163話『天使のおつかい』天使編

暫くこっちの世界は危ないから来ちゃダメって言われてたけど、やっと落ち着いたみたいで来てもいいってオッケーが出た

ずっと心配してたけど、セリくんもセリカちゃんも元気そうでよかったな

セリカちゃんが死者の国にいるから俺もここへやってきて一緒に過ごすコトになった

それから、俺には新しいお友達ができたんだよ

しかもめっちゃ可愛い女の子!セレン様と同じ女神様なんだって

その新しいお友達の結夢ちゃんとウサギ3兄弟と一緒に中庭で遊んでいると、セレン様がニコニコした笑顔のまま近付いてきて…

「女神結夢さん、お願いがありますの」

セレン様に声を掛けられて、結夢ちゃんが振り向いて頷く

「お使いを頼まれてもらえませんか?」

セレン様は、和彦が生死の神様になったコトで立派なお仕事を与えてもらって毎日忙しいみたいだ

補佐だけど…

セレン様のお願いに結夢ちゃんが快く頷いた

「助かりますわ!この国まで行って頂いてきてほしいのですわ」

地図とメモを渡してセレンは結夢ちゃんに説明する

話を聞いていてちょっと待ってと俺は口を挟んだ

「お手伝いってお出掛けするってコト?

ダメだよセレン様、お外は危ないから結夢ちゃんを連れ出しちゃダメって俺もセリくんにキツく言われてるもん

お使いなら他の人に頼んでよ」

俺が代わりに行ってあげたいけど、セリカちゃんに勝手に出掛けたらダメって同じくキツーく言われてるんだよね…

いつも俺を子供扱いして、1人でだってお出掛けくらいちゃんと出来るもん!

「そうしたいのですが、神族にしか頼めない話なのですわ

和彦様は不在ですし、フィオーラさんはお姿が見当たらなくて」

セレン様が困ってる…なんとかしてあげたいけど…

「あっ、そうですわ!結夢さんが1人でお出掛けが駄目とおっしゃるなら

せりが一緒に行ってあげればよろしくて?

男の子ですもの、お前がしっかり結夢さんを守って差し上げなさいな」

セレン様は優しく俺の頭を撫でてくれる

女の子を守るのは男の子の役目!?そう言われて俺は子供扱いじゃない珍しく男扱いされて

セリカちゃんにお外に行ったらダメって約束をコロッと忘れた

「任せて!!俺が結夢ちゃんを守ってお使い成功させるから!!」

「さすがせりは良い子ですわね~」

セレン様って…お母さんみたいで…なんとなく心許しちゃうんだよね

俺はずっと…こうされたかったから……複雑だけど

セレン様の言うコトなら聞いてしまう

セレン様は頼みましたわと言って去っていった

セレン様に頼られて頭を撫でられて、つい頑張る!!って言っちゃったけど…

どうしよう…セリカちゃんに怒られるかも……

う、うーん…

考え込む俺を心配して結夢ちゃんが覗き込むから、俺は大丈夫だよって自信のない笑顔を返す

イングヴェィもセリカちゃんもセリくんもいないから…

……あっ、そうだ

セリくんもセリカちゃんも危ないからってキツく言ってたけど、それって無事に帰ってくれば問題ないんでしょ?

それじゃあ絶対無事でいられる保障があればいいんだ

「ちょっと待ってて結夢ちゃん、超強い用心棒連れて来るから」

ふふふって俺が笑うと結夢ちゃんも笑って頷いてくれた

そして、俺は心当たりがある人の部屋を訪ねる

「レイ、いる?ちょっとお願いがあるんだけど」

ノックしてから部屋に入るとレイはいつもと変わらず不機嫌な顔を見せた

「……なんだい?オレはいつもより機嫌が悪いぞ」

ムスッとした顔を向けられても俺は笑顔でレイに話し掛ける

「あのね」

「それ以上近付くな!!」

ドアを開けたまま部屋と廊下に1本ずつ足を置いたまま止まった

強い言葉と拒絶の仕方に、ちょっと傷付く

あっちの世界では…大親友なのに…

だから、俺はこっちの世界のレイとも仲良くなりたかった

俺の名前を呼んで爽やかな笑顔で、いつも優しくて…

でも、こっちのレイは俺のコトが大嫌いみたい

何もしてないのに…

「泣くのだけはやめろ、あんたが泣くとめちゃくちゃ怒られるんだ

何の用か言え」

「別に泣かないもん…えっとねー」

俺はセレン様にお使いを頼まれたからレイに同行してほしいとお願いした

レイがいてくれたら安全しかないから安心してお出掛けが出来る

「断る」

「えー!なんで?忙しいの?」

「セリがいないから暇で仕方ない」

「じゃあいいじゃん!?」

「あんたと一緒の空気吸ってたらオレは死ぬ」

「俺は毒ガス発生機か!?」

「オレにとったら猛毒だ、同じ空間に一緒にいたくない

あんたはセリと同じ匂いがするし声も同じだし姿形も同じだし、可愛いし綺麗だし」

うーん…嫌われてると思ってたけど…そんなコトないのか?褒められてる??

「とにかくオレは断る、他の奴に頼め

あんたの頼みなら断る奴はいないだろう」

「じゃあレイが一緒に来てくれたらいいのに」

「オレ以外、さぁ出て行ってくれ」

レイに部屋から追い出されてしまった

むー…レイの意地悪

いいもん、他の人探すから

誰がいるかなって考えていると、鬼神が前から歩いてくるのが見えて俺は走って近くまで寄ってから声を掛けた

「これはこれは天使様、わしに挨拶に来てくださったんですかな?」

「うん!こんにちは」

「こんにちは、天使様」

鬼神は礼儀正しかった

みんな鬼神を恐いって言うけど、俺は恐いって感じたコトないな

セリくんとセリカちゃんにも優しいし

「あのね鬼神さん、これからお使いに行きたいんだけど一緒に行ってくれない?」

鬼神ならとっても強いから一緒だと安心間違いなし

「天使様のお願いなら聞いてあげたいのですが、和彦様が不在の今は余裕がないのですじゃ

申し訳ないのう」

「そっか…残念だけど、仕方ないね」

「天使様にそのようなガッカリな顔はさせたくないのですじゃ

数日したら和彦様が帰ってきますゆえ、その時ではどうですじゃ?」

「うーん…セレン様に聞いてみないとわかんないな」

「急ぎでないのであれば和彦様が帰ってきた時に喜んで同行しますぞ」

「ありがとう!セレン様に聞いてみるね」

俺が笑顔で言うと鬼神も笑顔で返してくれた

そうだ、今日じゃなくてもいいなら無理しない方がいい

今はイングヴェィもセリカちゃんもいないし

俺はもう一度セレン様に会いに行って聞いてみた

「今日でないといけませんわ、どうしても無理とおっしゃいますの?せり」

「あっ…えっと……」

どうしよう…セレン様は怒ってないけど失望させたくはないし

「なにやら困っているようだな?」

廊下でセレン様を見つけてそのまま話していると、通りすがりの人に話し掛けられた

「あっリジェウェィさん!?」

まさか偶然会うなんて思わずビックリする

「イングヴェィに頼まれた物を届けに来たのだが、久しいなせり

元気そうで何よりだ」

「リジェウェィさん久しぶり!リジェウェィさんも元気そうでよかった」

パッと明るくなる顔でリジェウェィさんを見る

「リジェ…ウェィ……様……」

セレン様の時が止まるのを感じた

みるみる顔が赤くなって

「セレン様、調子が悪いの?風邪?凄く顔が赤いよ?」

俺は心配になって見上げる

「まっ!?この子ったら!ほほほほほ、違いますのよリジェウェィ様

セレンは…セレンは……」

やっぱりセレン様変?早口だし言葉詰まってるし汗いっぱいかいてるし動きもおかしい

重たい病気なのかも…

やっぱり俺がお使い出来るって言って安心して休んでもらわないと!!

「セレン様、お使いのコトは俺に任せて休んで

きっと重い病気なのかも、お医者様呼ぼう?早く良くなって」

「そ、そうですわね…せり、心配して嬉しいのですけれど」

「お使いに行くのか?1人で?」

リジェウェィさんは俺を見下ろして聞く

「ううん、結夢ちゃんと

でも俺と結夢ちゃんと2人で行けないから一緒に行ってくれる人を探してるんだ」

なんだそんな事とリジェウェィさんは笑う

「それならオレが同行しよう」

「セレンも一緒に行きますわ!!」

食い気味でセレン様が言う

えっ?セレン様は調子悪いし、忙しいから行けないんじゃ…

「セレンは調子が悪いのだろう?用事はオレ達に任せて休め

せりの事もオレがついているから心配はいらないぞ」

「リジェウェィ様が…セレンの…セレンの体を心配なさって……」

セレン様はぶっ倒れた

うわー!?やっぱり調子悪かったんだ!?

「セレン様しっかり!?」

俺は魔法を使ってセレン様を部屋まで運んでベッドに寝かせる

そして、リジェウェィさんと一緒に結夢ちゃんの所へ行く

さっきのを見ていたリジェウェィさんが感心していた

「いつ見てもせりの魔法はこの世界の属性のある魔法とは違って興味深いな

雪を降らせる事も物を浮かせる事もない物を出すのも過去に行くコトも何でも出来るのだろう?」

「えっ、どうだろう?何でもしたコトないからわかんないな

回復も出来るけどセリくんと違って時間がかかるし、同じく病気を治したり死者を生き返らせるコトは出来ないよ

人を殺すような魔法も使えないし

あー、そういえばせりかちゃんが痩せたいから魔法でなんとかしてって言われたコトあったけど

それも無理だったな

十分痩せてるのに女の子はいつも痩せたいって言うの不思議だよね」

アハハって笑う

リジェウェィさんは出来ないコトもあるんだろうがそれでもこの世界とは違った魔法を使えるのは凄いと言ってくれる

なんだか照れるな~褒められると

結夢ちゃんの待つ中庭まで迎えに行くと、俺を見て手を振ってくれるから同じように手を振った

「お待たせ結夢ちゃん、リジェウェィさんが一緒に行ってくれるコトになったよ!」

結夢ちゃんはありがとうって微笑んで頭を下げた

「女神結夢の姿ははじめて見たな

オレはリジェウェィ、よろしく頼む」

「結夢ちゃん可愛いでしょ?」

「そうだな」

結夢ちゃんは顔を赤くして恥ずかしがる

褒めると照れる所も可愛い

そんなこんなで、危ないお外のお出掛けもリジェウェィさんが一緒で安心安全にお使いが出来るコトになった!!



セレン様に頼まれたお使いはそんなに遠い場所じゃなかった

隣国の神様から必要なものを購入するって内容みたいだけど、神族以外には秘密ってコトでリジェウェィさんと俺は外で待たされる

暫くすると結夢ちゃんと一緒にこの国の神様が顔を見せた

なんの神様か教えてくれないけど、俺を見てあまり良い顔をしない

「お前は天使に似た存在か?綺麗な子だな

天の異物と瓜二つなのが可哀想に」

神族から見て俺は人間ではない生き物だってコトはわかるみたいで、こうして頭を撫でてくれるってコトは友好的であるコトはわかる

でもその手に似合わない顔の表情は、言う通り俺が神族の敵にされたセリくんに瓜二つだからだ

俺はセリくんの味方だからセリくんが悪い風に言われるのは嫌な気分になる

「お前は良い子だから、知らぬなら教えてやろうな

我らの仲間であった生死の神が無様に人間に殺られ、その人間が神族になったのだが

それは神族としておかしい事なんだよ

その人間は天の異物と関わりのある人間

天の異物が存在する事で神族に悪い結果をもたらした

やはりあれは消さねばならない悪い存在」

なんの神様なのか教えないこの人から結夢ちゃんは俺を守るように引っ張って抱き寄せた

「女神結夢は、あっち側の味方であったな」

やれやれと教えない神様は苦笑する

よく…わかんないけど…

落ち着いたとは言え、完全に解決したってコトではないみたいだ

神様はセリくんが悪いって言うけど、本当にそうなの?

セリくんにそんな悪い力があるの?

「神族同士、仲違いする気はない

だが…神族の大半は天の異物を良くは思っておらん

神族の肉体が人間に奪われたのは前代未聞

天の異物が存在するからこそ起きた事、この先も神族にとって良からぬ災いをもたらすのではないかと言う事だよ女神結夢」

結夢ちゃんが俺を抱き締める腕に力がこもる

そこから伝わるのは怒り…

セリくんは結夢ちゃんの大切なお友達だからそんな風に言われたら怒るのは当然

「我はその胸に抱いてる天使に何かしようとはせぬよ

天の異物と瓜二つと言ってもその子は違うのだから警戒すな」

結夢ちゃんの力が緩むけど…それでもセリくんが言われたコトへの怒りが緩んだワケではない

「無垢で無邪気な、純粋な天使に悪影響がないよう教えてやったまで

天の異物の悪い影響で天使が悪い子になってもいいと言うか女神結夢

よく考えよ、そなたは神族である」

教えない神様は人の良さそうな笑顔の後、俺達の前から去っていった

「ふん、神族とオレ達は相容れないな」

リジェウェィさんはイングヴェィの味方だから話を聞いてもブレない

結夢ちゃんは神族としての自分の立場と自分の考えや気持ちがあって複雑だけど、俺に優しく微笑んでくれるから

ずっと味方でいてくれるって信じられる

俺は…セリくんが…セリカちゃんが大好きだから…何があっても絶対味方……

でも…でも…もし…万が一、セリくんが悪い人だったら…俺は……どうする?

セリくんは俺の大好きなセリカちゃんなんだよ

でも…悪い人だったら……

俺にはわからない

いつもセリカちゃんと一緒だから、その視点しか見えてない

それが…俺が神様側の視点から見て…その時に…違う見え方をしちゃったら…?

難しいコトはよくわかんない…

俺の不安や迷いが、翼に色として表れる

真っ白な俺の翼は悪いコトをしたり思ったりすると黒く染まる

翼の端が黒くなっているのに気付いて

これは…どっちに対して…?って俺を混乱させる

そんな時、また結夢ちゃんが俺を優しく抱き締めてくれた

「……心配かけちゃったね…ごめんね」

落ち着いていく…

その心の安らぎで翼の色は元に戻った

「せり、あんな神の言う事など聞き流せ

と言いたい所だが…それはお前が考えて決める事だ

オレや女神結夢がこっちだと、子供のわからないお前に言う事は卑怯で下手をすれば騙している事になってしまう」

リジェウェィさんは大人の意見をくれるけど、俺はリジェウェィさんも結夢ちゃんも大好きだから

2人と意見が別になるのは嫌だなって子供みたいな考えになる

それにセリカちゃんのコト大好きだもん

絶対俺は……

ふと俺の頭に過った

『悪い事をしたり思ったりしたら、翼が黒くなって最後は死んじゃうんだよ』

一度だけそうなって死にかけたコトがある

だから悪いコトはしちゃダメってせりかちゃんとも約束した

つまり……俺は…もし…もしも…セリくんが悪い人だったら…死ぬってコト…?

死んでも味方でいれる?

それは……無理……大好きなせりかちゃんと一緒にいられないのは死ぬより辛い

約束を破れない…

「わかんなく…なっちゃった…」

「すまん、せり…子供のお前には難しい話だったな」

子供じゃないもん!!

リジェウェィさんの一言で気が紛れるかのように子供って言葉に反応する

とりあえず…2人とも心配するから俺は今は考えないようにした

時間が経てばわかる時がある…ハズ、きっと

その時に考えればいい

大丈夫……大丈夫…だよ…ね



帰り道はゆっくりして帰ろうってコトで寄り道の許可が下りた

2人が俺を気遣ってくれて花火セットを買ってもらった

近くの河原で遊ぶコトにする

「花火綺麗~、ほら見てリジェウェィさん」

「こら、人に向けたら駄目って習わなかったのか?」

「ごめんごめん!」

つい花火の綺麗さに夢中になってそれを見てほしくて、せりかちゃんにもいつも夢中になるとやらかすって怒られてるんだよな

俺って成長しない…

おかしいな、俺は大人として創られてるし

実年齢ももう9歳なのに

少しも0歳の時と変わらないってせりかちゃんに言われる…

むしろ幼くなったと…まで

「線香花火は綺麗だけど、すぐ落ちちゃう

でも結夢ちゃんの線香花火はいつまでも綺麗だね」

結夢ちゃんがニコッと笑ってくれる

「せりはじっとしていないからだろ」

リジェウェィさんのツッコミは聞こえなーい

「色が変わる花火凄い!楽しい!!

あっ、この花火っていつもお誕生日のケーキについてるやつ!!パチパチ綺麗~」

何種類も花火を楽しんでいる途中で、俺はふと近くの川が気になって燃え尽きた花火が終わってから川に近付いた

そうだ、夏になったらいつもみんなで川辺でバーベキューしたりこうして花火したりして楽しかったな~

あっちの世界は今冬だから半年くらいはおあずけか

「イモリいた!!」

足元で何か動いたのに気付いてさっと捕まえた

「見て、可愛いね」

それを結夢ちゃんに見せに行ったら、不自然な笑顔のままで固まってしまった

「俺は蛇は苦手だけど、爬虫類も虫も平気かな

動物は大好きだし、1番好きなのはウサギ

お気に入りはユニコーンなの」

結夢ちゃんに話しかけてるけど、結夢ちゃんはやっぱり固まった笑顔で頷く

そこで気付いた

はっ!?もしかして結夢ちゃんはイモリ苦手?

「せり…」

イモリを地面に離そうとした時、リジェウェィさんに声を掛けられて

「それイモリではないぞ…!?」

川辺から大きな音と水しぶきを打ち上げ、巨大なイモリに似たモンスターが姿を現す

巨大な尻尾を振り払われ、当たりそうな所をリジェウェィさんが俺と結夢ちゃんの頭を押し付けなんとか回避する

「スゴーイ!おっきなイモリ!!」

「喜んでいる場合か!あれは人喰いのモンスターだぞ」

さっきの拍子で持ってたイモリはどこかに逃げてしまったけど、巨大なイモリモンスターの方は逃げる俺達を追ってきた

「人喰い…?」

イモリに喜ぶ俺と固まってしまってる結夢ちゃんの手をリジェウェィさんが引っ張ってくれる

うーん…人喰いと聞くと急に現実のヤバさを理解する

「そんな、俺達みんな人間じゃないからきっと食べれないよ!?食べたらお腹壊すよ!?」

って逃げながら訴えかけてみるが、襲ってくるってコトはたぶん食べれるんだろう

「仕方ないな、倒すぞ」

リジェウェィさんは足を止めて振り返るけど、俺はそれを止めた

「ダメだよ、可哀想だよ」

俺の言葉にリジェウェィさんは強力なバリアを張ってくれて一時的にイモリモンスターの攻撃を防いでくれる

「可哀想と言っていては、こちらが食われてしまうぞ

よいのか?そんな甘い事を言って女神結夢が食われても」

「結夢ちゃんが食べられちゃうのは絶対に嫌!!

でも、俺は出来るだけ殺すとかは…したくない……

どうしてもって時は仕方ないけど…」

「どうしてもって時が今だろう」

リジェウェィさんは今がその時だって言うけれど、俺にとって今はその時じゃない

だから

「俺が囮になるからリジェウェィさんは結夢ちゃんをお願いね!」

そう言って俺はリジェウェィさんが守ってくれていたバリアの外へと出る

「待て!それならオレが」

ダメダメ、囮になるなら空を飛べる俺の方が適役でしょ

「撒いてくるから、それじゃまた後で!!」

リジェウェィさんに強く止められる前に、俺はイモリモンスターの気を引いて2人と反対側へと走った

ふーん…結構速いね、全力で走ってるのに追い付いてくる

イモリモンスターは俺との距離を詰めると巨大な尻尾で攻撃する時に足が止まるから、俺がひらりと避けながら走って距離を離す

その繰り返しだった

下手に空に逃げてリジェウェィさんと結夢ちゃんの方に戻られても困るから、暫くはこうして逃げるしかないか

そう考えながら走っていると、少し離れた目前に数人の人影が見える

あれは…人間の旅人?

気付いた瞬間、足が止まりその隙を狙われ俺はおもいっきりイモリモンスターの尻尾攻撃を受けてしまった

「いったーい!!?」

激痛とともに地面に叩きつけられる

めっちゃ痛いんだけど!?俺が人間だったら全身の骨が粉々になって死んでたよ!?

人間より頑丈な身体で助かったけど、痛いのは痛いんだから!!

いくら頑丈だと言っても、骨はいくつか折れたりひびが入ってる

魔法で回復するけど、セリカちゃんみたいに瞬時には出来ない

それにセリカちゃんみたいに無痛にはできないんだから

リジェウェィさんは俺の魔法はなんでも出来るって言うけど、出来ないコトの方が多いんだぞ

治すのに時間はかかるけど、まぁ立てないコトはないか

俺が痛みで身動きが取れないのにイモリモンスターは俺を食うコトなく、意識は目の前の人間達へと向かっていた

「やっ…ばぁ……俺より人間が食べたいって…?

あの人達に何かあったら俺のせいだ…」

痛む身体を奮い立たせ、イモリモンスターが人間を襲うより先に目の前に移動して庇う

後ろからは人間達の悲鳴が聞こえる

痛いのは我慢するしかない

でも…どうやって助ける…?倒すしかないの?

今が…その時

でもでも……俺にこのイモリモンスターを倒す力はない

もう一度、イモリモンスターの攻撃が来ると目に見えてわかる

尻尾を振り俺とその後ろの人間達をまとめて振り払う気

大丈夫…俺が1人で受けてみせる

だけど、痛いのは怖いから目をぎゅっとつむる

………………あれ?…痛くない?

いつまで経っても痛くない…もしかして

俺、死んじゃったの!?

そんな!?

焦って目を開けると、目の前のイモリモンスターが倒れていた

あれ、俺は生きてるけど…

恐る恐るイモリモンスターの大きな顔を覗き込む

額に氷の矢が突き刺さってて倒れてる

俺が氷の矢を引き抜くと、イモリモンスターは急に起き上がってビックリしたけど、そのまま逃げてくれた

よかった…助かった

手の中にあるとても冷たい氷の矢を見つめる

…これって…レイ?

あんなに嫌がって断ってたくせに、なんやかんや遠くから見守ってくれてたんだ

助けてくれたコトが凄く嬉しくて頬が緩む

でも…最初の一撃受ける前に助けてほしかったな…

俺がそう簡単に死なないからって見てたのかも、いつも意地悪するんだから

まぁいいけどね

後ろを振り返ると人間の旅人さん達が恐怖で震えていたから優しく声をかける

「もう安心して、イモリモンスターは帰っていったよ」

俺の言葉で人間達が顔を上げるからニコッと笑う

「あっ…助けて頂いてありがとうございます」

「ううん、俺は何もしてないよ」

みんなイモリモンスターがいなくなったコトに安堵している

よかった、この人達に怪我がなくて

俺の怪我が完治するのは暫くかかるから今も痛いの我慢してるけど

「夜の暗さでわかりませんでしたが、そのお顔は勇者様だったんですね」

旅人の1人が俺を見て言った

勇者って確かセリくんのコトだよね

同じ姿だから間違われても仕方ないか

俺達をよく知らない人達からはよくセリくんと間違われちゃうのももう慣れた

身近な人はセリくんと俺は姿が同じでも雰囲気からして違うって言われて間違われるコトはないけど

「いや俺は…」

勇者じゃないと言おうとしたけど、後ろから名前を呼ばれて言葉が止まる

「せり!無事か!?」

振り返るとリジェウェィさんと結夢ちゃんが走ってきてくれた

「リジェウェィさんと結夢ちゃん、逃げてって言ったのになんで来たの?」

たまたまイモリモンスターが逃げてくれたタイミングだったからよかったものの、本当なら危ないのに

俺がちょっとプンプン怒ると

「オレだって心配したんだぞ

でも、お前が言うから女神結夢を連れて逃げようとしたんだが

彼女がどうしてもせりが心配だとオレの言葉を聞いてくれないから」

リジェウェィさんに言われて結夢ちゃんを見ると、その顔は心配のあまり涙を溜めていて

でも俺の姿を見てよかったと微笑んでくれる

「結夢ちゃん…心配してくれるのは嬉しいけど」

君が危ないからって言葉は飲み込んだ

結夢ちゃんが手を伸ばして俺の頭を撫でてくれるから

何も言わないコトがいいんだって

もう危険は去ったコトだから

すぐに結夢ちゃんは俺が怪我をしているコトに気付いて、俺の手を掴み腫れた腕を心配そうに見つめる

「あっ大丈夫だよ、怪我はそのうち治るから

セリくんと違って魔法で回復するのに時間がかかるだけ

それに俺は人間じゃないから身体もそこそこ頑丈だし、そう簡単にはやられないもん」

頑丈と言っても鉄のように固くはないし

肌は人間と同じ、セリくんと同じでちゃんと柔らかいし血も赤いけど

全身の骨が砕けてもなんとか耐えられるし人間が死に至るほどの血が流れ出てもまぁなんとか生きられたり

それでも痛いのも苦しいのも人間と同じように感じるし、限度を超えれば死ぬ

結夢ちゃんにえへへと笑うとそれでも結夢ちゃんは心配が消えない微笑みになる

早く治さないとずっと結夢ちゃんが心配するな

ふと、気付く

そういえばこっちの世界は夏なのに、結夢ちゃんはいつも長袖で手袋までしてるけど暑くないのかな

あっ!紫外線対策だ!!

せりかちゃんもいつも暑いのに日焼け対策とか言って夏でも長袖手袋するもん

うーん、でも…こっちのセリカちゃんはこっちの世界は紫外線とかないから気を使わなくて楽とか言ってたな

あのセリカちゃんの雪のように白い肌、好きなんだよね

まぁ…俺もそうなんだけど………

結夢ちゃんのコトは気になったけど、何か事情があるのかな

俺は結夢ちゃんと仲良くなってお友達だけど…知らないコトばっかだった

守護を司る女神様で優しくて可愛くて良い匂いがするってコトだけ

話せないから、好きな食べ物とか趣味とか行きたい所とか…何も知らない

結夢ちゃんを見ててなんとなくそうなのかなって思って聞くコトで知っていく

まだお友達になってから短いし、もっとこれから知っていけばいいよね

「そこそこ頑丈だと言っても不死身ではないのだ

無茶はするな」

「うん、わかった

2人とも心配かけてごめんね」

俺が笑うと2人も笑ってくれる

この顔が俺は大好き

「勇者って……」

旅人の1人が震えた声を出す

一件落着!じゃあお家に帰ろう~って雰囲気が一変する

その旅人の言葉で

「皆さん聞いた事ないですか?

勇者と一緒に謎の空間に閉じ込められて、全員が殺されたって噂です

生き残ったのは勇者だけ…

それって貴方が殺したって事ですよね!?」

イモリモンスターに襲われた時と同じ表情を俺に向ける

恐怖と絶望の…死を匂わすような

その旅人の言葉で他の仲間に不安が広がる

「勇者様が…?そんなまさか」

「私も聞いた事があります、ただの噂だろうと気にはしてませんが

それに勇者様はこうして私達を助けてくれた」

ざわつく人々

それは俺も…含まれている

セリくんが……何人かわからないけど、殺して1人だけ生き残った?

なんで?どういう状況?

教えない神の言葉がここでも揺らぐ

本当に…セリくんは……信じていい人なのか…

それとも……俺の敵になる悪い人なのか……

ふっと周りが真っ暗になる

夜の月明かりが消えて、急な景色の変わりにみんなのざわつきが大きくなる

「一体これは……」

リジェウェィさんが暗闇の中、俺の肩を掴む

俺も結夢ちゃんが手を掴んでくれていたからはぐれないようにしっかりと握り返した

その暗闇の中叫ぶような大きな声が聞こえた

「お久しぶりですねぇ勇者の小僧、また貴方を私のゲームに招待しますよぉ!!

そこにいる女神を賭けましてね!!」

その声で周りが明るくなる

確認できたのは、俺達がさっきまでいた外じゃない

そこそこの広さがある謎の空間?

「ほら言った通り!勇者と一緒に謎の空間に閉じ込められたら私達は殺されるんだわ!!」

さっきの旅人が悲鳴のような声で叫ぶ

セリくんの噂されていた謎の空間が、これだと言うなら

悪いのはセリくんじゃないんじゃ…

なんか変な奴がゲームとか言って巻き込まれた感じだよ?

ゲームしようって声の人が姿を現す

「あれは…タキヤか?」

リジェウェィさんが呼ぶ名前の人

だれー?

タキヤと呼ばれた人は、見た目は凄く若いけどかなり年を取ってる

人間なのに人間の寿命を超えた生き方をしてるな

それに神の加護を感じる

その力のおかげで寿命を超えて若さも保ってるんだろうけど

「ルールは簡単、前回と同じでそこにいる女神結夢以外を殺せば小僧の勝ち

殺せなければ小僧の負けで女神を返してもらいますよ

この盗人の罪人が」

楽しそうに笑うのはタキヤだけ、人間達はパニックになってしまってる

「ちょっとおじさん、ゲームしようってみんな嫌がってんじゃん

俺と遊びたいなら遊んでやるよ

でも、遊びたくない人は無理に誘っちゃいけないんだぞ!」

「ゲームの参加は強制です、私を楽しませてください

絶望して早く死ね小僧」

タキヤは言いたい事だけ言って姿を消した

楽しませてって言うからどっかで見てるんだろうけど

なんて奴だ!こんなゲームやらな……

「結夢ちゃん…?」

タキヤの登場に気を取られて気付かなかったけど、結夢ちゃんの手から震えてるのが伝わる

人間達も恐怖で震えてるけど…結夢ちゃんはタキヤのルールで言うと殺される対象にはなっていない

なのに…こんなに顔を真っ青にして…身体を震えさせるなんて……

「何か……あったの?

あのタキヤっておじさんにいじめられたとか…?」

俺が顔を覗き込むと結夢ちゃんは俺の手を離して背中を向けて座り込んでしまう

「………オレも誰かから聞いたわけではないが、なんとなく察してはいた

せりには知られたくないのだろう

いや…お前がセリにそっくりだから…」

「リジェウェィさん…それって…」

どういうコトって聞いちゃいけないってわかった

結夢ちゃんが知られたくないって思うなら、知っちゃいけない…

でも、俺だってなんとなくはわかる

あのタキヤのおじさんは結夢ちゃんをここまで追い詰めた悪い奴だってコト

「ううん、何も言わないでリジェウェィさん」

ゲームはもう始まってる

俺に殺されると思った旅人がナイフを取り出して突っ込んできたから、交わしてナイフを奪い取る

それを見た旅人はさらに恐怖して腰を抜かしてしまった

「恐がらないで、俺は誰も殺さないよ」

なんて言っても誰も信じてくれない

でも、俺は結夢ちゃんのコトが心配で頭がいっぱいだった

結夢ちゃんにはずっと笑っててほしいから、悪い奴が結夢ちゃんの笑顔を奪うって言うなら…

「結夢ちゃん…大丈夫、俺が…守るから」

危ないから奪ったナイフを一輪の花に魔法で変える

結夢ちゃんのお花の形をしたヘアピンに、その花をそっと挿した

凄く可愛くてよく似合ってる

結夢ちゃんが顔を上げてくれて、俺は安心させるように微笑む

そして

「リジェウェィさん、俺を信じて待っててみんなを守ってね」

リジェウェィさんに託して俺は返事を聞く前にペンダントを掴んで魔法を使う


ペンダントを使った魔法は、俺の存在する場所と帰る場所の世界を行き来するコトが出来る

結夢ちゃん達がいた場所が存在する場所、そして俺は魔法で帰る場所の世界へと飛ぶと

死ぬほど寒かった

「あっちは夏だったけど、こっち冬だった~~~!!?」

俺とせりかちゃんの家はおんぼろアパートで貧乏だから満足に暖房が使えない

つまり、死ぬほど寒い

すぐに自分の羽根にくるまって温まる

やっぱ羽毛ってあったかいよね

「せりくんお帰り、あちらの世界で迷惑かけてないでしょうね」

「迷惑……うーん…かけてないつもり?」

たぶん…良い子にしてるつもりだけど、自信はない

部屋の中はダンボールが山積みにされている

もうすぐ引っ越しするからね

せりかちゃんが結婚するから、俺も一緒に連れてってくれるの

今は結婚式の準備とか引っ越しの準備とか色々忙しいんだ

せりかちゃんの旦那様になる人が俺も一緒にって言ってくれて

「そんなコトより!!今日は来てないの!?」

「えっ?そうね、もうすぐ来る頃よ」

せりかちゃんは時計を見て答える

ってか、いつの間にか荷物が多過ぎて座る場所すらないんだけど…

いや部屋が狭すぎるだけかこれ…

早く早くとせりかちゃんの旦那様になる人を待つ

少しするとピンポーンって音が鳴ったから俺は慌てて玄関へと飛んでいく

「イングヴェィ!いらっしゃい!!」

ドアを開けて、旦那様の顔を見て笑顔が零れる

「せりくんが出迎えてくれるなんて珍しいね」

そう、このイングヴェィがせりかちゃんの旦那様になる人

あっちの世界のイングヴェィにそっくりなんだよ

俺達のような存在を創った人の1人でその中でも1番偉い人

イングヴェィも人間じゃなくて、魔法力は俺よりたくさん持ってて強いの!!

なんやかんやあって人間のせりかちゃんと結婚するコトに…

って、今は急いでるんだった!!

「イングヴェィお願い!また魔法力を分けてほしいの!!」

さっきこっちの世界に来て俺の魔法力はなくなってしまった

寝なきゃ魔法力は戻らないから、そんな何時間も寝てる暇はない

「いいけど、俺がついて行かなくても大丈夫?」

「それは大丈夫!イングヴェィはせりかちゃんと一緒にいてあげて」

イングヴェィは俺を子供扱いして何も出来ないって過保護すぎだよ

俺だって自分で解決できるコトあるもん!

「危ないコトはしない、悪いコトはしない、約束は守るんだよ」

俺が早く早くと急かすからイングヴェィは魔法力を分け与えながら何度も同じ約束を言う

約束はもっとあるけど、急いでる俺にしつこく言うコトはなかった

「ありがとうイングヴェィ、それじゃまた出掛けてくるね」

「いってらっしゃい、あちらの世界の人達によろしくね」

「気を付けるのよ

それからせりくん、来週の日曜は忘れずに帰って来るのよ」

「うん!忘れてないよ、ちゃんと帰るから」

2人の顔を見ながら俺はまた魔法を使ってあっちの世界へと飛ぶ


別世界に移動する時は、知ってる場所なら好きに帰れる

例えば、このままセリカちゃんが暫く滞在してる死者の国に帰るコトだって出来る

でも、今回俺が帰る場所はあの謎空間のすぐ近くの外だ

さてと…今俺の目の前にはイモリモンスターに襲われた場所と変わらない景色が広がっていた

あの謎空間が目の前に見えないみたいだけど…

わかる…見えないだけで、目の前に謎空間があるってコトは

俺は息を吸ってタキヤに届く声を出す

「おじさん!!そのゲームは無効だよね

俺がいないのにどうやって勝敗が決まるの!?」

俺の言葉で、目の前の謎空間が崩れて閉じ込められていた人達が姿を現す

結夢ちゃんもリジェウェィさんも、人間の旅人さん達もみんな無事だ

「このクソガキ小僧めが…!!」

ゲームを無効にされたタキヤは怒りで真っ赤になって俺の前に姿を現す

「そんなに怒らないでよ

おじさんは俺と遊びたいんでしょ?

だから遊んであげるって

鬼ごっこしようよ」

俺の鬼ごっこはね~…遊びだけど、本格的なんだよ

本当の鬼に追われる恐怖を感じるコトが出来て、必死で逃げなきゃいけなくなるんだ

ホラーとスリルを味わいたい人にオススメ

「鬼役は俺ね、おじさんは逃げて

鬼ごっこと言うとでーんされたら鬼役が入れ替わっちゃうけど

そんなに長くおじさんと遊びたくないから

俺はおじさんをでーんしたら勝ち、おじさんは俺から逃げ切ったら勝ち

ってルールにしようね」

俺は怖いのヤダからいつも鬼役するの

タキヤの怒りで真っ赤になった顔が真っ青に変わる

周りには何も感じないけど、俺とタキヤの間にはもう鬼ごっこの雰囲気が広がり包み込まれる

俺の姿形が鬼に変わるワケじゃない

でも、鬼役と宣言してからタキヤは俺の姿を見ると鬼と同じ恐怖を感じ続けるの

「小僧…ふざけた事を……誰が小僧の遊びに付き合っ」

「じゃあ10数えるから、その間に逃げてね!

い~ち、に~い、さ~ん」

目を閉じて口に出して数える

「き、聞きなさい小僧…小僧が言っていたゲームしたくない人は無理には」

「は~ち」

「3の次は4だろうが!?このバカガキが!?!!??!?」

「きゅ~う…じゅう」

目を開けると、タキヤは消えていた

「…逃げ足速すぎじゃん」

運動ダメそうな見た目しといて

「あっ言い忘れちゃった

鬼ごっこいつまでするのか

いつまでって言ってないから、おじさんが俺にでーんされるまでずっと続くね

それってもうおじさんに勝ちはないのかも、クスクス…アハハ」

まぁいいか、俺も鬼ごっこ楽しいし

おじさんを見かけたらでーんしよっと

「せり、一体何が…

あのタキヤが簡単に引くとは思えないのだが」

リジェウェィさんは驚いた顔で聞く

「えっ?鬼ごっこだから逃げるのは当然でしょ」

「そういう事ではなくだな…」

リジェウェィさんは納得いかないみたいだけど、それしか言えないよ

鬼ごっこだから逃げ役が逃げただけ、ねっ?

「無邪気に遊んでいるだけと言うのか…

武器も魔法の攻撃もきかないタキヤにとってせりのような精神的に追い込む事が出来る相手は厄介なのだろうな」

俺はタキヤが消えても座り込んで震えてる結夢ちゃんに声をかけた

「結夢ちゃん…さっきのおじさんはもういないよ

あのおじさんが怖いの?

じゃあ、俺とずっと一緒にいるといいよ

そしたらあのおじさんは鬼役の俺が怖くて近付けないから」

顔を上げてくれる結夢ちゃんに笑顔で手を差し出す

俺は怖くない?って意味を込めて

結夢ちゃんは迷う素振りを見せたけど、俺が手をさらに目の前まで差し出すと

「俺は結夢ちゃん好きだから、笑ってほしいんだけどな」

タキヤが現れてからずっと視線を合わせてくれなかった結夢ちゃんが、また俺の目を見てくれる

それが嬉しくて俺が深く笑うと、結夢ちゃんはゆっくりと俺の手を取ってくれた

不安を抱えながら思うコトもあるんだろう

それでも結夢ちゃんは俺の手を取って涙を拭いて微笑もうとしてくれる

手を引っ張って結夢ちゃんを立たせてあげた

「そういえば、旅人さん達は?」

「帰らせたぞ

怖い思いをしたが、せり(勇者も)への誤解はなくなった」

リジェウェィさんに言われて、少し離れた

場所で旅人さん達の後ろ姿を確認できた

本当によかった、みんな無事で

「夜も遅くなったな、早く帰らねばセリカが心配するぞ」

「はっ!?そうだった、セリカちゃんが帰る前に帰るつもりが…」

そうして俺達は慌てて帰るコトになった

帰るとセリカちゃんはまだ帰ってなくて、バレずにセーフ



次の日、ちゃんとおつかいが出来たコトをセレン様に報告

「よくできましたわ、せり

偉いですわね」

セレン様に褒められて頭も撫でてもらった

「何かあったらいつでもお手伝いする~」

「助かりますわ、また頼みますわね」

お昼だから食べてらっしゃいと微笑むセレン様に言われて俺はセレン様の部屋を出て、自分の部屋に向かった

本当ならレストランで食べるんだけど、今日のお昼は結夢ちゃんがカレー作ってくれるみたいだから凄く楽しみ!!

カレーライス大好き!!美味しいから!!

ちなみにカレーはチキン派!!

ルンルン気分で部屋に帰るとカレーの美味しい匂いが…もうお腹が減る…

「美味しそう!!」

結夢ちゃんを前にテーブルを囲んで座って、目の前のカレーに釘付けになる

結夢ちゃんの手がどうぞと言ってくれて、いただきますしてからスプーンを持つ

はい…美味しい…めちゃくちゃ美味しい

いつもせりかちゃんが作ってくれるミルクたっぷりのチキンカレーでってリクエストはしたけど

「結夢ちゃん、結夢ちゃん

これ言っちゃうとせりかちゃんが怒るから内緒だよ」

そう言って俺は結夢ちゃんの隣に移動して口を耳元に近付け内緒話をする

「結夢ちゃんの料理ね、せりかちゃんより美味しいね」

内緒話が終わって耳元から離れて、結夢ちゃんにニコッと笑いかける

結夢ちゃんは謙虚に首を横に振って顔を赤くした

俺はせりかちゃんが大好きで、せりかちゃんの手料理も大好き

でも…せりかちゃんの料理ってマズくはないんだけど不思議な味がするんだ

それが癖になって変にやみつきにはなるんだけど

美味しさで言ったら~素直に言ったら~結夢ちゃんの手料理の方が美味しい…

でも、それ言ったらせりかちゃん怒るから本当に内緒!!

イングヴェィだって最初せりかちゃんの料理食べた時、ちょっと固まってたもん

すぐに美味しいって言ってたけど

俺が美味しいって言ったコトに結夢ちゃんはありがとうって微笑んでくれる

「うん、結夢ちゃんは笑った顔が可愛いよ」

昨日のタキヤがいた時の結夢ちゃんを見るのは辛かった…

友達が辛かったら、俺だって辛いから

「そうそう、今度ね」

たくさんお話して、一緒に遊んで

こうしてずっと結夢ちゃんの笑顔を見ていられたらいいな

お友達と一緒にいるってのはとても幸せで楽しいコトだから


暫くして部屋のノックが聞こえて出るとセリカちゃんが訪ねてきてくれた

「あっ、セリカちゃんおかえりなさい」

「ただいま天使、良い子にしてた?」

「う…うん…してたよ!?」

「優しいからって結夢ちゃんにワガママばかり言ってない?」

「ワガママなんて子供扱いしないでよ!?」

セリカちゃんが結夢ちゃんに聞くと、結夢ちゃんは首を横に振って俺は良い子にしてたと証明してくれた

「洗濯物も溜まってると思うから貰っていくわよ」

セリカちゃんが洗濯カゴを持っていこうとした時、俺はすっかり忘れていた…

「ん?何この…ボロボロの服は……」

……はっ!?そういえば、昨日のイモリモンスターに地面に叩きつけられた時に汚れて破れたんだった…

自分の身体の怪我は回復で治せても…服は……全てを物語っている…!?

「良い子にしてたらこんな風にならないと思うけど?

それにこの服、セリくんに借りた服でしょ

結構お気に入りだったのよ」

「あっ…うっ…その……」

俺はセリくんと同じ姿をしてるから、セリくんも服も靴もなんでもたくさんあるから好きに使っていいって言ってくれてる

けど…それを汚したり破ったりしちゃ…いけないよね…俺は悪い子だな

俺は素直に話して謝った

だけど、服のコトは許してもらえたけど

危ないから外出してはいけないって約束を破って危ない目にあったってコトに怒られた

怒られてると結夢ちゃんがセリカちゃんに俺を怒らないでって言うように抱き締めてくれる

「結夢ちゃん…

そうね、今回はセレンのおつかいで結夢ちゃんとリジェウェィも一緒だったし

こうして無事に帰って来れてるのだからあまり怒っちゃダメよね」

セリカちゃんが仕方ないわねと怒るのを止めてくれた

「おつかい出来て偉いって褒める所だよね

でも、私心配で

天使は預かってる大事な子だから」

セリカちゃんは怒りたくて怒ってるワケじゃないのもわかってる

心配かけてごめんなさい…って言いたいんだけど、結夢ちゃんに抱き締められて顔が埋まってて声が出せない…

「……天使、今どんな気持ち?結夢ちゃんの胸に顔埋まってるけど…」

セリカちゃんに聞かれて、俺は結夢ちゃんから少し離れる

「ちょっと息苦しい…かな」

って言うとセリカちゃんは爆笑した

「アハハ、やっぱ天使は子供ね」

「なんで!?俺は子供じゃないもん!!」

子供扱いされて、むーって膨れる

みんないっつも俺のコト子供扱いする!!

確かにまだ9歳だけど、セリくんと同じこの姿ちゃんと大人として創られてるんだから!

「はいはい、可愛い可愛い」

セリカちゃんに頭を撫でられて拗ねる気持ちが薄れていく

「セリカちゃん…心配かけて、ごめんなさい」

「私こそ子供扱いしすぎたね

リジェウェィが一緒なら安心だもの

次からも誰か強い人と一緒なら出掛けてもいいわ

でも、その時はちゃんと私に言ってね」

「うん!!セリカちゃん大好き!」

セリカちゃんからお許しが出て抱き付く

やった~、いっぱい遊びに行こーっと

「う~ん…天使はまだ子供ね~うふふ」

俺が笑うとセリカちゃんも笑ってくれる

ちゃんと帰って来るから、安心してね

俺は不死身じゃないけど

それでも絶対死んだりしないよ

だって大切な人が俺の帰りを待ってるから

みんなのいるここに帰りたいから

これからも俺は大好きな人達と一緒に過ごして、色んな時間をかけていくよ



-続く-

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