160話『生死の神と決着を』セリ編
生死の神との決着をつける時はすぐだった
時間がないのもあるが、俺の身体でちゃんと戦えるのかってのも心配だった
だけど、そんな心配も鬼神は無用だと言う
和彦の足元にも及ばない弱い俺でも、和彦には才能とセンスと戦い方がある
その和彦ならどんな身体であろうと元の自分に近い強さは可能だと
それなら俺ももっと強くなれる?って聞いたら悩むコトもなく無理と言われてしまう
俺じゃ和彦と同じ動きは出来ないし真似も出来ないからだ
和彦は持ち前の馬鹿力だけを振り回していたワケじゃないってコトみたい
さすが強さマニアの鬼神は分析力も高いな
鬼神が言うなら俺の身体でも強さの心配はないか
後は和彦の強さが生死の神に通用するかどうか…
死者の国の近くで最後の休息の夜
明日には神族と激突している
作戦は力付くで正面から堂々のシンプルなものだった
とにかく和彦はイングヴェィと俺と遊馬と一緒に生死の神の所まで駆け抜ける
その間の邪魔な神族やら敵は香月とレイと鬼神に任せていく
あっそういやキルラもいたから来てもらって同じく鬼神と一緒に暴れてもらう
香月1人でもかなり抑えられるとは思うな
和彦が生死の神と決着つけるのを見守るだけだが、和彦には俺達を守る余裕がないからもし何かあった時にってイングヴェィがいてくれるコトになった
それからイングヴェィが調べてくれたんだが、神族達は和彦を殺したコトで1つの邪魔を取り除いたと気が揺るんでいるらしい
長く自分の国や場所を空けていたからと多くの神族が一度このタイミングで帰っているとのコト
言ったら一時の休暇のような
変わらず俺の命は狙っているみたいだからすぐに集まって次は誰を狙うかって話ははじまるんだろう
とにかく、今相手はかなり油断しているってコトだ
和彦が急ぐのもこれをわかってるかのよう、いつも和彦は時間をかけない
何事も迅速な奴だ、物事によって様子見するコトもあるが
和彦にとって様子見するほど出来ないコトはないのがほとんど
さてと、明日は大きな戦いになるからみんなの顔を見てから休むかな
セリカの身体になってから1人で寝るから寂しいんだよな
いつも誰かと一緒に寝てるから
当たり前でしょ、私は女の子なんだから男と一瞬に寝れるワケないじゃない
イングヴェィに悪いもん
イングヴェィと一緒に寝るのはなんか俺は違うし、そもそもセリカはまだイングヴェィと一緒に寝てないとか
恋人同士なのになんで?
えっ?まだ恋人じゃないわよ、付き合ってほしいなんて言われてないもの
………どう見ても考えても付き合ってるって思ってたけど…
女の言葉がほしいってよく言うアレか?それがないと付き合ってないってコトになるのか…
俺なんて和彦からも香月からも付き合ってとか恋人になってとかなかったぞ?
気付いたら恋人なんだなって、それからお互い恋人って表現を使うようになるくらい
乙女心は複雑なんだな、大変そうだ
セリくん、そんなだから奇跡的に女の子と付き合えても長続きしなさそう…
奇跡的ってなんだよ!?
女心は複雑なの!!せめて私なんだから私のコトくらいはわかってほしいわ
ぷんぷんとセリカは可愛く怒る
そんなこんなで俺は最初にイングヴェィの部屋を訪ねた
「どうしたのセリくんセリカちゃん、不安で眠れないのかな?」
イングヴェィはめちゃくちゃ優しかった
話し方も声音も笑顔も、優しさに溢れまくっている
これもセリカにしか向けない特別さ
セリカである俺だからこの顔を知ってるだけで、他の人はそう見えない
俺はそんなイングヴェィの優しさに釣られるようにいつものように抱き付こうとしたら身体が動かなかった
そ、そんな恥ずかしいコト…出来ないわ!
セリくんはいつも周りに本能のままに甘えまくってるけど、私には…出来ないコトよ
セリカから繋がるドキドキと顔の熱さに、俺は感じたコトない初々しさに新鮮さを持つ
何この…ピュアな恋愛
初恋は俺だってあるよ?香月がそうだし、はじめての時のドキドキ感もわかる
でも…なんだろう…これが女の子の恋心…?男とは少し違う?
恋をする気持ちは同じだけど、その感じ方が違うんだろうか
なんか…くすぐったいし…でも、凄く良い
大切にしなきゃいけない綺麗な気持ちだった
「大丈夫だよ、俺が一緒にいるからね
和彦くんの身体はセリくんだから、万が一負けるコトがあったら俺が助ける
セリカちゃんに危害を加えようとする人がいたら守るから心配しないで」
どこまでも優しくてセリカが心からイングヴェィを信頼してるのが伝わる
話せなくなるくらいセリカはイングヴェィのコト好きなんだな
顔を真っ赤にして、いっぱいいっぱいだ
ここまでセリカを意識させる人は他にいない
うーん、仕方ねぇなぁ…俺が少し言ってやるか
「セリカはイングヴェィからの言葉を待ってるんだからちゃんと言ってやれよ
恋人にッ!?」
俺の手が首を絞めてきた
余計なコト言わないで!?いくら私でも殺すわよ!?
な、なんでだよ!?俺はセリカのために!?
余計なお世話!デリカシーなし!バカ!!嫌い!!
セリカに嫌われた…生きていけない…
「どうしたのセリカちゃん!?落ち着いて!?喧嘩しちゃダメだよ」
イングヴェィに手を掴まれ首から離れると息が出来る
呼吸が出来るって最高
私達はいいの、イングヴェィはなんでもわかってるから
イングヴェィと私は、ゆっくり進むの…
恥ずかしいから……言わせないでよね…
セリカ…可愛い
セリくんの自分好きすぎるとこキモイ
本当は私がもっとちゃんとしなきゃいけないのに、私が臆病だから…
いつもイングヴェィを待たせて迷惑かけてるってわかってるもん…
両想いなのに…セリカには悩みがあった
自分がまともな恋愛がわからないコトに焦ってる
でも、イングヴェィは俺よりセリカをわかってるのかもしれない
自分よりわかってる
「セリカちゃん、明日は早いからもうお休み
落ち着いたらまた2人でお出掛けしようね」
イングヴェィはオヤスミってセリカの額にキスをする
耳まで真っ赤になるセリカは何も言えずに頷くコトしか出来ない
それでもセリカは俯いて顔を隠しても、その下には零れる笑みで溢れてる
こんな自分の顔も感情も俺は知らなかった
自分では出来ない表情
誰か愛しい人に引き出してもらうものだから
俺も自分では知らないだけで、大好きな人の前ではこんな顔をしてるのかもしれない
イングヴェィの部屋を出ると、セリカも少し落ち着いてくれる
余計なコト言うとまた怒られるから俺は黙ってセリカの笑顔を両手で包み込んだ
順番に部屋を訪ねるなら次は香月か
香月の部屋にノックしてから入ると、俺の表情はパッと明るくなる
香月の顔を見ると大好きって気持ちが込み上げて抑えられない
俺は香月にそのまま抱き付く
セリくんは素直に行動出来ていいわね
セリカもしたいならすればいいじゃん、セリカもイングヴェィにこうして甘えたいくせに
イングヴェィは嬉しいと思うよ
「眠れないのですか」
「うーん、明日は大きな戦いになるからみんなの顔見ておきたいなって」
いつもなら眠い時間なのに眠くないのは眠れないのかもしれない
しっかり寝ておかないといけないのに
「香月がいてくれるから絶対大丈夫って思ってるけど…」
和彦のコトも、アイツなら絶対生死の神に勝てるって思ってるけど
その後の生死の神の肉体を奪うってのがやっぱり心配なんだよな
いくら和彦でも魂は人間、神族の身体が合うのかわからない
もし成功してもその後はずっと大丈夫?
わかんないよ…だから不安になる
「私を大丈夫と信じているなら、和彦も同じではありませんか」
「ううん!香月は魔族だもん、俺にしか殺せないから大丈夫って思うけど
和彦は…人間だし…殺されたところだって見た
香月とは同じじゃないよ」
「私はあの男が人間とは思えない
前に和彦を殺す気で戦った事があります」
それって、セレンの国崩壊の時の?
「私が負ける事もなければ、私が勝つ事もなかった
私が殺せない男がただの人間でしょうか
和彦はイングヴェィの言う通り、運命に抗える男です
明日、それが出来なければそれまでの男だっただけの事
セリに相応しくもない
無理な結果を見せるならそんな男はさっさと忘れる事ですね」
香月と和彦は仲が悪い、お互い嫌ってるけど
その実力はお互いが認めている
だから妙な信頼関係が出来ていると感じる時があるんだよな
香月は和彦だから許してるところもある
きっとよくわからん男だったら殺してしまってるだろう
俺が他の男と関係を持つコトを気にしてないとは言え誰でもいいワケじゃないから
「香月は…和彦のコトなんやかんや言っても認めてるよな
香月が言うなら俺も和彦のコトちゃんと信じないとダメだよな
信じようって思ってもすぐ不安になって…」
香月は俺の頭を優しく撫でてくれる
「その不安も明日には晴れるでしょう」
和彦なら絶対大丈夫だから安心しろって香月は言ってくれる
香月の言葉に勇気をもらえた
俺は香月を見上げて笑う
いつも不安になって落ち込んでも香月がいれば大丈夫って思えてくる
明日は和彦のコト信じて俺は見守るしかないんだ
香月にありがとうオヤスミって伝えて部屋を出る
あ~…早く自分の身体に戻って香月とイチャイチャしたい
いつも香月のコト好きって思う
そうよね、香月ってめちゃくちゃカッコ良くて美形で背も高くて私の超好みで見惚れちゃうわ
でもセリカは香月とは付き合えないじゃん
理想と現実は違うっていつも言ってるでしょ
うーん…まぁそうかも
香月が理想だけど、俺は香月がいない前の世界だったら理想にかすりもしない和彦と付き合ってたワケだし
いやちょっと待て、それは理想の人がいなかったからであって今は理想の人がいるんだから…
むむむ…なんかわかんなくなってきたぞ
とりあえず、次はキルラの部屋か
ノックして返事があったから開けると、女を連れ込んでいたから真顔で黙って閉めた
「用あったんじゃねぇのかよ!?」
キルラが部屋から大声を上げるが無視した
コイツの顔は見なくてもいいや
その隣、遊馬の部屋だ
ノックしたが返事がない…なんとなくドアのぶを回すと開いたから覗くと部屋は真っ暗で寝息が聞こえたから静かに閉めた
まぁ夜も遅いから寝ていてもおかしくはないよな
遊馬には今回ずっと世話になってるから本当に感謝しかない
遊馬がいなきゃ和彦のコトもどうにもならなかっただろうし、この縁はこれからも大切にしたい
次の部屋は鬼神か、ノックして入るとくつろいでいた鬼神はセリカを見るとシャキッと飛び起きて寄って来る
「あわわわわセリカ様、こんな夜中に男の部屋にいらっしゃるのはよろしくないかと」
「あら、でも貴方達は私に酷いコトしないでしょう?信じてるもの」
さすが小悪魔なセリカ
信じてるって言葉で鬼神の心を射抜いてる
鬼神は誠実で男らしいからセリカに手を出したりしない
「明日は2人の力が必要になるもの
頼りにしてるわね、よろしくお願いするわ」
言葉1つ1つが鬼神の心を鷲掴み
頼りにしてるなんて言われたら男はなんだってするぞ
「セリカ様の為なら!お任せを!!」
「我らからも、和彦様の事を傍で見守ってくだされ
セリ様とセリカ様」
鬼神はセリカの為にやる気を出して、慕っている和彦の心配をしながらも俺とセリカに託す
「和彦のコトは任せて、セリくんと私がついてるわ
それじゃあまた明日、おやすみなさい」
セリカが笑うと鬼神は顔を真っ赤にしておやすみなさいませ!と頭を下げる
鬼神は恐ろしい存在だって聞いてるけど、俺とセリカから見るとまったくそんな風に見えない
だけど、神族が閉じ込めたくらいだ
恐ろしいのは本当なんだろう
だから鬼神にとっても和彦がいなきゃいけない
鬼神自身も和彦を心底慕っているから失いたくはないだろう
次に隣の部屋はレイだ
中に入るといつもと変わらないレイの爽やかな笑顔が出迎えてくれる
でも、最近と言うかセリカの中にいる俺とは少し接し方が違うかった
「どうしたんだい?眠れないのかい?」
「いや、みんなの顔を見たくて」
「オレ以外にも会ってたって事か…」
レイは少しメンヘラさを見せて、俺に触れようとしたがすぐに手を引いた
あっそうか、そうだ
レイは最近全然俺に触ってないんだ
「レイが俺に触れないなんて…もしかしてもう俺なんてどうでもいい?」
「まさか!?今だって触れたいさ
毎日キスだってしたいが、我慢している」
「なんで?すればいいのに」
レイは目を反らして、でも恐る恐る俺を見る
「そんな事したらセリカに殺される…」
俺からはわからないが、レイからはセリカの殺気を感じると怯えている
レイは俺に対しては嫌われるだろってくらい色々してくるけど
セリカに対しては嫌われるようなコトはしたくないって思ってるみたいだ
なんでだよ!?セリカだって俺なのに!!
きっと、俺は何されてもレイを本気で嫌いになれないってのがバレていて酷いコトされるのも甘えてるんだってわかる
けど、セリカは違う
セリカは本気でレイを嫌う
だからレイは嫌われるコトを恐れて何も出来ない
俺もそうだったらレイも何も出来ないけど、俺は何されてもレイを受け入れちゃうからそれが悪くて逆にメンヘラを暴走させてしまうのかもしれない
「オレはセリカの事が好きなんだが」
「私は好きじゃないわ」
レイが目に見えて傷付いてるのがわかる
「大悪魔と契約してセリくんに好かれてるだけで、それがなかったらレイのコトなんて」
言い過ぎだと俺は自分の口を塞ぐ
セリカは容赦なくレイにトドメを刺そうとする
大悪魔の話持ち出されてレイ息してないもん
「俺はそれも受け入れてるから、この気持ちは大悪魔のせいでもいいって思うくらいレイのコト好きだよ」
そう言うとレイが息を吹き返す
セリくんは…騙されてるわ
私がレイを好きじゃないコトが証拠
その気持ちはウソで出来てる…本物じゃないわ…
それでも俺はこれまでレイにたくさん助けられて守られてきたんだ
理解してくれて受け入れてくれて愛してくれて
それを考えただけで思い出すだけで、好きになる要素しかないよ
好きを掻き消すくらいの酷いコトだってたくさんされたわ
俺は、それもひっくるめて好きって思うけどな
「セリカと一緒じゃ意見がぶつかり合うから元の姿に戻ったら、また触れてよ」
「……あぁ…セリカには申し訳ない
それでもオレはセリが好きだから…セリカの事が好きだから…
いつか本当に好きになってもらえるように頑張るよ」
レイは諦めないって笑顔を見せる
私だって…レイに助けてもらって守ってもらって…わかってるわよ
でも……私はレイが…恐い…
セリカ……
俺は楽なのかもしれない…セリカの苦しみがわからないワケじゃない
だってそれは俺なんだから
その苦しみを大悪魔の契約で好きに変えられて、レイを好きでいるコトは楽だった…
いつか本当の気持ちがわかる時がある
それまでは俺は自分の決めたコトを揺るがない
そして、最後の部屋は和彦だった
ドアをノックしようと思った時に視界の隅に人影が映るコトに気付く
そっちに顔を向けるとセレンが立っていた
セレン!?なんでここに!?
「セリ様…生死の神を倒しにいらしたのでございますね」
しかもバレてる…!?
これはマズい状況なんじゃ…
神族は夜に弱いと言っても神力が低下するだけで行動が制限されるワケじゃない
戦いになったら、俺じゃ厳しい…
でも、セレンの顔を見ると結夢ちゃんのコトで怒りがこみ上げる
「セレン、1人か?あんなコトしておいてよく俺の前に姿を現せたな」
俺が睨み付けるとセレンは目を逸らして申し訳なさそうに表情に憂いを見せた
勝利の神のせいで今のセレンも、あの時のセレンも本物かどうかはわからないわ…
確かに、セリカの言う通り俺もそう感じてはいるが怒りがどうしてもセレンが本物であろうと偽者であろうと向いてしまう
「セレンは酷い事をした自覚はありますわ
謝っても許してもらえるなんて思ってませんけれど」
本物か偽者かは置いておいて、あの時のセレンと今のセレンは同じか
「謝る?なんの心変わりだ?それともまたフィオーラの…勝利の神の作戦?
結夢ちゃんを殺しかけたのに、謝っても俺は許さない」
結夢ちゃんはきっと謝ればセレンのコトを許すだろう
凄く優しいから…
でも…いや、俺はセレンに怒りを向けてセレンのせいにしてるだけだ
俺がもっと強かったら…あんな状況にはならなかった
結夢ちゃんに守られなきゃいけないほど俺が弱かったから…
自分自身も許せない…
「わかっております、女神結夢さんを傷付けたのはセレンですわ…
セレンも女神の端くれ、神族ですもの
神族の考えがあって当然
しかし…女神結夢さんの姿を見た時、考えが揺れましたわ
自分が死ぬとわかっていても守りたい存在
セレンはリジェウェィ様の事を好いておりましたが…セレンは自分の命を懸けてまで守れるかと…
セレンには出来ない事を目の前にして…
考え直しましたの、神族である自分の在り方…そしてこれからの神族ではないセレンの在り方を決めたのですわ」
セレンは地面に膝をついて両手を組み俺を見据える
「女神結夢さんには後で直接謝ります
今はセリ様にもう一度認めてもらう為に許しを請います
セレンは反省しておりますわ
セレンは、セリ様の側に付きます
対立しない事を誓い、もう二度と貴方様を裏切りません!!」
まっすぐ俺の目を見て話すセレンはいつもふざけてる姿じゃない別人のようにも見えて、逆にそれが偽者なんじゃ…って疑うくらい真剣だった
許す、許さないは結夢ちゃんが決めるコト
俺は…あの時のコトは怒りしかないし俺はあの時のセレンを許せないけど
本音を言えば、セレンはこの世界に来てからずっとお世話になってて
またふざけてていいから前みたいな関係に戻りたい気持ちもある
凄く複雑だ
ウソは…言ってない……けど、本当に目の前のセレンは本物なのか?
信じて…いいんだろうか
「……セレンの好きなカップリングは?」
「レイ様とセリ様でございますわ!!」
これは本物だな
セレンのコトだからどこでも趣味の話してたら勝利の神が知っててもおかしくはないわよ
まぁそれもあるな
ってか嫌だな広められてるの…
でも、この腐った顔はセレンにしかできない
偽者にはこの心から腐女子の顔はできないんじゃねぇかな
俺はセレンのコトなんやかんや言ってるし思うところもあるが、意外にこの世界では長い付き合いのうちに入る
本物か偽者かわかるくらいセレンのコト知ってると思って…いいかな
偽和彦の時はわからなかったのに?
あれは!?気が動転しててショックで悲しくてなんかダメだった…
冷静になって思い出すと絶対偽者だってわかるのにな
まっセレンはなんやかんやセリくんのコト推しだから、女神の自分とセレンとしての自分で悩んだり迷ったりしてたんじゃないかな
うーん、でもあの時はマジで殺しに来てたけど…
「……わかった、俺は保留にする
結夢ちゃんに謝って、許してもらえたら
また前みたいに戻れるようにはなる…かもな」
一度殺されかけてるから前みたいにって微妙だけど
でも、俺は前の世界で恋人の和彦に殺されてるからそれに比べたら友人のセレンの未遂なんて軽いもんか
「セリ様…!許して頂けますのね!」
「保留って言ったの聞こえてないのか?」
「女神結夢さんにはしっかり謝って償いますわ!
またセリ様と男達の絡みが間近で見られる至福の時間が戻って」
「やっぱ仲悪いままでいような!?許せねぇわ色々と!?」
セレンは男に二言はないのでは?と何故か上から目線でルンルン気分だ
勝手に保留を許しを貰ったに脳内変換してやがる
くっ…なんかムカつく…
いつものコトね
確かに、いつものコトでこの調子の良さと切り替えの速さは偽者には出来ないな
「セレンの趣味が1番大切ですけれど」
1番って言い切ったな
「でも、女神結夢さんに胸打たれたのも本当ですわよ
神族を、女神である事より自分の気持ちを貫くなんて…素敵ですわ
なので!!セレンも自分のBL趣味を貫きますわ~~~!!
無職最高ですの!!」
前半の言葉には感動すら覚えたのに、後半で全部消えた
結夢ちゃんの気持ちね…みんなわかってるけど、わかってない人が1名いるのよね
人の気持ちがわからない奴っているよな
……………。
急にセリカ黙り込むけど!?なんで!?
セレンは無視して和彦の部屋に入りましょ
この人に付き合ってたら朝が来るわ
そうだな
俺はセレンを放置して和彦の部屋の前に立つ
他の部屋より緊張して一呼吸置いてからノックをする
返事がないと思ったらドアが開いて引っ張られるように部屋に連れ込まれた
「こんな夜中にオレの部屋に来るなんて、いいの?」
ドア越しにセレンとの話を盗み聞きしてたのか、和彦は俺を捕まえるとドアの鍵を閉める
和彦が出て来なかったってコトはやっぱりセレンは偽者じゃなくて本物って信じられるのかも
和彦は勘も鋭いから俺が危なかったらすぐに姿を見せただろうから
「いいワケあるか!?離せ!?」
コイツ、明日に緊張してないんか!?こんな時でもいつも通りかよ
抱き締める和彦の腕の中でもがき身体を後ろに向けるとそのまま後ろから胸を揉まれる
「きゃー!?何するのよ!?触らないで!!」
セリカが悲鳴を上げて和彦にセクハラを止めるように言うが、聞く気はなさそうだ
「今はセリくんでもあるんだからオレが好きにしても構わないだろ」
「何おかしなコト言ってんだ!?セリカが嫌がってるんだからやめろバカ!!」
ちょっとしたおふざけなのにって和彦は笑って手を離した
セリカは警戒して自分の身を守るように和彦から離れる
コイツ…ある意味スゲー…
みんな今の俺をセリカと気遣って必要以上に触れたりしないのにコイツはお構いなしかよ
普段からセリカには遠慮なくセクハラはしてるけど、セリカは嫌がってるぞ
「女の子のセリくんを抱きたいって思うのに」
和彦は俺の顎をすくう
「絶対やめろよ、本気で怒るしそれだけは嫌いになるからな
セリカと一線越えたらいくらオマエでも絶対許さねぇから」
「はいはい、わかってるよ」
和彦は冗談なのにと笑う
本当に冗談か?恐いわコイツ
「変わりねぇけど、ちょっとは明日のコトで緊張しろよ」
「勝つとわかっている戦いに何の緊張をしなきゃならないんだ」
その弱い俺の身体でも自信過剰なのが凄いわ、もう尊敬する
「セリくんに触りたいのに触らせてくれない」
明日の緊張や心配どころか和彦はいつも通り
俺の身体なのに俺に触りたいって面白いな
「今のオマエの身体でも触ってろ」
そう、いつも通りのやり取り
明日の不安が薄れるくらい和彦の変わりない姿は俺も釣られていつもを過ごしてしまう
和彦は、俺を不安にさせないためにしてる?
いやただのいつものセクハラか
「触れないなら一緒に寝るくらいはいいだろ?」
和彦はベッドに来てぽんぽんと叩く
うーん、セリカ次第
「変なコトしないって約束するならいいわよ」
「約束しよう」
和彦は約束は守るからそう言わせたなら大丈夫
私のコトは気にしないで、セリくんも和彦と一緒に寝たいでしょ?
うん…
セリカが良いって言ってくれて俺は和彦の隣で寝るコトにした
聞きたいコトはたくさんあった…明日の不安なコトだって
でも、和彦がいつも通りだから俺もいつも通りにする
寝る前に頭を撫でてくれるのも…俺は大好きなんだ
「セリくん…今回の事が落ち着いたらまた暫くオレと2人っきりで出掛けてくれないか?」
香月とレイには悪いが、と和彦は言う
ここずっと和彦が俺を独り占めしてるから、でも香月もレイも事情をわかってるから仕方ないって大目に見てくれる
「……うんいいよ、だから絶対勝てよ」
和彦が嬉しそうに俺の髪にキスをする
いっぱい不安にさせた分、埋めてよ満たしてよ
幸せだってもう一度教えて、それがわかるまで2人っきりで一緒にいたい
隣にいる和彦の体温を感じて俺は安心しながら眠りにつく
きっと…大丈夫…和彦なら、俺はなんやかんや何度不安に襲われても和彦を心の底から信じてる
次の日、俺達は死者の国へとやってきた
奪われた身体を取り返しに、生死の神と決着をつけるのが目的
当然正面からやってきた俺達を神族や骸骨天使が道を塞ぐ
骸骨天使はレイの光魔法でトドメを刺し、神族は香月と鬼神が食い止める
キルラは適当に暴れてる
ちなみにセレンは神族が倒されるところは同族として見たくないってコトで先に帰っている
セレンがそう言うなら、セレンも和彦が勝つって思ってるってコトなんだろうな
しかし、やっぱり香月は飛び抜けて強いな…
鬼神が香月の強さを目の前にして震えている
和彦と同じものを感じているようだ
ここは心配なさそうだな、神族も強そうなのいないみたいだし
いや香月が強すぎて弱く見えるだけなのかも
その出来た道を和彦とイングヴェィと俺と遊馬で駆け抜ける
まぁよくあるボス部屋、戦いやすい広い場所に辿り着くとそこに生死の神が待ち受けていた
生死の神の姿を見ると、俺は和彦を殺された時の気持ちが強く蘇って怒りが湧く
和彦の仇…絶対に殺してやる…
そう勇者の剣に手をやると和彦が手を出して俺を止めた
和彦の姿を見て俺は少し落ち着く
生死の神を倒すのは和彦自身、奪われた身体を取り返すために…
それに俺の身体を貸しているから、和彦が倒すってコトは俺の手で生死の神を倒すコトにはなるのか
俺は手出しせず和彦が勝つって信じて見守るしかない
和彦だけが生死の神に近付く
俺達はそれを見守って邪魔にならない距離を取る
生死の神は俺が殺されにやってきて捜す手間が省けたと思っているのだろう
逃げるコトもなく不気味な笑みで俺達を眺めては、近付く和彦へと視線を移す
「あんたに奪われた身体を取り返しに来たよ」
「天の異物の身体を借りてまで悪足掻き、人間如き神に逆らうなら今度はその魂も消し去る」
生死の神の言葉に俺は強い不安と心配を持つ
今度は…負けたら…魂まで消される?
そんなコトになったら…それこそ、二度と和彦に会えなくなる
和彦を失うなんて…
「大丈夫、和彦くんは勝つよ」
冷たく震える肩をイングヴェィが落ち着かせるように叩いて優しい言葉をかけてくれる
「でも」
「和彦くんはセリくんの身体を借りているからね
自分が負けるってコトはセリくんの身体も失うってコト
何が何でも勝ちにいくよ
君のために」
「イングヴェィ…」
俺の身体はどうなってもいい…和彦が生きてくれるなら…なんでも…
頑張って、和彦…そんな奴に負けるな
俺は強く祈って見守るコトにした
和彦と生死の神はどちらからともなくぶつかり合う
スピードは和彦の方が上か、すぐに生死の神の背後を取ってそのまま斧を振り上げたが
生死の背から尖った骨が和彦の胸を突き刺す
いくら俺の回復魔法が使えるからと言っても即死はどうしようもない
ヤバいと目を閉じたくなったが
「そう簡単にはいかないか」
和彦も突き刺った部分をズラして簡単に自分の弱点をやられるワケにはいかない
回復魔法は無痛にもなれるから攻撃を受けて怯むコトはなく、和彦は突き刺った骨を力任せにへし折り引き抜いて回復魔法で傷を塞いだ
力任せにって…俺の身体なのに、俺にあの太い骨をへし折る力はないぞ
「天の異物の回復魔法、厄介な」
即死しない限り攻撃を受けてまで間合いを詰められる
生死の神にとって、いやどんな相手だろうと攻撃に怯まない相手は厄介になる
俺はそれを頼りにごり押しみたいな戦い方をするコトもある
もちろん和彦も、自分の身体じゃないから普段の強さを十分に出せないなら、俺の戦い方も取り入れるコトになる
和彦は戦いの天才でセンスも抜群だ
俺の身体でも…生死の神を押してる…ように見える
でも…何故か、やっぱり不安が消えない
「セリ様、セリカ様」
和彦を見守っていると、後ろから名前を呼ばれた時には俺はもう捕まえられていた
気付いたらそこにいる…だから、イングヴェィも気付くのに遅れてフィオーラに俺が人質に取られてしまったんだ
いや…コイツはフィオーラの姿をした勝利の神だ…
「セリカちゃん!?」「セリさん!!」
イングヴェィと遊馬が振り返ったが、勝利の神に動くなと言われ緊張が走る
その時、俺の不安は的中してしまう
和彦は目の前の生死の神に集中しなきゃいけないのに、俺が人質に取られたコトに気付き目線も意識も奪われた
その隙を生死の神は逃さない
「タッチ」
和彦の身体に生死の神の手が触れた
あっ…あぁ……そうだ……
和彦は…俺のせいで弱くなるって、足を掬われるって言われてたのに
心配で傍にいるコトが和彦にとってよくなかったんだ…
生死の神は人間に触れると魂を抜き取るコトが出来る
同じだ…和彦が殺された時と同じコトを…もう一度…目の前で見なきゃいけないなんて…
「……ふふ」
だけど、和彦は笑みを零した後に生死の神を蹴飛ばして壁に叩きつけた
「セリくんの身体をあんたがどうこう出来るわけないだろ
お前ごときが触れていい身体じゃない」
和彦…
不安が…晴れて…消えていく…なくなっていく
絶望すらはねのけて
ずっと、不安だったのはこれだったんだ
でも…和彦は…生死の神に触れられても、魂を抜かれなかった
神の創った人間とは違う、天の創った人間…俺の身体だから…誰もその中にある和彦の魂に触れるコトは許されない
よかった…和彦
「正直ヒヤッとした
でも、オレはセリくんの身体に守られているんだな
ありがとう…
…イングヴェィ、セリくんとセリカの事は任せる、必ず助けろ」
和彦はイングヴェィを信頼して託す
自分は生死の神と勝負を決めると、勝ちに行くと前だけを見る
うん…和彦の足手まといにだけはなりたくない
「言われなくても、俺が守るよ
頑張ってね和彦くん」
「オレは…?」
遊馬が小さく騒ぐ
和彦はイングヴェィの想いと強さは信頼しているが、遊馬は毛色が違いすぎて頼りになる部分も変わる
俺も、遊馬には決着がついた後のコトを頼りにしてる
それは遊馬にしか出来ないコトだから
それじゃあ…和彦の気が散るのも困るからフィオーラから離れましょうね
私は自分の首元に突きつけられた刃を握り締めた
その一瞬だけでいい、後はイングヴェィが助けてくれるから
「しまった…!?」
イングヴェィは私に刃を向けたフィオーラの手を切断して、私を引き寄せて助ける
なくなった手の痛みに怯んでる隙にイングヴェィはフィオーラの足を引っ掛け地面に倒れるその身体を逃がさないように踏みつけた
「甘いわね、私を人質に取るならもっと距離を取らなきゃ意味がないわ
こんな近くじゃ人質の意味もない
私のコト何も知らないのね勝利の神…」
刃で怪我した傷はすぐに回復魔法で綺麗になる
即死でない限りどんな脅しも意味がない
俺は簡単には殺せない
「さようなら」
私は勇者の剣を引き抜き、その刃先をフィオーラの首元に突きつける
「待ってくれ!!僕を殺すと愛と美の神のフィオーラも死ぬ事になるがいいのか?」
「やっぱり…それって勝利の神と愛と美の神が同一人物ってコトでいいのかしら?」
突きつける剣は引かない
私はそのままフィオーラに聞き返した
「やっぱり?セリカさんわかってたんすか?」
なんとなく、もしかしたらそうなんじゃないかって程度で確信はないわ
フィオーラは無職のセレン、姿の見えない結夢ちゃんと違って多少なりとも神族と交流があった
だけど、勝利の神のコトは名前だけしか聞いたコトがなくどんな人なのかも知らないし会ったコトがない
会ったコトないのは当然と言うなら、それはもう自分の別人格だから…
勝利の神は勝つためならどんなコトでも出来るらしいから、フィオーラの姿で翻弄してる可能性もあるけど
それは問題ないわ
だって
「オマエが愛と美の神フィオーラでも、殺すって決めてるからね」
待っての言葉が出る前に私はフィオーラの喉に剣を突き刺す
「そう…簡単には死なないか、神族だものね」
涙も鼻水も口から溢れるものも真っ赤に染まって苦しむ顔が目に焼き付く
構うコトはない、私はフィオーラの顔と身体を引き離すように切り落とした
「まだ生きてるわ」
とても苦しそうだけれど、愛と美の神のフィオーラは嫌いじゃないから出来れば一思いに殺してあげたいわ
私は別に苦しむ姿が見たいワケじゃないし
うーん…
「セリカちゃん、俺に任せて
とどめを刺してあげる」
イングヴェィはニッコリといつもと変わらない笑顔を向けた
俺は勇者の剣を鞘に収める
イングヴェィが武器をフィオーラに向ける前に俺はフィオーラの顔を掴んで、胴体にくっつけ回復魔法で繋げた
セリカ…ちょっとやり過ぎだ
フィオーラは、自分が勝利の神って別人格があるコトすら知らないなら殺すのは可哀想だろ
あら…セリくん、和彦を殺された恨みはもう忘れたの?
………忘れてなんかいねぇよ…今だって自分の手で殺したいって思う
その俺の気持ちがセリカに強く出てる
セリカは俺なのだから…俺にそんな気持ちはないなんてコトはなくて、そのまま映し出される
この勝利の神は生かしておくとこの先も狙われ続けるわよ
次はどんな手で私達に勝ちに来るか…
それなら今こちらが殺せるうちに殺しておかないとね
でも…それじゃ愛と美の神のフィオーラは?
慕っているセリカの手で殺されるには…あまりに……
そんなコトどうでもいいわ
私は和彦の敵討ちをしたいの
ここで生かして大切な人をまた奪われるなら、愛と美の神のフィオーラごと消してもいい
私にとって、愛と美のフィオーラは嫌いじゃないってだけで、この憎しみに比べたら考えるほどでもないわ
そうでしょ?セリくん…ううん、俺
セリカの言葉は俺の言葉だ
俺自身の強い想い…憎しみ…
それでもフィオーラを助けた俺は…その行動はなんだ?
和彦はまだ死んでないから…?生き返るって信じてるから…?
でも、それは今だけのコト
勝利の神を生かしていたら、きっとこの先また辛いコトが起きる
それをわかってるのに…
「いや…フィオーラは…殺さない…」
「……危ないね、その甘さ
いいよ、フィオーラは捕らえておくコトにして
いつでも殺せるようにしておこうか、セリくん」
イングヴェィの冷たい手が俺の手に重なる
その俺の手は勇者の剣にあって、今にも引き抜いてフィオーラを斬ろうとしていた
イングヴェィに止められたんだ
俺はフィオーラを憎んでる…和彦を殺したフィオーラを許せない…
殺しても気が晴れないってわかってるのに
生かすなんてもっと複雑だ
セリカに、愛と美の神のフィオーラと同一人物なら殺すのは可哀想だと言われてやっと抑えてるくらいだ
「よかったわねフィオーラ、命だけは助かって」
「いつでも殺される形にされて素直に喜べない」
「勝利の神、オマエと話してると気分が悪いのよね
失せろ、愛と美の神と人格を変えないともう殺しちまいそうだ」
勝利の神は、人間のそれも天の子の俺に負けた形になったコトに唇を噛みながらも命を選び愛と美の神のフィオーラと交代した
「…あれぇ?僕は勝利の神の事を調べてたはずなんだけど、セリカ様のお顔が目の前にあるなんてラッキーだねぇ」
スッと顔付きが変わる
本当に二重人格だったのか…
勝利の神は自分に別人格の愛と美の神があるコトはわかってたみたいだが、愛と美の神は気付いてないみたいだな
ここは話してわからせておいた方が、愛と美の神が勝利の神を意識的に抑えてくれたらいいが…
俺は愛と美の神のフィオーラに勝利の神のフィオーラのコトを話した
「な、なんだってぇ!!!!???」
フィオーラは大袈裟に驚いてみせる
わざとなのか素なのか…
「はぁどおりで勝利の神に会った事がないはずだね
僕自身がそうだったなんてねぇ、驚き驚き」
「わざとらしいな、本当はわかってたんじゃないのか?」
「いいや、わからなかったねぇ
たまに意識がないと思ってた事はあったけど、僕はぼーっとしてる性格だからそのせいかと思ってたね」
「あっそ、なんか怪しいからオマエには気を許さないコトにするよ
とりあえず生かしてやるけど、妙な真似したら殺すからな」
「怖いねぇ、殺されるのは勘弁
それに僕はセリ様とセリカ様の味方だって言うのに、疑われて悲しいね」
フィオーラはハハハと笑っては全然悲しそうじゃない
コイツ、本当に信用していいのか
俺達の味方だって言ってたら甘く見てもらえると思ってんのか
まぁいいや…そん時は恨みと一緒に殺せばいい
見逃したと言っても俺は和彦のコトで許せない気持ちはずっとあるから
…そう言えば、さっきフィオーラがたまに意識がないって言ってたけど
俺も最近たまに意識が途切れるコトあるんだよな
もしかして俺も二重人格…?ありえねぇな
ただ疲れてるだけだと思うが
「それにしても凄いね」
「ん?」
フィオーラは俺達の後ろを指差して感心する
「セリ様の身体で生死の神に勝つなんて
君の恋人の和彦様は本当に人間と呼んでいいのかね」
その言葉で俺達は振り向く
まだ決着はついていないのに、和彦に勝利の言葉を贈る
愛と美の神なのか勝利の神なのか…そんなコト気にならないくらい和彦の姿に目を奪われる
俺の身体を俺以上に力を使えるその姿は神を圧倒するほどに…
「信じられない…この生死の神を…ここまで追い詰めて」
生死の神は持つ武器の大鎌が熱で溶けて、その刃が使い物にならないコトにたじろぐ
和彦は俺の炎魔法を俺以上の火力で、生死の神の武器を封じる
俺の魔力は勇者の剣があれば底なしだ
だけど、俺は炎魔法を和彦ほど強力には使えなかった
神族が持つ武器ならそれこそ簡単には破壊出来ない
なのに、和彦はどうやってその威力を扱えたのかわからないくらい戦うコトには天才さを見せる
慣れない俺の身体でも…すぐに俺以上に使いこなしてしまうんだからな
「信じられない?あんたは最初からわかっていたはずだ
あの時、オレの魂を引き抜いた時からな
勝てないとわかっていたからその方法しかなかった
神の言うただの人間のオレに、神の力を使わなきゃ勝てないってあんた自身が負けを認めている
その時点で、オレには勝てないってわかっているのに
負けるのが嘘みたいな顔をされても、おかしいだけだ」
和彦は勝利を確信した笑みで斧を振り上げる
その隙を生死の神は見逃さず和彦の心臓目掛けて手を鋭い骨に変えては伸ばしえぐりに来た
「どう足掻いても、あんたの負け」
でも、和彦は片足に体重をかけて心臓の位置ををズラす
生死の神は和彦の脇腹をえぐり抜いただけで、振り下ろされた和彦の斧で身体を斜めに真っ二つにされ地面へと倒れた
「痛くないって最強だな、セリくんの回復魔法」
えぐられた脇腹を瞬時に回復魔法で治して和彦は生死の神の姿を見下ろす
「す…すげーっ……っす」
零れるような遊馬の言葉
俺はまだ実感がなくて、言葉が出ない
ただただ…和彦の姿を眺めるコトしか出来なくて…
そうだ、和彦は神族を倒したコトがある
生死の神がどれほどの強さか知らないが、1対1なら和彦の敵じゃない
俺の身体でも和彦なら…勝ってみせてくれる
「セリくん、勝ったよ
何か言ってくれないのか?」
生死の神が立ち上がる様子がないのを確認してから和彦が俺の方へと笑って顔を向ける
急に言われても…言葉なんて出ない
「……やっぱ和彦って…人間辞めてるんだな」
「ん?ドン引きされてる?もっと喜んでくれると思ったのに」
本当に詰まった言葉にいっぱい言いたいコトがあるよ
でも…まだ……終わってない
生死の神を倒すコトが終わりじゃない
和彦が生死の神の身体で生き返るまで…俺は、和彦に笑ってやれるコトも出来ない…
「ほらほら、和彦様お喋りはこれが終わってからにしてくれないかねぇ」
フィオーラは真っ二つになりながらも虫の息の生死の神を指差す
首を切り離されてもすぐには死ななかったフィオーラ、身体を切り離されても瀕死の生死の神は微かに生きていると言える
死んでは困る
回復魔法は死人には使えないからな
さっきフィオーラに勝利の神のコトと一緒に俺達の状況も話しておいたから
無駄にならないように早くと遊馬の顔を見る
「はっ!?和彦さんが無敵すぎて口開いてたっす
ここからはオレの出番っすね!
神族でもここまで弱った魂なら和彦さんの魂に入れ替える事も出来るっす
任せてくださいよセリカさん!!にカッコ良いとこ見せるっすから!!!」
遊馬はセリカに満面の笑みを見せてやる気を出す
そのやる気をさらに高めるためにセリカもニッコリ笑顔で遊馬にお願いした
「うん、遊馬なら信頼してるからね
頑張ってね、よろしくお願いするわ」
さぁセリカさんの中にあるセリさんの魂も一緒に戻しますからと遊馬の言われた通りにする
まぁ座るだけなんだけど
「1つ聞きたいんだが、フィオーラはこの結果でいいのか?
人間のオレが神族の肉体を手に入れるコトに、神族のフィオーラとしてどう思ってるんだ?」
遊馬が集中してなんか一生懸命やってるところに和彦はフィオーラへと質問を投げかける
「神族としての僕の意見ねぇ…
正直、僕は和彦様の事を人間とは思ってないね
本当に人間でもね…これから生死の神になるなら半分は神族だ
僕達の仲間になるって事
僕は仲良くしたいと思うと言っておこうかねぇ
そして、ここからは勝利の神としての僕の意見だけど」
勝利の神と聞いて和彦の瞳が鋭くなる
イングヴェィも気付いてはいるが何もしないってコトは勝利の神は俺達に何かするつもりはなくただ伝えたいだけなんだろう
「今回、僕は負けてない
和彦様が僕達と同じ神族になるなら勝ち負けはないでしょ?
ただ…肉体は生死の神でも魂は人間だからよく思わない神は多いんじゃないかね
どうせ貴方の事だから多数決も力でねじ伏せて制するんだろうね
同じ思考になると付け込まれるから気を付けて」
クククと勝利の神は嫌な笑みを置いて愛と美の神へと代わった
嫌な奴…
負けを認めないで、これからも敵は多いと言い残す
いや、最初から言っててもらった方がいいか
「和彦様、油断しないでくださいね
人間の魂が神族の肉体に適応出来るかはわからない
下手したら消滅もありえるからねぇ」
その言葉に俺は和彦の方に目を向ける
だけど、和彦は俺の手を掴んで
「心配するな、死んでもセリくんを離さないって言っただろ
信じて待っていろ」
俺の顔はきっと心配と不安で潰れそうに見えるだろう
和彦は…そんな俺の気持ちを察して大丈夫だって言ってくれる
その時、遊馬に目を閉じてと言われ和彦の顔が一瞬だけ視界から消えてしまう
和彦の手を…強く握り返す
大丈夫…俺は和彦を信じてる
和彦に出来ないコトなんて何もない、和彦はなんだって可能にしてきた
だから……今回だって…和彦は、未来ですら嘘をつかない
「セリさん目を開けて和彦さんを回復魔法で治してあげてくださいっす」
遊馬の合図で目を開けると俺はセリカの手を握っていた
俺だった和彦の手は、遊馬の術で自分へと戻る
すぐに目の前の生死の神の身体を回復魔法で治した
不思議なコトに生死の神の肉体である姿形は人間の和彦のままだった
遊馬が言った通り、神族の肉体は魂によって姿形が決まる
「和彦!!起きろよ…」
地面に倒れたままの和彦の身体を抱き起こす
呼び掛けても反応はない
姿が和彦だから遊馬の生死の神に和彦の魂を入れるコトには成功したんだろうけど…
「……暫く目を覚まさないかもしれないっすね」
「様子を見るしかないねぇ
神族の肉体に人間の魂を入れるなんて前代未聞だからね」
やっとここまできた…
最後の最後でダメだなんて…ないよな…
和彦が目を覚ましてくれないと、ずっと怖いよ
「セリくん、和彦くんのコトだから大丈夫だよ
信じて目を覚ますのを待ってあげようね」
遊馬もフィオーラも、イングヴェィもみんな心配してくれる
「和彦は…セリくんのコト大好きだもん
すぐに目を覚ますわ…
抱き締めて愛してるって…言ってくれる」
セリカの言葉は不安な俺が自分を慰めるように、無理矢理にでも前向きにするよう自分に言い聞かせる
俺は…和彦を信じてる…
だけど……
目が覚めなくても和彦が生死の神になったコトで、骸骨天使は足止めしてくれていた香月やレイ、キルラと鬼神達への攻撃を途端に止め大人しくなったらしい
神族達もそれに気付いたのか、戦う理由は今はなくなったと言って帰って行ったそうだ
その話も聞き流すコトしか出来なくて、俺は目の前にいる和彦のコトしか見えなかった
生死の神の城でみんなが休む深夜になっても、俺は眠るコトなく和彦の傍にいる
この一室も綺麗に整えられた客間のひとつ
ベッドで眠る和彦の顔を見て俺は、やっぱり不安が大きくなる
信じて待つって言ったって……いつまで?
何日したら起きてくれる?もしかしたら何年もかかる?
俺が死ぬまで目が覚めないかも…
なんて……どんどんまた悪い方にしか考えられなくなってくる
「和彦……」
早く俺を安心させて…いつもみたいに……
じゃないと…
「悲しいよ…」
和彦の手を強く握る
視界が霞んで涙が零れても…それを拭ってくれる指はない
「……セリくんは、すぐ泣く」
瞬きで一瞬視界が真っ暗になった時、目元に温かい指が当たる
ハッと目を開けると霞む視界でよく見えないけど、何度か瞬きしたら
呆れながらも笑う和彦の顔があった
「すぐ不安になってメンヘラになるから、一時も目が離せないな」
和彦は上半身を起こして俺の顔を手で挟む
その手に俺は自分の手を重ねて、懐かしい温かさも匂いも…何もかも変わらない和彦に
……やっぱり言葉が詰まって出てこない
「………オマエが…不安にさせるから…
和彦が殺されたのを目の前で見て
人間なのに神族の生死の神と戦うとか言い出して
挙げ句の果てにその肉体で生き返るとか
不可能なコトばっか言われたら、アホかって不安になるだろ」
「オレが嘘ついた事あったか?オレに不可能な事なんてないよ」
頬に残る涙を和彦はキスで拭う
「たまたまじゃん…」
他の神族や骸骨天使を抑えてくれる香月やレイ達がいてくれて
1番重要な、魂の入れ替えが出来る遊馬がいてくれて…
みんながいなかったら…絶対に無理なコトじゃん
「たまたまだろうか…セリくんを好きになった時から、オレは死ねないってわかっていたさ」
「確かに…言ったら2回死んでるのに死んでないようなもんだもんな」
1回目は前の世界で、死んでまで俺を追いかけてくる恐ろしさ
和彦の顔が近付いて、俺はそっと目を閉じてその唇を受け入れる
「それに、生まれ変わりたくなかった
セリくんを忘れるから、忘れたくないからオレは人間を辞めるしかなかったんだよ」
「………それって」
和彦の言葉に、俺の顔は熱を上げる
胸が高鳴って苦しいくらいの幸せな気持ち
「魔王の香月だけにセリくんを独り占めさせたくないし、エルフのレイに奪われるのも気に入らない
オレだってセリくんの永遠の恋人でいたい」
「…………。」
……死ぬほど嬉しいコト言ってくれるじゃん……
この部屋、めっちゃ暑くないか?
いいのかな…こんな幸せで、和彦もずっと一緒にいられるなんて……ヤバい…嬉しい
顔がニヤつくだろ
「それにしても、生死の神の肉体とは思えないくらい何も変わらないな」
和彦はベッドから降りて鏡の前で自分の姿を確認する
「そうだな、見た目は完全に和彦だ
せっかくだからもっと身長高くすればよかったのに」
「セリくんの大好きな香月は180cmの高身長だもんな」
和彦は150だから香月とは30も差があるのか
和彦の態度とか雰囲気とかプライドが高過ぎで大きく見えるだけで、チビなんだよな
まぁ……あそこの大きさは…香月と変わらないくらい…人外レベルの……デカさではあるんだが……って何思い出してんだ
恥ずかしい…
「レイはセリくんと理想の身長差20cmだから173cmか、羨ましいな」
「へー、和彦でも羨ましいって思うコトあるんだ
身長のコトはコンプレックスじゃないって言ってたのに」
「気にはしないが、セリくんが高身長好きだから羨ましいとは思うさ」
「それ言ったら、俺はオマエの顔も好みじゃないんだが
女の子みたいに可愛い顔して」
「それじゃあ身長伸ばして香月みたいな顔に変えようか?
神族って変化得意な奴多いからフィオーラにでも教わってな」
和彦は面白そうに笑う
冗談なのに…いつもの、恥ずかしいから出てしまうついついツンとした俺なのに
和彦はそれもわかって冗談を冗談で返す
「やっぱダメ、俺は好みじゃなくても和彦は和彦の容姿が好きなの
この顔も、声も、手も、匂いも、髪も、全部
その容姿以外の和彦は好きにならない…」
和彦を見つめながら言ったが、恥ずかしくなった俺はプイッとそっぽ向く
「セリくんが言うならオレはずっとオレの姿でいるよ」
鏡の前から離れベッドに座っていた俺へと和彦は近付く
「さてと、見た目はオレだけどこっちの方も変わってないか試そうか」
そう言って俺をベッドに押し倒すと跨がるようにして上に乗る
「………えっ」
これから何をされるかどうなるか察した俺は恥ずかしさのあまり思わず和彦の胸を押し返す
無駄と言わんばかりに手を掴まれベッドに押し付けられそのまま和彦は俺へとキスをする
抱きしめられて、変わらない和彦のぬくもりに俺はやっと安心した
和彦が突然殺されたあの日から何度も信じなきゃ大丈夫だって自分に言い聞かせていたけど
ずっと最後まで、今この瞬間まで不安も心配もなくならなかった
もしかしたら和彦を失うんじゃないかって、その可能性が絶対にないってわかるまで…俺は最後まで和彦を信じてやれなかった……
こんなにも、大好きで愛してるのに……
「セリくん…また泣いてる」
和彦がずっと一緒にいてくれるって実感の嬉しさと信じてやれなかった申し訳なさの正反対な感情が複雑に瞳を濡らす
「俺は…ずっと和彦を信じてやれなくて……ごめん」
「そんなの、最初からじゃん
セリくんがオレを信じてくれないの
本命だって言ってるのに、ずっと疑ってくるだろ
オレはずっとセリくんに信じてもらえなくて、その度に信じさせてやる
今回の事も、この前のプロポーズの事も」
和彦は俺をよく理解してくれていた
そんな嫌な俺をわかっていて、いつも和彦は俺を受け入れてくれて愛してくれる
俺は和彦の本命になれるような良いところもないのに…
なのに、和彦は俺を選んでくれる
「セリくんもオレをよくわかってると思うが?
今までオレが誰にも本気にならない男だって、そんなオレが何があってもセリくんを手離さない
死んでもな
それがセリくんにだけ本気だってわかってるから、最初は大嫌いだったオレを好きになってくれたって自惚れてる」
俺がオマエのコト死ぬほど嫌ってたのわかってたのか
わかっててしつこかったな
でも…そうかも、和彦と付き合うのは楽だった
程よい距離感がしんどくなくて、でもこっちの世界に来てから和彦が俺をどんなに想ってくれてるのかだんだんと強く見えてくると
俺はすっかり和彦のコト好きすぎてメンヘラにまでなるくらいだ
前の世界での気楽な関係にはもう戻れない
「うん…さすが和彦、不安になってもすぐに安心させてくれる
だからずっと好き」
「たまには素直に言ってくれるんだ
オレは嘘を付かない
セリくんだけを愛してるよ」
見つめ合って愛の言葉を交わしてお互いの心を通じ合わせる
その後は深いキスからはじまって…
「和彦…愛しっ」
はじまると思ったけど、急にカクッと意識が途切れる
猛烈な眠気が頭を働かせなくなり身体が動かなくなる
何これクソ眠い
「あっそうだった、セリくんの身体で生死の神と戦ったから疲れていて当然か」
確かに…和彦の目が覚めるまでは心配と緊張で眠気もなかったけど
安心すると眠気と疲れがドッと襲ってくる
「また今度、おやすみ
ゆっくり休んで
身体貸してくれて助かった、ありがとな」
和彦の優しいキスを額に感じて俺は深い眠りへと落ちたのだった
-続く-
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