154話『女神の秘めた気持ち』セリ編

みんなで話し合ってフィオーラと協力しようってコトになったが、その肝心のフィオーラとの連絡手段がなかった

こっちから神族一同集まる死者の国に行くワケにもいかず…

とりあえずフィオーラから来るコトを待って2日

「こんにちは、セリ様セリカ様」

俺とセリカが部屋でくつろいでるところを無断で入ってきた

しかもドアからも窓からも入った感じもなく、最初に会った時のように気付いたらそこにいる

コイツ…怖くねぇか?

「へ、変態!!?ノックもなしにドアからでもなく、何処から入ったの!?すぐに出て行きなさい!!」

セリカはめちゃくちゃ怒っていた

それもそうだ

今日1日は予定もなく部屋でゴロゴロまったりしようってコトで下着に近い部屋着だし、完全にプライベートの1人仕様

休日の女の子の姿は覗いちゃダメなんだぞ、可愛いもお休みしてるからな

彼氏と過ごす休日は可愛いも営業してんだよ(たぶん、俺の勝手な女の子のイメージ)

セリカは休日でも可愛いけど、ちょっと気を抜いてるところはあるが

セリカがお気に入りのユニコーンさんのぬいぐるみを掴んで投げようとしたから俺はそれを止める

「フィオーラ、ここはセリカの部屋だ

美と愛の神が女の子の部屋に無断で入るのはどうかと思うぜ」

セリカはついカッとなって近くにあったものを掴んでしまったとユニコーンさんを抱き締めてごめんねしてる

「そうだねぇ、でも女の子の休日の姿ってのは男からしたら興味あると思わない?

男の君ならわかるんじゃない、セリ様」

「興味ないって言ったらウソになるかもな

でも、女の子が嫌がるようなコトはしたくねぇ

女の子はいつもどんな時も休日すら可愛い生活してんだろうなって妄想だけで満足しとけよ」

俺がセリカを背に隠すと、フィオーラはセリカの姿を覗こうと身体を傾ける

「童貞の君と違って、僕はリアルな女の子も知りたいねぇ」

カッチーン…何コイツ!?スゲームカつく!?

童貞で悪いか!!諦めたわ!!ほっとけや!!

「女の子の部屋は良い匂いがする…スーハ~」

うわっコイツきも!?セリカの部屋で深呼吸しだしたぞ!?

さすがの変態レイですら、そんなコトしないのに!?

「セリカの匂いは俺と同じ匂いだぞ…」

現実に引き戻してやろ

「確かに同じ匂いだけどねぇ、セリ様にはないメスの匂いを感じる」

あっコイツ本物だ、ちゃんとキモイ

「あっ…」

後ろでセリカが何かに気付いたのと同時に俺もハッとする

視線の先には、干したままのセリカの下着があった

まずい…フィオーラに気付かれたら…

「良いねぇ、貰っておくよ」

バカやった、視線を読まれフィオーラに気付かれてしまう

フィオーラはセリカの下着に触れる

そのフィオーラの行動を見て、セリカは恥ずかしさと悔しさのあまり顔を真っ赤にして目に涙を浮かべる

セリカの…こんな顔ははじめて見た…

俺なんて男だからしまい忘れた干したパンツ見られたくらいでそこまでなんとも思わないけど(見られたくはないから友達来た時とかしまいはするが)

女の子は違うんだ……

男に見られて触られるのは凄く嫌なコトで恥ずかしくて傷付く…

「おいフィオーラ!てめぇ!?調子に乗ってんじゃねぇぞ!?」

セリカの気持ちが伝わって怒りのまま俺はフィオーラの胸ぐらを掴む

「いいのかねぇ、僕にそんな態度

神族の問題で協力してほしくないのかい?」

「ふざけんな!!オマエみたいなクズの協力なんかいら」

「待って」

セリカが俺の服を掴み引っ張る

怒りが収まらないままの俺はフィオーラから手を離さなかった

「あげるわ、それ」

「はっ!?何言ってんだよセリカ」

セリカの言葉は聞き違いか?

セリカの気持ちは俺が1番わかる…俺自身のコトだから

でも、男の俺と違って女のセリカに怒りはなかった

俺は女のセリカから恥ずかしさと悔しさが伝わって、そんな気持ちにさせたフィオーラに怒った

自分なのに、男と女の違いはどうしてもある

俺はフィオーラが許せないのに…

「落ち着いてセリくん、ここでフィオーラの協力が得られなかったら困るのよ

助けたいでしょ、ローズ達のコト」

カッとなって……目の前の出来事しか見えていなかった

セリカに言われて、俺はフィオーラからゆっくり手を離す

こんなクズの協力なんて…

「セリカ様は話のわかるお人だ」

「ここで話の続きは出来ないわ、みんなと一緒に話させて

それがフィオーラと協力してもいいってみんなとの約束なの」

私達は着替えてから行くからとフィオーラにイングヴェィを訪ねるようにと先に行かせた

フィオーラがいなくなってから俺はやっぱり納得いかなくて不満を漏らす

「あんな奴…許すなよ」

「下着ならまだ安い方よ」

「ウソだ、女の子の下着ってバカ高いじゃん」

セリカは部屋着から着替えはじめて、俺にも着替えるように言った

渋々俺も着替えはじめる

「そうじゃないわ、それで悪い状況を変えられるなら安いってコト」

そのためにセリカが傷付いたり我慢するのは嫌だ…

「女の子はね、大切な人を助けるためなら何だって出来るの、なんだってするわ

愛が深ければ深いほど出来るコトも増えて

例えば、私はイングヴェィのためなら死ぬコトだって…

イングヴェィがそれを望んでないからやめたけどね」

ふふっとセリカは、ローズ達のためならってさっきのコトはもう気にしないと言う

イングヴェィと両想いになる前に、セリカは今の自分を消そうとした…

そうなったら今の俺も消えていた…

イングヴェィがセリカを救ってくれたから俺達はこうして生きている

俺だって大切な人を助けるためなら何だって出来るもん……

でも、か弱い女の子が無理するのはやめてほしいのにな

いくら自分でも男の俺と女のセリカ、お互い男としての女としての意見がぶつかるコトもある

「それに最近サイズもちょっとキツくなってきたと思ってたから

だからってフィオーラにあげたくはなかったけどね」

「えっ…それって和彦に胸揉まれたせいで大きくなって…?」

イングヴェィとはまだそういう関係にはなってないってのはわかるし、和彦はセリカによくセクハラするから…

どうしよう…和彦のせいで、アイツに責任取らせなきゃいけないんじゃ……

「そんなコトでなるワケないでしょ

バカ言ってないで早く着替えて行くわよ」

そういや、前にも言われたっけ

胸は揉んでも大きくならないって

女の子の身体って神秘すぎる

着替えた俺達はみんなが集まる1番広い客間へと急いだ

さっきの下着泥事件はややこしくなるからセリカに秘密でと言われたまま


俺とセリカが最後だったみたいで、部屋に入ると異様な空気にピリついているのが肌で感じる

全員が全員、フィオーラをよく思っていない

イングヴェィとレイはセリカを狙っているからって理由

鬼神八部衆は因縁の神族相手

和彦はとくに何も思ってないが、普段からナイフのように鋭い雰囲気だから

そんな息も詰まる空間に俺とセリカが踏み込むと、空気もいくらかは和らいだ

むしろよく衝突せずに大人しく待ってたな

和彦のおかげかもしれない

「では、はじめよう

セリカ様を僕の嫁にする話をねぇ」

「「「殺す」」」

和彦以外がフィオーラを囲み武器を突き付ける

和彦は冗談ってわかっているから

「空気読めよ!!?急にボケんじゃん

この空気でコントでもはじめる気か?

無理だぞ、ネタがネタだからみんな真に受けるだけだってわかれよ

笑い取れねぇよこんなん」

「僕は至って真面目な話をしているのに、ボケとかコントとかセリ様はおかしな事を言うねぇ」

フィオーラはヘラヘラと笑う

「あんなの唐突すぎてボケにしか見えねぇわ!!!」

「話を続けるよ、セリカ様と僕の結婚式について」

「「「死ね」」」

みんながフィオーラに武器を突き刺した

殺しにかかった急所ばかりやられて血が吹き出してるのに絶命せずヘラヘラ笑うフィオーラ

「体張ってスゲーなオマエのボケ、俺には出来ねぇ芸当だわ」

「セリ様、ふざけてないで回復魔法で治してくれません?僕死んじゃうねぇ」

「ふざけてんのオマエだろ!?渾身のボケかまして笑い取れないで、しつこくウケるまでやるじゃん!?」

マジで言ってんなら俺もオマエ殺すわ

セリカを傷付ける男には絶対嫁にやらねぇ

それにセリカはイングヴェィと上手くいってるんだからな

「僕は真面目に話してるんだ!セリカ様を花嫁に」

「もうやめとけって!!笑えないギャグにしがみつくのは、見てて辛ぇから!!」

セリカがクスクス笑ってる

噛み合ってるようで噛み合ってなくて噛み合ってるやり取りが面白いそうだ

うーんコホン、とセリカが可愛らしい咳払いをして場を収める

「フィオーラ、オマエは前に言ったハズよ

他の神族を味方にする事が出来れば対話も可能と

味方になれそうな神族はもう目星を付けているのでしょう?」

「さすがは僕の嫁になるに相応しい

その通り、僕と交流のある神族に話は付けてある

彼ら彼女らは直接貴方にお会いしたいと言ってくれてるねぇ」

「そうでなくてはね」

セリカは自分の下着を奪われてるから、それ相応の役割をやってくれないと許せないだろう

俺もフィオーラはとことん利用させてもらうつもりだ

セリカはもういいって言ってたが、俺はやっぱり許せねぇ

「神族に会って話をするのは俺が行く

セリカは行かせられねぇ、コイツを近付けたくないんだ」

俺はフィオーラを睨む

セリカにこの男を近付けさせたくないって満場一致だった

「セリ様でもセリカ様でもどちらも同じで変わりないからねぇ」

そういうコトで、フィオーラの指名で和彦とレイと俺と鬼神2人で行くコトが決まった

その中にイングヴェィも入っていたし神族相手だからイングヴェィもいてくれると心強かったが、セリカをお留守番させるならイングヴェィは残ると言った

鬼神も8人全員行くと言ったが、神族に会って因縁から我を忘れ暴れられると大変だからと2人のみとフィオーラが言ったコトもわかる

鬼神を抑えられるのも和彦しかいないしな

でも、忘れがちだが和彦はこれでも人間だから神族の目にどう映るか…

とにかく今回は神族の協力を得るコトが目的だから、そう身構えなくてもいいかな

フィオーラは胡散臭いが

そこにはセレンもいるって言うからまぁ大丈夫だろ



そして、俺達はフィオーラの集める神族に会いに行くコトになった

場所はフィオーラの家だった

コイツは自分の国も仕える天使も持っていなく、のらりくらり生きてる神なんだと

住む場所も転々としていて、この家もそのうち変わるらしい

美と愛の神と言うからに家は広くなくても外観も内装も美しかった

「セリ様、お待ちしておりましたわ」

フィオーラの言った通り、そこにはセレンもいて出迎えてくれる

「セレン、意外に元気そうだな」

「イングヴェィ様に言われて困っていた所をフィオーラさんが協力してくださったんですのよ

神族の決まり事をひっくり返す事が出来ればリジェウェィ様も壊される事はありませんものね」

あくまでセレンはリジェウェィのためであって、人間の俺が神族に口出ししたコトは今も良く思っていなさそうだな

でもセレンは前と変わらずな態度で接してくれて、ちょっと気が緩む

よかったと言うか…セレンと仲悪くなるなんて嫌だったから

「皆様お待ちですわ、こちらへ」

言われてセレンとフィオーラに神族の待つ部屋へと案内される

ドアが開き、部屋に一歩足を踏み入れると空気が変わった

圧倒されるような大きな力の数々

これが…神族……

耐えるようにぐっと手に力がこもる

押されてるけど…香月の、魔王に比べたら可愛いもんだ

やっぱり香月は凄いよ、香月を知らなかったら俺はここで立っていられなかったかもしれない

「その子が天の異物か」

「まだ子供じゃないの」

女神の1人にガキ扱いされてフィオーラが訂正する

「10代に見えて23歳の大人だよ

この綺麗な姿が僕のお気に入りでねぇ」

フィオーラに褒められると虫酸が走るな

この部屋にいるフィオーラが声をかけて集めた神族は5人か

神族が何人いるかわからないが、5人に気に入られて味方になってもらわないとな

「確かに、フィオーラが気に入るのもわかる

もっと近くまで寄って見せてくれるか、その姿」

神の1人に言われて近付こうとしたら、和彦が手を出して俺の足を止めた

「へぇ、あの神がヤバい奴って察した?

変態の神だからねぇ、近寄ったら何されるかわからないよ」

変態の神!!??そんな神がいんの!?

そんな変な奴呼ぶなよ!?

「オマエも変態だし近付きたくねぇよ」

「セリカ様なら、男のセリ様には変態な事しないねぇ僕は

いくら綺麗な姿でも僕にそっちの趣味はないね」

「二度とセリカに近付くな!!」

不安になってきたところで俺達も席に座るコトになった

お互いがお互いの様子を伺うように少しの沈黙が続く

鬼神は神族を目の前にして良い顔はしないがなんとか抑えている

ちょっとしたコトで突っかかりそうな雰囲気はありながらも

「話はシンプルにいこうか」

沈黙を破ったのは和彦だった

「セリくんの味方になってくれるか、どうか

会って確かめたいと言っていたが」

「人間如きが我ら神族に馴れ馴れしい口を利くではないか」

和彦の話の途中で神の1人が口を挟む

それを聞いた鬼神2人が席を立ち吠える

「あぁ!?そっちが和彦様に何て口利きやがんだ!?」

「ぶっ殺すぞ!!!」

テーブルを蹴飛ばしかねない喧嘩一歩手前みたいな鬼神に対し、和彦は手を上げて止めた

鬼神は怒りのまま渋々席に座り直す

「鬼神も堕ちたものだ、人間に飼われるなど笑い話」

神は鬼神を煽ったが、それには無反応だった

鬼神は強さが全て、人間とか神族とか鬼神にとって種族は些細なコトなんだろう

ピリピリとした空気の中、ここからどう話を進めるのか迷っていたところ

静かにドアが少し開きセレンが顔を覗かせ俺に手招きする

なんだアイツ、いないと思ったら

「ちょっとセレンが呼んでるから席外すよ」

「あぁ、セリ」

隣に座っていたレイにそう言って俺は部屋を出る

「どうしたんだセレン?」

「あまり良い雰囲気ではありませんでしたわね

神族は気難しい方が多いんですのよ

とくにここにいる方々は」

そりゃ、そうだな…神族の味方ではなく人間の味方になろうとするなら神族からしたら気難しい奴になるか

「困ったな」

神族は俺がどんな人間か直接会いたかったハズ

でも話がそれて上手くいってない

人間の和彦と鬼神を連れて来たのがダメだったんだろうか?

「セレンに良い考えがありますわ、ついてきてくださいな」

言われて俺はわかったと頷き、セレンについていく

フィオーラの家から外に出て少し歩いた

良い考えって一体なんだ?それになんで外に出る……

「…セリ様は警戒心がないんだねぇ」

後ろから羽交い締めにされ、フィオーラの声が聞こえる

「それとも余程女神セレンの事を信用していたのかな?」

「なっ!?どういうつもりだ!?」

身じろぐが解けるコトもなく、距離を取ったセレンが俺の方へ振り返る

「こういう事ですわ、セリ様」

離れた場所からセレンは俺に弩を向ける

ど…どういうコトなんだよ……

セレンが俺に武器を向けるなんて…

「神族は天の異物を始末する事に決まったとおっしゃってるではありませんか」

ニッコリ微笑んだセレンは弩を引くと、その矢が俺の肩に突き刺さる

「フィオーラもセレンも…最初から俺を殺すつもりだったのか!?」

セレンは躊躇うコトなく撃って来る

腕、腹、足に矢が刺さって、痛みは回復魔法で感じなくても矢は抜かないと回復魔法が使えない

矢が刺さってるから出血も抑えられてるとは言え、セレンが俺を殺す気には変わりない

頭か心臓を貫かれたら俺は終わりだ

「かずっ…!?」

和彦って叫んで助けを呼ぼうとしたらフィオーラに口を塞がられる

「君の周りには強すぎる奴が多すぎるねぇ

もっともその強すぎる奴らも今は神族5人に始末されてるだろうね

セレンからはとくに和彦とレイとイングヴェィは消した方が良いと聞いてねぇ

イングヴェィは連れて来れなかったが、和彦とレイと鬼神2人を始末出来れば十分」

セレンが…?そんなコトを……

ウソだって思いたいけど、名前を挙げられた3人の強さを知ってる神族はセレンくらいだ

「イングヴェィ様はここで始末したかったですわ

そしたらリジェウェィ様を壊される事はないですもの

仕方がありませんわ、殺られる前にイングヴェィ様の大切な人を殺りますわ

お覚悟を…セリ様」

セレンが弩の構える位置を俺の心臓に向ける

本気で…俺を殺す気なんだ、セレン…

こんなところで俺は死ぬワケにはいかないのに…!!

弩から矢が放たれる寸前、俺とセレンの間に人影が遮る

セレンがそれに気付いたのは弩を引いた後でその矢は人影の肩に突き刺さった

「貴女は…?」

人影の後ろ姿でわかる

俺を庇ってくれたのは結夢ちゃんだった

えっ‥なんで!?結夢ちゃん!?どうして!?

俺の代わりに怪我をした結夢ちゃんを助けたい一心で暴れるがフィオーラに押さえ込まれる

「おかしいねぇ…」

セレンとフィオーラの様子がおかしい

「女神結夢は見えない存在、それがこうしてはっきりと姿が見えると言う事は…」

えっ‥?結夢ちゃんの姿が俺以外に見えてる?

結夢ちゃんは神族の中でも強大な力を持っているからとかなんとかでその姿は見えない

何故かはわからないが結夢ちゃんの姿が見えるのは俺とタキヤだけ

なのに、フィオーラとセレンにも見えてるなんて

「女神結夢さん、そこをおどきなさい」

結夢ちゃんが自分の肩に刺さった矢を引き抜くのを見て俺は回復魔法で治す

「目ですわ、セリ様は見える範囲で回復魔法が使えますの」

セレンの言葉にフィオーラが俺の目を手で隠す

何も見えない、何も話せない

でも、声が聞こえる、音が聞こえる

結夢ちゃんに何度もセレンの弩の矢が刺さる音、それを引き抜いて出る血の音

「いくら女神とは言え、これ以上は死にますわよ」

やめて……やめてくれよ

結夢ちゃんに酷いコトするな

俺のコト庇わなくていいから

嫌だ…俺のために誰かが傷付くのは…もう誰も死なせたくないから……!!

「……死ぬかもしれないのに、そこをおどきになりませんのね…」

セレンの攻撃が止まった?

「…フィオーラさん、ここは一旦引きましょう」

「あの5人やられたんだねぇ、使えない奴ら」

セレンの去る足音とともにフィオーラが姿を消す

広がる視界には血塗れになった結夢ちゃんの姿があった

すぐに回復魔法をかけて治して駆け寄ろうとしたが、俺より先に結夢ちゃんが俺の方へと飛び込むように駆け寄った

その勢いの拍子で結夢ちゃんの唇が俺の唇に当たってしまう

結夢ちゃんの肌に触れると世界の不幸が流れ込むように見えるけどそれは一瞬だったから気にならなかった

そんなコトより

「あっごめん!受け切れなくて」

そのまま結夢ちゃんは俺の胸に抱き付いた

怪我は治せたとは言っても、死ぬようなくらいの攻撃を受けて…痛かっただろうし…こんなにたくさん血にまみれて…

結夢ちゃんは俺より少し背が高い女神様だけど(俺が身長低いだけだが)

腕の中にいるのは、俺より小さくてか弱い女の子でしかなかった

そんな…女の子に守ってもらうなんて、怪我をさせてしまうなんて…自分が情けなくて、自分が弱いコトが許せなくなる

結夢ちゃんをぎゅっと抱き締めた

「ごめん…俺が結夢ちゃんを守るって言ったのに、守ってもらうなんて」

結夢ちゃんは首を横に振って顔を上げると微笑んでくれた

「……それでも、俺は自分が許せないんだ

それに結夢ちゃんもこれからは俺を守らなくていいから

俺は結夢ちゃんに傷付いてほしくないんだよ」

そう言うと結夢ちゃんは悲しい顔をする

「みんなと合流しないと」

結夢ちゃんから離れてみんながいる方に顔を向けると、横から淡く光った手が伸びて俺の鼻を摘まんで引っ張った

「あんたね~…ほんっとバカ!!」

光の聖霊が怒った顔で俺を睨む

引っ張っられた鼻をさすって光の聖霊を見上げた

「なんだよ、いきなりバカって」

「私はね!この女神をずっと見張ってたの!!

女神結夢は、あんたのために」

光の聖霊が何か話そうとすると結夢ちゃんは光の聖霊に抱き付いて、言わないでと首を横に振る

「ダメよ!この男は言わなきゃわかんないんだから!!

女神結夢は、あんたを助けるためにタキヤと取引したのよ

結果はタキヤに裏切られてしまったけれど」

思い出してもムカつくって光の聖霊は怒りを露わにする

タキヤと取引…?裏切られた…?

「タキヤが…結夢ちゃんに何したんだよ!?何があったんだ光の聖霊!?」

「前に言ったわよね、タキヤは女神結夢の貞操を狙っているって

タキヤは女神結夢に勇者を助けたいならって話を持ち出した」

光の聖霊はその時のコトを話してくれた

結夢ちゃんは俺を助けるために、タキヤとの取引に応じた

結夢ちゃんの純潔と引き換えに俺を助けるとタキヤは約束した

光の聖霊はタキヤが結夢ちゃんに触れる度に見えなかった姿が徐々に見えるようになって

「私は放っておけなかったわよ

止めようとしたけど…女神結夢は大丈夫だからって首を横に振ったわ……」

「そんな……」

言葉が出なかった……

喉の奥が熱くなって…絶望すら感じる

「あんたを助けるためだって女神結夢は耐えたわ…

だけど、あの男タキヤは約束を反故にした

変わらずタキヤはあんたの命を狙い続ける

守護と純潔を司る女神が、純潔を失って半分女神じゃなくなったわ

良いやり方ではないけれど

神族の掟を破る事が出来て、こうして勇者を守れたのよ」

「そんなの……してほしくなかった

俺のためにタキヤと取引なんて……なんでしたんだよ結夢ちゃん!?

俺はそんなコトしてほしいなんて言ってないし思ってない!!」

結夢ちゃんの肩を掴み問い詰める

そんなの絶対に嫌だ

誰かに傷付いてまで守ってもらおうなんて、そんなの……絶対嫌だ…

結夢ちゃんは俺と目を合わせてくれなかった

また横から光の聖霊の手が伸びて俺の頬を叩く

「わからないの!?彼女の気持ちが!?」

「わかるよ……犯されるコトがどんなに辛いか……

だから、してほしくないんだよ

俺のせいで…」

「わかってないじゃない…

女の子は大切な人のためならなんだって出来るのよ

どんな事だって…耐えられるんだから……」

光の聖霊の言葉に、ハッとする

セリカに言われた言葉と同じだ…

結夢ちゃんは…俺のコトを大切な友人として思ってくれてたんだ

その気持ちは嬉しい…俺だって結夢ちゃんの立場なら同じコトをした

でも…友人の俺の立場からしたら、そんなコトはやっぱりしてほしくない

君が傷付く方が俺は辛いから……

「ありがとう…結夢ちゃん…

俺を大切な友人と思っててくれて

でも、俺は結夢ちゃんが傷付くのは辛いから…もうそんなコトはしないでほしい」

結夢ちゃんの手を掴むと、結夢ちゃんは首を横に振る

「ダメだ!俺だって大切な友人の結夢ちゃんが傷付くの嫌なんだからな

約束してくれないと怒るぞ!!」

結夢ちゃんは困ったように、でも微笑んでくれる

「やっぱりわかってないわね…勇者

女神結夢がキスまでしたって言うのに」

呆れた光の聖霊の声が俺には聞こえなかったが、結夢ちゃんは光の聖霊に優しく微笑んだ

「俺…やっぱり許せねぇよ……」

結夢ちゃんの手を握る自分の手に自然と力がこもる

「結夢ちゃんを殺しかけたフィオーラとセレンと、結夢ちゃんに酷いコトをして約束を破ったタキヤを

許せない…許さない……」

もう神族と喧嘩するコトになっても構わない

邪魔をするなら殺すまで、全滅させて死者の国も奪えばいい

「…ん?」

結夢ちゃんは俺から手を離すとその両手で俺の頬を包んで微笑んだ

「ほら、あんたに笑ってほしいんでしょ

復讐なんて望んでないのよその子は」

光の聖霊に言われて、結夢ちゃんを見つめているとそうなんだろうってのはわかるよ

結夢ちゃんは…優しいから…

いつも結夢ちゃんは俺に触れないように手袋をしてくれて、その手の温かさすら知らない

「君が望んでなくても、俺が許せないんだ」

結夢ちゃんの手を掴み下ろす

「今は笑えないよ…」

笑えるワケない

どんなに君が笑ってくれてても

「とりあえず、今は皆と合流しましょ

皆空気読んで近付けてないから」

光の聖霊に言われて、離れた場所でみんなが待っているコトに気付いた

「和彦!レイ!鬼神!みんな無事だったんだな」

いつからいたのかわからないが、みんなの前に駆け寄ると

「セリくんが悪い」

「セリが悪いな」

「セリ様が悪いっす」

「セリ様が悪」

って何故か責められた

「なんで!?みんなして俺が悪いってなんでだよ!?」

「鈍感なのが」

「天然なのが」

「未熟なのが」

「馬鹿なのが」

最後シンプルな悪口!?

光の聖霊含め全員から俺が悪いって言われて落ち込んだ

まぁ…確かに悪いとこしかないな

俺のせいで結夢ちゃんがこんなコトになったワケだし…

「フィオーラとセレンは逃がしてしまったか」

俺が部屋を出た後、神族5人は和彦達に襲いかかったと言う

和彦が神族4人を殺し、レイと鬼神2人で神族1人を殺して

俺のところへ駆け付けてフィオーラとセレンがそれに気付き逃げた

俺達は最初からはめられたってコトなんだ

「さすが和彦様!強かったです!!」

相変わらず鬼神は強すぎる和彦に心酔

「和彦さんがいなかったら切り抜けられていなかったな」

レイは改めて和彦の強さを目の当たりにして感心している

和彦ってなんで人間なの?ってくらい強すぎないか…

しかも無傷だし

あの神族の圧倒的な空気の違いを俺は感じていたが、和彦にとったらなんてコトなかったんだ

和彦から感じる空気が怖い時もあるもんな

俺にそれを向けるコトはないけど

「セリを助けられなかったらと怖かったよ

無事でよかった」

「無事だけど…」

俺が無事なのは結夢ちゃんが守ってくれたからで、みんなが後少し来るのが遅かったら殺されていたかもしれないと思うと

自分が無事なコトを素直に喜べない

とりあえず、帰ろうってコトになって夕方近くになると途中の街で休むコトになった


「えっ、みんな別行動?」

夕食をしようって話になった途端、みんながみんな別々に行動するコトになった

和彦は用があるからって鬼神達を連れて、レイも用があるからって光の聖霊と…

俺の傍を何がなんでも離れないあのレイが俺と一緒にいないなんて…

泊まる部屋は一緒だから、どっかでご飯食べてホテルに帰ったら会えるのは会えるが…変だなレイまで

まぁいいか

「それじゃあ俺と2人だけど、どっか食べに行こうか」

そう言って結夢ちゃんの方を見ると、結夢ちゃんはいつもと変わらず優しく微笑みかけてくれる

神族の仲間に殺されかけてタキヤに酷いコトされても笑ってくれる君の笑顔が…

心に痛く突き刺さる…

辛かった…

俺のせいで君が傷付くコトになったのに、そんな俺に笑いかけてくれるなんて…

「何か食べたいものあるか?」

街を歩きながら色々なお店を見ながら聞く

結夢ちゃんはなんでもいいよって言うように笑う

なんでもいいが1番困るってやつだ…

女の子と2人で食事なんかしたコトないから困ったぞ

何がいいんだろ…セリカならいつもどんなお店を選ぶか……

値段は安くなく高くないところがいいかな

1人3千くらいで2人で6千くらいか?

もっと出してもいいが、結夢ちゃんが遠慮して逆に困らせるかもしれないし

お店は賑やかなところより静かで落ち着いたところがいいよな

俺も賑やかなのはあまり好きじゃないし

やべー…いつも奢ってもらう側だったから、自分がその立場になるとめっちゃ考えて悩むぞ!?

「うぇー!彼女たち可愛いね~」

「奢っちゃうよ!」

そうそう、奢ってもらったらこの悩みも即解決ってアホか

ついて行ったらろくなコトにならねぇぞ

変な輩2人に囲まれた

「俺、男なんで」

結夢ちゃんの手を掴んで足を速めた

「えー残念~」

ただのナンパだった輩2人は潔く諦めてくれた

輩から離れたところで結夢ちゃんは俺の手を握り返す

「おっとごめん、アイツらが危なさそうだったから」

手を離そうとしたけど、結夢ちゃんは俺の手を離さなかった

タキヤに酷いコトされた後だし、男が怖いのかもしれない

それなら不安がなくなるまで暫く手を繋いだままでもいいかな

俺も男だけど、セリカだし男に見られてないだろうから

「夜はどこの街も危ないな、さっさとお店に入ろうか」

近くにあった良さげなお店に入る

夕食時なのに人はまばらでそんなに混んでいなく落ち着いた雰囲気だった

ちょっと高そうなお店に入ってしまったかも

席に案内されて、2人でメニューを見る

「何でも好きなの頼むといいよ」

俺は何しようかな~

最初は遠慮がちにしていたが、遠慮するなって俺が言うと結夢ちゃんはメニューの中で2つ気になるのがあったらしく、交互に指をさして悩む様子を見せる

「どっちも選べないなら、どっちも頼んで半分こする?」

俺がそう言うと、結夢ちゃんは顔を上げ微笑んで頷く

じゃあそれで、と俺はウエイターを呼んで頼んだ

料理を待ってる間、沈黙が続く

やべー女の子との会話って何がある?

結夢ちゃんは話せないから俺が何か面白い話でもしてあげれればいいんだが

女の子の会話がわからないな

セリカは楊蝉とポップと女子会する時は恋バナが多いとか言ってたような…

そうだな、それでいってみよう

「結夢ちゃんって好きな男とかいるの?」

俺が聞くと結夢ちゃんは理解するのに少しかかって、言われた意味を理解すると頬が染まっていく

「えっ?好きな男いるんだ!?誰?俺の知ってる奴?それとも神族の誰か?」

身を乗り出す勢いで聞いてしまい結夢ちゃんは俯いてしまった

あっ…俺、バカだ……

好きな人がいるなら、その人じゃなくてタキヤなんかに……

なのに、聞くなんて……最低だ

「悪い……俺、無神経だった」

身を引いて視線を逸らす

でも、結夢ちゃんは顔を上げて首を横に振る

テーブルの上に置いた俺の手を掴み、気にしないでと言うように頷く

「結夢ちゃんは優しいな…その好きな人も結夢ちゃんのコト好きになるよ

可愛いし女の子らしいし守ってあげたくなるもん」

俺の言葉に結夢ちゃんは悲しい表情を浮かべる

自信がないのか、望みがないのか…

「その人って結婚してたり彼女いたりするのか?」

俺の質問に首を横に振った

でも、表情は浮かないままだ

「それなら大丈夫だって!もっと自分に自信持てよ

俺が協力しようか?

でも、その男が結夢ちゃんに相応しくない変な奴だったら悪いけど反対するぞ

結夢ちゃんには幸せになってほしいから」

結夢ちゃんは俺の手を強く握って、首を縦にも横にも振るコトなく複雑な表情のまま微笑む

結夢ちゃんにこんな顔をさせる男って一体どんな奴なのか…

その好きな男には悪いが、結夢ちゃんにはずっと笑顔にしてくれるような男と幸せになってほしいな…

その後、料理が運ばれて来て俺達は仲良く半分こにして食べる

結夢ちゃんは好きな人の話以外はずっと俺に微笑んでいてくれた

ホテルに戻って部屋の前で別れる時に

「また明日、おやすみ結夢ちゃん」

あまりに君がずっと微笑んでくれるから、俺も口元が緩んで少しの笑顔を見せた


「やっぱり勇者は最低ね」

「そうだな」

自分の部屋に帰るとレイと光の聖霊から結夢ちゃんとのコトを聞かれたから話したら最低呼ばわりされた

だからなんでだよ!?

「あの子なりに一生懸命想いを伝えてるつもりなのに、全然気付かないなんて」

「セリは超鈍感だから気付かないぞ」

「こらこら面白ぇぞオメーら!?

結夢ちゃんは話せないからなんとなくこう思ってるんだろうなくらいしかわかんねぇけど、オマエらより俺の方が結夢ちゃんのコトわかってるっての!!」

俺(とタキヤ)以外は結夢ちゃんの姿が見えていなかったし、今日ちょっと見えただけのオマエらに何がわかるって言うんだよ!!

「叶わないってわかってても伝えたい気持ちってあるのよね~うんうん」

「断るにしろ、気持ちを汲んでやるのが男だろ」

「ムカつくなー、オマエら仲良いじゃん」

2人して俺を悪者にしやがって、俺が何したってんだよ

ちゃんと結夢ちゃんのコト気遣ってるし女の子だから大切にしてるつもりだもん

「ふん!いいよ、2人して俺を悪者にするなら今夜は和彦の部屋に泊まるから」

俺が出て行こうとするとレイが手を掴む

「あらまぁ私は自分の部屋に帰るわ、ごゆっくりお2人さん」

光の聖霊はニヤニヤしながら自分の部屋へと帰って行った

静かになった部屋に微妙な空気が流れる

「……和彦さんの所へは行かせたくない」

「俺のコト悪く言うじゃん…」

「それは…セリが悪いから」

なんで悪いか教えてほしいわ!!

レイも光の聖霊も肝心なところは教えてくれない…むー

「いや、セリは悪くないか

ただ傍から見てると、なんて言うか…なんでわからない!?ってやきもきすると言うか…」

レイの話がよくわからなくて首を傾げる

そんな俺をレイは引き寄せて抱き締めた

「オレはずるいな、答えはわかっているのに

セリが超鈍感で気付かないままの方が良いのかもな」

「よくわかんねぇけど…」

俺はレイの背中に手を回して抱きしめ返す

「オレは幸運だ、こうしてセリに触れられて」

レイの手が髪に触れてそのまま顔が近付く

唇を重ねて、レイの好きが伝わってくる

幸運?そうだな、好きな人と触れ合えるって幸せなコトだ

「……俺も、今となっては…レイとこうなって……幸せ…かも…」

照れてくる…自分の気持ちに気付けば気付くほど…

でも、レイを心から愛しちゃいけない…

それは不幸なコトなのかもしれない

「もっと…キスしたいから、黙って口開けてくれるかい」

言われるまま口を開けるとレイは待つコトなく、舌を入れてくる

深いキスに身体がゾクゾクとして力が抜けそうになる

レイの腕に支えられて、暫くレイの強く深い愛を受け入れた


俺はセリカから大切なものが伝わるのを見見落としていた

あの時、結夢ちゃんのコトで怒りがいっぱいでその時にセリカに起きたコトが伝わってたハズなのに気付けなかった

帰った時、俺はもう一度それを味わう

やっと…

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