162話『たまには海の向こうへ』セリ編

お客さん…いっぱい入ってる…

本番30分前、緊張が強くなって落ち着かない

この前の時より、人が多いのは死者の国が変わったからなのもあるんだろうけど

骸骨天使も目立つくらい人数いるのが驚きだ

ついこの前まで俺の命を狙ってた奴らが、俺のコンサートに足を運んでくれるのは嬉しいやらなんやら複雑だが

やっぱり嬉しいな

人が多すぎてみんながどこにいるかわかんないけど、香月は来てくれるって約束してくれたし

和彦は来てくれてるのかな…

他のみんなも来るって言ってたし

「セリちゃん緊張してる?」

「美樹先生…緊張してます

でも、前の時よりはマシです」

「セリくん頑張ってね!」

「うん、めっちゃ頑張るよ」

美樹先生とローズの言葉と笑顔に緊張が紛れる

大丈夫…この緊張はいつもステージに立つまで、立ってしまえば今の俺は無敵だからレッスン以上に踊れるって知ってる

「セリ、凄く緊張してる」

レイが俺の手を握ってくれた

「今はね…でも、大丈夫

はじまったらレイが一緒にいてくれるから、1人じゃないから平気だ」

ステージには俺1人しかいなくても、俺はレイの曲で歌って踊るんだ

いつもどんな時も、もうそれは俺1人じゃない

「そろそろ時間ね、セリちゃんファイト!!」

美樹先生とローズとレイに見送られて、俺はステージに上がる

真っ暗な静かな空間…たくさんの人の気配を感じて

静かに曲が流れ始める

もう緊張はない

最初は囁くような歌声から、照明も少し暗めで

この曲は前回最後に歌ったものだ

それが今回、最初の曲としてはじまる

すぐに曲調は明るく跳ね上がって、そのタイミングで照明がパッと明るく華やかにステージを輝かせた

ここから明るくなる曲に俺も立ち止まってはいられない

音楽が俺の身体を連れ去るように踊れる

自由に楽しく元気に明るく…

一応、前回の最後の曲だから終わりはまたゆっくり静かに終わってしまうんだけど

この一曲の明るい部分だけでも盛り上がりは十分

さっきまでの緊張感なんて思い出せないくらい、身も心も音楽に染まる

1曲終わるごとにテンションは上がるし、とにかく楽しいし

今の俺は何も恐いものなんてない無敵だ

前回より身体も軽い、何だって出来るような気がする…

いつの間にか客席はパステルカラーのサイリウムで埋まっていた

嬉しくなったけど、気付かない方がよかったのかもしれない…

骸骨天使達が周りを寄せ付けないレベルの手慣れた高度なオタ芸を繰り出していて

意外すぎて俺はずっこけた

しかもその隣でアイドルオタクのキルラが負けじと張り合っている

おいキルラ笑かすな、面白いコトやめろ

あっやばっ!?歌詞も吹っ飛んだし、ダンスの途中で転けるなんて最悪じゃん

客席からクスクス笑い声が聞こえて俺は顔を真っ赤にしたが、すぐに気持ちを切り替えて持ち直す

死者の国の人達はそんな俺の失敗も温かく見守ってくれて、その失敗した曲もいっぱいの拍手をくれた

そうしてあっという間に楽しい時間は過ぎていき、最後の曲となる

最後だから明るい曲も良いけど、俺は最後はしっとりした曲を好んで選んだ

それでもレイは完全なしっとりした曲より俺らしく明るさも加えて最後まで踊れる曲を作ってくれる

それも俺は凄く気に入ってるんだ

レイは俺が大好きな明るくて元気な曲を用意してくれて

美樹先生の振り付けも、俺らしくカッコいいでもなく可愛くでもなくカッコ可愛い感じにしてくれてる

最初から最後まで楽しくて、明るくて元気になれる

俺を満たして無敵にしてくれる音楽

そんな俺を見て楽しんで笑顔になってくれるみんながいて

幸せでしかない…凄く感謝してる

もっともっと踊りたい…またここに立ちたい

みんなの顔がまた見たいから、俺は次も最高で無敵な姿でここに立つから

最後の曲が終わると、大きな拍手がいつまでもいつまでも鳴り止まなかった


「セリくんお疲れ様!よかったわ、さすが私の推しね!!」

「セリちゃんもう最高のデビューだったわ!!」

ステージから降りると3人が出迎えてくれたけど、俺は感動でめっちゃ泣いてしまった

そこに立ってる時は大丈夫だったのに、一歩外れただけで感情が押し寄せてくる

感極まってわけわかんなくなるくらいに

「セリ!めちゃくちゃ可愛かったぞ!!

あっという間に過ぎてしまって、もっと見たかったな」

「骸骨天使とキルラが面白いコトするから失敗した…」

思い出すと失敗したコトに落ち込む

「あれは誰でも笑うだろ

骸骨天使の主が和彦さんに代わってその影響でセリが好きなんだろうが、まさかオタ芸で愛と熱量を伝えて来るとは思わなかった」

それってセレンに仕えてる天使達が腐ってたのもそういうコトなんか…

少し3人と会話を交わしてから着替えて来るよと俺は1人楽屋に入った

着替えながらもさっきの楽しかった嬉しかった余韻は続く

「喉渇いたな」

着替え終わってテーブルの上に置いてあった水を飲む

「あ…あれ……」

急に足元がふらついて俺はテーブルに手をついた

なんか…凄い眠気が…

そのまま椅子に座って、起きようと思ってるのにテーブルに突っ伏してしまう

緊張が解けて…?でも、こんな起きれないくらいの強い眠気…なんか…変……だ……

おかしいと感じてから数秒で深い眠りに落ちてしまった



自然と目が覚めると部屋は真っ暗だった

寝ている感覚からベッドの上だと言うコトはわかったが…

俺は確か楽屋で急に眠くなって…

あっそうか、レイが連れ帰ってくれたのか

それにしてはいつものベッドと寝心地が違うような

どれくらい寝たのかはわからないが、もう眠気はない

身体を起こすと、薄暗い部屋の中から嫌な声が聞こえる

「目が覚めたようですね」

この声は…

「フェイ…?なんでオマエが」

最悪の目覚め、なんでフェイと同じ部屋にいるんだよ

レイは?レイが一緒なら絶対こんな状況ありえねぇのに

フェイが近付いて来るのを感じて俺は反対側へと逃げる

ベッドから離れようとしたら捕まって引きずり戻された

「アイドルを寝取れるなんて興奮しますね」

「ふざけんな!誰がオマエなんかに寝取られるか!!」

フェイの腹を思いっきり蹴って怯んだ隙に俺は部屋のドアを開けて廊下に出る

でも…足がそこで止まってしまう

「一体何処へ逃げるおつもりで」

フェイの言葉に俺は廊下の窓から見える見渡す限りの真っ暗な海に、逃げ場がないと知った

海の上…船の中だったのか、ここは…

どうして…フェイと2人でこんな所に

フェイは俺を後ろから捕まえると部屋に引きずり戻し鍵を閉めた

「逃げられないんです、貴方の騎士もいませんし

あのしつこい騎士も海の上まではさすがに追い掛けて来れないようですね」

振り払おうと身じろぐがフェイは俺の両手を後ろで拘束すると、そのままベッドに放り投げた

いたっ…こういう乱暴なとこもムカつく

馬乗りにされてフェイは俺にキスをするからその唇を噛んでやる

それくらいでフェイが引くとは思ってない

俺を見下ろしフェイは嫌な笑みを浮かべる

「懐かしいですよ、この光景

前の世界で私がセリ様を犯した時の事、覚えておられますか?

あの時はハメ撮りで楽しみましたね」

覚えてるも何も……忘れたくても忘れられるか

楽しんでたのはオマエだけだろうが

気持ち…悪い…

それで脅されたコトもある

和彦に言えなくて…フェイの言いなりにならなきゃいけないコトも

フェイだけは…やっぱりめちゃくちゃ嫌いだ

フェイの親指が俺の口の中に押し込まれる

噛み切るつもりで噛んで血の味が広がるほど痛いハズなのに、フェイは抜くどころかさらに奥へと指を入れる

「その顔、私が死ぬほど嫌いって事が伝わります

貴方に噛まれた痛みより、その顔を私に見せてくれる方が興奮してたまらないですから

もっと私を拒絶して嫌って憎んで、そんな私に犯されて悔しがって苦しんで絶望する顔をたっぷりください」

逆効果だってのはわかってる…

でも…コイツのコトは好きになれない

和彦のコトで一度助けてもらった恩はある

だけど、それは俺をもっとどん底に落としたいからだったんだろ

自分の主人の恋人以上の相手なんていない

そんな相手を寝取るのがコイツにとって最高の快楽

俺のコトに興味なんてこれっぽっちもなくて、和彦の恋人じゃなきゃ眼中にもない

むしろ数々の言動からフェイに嫌われてるコトくらいもわかる

「私に反抗するのは構いませんが、されたらされた分だけ痛い目見せますよ」

フェイは俺に噛まれた指を舐めると、俺の足を掴んで自分の目の前に近付ける

「相変わらず小さな足ですね、形も可愛いです」

じっくり足を眺められたかと思うとフェイは俺の足の親指の爪をゆっくりと剥がした

「ぃっ!?痛い痛い痛い!!やめて!!フェイ痛い!!」

なんでこんな時、回復魔法が使えないのか

偽和彦事件をきっかけに俺は心に関係する痛みが治せなくなってしまった

フェイに襲われて恐怖してる心が痛みの感じを引き寄せてる

爪を剥がされると爪のない剥き出しになった親指を口の中に含められると舐めたり歯を立てられ様々な激痛を味あうコトになる

「ぃ…た~い……や、やめて…フェイ……痛いよ……うぅ…痛ーい!!?」

「…やっぱり、あの一件以来こういう痛みは感じるようになったんですか

私にとっては好都合、こうでなければつまらないですから」

痛すぎて抵抗する気も削がれる…前の時もそうだった

フェイに服を脱がされているのに、俺は悔しくて泣くしか出来なかった

痛む傷と一緒にフェイに触れられるコトを我慢する

怖さで震えて痛みで熱くなる身体

もう…大人しくして早く終わるのを我慢して待つしか……

「可愛いですねその顔も、撮りたかったな」

またフェイの顔が近付いて唇を奪われる

さっきみたいに噛む気にはならなくて、心がへし折られていた

フェイが満足するまで従わなきゃ…今度はどんな痛いコトをされるかわからないって怯えて

そんな自分が情けなくて、自分が嫌になった

この感覚は…嫌な昔を…思い出すから……

フェイは俺のトラウマを再現するかのように、悪夢のようだった

フェイの手が腰に触れると嫌なのに身体が反応する

我慢しなきゃ…耐えなきゃ…

そう思ってると、ドアが破壊される音が聞こえた

ビックリしてドアの方に目をやると

「フェイ」

和彦の姿があった

俺は久しぶりに見た和彦の姿に嬉しさと助かったって気持ちで口元が緩んだけど

すぐに和彦のマジな怒りの空気に言葉を失う

「セリくんを連れて来いとは言ったが、寝とっていいとは言ったか?」

和彦の言葉にフェイは俺から離れると和彦へと頭を下げた

「申し訳ございません、和彦様」

俺がここにいるのは和彦が頼んだから?

いや、なんでフェイに頼むんだよ

コイツには頼んだらダメだろ

「未遂だから腕は許してやるが、セリくんを泣かせた詫びはしてもらう」

前の時は片腕切り落とされたんだよな…

それを俺の前でされて怖くなってフェイのコトは話さなくなった

フェイにはそこを漬け込まれたワケなんだが…

どんなに嫌いでも…フェイは酷い奴なのに

どうしてだろう…俺はフェイを…

「お言葉ですが、和彦様に隙があるから寝取られるのではございませんか」

「それはオレがセリくんに寂しい思いをさせているからと言いたいのか?

そうだとしてもお前が気にする事じゃない」

ここの空間が鋭い刃物で固められて少し動いただけで切れそうなくらい危険なのに、フェイの奴よく食いついてくるな…

和彦のコト恐くないんか…

「………セリ様じゃなければ気にしないのに…」

フェイは誰にも聞こえない声で呟くと、一礼してから部屋を出ていった

静かになった部屋で和彦が俺の方へ振り向いて近付くと、後ろで拘束されていた縄を解いてくれる

「縄の痕が…」

手首をさする和彦に大丈夫と首を振る

「助けてくれてありがとう

これくらいならすぐ治るよ

それより、足の爪だ…これは暫く痛いやつ…」

和彦は薬箱を持ってきて手当てしてくれた

「セリくん、悪かった」

「えっいやこれは和彦のせいじゃないから」

「それもあるが、忙しくてちゃんと相手してやれなかった

早くセリくんとゆっくりしたくて仕事が落ち着くのを優先して、それまでのセリくんを蔑ろにしていた」

和彦の優しい手が頭を撫でて頬に触れてくれるから俺はその和彦の手に頬をすりっと甘える

「ううん…俺もワガママ言った

和彦の寂しさは和彦にしか埋められないってちゃんと言わなかった俺もダメだったんだよ」

ぐっと強い力で和彦に引っ張り寄せられて抱きしめられる

それが…嬉しくて…久しぶりの和彦に……

生きた和彦に…抱きしめてもらえる幸せ

日にち的には短かったかもしれないが、俺にとって和彦が殺された日からずっと長かった

ずっと…ずっと…こうしたかった…変わらないぬくもりがほしかった

「今日から暫くはセリくんを独り占めにしたい」

「えっ?もういいの?」

あんなに忙しかったのに

和彦は死者の国ですぐに変えなきゃいけないコトはとりあえず変えて、後は膨大な見直しがありながら自分の本来の仕事もあるコトに

どう時間を調整しようか考えていたみたいだ

考えついたのが生死の神の権利を誰かに譲る

ちょうど無職の女神がふらついていたから、その話をしたらしい

和彦は肉体は神族だからセレンと交代で無職の神になるが、神族としての権利はある

セレンが勝手なコトをさせないようにも出来る(脅しと言う名の力で)

しかし、セレンは無職に甘えたいと断ったみたいだが

「オレが忙しいとセリくんとイチャつけない」

って言ったら条件付きでオッケーしたとか

「それは大変ですわ!!セレンに出来る事なら何でも協力しましてよ

でもセレンにも譲れない部分はありますの

生死の神は忙しいとお聞きしておりますからそれは嫌ですわ

ですので、私は生死の神の和彦様の補佐としてこの死者の国を管理致しましょう

セレンは和彦様とセリ様がイチャつく時間くらいは作って差し上げましてよ」

とりあえず…セレンは責任は負いたくないし難しい仕事はしたくないし、前の自分の国と同じくらいの見守る程度ならするってコトで話がまとまった

それってやっぱり和彦がずっと大変なんじゃ…

「鬼神もいるしフェイもいるから問題ないだろう

骸骨天使も数が多く皆優秀だ

最初は大変だが慣れれば余裕も生まれる

そこにセレンが補佐になってくれるだけで、オレは好きな時にセリくんに会えるよ

こうして…ね」

和彦は俺の唇に自分の唇を重ねる

さっきフェイにされたキスとは全然違う…

嬉しいと感じて満たされる愛をくれる

やっと…和彦に触れてもらえて…幸せ

「じゃあ…もう寂しくないな」

和彦はなんやかんやフェイの名前を出すってコトは実力は評価してるんだ…

「なるべく寂しい思いはさせない…今日は疲れただろ、ゆっくり休むといい」

「見に来てくれたのか?」

「可愛かったよ」

「カッコいいは?」

「カッコ可愛かった、また次も楽しみにしてる」

へへへ、嬉しい

和彦に寝かされて俺は安心してまた眠りにつく

次に目が覚める朝には海の向こうに到着していた



海の近くにあるその町は観光のための町で、他の町と違って普通の人が生活してるワケじゃない

世界中から集まる人気のリゾート地

人気と言っても一泊が物凄く高いからなかなか来れない場所みたいだ

人はそんなに多くなく、夏だと言うのにどこか涼しい

ショッピングも十分に楽しめるありとあらゆるお店が並び、遊べる所だってたくさんあった

広すぎて数日で全てを遊び尽くすのは難しいくらい

とにかく、感想はオシャレな町で敷居が高い

「たまには海を渡って遠くに行くのもいいかと思って

この季節だけど夜は涼しくてホテルも夜景が綺麗でセリくんが好きそうだったから」

ホテルの部屋に案内されて、そこから見える外の景色は朝の今でも綺麗なのに

夜はもっと綺麗だと言う

部屋はいくつもあって広いし、プールまで付いてる

エステもスパもあるからって至れり尽くせり

「いや…ってか、オマエなんでこんな金持ってんの?」

嬉しいとかより逆に怖くなって引く

「知りたい?」

香月は魔族の王様だからお金持ってるのもわかるけど、和彦は何やってるかわかんないから怖いんだよな

「セリくんには刺激が強すぎるからおすすめしないけど」

「じゃあ知らないままでいい…」

俺の頬に触れる和彦の手を受け入れる

いつか知りたいって気持ちもある…でも、知ったら俺は和彦を変わらずに愛せるだろうか

和彦がおすすめしないって言うくらいだから、和彦だって俺がよく思わないってのをわかってる

それは俺と関係を持つ前からのコトだから途中からの俺が口出しするのは…おかしいってのもわかってるから…

それなら知らない方が幸せって言うんだろうか…

「あっ、忘れてたけど俺は和彦に怒ってるんだった」

和彦の手を振り払って俺はぷいっとそっぽ向いた

「怒ってる?暫く寂しい思いをさせたからか?」

「それは仕方ないってわかってるもん

俺のワガママだし

俺が怒ってるのは、和彦が俺は誰でもいい尻軽って言ったコト」

「誰でもとは言ってないだろ

オレが傍にいてやれないから、香月とレイにとは言ったが」

思い出すとムカついてきた

こんな所まで来て喧嘩したいワケじゃないのに、でも和彦がわかってないから怒りが収まらない

「それが誰でもに聞こえるんだよ

俺は和彦のコトで寂しかったのに、他の男じゃその寂しさを埋められるワケないんだよ

和彦のコトは和彦じゃなきゃダメなのに

和彦は俺が誰でもいいみたいに言った

それにムカついてんだよ」

怒りから悲しみに寂しさに変わって身体が震える

和彦は俯く俺の顔に触れて上を向かせた

「なんだ…わからなかった

セリくんはオレの他に2人も男がいるから、オレがいなくても2人がいればその寂しさもないんだって

香月とレイに任せていればって、オレは早く仕事を落ち着かせようって向き合ってたけど」

和彦は謝るように俺に優しくキスしてくれる

「オレじゃなきゃ駄目な時もあるんだって覚えておくよ

悪かった、だから機嫌直してくれ」

「どうしよっ…か…な」

「好きなもの何でもどれだけでも買ってやるから」

「許す!!じゃあさっそく買い物いこ!!」

「そんなんでいいんだ…いつも好きなだけ買ってあげてるのに」

「そのいつも通りが嬉しいんだよ

早くいこ、寂しくさせた分いっぱい甘やかしてくれよな」

和彦の腕を掴んで引っ張る

外に出たら人目があるから和彦とくっついて歩けないけど、この部屋を出るまでの少しだけでもくっついてていい?

「和彦…大好き」

「急にどうした?」

「別に~上書きしたかっただけ」

やっと言えて満足する

和彦が殺される前に、最後の言葉が本気じゃなくても…嫌いって言っちゃって

生き返ってからも喧嘩して嫌いって言っちゃったから…

もうこれでちゃんと大好きに変えられたから、いいの


町に出てショッピングモールへとやってくる

ひゃ~広い、デカい、何階まであるんだ?

こんなの全部見れるかな

気になった店を片っ端から入って気に入ったものを遠慮なく買ってもらう

「服でしょ、靴でしょ、バッグでしょ、小物でしょ、帽子…は普段あんまり被らないけどこれ可愛いから買う

後ね~」

あっという間に荷物持ちの和彦が見えなくなるくらいの量を買った

和彦にしたら重くはないだろうが、前が見えないから大変だと愚痴を零す

「まだ1階すら制覇してないぞ!!1階の

半分も見てないから!!」

「まだそれでこんだけ買う子はセリくんがはじめてだよ…どんな女でもここまで買わされた事はない」

「えっ元カノの話とかする?あー機嫌悪くなったな~?」

ありえないくらい買わせておいて、ぷんっと機嫌を損ねる俺

俺だって和彦以外にこんなねだらないぞ!?

むしろ遠慮するから、和彦だから甘えてるんだもん

「元カノとかじゃない、オレは付き合ったのはセリくんだけ」

あーはいはい、たくさんいた女は遊びだったって言うんかい

まぁ実際そうだったんだろうけど

なんかムカつくから和彦の全財産むしり取りたい気持ちになる

「そんな顔するな、セリくんの機嫌が直るまで好きなだけ買っていいから」

……和彦は優しいから…嫌な気持ちも薄れる

「じゃあこのショッピングモール買って」

なのに、和彦に甘えてるからついこんなツンとしたコト言っちゃう

「いいよ」

「ウソだよ!?いらないよ!!冗談だもん!!」

本気じゃない、だけど俺のどんなムチャなお願いも即答でオッケーしてくれる…それだけで俺は満足だ…

「セリくんがほしいなら買う」

「いい!いらないってホントに冗談だから

俺は和彦がいてくれたらいいもん

今買ってくれた服も靴も、どんなに高価なものでも…和彦だけいてくれたら何もいらないよ…」

買ってくれるって言うから遠慮なく買ってもらってるだけだもんね!

「そうやって嬉しいコト言って何人の男をたぶらかしてるんだか…」

「うっ…別に…本心だから…たぶらかしてるつもりは」

和彦だけに言ってる言葉じゃないのはわかってる

俺には他にも愛してる人がいるから

でも、俺は本当にそう思ってるから伝えただけ

「あっ…そうだ!!」

ふと俺は視界の隅に見えたお店でパッと思い付いた

和彦は俺の指差す方を見る

「セリくんに似合いそうなお店ではあるが、どっちかって言うとセリカだな

お土産に買うのか?いくらでも構わないが」

セリカにお土産買うのも忘れてないけど、今はそうじゃない

ふふって笑う俺に和彦は首を傾げる

「和彦と俺で双子女装コーデしよ!!」

「そろそろお昼の時間だな、お腹空いたセリくんのワガママが酷くなってる」

和彦は近くのサービスカウンターで買った荷物を家に送るように手続きをはじめた

「えー!!したーい!!双子コーデするーー!!」

荷物がなくなった和彦に、お願いとワガママをこく

「双子コーデはわからんでもないが、何でオレが女装を…」

珍しく嫌そうにされる

「和彦なら似合うと思って

だって香月もレイも体格的にも似合わないんだもん」

「嫌…」

「見たい!!」

俺は言い出したら引かないってわかってる和彦は仕方なく折れてくれた

「わかった…今日だけな」

「やったー!楽しみ!!」

ささ和彦の気が変わらないうちにって俺は強引に和彦の背中を押してお店の中に入った

どれもこれも可愛い服だな~、セリカに似合いそうなのばっかり

でも、今回は和彦と双子女装コーデだから

「黒と白にするか、ラベンダーかピンクかで悩んでる」

控えめなロリータ系の服の中から2種類で迷う

「どっちでもいいよ」

「スゲー投げやりだな…じゃあ和彦はどっちの俺が見たい?」

「ピンク」

「じゃあ和彦はラベンダーの方で、はい試着」

店員さんに試着室を隣同士で案内されたが、試着室が結構広かったから2人で使うってコトにした

どうせ和彦は着方わかんないだろうし

コルセットとかややこしいんだよな

俺はセリカだからそういうのわかるしな

「はい、服脱いでまずはこのブラウス着て」

「こんな狭い密室でセリくんと2人っきりなのにそんな気分になれないくらい憂鬱だ」

「ショップの試着室でそんな気分になる方がおかしいだろ」

嫌々ながらも和彦は服を着てくれる

コルセットを締めた時は殺す気か!?って怒られたが、これが女性の普通だぞ…すぐ慣れるって笑って返した

俺も着替えて、お互い着替えた後の格好を鏡で見比べる

「こんな姿、セリくん以外に見られたら死ぬ…

でも、セリくんは良く似合ってる」

「まだ待って」

俺は自分の持ち物から怪しい薬を取り出して飲んだ

「なんだそれ?」

薬を飲むと俺の髪はセリカと同じ長さにまで伸びる

「リジェウェィに作ってもらったんだ

効果は量によるけどさっきのだったら半日くらいかな

セリカに似合う服を見かけた時に俺が試着するんだけど

長い髪で見た目もセリカっぽくしないと本当に似合うかわからないだろ」

それでいつも持ち歩いてるってコト

「女体化の薬か?」

「いや髪だけ、まだ女体化の薬はないみたい」

「ちっ」

その舌打ち…よからぬコト考えてんじゃねぇだろうな…

あったら俺に使って遊んだりするんじゃないかコイツ

「ほら、もっと可愛くなった

やっぱセリカは死ぬほど可愛いな」

俺は鏡に映る髪の長い自分をめちゃくちゃ褒めた

「セリくんは…可愛いよ…」

俺を見て照れてる顔が鏡に映る

和彦だって…

「和彦って着痩せするタイプだよな…あの怪力なくせに意外と華奢だし

女装しても変じゃない…顔が女の子みたいに可愛いから俺より可愛いし…」

こう並ぶと、正直可愛さで言うと俺より上だ

なんか…自信なくなった……

「和彦の方が俺より、めっちゃ可愛い…」

落ち込む

「セリくんは可愛いより綺麗系だからオレはセリくんの綺麗な顔が好きだよ

オレから見たらセリくんは誰よりも可愛い」

立ち直った

和彦がそう言うなら…えへへ嬉しい

「ここ化粧品も売ってたからメイクしてもらお

服もこれで決まりでいいよな?

買ったら髪は無料で結ってくれるって言うからお揃でツインテールにする!!」

「はいはい、もうセリくんの好きにして」

店員さんにメイクしてもらって髪も結ってもらう

うさぎメイクでツインテールは毛先を可愛く巻いてもらって完成

えっ…俺って超可愛い…セリカそっくり

セリカ(俺も)は肌が弱いから普段メイクはしないがたまにはしたい時もある

「和彦もでき……」

隣で髪とメイクをしてもらってた和彦の方に向くと、和彦が俺の方を向く

髪型は一緒だけど、メイクが違う…

和彦にはうさぎメイクが似合わなかったのか、地雷メイクにさせられて

スゲー似合ってた

「ウソ!?似合う!!めっちゃ可愛い!!

地雷系には程遠い和彦が、メイクはめっちゃ似合うのが笑う!!」

和彦は元から髪が長くて後ろで1つにくくってるけど、今日の女装和彦はその長い髪をツインテールにしてもらってる

和彦の髪に触れてサラサラ~って褒めた

「なんとでも言ってくれ…」

支払いを済ませて(和彦が)

気分良くお店を出る俺と、微妙に不機嫌な和彦

「楽しい!!」

「そうだな、せっかくこの姿なんだ

オレも楽しもうか」

そう言って和彦はオレの手を繋ぐ

「えっ人前はちょっと…」

周りを見回すが誰も見てないとは言え…

「なんで?今は女の子同士、なら手を繋ぐのは普通の事なんだろ?」

女の子同士の友達なら手を繋ぐのも腕を組むのもよくあるコト…和彦は今の姿を利用して笑う

俺は…恥ずかしいけど、この見た目なら外で堂々と和彦と手を繋げるコトに…ドキドキした

俺が頷くと和彦は調子に乗って指を絡めてきた

さすがに恋人繋ぎはやりすぎ…なのに、俺は何も言えずに離すコトも出来ずに…その手を握り返す

ドキドキして…買い物の続きなんて…無理

和彦は買い物の前に昼食にしようと言ってくれる

俺はちょっとドキドキが落ち着かなくてあまり食べれてなかったけど、和彦は生死の神の肉体になってからも前と変わらずの大食いだった

和彦は食べ方綺麗だし、たくさん食べるからこうして見てるだけでもいいな

食べ終わるとまたショップ巡りしてほしいものを買う

でも、さっきよりほしいものはあまりなかった

和彦と一緒にこうして手を繋いで歩けるだけで幸せ…

「いや…結構買ったぞ…」

また和彦が見えなくなるまで荷物が増えた

当然、手なんか繋げない

「えっ?そ、そう?」

わかってる…わかってる、また買いすぎてるって

だって!好みのがいっぱいなんだもん!!

ここのショッピングモール俺を誘惑する!!

和彦がまた荷物を届ける手配を済ませてくれる

荷物がなくなった和彦がさっと自然に手を引っ張ってくれて…

それがたまらなく嬉しかった

「そろそろ小腹が空いてきたか?

この先のオープンテラスに、美味しいパンケーキがあるらしい」

「パンケーキ!?」

「セリくん好きだろ」

「うん!!」

俺の好きなものを調べて連れて行ってくれるなんて、和彦マジ良い男

って、香月もレイもしてくれるからみんな良い男

ショッピングモールを出てパンケーキのあるカフェにウキウキ気分で向かってる途中、2人組みの男に声をかけられた

これは…いつものややこしいパターン…

「2人とも可愛いねぇ~!」

「何処行くの?お兄さん達と一緒に遊ばなーい?」

胡散臭い作り物の笑顔で通せんぼうされてしまった

「ナンパか、逆ナンはされた事あるが

男からナンパされた事はないな」

「そりゃそうだろうよ…普通は」

和彦はこの状況が新鮮だと感心している

「セリくんは男からナンパされるの慣れてるかもしれないが」

「一言余計なんだよムカつくな」

逆ナンされたってさらっと自慢に聞こえるのもムカく

「このままついていったらどうなる?」

「ナンパ経験者が俺に聞く?わかるだろ」

「面白そうだ、ついて行ってみようか」

「えー?あの男達とヤれるか?俺は無理だし嫌だぞ

ってか、俺はいつもナンパされてもついて行ったコトねぇぞ

ろくなコトになんねぇから無視だ無視」

「オレがいるからセリくんが心配する事にはならないのに」

何が面白そうだ、和彦はそっちの気はまったくないのに

俺は和彦の手を引っ張ってナンパ男達を無視して歩く

が、ナンパ男達は俺達に足並みを合わせ札束をちらつかせた

「奢っちゃうよ?」

「ほしいものあるなら言っちゃいな」

そんなはした金見せられてもな…

ほしいものなんてない、あれば和彦が買ってくれるし

無視を続けていると、男達の苛立ちが見え始める

「地雷女のくせにお高くとまってんなよ

金に釣られて股開いてろ」

男の暴言に俺は足が止まった

「…は?オマエ今なんつった?」

暴言に対して睨み上げると男はさっきまでの媚びを売る胡散臭い笑顔から暴力的な顔になっていた

「脳みそのない馬鹿な女を金で買ってやるって話だよ、わかる~?」

「言いたいコトはわかった

俺はオマエらみてぇに、女をバカにして見下してる奴がめっちゃムカつくし許せねぇんだわ

脳みそないバカはどっちだよ、人を人と見ず女の尻しか見てねぇゴミが

女ナメんじゃねぇぞ!!」

カッとなって言い返したら、男達はキレて俺に掴み掛かろうとした

「このクソアマ!!仲間呼んで輪姦してやっからな!!」

やばっ殴られ…

ると思ったが、和彦が男2人の腕を掴んで止めてくれる

あっ…そうだった、和彦と一緒だったんだ

「私のセリちゃんに…酷い事しないで

大好きなセリちゃんがそんな目に遭ったら…また私の手首の傷が増えるじゃない…ねぇお兄さん達?」

ギリギリと腕を締め上げられ、男達は和彦の馬鹿力に顔を青ざめる

身を引くのを見て和彦が手を離すと男達は罵詈雑言を吐きながら逃げ出した

勝てないとわかってて逃げ出すくせに、負けを認めたくなくて暴言とかダサい野郎どもだ

「大丈夫か、セリくん?」

「あっ…うん、助けてくれてありがとう和彦

それにしてもメンヘラ地雷女子の真似か?上手かったな

それに声色も変えて、完璧女の子かと思った」

女声出してた和彦は声まで可愛かった

いよいよ俺は和彦に勝てないと思った

俺はセリカでもあるから声も男らしくはないとは言え、中性的な声だから女らしくもないワケで…

「セリくんに手を出すって言うなら殺してもよかったんだが、人目がありすぎた

まだまだセリくんとデートしたいのに、あんな奴らにそれを壊されるのも嫌だったからな」

言われて周りを見回すと、揉め事?って感じで少しざわついているが大事にはならなさそうだった

「声をかけられた時にあいつらについて行って個室で始末するかとも考えていたんだが」

「そうだったのか…俺が余計なコトして、喧嘩して…和彦に迷惑かけたな」

申し訳ないって目を伏せると、和彦の唇が当たる

「迷惑だなんて思ってないわ

あそこで私の為にセリちゃんが怒ってくれて嬉しい…

私ならスルーしちゃうもん

だから、私っセリちゃんの事だいだい大好き!!!」

別にオマエのためじゃないが…オマエ男だし

和彦が人懐っこく俺に体重をかけるように抱き付いてくる

まるで本物のメンヘラ地雷女子みたいに、女の子の演技まで完璧か…

周りは俺達を変な目で見るコトもなく、女の子同士の可愛い戯れと横目に見て通り過ぎて行った

「うーん…和彦の女の子は見た目も声も仕草も性格も完璧なんだけど…

やっぱり俺はいつもの男の和彦が好きかな

俺は女の子無理なのかも…ってなんかヘコんだ……」

わかってたけど…やっぱり俺って男しか無理な人だったんだ…普通にショック

「セリくんはそうでないと困る

オレは男だからな」

「困るって…最初の時は俺は自分が普通に女の子が好きだと思ってたし、それなのに無理矢理だったじゃん」

「その時はセリくんの気持ちは関係ないと思ってた」

わかってた、出逢った時の和彦は最悪だったよ

それが今じゃこんなに好きになってんだからおかしいって笑っちまうよな

和彦は気を取り直してパンケーキ食べに行くぞって手を差し出す

俺は周りの目も気にせず和彦の手を取って、笑って握り返した

その後は何事もなくパンケーキを食べて紅茶を飲みながらまったりする

ふわふわでとろける甘いパンケーキに大満足して俺はご機嫌だった

あ~今日はいっぱい買い物してなんやかんや楽しかったな

楽しいけど、疲れたあくびをすると

和彦は夜は部屋で何か取って食べるかってコトで帰ってゆっくりしようと言ってくれた

パンケーキ食べたから暫くご飯いらないな

部屋に帰ると夕方だから少しだけ空が暗い

でも、夜景が綺麗になるのはもう少し後

夕方の景色も綺麗だけどな、昼間と違って

玄関で靴を脱ごうとしたら、和彦は俺をドアまで追い詰めると両手で逃がさないよう手をついた

「えっ…なに…?」

ちょっと身を引いたが逃げ場がない

そのまま和彦にキスされてしまった

「……ずっと可愛いから…襲ってしまいそうだった」

「褒めてくれるのは嬉しいが、よく理性を保てた…偉いぞ」

和彦なら外でもやりそうで怖い…さすがの和彦も外で手を出してきたコトはない

軽いセクハラはあるけど

「セリくん見てると我慢出来ない…1回だけ」

「あっちょっと和彦!?」

和彦の手がスカートの中に入ってくる

首筋にキスされて…身体に一瞬で火が付く

「ダメ…シャワー浴びてないし…服着たままなんて……」

「そのままが良い」

止める言葉も聞いてくれない和彦の力には敵わず俺は和彦のワガママな愛を受け入れるしかなかった


「最悪…服も汚れたし」

終わった後、2人で広くて海が見える風呂に入る

その時にはすっかり外も暗くなって夜景も綺麗なハズなのに俺はちょっと怒って和彦に背を向けていた

「セリくんが可愛いのが悪い、オレは悪くない」

なんで俺のせいなんだよ…オマエが我慢しろ

シャワー浴びる前にするのはあんまり好きじゃないな

なんか自分汚いんじゃないかって思えて…

和彦は汚くないって言ってくれるけど

「そろそろ機嫌直して、夜もセリくんとイチャつきたい」

和彦が俺の腰に手を回して自分の方に引き寄せる

「この後も!?」

「ご飯食べたら、だってセリくんと何日ぶり?ずっと触れたかったし、溜まってる」

う、うーん…和彦は生死の神になって俺のお願いも聞いて死者の国を良くしてくれたし

頑張ってくれたから和彦が求めてるコトは受け入れたい…が、俺死ぬんじゃないか…

「さっきの女装したセリくん可愛かった」

「ふん…」

いい加減拗ねるのもやめるか、結局俺は和彦が好きなんだから…

本気で嫌がったら和彦も昔と違って無理にはしないし、和彦がやめないってコトは俺は和彦を受け入れてるってコトなんだから

とりあえず機嫌直して俺は外に目を向けた

和彦が言った通り、ここから見える夜景の美しさは感動ものだ

「こんな綺麗な景色を見ながら、ゆっくりするのもかなり久しぶりかも」

俺は和彦の肩に頭を預ける

一泊くらいはたまに遠出もするけど、何日もってのも珍しい

なんせ俺には香月と和彦とレイがいるから…誰か1人と長く一緒にってのはなかなか

まぁレイは大親友だからいつも一緒にいて1番長いけどさ

「香月もセリくんと暫く一緒にいたいと思ってるだろうから、帰ったら香月に譲らないとな」

「2人でいる時くらいは他の男の名前出さんでも…」

俺は自分からはなるべく言わないようにしてるのに

和彦も香月も、レイだって気になるのか聞きたがるんだよな

それくらい嫉妬心も独占欲もないってコトで俺達の関係は上手くいってるんだが

レイは違うけど…

「ところで、レイとはもうヤッた?」

「いや」

和彦が聞くからレイは俺がちゃんと受け入れるまで手を出さないって言ってくれたコトを話した

「なんだヘタレか」

「レイは優しいんだよオマエと違って!!」

メンヘラこじらせた時は手がつけられないけどな…

「でも、セリくんはレイの事好きなんだし早く抱いてもらえばいいのに

それでレイと3Pしよう、香月も入れて4Pでも大歓迎」

「それしかないんか…好きだなオマエ

嫌だって言ってるだろ、俺だけしんどくて大変なの」

ぷいっとそっぽ向くと、和彦の手が肌に触れる

「ぁんっ…て変なとこ触んなバカ!!」

和彦を叩いて俺は先に上がるからって風呂を出た

これ以上はのぼせるし

薬で伸びていた髪もお風呂に入ってる途中で時間が来て、伸びた部分だけ溶けてなくなってしまってる

着替えて部屋で涼んでいると眠くなってきた

まだ寝るには早い時間だけど…今日は疲れ……

ソファでうとうとしてると、外で大きな音が鳴り響くのが聞こえて飛び起きた

えっ何々!?でも聞いたコトのある音…

部屋の明かりがパッと消されて、風呂から上がった和彦が隣に座る

「そういや、この時間から花火が上がるって話だったか」

「えっマジ!?」

すぐにまた次の花火が上がって、外に大輪の花が綺麗に咲き誇る

部屋の明かりを消したから余計に夜空にキラキラと映えた

「えー綺麗…夏って感じ」

「花火ならセリくんも得意だな」

炎魔法で花火は俺でもできるけど、そうじゃないんだよな~

今見てるのは、和彦と眺めるから最高なんだよ

いつかの前世で…香月と花火見に行ったコトあったっけ……

その前世ではその後に香月と結ばれて…って、恥ずかしい

今は和彦といるんだから和彦のコト考えないと、和彦のコト見ていたい

でも、また香月とも花火見たいな…

「カキ氷食べたくなった」

「夕食はどうする?カキ氷と一緒に頼もうか」

「食べるー」

花火を見ながら返事をして、少しすると料理が運ばれてきた

10人前くらい…

今からパーティーでもするのか…?

「めっちゃ美味しい!!」

料理の盛り付けも綺麗で芸術的だし味も抜群、花火が大きく見える部屋も最高だし

1日目から満喫してるな

「明日は海で遊びたい」

俺は観光パンフレットを見ながら、行きたいところがたくさんあってワクワクする

「イルカさんとも遊べるって、海とか超久しぶりだ

その次の日はエステとスパでゆっくりしたいかな」

和彦はうんうんと頷いてくれる

「和彦は行きたいとこないのか?

いつもデートする時、俺の好きなとこばっかだから」

いつも聞く質問は、いつも同じ返事しかない

「とくには、セリくんの好きな所に行きたい」

趣味とか好みとかない奴だから、でも香月と違って人としてそれなりに楽しんではいるみたいだから良いけど

「うーん、和彦の興味あるところとか」

「それじゃあ」

「美人で巨乳のお姉さんに囲まれてお酒飲むとこ以外で」

「ないな」

「こらこら!?恋人の俺と旅行に来てて他の女と夜を楽しむってありえねぇぞ!?

和彦はすぐ女に目移りして、この女好き!浮気性!!」

ふん!とすぐに機嫌を損ねた俺はカキ氷を持ってベランダへと1人出た

むー!和彦はすぐに俺を怒らせて、全然俺のコト好きじゃないじゃん

昔ながらの素朴なカキ氷を崩してシロップに浸してから口へと含む

暑い夏の夜に、氷が身体を良い感じに冷やしてくれる

でも、俺は拗ねてるから全然涼しくならない…

俺が怒りっぽいのかな…和彦が女好きで浮気性なんて最初からわかってたし…

いくら……俺が1番で本命で特別だって言ってくれても…

俺は欲張りでワガママなんだよ……

せっかくの綺麗な花火も俯いて見えなくなる

「セリくん、また不安になってる」

和彦が俺の目の前に立って視線を合わせるように屈んだ

でも俺はぷいっと顔だけ横に向いて和彦を無視する

いくら…いくら…和彦が……

「ここずっと女遊びもしてないのに」

「しないって言わないからいつか浮気する気はあるんだろ」

「それはわからない…でも、ずっとセリくん以外そんな気にならない

好みの女がいても何か違うなって

オレは自分の女好きで浮気性は一生直らないと思ってたが

直るとかじゃなくて、そんな気が起きないのはオレが思ってるよりセリくんの事が好きで夢中だからなのかもな」

和彦が俺の左手を取って、薬指に指輪を嵌めてくれる

俺は自分の左薬指に目をやってから、やっと和彦の顔を見た

「……前の時より…感動薄い…」

「2回目だからな、セリくんがこういう場所が良いって言うから」

和彦の背にはキラキラと夜を飾る光がたくさんあって、花火が空を咲かせる

夜景も…綺麗で、めちゃくちゃ…ロマンチックだし…それだけでも感動するし嬉しい

でも…やっぱり最初のあの時あの場所、あのタイミングに勝る時なんてないんだ

「ずっと俺に夢中になってて…他の人なんて気にならないくらい…俺を好きでいてよ」

「オレは死んでもセリくんを離さないし、永遠に愛してるよ」

和彦らしい…言い方

目移りしないとは言わない

そんなに未来の自分に自信がないんかい

だったら…俺がずっと和彦に愛してもらえるように頑張る…

他の人に目が行かないくらい惹きつけるから…

和彦も同じ位置に指輪をしてくれて、2人が繋がる手の絡めた指に当たるその指輪が愛しくてたまらなかった

和彦の顔が近付いて、そっと目を閉じる

俺は…和彦には自分だけ見ろって言うくせに、そうじゃない

ズルいよな…

でも、和彦と2人っきりの時は和彦しか見えてないから

心も身体も和彦だけだから

「……明日海行きたいってセリくん楽しみにしてたが」

「ん?」

「今夜は寝かせたくないから、海は無理かも」

ハハハって笑う和彦に俺はまた怒った

「殺す気か!?せっかく遊びに来たのに1日寝なきゃいけないくらい……めちゃくちゃにされるのは…嫌……」

この後、自分がどうなるのか想像しただけで恥ずかしくなって怒りも消える

海は楽しみにしてた…

でも、今夜は和彦に朝まで抱かれたいって気持ちも強くなる…

いっぱい愛して……幸せでたまらないから



それから、気が付くとやっぱり1日が無駄になってしまっていた…

「…って、マジで次の日の夜じゃん!?」

「起こしたけど起きなかった」

「自分は悪くないみたいな言い方しやがって!!」

起きなかったんじゃなくて起きれないんだよ!?

普段は良いけど、遊びに遠くまで来てる時はな…遊べなくなるもん

でも、いっか…

俺だってずっと寂しかったし不安だったし、和彦がちゃんと生きてるって1番近くで感じられて嬉しかったから

「これ」

和彦は俺の手を掴み指輪を撫でる

「帰る時に外さないとな」

わかってはいるが…和彦の口から言われると心が痛む

「……和彦は俺にずっと指輪しててほしい?」

「オレと2人っきりの時だけなら

セリくんと恋人でいられる絶対条件は独り占めにしない事」

「それは俺が決めた条件じゃないもん…」

和彦と香月が勝手に決めたコトで、それで俺達は上手くいってるんだけどさ

「どっちか1人に決めるなんて、オレも香月も許さないよ」

「わかってるって

それに俺は和彦も香月も同じくらい愛してるから、もうどっちかなんて選べない」

最初は迷った、これでいいんだろうかって

今だってたまにそう思う

でも、どっちかなんて選べない

選ぶ必要なんてない

香月も和彦も俺を愛してくれて、俺も2人を愛してるから…これでいいんだ

「帰ったらレイがメンヘラこじらせかけで不機嫌だろうから、任せた」

「えっ!?そ、そういえば…忘れてたけど、レイに何も言わずにここに来てるから絶対心配してるしメンヘラこじらせてる…」

「暫くセリくんを独り占めしてるから、香月も待ってるだろうし」

「香月は気が長い方だからレイの方が大変かもな、それにまだ約束も果たしてないし」

「まだヤッてないもんな」

「そんな余裕なかっただろ、ずっと和彦のコト心配だったんだぞ」

和彦は嬉しそうに笑うと、俺の顔を掴んで自分の方へと向ける

「ずっとオレの事ばかり考えてたんだ?

それ、嬉しいかも」

「…別に……状況が状況だったから…いつもは…和彦のコトなんか…考えてない、から…」

恥ずかしくてやっぱりツンと反対のコトを言ってしまう

和彦と一緒にいない時だって和彦のコト考えるよ

当たり前じゃん…好きなんだから、大好きなんだから……

「素直じゃないセリくんも好きだよ、死んでもセリくんが1番可愛い」

和彦の顔が近付いて、目を閉じる

死んで生き返って…前と何も変わらない和彦に触れられる

抱き締めてくれてキスしてくれて、幸せでたまらないコト

和彦は何があっても何が起きても自分の思い通りに運命を変える

そんな和彦の力を見せつけられたら、もう何も不安なんてない

これからもずっと一緒に…和彦の恋人として傍にいる

この指輪が永遠を約束してくれるように



-続く-

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