164話『貫く強さ』セリ編

「あ~…もう帰る日になった…

結局、イルカさんと遊べなかったし…和彦のせいで」

チラッと和彦を睨み付ける

「また来ればいい」

「そういうコトじゃねぇんだよ!?旅行中は激しいセックス禁止!!」

俺が怒ると和彦ははいはいと笑って聞いてる

まぁなんやかんや言って楽しかったし、和彦とずっと2人っきりで一緒にいられたのは嬉しいし幸せだったな

良い思い出だよ

怒ってたくせに俺はすぐに機嫌を直して和彦にくっつく

「セリくんよく甘えるようになったな」

「ダメ?」

「いや可愛くて好きだよ

ツンッとしてた時も可愛いけど、どっちも可愛い」

そんな可愛い可愛い言われると照れる…

普段は男らしくなりたいって思うけど、好きな人には可愛いって思われたい

なんでだろうな、これが好きって気持ちなのかな

ふふふ…まぁとにかく俺の機嫌は最高によかった

数日の旅行を楽しんで、また船に乗って帰る

左手の薬指には指輪が光っていて、俺はそれを見る度に自然と口元が緩んで幸せな気持ちになった



そんなこんなで船から降りて、死者の国への帰り道のコトだった

遠くから手を振って近付いてくる知り合いが1人

「セリ~~~!!久しぶりだよねー!?」

俺を見るなり、その顔は元気に笑う

「ポップ、確かに久しぶりだな」

キルラとはよく顔を合わせていたが、ポップは暫く顔を見ていなかった

自称四天王を名乗るだけはあるのか、それなりに忙しいみたいだ

しかし、こんな所で会うなんて偶然?と思ったがどうやら俺を待っていたらしい

「セリにお願いがあるんだよ~ぅ」

ポップは少し離れた小国の方を指差してキラキラと目を輝かせる

「なんだよ」

「あの国の限定コフレがほしくて、買ってきてほしいんだよ!!」

コフレって…確か、化粧品のセットだったか?

ポップが指差す先は人間の国、魔族のポップが買いに行くのは厳しいか

「うーん…今は和彦と一緒だし寄り道は…」

数日休みを貰えただけでありがたいのに、まだ大変な死者の国に和彦の帰りを遅くさせるのは…

「ちょうどセリが良いタイミングでこの道から帰って来るって聞いて待ってたんだもん!!

セリが買って来てくれないなら…別にいいよぉ?

魔族のポップが何するかわかんないけどねぇ?」

断れないでしょとポップは俺を見下ろす

まぁそれはそうだな、ポップならほしければ奪いに行こうとする

でも、きっとそこの化粧品が気に入ってるから出来るだけ下手なコトはしたくない

それに結局脅しで…ポップが何かするより、俺が行くのが1番安心でそれしかないよな

「わかったわかった」

ポップに仕方ないなって言うと、やったー!と喜んでる

俺は和彦に向き直って両手を顔の前で合わせた

「悪い和彦、先帰ってて

ポップのワガママに付き合ってから帰るからさ」

「少しの寄り道くらいならオレは構わないが」

「いいや、ダメだ

みんな和彦の帰りを待ってる

数日一緒にいられただけで俺は満足だし、これ以上は悪いよ

帰りはポップと一緒だから心配もないし」

和彦は俺が1人だとすぐ危険に巻き込まれて心配ってのもあるんだろうけど、ポップは魔族の中でもかなり強いから大丈夫

悪さしたら俺が止められるしな

「……そうか、わかった

それならポップにセリくんを任せるとしよう」

「セリの事はちゃんとポップが送るからね!!バイバーイ和彦」

もう少し和彦と話したかったが、ポップの強引さで引き離されるように連れて行かれてしまった

空気読めてないのか、わざと読んでやってるのか…この女

数日ずっと一緒にいて満足したハズなのに、離れるとすぐに寂しさを感じる

死者の国に帰るまでは一緒だって思ってたから削られた時間が余計にそう感じるのかもしれない


ポップに連れられてついた国は、それほど大きくはない小国だが

有名な化粧品のブランドがいくつかあり、ポップのようなファンが多く通い賑わっている

化粧品以外のパッとしたものがないのか、客層のほとんどが女性

とにかく、俺の前の世界にあった百貨店に入ってるようなデパコスみたいな、高い化粧品のブランドがいくつかあるってイメージだ

「それで、ポップがほしいのはどれなんだ?」

「全部のブランドのコフレだよぉ~

だいたいひとブランド8万くらいで」

高いな、そういや前にポップに見せてもらったなんかちっさい美容液が3万とか言ってたのを思い出した

旅行帰りだから財布にあんまりお金入ってないんだよな

和彦がなんでも買ってくれるとは言ってくれたが、俺の渡したい人達のお土産は自分で買わなきゃ嫌だから断って金がない

ポップには前払いしてもらうか

「それじゃあ買って来るから」

そう言って手を出すと、ポップは首を傾げた

「いや前払いで」

さらにポップは首を傾げて言う

「男と買い物に来てるのに、どうしてポップがお金出さないといけないのぉ?」

…………ん???なんて???

「セリが買ってくれなきゃ~」

「はぁ!!?!?何言ってんだ!?

俺はオマエの彼氏じゃねぇんだぞ!?

なんで彼女でも好きでもない女に8万の物買わなきゃなんねんだよ!?」

「全ブランドだから80万はするかもね~」

「アホか!!!!!」

ケラケラ笑ってるポップに腹しか立たない

「帰るわ!!!」

知るか!!と俺はポップを置いて来た道を戻ろうとしたが、ポップが後ろから抱きついてきた

しかも大きな胸を押しつけながら…

「ま、待ってよセリ~

買ってくれたら、ポップが良い事してあげるよぉ?」

色仕掛けか…

「俺の恋人が誰か言ってみろ」

俺の言葉にポップはハッとして離れる

そう、魔王の香月の恋人の俺に手を出すなんて……

「男が恋人のセリには効果なしだねぇ…残念」

言い方言い方!!合ってるけど、そうじゃねぇの!!

わかってるよ!?自分でもさ!?

ついこの前までは俺は普通で女の子が好きなのに、なんでかわかんないけど男が恋人になってしまってって思ってたけど!?

でも実は男じゃなきゃダメなんだって気付いちゃったけど!?

いや…もう無様にもがくのはやめて、認めよう……

男しか愛せないって……なんかちょっと悲しい

でもでも……それが幸せ、今の恋人に不満なんて何もない

むしろ…そうじゃないコトが考えられない

「はぁ~わかったよ、セリにお金渡すから買ってきてねぇ」

「当たり前だろ、おねだりは彼氏だけにしろよ」

ポップは渋々お金を取り出して渡した後すぐにいつもの調子に戻る

「セリはおねだり上手だもんねぇ~?

香月様も和彦もレイも、セリにおねだりされたら嫌とは言えないでしょー」

聞きたがる、恋バナが好きなのは女子の特徴かな

みんな嫌とは言わないが、ポップみたいになんでもかんでも遠慮なくワガママ言ったりはしねぇぞ俺は

「……買いに行ってくるからここで待ってろ」

ツンツンとつっついてくるポップの話は無視して、城下町へと足を向けた


ポップの話の通り、数量限定のコフレにはたくさんの人が買いに来ていた

混んではいるが数には余裕があるみたいだし、買えない心配はなさそうだな

とは言ってもこの女性しかいない列に1人並ぶのも恥ずかしくなってくるぞ

並んでる間に近くにある何色もの口紅が目に入る

は~なんか凄いな、色だけでこんなにあるのか

赤でも何色もあるし、ピンクも淡い色から濃い色まで

ちらほらと男の人もいるが、カップルか彼女にプレゼントするために買いに来たってところか

彼女のために店員さんと相談して選ぶコスメか…

めっちゃ素敵だけど、俺には永遠にないコトだな

ただ並んでいるだけだと暇だ、話し相手もいねぇもん

「……セリ様…?」

ぼーっと並んでいると、名前を呼ばれて視線を向ける

うっっっわ……最悪……

「このような所でお会いするとは偶然ですね」

目が合ってすぐに反対側を向いたが、もう遅い

ホンマ最悪…こんな所で、フェイに会うなんて……

っつか、この前あんな酷いコトしといてどの面で話し掛けてんだオメェはよ

とりあえず無視しよ

「セリ様お1人でいらしたのですか?和彦様は?」

無視したかったが、周りの目が…えっ知り合いなのに無視?って視線が痛い

並んでるからここから離れらんねぇし、もうタイミングが最悪すぎ

けど、これだけ人目がある外ならフェイもヤベェコトはしねぇか

「ポップのお使い、外で待たせてるから1人じゃねぇよ

和彦は先に帰ってもらった」

「そうですか…和彦様とはご一緒でないと…」

フェイの目つきが変わる…

ちっ嫌な感じがする、和彦と一緒じゃないって言わない方がよかったかも

「フェイこそなんでこんなとこにいるんだよ

気になる女でも出来て、その子へのプレゼントでも買いに来たか」

「まさか?私は」

フェイがどうしてここにいるか説明しようとした時、国の兵士達が現れフェイを取り囲む

当然この場にそぐわない光景に辺りがざわつく

俺も目の前で何が起こってるのかわからないまま…

「貴様だな、王女を襲った暴漢は」

お…王女を襲った…?フェイが??

あっという間にフェイは数人の兵士に取り押さえられる

「えっ…ちょっと」

何がなんだか…わからず、思わず俺は声をかけてしまったが

「むっ貴様もこの男の仲間か?」

「いや全くの赤の他人です、無関係です

知らない人です」

フェイの仲間と思われて一緒に捕まるとか嫌だし

フェイが悪さして捕まるコトに俺は関係ないし、何よりどうでもいい

散々酷いコトされたんだ、庇う義理はない

「ただ、コイツ…いや、この人が何をしたのか

突然こんな騒ぎになって、気になっただけです」

兵士達は周りの注目に気付き隠しきれないと説明した

どうやら、フェイは王女の部屋に侵入して襲ったと言う事なのだ

王女には婚約者がいて近々結婚と言う身であり、今回の事件で大変身も心も傷付けられたと…

うわ…最低だなコイツ

寝取りフェチってのは知ってたが、一国の王女にも手を出すとか……信じらんねぇ

「いつかやると思ってました」

「やはり知り合いでは…」

「いや、全然知らない人です」

この話を聞いた周りの人々はフェイに激しい嫌悪とともに罵声を浴びせる

「最低……」

俺も、同じようにフェイに冷たい目を向け呟くように言葉が漏れた

ずっと黙っていたフェイだったが、俺の言葉に顔を上げる

「…待ってください!!私は無実です!!

私が王女を襲ったなど…ありえません!!」

いつもの…生意気でムカつく表情と態度もない

フェイは俺をまっすぐに見つめ訴えた

うーん…フェイの性癖を考えると、王女なんてめちゃくちゃ興奮する相手じゃないか?

フェイがやってないって言っても、王女本人はやられたって言って泣いてるワケだし

相手が相手なら、罰はかなり重いだろうし受けるべ……き……

「信じてください!セリ様!!」

フェイは…俺しか見ていなかった

兵士に訴えるワケでもなく、周りの人達に違うと言葉を向けるワケでもなく……

俺にどうにかする力があるワケでもないのに……

フェイは……俺だけをまっすぐに見て、信じてほしいと……

「騒ぐな来い、貴様はすぐに処刑となる」

処刑…?すぐ?それは早すぎないか?

フェイはやってないって言ってるのに?

俺は…どっちが嘘ついてるかなんてわかんないのに…

フェイには散々酷いコトされて嫌いなのに……

………フェイは、俺を助けてくれたコトがある

オマエがいなかったら…俺は和彦とまた一緒にいられなかったかもしれない

嫌いだけど…さすがに死んでほしいまでは思ってない

だって、フェイは俺に信じてほしいって言ってるんだから

連れて行かれそうになるフェイの腕を掴んで引き止める

「……待ってください」

「何かね?君はこの男の知り合いではないと言っていた」

「知ってても知らなくても、やってないって言ってる相手の言葉を無視してすぐ処刑はあんまりだと思いますけど」

とは言ったものの、相手は王女様

その言葉が絶対なのは変わらないだろう

なら…王女から話を聞くしかない

何か誤解が、もしかしたら人違いかもしれない

フェイはやってない…って信じたい

だって、和彦が認めるような男なんだ

フェイをじゃなくて、俺は和彦を信じる

「この男を庇うと言うなら貴様も同罪となる」

強く睨み付けられて、俺はフェイから手を離した

ここで粘っても悪い結果にしかならない

フェイと心中する気はねぇからな

とりあえず…今は引き下がろう

フェイの姿は確認できないくらい兵士達に囲まれて連れ去られてしまった

暫く周りもざわついていたが、すぐに元通りだ

さて…と、どうしようか

まずはポップの約束を果たしてからの方がいいな

待ちくたびれて暴れられたらさらに面倒だ

俺はポップに頼まれていたコフレを買うと、ポップが待っている街の外へと顔を出した

「ありがとーセリ!じゃ帰ろ」

「悪いポップ!俺ちょっと用事が出来たから1人で帰っていいよ」

「んー?でもぉ、セリ1人で帰れるの?」

帰りは…フェイを助け出すコトができたら…まぁ死ぬほど嫌だがアイツと一緒に帰るしかないな

「それは大丈夫」

「そっかー!ならポップは帰るね!

またね~セリ、セリカにまた女子会しようねって伝えておいて」

ポップはコフレの紙袋を大事に抱えながらご機嫌で帰っていった

それじゃ…フェイをどうやって助けるか考える

すぐに思い浮かんだのは王女本人と話して確認するコトだ

でも、相手は王女様…俺が簡単に会える人じゃない

もしかしたら勇者の肩書きで会える可能性もあるかもしれないが、1対1ではないならいきなりこんな話しても何コイツ?ってなるだろ

それなら直接部屋に不法侵入するか?

いや、それこそ即逮捕で翌日フェイと一緒に首並べるコトになるわ

そもそも俺はレイみたいに器用じゃないからガチガチの警備をすり抜けて侵入なんて無理だ

フェイを助けに行く?1人で?無理だ

運良く助けるコトが出来てもお尋ね者になってその後も追われる

和彦に助けを呼びに行くと言っても時間がない

うーん……それじゃあどうすれば……

「貴方ね」

ない頭でフル回転させて考えていると、ひょこっと俺の顔を覗き込む女の子の顔があってビクッとする

えっ!?誰!?

「はじめまして、私はこの国の王女です」

えっ…!?王女!?

と名乗る女の子は傍に2人の屈強なボディーガードを付けている

本当に王女か…どうかは知らないが、この国の人とわかるくらいその顔はバッチリ綺麗にメイクされていた

「話があります、一緒に来てください」

「話…?俺に…ですか…?」

そう言って王女は背を向けてついて来いと言う

むしろ屈強なボディーガードに挟まれて強制的に連れて行かれてる気もするが…

王女か…それにしても兵士が言ってたようには見えないな…

身も心も傷付いて泣いていると聞いたが、普通の振る舞い…?それとも無理しているのか?

本当に王女かどうか疑ってはいたが、兵士達から頭を下げられ城の中へとすんなり入れると本物だと信じられた

一般人だとそうはならないだろ

じゃあこの女の子は本物の王女…?

だけど、それならなんで俺に話なんか…

案内されたのは城の地下にある部屋

どう見ても……客間とは思えないような…恐怖を感じる場所だけど

俺なんかした!?もしかしてフェイとグルだと思われて俺も処刑されるために捕まったのか!?

「あ…あの…話って…」

居心地が悪くなって俺は遠慮がちに声をかけると、王女は振り返り笑った

笑顔からの…怖い顔へと変わっていく

「黒髪で色白で華奢で綺麗な人……」

はっ?

「あの人には好きな人がいるんですって、どんな人か聞いたらそう答えましたの」

あの人?好きな人?急になんの話?恋愛相談?

俺そんな人にアドバイス出来るくらい豊富じゃねぇぞ

「頭が高い」

王女の一言で屈強な男2人に両側から抑えられ地面へと頭を押し付けられた

ヒールの高い靴が俺の頭を踏みつける

急に何!?マジで!?何されてんの俺!?

俺は確かポップのコフレを買いに来ただけで、偶然フェイに会って…それから…なんでこうなるんだよ!?

人を足蹴にするなんて品のない王女だな

回復魔法のおかげで痛くはないが、こんな扱いされてムカつく

「親しげに話していたとの報告も受けています

貴方で間違いありません」

「いや…何の話かわからないんですけど」

「勝手に喋るな家畜ごときの底辺メスブタ」

!?!?こら、こらー!?親呼べ親!!

どういう教育してんだ!?

人様を足蹴にしてメスブタ呼ばわり!?

王女だからって甘やかすな!!

ってか、俺は男だ!!

「こんな女の何処がいいんです?あの人は見る目がありませんわ」

王女は俺の頭から足をどけると屈んで俺の髪を乱暴に掴み顔を上げさせた

「このお顔が好みとおっしゃるならズタズタにして差し上げましょう

あの人が見向きもしないくらい醜く」

王女はナイフを手にして俺の口に突っ込むと横に引き裂いた

これは…マズいかも……

痛くはないし傷は回復魔法で治せるとは言っても、問題はそうじゃない

この王女は俺にとてつもない恨みを持っている?

一体なんで?俺は何もしてないし人違いじゃねぇのか

そういうコトならフェイの件だって人違いや、激しい被害妄想とかの……

「何も知らずなのは可哀想だから、どうしてこのような目に遭うか教えてあげましょう」

話しながら王女は俺の顔を傷付けていく

「私には隣国にパパが決めた婚約者がいますの

好きではありません、王女の私には仕方ない事」

それは辛い話だな

好きでもない人と結婚するなんて、俺はめちゃくちゃ嫌だし無理だ

「そんな私はパパにも婚約者にも内緒で気に入った男達を飼ってるんです」

急に異常さが生まれた!?

環境がこの子を怪物にしてしまったんだな…可哀想に

「お金はもちろん、私の美貌でほしい男が手に入らなかった事はありませんでした」

へー俺は金積まれても無理だな、美貌も好みじゃねぇし

「そんな時、はじめて理想のお方に出逢いましたの

当然そのお方も私のものになると思っていましたわ」

ふーん、目の肥えた王女の理想ってどんな男…

「フェイ様は私の理想の殿方!!」

………なんて?

「あの凛々しいお姿も強さも」

その後も誰の話してるんだろうと不思議に思うくらい暫く聞かされてる

フェイが理想って…アイツただのド変態だぞ

確かに見た目は良いかもしれないが、俺の好みではないけど

中身は意地悪だし生意気だしドSだし

それが理想って見る目なさすぎなんじゃ…

えっでも、そのフェイを処刑にさせたのは……

「なのに…フェイ様は私を拒みました

許せません…この私を拒絶する事など」

完全なる逆恨みってコト!?なんだそれ!?

やっぱりフェイは無実だったんだ…

いや、アイツならやってもおかしくないとは最初思ったけどな

「好きな子がいるんですって…

お名前は聞いておりませんが、貴方でしょう?

この世界で黒髪は珍しいですし、特徴も一致

親しげに話してもいた…」

親しげに!?話してねぇよ!?めっちゃ嫌々話してたから!!

それに俺はフェイに嫌われてるから…

もしその好きな人って話が本当なら、フェイが好きなのはセリカってコトになるんじゃないか

わかんなかったが、よくよく思い出すとそうかもって思えてくる

フェイは俺には意地悪だが、セリカには優しいし紳士だし

それにセリカに恋人できたかって気にしてたから…アイツのフェチからして、それは狙ってる

えっ認めねぇけど、フェイがセリカの恋人になるとか絶対死んでも許さん

あんな男は絶対ダメ、近付くな

「なんでそんな話を隠さず俺に」

「だって、貴方はフェイ様と一緒に殺しますから

私に恥をかかせたんです

フェイ様には苦しんで死んで貰いたいんです

私の心を傷付けたから、フェイ様の心もズタズタにしてから殺したい

それには好きな人に酷い目に遭ってもらうのが1番の効果があるでしょう?」

王女は綺麗なメイクを崩しながら笑い続ける

なんでも自分の思い通りにならないと気が済まない?

思い通りにならないなら殺すってか

勝手ばっか…言うな

どいつもこいつも……

俺は回復魔法で自分の顔の傷を綺麗に治した

それにビックリした3人の緩みに隙を見て、拘束からすり抜ける

勇者の剣を引き抜いて、こちらも抵抗する意思を見せた

「その回復の力…貴方…勇者でしたの」

「思い通りにならなきゃ殺すって?俺の知ってる奴にそっくりでムカつくぜ

だが、オマエと俺の知ってる奴の違いはハッキリある

俺はアイツを受け入れるって決めたが、オマエのコトは知らん

甘えんのはパパだけにしな」

なんでも言うコト聞いてくれそうじゃんパパ

俺はレイのコトは受け入れるって決めた時から、レイのコトを理解しようとしてる

だからこの王女の気持ちもわからなくはない

好きだからこそ暴走する

でも、フェイはその暴走を受け止める気はない

好きじゃないから

俺はレイの暴走も受け止める気はある

好きだから

その違いなだけ

こっちからしたら大人しく殺られるかって話だ

………って、イキっちゃったけど…

正直、この屈強なボディーガード2人に勝てる気がまったくしない

俺が強いのは魔族と魔物にだけ

人間相手に、体格差もありすぎて負ける気しかしねぇぞ

「まぁ凄い、さすがフェイ様の好きな人

その辺の馬鹿なメスブタではありませんね

マシなメスブタと言った所でしょうか」

王女はケラケラ笑いながら手を叩いてる

「いえ、勇者は男でしたね

まさかフェイ様が男の方を好きだったなんて、それなら私になびかないのも納得です」

あれ…?なんか見逃してくれそうな感じか?

「わかりました、フェイ様に会わせてあげます

その物騒な剣はお収めになって」

いや別に会いたくはねぇけど、それってフェイと一緒に解放してくれるってコトか?

なんだ話のわかる子じゃないか

レイと一緒でちょっと暴走しちゃっただけなんだよな、きっと

俺は拍子抜けしたが言われた通りに勇者の剣を収めた

「来てください、フェイ様は隣の部屋におられます」

そのまま王女について隣の部屋へ入ると、フェイの姿があった

「フェイ!無事だったんだな」

両手を後ろに拘束はされていたが、とくに怪我とかはないみたいだ

「セリ様」

フェイの顔を見て安心した

嫌いな奴のハズなのに…声が聞けて、生きててよかったと思ってしまう

フェイには酷いコトされ続けてきたが…やっぱり和彦の時の恩は大きかった

きっと、これからも意地悪はたくさんされるだろうけどフェイはいざって時は助けてくれるんだって心の中ではわかってるんだ

だから自分であるセリカはフェイを信頼している

それが真実だ…

「本当によかった…」

「私を心配してくれたのですか?」

フェイの言葉に俺はハッとして、そっぽ向く

「別に心配してなんかいねぇし、フェイがいなくなったら和彦が困るからってだけで」

ぷいっとするが、フェイは俺を真っ直ぐに見る

「私を心配していたなんて……なんて……可愛い人…

今すぐ押し倒して……めちゃくちゃに犯したいくらい…可愛い…」

口元を緩めて嬉しそうに何やら呟いてるみたいだけど、全然聞こえない

「ん?何ブツブツ言ってんだ?聞こえねぇんだけど

言いたいコトがあるならハッキリ言えよ」

黙っちまった…相変わらず不気味な奴

こんな男の何が良いのか王女は

「フェイの話は聞いたよ

逆恨みでこうなったみたいだが、王女もわかってくれたから」

「私の話を?一体何と?」

「好きな人がいるからって」

俺がそう言うとフェイは余計なコトをと言わんばかりに王女を睨み付けた

「まさかフェイがセリカを好きだったなんてな」

「えっ?

………ふふ…自分だとわかっていない所とか……バカすぎて…そこも、可愛い……」

王女を鋭く睨み付けたと思えば、また何か嬉しそうにブツブツ呟いてる

何この子…恐怖…こんな状況なのにニヤニヤしてるの怖くてキモイ

フェイの独り言が聞こえないまま、俺は王女にフェイの拘束を解くように言った

が…王女は厳しい表情のまま俺達を見ていた

「フェイ様の片思いかと思いましたのに…両思いではありませんか」

はっ?両思い?どこをどう見たらそう思うんだよ!?

それにフェイは俺のコトが好きなんじゃないって!!

俺も大嫌いだし!!…あっお互い嫌いなんだからある意味両思いか!?

王女の逆鱗にどのやり取りが触れたんだ!?普通だったろ!?めちゃくちゃ怒ってんぞ!?

「最初から逃がすつもりはありませんでしたし、2人を会わせてもっと苦しめて殺したくなりました」

最初から詰んでた!?さらに重くなって!?

アホか!!なんでこんな所でフェイなんかと心中しなきゃなんねぇんだよ!?

マズい、フェイが拘束されてなかったら逃げるコトも可能かもしれないが…

フェイの拘束具は特殊すぎて俺にはどうにもできん

どうする…俺があの屈強なボディーガード2人相手に戦って勝ち目はあるか…?

王女の護衛なんだから生半可じゃねぇだろうしな

「おいおいフェイ!嘘でもいいからあの王女を好きって言ってやれ!!」

「はぁ?嫌です」

「バカか!?状況見ろや!!このままだとオマエも俺も殺されるんだぞ!?」

「貴方に言われるのが嫌です」

どんだけ俺のコト嫌いなんだよコイツ!?

嫌いな奴から言われたコトは死んでも嫌だって!?プライド強いな!!

「貴方がいなければいくらでも言いましょう

でも、セリ様の前で他の人を嘘でも好きとは言いたくありません」

「そんなに俺が嫌いか!?死ぬほど嫌いか!?

それでも命を大事にしッ」

説得してる途中なのにフェイは俺の腹を蹴った

ど…この…っクソガキめ!助けに来た俺の親切心を蹴るなんてなんだコイツ!?マジで!!

しかも思いっきり蹴っただろ!尻餅ついたぞ!?

「さすがフェイ様、ますます私の理想です

理想のまま死んでください

思い出として私は一生フェイ様を心の中で飼います」

「勝手な事を言わないでください

私を心に刻みつける相手は私が決めます」

フェイの足が俺の腹にドスッと乗るように踏みつけてくる

イラついてんだろうけど、俺に当たんなよ!!?

この空間じゃ嫌でも味方のハズだろ!?協力して助け合おうぜ!?

俺は何をしてでも生きたいぞ!?

生きて…みんなの所へ帰る…

こんな所で、絶対死ぬワケにはいかねぇ…

「フェイ様ったら、いつまでその強気を保っていられますかしら

そこも好きなんですけれども…人数を呼んでちょうだい」

王女の一声に数人の強そうな男達が入ってくる

これは……詰んだな

あの屈強な2人でも勝てないと思ってるのに、さらに人数が増えるなんて

フェイが煽るから……!!どうすんだよ…

「言いましたよね?私を振って恥をかかせ傷付けたと

ですからフェイ様にも傷付いてもらいます

フェイ様の愛しいこの勇者を、目の前で犯してやりましょう」

増えた男達に掴まれ俺は引きずられ、あっという間に囲まれる

………なんて、言った…?

「お、おい…フェイの愛しい人って、俺じゃねぇぞ!?

俺に何かしてもフェイは一切動じないし効果ないから!?」

と言っても聞いてもらえず、乱暴に両手足を押さえつけられる

ま…待って……なんで、こんなコトに…

嫌だ…絶対嫌だ…!?

恐怖がまた襲ってくる…怖くて身体も声も震える

触るな…汚い手で……気持ち悪いから……

「お…っお前ら!?何やってんだ!?その人に触るんじゃねぇ!!!!」

囲まれてフェイの姿が見えなくなっていたけど、その向こうから声が聞こえる

フェイらしくない余裕のない荒々しい口調で怒りと焦りを感じる

「それ以上やったら皆殺しにしてやる!!女だからって関係ねぇ、王女もぶっ殺してやるからよ!!!」

フェイ……

らしくないな……なんでそんなに怒ってるんだよ

俺がどうなろうが、オマエは動じないハズなのに……

「凄い…凄いです!!フェイ様も感情的になるんですね!!

あーよかった、効果絶大です安心しました

続けなさい、手加減はなしでやっておしまい」

一度は止まった手も王女の言葉で俺へと無数に伸びてくる

もう……ダメだ、って……早い段階で諦めた

こんな人数相手に勝てるワケない

もうずっと安全に守られて生きてきてたけど、そうじゃない昔を思い出した

犯されるのは日常茶飯事みたいなもんだったし…

汚くて痛くて気持ち悪いのは……何度だって経験しても、慣れはしない

辛いし苦しいし悲しいし悔しいし…

でも……そんな昔とは1つだけ違うコトがあった

「ふざけ…やがって…許さねぇ……

殺す……殺して……やる……皆…殺し………セリ様……」

ずっとフェイの声が聞こえていた

姿は見えなくても、その声には悔しさと涙が混じっている事を感じ取る

大丈夫……フェイのせいなんて思ってないから

俺が弱かった…弱くてフェイを助けられなかっただけ


それからどれだけの時間が経ったのかわからない

俺の体力も失って、意識は虚ろ

もう何も考えられないし感じない

この後は殺されるのかな…死にたくないな……

でも、合わせる顔ないよ

香月…和彦……

俺、また汚くなっちゃった……

こんな俺はやっぱり…嫌だよな…

こんな俺でも愛してほしいなんて……

最悪だよな…

だけど……俺は2人のコトが大好きで愛してる

ずっと……死んでも

「………わかり…ました……」

フェイの…弱々しい声が聞こえた

「王女の気持ちはよくわかりました

応えますから…その人を、セリ様を解放してください」

「それはどういう事ですか?」

王女はよく聞かせてと、フェイの傍へ寄る

「私は王女に飼われても良いと言ってるんです

それなら、もうその人は関係ないでしょう」

「連れて来なさい」

男達は俺から離れフェイの前に引きずり出した

何でも言うコト聞くんだな、王女だから当たり前か

「この勇者の目の前で私に口付けをなさい」

「……………。」

フェイはすぐには動かなかった

それにいつも俺を真っ直ぐに見ていたのに、今は目も合わせてくれない

そりゃ…そうか、俺汚くて気持ち悪いもん……な…

「嘘ですか?さっきの言葉が本当なら勇者の目の前でしてください」

何も言わなかった

フェイは何も言わずに、王女へと口付けをする

俺の見てる…目の前で……

なんだそれ……なんだこれ……

スゲー…死ぬほど…悔しい…

俺らバカにされてんじゃん……

フェイはセリカのコトが好きなのに、俺が殺されるってわかってるから王女の言いなりを選んだ

俺が殺されるってコトはセリカも死ぬってコト

卑怯な手を使われて……

フェイにとって、セリカである俺の目の前でキスをするなんて死ぬほど嫌だったろう

最後まで抗った…

でも、どうしようもなくて……自分の気持ちを無理矢理ねじ曲げるしかなかった

悔しいよな…辛いよな…苦しいよな……

だけど…フェイ、俺は…セリカはフェイのコト悪く思わねぇよ

セリカのためにフェイは自分の気持ちを殺したんだって…わかってるから

「…フェイ様…やっと私を受け入れてくれましたね

何人もの男から陵辱された人なんて嫌になりますよね

気持ちも冷めて当然です」

口を…挟めなかった…

言いたいコトはたくさんあるのに

だけど、俺の言葉でフェイがせっかく逃がしくれるチャンスを潰すコトは出来ない

それも…俺は凄く悔しかった…

俺だってムカついてるから、フェイの気持ちを踏みにじるこの女に

「……わかったなら、この両手の拘束を解いてください」

「そうですね」

王女はケラケラと機嫌良く笑う

きっとこの女は浮かれていたんだ

理想の人が手に入ったコトに、冷静であれば迂闊なコトはしない

だって…フェイは……最初に言っていたから

周りの男達は気付いて王女を止めようとしたが、王女はすでにフェイの拘束を解いてしまっていた

そこからは素早かった

フェイは王女の持つナイフを奪い取り、この場にいる男達を皆殺しにする

そして、王女を地面に叩きつけその頭に足を乗せた

俺がやられたのと同じように、あっという間に立場が逆転する

「フェイ様…!?嘘を付きましたね!?」

「嘘?なんの事です?私は皆殺しにすると言ったじゃありませんか

何も嘘なんて付いていませんよ」

「私のものになると…」

「皆殺しの機会を作ったまでの事に何をおっしゃるか

女のお前もぶっ殺すって言ったの忘れたのかよ?」

なんつー…強さだ……

あの強そうな男達を一瞬で倒すなんて…

和彦が強すぎてわからなかっただけで、フェイは和彦が認める男

この強さは当たり前だったんだ……

「王女の私の頭を足蹴にするとは無礼ですよ!」

足元で王女が叫ぶが、フェイは聞く耳持たずに

「さようなら、醜い女

お前みたいな女死んでも好きになるか死ね

あぁそれから、私はセリ様の過去を少しは知っています

こんな事くらいで私の気持ちは冷めたりしない

ただ、私以外が手を出す事に死ぬほど腹は立ちますがね」

フェイは躊躇うコトなく王女の首にナイフを突き刺して殺した

………終わった…のか…

「何をボケッとしているんですか、逃げますよ

早く服を着てください」

とフェイは言いながら俺に服を着させた

俺があまりの急展開についていけなくて…

そんな俺の手を引いたが、俺の足はふらついて走れない

「あっ…あれ…立てないかも…」

フェイは俺を背負ってくれる

いつもなら鈍臭いとか生意気なコト言ってくるのに、何も言わず走れない俺を背負ってこの地下から脱出した


外に出た時にはもう夜中で真っ暗だった

近くの村まで逃げて小さな宿を取って休むコトにする

すぐに身体を洗いたかったから、シャワーを借りて綺麗にするけど

全然…綺麗にならない…気持ち的にずっと汚れてる気がするな

どうしよう……こんな俺…帰れない…

和彦と香月に合わせる顔…ないよ

シャワールームから出ると、フェイと顔を合わせる

部屋が空いてなくて仕方なく同じ部屋に…

まぁフェイと2人っきりなんて、半日前までは死ぬほど嫌だったのに

今は…そんな嫌でもない…

なんだか…フェイの気持ちを知ったら…

セリカのコトが好きなのはビックリしたけど、あの王女に散々やられた姿を見たら…

なんかな…複雑だよ

「なぁ、ここまで逃げてきたけど

王女殺しなんてそれこそ死刑なんじゃ」

「また私の心配をしてくださるんですか?」

フェイは嬉しそうに俺の隣へと座る

「心配いりません

あんな小国、私1人で潰せます」

「お、おぉ…さすが和彦の部下…

だけど悪いのはあの王女だけだったから」

「上手くやります、任せてください

あの国の化粧品ブランドはとても有名です

制圧して和彦様に捧げます」

どこまでも和彦様なんだな、忠誠心がお高いコトで

「そんな事より」

フェイは俺の方を向いて顔を近付けてくる

から、俺は身を引いた

身を引くと手を掴まれ引っ張られる

もちろん近付くなと抵抗する

「それで全力ですか?相変わらず非力な人ですね」

結局力負けして、フェイにキスされてしまう

こんな時まで何考えてんだコイツ本当に最低だ

俺がどんな目に遭ったか見てたと言うのに

「嫌がってください、もっと

その方が興奮します」

下唇を甘噛みされて、ゾクゾクと身体に巡る

嫌いなのに…なんでこんなに感じるんだろう……

さっき複数の男達に犯された時はずっと痛くて気持ち悪くて吐きそうだったのに……

「…あの汚らしい女との口付けを、貴方で忘れたいんです」

長いキスはそのせいか

熱い音も絡み合ってフェイの舌が俺の中に入ってくる

掴まれてない反対の手をフェイの胸を押しのけるようにしても、フェイはその手さえ掴んで指を絡めてきた

暫くしてやっとフェイの唇が離れる

「……やめろ…」

「私もシャワー浴びて来ます、待っててください」

はっ?知るか、先に寝るわ

疲れてしんどいし

フェイはそう言ってシャワールームへと消えていく

俺はさっさとベッドに入って横になる

目を閉じると、さっきの嫌な感覚が蘇ってくるようだ

過去のトラウマと一緒に…苦しくなる

思い出したくない…自分が気持ち悪いんだって思い知らされる

嫌だ……もう…ずっと忘れていたのに

またずっと苦しむコトになるなんて……

「セリ様…」

名前を呼ばれてハッと目を開けて半身を起こす

心臓がバクバクして…辛く苦しい

「フェイ……」

「うなされていました」

「いや…」

まっすぐ見るフェイの視線から逃れるように目を逸らす

「巻き込んでしまって、申し訳ありません

もっと…早く、助ける事だって…」

「謝らなくていい…あれはオマエだって一方的に被害を受けてたんだ

俺はフェイのせいなんて思ってねぇよ」

惨めな気持ち…俺はよく知ってるから

大きな力に押し潰されて、自分を捨てなきゃいけない悔しさも苦しさも…

フェイが最後に折れてしまった時…俺だって辛かった

だから…

「セリ様…私は……いえ

明日…和彦様の所へ帰りましょう」

「和彦……和彦の所へ……?」

声が震える

目の奥から熱いものが込み上げて瞳を揺らす

「帰れないよ…和彦に合わせる顔がない

こんな俺…和彦に、愛してもらえない…」

「和彦様はセリ様の過去を知っています

どんなセリ様だって受け止めてくれる

貴方は弱気になっているだけ」

「俺が嫌なんだよ

和彦は大丈夫って優しく言ってくれても、俺はずっと自分に自信がない…」

自分も何を言ってるのかわからないくらいぐちゃぐちゃだ

和彦が良いなら良いんじゃないか?

俺は自分の何が許せない?

どうしようもなかったコトなんだぞ

和彦が受け入れてくれるって知ってても、俺は知られたくないし嫌だよ…嫌なんだよ……

汚い自分が……嫌

「セリ様」

フェイの手が腰に触れたのを感じるとそのまま抱きしめられる

「このまま抱いていいですか?」

「はっ?オマエ俺の話聞いてた?」

すっと涙が止まった

「離れろ!変態!薄情者!!」

フェイを突き放そうとするが、簡単に押し倒されフェイの顔が覗く

「このバカ!!和彦に言い付けるぞ!?」

「構いません

腕の1本2本差し上げますよ」

「いるか!?いらんから離れろ!!」

手に力を入れるが、フェイの力に勝てるハズもなく両手はベッドに張り付けられる

「バカな人ですね…そんなに抵抗されると興奮するといつも言っているのに

本当は私に無理矢理犯されたいのでは?」

「自分の都合の良いように解釈すんなよ!?

俺はセリカじゃないんだぞ!?いやセリカにこんな事するなよ!?」

何言ってんの?って顔された

オマエが好きなのはセリカなんだからわかるだろ!?

フェイは左手で俺の両手を掴むと、右手を服の中へと忍ばせる

少し冷たいフェイの手が肌に触れて身体が微かに反応する

「待って!?俺の気持ち考えてくれないの!?

それともさっきの事全部忘れた!?記憶喪失!?急に!?」

「私はあの醜い女に口付けした事はこの21年間生きた中で最大の屈辱でした

それも貴方の前で……

でも、セリ様にキスした事で忘れましたよ

怒りも悔しさも、屈辱さえも…」

フェイの表情は本当に、スッキリしていた

過去に捕らわれない…目の前の俺だけしか見ていない

強いな…フェイは…

俺なんて…いつまでも、過去のコト引きずってる…しつこいくらい…

俺は弱い人間なんだ

「だから、私じゃ癒せませんか?」

「……へっ?」

「私が忘れさせてあげます

仕方がないから今夜は優しくしてあげてもいいですよ」

この人…何言ってんの?

「さっきの事、全て私で塗り替えて

セリ様の心に刻んでください

嫌だと抵抗しても構いませんよ

私はそちらの方が興奮しますからね」

目の前のフェイの笑みが消えると、その唇が首筋へと当たる

「ぃ…嫌…待って……」

「貴方を、目の前にして待てなんて無理ですって」

変だ……フェイのコト嫌いなのに……

フェイだって俺のコト嫌いなハズなのに…

いつもと違って、感じる…反応する…

「あっ…ぁ…いや……ん…っ」

「悪くないですね、和彦様はいつもこんなに可愛らしい貴方を感じているんですね

羨ましいです…」

「はっ…や、やめ…て……あぁっ」

やめて……やめてよ……

フェイに手首を掴まれて押さえられて

だんだんと手の力が…抜けていく……弱くなっていく

それに気付いたフェイが俺の手を掴んで指を絡ませてきた

嫌だよ…嫌なのに、やめて、ほしいのに……

俺は…そのフェイの手を握り返した…

忘れられる……?さっきのコト全て…?

確かに、そうかも

今は目の前のフェイのコトしか感じられないし見えていない

全て今日のコトが塗り替えられていく

強引だけど、無理矢理だけど、フェイを受け入れてしまうコトになるなんて

いつも嫌だったけど、今日は違う

フェイが優しかったから…愛がないのに、ただの慰めなのに……

なのに……フェイから感じるのは、この優しさだけじゃないような気がする……



次の日、目が覚めると死ぬほどの後悔で落ち込んだ

フェイと……エッチしちゃうなんて……最悪、死にたい

ってか俺って本当クソビッチ、マジ尻軽

「最悪…本当に和彦達に合わせる顔がない

レイなんて待たせるだけ待たしてるのに、大激怒だろ」

「セリ様は悪くありませんよ

私がいつも通り無理矢理襲っただけの事です

ずっと嫌がってましたし」

フェイは何が問題なん?みたいな顔をする

「嫌だよ…嫌だったよ!?

でも、途中からもういいかなって心の迷いがあった

それってもう浮気じゃん!?最低だよ!!俺!!?

死んで詫びる!!!」

睡眠って凄い、頭がスッキリハッキリするから

昨日の俺はどうかしてた、本当におかしかった

「恋人が2人もいて、他に好きな人もいて

今更1人増えた所でどうと言うんです?」

「うるせぇ!!俺は香月と和彦のコトは本気だし、レイのコトだって大好きだもん

でも、オマエの場合は好きじゃない!!

好きじゃないのに寝た…おしまいだ」

この世の絶望…自分の心の弱さに負けて嫌になった

フェイは落ち込む俺のコトなんておかまいなし

俺の顎を掴んで自分の方へと向ける

「それなら私を好きになれば良い

和彦様も香月様も、セリ様が好きな相手には何も言わないでしょう

あのレイって男は面倒そうですが」

「はっ?オマエ、俺のコトめっちゃ嫌いなのに好かれてどうすんだよ

それにオマエに惚れる要素なんもないじゃん

寝取りフェチのドS変態野郎の何を好きになるんだよ」

「………私の気持ちがわからないんですか?」

「いやわかってるよ、フェイがセリカを好きなコトくらいは」

フェイがバカを見るような冷たい目を向けてきた

失礼な!!年下のくせに態度が生意気だぞ!!!

「セリカには優しく接するじゃん、紳士だし

誰それ?ってくらいの変わりよう

そんなん見てたら誰だって、あっ好きなんだなってわかるだろ」

「…………あまりに酷いです

腹が立ったので、教えてあげません

自分で気付いてください」

情緒不安定か!?なんでムカつかれてんの!?

こっちがムカつくわ!!

「次寝取る時は優しくしてあげませんから」

「寝取られるかバカ!!二度と近付くな!!

オマエがピンチになってももう助けてやんねぇからな!!」

ふん!!とお互い別の方に顔を向ける

黙々と帰る準備をしていると、ふふっと笑みが零れてくるのが聞こえた

「いつものセリ様ですね」

「あっ?…うーん……」

確かに…昨日の落ち込みがウソのように消えてる

忘れたワケじゃない…思い出したら嫌な気分にはなるが

やっぱり昨晩はフェイが忘れさせてくれたってのは…間違いじゃないのかもしれない

「ふん忘れろ、気の迷いだ

もう二度とねぇよ」

帰り道もフェイと2人っきりって嫌だが、仕方ない

我慢しよう

「ふふ、さぁ帰りましょう

和彦様の所までお送りしますよ」

そう笑ってフェイは俺に手を差し出した

コイツ…図太いな

主人の恋人に手を出しといて、どの面下げて言ってんだ

相変わらず俺はフェイが嫌いだしよく思っていない

「そうそう、万が一わかっても和彦様には私の気持ちは内緒ですよ

誰にも言ってないんですから」

いや万が一とかじゃなくてもわかってるって、フェイがセリカのコト好きなの

「はいはい、わかったよ」

だけど、今回のコトでフェイを深く知れて少し思うコトも変わった

フェイはやっぱり和彦が認めた男

ずっとなんでこんな奴が和彦に認められるんだって思ってたけど

実力だけじゃなくて、自分の想いを貫く強さもある

時としてそれは破滅に向かうコトもあるかもしれないが、いざって時は賢い選択が出来る

俺はフェイのコト、嫌いだけど嫌いじゃない

って思った

和彦と恋人でいるってコトは、どうせコイツとも長い付き合いになる

長ければ長いほど知るコトもあるだろう

とりあえず、フェイは悪い奴じゃない

まっ俺は嫌いだけどな!!



-続く-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る