159話『生き返るための協力』セリ編
死者の国に入るには夜になるのを待つ
昼間は目立つからなのもあるが、神族は夜に弱いからなるべく安全な夜を狙う
また和彦に会うってコトに落ち着かずドキドキする
会いたい気持ちもあるのに、やっぱり死者の和彦に会うのも怖い
絶対大丈夫って…信じるって決めたのに、いざ目の前に迫ると臆病になる
夜を待つ間、落ち着かない俺に気付いたレイが話し掛けて気を紛らわせてくれるけど
会話をしていても和彦の不安に押し潰されそうになるのはなくならない
そんなこんなで夜が来て、俺達は死者の国へと足を踏み入れた
「は~ここが死者の国っすか、悪霊の気配を一切感じない神聖な空気ははじめてで不思議な感覚っす」
遊馬は俺達には感じない霊気?に人一倍敏感で外との違いに感心している
「待ってたよ、セリくん」
死者の国に入るとすぐ近くに和彦が現れて、俺達の方へと歩み寄る
俺のイメージする幽霊とは違って足があって全身は生前のまま
半透明で触れられないのが、死者なんだって…思い知らされるのが…辛い
「和彦…」
「見つかる前にここを出る、遊馬」
和彦はゆっくりしていられないと俺から遊馬へと視線を移す
「オレは幽霊に触れられるっすけど、ここから和彦さんを連れ出すのは無理っすよ
言いたくないっすけど、鬼神の事は任せろって大口叩いた割にはあっさりっすね
セリカさんを悲しませて何やってんすか…」
遊馬はもっと強く言いたかったみたいだが、さすがに亡くなった相手に、セリカが悲しむ相手に厳しいコトは言えないと複雑な表情をする
十分厳しいコト言ってる気はするが…遊馬が怒る気持ちもわからないワケじゃない
「セリくんとセリカを悲しませたのは悪かった…
だが、オレは諦めていない…死んでも死なない」
和彦の死者からは感じない強い意志に遊馬は怯む
この場にいる誰もが和彦が死者だと忘れるくらいの勢いで…
「前にセリくんから聞いた話がある
セリカの身体が女の幽霊に奪われた時、遊馬が助けてセリくんの身体に入れた事」
うわーめっちゃ懐かしい話するじゃん!?
俺は和彦になんでも話すけど、そんな昔に話したコトも覚えてたのか!?
その話ってこの世界で和彦と再会してから、離れていた間どんなコトがあった?って何気ない会話の1つだぞ!?
「それをオレにもしてくれないか?
セリくんの身体を少しの間貸してほしい」
「それは…可能っすけど…
セリさんはいいんすか?死者に身体を貸すって事はこの男が悪い奴だったらそのまま身体を奪われますよ?」
遊馬は心配して俺を見る
なんだ、そんなコト…
「和彦なら悩むコトもなく俺はこの身体を貸すよ
奪われたって構わない
この身体で和彦が生きてくれるなら俺はそれでいい」
どんなコトだってする…やれる
そうならそうと最初から言ってくれればって気持ちもあるが、和彦の考えに俺は従うしか答えはない
誰が反対しても
「ちょっと待てセリ
その話で思い出したが、セリとセリカが1人になる時間が長いともう2人には戻れないって話じゃなかったかい?」
レイは反対だと口を挟むがすぐに和彦が否定する
「そうならないように少しの間だけだ
セリくん、オレを信じろ」
「言われなくても、信じてるよ
レイも心配してくれてありがとう、でも大丈夫
遊馬頼む…俺をセリカに、和彦を俺の身体に」
勇者の剣をセリカに渡し、俺はいつでも構わないと遊馬の返事を待つ
「お願い遊馬…時間はないわ、早くここから離れないと見つかっちゃう
私は和彦を信じてるわ、だから大丈夫」
俺が言うよりセリカのお願いで遊馬は早く折れた
「うぅむ…わかりました!セリさんが言うなら、セリカさんのお願いなら
オレも和彦さんを信じて手伝うっすよ!」
「ちょっと待って!もしかしてこの死者の和彦が偽者ってコトはないよな?」
せっかく遊馬がやる気になってくれたのに、俺はふと勝利の神に翻弄されているコトを思い出す
もし本物の和彦じゃなかったら俺の身体を奪われるだけなんじゃ…
疑いの目を向けると和彦は俺の耳元で誰にも聞こえない声で囁く
和彦と俺しか知らない恥ずかしい数々に、顔が真っ赤になる
「う、ウソ…ごめん……本物の和彦だ…」
「安心してください!幽霊相手ならオレは得意分野なんで、この人は偽者じゃなく本物の和彦さんってわかるっすから!!」
早く言って!?恥ずかしいコト思い出しただけで何か凄い俺だけ大ダメージなんだけど!?
和彦はテンパって恥ずかしがってる俺を見て笑ってるし、もう最悪だ
「それじゃセリさん座ってくださいっす
このまま魂を移動すると倒れてしまうんで」
言われるまま俺は地面に座る
とりあえず緊急して正座になった
そして目を閉じるように言われて、次に遊馬の声が聞こえて目を開けると目の前には正座した俺の姿があった
セリカの身体に…俺がいる
前と変わらない感覚、自分自身の身体に違和感はない
でも、女の子の身体にはちょっと違和感がある
セリカが男の俺の身体に入った時もそうだったんだろうか
そっと両手を自分の胸に当てる
やめて
セリカに怒られた
おかしいでしょ!?急に自分の胸触るなんて!?
いや!?ちがっ!?なんとなく!?
セリカの長い髪が腕に当たる感覚も、俺にはなくて新鮮だな
胸も大きくはないがふかふかだった
殺すわよ
仕方ないだろ!?男なんだから!?
逆ギレ!?最低ね!!大きくはないがってわざわざ言うコト!?
それは悪かった!!
セリカと喧嘩している間に、遊馬は俺の身体に和彦の魂を入れてその身体が立ち上がる
「急に雰囲気が変わった…?」
レイの言葉に俺は自分の身体…和彦へと目をやる
自分の身体だから、当たり前だけど毎日見てるハズのその姿は自分じゃないかのように見えてしまう
なんだか…不思議な感じ…
セリカとは違う、天使に感じるのと同じ
見た目が俺なだけで、もう目の前の人は俺じゃない
「身長が同じだから見える景色は変わらないな」
俺の身体に入った和彦は辺りを見回す
「身長同じじゃないですー!?俺の方が和彦より3cm高いからねー!!?」
それしかマウント取れないコトが悲しいけど、俺は一生身長だけは勝ってるってマウント取り続けるから
可哀想に…3cmなんてそんなに変わらないのに
セリカに男の気持ちなんかわかんないんだよ!?
「わかっていたが、腕も足も細くて華奢で小柄
色白いし肌綺麗だな」
自分の目線で辺りを確認した後は俺の腕や足をその目線から確認する
「うるせぇな!?文句あるなら他の奴の身体借りればいいだろ!?」
「褒めてるのに」
「聞こえねぇよ!?」
和彦は本気で褒めてるわよ
セリくんは男らしくなりたかったってコンプレックスがあるから悪い方に受け取ってしまうのね
そこは…複雑なんだよ
俺はセリカが大好きだからこの見た目で文句はねぇけど、人に言われるとバカにされてるって思って
和彦がこんな俺を気に入ってくれてるのはわかってるけど…なんとなく、突っかかってしまう
「ゆっくり話してる暇はないな、一度帰ろう
ここからは鬼神達の力も借りたい…」
そう言って和彦は死者の国の外へと足を出して、死者の姿で出られなかった和彦は俺の身体で外へと出るコトが出来た
それに続いて俺もレイも遊馬も続く
和彦が誰かの力を借りたいなんて……
いつも1人でなんでも出来た奴だから、今回はさすがに…無理なのかな
また不安になってる
和彦のコト信じるって決めたくせに
セリくんが不安になると私まで不安になるわ…
信じたいのに信じられなくなるって、辛いコトよ
………うん
イングヴェィの城へ帰ると
「さて、セリくんの身体で何処まで戦えるか…」
和彦はそう言って自分の部屋に向かうから俺もそのままついて行った
「えっ俺の身体で戦うつもりなのか?何と?
新しい身体を探して遊馬に協力してもらうんだと思ってたけど違うのか?」
和彦の部屋のドアを開けると、巨大な斧が邪魔をしている
あっそうだ、これ邪魔で動かそうと思ったらビクともしなくて…
「少し重く感じるな」
和彦は自分の武器を軽々持ち上げてみせた
「………ウソだろ!?なんでだよ!?
絶対無理だって!?鬼神だって重くて運ぶのに苦労したって言ってたのに
それを俺の身体で、いくら中身が和彦だから持ち上げるなんて不可能…」
「オレの身体なら軽々持てても、セリくんの身体じゃ無理だ
だが、コツがあるからこうして持つ事も出来る」
「コツでどうにかなる話かコレ!?じゃあそのコツ教えてくれよ!?俺も持ち上げたいから!!」
「セリくんには無理」
無理ってどういうコト!?俺の身体なのに無理って矛盾してねぇか!?
実は俺の知らない間に鬼神か誰かがすり替えたんじゃ…って疑った俺は
和彦が斧を端に避けて置いた後に持ち上げようと試みたが、まぁ無理だった
「試したい事があるんだが、セリカその勇者の剣を貸してくれないか?」
「いいけど」
セリカは持ってた勇者の剣を和彦の前へと差し出す
だけど、和彦はそれに触れようとしない
「どうしたの和彦?」
「…セリくんの身体だからいけると思ったが、やっぱり無理なんだな」
勇者の剣は俺にしか触れるコトが出来ない
何者も、触れるコトが出来ないもの
触れようとすると手が出ないと言うか動けなくなると言うか、そんな感じで誰も勇者の剣を持つコトが出来ないと言うのだ
「それじゃあ、こっちの力はどうかな」
そう和彦が呟いた瞬間、部屋のドアがノックなしに失礼に開く
何故かキルラが片手を上げて挨拶して入って来る
「うーっす!セリカ様久しぶり~!香月様に呼ばれて来たんすけど、何処にいるか」
話の途中で和彦はキルラの身体を斧で真っ二つにした
「ぎゃーーー!?何急に!?こわっ!?何このクソチビ!?サイコパスかよ!?!?」
キルラは真っ二つになりながらも絶命はせず地面でもがいている
いや…なんで急に現れた?オマエがこぇーよ
セリカを訪ねて来たならセリカの部屋だろ
ここ和彦の部屋だぞ、キルラは絶対来ない場所だろ
険悪だし
「勇者の力があったなら死ぬほどのダメージ、死なないってコトはこの身体だからと言ってある力じゃないのか」
和彦は真っ二つになったキルラを見下ろし冷静に呟く
「回復魔法使わないで眺めてるセリカ様の方が恐いかもしれねぇ!?」
えっいや、なんか、面白いコト起きてるなって見てた
「それでも、こっちの力は使えるんだな」
俺もセリカも何もしなかった
目の前の足元でもがくキルラの身体が一瞬にして元通りに治る
そして、和彦は炎魔法も軽く出して見せる
「回復魔法と炎魔法があれば、非力なセリくんのこの身体でも十分戦える」
「鬼神が重いって苦労したあの斧を、ちょっと重い程度で持ち上げといて何が非力だ?」
和彦は俺の身体でも人間辞めさせるの?
ドン引きしていると、和彦は自分の今の身体で出来るコトを理解していつもの自信に満ちた表情を見せる
「早くセリくんにこの身体を返さないとね」
「おいこらクソチビが!?オレ様に怪我させといて謝罪もなしかい!?ぶっ殺すぞ!?」
ガチギレのキルラは和彦を上から睨み付ける
「あぁ、悪かったキルラ
あんたのおかげでこの身体で何が出来るかわかって感謝してるよ」
「その態度がムカ……っ!?あ、謝んなら許してやってもいい…かな~?」
キルラにとって和彦は謝らない性根の悪い男だって思ってたのか、まさかの謝罪とお礼の言葉に上げた拳の行き場が迷っている
和彦は自分勝手で性根も悪いが、ちゃんと自分が悪かったら謝れるしお礼も言える奴だから俺は好きだよ
ってか、キルラも俺の姿なのに和彦ってちゃんとわかってるんだ
キルラは和彦のコトをクソチビっていつも呼ぶから
「いや!?一発殴られたようなもんだからオレ様も殴らせろ!?」
「好きにしろ」
行き場を迷ってたキルラの拳がまた和彦に向くが、キルラは殴らなかった
「……くっ、ちくしょう!卑怯だろ!?
中身がクソチビでも姿はセリ様、それを殴ったら香月様に殺されんだろーが!?」
「別に殴ったところで回復魔法で怪我1つなく治せるからいいぞ」
って俺自身が許可を出したが、キルラは無理と言う
「そういう問題じゃねーのよ」
たまにキルラは俺と喧嘩して殴り合いとかするのに、香月はそんな些細なコトには口出ししなかっただろ
ってか俺が勝つからだけど
バチクソにキルラに負かされたら香月がなんて言うかは知らん
殺されないとは言えねぇかな
「それじゃ、オレがセリくんの姿じゃなくなってからにしようか」
「そん時は間違ってオメー殺すかもな」
「殺す気で来るならオレも手を出すが?」
「はっ?テメーじゃオレ様を殺せねーだろが、オレ様の圧勝よ」
「殺せなくても痛い目は見せられる
死んだ方がマシって痛みならセリくんより得意だ」
場が凍り付くほど強い空気
キルラが微かに震えてるのが見えた
「ま……ま、まぁ?オレ様はは人間相手に?
ほ、本気には…ならねぇからよ?
今日の事は忘れてやってもいいいぜぜ??」
震え声が凄いなキルラ
和彦が香月と同じくらい強いってコトを思い出したのかキルラは逃げるように部屋から出て行った
何しに来たんだ…アイツ、香月に呼ばれて迷子になってただけか?
部屋が静かになって、和彦と2人っきりだってコトに気付くと緊張してくる
やっぱり…信じるって決めても、不安は消えなくて
この先が不安で怖くなって…
それならいっそ、俺の身体でもいいから生きてほしい…
爪先まで冷たくなる感覚を無意識に指を掴む
その手を和彦に掴まれて、包み込んでくれるその手は…とても温かかった
「オレはセリくんのそんな顔は好きじゃない」
何も言えなかった
俺だって好きでこんな顔してるワケじゃないんだから
「信じられない?不安になる?
そうさせてるのはオレなんだろうな…ずっと…オレが殺された時から」
和彦に引き寄せられて抱き締められる
わかってる…ちゃんと信じたいって
信じるって決めたのに、揺れる…どうしても
不安が消えなくて…ずっと苦しい
「…セリくんにキスしたいけど、今はやめておくよ」
セリカを気にしてか和彦は俺から離れて残念と笑う
俺が感じるコトはセリカも感じるからいつもと変わらないのに、でも目の前にセリカがいるのとは違うから
気を使ってくれてるんだな
「時間がない
香月とイングヴェィとレイと鬼神2人と遊馬の6人を集めてくれるか?」
「うん…わかった
俺とセリカが一緒になってしまう前になんとかしようとしてくれてるんだな」
「それもあるが、いつまでもセリくんを不安にさせてるってのが嫌だから
1秒でも早くセリくんを安心させたいんだよ」
……しれっと、和彦は恥ずかしげもなく言う
俺はそれを言われただけで照れるのに…
じゃあ浮気を一生しないって言ってくれたら安心するんだけどな
そこは!?スルーなんか!?
「セリくんの笑った顔が見たい
すぐにでも」
和彦の笑顔に…俺は応えられず、ただただ言葉も出ないまま顔を赤くするしかなかった
和彦ってセリくんのコトめっちゃ愛してるよね
いや…その……昔はそんなコトなかったぞ!?
恥ずかしくて俺はセリカに言い訳?をする
昔はもっと自己中で勝手で浮気ばっかして最低最悪野郎だったし!?
今はちょっと優しいかなって思うけど、昔は全然優しくないし
でもまぁ、そんな和彦だから気楽に付き合えるってのが楽でよかったんだけど
でもでも…今思い出しても、勝手な奴だったけど俺のコトはなんやかんや大切にしてくれたかもって思えて……
はいはい惚気ならまた後で聞くわ
和彦が早くって呼んでるわよってセリカに言われ、ハッと気付く
いやいや!?惚気とかじゃねぇし!?
アイツが昔はどんなに最低最悪だったかって話だから!?
マジで本気で最初の頃は和彦のコトなんか死ぬほど嫌いだったから!!
「セリくんってば、ぼーっとしてセリカに昔のオレの悪口でも言ってた?」
和彦の手が顎に触れて振り向かされる
なんでわかんの!?
「セリくんは照れてる時、いつもツンっとするからわかりやすいよ
昔のオレはセリくんの事は気に入ってたさ
全然笑ってくれないからこんなもんかって思ってた時もある
でも、ふとした時にセリくんが笑ってくれて心を動かされたんだ
どうしたら何を言ったらセリくんが笑ってくれるか…それが今と昔の違い」
「オマエに人の心があったんか…」
「もうセリくんは素直じゃないんだから」
自分の口から俺と続けてセリカの言葉が出る
セリカには当たり前のようにお見通し、恥ずかしくてついつい突っかかるように言ってしまう
そんな俺も和彦はわかって受け止めてくれるから…和彦に嫌いなところなんて……
あるわ、浮気性なところ
それだけは許せねぇ
「ふん!…俺のコトが好きなら…愛してるなら生き返って…
死ぬなんて許さないから…死んでも俺を離さないで
じゃないと…嫌いになるから…」
言ってて声が震えて自然と涙が溢れる
和彦はそんな俺の両肩を掴み流れる涙をキスで拭う
「そうやっていつも素直に言えばいいのに
その方がやる気も出る
いつも言ってるが、オレはセリくんを離すつもりはない
死んでも、誰にもやらない」
貸してはやるけどって和彦は言う
俺が他の男と関係あっても気にしないってのは聞いてたが、貸してるって認識だったんだコイツ…
「偉そうに…」
それでも好き
「必ず、またセリくんを自分の腕で抱き締めるよ」
和彦の言葉に俺は素直に頷く
傍にいてくれると、和彦なら大丈夫って思えてくるから不思議だ
和彦に言われた6人を客間に集める
みんな俺を心配して待っててくれたのが顔を見ただけでわかった
それと、まだ何も言ってないのにみんな和彦が俺の姿をしているコトに気付いてる
「おかえりセリくんセリカちゃん、無事に和彦くんを連れて来れたんだね」
イングヴェィはセリカの俺へと笑顔を向けた
「セリ」
もちろん香月も、セリカなのに俺の名前を呼ぶ
「待って?みんななんでわかるん?
どっからどう見ても俺はあっちなのに」
そう言って俺は和彦の方へ指を向ける
「誰が見たってあれがセリじゃないってわかるさ
可愛くないから」
レイは見たコトない冷たい眼差しを俺の姿をした和彦に向ける
レイがそんな目を俺に向けるなんて!?
一目惚れって言ってたのに!?あの見た目が好きなんだろオマエ!?
「セリくんだから見た目は綺麗だよ
でも雰囲気とかオーラとか空気とか、なんて言うのかな?そういうのが全然違うんだよね
レイくんが言うように可愛げがないって言うか?」
イングヴェィは上手く言えないけど、全然違うのは見てわかるって言う
うーん…確かに、俺も鏡で見る自分とは違うってのはわかるんだが…
何が違うかって言われたら、見た目は俺だしなぁ…何が違うかはよくわかんねぇかな
「でも、和彦の元の姿の方がどっちかって言うと俺の見た目より可愛かったぞ?
コイツ目もパッチリ大きい女顔だったし」
いやホントに和彦はパッと見は可愛い系の女みたいな顔してた
中身とか雰囲気のせいで一度も可愛いとか思ったコトないけどな
大きな瞳もいつも鋭かったし
「セリの方が可愛いから!!!!!」
レイの声が一際大きくなる
そ、そうか、落ち着こうな?
鬼神なんて大人しくなったって言うか頭を地面にこすりつけて平伏してて怖いんだけど…
どうやら鬼神は和彦の強さプラス憧れのセリカの姿が崇めるレベルまで来てるようだ
ちょっと待てよ?俺の身体なんだから和彦の強さってなくなってるようなもんなんじゃ…
さっき和彦があのクソ重い斧を持てたのも、それプラス炎と回復魔法が使えるのもわかったけど
それでも元の和彦には足元にも及ばないだろう
なんせ身体は俺なんだから
「さすが和彦様、簡単には死なないお方だと思っておりました」
鬼神は跪きながら和彦を見上げる
どの口が言ってんだ?
神族に殺されたのは負けたから和彦は弱いとかなんとか言ってなかったか?
「人間でありながら和彦様の力を神族が脅威と感じ、卑怯な手を使うた
生死の神に魂を抜かせ、生き返らぬようその肉体も惨たらしい行い」
死者となってもこうして目の前に現れる和彦の意志の強さに鬼神は頭を上げられなかった
でも、その中でもこの後はどうするのかと鬼神は和彦の出方を伺っている
それすらも鬼神は信じて和彦より頭を下げた
俺も…鬼神みたいに和彦のコトを信じないとな
「確かに、生き返らせるって言っても鬼神の言うように和彦さんの身体がないなら無理な話なのか?」
レイはそれは難しいんじゃないかと首を傾げる
それは俺も思ってた…鬼神とフェイが和彦が殺された場所を調べに行ってその結果を聞いた時に絶望すら感じた
身体がなきゃ…
「身体がないなら奪えばいい」
和彦は当たり前のように口にする
「誰から?」
当然そんな質問が飛ぶ
「セリくんは香月の姿が好みだから、香月から奪うのも面白そうだ」
冗談にしか聞こえない
「中身がオマエだったら幻滅だっての
どんなに理想な見た目でも中身が最低だったらないだろ」
香月の見た目は中身も香月だから俺は大好きなの!!
見た目だけで好きなんじゃねぇもん!!
「それストレートにオレの中身が最低だって言ってる?」
「そうだぞ」
そんな最低な和彦が俺は好きなんだけど…ってのは言わない…
「真面目な話してるんだからふざけるなよ」
俺が言うと和彦はちょっとくらいいいだろって笑う
「オレは誰かの身体がほしいわけじゃない
生死の神に身体を奪われたなら、今度は奪い返すまでだ
借りは返す…」
和彦の冷たく恐怖さえ感じる声に場の時間が止まる感覚に陥る
これ……めちゃくちゃ怒ってるぞ…
表情には隠して出さないようにしてるが、和彦がこんなに怒るのは珍しい、和彦は滅多に怒らないから
俺が自暴自棄になった時に自分を大事にしろって俺のために怒ってくれたのが一度だけ
でもその怒りとは種類が違う
和彦にとって生死の神に反則技みたいなのを使われてあっさり負かされたコトが絶対に許せないのか
俺が敵討ちするってレベルじゃない
誰も喋れなくなって俺が聞くしかない
「奪い返すって…?
和彦の身体はもうないから…
まさか、生死の神の身体を手に入れるってコト?」
「セリくんは鈍感だけど、たまに賢い」
和彦は笑って俺の頭を撫でる
鈍感じゃねぇし!!たまにってなんだよ!?いつもアホの子みたいに言いやがって!!
「神族の肉体を手に入れるって正気っすか和彦さん!?
人間が神族の肉体を奪うなんて聞いた事ないっすよ!?」
遊馬は信じられない、そんな恐ろしいコトと引いてしまっている
「それで遊馬に可能か聞きたいんだが?」
「やった事はないっすけど…出来ない事はないと思うっす
でも、それで上手くいくかは…わかんないっすよ
人間の魂が神族の肉体に耐えられるとは思えないですし…いやいけるかこの人なら
それに生死の神の中身、つまり魂を追い出して肉体を空にしないと和彦さんの魂は入れられません」
遊馬は迷いながらも話すが、和彦を見てるとこの人ならいけそうって思ってきたのか最後の方は堂々と話していた
俺も和彦なら、神族の肉体だろうがなんだろうがモノに出来そう
「可能って事で助かるよ」
「肉体を空にするには、生死の神を倒す事っす
そうすればオレが和彦さんの魂を生死の神に入れてセリカさんの回復魔法で治せばいけるかと」
遊馬はなんでも出来て凄いな
でしょ?私の自慢のお友達よ!ふふん
セリカは誇らしげにする
「和彦様が神族になった日には、オレら鬼神と神族の因縁もなくなりますね!!」
鬼神は凄く前向きで因縁とかたぶん強さの前じゃ霞んでなくなるようだ
自分達を牢獄に閉じ込めた他の神族まで許すとか心広いな
「1つ大きな問題がある」
俺は急に真剣な表情をする
みんなを注目させといて
「俺は生死の神が好みじゃない」
これ
どうでもいいわ!って返って来るかと思ったら誰もツッコミしてくれなかった
「あーそうだね、セリくんの好みではないよね」
イングヴェィはたまに天然?って思うくらい真面目に返して来るところが好き
「セリが好きじゃない見た目なら良いじゃないか!そのまま冷めてくれても良いんだぞ」
レイはこんな時でもブレなかった
香月はスルー
「元々の和彦の見た目も好みじゃないけど好きになったら和彦の姿じゃなきゃ嫌だ」と俺はワガママをぬかす
唯一勝ってる身長でマウント取れなくなるしな!
「セリ様、ご心配なく
確か神族の肉体は魂によって変わるはずですから
堕天した神族の姿がおぞましくなるように、神族の肉体は魂の表れ
和彦様の魂は人間なので人間の時と同じ姿になるはずです」
おぉ!!便利な肉体だな!!
鬼神は俺の顔がパッと明るくなると、デレデレした顔を見せる
今はセリカの姿だからいつもより余計に鼻の下が伸びている
「神族の肉体が上手く手に入ればの話だが、オレもセリくんが好きなオレの見た目が良い」
とんとんと話が進むと希望が見えてきて大丈夫かもしれないって気持ちが強くなる
そして、和彦はみんなの前に出て頭を下げた
和彦の見たコトない姿に周りも俺も驚いて言葉も出ないまま、和彦に注目する
「生死の神はオレが倒す
それには皆の力を貸してほしい」
顔を上げて和彦は話を続けた
「セリくんの身体じゃ、生死の神1人相手が限界だ」
えっ俺の身体で生死の神は倒せるの?その自信があるコトの方が俺は凄すぎて言葉が出ないぞ
「他の神族らが大人しくしているとは思えない
決着がつくまで抑えててほしいんだ
それが出来るのは、ここにいる皆にしか頼めない」
あの和彦が誰かに頭を下げるなんて、それこそ死んでもしないと思ってた
なんでも1人で出来てプライドの塊
でも、意地にならずプライドを捨ててまで険悪な相手にも頭を下げてお願いする
その姿に誰も嫌とは言えない
誰もが和彦に協力すると言ってくれる
「遊馬くんも凄いけど、和彦くんはやっぱり凄いね
人間なのに運命に抗って切り開ける力がある
和彦くんには何度も助けられているから、ここで失うには惜しい人
俺もセリくんが悲しむ姿は見たくないからね
和彦くんに力を貸すよ」
イングヴェィはいつもの太陽の笑顔を見せてくれる
「和彦さんが頭を下げるなんて…
あんたの事は変わらず嫌いですけど、セリと約束したからオレも力を貸します」
レイは仕方ないなと言いながらも協力してくれる
「和彦様が言うならオレらは従うまで!!」
鬼神は久しぶりに暴れるぞとはしゃいでいる
「手伝うって言ったし、鬼神の面倒も見てもらう約束もあるんで
和彦さんの事は最後まで協力するっすよ
なんせセリカさんの大切な人なんで、セリカさんの幸せの為ならオレは…!!」
遊馬完全に和彦がセリカの良い人みたいに勘違いしたまま元気良く頷いてくれた
「セリの身体を人質に取られているようなもの
それなら守らなければなりませんね」
香月も和彦に協力してくれるって言ってくれて、みんなが一緒なら絶対上手くいくって気持ちにしかならない
「オレに協力するって言うよりは、セリくんとセリカの為って声ばかりだ」
「俺は和彦に協力するよ、和彦のためならなんでもするから」
ぎゅっと和彦の腕に抱き付く
「当たってる」
「何が?」
「胸が」
はっ!?と俺は和彦から離れた
そうだった、今はセリカの姿だから
なるほど…男だから気にしてなかったが女の子は胸が当たるから気を付けないといけないのか
和彦に頭を撫でられて、顔を上げると和彦の笑った顔が目に入ってきて
これまでと何も変わらない笑顔に安心する
自分の顔のハズなのに、俺にはちゃんと和彦が笑ってる顔にしか見えなかった
みんなの協力があるから絶対に上手くいく
俺だってなんだってするから、また和彦が傍にいてくれる日を待ってる…
-続く-
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