153話『ずっとその姿を見ていたい』セリ編

次の日、俺はなるべく昨日の夜のコトはなかったかのように振る舞う

レイは少し気にしているのか若干ギクシャクしてる感じがする

それは他人から見たら俺もそうなのかもしれない

だけど、俺はもう決めたから

この気持ちが偽りでも構わない

いつか本当の気持ちに変わればいいって前向きに考える

本当か偽りかは自分であるセリカが証明してくれるし

セリカがレイを香月や和彦と変わらないような気持ちを持ったら、それが俺の本当の気持ちになる

レイは良い男だから、いつか本当に好きになってもおかしくない

まぁメンヘラでヤベェ奴だけど…大親友時代から大好きだったし

それが特別に変わるだけで何もハードルは高くない……たぶん…

いやどうだろう冷静に考えて総合的に見ると…好きになるか?

待てよ、そうなると冷静に考えてあの和彦を好きな俺っておかしくないか?

香月のコトだってめっちゃ愛してるけど、香月も相当ヤベェ奴だぞ

2人に比べたらレイのヤベェ奴度はマシなんじゃ…?

そもそもヤベェ奴にしか惚れない俺が1番ヤベェ奴なんじゃ…

ヤベェ奴にヤベェ奴が集まってるだけみたいな…

そう考えると、なんでも上手くいくような気がするな

レイのコトでそんな深く悩むコトないぞこれ


朝早くから和彦と鬼神八部衆が来ていた

引っ越しは済んだみたいでまだ落ち着いてないけど、俺が心配だからと駆け付けてくれたのが嬉しい

フェイはお留守番、レイと衝突して面倒になりそうだからだって

ちなみに天使には危ないから暫くこっちの世界には来るなと向こうの世界に帰ってもらってる

セリカが心配だって不満そうにしてたから、こっそり来るかもしれないが

俺とセリカはみんなが集まった部屋で、フィオーラのコトを話した

イングヴェィ、和彦、レイ、鬼神はあまり良い顔をしない

「その神族…信用出来ないね」

ややこしくなりそうだから話したくはなかったが、無条件で協力って方が信じられないと思って

フィオーラが下心ありきでセリカを嫁にしたいって話もした

たぶん、みんなそこが引っかかってるのかもしれない

みんなセリカが大好きだからな

俺だってアイツ気に入らねぇよ!?

セリカを嫁になんて俺が許さん、俺が認めた男じゃないと断固反対だ

「オレらは神族を力でボコボコにしたいわけでぇ」

過激な鬼神は話し合いとか穏便にとかは好まないみたいだ

「セリカを嫁になんて下心丸出しな男は信用ならないだろ」

レイ、オマエが言うな

オマエは常にセリカに下心丸出しだろ

「信用出来ない相手とは手を組めないかな

それにその神族の男は怪しすぎてセリカちゃんが危険な目に遭うかもしれないよね」

イングヴェィの言葉に、そうだなって沈黙が続く

現状をなんとかしたいと思っても、それがセリカを危険にさらすコトになるかもしれないなら別の方法を考えないといけない

フィオーラの言葉は鵜呑みに出来ないか…

「信用出来ないなら、利用すればいい」

流れを変えたのは和彦だった

和彦からしたらみんなが悩むコトが不思議だと言わんばかりだ

「妙な動きをしたら殺せばいいだけ

向こうが上と勘違いしているみたいだが、強いのはどっちか

オレは神族相手でも負ける気はしない」

自信しかない和彦の言葉は、その圧倒的な実力もあって誰もが頷いてしまう

強さで言ったら和彦なら神族にも勝てるって思ってしまう

「さすが和彦様!!」

「和彦様より強い奴この世に存在しませんよ!!」

「もう人間じゃない!!」

人間じゃないって褒め言葉なのか…?

荒事が好きな鬼神は和彦の言葉に賛同して心酔している

鬼神は強い奴が好きみたいだから、鬼神8人に勝った和彦のその強さに惚れて仕えている

崇拝してる

とくに人間なのに自分達を超えた強さが信じがたいとさらに惚れ込む要素となった

本当に人間辞めてるよな和彦

「つまり、和彦は上手くいかないなら力でねじ伏せるってコト?」

セリカは和彦はとても頼もしいけど、そのやり方は好きじゃないと眉を下げる

そのやり方が和彦なんだよな…

「セリカ、オレはセリくんとセリカの味方だからセリカのお願いならどんな事をしても叶えてやりたいんだよ

手段は選ばない

オレのやり方が気に入らないなら上手くやるといい

失敗したらオレのやり方で叶えるまで」

和彦は笑ってセリカの頭を撫でる

それが和彦の優しさだ…俺とセリカのためならどんなコトでもやるって言う奴ばっかだ…

気持ちは嬉しいが、なるべく危ないコトはしてほしくない

させないためにも俺がなんとかしないと

「わかった、フィオーラと協力しよう」

俺が言うと、イングヴェィとレイも他に考えが思い付かないと渋々頷く

「仕方がないね…でも1つだけ約束してね

フィオーラと会う時は絶対に俺達の誰かと一緒に

セリくんもセリカちゃんもわかった?」

「うん、イングヴェィ」

「オレは和彦さんの言う力でねじ伏せる方が早いと思うし賛成だが、セリとセリカがそれは嫌だって言うなら2人に協力するよ

フィオーラって奴はセリカを狙ってるから1秒でも生かしたくないけどな」

最後の心の声めっちゃ漏れてるぞ、レイ

話がなんとなく纏まったところで鬼神が知っている限りで神族のコトを話してくれた

神族は夜に弱いから、夜は安全と思っていい

神族は似た存在を許さないが、神族にも変わった者がいるからフィオーラみたいな奴がいてもおかしくない

フィオーラを信用するかは別だが

ってコトだ

神族でも変わった者か…セレンは変態だけど

変わった者が少数ならフィオーラの言う多数決問題を解決できないんじゃ

フィオーラは俺達に協力するって言ってたが、どう協力するんだ?

やっぱ出来ませんでしたってならねぇか?

とりあえずはまた会って話してみるか

そんなこんなで今日は休もうってコトで解散となった


暫く和彦も鬼神も滞在するコトになったから、鬼神はセリカが部屋に案内をして俺は和彦を部屋に案内するコトになった

アイツら俺のコトも天女のようって褒めるけど、俺と違って明らかに女の子のセリカには鼻の下伸ばしてるな

そんな鬼神に囲まれたセリカが心配だってレイが付き添ってる

絶対大丈夫なのに、鬼神はあぁ見えて女の子耐性がなく恋愛に関しては純粋で真面目だからセリカを傷付けるようなコトはしない

その面では和彦やレイより鬼神は安心してセリカを任せるコトが出来るってもんだ

和彦は当たり前のようにセクハラするし、レイは下心丸出しだし

「もちろん今夜は一緒に寝てくれるんだろ?セリくん」

廊下を歩きながら和彦と話す

「えーどうしよっかな」

ついつい和彦にツンッとしてしまう

いつも和彦には素直になれない

「嫌がっても離さないが」

「いつもそうじゃん」

俺の返事関係なく、和彦が言ったらそれに決定だ

嫌じゃないけど…その強引で自分勝手なとこ和彦らしくて…

「その前にデートしようか、セリくん」

「……えっ?急に何!?」

和彦は俺の目の前に立ち足を止める

急にデートって響きにドキッとした

そんなの…久しぶりすぎて……変に意識する

「鬼神がうるさいんだ

セリくんに寂しい思いをさせてるから久しぶりに会うなら絶対デートに誘えって」

恥ずかしいほどの余計なお世話を…

鬼神がセリカのファンだから俺の味方をしてくれるのは嬉しいが…

和彦と俺は程良い距離感があって、それが俺は好きなんだ

いつもベタベタくっついていたいとか思わなくて、でもちゃんと大好きで愛してるし

香月と違ってドキドキする回数とかは少ないけど

香月以上に和彦には何でも話せるところも良い

前の世界からの付き合いだし、この世界にいる誰よりも長いからなのかもな

「言われなくても、久しぶりに会ったセリくんをオレは放っておくつもりはない」

「和彦…」

和彦は俺の手を掴む

その手にも笑みにも心が緩んでしまう

「セリくんは寂しい思いなんてしないのに

レイがいるから、毎日イチャついてたんだろうし」

「うっ…うぅ」

何も言えない…図星だった

「…それでも、レイは和彦じゃないし

会えないと寂しいって思う時もあるよ

香月だってそう

だから、久しぶりに会えて俺だって嬉しい」

和彦の手を握り返すと、和彦の笑みはさらに深まる

やっぱり…和彦のコトも大好きだ…

俺って本当に欲張りだ

3人にも愛されて、幸せも3倍なんてズルいよな


デートと言っても、もう日も暮れかけていたから近くの街まで行って美味しいもん食べて、バーで飲んで帰ろうってコトになった

夜だから神族が襲ってくる心配もないし俺は和彦と久しぶりの一時を幸せに感じていた

「レイとは仲良くやってる?」

バーは貸切にしていたみたいで和彦と俺以外のお客さんはいなく静かで良い雰囲気の中飲んでいる

まぁ俺はノンアルなんだけど、アルコールダメだから

和彦はお酒に強いから顔にも出ないし普段と変わらない

お酒は好きだからよく飲んでるみたいだな

酒好きの鬼神とお酒の飲み比べしてそれにも勝ったみたいだ

飲み過ぎは身体に悪いだろうし、それは心配だな…

俺は和彦にこの前の大悪魔シンとレイの契約のコトを話した

「ってコトで、俺がレイを好きなのは大悪魔シンのせいだってわかってなんか複雑なんだよ」

「セリくんは最初からレイの事好きだったろ?」

「それは大親友として好きだったワケで、和彦の好きとは違うもん!」

こんな簡単な好きの違いを和彦がわからないワケじゃない

「当時はそうでも

きっかけさえあれば、セリくんはレイを特別に想うようになるよ

オレや香月と変わらない」

レイは最初からセリくんをそう見てたんだからと和彦は言う

そうだけど…俺だけが大親友だと思っててレイは違うって知った時は凄くショックだったぞ

「今は…そうかもって思うけど、こう思うのも大悪魔シンのせいだって考えてると

なんか違うのかなって」

「いつかはその大悪魔を倒したらわかる事

オレはその時が来ても変わらずだと思うし、大悪魔がいなくてもセリくんはいつかレイを受け入れる

何も変わらないよ」

俺だってそう思いたい

この気持ちが偽りじゃないって

今は偽りでも構わないって強がってるだけで、レイのコトが大好きだから離れたくない……

これも大悪魔シンのせい!?ってグルグル目が回りそうになる

「セリくんが好きなら好きにするのが良い

偽りでも、離れたくないって思うなら難しく考えるな

もし相手がレイじゃなく、変な男だったらオレが止めてやるから

そこは心配するな

レイならオレは良いと思う」

レイがメンヘラDVでヤベェ奴ってのはわかってるのか和彦…

話してるからわかってて言ってるんだろうけど

和彦は素直なままでいろって俺の頭を撫でた

「和彦って………本当に俺の恋人?」

さっきから他の男薦めてくる言い方にちょっと複雑だったり…

レイのコトを認めてくれるのは嬉しいんだけどさ

「セリくんは死んでもオレの恋人だ」

和彦は俺の顎を掬う

死んでも…それも本当だったな

俺は前の世界で和彦に殺されて…それで関係は終わりだと思ってたのに

和彦は俺が死んでも恋人として離さなかった

最初から俺の気持ちなんて関係ないって奴だった

無理矢理俺を恋人にして、最初は大嫌いだったけどいつの間にか俺は和彦のコトを愛してた

「オレから離れる事は許さない

セリくんはオレの恋人で、香月の恋人」

和彦の親指が唇に触れて撫でられる

独占欲がなくて、束縛もしない

「そのうちレイも」

寝取られフェチだから香月やレイのコトも気にしないし、むしろ燃えるとか興奮するとか

俺にはまったくわからない

2人と仲良くはないがやたらと3Pやら4Pをしたがる

俺だけが大変でしんどいからほとんど断るけど、たまには和彦がしたいならって付き合うコトも

「だから、恋人のセリくんが幸せになるアドバイスをしたまで」

幸せ…かなぁ…

欲張りなだけで、こうしないと上手くいかないってだけだ

でも…俺がちゃんとみんなのコト大好きだから上手くいってると信じたい

誰も不幸にしたくない

みんながそうじゃないとダメって言うなら、そうするよ

幸運にも、俺は3人とも大好きになったから

「うん……和彦…ありがとう、好き」

最初から今でも俺の気持ちは関係ないって言うけど、俺が好きって言うと嬉しそうにする

和彦は俺から手を離すと、俺の飲み物を指差す

「いつも飲んでるこれどんな味がするんだろうな」

「甘くてふんわり薔薇の香りが広がるのが気に入ってるよ

他に俺のオススメはブルー色したライチのやつも好き」

飲んでみる?アルコール入ってないけどって和彦にグラスを滑らせて渡す

「味見したい」

…………。

うん早く飲めよ

グラスを見つめたまま何か考えてるみたいだが、アルコール好きな人にはジュースみたいな甘いのは苦手なんだろうか

「セリくん、口移ししてよ」

良からぬコトを考えていたな

「はっ!?無理!こんな場所でそんなコト出来るか!」

アルコール飲んでないのに、カッと顔が熱くなる

唐突すぎて…待ってくれよ

「心配しなくても、誰もいないし

店の人は呼ばない限りは来ない

セリくんと2人っきりの邪魔はされたくないからな」

アハハって和彦は、俺が人前でそういうコトするのが嫌なのを先に対処していた

「レイとは毎日イチャついてるのに、オレとはしたくないって?」

和彦に覗きの趣味はないとは言え、まるでレイとのイチャイチャを見て来たかのように見透かされている

うぅ…和彦の奴……そう言われたら…するしかないじゃん……

「わ…かったよ…すりゃいいんだろすりゃ…」

俺は飲み物を一口含む

薔薇の香りが広がるのを感じながら、和彦の肩へと手を添える

ドキドキする…

顔をゆっくりと近付けてどんどん熱が上がって、目を閉じて和彦の唇へと触れた

口を開けてくれたからそのまま流し込んで、すぐに離れて背を向けてしまう

恥ずかし……すぎる……

あのまま和彦が俺を引き寄せて抱き締められてたら、恥ずかしさのあまり死んでた

「…確かに、甘く薔薇の良い香りがする

でも」

そう言って和彦は後ろから俺を抱き締めて肩に顔を埋める

「セリくんの方が甘くて良い匂いがする」

首筋に息がかかると、身体が反応してしまう

それを見逃さない和彦は唇で優しくなぞる

「はっ…ぁ」

やば…お店の人に聞かれでもしたら、恥ずかしすぎてマジで終わるぞ

俺は自分の手で口を押さえて耐える

「セリくん…最初の頃と違って、良い反応してる」

「言うな…バカ」

好きな人に触られただけで、敏感に反応してしまう身体になったのは和彦のせいだ

はじめて和彦に抱かれた時、凄く気持ちよかった

それまでは犯されたコトしかなくてただただ痛いだけだったのにな

まぁ和彦も最初の頃は無理矢理だったから変わらないけど、全然違った…

それから色んなところを開発されたんだっけか

思い出すだけで、恥ずかしい…今も恥ずかしいのは慣れない

緊張だってする

気楽な関係だって、そうじゃない時もあって

そういう時は俺って和彦のコト本当に大好きで愛してるんだなってわかる

「お返し」

和彦は俺の飲み物を口に含み、俺を振り向かせてキスをする

無理矢理口を開けさせられて飲み物を押し込まれると、甘い香りと和彦の温かさまで流れ込んで…素直に飲み込んだ

「バ…バカ…じゃん……」

味なんてもうわからないくらい、俺は顔が全身が熱くて何も考えられない

目の前の和彦しか…見えなくなった

「もっとほしいって顔しといて?」

引き寄せられて抱き締められる

和彦の顔が近くて…俺が目を閉じると、唇に和彦の唇を感じる

キスされただけで、おかしくなりそうだ

深く激しいキスはめまいがするほど愛しい気持ちが募るばかりで…

俺はそんな和彦の背中に手を回して強く抱き締めた


そろそろ俺が眠くなってきたから帰るコトになった

いつもだいたい23時には眠りたい

セリカが美容のためと言ってその時間に寝るようにしてるから、時間が近付くと身体が勝手に眠くなる

天使は子供だからもっと寝るの早いけどな

久しぶりに和彦と一緒に寝るってコトで、俺は和彦の部屋にやって来ていた

俺の部屋はレイと同室だから無理だし…

鬼神達とは離れた場所のゲストルームになる

鬼神は活動時間が長く、何日も起きてその分まとめて何日も寝るといった生活スタイルだ

夜も騒ぐから、迷惑にならないように離れた部屋を用意している

和彦が引っ越しを考えていた鬼神8人にあの屋敷は狭すぎるってのは、生活スタイルの違う鬼神と自分達人間が一緒に住めるようにと配慮してのコト

まだ和彦の引っ越し先にはお邪魔したコトはないが、話を聞く限り前の屋敷の2倍は広いんだとか

マジか?あの屋敷も迷子になるくらい広かったのに

よくそんな広さのとこにすぐ引っ越せたな

「引っ越しって大変だろうし、まだ落ち着いてないのに申し訳ないな」

俺の問題に巻き込んでしまって、なのに和彦は俺に協力してくれる

「引っ越し後の事は全てフェイに任せてある

セリくんは気にしなくていい

それに鬼神も絡んでいるから、終わるまでは帰るつもりもない」

そっか、鬼神は神族と因縁があったな…

和彦は俺の頭を撫でてからバスルームへと向かう

あれ…?和彦のコトだから一緒にお風呂入ろうって言い出すかと思ったんだけど…

「セリくんは自分の部屋で風呂に入るといい」

そう言って和彦はバスルームへと消える

何か…様子がおかしい…?

まぁ…いっか、一緒に寝るって約束はしてくれたし

俺も自分の部屋でお風呂入ろっと

そして、俺は自分の部屋へと一度帰る

「あれセリ、今日は和彦さんと一緒じゃないのかい」

自分の部屋に入るとレイがどうした?って不思議に思う

「うん、お風呂入ったらまた戻るよ」

「セリと一緒にお風呂入らないとか和彦さん風邪でも引いてるんじゃないか!?」

風邪…は引いてないだろ、もしそうだったら一緒に寝るって言わないだろうし

そもそも和彦は体調管理も完璧だから風邪を引いたところを見たコトがない

「それならオレもこれから入ろうと思っていた所だから、セリと一緒に入るよ」

レイはバスルームのドアに手をかける俺を後ろから抱き締める

その時にレイの髪からふんわりと新鮮なシャンプーの良い香りがする

「ウソつけ!?もう風呂入った後だろ!!?」

「入っていない」

「匂いでわかるんだよ!?レイの良い匂いがシャンプーの匂いでかき消されてるからな!!

暫くしたらシャンプーの匂いが抜けてレイの良い匂いになるの!俺は今の匂いよりレイの匂いが好きだから絶対わかるんだもん!!」

俺はレイを押しのける

だけどレイは俺の首へと顔を近付けた

「オレもセリの匂いが好きだ」

えっ……自分の匂いを嗅がれるって……なんか、めっちゃ恥ずかしい…?

今まで何も考えてなかったけど…

「は、離れろ…」

凄く恥ずかしくなってレイの肩を押しのけるように手でグーッと向こうへとやる

「それじゃあ一緒にお風呂に入ろう」

急にレイは上の服を脱いで上半身裸になる

何なんだコイツ…

すでに風呂入った後なのにもっかい入るって何目的だよ

「わかったわかった、レイはしつこいから…な……ってオマエ!?それどうしたんだよ!?」

レイの横腹にざっくりと深い切り傷があるコトに気付いた俺は姿勢を低くして傷口を確かめる

真新しくこんなに深い傷なのに、血は止まっている?

エルフは人間より治癒能力が高いのか

人間の時とは違う…エルフになったレイの傷ははじめて見た

いつも俺が回復魔法ですぐに治してたし

でもスゲー痛そうだ

「あぁ、そういえばさっき出掛けた時に街でナイフを振り回して遊んでいた子供がオレに突っ込んで刺さったんだったか」

「危なさすぎんだろそのクソガキ!?!?

「セリが子供相手にムキになるなって言ってたから何も言わなかったぞ」

「それは大人として注意しろ!!普通の人間なら重症だからな!!!??」

天使の件を気にしてたのか知らんが、これは話が違うだろ

子供本人も怪我するかもしれないし危ないからやめさせろ、刃物で遊ぶとか

「ん…?さっき街に出掛けて…夜なのに?何しに?」

「……………。」

黙るレイの傷口に爪を立てた

「セリの後を付けてた!!

和彦さんと2人っきりなのがどうしても気になって仕方なく!

覗きはやめろって約束は破っていない!オレはストーカーしていただけで覗きはしていないから!!!」

ストーカーも覗きも似たようなもんだよなぁ…

もうレイの俺を好きすぎるあまりの行動は仕方ねぇのかも

覗きも何かと屁理屈言ってやめなさそうだし

あっ、傷口に爪を立てたら血が出ちゃった

思わずレイの傷口から滲む血を舌で舐めとる

「っ……セリ…」

レイは俺の肩を掴み引き離した

「そんな事されたら…和彦さんの所へ返したくなくなるじゃないか……」

「いいよ…レイと一緒にいたい

早く俺を抱いて…レイがほしい」

「セリ…?」

レイの力が緩んで、俺はレイにキスをする

「セリ…何か…変じゃないか…?」

「えっ?何が?とにかく、その傷って痛くないのか?」

あれ?一瞬、記憶が飛んだような気がするような…眠気かな

まぁいいや、眠いから早く風呂入って寝たい

とくに気にするコトなく、俺はレイの傷の心配をする

俺が傷口に触れるとレイは少し顔を歪めていたから痛みはちゃんと感じてるとは思うんだが

「あっ…あぁ、これくらい平気さ」

「なんですぐに俺かセリカに言わないんだよ」

さっきちょっとだけレイの様子がおかしかったけど、話しているうちにいつもと変わらないレイになっていた

「言えないさ、とくにセリカには

男はカッコ付けたい生き物だろ?

セリカに怪我したってオレの弱い部分を見せたくないからな」

「それ俺もわかる、とくにセリカには言えないよな

セリカの前では俺も男としてカッコ付けてぇもん」

ついつい香月や和彦やレイには俺は甘えて言うけど、女の子のセリカにはこんな俺でも男のプライドとしてなかなか情けないコト言えねぇってか隠したくなるんだよ

まぁセリカは俺だから丸見えなワケだが…そんなセリカは女として俺を立ててくれるコトもしてくれる

だから俺は自分が大好きだ

「はっ…!?そうか!」

俺はレイの怪我を治して思い付く

和彦が俺と一緒にお風呂に入らなかったのってもしかして怪我をしてるから?

前にも、セリカが和彦と鬼神の牢獄で会った時に怪我を言わなかったって言ってた

アイツ…ホント…バカなんだから

セリカはわかるけど…俺には言えよな

そんなので、カッコ悪いなんて思わないから…

「俺、和彦のとこに戻るよ

じゃあおやすみレイ、また明日」

慌てて俺が部屋から出ようとすると、レイが手を掴んで引き止める

「オレと一緒にいたいって…」

「ん?いつも一緒にいるじゃん?」

やっぱりレイなんか変?

「いや…そうだな…何でもない、おやすみセリ」

レイは俺から手を離して笑う

変に感じるのは、昨日の大悪魔シンのコトがあってまだギクシャクしたものが残っているのかもと考える

それなら時間が解決するだろうから、またいつものレイとの関係に自然となれるって俺は信じた

和彦の部屋に戻ると、風呂上がりの和彦が俺に笑いかけてくれる

でも、俺はそんなコトより和彦に近付いて服をめくった

「何で……言わないんだよ?」

思った通り、服の下は包帯が巻かれている

「セリくんが積極的なのは、あまり好きじゃないな」

「誤魔化すなよ!心配するじゃん…言ってくれなきゃ…わかんないよ」

和彦に怪我を負わせるコトが出来るのは、香月か鬼神くらいだ

香月は一緒にいないから当たり前だけど違う

和彦は鬼神が暴れて手が着けられないって言ってたから…この怪我は鬼神がやったもの…?

アイツらに悪気はないんだろうけど…

「隠されたら…俺、何も出来ない…

ずっと和彦のカッコ良いとこばっか見てたいけど、たまには弱いところもあるなら見せてくれよ

俺だって、和彦のコト支えたいんだよ

それが恋人ってもんだろ?」

「…オレはセリくんと違って支えは必要ない」

和彦の言葉に…悲しくなった

それじゃ…俺は和彦の何なんだ?

いつまでも恋人と言う名のおもちゃか?

最初からそうだ…俺の気持ちなんて関係ないって自分勝手で……

俺はしてもらってばっかだけど、俺が和彦のために何かしたいってなるとそれは嫌がる

一方的に俺は何でもしてもらえて与えられて守ってもらって…

「セリくんはオレがどんな男かわかっていない」

悲しくて震える俺の身体を和彦は引き寄せて抱き締める

「オレに弱い所はないよ」

ふと、さっきのセリカのコトが頭を過る

セリカは……俺が持ってる男のプライドを理解して男として立ててくれる

弱いのも情けないのもバカなのも全部知っててわかってて

でも俺は男だからってカッコ付けたくて、それを叶えてくれる

俺が男でいられるのはセリカがいてくれるから

そうだ…そんな簡単で単純なコト……

和彦にとって俺はどうあればいいか

俺は…

「和彦は…ずっとカッコいいよ、いつも強くて頼りになって…」

抱きしめ返して俺は和彦の傷を回復魔法で治す

言ってくれないなら隠されるなら、怪我をしてなくても毎回回復魔法をかけてあげればいいだけだ

「そんな和彦が俺は大好き」

「…ありがとう、セリくん」

言われなくても気付けるような和彦に相応しい恋人になりたい

和彦がずっとカッコ良い男でいられるように、陰ながら支えるよ

「セリくん…」

和彦の顔が近付いて俺は目を閉じる

和彦は言ってくれないよ

あんまり、愛の言葉さえも

好きとか愛してるとか、他の人より言葉にしてくれるのは少ない

でも、こうしてキスしてくれるだけで和彦の気持ちはちゃんと伝わってくるから

わかるから…不安にならない

「……もうそろそろ?香月が大人になるのは」

「次会う時にはきっと…」

「いつ?」

「さ、さぁ…?」

和彦は我慢の限界だって顔で俺をほしがるように睨む

ちょっと恐い…

「こんなにオレが我慢した事あるか?」

「ないな」

ないから恐いんだよ!?早く香月帰ってきて…大人になって…

あれでも…和彦が我慢してくれてるのは俺のためだよな?

俺が香月が大人になるまではしたくないって言って…

香月のコト…殺しちゃったから…それを後悔して……

香月にちゃんと謝らなきゃ…会いたいな

まだ謝れてないから…早く

でもこれって、和彦はいつも俺の気持ちは関係ないって言ってたのに

俺の気持ちを汲んでくれてる?

「和彦……いつも俺の気持ちは関係ないって言ってたくせに、俺のために今回ずっと我慢してくれてたんだ?

なんか嬉し…い!?」

ひょいっと身体が浮く、和彦は俺を抱き上げてベッドへと下ろした

「そうだった、セリくんの気持ちは関係ないのにオレは何をずっと我慢していたのか」

「えっ…」

和彦の手が指が俺の指に絡んで離さない

「いや…ダメ、まだダメ」

「知らない」

絡んだ指が離れたと思ったら、和彦は俺の服を脱がし始める

「ま、待って!!無理!!それに、お風呂入ってないもん

汚いから…今日は暑かったから汗もかいたし

だからまた今度…」

和彦はたまに本気なのか冗談なのかわからない時がある…これは…今は…冗談で…いいよな?

寸前で止めてくれる…か…??

「シャワー浴びた所でどうせ汗かくのに一緒」

「一緒じゃねぇだろ!!?俺が嫌なんだよ!?」

なんとか逃げないと、和彦と2人っきりになるのは危険だ

その覚悟がない限り2人っきりになるべきじゃない

「や…めっ」

和彦の舌が首筋を這う

ゾクゾクして熱が上がって力が入らなくなっていく

和彦の手が俺の足に触れて撫でるように上へと滑らせていく

好きだから触られて嬉しくないワケじゃない

でも…今は嫌だ…

「…これ以上したらセリくんに嫌われるかな」

和彦は手を離し、最後に軽くキスをする

「セリくんの気持ちは関係ないが、最初に約束したな

香月が大人になるまで待つって時に無理しなくていいって」

風呂入るなら待ってるからと和彦は俺の頭を撫でてくれる

なんやかんや…優しいよな、和彦って

いつも思うけど丸くなったわコイツ

昔はもっとヤバい奴だった

この世界に来てからかな…ううん、きっと前の世界で俺を殺してからだ

和彦が変わったのは…

失ってはじめて気付く大切さってコトなら、俺は本当に和彦に大切にされてるって自惚れてもいいか?

「きっともうすぐ…」

ふふって俺は笑みを零す

お風呂に入る準備をしている時にふと思い出す

「そうだ、その怪我って鬼神がやったもんだろ?和彦に怪我させるなって俺から言っておくから」

俺の言うコトならまだ聞き分けがあるって言ってたし

「言わなくていい」

「なんで?セリカの方が良い?」

「そうじゃない、セリくんもセリカも鬼神の中では特別なだけ」

それはわかってるよ、セリカが天から舞い降りた天女様って鬼神は憧れてるから俺に甘いだけってコトはさ

だから俺かセリカから言えば解決って…話じゃないのか?

「鬼神は強さこそが全て、オレが鬼神8人に勝つ事が出来て今の関係がある

それはずっとじゃない、いつだって覆る」

下手すれば明日がその日かもしれないと和彦は言う

そんな…そんなの人間の和彦には無理だ!?

明日は大丈夫かもしれない、暫くは大丈夫だろうけど

「鬼神に負ける日がオレの死ぬ時、最初に戦った時から決まっていたんだ

勝てばその強さに惚れられ、負ければ殺される

一度遭遇したら逃れられないのが鬼神なのかもな」

和彦はハハハって笑って、いつも通りの態度だ

笑うとこじゃないだろ!!って、俺は笑えねぇよ…そんなん心配だから

遭遇したら逃れられないって…何そのホラーに出てくる化け物みたいな話……

そんなのダメだ!!

和彦は人間なんだぞ、いつまでも今の強さを維持するなんて無理だ…

好戦的な性格の鬼神…神族に封印みたいに牢獄に閉じ込められたのは、ある意味間違っていなかったのかもしれない

遭遇したら終わりみたいな鬼神を抑えているのが和彦だから、勝手に他の人と戦うコトは今はないみたいだけど

和彦がいなかったら鬼神は好き勝手に強さを求めて暴れ殺しまくるってコト…?

そんな恐ろしい存在にゾッとする

普段のアイツらを見てるとそんな感じがまったくしないのは…俺が憧れのセリカだからで

他の人から見たらまた違って見えるのかもしれない

「心配するな、オレは負けはしないさ」

「………。」

和彦の自信しかない言葉に、今はそうかもしれないがって未来のコトが不安になる

今のところ和彦と互角に戦えているのが香月だ

和彦には魔族の香月を殺せる勇者の力は持っていないのに瀕死にまで追い込める

人間の時の香月の話だけど

だから鬼神を抑えるコトは香月なら可能かもしれないが、それって和彦が殺された時の話だろ

そんなの絶対に嫌だ…

和彦が死ぬなんて…考えただけで……

「泣く?」

「……泣いて…ない」

涙を溜めて我慢してるだけ

でも、瞬きをしたら涙が零れるからそれを和彦が舐めとった

「オレはセリくんを置いては絶対に死なない

オレを信じろ」

「…信じたいけど……」

不安がなくならない…

だけど

「オレが嘘ついた事あったか?」

いつもの、和彦の言葉が…おかしくて、ふふって笑みが零れる

「未来のコトでウソも何も…あるかよ…バカだな和彦は」

「それはセリくんの方じゃ?オレをわかっていないな

未来でもオレは嘘を付かないって事、ずっと傍で見てるといい」

和彦が俺の身体を引き寄せて強く抱き締めてくれる

安心する…和彦の腕の中って

信じてないワケじゃないんだよ、未来は誰にもわからないから不安なだけ

なのに、和彦は未来すらも信じろっておかしいコト言うのに

でも、和彦のコトは…未来でも大丈夫って、そんな気にさせてくれる

ずっと傍にいるから、ずっと和彦が誰よりも強いってカッコいい姿だけを俺に見せてくれよな…

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