくれるその人に守ってもらってね」

「大丈夫、俺はセリカちゃんから離れないから絶対に守るよ」

イングヴェィがいてくれたら…私は大丈夫って安心する

フィオーラはイングヴェィと私を見ると愛の神として微笑みかけた

て、照れる……から…

「僕は勝利の神に会った事がないから様子を見に行くかねぇ、女神セレンの事も気になるしね

探ってくるから待っていてね」

そう言ってフィオーラは私に背を向けるから、私はフィオーラの顔の傷を治した

「フィオーラ…ごめんね……貴方を疑って」

「セリカ様、やっぱり僕の事好き?」

「それはないって、アンタならわかるでしょ」

「まぁねぇ」

残念とフィオーラは笑って手を振り去って行く

「セリカちゃんはあの神のコト信じるんだね」

「……フィオーラはウソはついてないわ」

「そうだね…あの神は気に入らないけど、ウソはついてないって俺も思うかな」

イングヴェィが言うなら信じるコトは間違ってない…

でも、フィオーラの言う勝利の神のコトが心配だ

勝利のためならどんなコトも出来る…それがどんなに

「あっ…」

「セリカちゃん?」

めまいがするような心臓が跳ねる感覚…

立っていられなくなるほどの…気配を、私はイングヴェィより先に読み取る

「どうしたの?」

私の様子にイングヴェィは辺りを警戒するけど、イングヴェィが気付くにはもう少しかかる

来る…来るのね……ついに

「まずいわ、フィオーラが危ない!!」

気付いた私は大きすぎて強すぎる気配の方へと走る

「待ってセリカちゃん!1人で行くのは危ないから!!」

大丈夫、私が危ないコトはない

近付けば近付くほど空気が重くなる

「何…この感じ……」

イングヴェィはまだ知らない、それが何かを

走った先に私は足を止める

そこには何も触れていないのに地面に押さえつけられるように平伏すフィオーラの姿とずっと待っていた人の姿があった

「セリカ様…逃げ…」

「香月!!!」

「えっ知り合い!?」

フィオーラの驚きの声を踏み越えて、私は香月の目の前まで近付く

「これが……香月くんの本当の姿…?

感じたコトないな、これが恐いって感情?

でも、すぐ慣れるかな」

イングヴェィはいつもと違って余裕がない笑みを零す

香月は私を見ると、強い気配を抑えてくれる

いくら勇者の私でも香月の本気の空気を肌で感じるのはかなりキツイ

本来の力を取り戻した魔王の香月は勇者であってもなかなか倒せたものじゃないわ

セリくんに惚れてくれててよかった

敵にしたくないって勇者なのに、本当なら敵同士なのにね

「セリカ」

「香月…」

ふら~っと私は倒れる

や、やばい……香月の本当の姿の魔王は、今までの香月も私好みすぎてやばかったのに

もうこんなんヤバすぎて立ってられない

カッコいい、超美形、素敵

息ができない、心臓止まる

「セリカちゃんしっかりして!?」

イングヴェィが私を支えてくれる

「なるほどねぇ…さっきは恐怖に押し潰されてわからなかったけど、セリ様の愛してる人だね」

フィオーラが私(セリカ)の愛してる人とは言わなかったってコトは私は香月を愛していないのだ

そう、香月は私の超好みのタイプだけど愛してるのは私じゃない

セリくんなんだ

「はっ!?」

私は起き上がって香月を見上げる

「おかえりなさい、香月

待ってたよ(セリくんが)」

「セリはここにいると聞きましたが、いないようですね」

イングヴェィのところにいるって聞いて会いに来てくれたのね

セリくんめっちゃ愛されてる

「はぁ~あの魔王が、まさか勇者のセリ様を愛してるなんてねぇ

そういう魔王と勇者の関係を壊してまで、驚いたね

正直な感想、これと恋するセリ様が1番恐ろしいね」

うーん、それはそうかも

普通恐怖するし恐くて無理

でもね、香月はセリくんをはじめて愛してくれた人だから

そして、セリくんがはじめて愛した人だから

魔王と勇者の敵同士なんて関係は些細なコトで、愛の前じゃひっくり返るのよ

永遠なんだからね…

「もう何日かしたら帰って来るよ」

私がそう言うと香月は私の頭を撫でてくれる

私はウサギと同じ顔をした

そして、香月はフィオーラへと向きを変える

「殺しますか」

「なんで!?」

フィオーラはまた恐怖に平伏す

「神族がセリを狙っていると聞きました」

「僕はセリ様とセリカ様の味方ですよ!?」

フィオーラが涙目で私を見る

「香月、その人は逃がしてあげて

神族でも信用出来る人よ」

香月は私に言われたから仕方なく見逃したに見えた

私が言わなかったら神族は皆殺しにするつもりだ

結夢ちゃんもセレンも…

私はフィオーラに早く行きなさいと逃がした

先に言っておかないとね

「香月あのね、神族はセリくんの命を狙っているけど

神族の中でも仲良しの人がいるの

だから勝手に殺したりしないでね」

「セリカの命も狙われているのに、言われたら勝手は出来ませんね」

香月はセリくんと私を同じには見ない

セリくんはセリくんとして、私は私として

だから…セリくんとは違うけど香月は私のコトも大切にしてくれる

その大切にしてくれるのも私がセリくんだからなのもあるけどね

イングヴェィもセリくんが私だから、セリくんのコトも大切にしてくれるわ

香月と同じようにセリくんと私を同じには見なくても

「わかってくれて嬉しい!

じゃあセリくんが帰って来るまで一緒に待ってよう?」

私は右手でイングヴェィの腕を、左手で香月の腕を掴んだ

「待ってセリカちゃん、今の香月くんを連れ帰ったらみんな倒れちゃうよ

下手したら見ただけで死者が出るかも」

「確かに」

私達は大丈夫だけど、今の香月と一緒にいるのは難しいのかなぁ

でも、セリくんは前世で香月とデートしたコトもあるって言ってたけど

どうやってデートしてたの?周りの人達倒れさせながら死なせながらデートしてたのかなぁ?

それ楽しくないっつか怖すぎない!?

「あまりこの姿にはなりたくないのですが…

セリがどうしても一緒に出掛けたいと言うので、その時は」

香月はそう言って人間の姿へと変える

あんま見た目変わってないけど、魔王の気配がだいぶ薄れた

それでもちょっと恐さを隠し切れてない

魔王と人間の姿はまぁ一緒だよね

鳥と人型のキルラや蛇と人型のポップ達みたいな半分何かってワケじゃなく魔族には珍しい人型だ

「人間になれるように努力しました」

「努力で種族変えられるの!?」

「セリの為ですから」

やだ!恥ずかしい!何それ照れる!!

もうセリくん愛されすぎて羨ましい!!

ニヤニヤする!!

「その姿なら大丈夫だね」

イングヴェィのオッケーが出たところで私達は帰るコトになった

「ただいま~」

私達が帰るとお留守番組の鬼神が出迎えてくれる

「「「「セリカ様おかえりなさいませ!!!!」」」」

えーっと…私以外にもおかえり言ってあげてほしいぞ?

それにここイングヴェィの城だぞ~?

「あれ?鬼神2人いない?」

目の前にいるのは4人、セリくん達に同行したのは2人

鬼神は八部衆だからここに6人いないとおかしいわ

「2人一度帰らせた」

「天龍の世話もありますんで」

そっか、引っ越しもまだ落ち着いてないみたいだし

フェイ1人じゃ大変だもんね

暫く泊まるコトになった香月に部屋を案内して、疲れた私は自分の部屋でゆっくり休むコトにした



次の日、フェイが昼頃に訪ねて来た

「お久しぶりですセリカ様、お元気でしたか」

「うーん、まぁまぁかな」

色々あって元気じゃないかなって濁して苦笑する

「そうですか、私も貴女の力になりたい所ですが和彦様から家の事を任されているので」

「ううん大丈夫だよ、その気持ちだけで十分嬉しいわ」

申し訳なさそうにするフェイに手を振って気にしないでと笑う

「お茶飲んでいく?」

「お気持ちだけ、今日は和彦様の荷物を持って来ただけなのですぐに帰ります」

そう言ってフェイは暫くここに泊まる和彦の荷物を私に案内されて和彦の部屋に運ぶ

長期滞在になりそうだもんね、そりゃ荷物も必要だわ

「そんなに急がなくても、家には鬼神2人がいるんでしょ

ちょっとくらいゆっくりしてもいいじゃない?」

「鬼神?いえ、家には私と人間の部下しかおりませんが」

「2人が一度帰るって昨日言ってたから…?遠いのかな」

和彦の新しい家がどこにあるかなんてまだ知らないし

「遠くはありません、半日もあれば」

和彦様は引っ越し先はすぐにセリ様に会える距離にと、ってフェイは言った

フェイで半日なら鬼神なら2、3時間もかからない?

なのに、和彦の家にもいないしこっちにも帰っていない

道草食っているのかしら、それとも迷子?

そんな子供みたいな…天使じゃあるまいし

「鬼神は和彦様でなければ言う事を聞きません

和彦様がいないままの鬼神が出歩くのは心配ですね…

勝手をしなければいいのですが」

「私、捜しに行くわ

鬼神は私の話も聞いてくれるから、和彦がいないなら私が鬼神を見てなきゃ」

鬼神のコトはセリくんから聞いてる

和彦の話、私は特別でも本当は鬼神はかなり危険な存在なんだって

強さこそが全て…神族が封印したコトも間違いじゃないくらいの…

「セリカ様が行くと言うのなら、私もお供しましょう」

フェイは荷物を和彦の部屋に置き終わると私へと向き直る

「ありがとうフェイ!頼りになるわ」

私がニコッて笑うとフェイも表情を柔らかくして微笑んでくれた

フェイって、良い奴だよね

セリくんはフェイのコトめっちゃ嫌いだけど

フェイが好きな人(セリくん)をいじめるから嫌われるのに

なんだか自分のコトながら複雑だわ

そうしてフェイと私は帰り道をたどり道草を食えそうな場所も捜してみた

結局、鬼神は見つからず目撃情報もなかった

フェイは私を送り届けた後、長く家を空けるわけにはいかないのでと私に頭を下げて帰った

私の方こそ連れ回して悪かったな

「セリカさ~ん!」

私が帰ったコトを知ったイングヴェィがお客さんを連れて来た

「おかえりセリカちゃん」

「ただいまイングヴェィ

遊馬、来てたの?」

私の顔を見た遊馬はいつもと変わらない元気な笑顔を見せてくれる

「待ってたっす!」

立ち話もなんだから、私に話があるらしい遊馬と一緒に客間へと行く

「結構待たせちゃった?」

客間に続く廊下でイングヴェィに聞いてみる

「セリカちゃんがフェイくんと出て行ってすぐだから半日は待ってたかな

俺も忙しかったから城の中は自由に歩き回って良いとは言ったけれど」

それは申し訳ないわ

客間に入ると私はお茶の用意をしてテーブルに出す

「セリカさん、こればっちゃんの手作りの和菓子っす

よかったら一緒に!」

「ありがとう、遊馬のお婆様の和菓子この前食べた時美味しかったから嬉しいわね」

ありがたく遊馬から頂いた和菓子を一緒に出して、とりあえずお茶を飲んで和菓子を食べて3人でまったりする

そして、私はお茶の入ったカップをテーブルに置く

「私がここにいるって…誰に聞いた?」

「セリカさん…?」

私の言葉に遊馬は険しい顔に変わる

「私は遊馬に自分の居場所を教えたコトはないわ

それにおかしいのよ」

「………。」

黙る遊馬に私は続ける

「私が帰って来たと言うのに、鬼神が誰1人出迎えなかった」

前に鬼神が遊馬のお守りを見た時に言っていた

遊馬は鬼神1人を封印出来るほどの強い霊力を持っていると

それなら全員が姿を消すのはおかしいコトだけど、勝利の神の話を聞いて

勝つためなら何でも出来る

遊馬の霊力を上げるコトも出来るのではないか、もしくは神の力を貸したか…

間違っていたらそれまででも、違和感があるなら深くまで疑って問いかける

「……たったそれだけの事で」

遊馬はさすがっすって苦笑した

「ちょっと待ってください!オレはセリカさんの味方なのは絶対っす!!」

「鬼神に何をしたの?」

「セリカさんの質問に答えるなら、この場所の事は神族に聞いたんすよね

ここに鬼神がいてセリカさんが危ないから封印してほしいって

オレの霊力じゃ2人までしか封印出来ないから力も貸してもらって

だから、鬼神は6人封印したっす」

遊馬は真剣に私を心配しているようだった

セリくん達に同行している鬼神以外全員か…凄いわね

イングヴェィも香月もいるからって遊馬を止めるコトはない

彼らにとって守るべき中に鬼神が入っていないからだ

それに遊馬は私の友人と知っているから多少のコトは好きにさせていたんでしょう

「あの鬼神を6人も封印出来るなんて、凄いね遊馬くん」

イングヴェィは笑って話を聞いている

わかっていたくせに

「へへへ、それほどでもある」

遊馬は褒められて素直に照れながら調子に乗っている

鬼神の封印を遊馬が、と言うコトより神族がこの場所を教えて私ではなく周りからまずは鬼神を封じようってコトか

私自身は弱いけど、神族からしたら守ってる周りの人が強すぎるんだ

そのうちイングヴェィや香月、和彦にまで…どんな手を使ってくるかわからないな

「遊馬…心配してくれるのは嬉しいけれど

鬼神の封印を解いてくれる?」

お願いって言ってみたけど、遊馬は全力で拒否する

「何言ってんすか!?

セリカさんは鬼神の恐ろしさをわかってないんすよ!?

鬼神は昔、神族が牢獄に閉じ込めるほどの危険な存在

今は何故か大人しくしてますが、そのうち本性表して暴れ回ったら…」

「大丈夫」

遊馬が最悪の事態を想像して心配する

その可能性はなくはないわ…

鬼神は強さこそが全て、出会ったら逃げられない危険な存在なのも知ってる

でも、大丈夫だもん

だって私は絶対の信頼があるから

「鬼神は悪さをしないわ

私の知ってる人が絶対にそれをさせないから」

私がニッコリと笑うと遊馬は頬を赤らめて目を逸らす

「知ってる人って……セリカさんがそこまで言うなら、ただの知人じゃなく特別な人なんでしょうが」

まぁ…私がって言うよりは…

「わかりましたよ!でも、そのセリカさんの信頼してる人に会わせてくれっす

鬼神を任せられるほどの奴か、オレがその霊力見定めてやるぜ!!」

うーん…魔力も霊力もない人だけど

遊馬は厳しい目で見てやると意気込んだ

「ところで鬼神はどこに封印したの?」

神族はあの深い穴に鬼神を閉じ込めた

特別な力もなく、ただ這い上がれないほどの深い深い底に

遊馬はこの世界とはちょっと毛色が違って、興味深かった

魔力じゃなく霊力、悪霊や妖怪退治を専門にしている

遊馬にとって悪霊や妖怪は身近な存在みたいだけど、私はそんなにだもの

天狐の楊蝉は妖怪になるのかな?

「ここに」

遊馬は部屋の隅に置いてあった風呂敷に包まれたケーキの箱くらいの大きさのものをテーブルに置いた

そして、その風呂敷を開けると、箱庭が出てくる

「わぁ!小さくて可愛い!!

ドールハウスね、可愛くて好きよ

遊馬の箱庭は日本っぽいわね、和風も良いよね」

細々としてオシャレでとても可愛い

こんな所に旅行してみたいって気持ちになるくらい素敵なものだった

「いや…オレにはそんな可愛い趣味はなくて」

ここここって遊馬は指をさす

よく目を凝らしてみると、箱庭の中にある家の中で人影が動くのが見える

「~~~!?」

その人影が家から出ると、私に向かって叫んだ

人影は6人、その姿は私の知っている鬼神だった

「姿は確認できたけれど、声が聞こえないわ」

身振り手振り、私の方に向かって何か言ってるけど

会話はできそうにないわね

「セリカちゃんの名前を叫んでるよ

こんな所に封印されても、セリカちゃんの姿を見たら元気にもなるね」

イングヴェィは鬼神の口の動きを読んで教えてくれる

「そう、元気そうならよかった

私はもっと狭くて暗いところに封印されてるのかと思ったもん

それなら可哀想だなって」

快適すぎるくらいの箱庭の世界

むしろ可愛い箱庭の世界は憧れすらある

女の子は可愛いものが大好きなのだ

「とにかく、オレはそのセリカさんの言う人に会って納得するまでは鬼神を解放しないっす」

「きっと遊馬もわかってくれるわ」

和彦が帰って来るまで待つしかないわね

でも…遊馬のコトはよかった

もしかして、遊馬まで私の敵になったのかと思って凄く不安になって心配した

神族は遊馬を鬼神対策に利用しただけか

遊馬を私の敵にするってのは無理だったのかもしれないな



それから数日後、セリくん達が帰って来た

鬼神が自分の仲間の異変に気付いて遊馬に近付く

残りの2人が仲間を封印されて黙ってるワケない

なんて言えばいいの…

とりあえず私は遊馬を庇うように間に入る

「セリカ様、そこをどいて」

「その人間の少年を我等に引き渡せ」

ど、どうしよう…

仲間を助けるために動くのは当然、私だってそうする

鬼神にとって遊馬は敵以外の何でもない

私は和彦に目をやると、和彦が気付いてくれる

「セリカ、穏やかじゃないな

他の鬼神の気配を感じないが、どうした?」

「オ、オレが封印したっす…」

遊馬は鬼神2人を背にした和彦に圧されてるようにも感じた

「こ…この人がセリカさんの言ってた人っすか?」

遊馬がこっそりと私へと話し掛ける

「霊力もない人間じゃないっすか…

なのに、この人めっちゃ恐いと感じるのは」

なんでだろうね…私もわかんないよ

和彦は特別な力を持ってるワケじゃない

魔力もない霊力もない

あるのは魔王に負けず劣らずの馬鹿力のみ

戦闘の天才でもあるかな、力だけじゃないわ和彦は

戦うコトのセンスがずば抜けてる

だから和彦は恐いのよ

「いや!!でも言わせてもらうっすよ!!」

遊馬は私を押しのけて和彦の前に立った

和彦の後ろで鬼神が遊馬を睨み付けているが、何もしないのはやはり和彦が押さえているからか…

「セリカさんの信頼を得てるのが男なのも気に入らねぇっす!!」

急にどうした遊馬!?

「セリカちゃんはモテモテだね」

横でイングヴェィがアハハと笑う

この一触即発な雰囲気の中、笑えるのイングヴェィだけだよ?

モテモテじゃなくて、遊馬は私に憧れてるだけだから、鬼神もね

恋愛の好きじゃないわよ

「鬼神を6人も封印したのか」

遊馬の気に入らない発言はスルーしながら和彦は凄いなと言う

「セリカさんがあんたなら鬼神を止められるって聞いて待ってたんすよ

確かに今のあんたならそれも可能だ」

遊馬は和彦の強さを感じ取っているようだった

実際に目でも見えている

鬼神2人が仲間を封印した遊馬を目の前にして大人しくしているコトから

「でもあんた人間っすよね?

人間はこの世界の他の種族より長生きできないし強さも維持できない

今でも鬼神8人でいっぱいいっぱいのあんたに、十年後は?二十年後は?」

「オレは絶対に負けない」

「自分を過信しすぎっすね

霊力も魔力もない、力だけのあんたじゃこの先は無理だ」

空気がピリつくのを感じる

和彦が言葉を失って黙ってしまうのが珍しくて…私は複雑な気持ちを持った

私は…和彦がずっと強いって……信じてる…

でも、和彦は人間で

死んだらもう出会えない人だ…

だから…今回限りの恋だってわかってる……

人間辞めてるような和彦だけど、やっぱり和彦は人間で寿命も運命も……逆らえないんだ

「その2匹はセリカさんに免じて見逃してやりますけど、あんたの力が劣ったとわかったら封印してやる」

6人は解放しないと、遊馬は言い切った

「あぁ!?調子乗ってんじゃねぇぞクソガキ!!?

和彦様への生意気な口の利き方を改めオレらの仲間返しやがれ!!」

鬼神2人が飛びかかる勢いでブチ切れる

「口の利き方に気を付けるのはそっちだろ

セリカさんが言わなかったらあんたらも封印してんだよ」

バチバチの火花が散る空気がぶつかる

私は慌てて止めようとしたけど、その前に和彦が止めた

「言うなガキ、それなら見せてやる」

和彦はいつも自信しかない

私はいつもその自信を信じてる

和彦は遊馬をいつか納得させると言い返した

「鬼神を解放してやらないと、セリカが悲しむからな」

「和彦…」

和彦自身は鬼神のコトどうでもいいんだ…

でも、大丈夫って和彦が私の頭を撫でる手が嬉しかった

絶対…絶対和彦ならやってくれるって私は信じてるからね

「霊力もない人間のくせに…セリカさんにぃ」

ギリギリと歯を鳴らして遊馬はちょっとやそっとのコトで認めないからなと厳しい姿勢を見せる

「和彦様が言うなら、このクソガキは殺しません

セリカ様のご友人でもありそうですしね」「セリカ様、友人は選んだ方が良い」

まるで遊馬がダメみたいに、鬼神からしたら遊馬は敵でしかない

「吠えてろ!あんたらの和彦様とやらがオレを納得させる事が出来なかったら残りの2匹も封印だ!!」

最後までいがみ合う鬼神と遊馬

鬼神退治(封印)が目的だった遊馬は残り2人を封印するコトが流れてしまったため帰るコトになった

お互いが1秒も同じ空気を吸いたくないとかなんとかで…

遊馬は鬼神が封印された箱庭を私に託してくれる

この箱庭には和彦が鬼神より強さが劣ったコトを知らせる特殊な術をかけて、遊馬は遠く離れても危険を察知できると言う

霊力ってなんでも出来るんだなって思いました

「箱庭を壊せばいいのでは」

鬼神がそう呟くと、帰りかけの遊馬が離れた場所から叫ぶ

「壊したら鬼神6人は死ぬから!!オレ以外封印解けないから!!」

「地獄耳かあのクソガキ」

「聞こえてっぞ!!」

離れながら遊馬はいちいち拾っていく

そうして遊馬の姿が見えなくなった

鬼神は最初は遊馬に殺気立っていたけれど、和彦が納得させると言ってからその殺気も弱まった

遊馬のコトは気に入らないみたいでも、鬼神も私と同じように和彦を信じているみたいで

私はそれが嬉しかった

和彦ならやってくれるって、当事者の鬼神が信じてるのが心強かったから

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