161話『俺と仕事、どっちが大事なの!?』セリ編

次の日、目が覚めると金縛りにあったかのように身体が動かなかった

「なにこれ……死ぬほどの激痛なんだけど!?」

金縛りはなったコトないが、たぶん激痛は伴わないと思う

これは…今までに味わったコトのない筋肉痛か!?!?!?

すぐにわかった

痛みに回復魔法が使えないのは自然なコトには無効

和彦に身体を貸して、その俺の身体は和彦の力や体力に耐えれるほど強くはない

勇者の力が勇者の剣以外じゃ耐えられなくて壊れてしまうように、俺の身体は和彦の強すぎる力に耐えられなかっただけのコト

死にはしなくても全身の筋肉が引きちぎられるかのような激痛に気持ちは死ぬほど辛いしかなかった

うおお…和彦のためなら俺の身体はどうなってもいいって昨日までは思ってたが、冗談じゃねぇぞこの激痛は

和彦が死ぬのと比べたら耐えるけどな!!!

「セリくん大丈夫!?」

俺が激痛で動けなかったら当然セリカも同じで、気付いたイングヴェィが部屋に飛び込んできた

「全然…大丈夫じゃ、ない……」

「可哀想に…セリカちゃんも凄く辛そうで

リジェウェィを呼んだから来てくれたら楽になる薬を塗ってくれるよ

もう少し我慢してね

今すぐにでも楽にしてあげたいんだけど」その台詞、息の根を止めるみたいに聞こえて恐い

って俺の身体をこんなにした当人の和彦は部屋にいないし、どこ行ったんだ?

目線で気付いたイングヴェィが和彦のコトを話してくれた

「和彦くんは生死の神になったから暫くは忙しいんじゃないかな」

生死の神になったコトで死者の国のルールは和彦が決めるコトが出来ると言う

神族の先輩としてフィオーラの助言を受けながら、和彦は俺の願いを叶えるために死者の国のルールを変えている最中だ

ローズ達を救いたい、死者の人達に幸せを

和彦は生死の神として1から見直し、この国にとってより良い方になるようにと向き合ってくれていた

「でも意外だな、和彦くんがそこまでするなんて

セリくんのお願いだからかな」

イングヴェィのニッコリした笑顔が眩しい

意外なのは意外だ

和彦は、俺はよく知らないがなんとなくヤバい仕事をしている闇の世界の人間だったから

深く…知ろうとは思わない

仕事をしてる時の和彦は俺とは住む世界が違って相容れないから

和彦には和彦の人生がある

俺はメンヘラだが、和彦の全てを俺の望み通りにしたいとは思わない

だから俺は和彦の仕事には触れないんだ…

「それはありがたいな

死者の国の問題はどう解決したらいいか悩んでいたから、和彦が生死の神なら話も通じる」

「そうだね、すでに和彦くんは動いてくれて仕事が早いな」

「でも和彦には本来の仕事もあるから、生死の神として一国を管理するのも大変だろうな

アイツは優秀で仕事も早いが、俺にも出来るコトがあるなら手伝いたいよ」

なのに、和彦は俺の支えはいらないって言う奴だから前にもハッキリ言われてるし

どうにか力にはなりたいんだけどな

「とくに生死の神は神族の中でも特殊だもんね

死者に関われるのは生死の神だけだから大変だと思うよ

ふふ、でもまずはセリくんが動ける身体にならないとね

今やるべきコトはゆっくり休んで身体を回復するコト

和彦くんなら全部オレに任せろって言うだろうから」

イングヴェィはオヤスミって優しく頭を撫でてくれる

本当に…和彦なら全部任せろって言うのが目に浮かぶ

なら和彦に任せて俺はゆっくり休むしかないか

身体動かないし


また一眠りして起きると、身体の激痛は和らぐコトはなかった

「セリ、大丈夫じゃなさそうだな」

目が覚めた俺に気付いたレイが顔を覗き込む

「うーん…でもまぁ暫くしたら治るだろ、これくらい頑張って耐えるさ」

「暫く何も食べていないだろう?何か持って来ようか」

「痛すぎて食欲ない」

「ダメだ、しっかり食べないと」

普通に怒られた

俺がレイの立場でも同じコト言うか

レイが部屋を出ようとしたタイミングでリジェウェィが訪ねてきてくれた

待ってました!!!

思ってたより早く来てくれて助かる!!

「イングヴェィに言われて急いで来たが、これは酷いな」

レイの横を通り過ぎて部屋に入ってきてくれたリジェウェィは俺の腕を触って看てくれる

医者に近いコトもできるんだよなリジェウェィって凄いんだよ

困った時はリジェウェィ頼み、ある程度のコトはなんでも都合良く出来るんだぞ!

「だが心配するな、オレが持ってきた薬を塗れば1週間で治るぞ」

「1週間!?後1週間は無理!?!?!?」

「セリでなければ死ぬほどの身体の使い方だ」

和彦はどうなんだよ!?人間の和彦は!!!なんともなく今まで生きてたぞ!?

「痛みも少しは和らぐ、激痛から痛いくらいには」

「動けないまま痛いのを1週間我慢しなきゃならねぇのか…」

つ…つら……でも、リジェウェィの作る薬に勝るものは他にないだろうし

それに和彦が生き返ってくれたなら俺は耐えられる

愛の力で耐えるぞ!!言ってて、ちと恥ずかしいかも、なんて

「1日1回塗ると良い、そうすれば痛みも日に日に和らいでいくだろう」

リジェウェィは薬を手に出して俺の腕に塗ってくれる

スッと冷たい液体が肌に馴染み、さっきまでの激痛を少しだけ和らいでくれた

スゲー、ちょっと塗っただけで効果あるぞ

「ありがとうリジェウェィ、助かるよ」

俺が笑うと、レイはリジェウェィから薬を取り上げて睨み付けた

「後はオレがやる、リジェウェィさんは帰っていいぞ」

めちゃくちゃ不機嫌なレイに、リジェウェィは大人の対応で

「任せよう」

と一言、言われるまま部屋を出て行ってしまった

「レイ…その態度はないだろ」

「セリに触れる事が許せない」

「俺は医者にも看てもらえないんかい」

「触れずに看ろ」

「ムチャだろ!!!!!」

わかってる、レイが嫉妬深くてメンヘラ起こしてるってコトは…

俺もメンヘラな部分はあるから強くは言えないがレイほど酷くはない

医者相手に嫉妬はないって

「はいはい、じゃあレイが塗ってくれるなら頼むよ

俺は動けないから」

はいどうぞと微かに動く手をレイに向ける

リジェウェィに塗ってもらった反対の腕を掴み、レイは薬を塗ってくれた

ずっとレイを見ているとすぐに機嫌を良くした顔になる

ここ最近ずっと和彦のコトで頭いっぱいだったけど…

レイは俺のコトが好きで…和彦が殺された時も、諦めずに生き返らそうって言ってくれた…

辛くて向き合うコトが出来なかった俺を無理矢理連れて行ってくれて…

そう思い出すと、レイが支えて協力してくれなかったら

二度と和彦に会えない未来もあったかもしれない…

和彦が生き返って永遠に一緒にいられるようになったのも…

「レイの…おかげだよ」

呟くとレイは俺へと顔を上げる

「ありがとう、レイ…」

心から感謝の気持ちを、微笑むとレイの顔が赤くなるのが目に見えてわかった

「………オレは、変わらず和彦さんは邪魔な1人だから…」

「うん…」

「…今みたいに笑ってくれるセリの顔が見たかったから仕方なく」

「うん…」

わかってるよ

レイの複雑な気持ちも、俺は受け入れるって決めたから

「だからお礼を言われるのは…」

腕に薬を塗り終わったレイの手が足へと伸びる

冷たい液体と一緒にレイの手が内ももを撫でた

「あっ…ちょ、と…その触り方…」

ぞわぞわする…

「セリが愛してる和彦さんを邪魔だって言うこんなオレも受け入れてくれるんだ…

オレばかりセリの事を好きになって顔を赤くして恥ずかしいのに

セリは少しも…少しはその頬を…肌を赤らめる所を見せてほしい」

俺の足に手をかけて少しずつ広げていく

何か始まってるワケでもないのに、足を広げられるコトに何かを予感させるような触れ方が肌を熱くする

冷たい液体はレイの手で熱く変わってしまう

「動けないのに…卑怯だぞ…」

広げられた足を閉じられないようにレイは身体をくっつけてきた

自分の足にレイの足が触れて固定されるのがわかって、恥ずかしくなる…

「卑怯かい?オレは薬を塗りやすいようにしてるだけで、何も恥ずかしい事じゃないと思うが

赤くなってくれるセリが可愛いよ」

ウソつけ!?こんな薬の塗り方があるか!!完全にセクハラだろ!!

レイの手が服の下へと滑り込んで腹に触れる

「んっ……や」

「嫌かい?オレはずっと我慢して来たのに

セリに気を使って触れる事もキスする事も

和彦さんの事なんてどうでもいいのに、セリの為に」

痛みを和らげるハズの薬が、レイに触れられるコトで違った感覚を呼び起こしてしまう

全身の隅々まで触られて、なのに動けないから妙な感覚だけが全身で味わう

「…あっ……んっ、そこは…触ん…な」

レイの手が止められない

熱くなって少し痺れる身体から手が離れたと思ったら、レイは俺の頬を両手で包んで唇を重ねた

久しぶりのキスは、1日1回を取り戻すようにレイの欲求を全てぶつけられるような乱暴で深く

息もさせてくれないような、お互いの味も感触も絡みつく

「はっ…ぁ……」

肩で息を整えて、ゆっくりと目を開ける

「今日はここまでで我慢しておくよ

さすがに痛みのある身体は可哀想だ」

「……可哀想って言う割に結構やったな…」

むーっと俺は冷めない頬を赤くしてレイを睨み付けた

「薬を全身に塗ってあげただけなのに、結構やったとはなんの事だろう?

あぁ、そういえばセリは痛いのも好きだったな」

ハハハとレイのいつもの爽やかな笑顔に俺はさらに熱を上げる

「レイなんて…嫌い…」

何が薬を塗ってあげただけだ

変態め…

「知らない…もう寝るからあっち行けよ、レイのバカ」

俺が怒るとレイは仕方ないなと離れた

薬で少しは痛みが楽になった身体を傾けレイに背中を向ける

レイのコトは受け入れるって決めたけど、なんでもかんでもして良いってコトじゃねぇんだからな

調子乗んな

………嫌いじゃないから…レイのコト好きだから…変な気分になって感じるんじゃん…

ホント…最悪…

薬の香りが安眠効果もあるのか、スヤーっとすぐに寝た



そして、なんやかんや1週間が経った

その間たくさんの人が心配して俺の部屋に訪ねてきてくれた

でも…和彦は一度も顔を見せてくれなかったな

レイが言うには俺が眠った後に少しの間だけ顔を見に来ていたって言うけど…

生死の神の役目がまだまだ落ち着かず忙しいんだって

わかってるけど…なんか寂しいと感じる

とりあえず俺は久しぶりに動ける身体になって、レイと一緒にセリカの部屋に向かった

「セリカ!悪かったな、俺のせいで暫く動けないだけじゃなく痛みまで耐えるコトになって」

セリカの顔を見た俺は真っ先に抱き締めて頬ずりする

久しぶりのセリカの良い匂いと柔らかい抱き心地、一生離したくない

「いいのよ、和彦のためだもの

どんなコトだって耐えられるわ」

セリカの声も好き…

って、匂いも声も俺と一緒なんだけどな

「セリくんとセリカちゃんが元気になってくれてよかった!」

傍で聞こえる声に顔を向けると、まっさらな笑顔の天使とその隣で微笑む結夢ちゃんの姿があった

神族とのコトで落ち着いたら絶対教えてねって約束した天使に伝えたらすぐに来てくれて、結夢ちゃんも俺とセリカを心配してくれて来てくれたんだ

2人はセリカの世話をしてくれて、たまに俺の部屋にも顔を見せにお見舞いしてくれた

「天使と結夢ちゃんのおかげよ、ありがとうね」

「ううん、俺はお手伝いしただけで凄いのはリジェウェィさんのお薬だよ」

天使にとってはセリカのためなら当たり前のコトでさらっと出た言葉にレイが敏感に反応する

「はっ?手伝いって…天使がセリカに薬を塗ったのかい?」

レイのピリつく空気は誰もが察してマズいってわかっても天使にはまったくわかってないみたいで笑顔が崩れない

「うん!セリカちゃん動けないから結夢ちゃんと一緒に

ねっ結夢ちゃん」

天使の笑顔が結夢ちゃんに向けられて、結夢ちゃんはその笑顔とレイの怖い顔を交互に目線を移し困ったように笑う

「男がセリカに触れるなんて…しかも全身となると…あんなとこやこんなとこまで……」

たぶん、そういうとこは結夢ちゃんがしてくれてるぞ…

天使は無垢で純粋だから変な気持ちで触ったりしないだろうけど、セリカも一応女の子だからって結夢ちゃんが上手くしてくれてるハズ

一応って何?ってセリカの鋭い睨みが突き刺さった

しかし、虫にすら嫉妬するレイでも女の子(結夢ちゃん)には嫉妬しないんだな

いや…楊蝉にはしてたか?殺そうとまでしてたし

レイの基準がよくわかんねぇな

「セリカに触れる男は生かしておけな」

「レイ」

殺気立つレイが天使に手を出す前にセリカが名前を呼んだ

「私と天使はね、オセロで遊んでたところなの

私は久しぶりに起きて疲れちゃったわ

続きはレイが相手してくれる?」

セリカに言われてレイはなんとか殺気は抑えてくれたが、天使の遊び相手をしたくはないようだ

「どうしてオレが…」

「えっ!?レイが遊んでくれるの?

俺、結構強いんだよ?

セリカちゃんと結夢ちゃんにも勝ったもん!ふふん」

天使は機嫌良くえばる

はは、女の子に勝ちを譲らないなんてまだまだガキの証拠だな天使は

セリカも結夢ちゃんも天使が子供だから勝たせてあげてるんだ

子供に勝ちを譲るのも大人

「……仕方ないな…」

さすがのレイも天使の笑顔には負けてしまうようだ

「やったー!レイが遊んでくれるなんて嬉し~」

天使は喜んでレイとオセロを前にしてソファに座った

黒がレイ、白が天使

セリカだった黒は少なく、今の時点だと天使の勝ちに見えた

「…………。」

と思ったら、容赦なかった

すぐに盤面上は黒一色になってレイは天使に圧勝する

「…へー…レイもオセロ強いんだね

じゃあ次はチェスはどうかな?」

天使は負けて悔しがるコトもなく、次はこれで勝負だとチェスを引っ張り出してきた

ソッコー、キングを打ち取られてゲーム終了した

「トランプするもん!」

めげない天使はトランプを取り出す

ババ抜きをするらしいが、2人でやって楽しいのかそれ…

天使は次こそは勝つ!って意気込みだ

ジョーカーは天使の方にある

駆け引きも苦手なんだろうか、天使は取りやすいようにジョーカーを頭一つ飛び抜けるように持つが

レイにはバレバレで、しかもそれを絶対に引かない

結果、天使の手元にジョーカーが残って敗北

「神経衰弱……」

天使の声が弱っていく

レイは天使に1ペアも取らせずに終了

「しりとり…」

レイの、る攻めで天使の心ごと折ってギブアップさせる

ついに天使から笑顔が消えた

「大人げないにもほどがあるだろ!!!!???」

思わず俺はレイに怒鳴る

天使ががっくり肩を落として落ち込む姿に結夢ちゃんが慰めるように寄り添った

「ここまですれば二度とオレと遊びたいなんて言わないだろう」

「そんな嫌ったら可哀想だろ

天使はレイとお友達になりたいって言ってるのに」

最初からレイは天使を苦手としてるのは知ってるけど、天使はレイと仲良くしたいみたいだ

まぁ複雑なとこだよな

天使は俺と同じ姿をしているから、でも中身が子供で天使みたいな無垢な性格だから

レイは天使を見ていると俺に触れるコトに罪悪感とかなんかよくわからん気持ちになって恐いらしい

「オレはお断りだな」

冷たく言い放ってレイはソファから立ち上がり部屋から出ようとするから、俺はセリカ達にそれじゃあまたと伝えてレイを追い掛けた

「次は…!!」

天使の言葉にレイが足を止め振り返る

「次は…負けないもん」

えへへと天使は可愛い笑顔を見せた

その笑顔にレイは顔を青くして何も言わずに部屋を出て行った

「見たかい?」

そのままついて行った俺に、ドアを閉めた後の廊下で振り返る

「えっうん、可愛いかったな」

「どこが?恐いだろうが!?恐怖しか感じなかったぞ!?

皆、あの男を天使だ天使と呼ぶが、オレには一度も天使に見えた事がない」

「恐ろしい化け物にでも見えてんのか?」

「見た目はセリだから好みさ

しかし、そういう問題じゃないんだ

天使を見ると、セリに触れたらいけないような気がして

セリに触れられないなんて死ぬより辛い 

死ぬより辛いからこそ、恐くてたまらない

恐怖を感じる」

大袈裟な…

でも、レイの顔が真っ青になるくらいだから相当精神的に天使は重たいんだろう

「はいはい、いつものコト

天使に会った後のレイは面倒くさいな

それじゃあ暫く俺に触れないってコト?」

俺はレイの首に手を回して顔を寄せる

「この距離でも、キス我慢できる?」

片手でレイの手を掴んで自分の腰へと持っていく

「ここまで手を伸ばしても、抱き締めない?」

ふふって小悪魔っぽく笑うとさっきまで青くなってた顔が赤く染まっていく

自分もそうだが、男って単純だよな

レイの手が腰に触れる

その手に力が入るのを感じた時

「セリ」

自分の名前を呼ばれて、俺は目の前のレイを突き飛ばした

名前を呼んでくれる大好きな声に反応するように振り返る

「香月!!」

その姿を確認すると俺は駆け寄って抱き付いた

「セリから誘ってきたのに…」

レイのなんで?って言葉も聞こえないくらい俺は久しぶりにこうしてられるコトに強い幸せを感じた

「今日で良くなると聞いていたので部屋に行こうとしていた所です」

「いつもお見舞い来てくれてありがとう

俺も香月のところに行くつもりだったんだよ」

いつも撫でてくれるけど、今も頭ナデナデしてくれるの嬉しくてたまらない

ん~!香月のコトはいつも大大大好き

めっちゃ好き、凄く好き、だ~いすきっ

「ずっとこうしていたいけど

まだ他の人の顔も見に行きたくて」

香月を見上げて名残惜しむ

「今夜空いていれば迎えに行きますよ」

突然の香月の誘いに俺は固まる

言われたコトを理解すると顔が熱くなるほどの熱が巡った

そ、そうだ…ずっと和彦のコトばっかだったから……香月とは久しぶり…

その間ずっと香月は気を使ってくれてたってコトだし、香月も和彦のコトで神族を抑えてくれるコトに協力してもらった

凄く感謝する

やっと落ち着いた今だから……

そ…うだよな……なんか、急に緊張してきた……

いくつもの前世の記憶もある今の俺からしたら香月が1番長い付き合いになるけど、ずっと慣れなくてずっと初恋の緊張や恥ずかしが続く

淡くドキドキするのは…切ないのは香月が1番…

「空いてません」

頭の中が真っ白になってるとレイが口を挟む

「来ないでください」

「待て待て待て!!!??それはルール違反だろレイ

俺は約束したぞ

オマエを受け入れるけど、2人のコトには口出ししないって」

「口出ししないって約束はしていない

別れろはなしだって事しか約束してない」

正確に覚えてて細かいな

その時に口出しもするなって約束しとけばよかった

「レイ……俺は今夜香月と一緒にいたい…

ダメ?」

ってなんで恋人でもないレイに許可取らないといけないんだ

でも、反発するよりこっちの方が効果的かも

俺はレイの耳元に唇を寄せて囁く

「許可してくれたら、レイがしてほしいコトなんでもするよ

レイがしたいコトだってなんでもいい」

息がかかるとレイの身体が静かに反応するのがわかる

「なんでも……?…わかった…今夜は香月さんに譲るよ」

譲るってなんで上から目線なんだ

レイが引き下がってくれて、俺はありがとうとレイの頬に軽くキスをする

メンヘラこじらせる方が大変だからな

「じゃあ香月、今夜迎えに来てね…待ってるからね」

「はい、必ず」

両手を香月の指に絡めて少しの間の別れも寂しく感じるけど、今夜の想いを強く募らせるコトができる

うーん…今夜が楽しみなようで緊張するなー


香月と約束して別れた後、レイと俺は死者の国の街へと出て美樹先生の所へ向かう

その途中までだけでも、街並みの雰囲気は明るく変わっていた

和彦が生死の神になってからまだ1週間で劇的にってワケじゃないが

少しずつ死者は生前と変わらない人としての幸せや笑顔を取り戻すように前向きに感じた

あのコンサートからすっかり俺も有名人になっちゃって、道行く人が声をかけてくれる

なんだか…照れるけど、嬉しいかも

空も晴れ渡って、真っ暗な空気はなくなる

草木、花は太陽の光を浴びて元気に街を彩った

「セリちゃん!レイちゃん!いらっしゃい!!

聞いたわよ~、生死の神が変わってこの街が良い方に変わってるみたいね」

美樹先生は俺達が訪ねると冷たいジュースを出してくれた

お礼を言って普通に飲んでいたが、水しかなかった死者の国に甘いジュースがあるなんて…

小さなコトだけど変化があるコトに嬉しくなる

いつも明るい人だったけど、前に会った時より美樹先生の表情は生き生きしてて死者の国が良い方へ変わってるのがわかる

「お菓子もあるわよ、食べて食べて」

どっさり食べ切れないくらいのお菓子の盛り合わせが目の前に置かれる

ついこの前までの飢えとの戦いが嘘のよう…

でも、死者は食事出来ないから完全に生者のお客さん用だな

「はい、今度の生死の神は俺の知り合いで信頼出来る男なんでこの国の人達の声にも耳を傾けてくれると思います」

「セリちゃんのお友達は凄い人が沢山いるのね~

風の噂で、セリちゃんには魔王のお友達もいるって聞いたわよ」

どんな噂が風に乗ってるか知らないが、美樹先生のお友達って響きが純粋

「そうそう、死者の国のみんながまたセリちゃんの歌とダンスを見たいって声があるの

たまにはやってくれない?」

美樹先生はお願いと顔の前で両手をくっつける

美樹先生のお願いは断れないな…

恥ずかしいけど…俺はダンスが楽しくて仕方なくて…嬉しくて

「俺からもお願いします

前は自分が楽しければいいって満足してたけど

もっとたくさん練習して、いっぱい美樹先生のレッスン受けて

みんなに楽しんでもらえるようなダンスがしたいです」

「じーん…セリちゃん…美樹先生そう言ってもらえて感激しちゃった」

ハンカチを取り出して美樹先生は嬉し涙を拭う

「俺は音楽が大好きで、いつも元気を貰ってるから

俺を見てくれる人達に…少しでもそんな元気が贈れるように頑張ります!!」

「セリが頑張るならオレも頑張らないとな

いつでも最高の曲をセリの為にプレゼントするよ

オレもセリのファンの1人で歌とダンスで幸せにしてもらっているからな」

「うわーん!!セリちゃんなら沢山の人を幸せに出来るわ~!

お歌の先生でお友達のレイちゃんも一緒なら心強いわね!!

美樹先生とまた3人で一緒に頑張りましょうね!」

美樹先生はレイと俺を一緒に抱き締める

俺はずっと音楽が大好きで、レイは楽器と作曲の天才

イングヴェィは歌の天才

2人とも音楽に愛されていて羨ましかった

だけど、俺も…2人のような天才ではないけどダンスで音楽と繋がれて嬉しかった

ダンスの最高な美樹先生に出会えてレッスンを受けられて、凄い幸運だ

またダンスが出来る、これからいっぱいたくさん踊れるコトに胸が高鳴った

「セリちゃんがまたアイドルやってくれるって信じて美樹先生ね、衣装のデザインを沢山考えたのよ

スケッチブック持って来るからちょっと待っててねー」

美樹先生は嬉しそうに笑顔で部屋を出て行った

「セリがアイドルか」

「そんな大それたコトじゃ…」

アイドルなんてキラキラしたような存在、俺には…

でも、歌とダンスでステージに立つってコトはアイドルになるのかな

「アイドルは手の届かない存在のはずなのに」

レイは俺の顎を掴み自分の方へと向ける

「やめろ、美樹先生が戻って来るんだぞ」

「オレはこうして近くにいて触れていいんだ」

聞いてんのかこのメンヘラ野郎

レイが大丈夫って言いながらキスしようとするタイミングで外に続くドアがノックされる

パッと手を離して俺から離れる

「美樹先生、またお勉強を教えてください」

開かれたドアから姿を見せたのは

「あら、セリくんとレイさん?」

「ローズ!?」

その姿に思わず椅子から立ち上がって傍に行く

「この後、ローズの様子を確認しようと思ってたら、まさか美樹先生の所に来るなんて」

「うふふありがとう、私もあの穴から解放されてすぐにセリくんを訪ねたんだけれど

病に伏せているから会えないって門番の骸骨天使に追い返されちゃったの

心配かけていたから会いたかったわ」

ローズは変わらず大人びた幼女だったが、穴に閉じ込められていた時の絶望はなくなっていた

和彦はちゃんと…ローズを助けてくれていた…解放してくれていたんだ

本当に、アイツは仕事早いから嬉しいよ

「そうだったのか、俺の知り合いだってわかってたら門前払いなんてさせなかったんだけど

ごめんな、でも…ローズにこうして会えて嬉しいよ」

俺は床に膝を付けてローズと同じ目線になる

「セリくん達のおかげ、私を助けてくれてありがとう

今度、セリくんの恋人の生死の神様にも紹介してね

お礼を言わせて」

「もちろん」

ローズは生死の神が和彦だって知ってるのか

俺が香月と和彦の2人の恋人になる背中を押してくれたのはローズだもんな

和彦も香月ともちゃんと紹介したコトはないけど

ってあの2人を5歳児に会わせられるか

でも死者の国の住人でそこの神様になった和彦なら会わないってのも無理だろう

「もう身体の方は大丈夫なの?」

「すっかりこの通り元気だよ」

俺が笑うとローズも笑い返してくれる

「レイさんも元気そうで何より」

「ローズが元気な姿を見れてオレも嬉しいよ」

やっぱりレイはローズに対しては昔からの仲だからなのか優しいな

「セリくんとは何処まで進んだの?」

「まだヤッてない、今夜も香月さんに取られた」

「5歳児に何言ってんだオマエ!?正気か!?」

いくらレイでも子供の天使にはそういう話をしないのに、ローズが大人びてるからってダメだよ!?

「あらあら…セリくんはレイさんでからかってるのよ

小悪魔な所あるでしょ?そういう子は本心は早く抱いてほしいって思ってるものよ」

マセガキ!??!??!!

的確に!?しかも俺を子呼ばわり!?

俺でも認めてない本心が暴かれてるぞ!?

「なかなかレイさんが手を出してこないからセリくんもやきもきしてるの」

「なるほど」

真剣に聞いて納得するな!?

「恋人の2人から見ても強引な人が好きみたいだから、レイさんも遠慮なく強引にね」

やめて…

ローズは怪しい薬でも飲まされて頭脳は大人とかそういった人なのか

的確すぎて否定も出来ないし口も挟めないし

うっ……うーん……確かにレイがもっと強引に来てくれてもいいのにって……思うコトだって…ないワケじゃなくて……

いつも肝心なところで最後までしないから、俺がからかってしまうコトも…

ローズは俺より俺を見抜いていた

最初から大人びてたとは思ってたけど、大人の恋愛のアドバイスまで出来る5歳児って…恐ろしいだろ

「セリくんは絶対レイさんに好意があるわ

大丈夫、私はレイさんを応援するね」

「ありがとうローズ、自信が持てた

今までセリに嫌われたらと思って遠慮していたよ」

ウソだろ?散々酷いセクハラしといて遠慮してただって?大丈夫かコイツ?

ローズとレイのやり取りを見ていると、ふいにレイが俺に視線を向ける

パッと目が合って咄嗟に視線を逸らす

意識して…顔に熱が籠もる

ど、どうしよう……そのうちレイと……って考えると…急に恥ずかしくなる

はじめてじゃないのに…いや、受け入れると決めてからははじめてだから……

ちゃんと向き合うコトが照れくさいんだ

俺は2人の会話に入れないでいると、美樹先生が百科事典のような分厚さのスケッチブックを何冊も持ってきていた

えっと…今から勉強会はじまるのか?

まさかそれ全部俺の衣装のデザインじゃないよな…

「思ってたよりセリちゃんの衣装のデザインがあって」

そのまさかかよ!?

美樹先生は、重かったわと笑ってテーブルの上に持っていたものを置いた

「あっお母さん」

美樹先生が部屋に入って来たのを見たローズが声をかける

「お母さん…?」

「あっ!間違えちゃった、美樹先生」

時間が止まった美樹先生と恥ずかしがって口を抑えるローズ

そういやローズは美樹先生にお勉強教えてってここに入って来たもんな

美樹先生はダンス教室の先生もやってるけど、生前は幼稚園の先生だったとも言ってたし

5歳のローズなら美樹先生にお勉強教わるのも普通のコトだ

ローズは勉強が好きでよく本を読んでいたもんな

あるある、先生をお母さんって呼ぶの

俺はなかったけど、小学生の時にクラスの子が先生をお母さんって呼んで爆笑みたいな流れ

「いいのよ、お母さんって呼んでも」

美樹先生の止まった時間が解けるとぶわっと嬉し涙を流した

「…いつも美樹先生は理想のお母さんみたいで優しくて大好きで

美樹先生がお母さんになってくれたらいいなって、甘えたいなって思うけれど

私は美樹先生と血が繋がってるわけじゃなくて、美樹先生にそんな想いを抱くのは失礼だと思って…」

ローズの視線がだんだんと下に向けられる

ローズは知らないけれど、ローズは本当の

パパとママに売られた子供だった

それを知らずにいつか迎えに来てくれるって信じて待っていた

でも…賢いローズは本当は気付いていたのかもしれない

自分は捨てられたんだって…

それでも…ローズはまだ小さな子供

パパとママが大好きで甘えたい年頃

どんなに大人びても子供は子供なんだ

美樹先生は膝を床に付けてローズと同じ目線になってからその小さな身体を抱き締めた

「そんな事ないわ、凄く嬉しい

美樹先生もローズの事はこんなに可愛い娘がいたらどんなに良いかって思ってたわ

美樹先生ね、結婚してるんだけれど

子供が出来なくて……

だから、ローズが美樹先生を本当のお母さんと思ってくれたら嬉しいの

私の…本当の娘にならない?

血は繋がってなくても、私はローズを母親として愛したい

夫はまだ生きててすぐには会えないけど、ローズなら大歓迎するわ」

「美樹…先生……本当に…いいんですか?

お母さんって呼んで…

私のお母さんに……お母さん大好きって甘えていいの?」

ローズの震えた声と手が美樹先生に返事をするように抱き締め返す

生者は死者に触れられないけど、死者同士ならお互いを抱き締めるコトも出来て

死者にしかわからないぬくもりを感じる

「いっぱい甘えて、私はいっぱい娘のローズを可愛がるから」

「お母さん……嬉しい…私、お母さんが大好き!!」

「うん…私の可愛い愛しの娘、お母さんも貴女が大好きよ」

幸せと笑顔で流れる涙もキラキラと綺麗に輝く

2人の幸せな姿に、祝福の笑みが零れる

よかったな…やば、俺もなんか泣けてきた

親子の愛とかに弱いんだよな

レイがそんな俺にハンカチを差し出した

「この死者の国が変わった一面が見れたな

前のままだと2人の幸せはなかった

ローズは仲間で、美樹先生は世話になっているから

2人が幸せな姿を見るとオレも嬉しいよ」

ハンカチを手にして涙を拭く

「メンヘラじゃないレイにも感動して涙が…こんなレイにも人の心が…」

「オレは誰にでも噛み付くほどヤバい男じゃないぞ

それにローズも美樹先生もオレからセリを奪ったりしないだろ」

結局はそれが基準なのか

「さて、ローズにお勉強も教えなきゃいけないし

セリくんのアイドルレッスンもあるし、忙しくなるわね~」

2人の親子の絆を結んだ美樹先生はローズに微笑み立ち上がる

やる気に満ちた美樹先生は気合いを入れてまずは衣装選びからと百科事典みたいなスケッチブックを広げた

「セリくんのアイドル…?」

「そういえばローズははじめて見る事になるわね

セリくんはこの国で有名な大人気アイドルなのよ~!」

うふふふふふと美樹先生は自慢気に言う

「大人気は言い過ぎじゃ…」

謙遜する俺、いやホントに…素人だもん

「まあ!セリくんがアイドルなんて!絶対推しになるわ!!」

ローズめっちゃノリノリ

「でしょ~?それで衣装のデザインを沢山描き溜めてて」

美樹先生はローズに百科事典みたいなスケッチブックを見せて、ローズはパラパラとめくった後

「どれもセリくんに似合うから、全部でしょ

全部作って着て踊るまで引退出来ませんしましょうよ、お母さん」

「この衣装を全部作って着てもらうには千年くらいかかるわね

コンサートを月に何回行うのかにもよるし

それに新しい衣装のデザインも次々出てくるから」

永遠に引退出来ません!?って!?

「いいんじゃないか、セリは何度も生まれ変われるんだから

オレもセリがこの可愛い衣装を着て踊るのを全部見たい」

「そうね!セリちゃんは勇者様だったものね~

美樹先生もセリちゃんのアイドル引退まで死者でいようかしら」

それって永遠に死者のままってコトになるんじゃ…

「お母さんがそうするなら私もセリくんがアイドルしてる間はずっと推したいわ」

「いいわね~それじゃ早速本格デビュー記念コンサートについて計画を立てましょ!

レイちゃん新曲は何日くらいで出来る?」「1日もあれば」

はやない?

「きゃーレイさんの曲って素敵だからセリくんが歌って踊ってくれるなんて楽しみね」

3人で凄い盛り上がってる…めっちゃ仲良し

ある程度話が固まったところで今日はお開きとなった

レッスンは明日からで、コンサートは1週間後とのコト

この前より余裕はあると思ってしまうが、よく考えたら早いしまた詰め込みになるんだろうな

でも、俺は頑張るって決めたから

楽しいダンスを…頑張るぞ!!


そして、美樹先生の教室を出ると空は夕方の顔をしていた

夜になる前に和彦に会いに行くと俺はレイと一緒に生死の神の城へと帰る

この城の中は基本的に静かで落ち着いているが、生死の神の仕事場になる階から部屋に近付く度に騒がしくなった

この前まで敵だった骸骨天使も俺達とすれ違う時は挨拶してくれて、でもバタバタと忙しい

まさか骸骨天使と普通に仲間みたいな感じになるなんて、何度も命を狙われた身としてはまだ無意識に警戒してしまう

和彦が生死の神である限り危害は加えられないってわかってるのにな

仕事場の部屋を開けると中は広く、でもやっぱり騒がしくみんながみんな仕事に追われている

それもそうだ、1から見直して改善しているんだから落ち着くには時間もかかるだろう

「セリさん、レイさん」

遊馬に声をかけられて、顔を合わせる

「セリさんは身体治ったみたいでよかったっす」

「遊馬がここにいるなんて意外だな」

「そっすね、暫く鬼神の様子見たかったんで

でもそろそろオレが見てなくても大丈夫そうだって思ってた所っす」

遊馬に言われて部屋を見回すと骸骨天使の中に目立つ鬼神の姿が8人あった

「鬼神を解放してくれたんだな」

「さすがに和彦さん、いえ神様なので和彦様っすね

人間の和彦様が生死の神として生き返ったのを目の前で見せられたら認めるしかないっす

和彦様なら鬼神8人を任せられますから」

遊馬は安心して任せて帰れると笑った

「和彦は…凄いだろ

でも、遊馬がいてくれたから和彦を生き返らせるコトが出来たんだ

本当にありがとう…感謝してもしきれないよ」

「そんな、オレはセリさんの為なら喜んで力を貸すっすから

セリカさんに頼られて嬉しかったんすよ」

照れながら遊馬はセリカが自分を頼ってきてくれたコトを思い出す

「それに…和彦様は、オレも認めるくらい凄い人なんで

セリカさんの恋人が和彦様なら文句ないって言うか…

でも!オレはセリカさんのファンである事には変わりないんで!!

何かあったらいつでもオレを頼ってほしいっす!!」

「あっ…うん……」

遊馬の熱い勢いに押されてセリカの恋人が和彦って勘違いしたままになってしまった

俺を通してセリカに伝えるように遊馬は笑いかけた

それじゃオレはこれでと遊馬は笑顔で手を振って部屋を出て行った

そして俺は遊馬を見送った後に近くを通った鬼神に声をかける

「はっ!?セリ様!?申し訳ございません!!

忙しくていらしてる事に気付かず、ささこちらにお座りを」

鬼神は応接室に案内して俺達を座らせお茶を出してくれた

「心配しておりました

和彦様に貸したそのお身体が暫く動けないと聞いて」

「うん、でももう大丈夫」

あったかいお茶を飲むとほっこりする

「何よりです

和彦様はお出かけになられており、予定ではそろそろ戻る頃かと」

「じゃあ待ってる」

「戻ったら伝えます」

相変わらず鬼神は丁寧に対応してくれる

遊馬からも和彦からも鬼神は危険な存在って聞いてるけど、セリカである俺からはずっとそう見えないままなんだろう

「和彦さんの所の飲み物は本当に美味しいな」

東洋茶だから俺や和彦はもちろん、鬼神達は馴染み深くてもレイにしたら珍しいみたいでいつも感心している

「和彦もうすぐ戻るって言ってたけど…暇だ~」

静かな応接室で待つだけで何もない

俺は隣に座るレイの膝へと頭を乗せて横になった

レイに髪を撫でられ目を閉じる

いつまで待たされるんだろうと思ったが、すぐに和彦が会いに来てくれた

「セリくんが会いに来てくれてると聞いたのに、レイとイチャついてる所を見せに来たのか?」

和彦の声に俺は身体を起こす

「和彦!えっ別にイチャついてないけど、友達なら普通だろ」

「セリくんって…たまに、ズレてるって言われない?」

「オマエに言われたらおしまいだよ」

俺は和彦の顔を見ると嬉しくなって笑顔で傍に駆け寄る

「全然顔見てなかったから」

「オレは毎日セリくんの顔を見に行ったよ、寝ている時間にしか会いに行けなかったが」

「そんなの俺は見てないもん

ねっねっ、神族との件が終わったら暫く一緒にいてくれるって言ったじゃん?」

和彦が殺されてから生き返るその日まで、失ってから気付く大切さも愛も俺は強く和彦と一緒にいたい気持ちがあった

「落ち着いたらって約束だからまだ無理だ

暫くはセリくんとゆっくり出来ないよ」

和彦のコトだから…いいよって言ってくれると思ったのに

無理って言われたコトが……思ったよりショックが強かった

「なんで……」

「和彦さん、忙しいのはわかるがセリの気持ちも考えてやってくれないかい

ずっと辛かったんだ、今は和彦さんに甘えたいんだよ」

あのレイですら見てられなかったのか和彦にそう言ってくれる

「わかっている、でも今は厳しい

すぐに仕事を落ち着かせるからそれまで大人しく待ってろ」

……むーっと膨れる

「むー…俺より仕事の方が大事なんだ」

うわー俺超面倒くさい奴になってる

いつもならこんなコト言わないのに…

和彦が殺されたコトがこんなにも重く心を引きずる

だから生き返った喜びも安心さも…今はいっぱい感じたかった

「セリくんは賢い子だから本気で言ってない」

ちっ、さすが和彦は俺のコトわかってんな

じゃあ

「ふん!今夜は香月のとこ行くもん」

嫉妬させてみる

だけど、和彦は俺の頭を撫でて笑う

「そうか、いっぱい可愛がってもらうといい」

そうじゃない!!!ちょっとは焼けよ!?

「寂しいなら香月とレイに」

違うもん……そうじゃないもん……

香月もレイも好きだけど…2人は和彦じゃないんだよ

俺はわかってもらえないってコトに悲しくて和彦の手をたたき払った

「もう…いいよ、わからずや!!アホ!!和彦なんて大嫌い!!」

嫌いなんて言いたくなかった

殺される前、その言葉が最後だったから

本当はその言葉をかき消したいくらい、好きって言いたいのに…

言わせてくれない

「オレはセリくんの事、好きだけど」

そう言って和彦は俺のポケットに手を突っ込んでペアのリングを引き抜いた

「落ち着いたら、その寂しさの埋め合わせはしよう

いっぱい可愛がってやるから、嫌いなんて言葉は出させないよ」

ドキッとしてる間に和彦は軽いキスを交わす

……なんだよ…落ち着くのいつなんだよ

早くしないと…本当に嫌いになるからな…

寂しいんだよ、俺がメンヘラだって分かってるくせに

「レイ、セリくんが寂しくないように相手してあげて

今のうちに…弱ってる時こそ落ちやすいって言うだろ?」

「和彦さんってズレてるって言われませんか?自分の恋人を別れる気もないのに他の男に譲りますか普通」

あのレイがドン引きしてる

「オレは寝取られフェチだから、セリくんがオレだけのモノだったらつまらない

それじゃセリくん、また落ち着いたら迎えに行くよ」

アハハと笑って和彦は出て行った

「最低…」

和彦が寝取られフェチってのは知ってたが、思わず出る言葉

そんな和彦だから上手くいってるのもわかるけど、こんな時にそれは言われたくないし

「あんな男…やめればいいのに」

レイが本音を漏らす

「そうかも…忙しいのは仕方ないし理解もするけど

寂しいって言う俺に他の男に慰めてもらえって言われるのは嫌だ……

和彦は俺をわかってくれてるって思ってたのに、和彦は俺は誰でもいい尻軽って思ってるんだ……

違うのに…そんなんじゃ…ないのに…」

寂しさで弱くなってる心が悲しさをより一層深くする

悔しくて…涙を零すとレイが拭ってくれる

「オレはセリが誰でもいい尻軽なんて思っていないから

和彦さんじゃないとダメな時も香月さんじゃないとダメな時も……オレじゃなきゃダメな時もあるかい?」

「うん…レイじゃなきゃダメな時もあるよ」

少しして落ち着くと、だんだん腹が立ってきた

やっぱ和彦ムカつく……

「なんかムカついてきた…

和彦がそう言うなら毎日ヤッて寂しさ紛らわせてやる!

今夜は香月だから、明日はレイとする!!」

「………えっ!?」

ぶっとんだ俺の思いもしない発言にレイは理解が追い付いてない反応を示す

「和彦がいつもやりたがる3Pも俺は自分だけしんどいし大変だからあんまりしたくないけど、アイツ抜きで香月とレイとするもん!」

「えぇ!?!?」

「なっ、いいだろ?レイだってずっと俺を抱きたいって言ってたじゃん」

「そ、そうだが…急に……」

「後フェイが俺を寝取りたいって言ってるから、俺が誰でもいい尻軽だって思ってるならとことんやってやろうじゃん!!

嫌いなフェイにも寝取られてやるよ!」 

「お、落ち着くんだセリ!!

それは自暴自棄になってるぞ!?

後悔するのはセリなんだから冷静になって」

「俺は冷静だよ!?ビッチならビッチらしく彼氏がほったらかしにするなら他の男と寝てやるの!!」

後誰か俺のコト気に入ってる奴いたかな

あーあ、こんなコトならもっとモテとくんだった

「ダメだ…和彦さんに相当キレてる……

セリがセリらしくない考えになってしまった…」

和彦のせいで俺は怒りが収まらないまま夜を迎えた


香月が部屋まで迎えに来てくれて俺は香月の部屋へと来ていた

「和彦は暫く忙しいそうですね」

不機嫌な顔をしていたかもしれない、でも俺は和彦の話を口にはしなかったけど

香月は気付いたのかそれとも生死の神の話題として自然に出た流れなのか

「うん…今は和彦の話したくない、ムカつくもん嫌いなの」

俺は靴下を脱いで素足になるとベッドに座る

「喧嘩でもしましたか」

「向こうは喧嘩したと思ってないよ

俺を誰でもいい尻軽だって思ってるコトに俺が一方的にムカついてるだけ」

「セリは誰でも許すような人ではない」

「だろ!?香月はちゃんとわかってくれてるから嬉しい!

レイもわかってくれてるのに、前の世界から付き合いの長い和彦がわかってないとかなんやねんって腹立って仕方ないんだ」

むーっと俺の頬の膨らみは抜けない

香月がベッドに膝を乗せると、その重みに沈む感覚に少し緊張する

怒ってるけど…香月が近寄ると、気持ちが変わって身体に熱がこもる

枕に腰と背中を預けて座っていたが、香月に足を掴まれ引っ張られると背中がベッドについて真上から見下ろされた

「その腹立しさも不機嫌な顔も、すぐになくなる」

香月の手が触れただけで、俺の中から和彦が消えていく

頭と心も目の前にいる香月だけに染まる

他のコトは考えさせない、その瞳に吸い込まれて…俺は目を閉じる

香月の唇の感触に、心まで鷲掴みにされるような

俺はこの人のコトが大好きで、恋してて…死ぬほど愛してるんだ

少し口を開けただけで香月の生暖かくて柔らかい舌が入ってくる

それだけで痺れてくる…火照る身体も…息苦しさに変わって

言われた通り、もう腹立しさも不機嫌もない

満たされていく…時間をかけて心も身体も

「はっ…ぁ香月…」

触れられた部分が素直に反応する

もっと触ってほしいと思う気持ちとこれ以上はおかしくなるからダメって、よくわからない複雑さ

「香月がいてくれたら…寂しくないな」

繋がった香月の瞳を見つめて微笑む

力が入らないのに、大好きって気持ちだけで絡む指の手を握る

「元気になった姿を見てから帰ろうと思っていましたが、セリが寂しくなくなるまでは傍にいます」

「あっ…ぅ…ん…ッ、香月……嬉しい、ありが…あぁ…ん、もうっ」

内側からゾクゾクと感覚が強まる

香月が俺の口を塞いで言葉ごと飲み込む

嬉しい…嬉しい…香月に愛されて…死ぬほど幸せがたっぷりと流れ込む

熱くて溶けちゃう一時の夜はまだ長い



次の昼頃、俺は機嫌良く自分の部屋に帰った

すると俺を見たレイが心配して近寄って来る

「おはようレイ、後2時間くらいしたらレッスンだっけ?」

笑顔の俺とは違ってレイは深刻な表情で俺の肩を掴む

「セリ…やっぱりやめた方がいい

一時の怒りで嫌いなフェイとまで」

「えっ?しないけど」

すっかり忘れてた俺はレイに言われた昨日の怒りで発言したコトを笑い飛ばしながらなかったコトにした

「だって香月が寂しさを埋めてくれるんだもん

昨日香月と一緒に過ごしたら和彦のコトなんてどーでもよくなって

香月は俺が寂しくなくなるまで一緒にいてくれるって約束してくれたんだ」

嬉しいって笑うとレイはよかったようなよくなかったような微妙な顔で笑った

「そうか…それなら今夜もセリは香月さんの所へ…」

言いながらレイは俺から目を逸らすから俺はレイの目に入る位置に移動して見上げる

「ううん、今日はレイと一緒にいるぞ

昨日のコトは怒りで自分でもおかしなコト言ったけど、レイのコトまでウソだったなんて酷いコトしない

俺が一方的に言ったコトだからレイが嫌なら」

レイは強い力でまた俺の肩を掴むと真っ直ぐに目を見てくれた

「嫌じゃない!やっと…ずっと待っていたんだ

セリが…良いって言ってくれるなら…オレは抱きたい」

ホント…レイって俺のコト大好きだから

嬉しいな

「じゃあレッスンの後で」

レイにキスして出掛ける準備をして部屋を出る

レイは新曲の作成と、この前歌った曲のアレンジで今日は一緒には行けない

この前のは3日でソッコー歌って踊れる感じに仕上げなきゃならないから、後からここはこうした方がよかったなってこだわりが出てきて直したいんだって

天才に任せておけばいいのだ

レイの曲は素敵なものばかりだから、その曲を歌って踊れるコトは俺にとって最高に幸運なコト


美樹先生はいつも優しいが、やっぱり時間がないレッスンはスパルタで厳しく詰め込まれた

でも、美樹先生はわかりやすくてやる気も高めてくれて俺の能力を大きく伸ばしてくれる最高の先生だ

明日も頑張ろっと

夜、部屋に帰ると俺はソファに倒れ込んだ

「疲れた…」

呟くとレイが冷たいミネラルウォーターを渡してくれる

飲んで一息つくと

「疲れてるならコンサートが終わるまでオレは我慢するぞ?」

とレイは気遣ってくれて、俺はミネラルウォーターをテーブルへと置く

「いいや、和彦のコトは許してないから毎日他の男とエッチしてやるんだ

レッスンも昼すぎからだし、意地でもやってやる…ぷんぷん」

美樹先生は午前中は娘の家庭教師、午後からは俺のダンスレッスン

最初の時みたいに深夜までのレッスンはない

美樹先生は夜は娘のローズが眠る前に本を読んであげたいって家族の時間を大切にしている優しいお母さんだ

「セリって…頑固な所あるよな…」

ふん、俺だって毎日はキツいしやりたくないけど

1日中休みなしで体売らされてた時と比べりゃ楽勝よ

今は好きな人としかしないから幸せな気持ちしかないし

「その前にシャワー浴びて来る」

めっちゃ汗かいたし、俺は1人で風呂に入って交代でその後にレイが風呂へと入った

レイが上がってくるまでベッドでゴロゴロしてると、疲れからスヤーと眠りに入った



普通に朝、目が覚めた

………いや…やらんのかい!!

レイのコトだからうっかり寝た俺を起こしてくれると思ったのに、何もせずに隣で寝てるだけ

まぁいいや今夜こそ

そして、レッスンから帰ってきて今度はレイと一緒にお風呂に入った

一緒にベッドに入って腕枕してもらって、いつも通りのしょーもない会話中に寝た

また普通に朝になって目が覚めた

………いや!だからやらんのかい!!

「起きろレイ!?なんで手を出して来ないんだよ!?」

隣で寝るレイを叩き起こす

朝になったからもうまた明日の夜まで待たなきゃだろ

今夜は香月と約束してるもん

「おはようセリ、よく眠れたかい?」

爽やかな笑顔でレイは目を覚ます

なんだコイツ、寝ぼけるってコトを知らんのか

「よく眠れたかじゃねぇよ!?なんで!?

俺を抱きたくないの?好きじゃなくなった?」

「いや…」

はっきりしないレイに、俺はシャツを少しずつ捲って腹を見せる

すると、レイは勢いよく俺を押し倒して見える腹に手を滑らせた

この反応なら、抱きたくないワケでも好きじゃないワケでもないか

「朝だから…誘うのはなし…止められなくなる

今夜は香月さんと約束してるんだったな」

「うん…明日は…してくれる?」

「それは…」

ハッキリしないレイにちょっとムッとなる

「もういいよ、今日はすぐ出掛ける

今夜は帰んないから」

レイの顔も見ずに俺はさっさと出掛ける準備をする

八つ当たりも入って…俺って最悪……

レイとも喧嘩したいワケじゃないのに

でも、レイが何もしないから…やきもきして……

俺は午前中、1人で街を歩いて気分転換をしてから午後から美樹先生の教室に通ってレッスンを受ける

「明日はレイちゃんの新曲とダンスを合わせてみましょうね」

美樹先生は新しい曲とダンスが楽しみってワクワクしている

そっか…今日までは俺1人だったけど、曲も完成して明日からはレイと一緒なんだ

明日の朝…レイと仲直りしなきゃな……

ちょっと気まずくなっちゃったし

「セリくん、悩んでるわね」

ローズが俺の様子に気付いて声をかけてくれる

ダンスをしてる時は忘れて夢中になれるんだけど、終わるとそれが顔に出るよな

「悩み…か」

よかったら聞かせてって言われて俺はついローズに話してしまう

そう、つい5歳児ってコトを忘れて

「あらそんな事、悩むだけ無駄よ

香月様も和彦様もレイさんも、セリくんの事をとても大切にしてくれてるわ」

「香月はそうだけど…レイとはちょっと気まずくなったし、和彦は俺は誰でもいい尻軽みたいに思ってる最低な奴だし」

自信がないのか…ただ、寂しさが埋まらなくて俺のコトなんてどうでもいいんだって拗ねてるのか…

「セリくんもわかってるはず

それからちゃんと香月様と和彦様にコンサートを見に来てってきちんと伝える事」

「香月は興味ないし、和彦は忙しいから来れないだろ」

「ほらそう勝手に決め付けて言わないのもセリくんのよくない所よ

セリくんの素直じゃない性格も可愛くもあるけれど、たまには素直に伝える事も大切だわ」

ローズの言葉は本当に的確だ…

俺は和彦に約束のコトしか言ってなくて、ちゃんと自分の口から一緒にいたいとか寂しいとか伝えてない…

香月も、感情がなくて楽しいもなければつまらないもないワケで

俺がアイドルするのも見に来てほしいってのは自己満足

香月が楽しめるワケじゃないからって勝手に決め付けて言ってない

いつも信じろって言われて、信じようとして

でもすぐ不安になって信じ切れない

つくづく俺は2人の恋人に相応しくないって思ったり

だけど…それでもいつも2人は俺を選んで愛してくれるってコトに行き着くんだ

「ありがとうローズ」

決めた

ちゃんとみんなと向き合おう

意地になって自暴自棄になって見失ってないで…


夜は香月と約束していたから俺は美樹先生の教室からそのまま香月の部屋へと帰った

「疲れた…」

シャワーを浴びてサッパリしてからソファに寝転んだ

たぶんコンサート終わるまでずっとこの一言漏らしてるな

「部屋でまったりするのも良いけど、香月とデートしたい…」

あっ…ダメだ、昼間の疲れから横になると眠気が…

とくにお風呂入った後ってなんでこんな眠いんだろ

香月は俺の髪に触れて顔を見つめる

「何処へでも連れて行きますよ」

へへへ…嬉しい

そうだ、香月に…

俺は半身を起こして香月の膝に座り直して顔を近付ける

「香月…は興味ないだろうけど、次の日曜にコンサートするコトになって…

それでこの数日の昼間はそのレッスンで忙しいんだ」

「そうですか」

「アイドルするコトになって……それで…その日曜日は…香月にも見に来てほしい…なんて」

言ってて恥ずかしくなってきた

俺はまだまだ全然未熟でお遊戯レベルだし

だけど、ダンスは楽しくて凄く好き

自分の好きな姿を、好きな人に見てもらうって想像すると

緊張するしなんだか恥ずかしい

失敗したらどうしようとか…香月がいるコトで意識もしちゃうし

でもでも……香月に見てもらいたい

俺のキラキラした姿…ダンスをしてる時の大好きな自分を…

「行きます」

香月は俺の髪を優しく撫でる手を止めて肩に置く

「来てくれるの?

でも…香月は興味ないから無理には」

「私はどんな姿のセリも見たい、セリだから興味があるのです」

そう言って香月は優しいキスを頬にしてくれる

「それって、俺が茶色の全身タイツ着てドングリの被り物してドングリ体操みたいなよくわからないコトしてても?」

「…………。」

無言が1番辛ぇんだわ!?

ボケたんだからなんかツッコミしてくれよ!?

まぁ香月は絶対わかんない、ボケとか

俺がボケてもいつも返す言葉がなくて無言だから

あっでもこの無言ってその姿は見たくないってコトなのかも?

いや!?俺だって嫌だよ!?そんな恥ずかしい姿!?死んでも香月にだけは見せられない!!

和彦は俺のボケに寛容だから面白いコトしても言っても笑ってくれる

暫く沈黙が続いた後、香月は俺を抱き上げてベッドまで運ぶ

「おやすみ、セリ」

「寝るの?」

明かりを消して一緒にベッドに入ると香月は腕枕をしてくれた

和彦への当てつけで今夜もしたかったんだけどな

俺はそっと誘うように香月の肩に触れてみたけど、香月は俺の手を引き離す

「寝なさい」

むー!!

香月に頭を撫でられてるうちに眠気が誘う

うとうとしている中で

本当はわかってるんだ…

和彦の当てつけなんかしたいワケじゃない…

この寂しさは和彦にしか埋められないものだって

香月はわかってて、俺にそうさせない

大事なコンサートが控えてるのも知って俺に負担かけないようにしてくれてるのも

香月…死ぬほど好き……

でも、今の俺は和彦のコトで少なからず香月のコト利用しちゃってるのかも

ごめん…ごめんね…香月のコト心から愛してるのに、俺がメンヘラなばっかりに今はちゃんと香月を

「か…づき……?」

急に香月に強く抱き締められる

俺の心を見透かすかのように…優しく…でも力が籠もっていて

「私はセリが良くも悪くも人間だと言う事を理解しています

和彦が悪いのです」

「ううん…和彦は悪くないよ

俺がワガママで自分のコトしか考えてないだけの最低な奴なんだって」

香月の唇が俺の言葉を奪っていく

おやすみのキスにしては深く激しい

俺の思考を麻痺させてしまうくらいに

「和彦の言動が貴方をそうさせている」

それはそうだけど…

なんでもかんでも俺の理想通りにはいかないのが当たり前だから

きっと香月もわかってる

それでも香月は俺の味方をしてくれるからどうしても和彦が悪者になってしまうんだ

「ふふ、そうかも

満たされてる時は最強だって自分でも思うくらい無敵になれるのに

不安になるとこんな最低最悪な奴だ

でも、俺は欲張って恋人が2人もいるから

どっちかと喧嘩してもどっちかがこうして支えてくれるから大丈夫だよ」

俺は香月の胸に顔をうずめる

「ありがとう香月…」

こんな俺でも、永遠に愛してくれて受け入れてくれて



次の日、俺は朝早くから自分の部屋の前に立つ

レイと気まずいままなのをこれから仲直りする…

そして、一緒にレッスンして日曜を迎えるんだ

俺のダンスはレイなしじゃ何も出来ない

俺にはレイが必要

いつも守ってくれて優しくしてくれて頼りになって

大親友としてずっと傍にいてほしい大好きな人だ

気持ちを落ち着かせてドアに手をかけようとした時、パッとドアが内側から開かれる

「あっ…」

声を漏らすコトしか許されず、そのままドアを開けた人の手が俺を掴んで部屋に引き入れる

「セリ、昨日は悪かった」

そのまま強く抱き締められてレイの声と一緒に良い匂いが包み込む

「っ…レイ…苦しいよ」

「許してくれるまで離さない」

つまりそれは許さなかったらこのまま絞め殺すってコトでいいか?

だってだんだん力が入って声が出せないんだけど!?

「オレは毎日でもセリを抱きたいくらい好きだ

セリからしてほしいって言われた時はどうにかなりそうだった…」

いや待って…俺が悪いって謝りたいんだけど、力強すぎて…苦しくなってきた冗談抜きで

「だから、手を出したら駄目だと思ったんだ

セリは和彦さんにムカついて言ってるだけで、それを利用してするなんてオレはズルい奴になる

卑怯な事せず、セリが俺を受け入れてくれるまではしたくないって決めた事もちゃんと言えないで嫌な思いをさせて

本当に悪かった!!

オレはセリが好きで愛してるから、それだけは信じてくれ!!」

手の力も足の力も抜けて全身の力が入らなくなると意識が途切れた

「セリ?」

やっと気付いてくれたレイが力を弱めてくれて俺は床に倒れる

レイの悲鳴が聞こえたが、すぐに意識を取り戻す

「し、死ぬかと思った……」

ふらふらな身体を支えられながら俺はソファに座り直す

「すまなかったセリ、殺すはつもりはなかった

人間の時と同じ感覚で抱き締めたつもりだったんだが、エルフの力だとセリを壊してしまうんだな」

殺すつもりの締め付けだったけど!?

まぁわかってくれたらいいよ

レイなんか良いコト言ってくれてた気がするがさっきの話ちゃんと聞けなかったぞ

「レイ、ごめん…俺は自暴自棄になってレイの気持ちを利用しようとした最低最悪だった

ごめんな…レイ……ごめん」

レイの顔が見れなかった…さすがに愛想尽かされるかと思うと、怖くなった

震える手にレイの手が重なる

「セリはオレの事、好きかい?」

「うん…好き……」

「知ってる、セリがめちゃくちゃ言う時はオレの事が好きだから甘えてるんだって

だから、嬉しいよ

嫌いになったりなんてしない」

レイの重なった手が、指を絡み取っていく

温かいレイの手も指も…優しい、いつもレイはどんな俺も受け入れてくれる

喧嘩も多いけど

「いつもわかってる」

抱き締めてキスして、それでも愛してるって証明してくれる

レイはいつもセクハラするけど、最後までしないのは俺を思ってのコトだったんだ

ヤバいメンヘラな時は別として…

「ありがとうレイ…

1年おあずけって言ったら俺のために我慢してくれる?」

「それは無理」

「俺が受け入れるまではしないって言ってなかった?」

ふふって俺はすぐに小悪魔みたいな笑みでレイをからかう

「その辺は聞いてなかったんじゃないのか!?」

「えー?大切なコトはちゃんと聞いてるぞ

約束も覚えてるし、なんでもする、って

レイは俺に何してほしいって言うんだろうな」

レイの胸に指を乗せて下へと滑らせる

あんまりやりすぎるとこっちが火傷しそうだからレイの反応を見ながらギリギリの所で身体ごと離れる

「セリ…そのからかい方、後悔するぞ…」

「何されてもいいって人にしかしないから後悔なんてしないって」

アハハって笑うとレイは顔を真っ赤にしたまま何も言えなくなった

確かに、火傷して痛い目見るコトもあるからあまりしたくないけど

なかなか手を出してこないレイはついついからかいたくなるんだよな

香月と和彦には出来ないコトだもん

こっちが泣かされるからさ


そんなこんなで今日も過ぎ数日が経つ

忙しい和彦にコンサートのコトをどうやって伝えようか考えていたら、あっという間に明日がその日になってしまう

鬼神に伝えてもえばいいのに、忙しいから来てくれないかもって不安に俺はなかなか言えないでいる

「和彦さんにはまだ話してないんだろう?」

夜寝る前の小さな明かりをつけてベッドの中でレイとお喋り

「うーん……もう…いいかなって、全然会いに来てくれないくらい忙しいんだし」

ローズに話を聞いてもらって、和彦とも向き合うって決めたけど

なかなか会えないとその決意も揺らぐ

結局、和彦は俺のコトなんてどうでもいいのかなって…

はぁって大きな溜め息が出る

「明日は大事な日なのに、そんな気持ちで迎えるのはよくないな」

レイが和彦の分まで頭を撫でてくれた

「アイドルは恋するなってなんとなくわかったかも、たった1人でテンション下がるとかこんな気持ち邪魔でしかないもん」

「難しい所だな、恋をする事でしか出せない魅力や頑張りもあるだろうし」

俺は枕に顔を埋めて考える

ダメだ、和彦のコト明日は忘れて集中しなきゃ

こんな不安定な俺じゃ、最高の踊りなんて出来ない

ちゃんと…しなきゃ

「言うなって言われてたけど…」

レイの言葉に顔を上げる

「和彦さんはいつもセリが寝た後に顔を見に来ているぞ

そんな時間にしか会えないくらい今は忙しいんだろうが、和彦さんはセリの事をどうでもいいなんて思っていない」

………何それ…

「…和彦さんの好感度を上げるだけの話、オレだって聞かせたくなかったさ

でも、セリのダンスに支障があるなら取り除くしかないし仕方なく」

話ながらレイは不機嫌になる

だって、俺が和彦の話を聞いて知らず知らずに頬が緩むから

「いや、それだけじゃ俺は和彦のコト許さないもん」

機嫌良くしてるくせに、俺はまだ意地を張って和彦を許さないとする

和彦…俺が酷いコト言った後も顔を見に来てくれていたって?

「明日の事もオレから話しておいたから、忙しくてもそれだけは必ず行くとも言っていたぞ」

何それ…何それ……

そんなの…俺に直接言えよ……

ちゃんと言ってくれないとわかんないから…

でも…和彦も来てくれるなら、もう俺の足を掴む重りは何もない

最高の、無敵な俺になれる

「ふ、ふーん…別に無理して来なくていいし

俺にはレイと香月がいるから和彦なんていなくてもいいもんね

もう寝なきゃ、明日疲れた顔なんて出来ねぇし」

って言っておきながら俺は嬉しくてたまらないからレイに背を向けて目を閉じる

「セリは本当にわかりやすいな」

嬉しい気持ちがいっぱいですぐに寝れなかったけど、毎日のレッスンの疲れもあって気付いたら寝れていた



-続く-

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