165話『心を開いてくれる?』セリカ編
和彦とセリくんがプチ旅行に出掛けてすぐのコト
レイはセリくんが突然姿を消したコトに攫われたって騒いでたけど、鬼神から話を聞いてその時には海の上だったから
追い掛けるコトも出来ず物凄く不機嫌だった
和彦も先に言うとレイがストーカーしてくるコトをわかっていたから、内緒にしてのコトだったのかもしれないわね
しかも追い掛けて来れない海の先ってのも考えたものだわ
まっ、今回のコトはそれくらいしてもらってでも和彦と一緒にいたいかな
そんなこんなで死者の国は和彦抜きとなって少しだけ大変でもなんとかやっていけてるみたい
私はと言うと、光の聖霊と結夢ちゃんの3人で女子会をしているのだった
いつものメンバー(ポップと楊蝉)とは違うと言え、女の子が集まれば話題は似たり寄ったりとなる
「ずっとレイしか見てなかったから気付かなかったけど、この世界ってイケメンが多いのね!」
光の聖霊はレイのコトが吹っ切れてからたまに良い男探しをしているみたいだ
私達は結夢ちゃんの淹れてくれた紅茶を嗜み、結夢ちゃんが手作りしたお菓子を食べながらキャッキャと盛り上がる
結夢ちゃんはそんな私と光の聖霊の話を微笑みながら頷いて聞いてくれていた
「この前ね~、出掛けてる時に雨が降って傘を持ってなかった私が雨宿りしてたら声をかけられたのよ
よかったら入っていきませんか
って私に傘を差し出して、しかもイケメンボイスで!!!
振り返ってその人の姿を見たら、やっぱりイケメンだったのよ!!
一目でときめいたわ」
光の聖霊はその時のコトを思い出しながら嬉しそうに話す
「何それ…やば!?イケメンは中身もイケメンなんかい!
そんなコトされたら恋する」
「ふふ、恋に落ち掛けたわ」
「落ちてないの?」
光の聖霊は良い思い出で終わったと遠い目をした
さっきとの落差が凄いけど!?
「そのイケメンはね~、鬼神の1人なのよ
鬼神って異性に免疫まったくないから、女と話す時ってテンパるじゃない?」
「そうね、仕事でも相手が女性だとしどろもどろになるし
まだまだ女性とまともに話せない感じ」
光の聖霊の心を揺らしたのはまさかの鬼神なんて意外だったわ
あの鬼神がそんなイケメンみたいな行動をスマートに女性に出来るなんて
「いや私には普通!普通に接してた!!
それって私の事を異性として見てないって事じゃない?女として見られてないのよ
ただの聖霊の一種と認識されてるのよ!?」
「う、うーん…どうかしら…
さりげなく聞いてあげようか?どの鬼神なの?」
光の聖霊に気になる人が出来たなら私は協力したいもの
だけど、光の聖霊は手を上げて待ってと言う
「もう1つあるんだわ
鬼神ってあんたのファンでしょ
レイを奪ったあんたの事好きな男なんて、ないから!!っっっないからーーー!!!」
かなり強めに言われてしまう
これはきっと永遠に言われ続けるかも
でも、私は光の聖霊のその気持ちも受け止めるわ
だけど奪ったってのは間違いよ…
「別にレイのあんたへの気持ちにケチを付けてる訳じゃないのよ
でも、あんたの事好きな男だけは嫌」
「鬼神は私に恋愛感情を持ってるんじゃないから、気にしなくても」
「私は気になるの~~~!!」
光の聖霊は紅茶しか飲んでないハズなのに、酔っ払いかのように結夢ちゃんに抱き付いて絡む
「女神結夢も、こんな男の事はさっさと忘れなさいよね!」
お酒が入ってないのに完全に酔っ払いみたいに絡む光の聖霊を宥めながらも結夢ちゃんは微笑み相槌を打つ
でも…光の聖霊の言葉の中でセリくんを忘れなさいって所は首を横に振った
一途で健気な結夢ちゃん…自分のコトながら泣ける
「この前までは姿が世界で2人にしか見えなかったから、女神結夢は勇者の事が気になってしまっただけで
今は皆に見えるんだからもっと良い人との出逢いだってたくさんあるはずよ
時間をかけてもいいわ
いつかは私のように前向きになって良い男ゲットしましょ!」
うんうん光の聖霊の言う通りいやホント、結夢ちゃんは可愛いし優しいし女神だし、良い男がほっとかないって
いつになるかわからないけど結夢ちゃんに気になる人が出来たら私応援するもん!
セリくんはね…男しか無理な人だから…永遠に女と恋愛出来ないと思う…
それに気付いてしまって、悲しすぎる
光の聖霊の明るく前向きな姿に結夢ちゃんは変わらない笑みを見せるけど、頷くコトはしなかった
私が思うより結夢ちゃんは…セリくんのコトが大好きなのかもしれない
略奪して手に入れたいとか結夢ちゃんは思わない
ただ遠くから見守っては想いを募らせるだけ
女神らしいのか、結夢ちゃんらしいのか
私は結夢ちゃんのコト大好きだけど、この大好きは友達としてだ
セリくんだって私と同じように結夢ちゃんが大好き
「あっセリカのネイル似合ってて可愛い」
急に話題を変える
そっちに興味がいったらさっきまでのコトは手放して話せる気ままな光の聖霊
私の手を掴んでマジマジとパステルのパールピンクのネイルを眺めた
「私のネイルはいつも楊蝉がやってくれるの」
楊蝉は器用でセンスも良いから私に似合う色やデザインもよくわかってて、いつも可愛くしてくれる
今のネイルは爪が伸びてきたから、また綺麗にしてもらわなきゃね
次は真っ赤なネイルにしたいかな
「私もしたーい!!」
「いいわよ、私も出来るから今度光の聖霊と結夢ちゃんにネイルしてあげる
どんな感じにしたいか決めておいてね」
「楽しみだわ!どんな感じのネイルにするか悩むわ~」
光の聖霊はネイルの雑誌買って見てみるって機嫌良くしている
結夢ちゃんは私のネイルを見て指差すから
「私とお揃いがいいの?」
って聞くと、嬉しそうに頷いた
でもすぐにハッとして首を横に振る
どうしたんだろうって一瞬思ったけど、そうだった
私は結夢ちゃんに触れると彼女の女神としての世界の不幸が伝え見えるんだ
それは耐え難いほどの…この世の絶望が詰め込まれている
タキヤと私にしか姿が見えなかった結夢ちゃんだけど、この伝わるコトは私だけでタキヤや今は見えてる光の聖霊や他の人達にはない
ネイルをするってなると必ず手を触れるコトになる
結夢ちゃんはいつもセリくんが自分の肌に直接触れるコトがないよう、長袖に手袋までして気を使ってくれていた
1人で抱えるにはあまりに辛い…コトのハズなのに……
「……大丈夫よ結夢ちゃん、楊蝉に結夢ちゃんのネイルをお願いしてみるから
楊蝉なら絶対オッケーしてくれるし、私とお揃いのネイルにしよ?ねっ?」
私がそう爪を見せて笑うと、結夢ちゃんはまた嬉しいと笑ってくれた
はい可愛い
そんなこんなで私達の女子会は恋バナや美容の話で盛り上がったのだった
次の日、昨日は久しぶりに女の子した気がして楽しかった
光の聖霊との初対面は激しい敵意を抱かれていてずっと嫌われると思ってたけど、なんやかんや仲良くなれて嬉しいし
結夢ちゃんも楽しそうにしてくれてよかった
たまには男子禁制の女の子だけでお喋りってのは良いものよね
さて、今日はと言うと香月が帰るみたいだから一緒に連れて行ってもらおうと思って
ラスティンったらそろそろ食事の時なのに全然来ないんだから
ほとんどはラスティンから私に会いに来てくれるんだけど、あの子たま~に食事のコトを忘れてしまうのよ
とくにキルラの影響で女を知ってからはそっちに気がいってしまいがちなのよね
香月の部屋に行く途中で、小さな音が流れるのに気付く
歩くとその音に近付いてるみたいで少しずつハッキリと聴こえてくる
耳を誘って心までかっさらってしまうような…この音は…
レイの音楽だわ
いつの間にか私はその音に誘われて部屋の前に立っていた
ここは…音楽室?こんな所にあったなんて知らなかったな
死者の国にはまだまだ慣れないから広さに迷子になるコトもあるくらい
私は音楽室の前で少し悩む
私だってレイの音楽は大好きだわ
ずっと聴いていたいくらいね
でも、色々あって私はレイが苦手なのよね
2人っきりになりたくないって思ってしまうくらい…今は……
うーん、でも数日はセリくんがいないからレイがメンヘラをこじらせても後々困るし…
ここは私がレイのメンヘラ度を下げておくのも、私(セリくん)のためになるのかも
それに………セリくんは大悪魔シンのせいでレイを冷静には見れない
私がレイをちゃんと知って、判断するしかない
もしレイが本当に……信頼出来ない男なら……私は自分を助けなくちゃいけないんだから…
私が音楽室の扉を開けると、レイの音楽が止まった
「セリカ?」
私の姿を見たレイの指がピアノから離れて私の傍へと寄る
「1人かい?珍しいな…
セリカはオレを避けていたし…2人っきりじゃ絶対に会ってくれないだろう」
だって怖いもん、嫌なコトする
私は警戒はしている…だけど、レイの寂しいような悲しいような表情が心を引っ張られる
嫌なコトはする……されたけど、レイの気持ちは本物だもんね…
前世のコトは今のレイとは別物と考えなきゃいけないから、それはなるべくマイナスにはしたくない
問題は、メンヘラ化して数々やってきたコトよ
私は忘れたくても忘れられないわ
「会わないわ
でも言ったでしょ、私はレイの音楽のファンなの
続きを聴かせてくれる?」
この言葉にウソはない
私は心からレイの音楽のファンだ
レイの作る音楽は素敵で大好き、めっちゃ私の好み
だから聴きたいの
レイ自身のコトは好きじゃないけど…!!
「セリカが言うなら!!
今弾いていた曲は新しく作ったんだ」
うん、はじめて聴く曲だった
途中からしか聴いてないけど、それだけでも私の好きな感じで思わず足が向いてしまうくらい
「セリがいない間、精神が不安定になってこのままだとオレは何をするかわからないってなっていたんだが」
こえー……すでにメンヘラ暴走一歩手前まで来ていたのか
もうレイは私がどうこう決める関係なく、永遠に逃げるコトが出来ないとまで思わせてくる
そうなるなら大悪魔シンの契約の影響を受けたままのセリくんの方が幸せなんじゃ……
「このままだとセリをまた傷付けてしまうと思って、音楽に没頭する事にしたんだ
2曲は新しく作れそうだよ」
レイが自分の曲を聴いて笑ってくれるセリくんの顔を思い出しながら、爽やかに笑う
さっきまでのメンヘラのヤバい表情はどっか消えてしまうくらい、レイにとってのセリくんは凄い
「この数日で2曲も?凄いわね
でもそれならセリくんはいない方がレイの作曲も捗るんじゃ…」
ぽつりと思ったコトを呟いただけだった
だけど、レイにとってそれは言ってはいけないコト
「セリが傍にいてくれないなら殺して一緒に死ぬ
今回は、数日我慢すればオレの所へ帰って来るとわかっているからだ
このままオレから逃げて帰らないと言うなら、どんな手を使ってでも捜し出してそれでもオレを拒絶するなら一緒に死ぬぞ」
……………。
うん……わかった、よくわかった
大丈夫、絶対帰って来るから…知ってるからそういうの
レイは私の両肩を掴んで重すぎる想いをぶつける
とても怖い顔をして…覚悟が違う……
セリくんのコトで言葉には気を付けよう
「わ、わかったわ落ち着いてレイ
セリくんは帰って来たら1番にレイに顔を見せてくれるわよ」
だって後回しにしたら何するかわかんないもん……
私の言葉にレイは嬉し恥ずかしそうにして私から手を離した
「そうか、そんなにオレと離れて寂しいのか…ふっ」
勝手に幸せな解釈してる…黙っておこう
機嫌を良くしたレイはピアノの前に座って、私にその近くにある椅子に座るように言った
特等席で聴かせてくれると
「完成している1曲目を聴いてくれるかい、セリカ
気に入ってくれる自信があるんだ」
私が頷くと、レイはピアノを弾きながら音魔法で他の楽器も合わせて完成した1曲を聴かせてくれる
………あぁ…レイの曲だ……新しい曲も素敵……私の心に響いてくれる
私はこの人の音楽が本当に大好きだ
今回の曲は全体的に明るい印象を受ける
アイドルのセリくんを意識してる感じが強くあるかな、踊りやすそう
だけど、所々に切なさを感じる所がレイらしい
そこがまた心をグッと掴んでくるんだから…
レイの得意とする作りだね…
曲が終わった時には私は自然と微笑んでいた
また貴方の曲が聴けて嬉しい
「ありがとう、レイの曲はいつも素敵ね
今回の新曲も大好きよ」
パチパチとレイに拍手を贈る
「オレもセリカが好きだ」
「そのギャグ懐かし~まだ飽きてないの?」
昔もそう言って、私はレイの音楽が好きと言っただけなのに
「オレの気持ちはジョークじゃない
セリカの事が好きなんだ
イングヴェィさんと良い感じになっているみたいだが、略奪する気満々だぞ」
「私はセリくんのおまけでしょ
そんな気持ちで私の心を奪えると思わないでね
それじゃあ私は用があるから行くわ
素敵な曲を聴かせてくれてありがとね」
久しぶりにちょっと話しただけで調子に乗らないでと釘をさす
椅子から立ち上がると、レイの手が伸びて私の手を掴んだ
「いつも冷たい手だな」
触らないでと手を振り払うけど、レイは離さない
「セリの冷たい手はオレを受け入れてくれるのに、セリカの手はオレを拒絶する冷たさ
本当はセリもオレを許してはくれていないんだろう…
大悪魔の契約の力がなければ、この手と同じようにただ冷たいだけ……
そうなったら…君を冷たい死体にしなきゃいけなくなる…そうしなきゃ手に入れられない…」
…………ガチの人だ、スゲー怖ぇぞ
でも私、死んでも自分の好きな人以外なんて嫌
「忘れたの?セリくんは私には手を出すなって言ったでしょ」
私の言葉にレイは手を離した
セリくんがいなくてストレスなのかあまり顔色は良くないみたいだけど、ギリギリ自分を抑えられてる
このまま放置してたらまたヤバいコトになりそう
でも、もう帰ってくるから大丈夫かな
和彦もレイがギリギリ耐えられる日数を考えてるわ
「それじゃあね」
私は音楽室を出て行った
だけど
「用があるならオレも付き合うぞ」
すぐに私を追い掛けてレイがついてくる
「香月に用があるの」
「へ…へぇ……そうかい」
その一言で戻ってくれるかと思ったけど、レイはギリギリまでついてくるつもりね
私はそのまま気にせず廊下を歩く
すると、長い廊下の先からこちらに向かって歩く人が目に入った
その人が誰か気付いた瞬間に、私の胸が高鳴る
最初にドキッと大きく跳ねて、その後はずっとドキドキが止まらなくなる
それでも私はなんともない風に歩みを止めない
近付けば近付くほど緊張して…倒れそうなくらい
顔が…熱くなる……
こんなの…恥ずかしすぎて私は通り過ぎようとしたけど
目の前まで来た貴方は私の前で足を止めて名前を呼んでくれる
「セリカちゃん…久しぶりだね」
明るくて、澄んだ綺麗な声が…私の心を貫くよう
「イングヴェィ……そうね、久しぶり」
何も話せなくなる
貴方の前じゃ、私は私じゃないみたい
「和彦くんがいなくて俺が忙しいのもあるんだけど、セリカちゃんの部屋を訪ねてもタイミングが悪くていつも会えなくて残念だった」
イングヴェィは寂しいなって笑う
違うの……私、いつも部屋にいるんだよ
でも、イングヴェィが訪ねてきてくれて嬉しいのに……臆病になって勇気がなくて、いつもいないフリしちゃうの
本当は会いたいけど、会うコトに……逃げてる
「あっそうだ、この前街に買い物に行った時にセリカちゃんに凄く似合うと思って」
そう言ってイングヴェィは私へと手を伸ばす
「プレゼント」
目の前にはイングヴェィの太陽みたいな笑顔と一緒に、白い百合のイヤリングがあった
私はそれから目を逸らしてしまう
………受け…取れないよ…
私は百合の花が大好きだけど、白い百合の花言葉は…私には……相応しくないもん…
イングヴェィからのプレゼントはなんだって嬉しいハズなのに……
それは私には似合わないよ
受け取れず何も言えない私に、イングヴェィは私の手を掴んで百合のイヤリングを渡してくれる
「もっとセリカちゃんと一緒にいたいけどごめんね、そろそろ行かないと
また会いに行くよ」
またねとイングヴェィは笑顔で私の横を通り過ぎて行った
………何も言えなかった…お礼も言えてない……
それだけじゃない、私は…イングヴェィと目も合わせられなかった……
臆病で情けない私…
「その白い百合のイヤリング、オレもセリカにとても似合うと思う」
「………そう…」
レイの言葉に私は濁した返事をする
2人とも白い百合の花言葉を知らないんだわ
知ったらきっと何も言えなくなる…
そしたら、私は自分がどんなに穢らわしい人間か思い知らされる
好きな人にそんな目で見られたくない…知られたくない…
でも…もうイングヴェィは知っているんだ
「はぁ…嫌になるな
見てわかるくらいセリカがイングヴェィの事を好きってのは
でも、何か違和感があるような」
レイは私を見下ろしてじっと見るが、私はレイの視線も逸らしてしまう
「セリが香月さんを好きなのと、何か足りないと言うか…
セリカは女の子だからセリとは違った女の子らしい優しさや穏やかさもある
…それが嘘に見えるとかでもないんだが、たまにセリカが怖いと感じる時があるんだ」
私が怖いか…それはセリくんが甘すぎるだけでしょ
レイはセリくんをよくわかっていた…だから、私のコトだって見抜いてしまう
100年もストーカーしていたんだ
「あぁ…そうか…オレがセリと違ってセリカに感じているのは
誰にも心を開いていない
認めたくはないが、セリカが好きなあのイングヴェさんにすらな
セリとセリカは男と女の違いだけじゃない
セリは警戒心が強く疑い深い所もあるが、好意がある相手には心を開いている
甘すぎる部分もあるから簡単に騙されたりする時もあるが、セリカにはそれがない
例え、好意を持っていても心を開かないだろう」
レイに…自分じゃない誰かに言われて、私はずっと気付かない振りをしていたのに…
私は私をよく知っていた
セリくんと私は文字通りの一心同体、自分自身
セリくんは私だ、セリカは俺だ
違いは性別が男か女かだけ
なのに…なんで
その他に違いがあるかなんて……
当たり前のコトだよ
自分なのだから同じ運命を持っているのに、何が違ったか…
今まで生きてきた世界
人は…環境で変わるコトもある
セリくんも私も、同じような運命に苦しめられてきたわ…
でもね……セリくんには、香月と言う存在がいた
何度も生まれ変わる運命の最初はそうでもなかったと知っている
だけど、何度も生まれ変わる途中で香月の存在は自分を変えるほど大きかった
それがたった一時…短い間だったとしても、セリくんは香月と一緒になれて幸せを知っているの
愛されるコトも、恋をするコトも、セリくんは知ってる
心の開き方も…考えなくても当たり前のようにそれができる
私は…私はそうじゃない……
私には、香月のような存在がいなかった
セリくんと同じ永遠とも感じる苦痛の年月を1人で……
前世の宿で全ての前世の記憶が復活して、私はそれに気付いた
気付いたけど、自分が自分と違うコトを考えないようにしていたの
セリくんが私の世界で生きてたら、同じようになってたよ
たまたまだ…たまたま、その世界がセリくんであの世界が私だっただけ……
私だって……こんな自分嫌だよ…
あの世界から解放されたハズなのに、いつまでも…苦しんだまま
普通に恋がしたかった…
女の子でいたかった…
何も苦しむコトなく…笑っていたかった…
ずっと幸せになりたいと願っているのに
生きてるだけで、もう無理なのかと絶望に思う
「……セリカ…」
「いえ…レイの言ったコトは本当だもの
自分でもわかってる」
でも、どうしようもない
どうにかなるなら苦労しないわよね…
セリくんはほんの少し運が良かった
たったそれだけの違い
もっと早くにイングヴェィと出逢えていたら…私だって……
こんな私…イングヴェィに相応しくないでしょ
だから…いつも、会う勇気がないのよ
イングヴェィは全てを受け入れてくれるって知ってても
私の心も体も動けなくなってる
「セリカ、辛いなら」
「私もそろそろ行くわ
レイ、私のコトはセリくんに内緒よ」
「……セリには言わないさ…
でも、オレには…頼ってくれたら嬉しい」
手の中にある百合のイヤリングを握り締めて
私はレイと分かれて香月の部屋へと向かった
香月にラスティンの話をして、一緒に連れて帰ってくれるコトになった
帰りはラスティンに送ってもらうわ
「イングヴェィと一緒ではないのですね」
「ん?えっ…?そんな、私達ずっと一緒にいるワケじゃないよ!?」
珍しく香月がそんなコト聞いてくるなんて、急だからビックリする
それに……イングヴェィとは…私が避けてしまってる
何度も何度もイングヴェィは私に向き合ってくれるのに…
少しずつしか私は距離を詰められない、いや逆に距離が開いてるかもしれない…
「そうですね、私も常にセリと一緒にいるわけではありませんし」
香月は、相変わらず表情も読めないけど
その言葉が出るってコトは…
「香月はセリくんとずっと一緒がいいの?」
死者の国の外に続く道を歩いていた私達、隣にいる香月を見上げる
私は香月からその答えを…聞くコトが出来なかった
「このインチキ野郎!!」
近くで大きな声が上がり周りの音をかき消す
国のはずれに人は少ないとは言え、そこへ注目してしまう
目に映ったのは簡易なテントに手書きの看板がある
フィオーラの館……
その下でフィオーラはカップルを怒らせていた
「相性最悪すぐ別れるですって!?信じられない!!
二度と来ないわ!!こんなインチキ占い師の店!!」
カップルの彼女の方がかなりお怒りで顔を真っ赤にして彼氏を引っ張って行った
占い師…?フィオーラが?オマエ、神だろ美と愛の
「やぁセリカ様に香月様」
私を見つけたフィオーラは何事もなかったかのような笑顔で手を振ってきた
「こんな所で何やってるのよ」
フィオーラの近くへ寄ると、占い師らしく水晶玉やらタロットカードやらが目の前に広げられている
「占い師やって稼いでるんだねぇ」
「お金ないんか…」
「僕は生死の神和彦様のように国を持っていないからねぇ
たまにこうして人間の振りをしてお金を稼ぐってわけね」
人間の振りって見た目変わってないけど…
「女神セレンは無職だけど、僕はお金はないけど一応ちゃんと神やってるからね」
「前々から思ってたけど、和彦は様付けでセレンと結夢ちゃんには様なしなんだ
なんで?和彦が恐いから?」
「ははは和彦様が恐いのは確かだけど、生死の神は僕より位が高いからね
女神セレンは無職、女神結夢は守護の力は位の高い神より強いけど
あの性格だから周りの神から低く見られてるわけね」
ふーん、位の話なんて初耳だわ
和彦と生死の神騒動の時は他の位の高い神は出て来なかったってコト?
他の神様ってどんな方達なのかしら…和彦は上手くやっていけるのかな
心配だな…
「ところで、このフィオーラの館
こんな国のはずれで隠れるように開いて、和彦に許可は取ったの?」
「…………。」
フィオーラはニコニコ笑顔で乗り切ろうとしてきた
無許可で占いの商売してんのか!?
「セリカ様も占ってあげようかね?無料でね」
「えっホント!?」
「なので、和彦様には内緒で…」
「いいわよ!」
女の子ってなんやかんや占いとか好きなのよね、うふふ
それに和彦もこんなコトくらいで怒んないわよ、悪いコトしなきゃ怒らないわ
「それでは、セリカ様と僕の相性を」
「占わなくてもわかるわよ、最低最悪でしょ」
「本当に最低最悪って出た…ね…」
目に見えてショックを受けるフィオーラ
いや、凄い
愛の神に誓って嘘偽りしないところが尊敬する
「はぁ…どなたとの相性を占いたいのかね?」
ショックを引きずりながらもフィオーラは口止めのために占いを続ける
「えっ?えっ?誰とって……」
急に恥ずかしくなる…誰とって……そりゃ好きな人との相性を知りたい…
けど、恥ずかしくて……
「あっじゃあ香月とセリくんの相性占いを」
私は意気地なくて、隣にいた香月の腕を掴んで言ってしまった…
「香月様とセリ様は運命で結ばれてるね、何度生まれ変わっても必ず結ばれるねぇ
ちっ、どうでもいいわこんな最強の結果」
自分が最悪な結果が出たコトで、他人の良い結果に悪態をつく
「だよね!?だよね!!だよーねー!!
香月とずっと一緒だって、めっちゃ嬉しい!!」
私は思わず香月に抱き付く、香月も私の髪を撫でてくれる
「他に占いたければ」
1回だけと思ってたらフィオーラはまた聞いてくれる
じゃあ今度こそ、私と好きな人の…
「和彦とセリくんの相性が知りたいわ」
だから…なんで言えないのよ!?
いや知りたいよ!?和彦との相性も!!
でも……今はそうじゃなくて…
「和彦様ね、2人の相性は最高
運命で結ばれてはいないが、和彦様が全てに置いて強すぎてどうにでもなる
何があっても切れない縁ではありますね
ちっ、どうでもいいわこんなムカつく結果」
「そっか、そっか…そっかー!!」
うんうん、嬉しさが顔に溢れ出る
愛の神から約束されたようなもん、安心感しかない
だからこそなのかもしれない…
私が聞く勇気がないのは…
もし、愛の神に…悪い結果を言われてしまったら………死んじゃうよ……
「他に占いたい?」
「まだいいの?じゃあ…レイとセリくん」
さっきまで浮かれてたけど、2人の相性は聞いておきたい
セリくんは大悪魔の契約の力でレイを好きになっている
本当はどうなのか…
「レイとセリ様ねぇ…
相性は悪くないね、むしろ良い方
でも、セリ様が苦労すると出てる
心当たりある?」
心当たりしかねぇぞ…
レイのこじらせたメンヘラには手を焼いてる
フィオーラの占い、ちゃんと当たってるわ!!
「心当たりがあるって顔だね
心配ない、セリ様がレイをちゃんと受け入れる事が出来れば
他の2人に負けないくらいの良縁だね
はぁ?何この1人で贅沢で羨ましいくらいの結果の数々
泥沼のぐちゃぐちゃになって別れればいいのに!!!」
「やめろ!!愛の神が別れろとか最低か!?」
「僕は愛の神だから不正な力は使えませんけど!?ただの僕個人の妬みなだけでね!?」
「でも相手全員男だよ?フィオーラは男3人から好かれて羨ましいの?」
「………急に心が穏やかになって何も羨ましい事なんてなかったね」
愛の神がみっともなく嫉妬で狂ってたけど、落ち着いてくれてよかったわ
愛の神だから愛の前では平等だけど、男のフィオーラ自身は恋愛対象は女
レイのコトは悪い結果ではなかったけど…
セリくんがちゃんとレイを受け入れれば、か…
「それで、セリカ様が占いたい人は?」
「えっ私?」
考え事をしていたからフィオーラに言われて顔が上がる
私が占いたい…人……は
「ううん……いいわ、占いはこれでおしまい」
やっぱり聞くのが怖いから…
「セリカ様、臆病になってるね
そんなセリカ様にこれを」
フィオーラはテーブルの下から可愛いピンク色のブレスレットを取り出した
「これは恋愛のお守りで100%成就する
1つ5万、如何かね?」
「さっき愛の神は不正な力は使えないとか言っておいて、急に不正な力で100%とか言い出すのな!?」
「違いますって!それは誤解!!
このお守りを売るのは結ばれる未来が決まってる客にしか売らないね
だから僕の力とか嘘とかでもなく、客の背中を押してるに過ぎないねぇ」
「フィオーラって良い奴だったんだ…
真面目に愛の神やってる…」
「そうそう僕って良い奴
客が金持ってそうだったら100万くらいで売る事もあるね」
「急にやらしい奴になるじゃん」
「女の子とデートするのにお金かかるからねぇ…僕は婚活中なんでね」
愛の神が婚活中って……
「フィオーラ自身を占ったらいいじゃない?」
「って思うよね?気になる女の子と相性が良いと出ても後からその子にもっと相性が良い人が現れたらくっつく前からそれにもいち早く気付いてしまって結局…
そうして駄目になった恋愛は100は軽く越えてるねぇ…」
僕の場合、相性50を超えた事がない…セリ様の満点揃いの方が珍しい
とフィオーラはため息つく
運命の相手はわからないの?って聞くと、セリくんのように出会ってはじめてお互いが運命で結ばれているかどうかわかるみたい
神様だからと万能ではないと言う
辛い…フィオーラの涙が、もらい泣きしそうになる
そらセリくんのパーフェクトな結果ばっか見せられたら狂うわ…
「諦めないでフィオーラ!オマエは良い奴よ
変だけど
だからいつかきっとフィオーラにも運命の人が現れるわ」
ガンバ!と私はフィオーラを元気付ける
それにフィオーラの気持ちも、私にはわかるような気がする
私もイングヴェィに会うまでは……
って!イングヴェィとの相性占ってないからわかんないけど!!でも……占わなくてもわかる
だから、私みたいに永遠の先に出逢うコトだってあるわ
大丈夫よ、フィオーラ
「それならセリカ様が付き合っ」
「無理だけど?」
食い気味に断る
フィオーラの笑顔が固まったままになった
そんな時、天使の明るい声が聞こえた
「セリカちゃん」
振り向くと天使はそのまま私に抱き付いた
「光の聖霊から聞いたよ
俺がお昼寝中に香月と帰るって酷い!!」
「起こすのが可哀想と思って、ごめんね」
「早く帰ってきてね!」
天使は私の顔が見れて満足と笑うと少し離れた場所で待っていた結夢ちゃんの所へと帰る
2人が手を振って姿が見えなくなると、フィオーラが口を開いた
「あの2人最近仲良しだね」
「そうね、結夢ちゃんは優しいから天使はよく懐いてるわ」
「僕は女神結夢の事が気に入ってるからあの2人の相性を占った事があるんだよねぇ」
フィオーラは複雑な顔をする
結夢ちゃんのコトを気に入ってるとは言っても、恋愛としてじゃない
フィオーラは結夢ちゃんの愛を気に入ってると前に言っていた
つまり、その複雑な顔は結果が良くないとか?
「天使と女神結夢の相性はとても良い」
「えっ!?そうなの!?」
良い結果を聞いて私の顔がパッと明るくなる
なんだ結果は悪くないんじゃない
「天使が成長して大人になれば、自然と結ばれるくらい相性が良い」
「きゃ~何々それ、素敵ね
あのいつまでも子供な天使もいつか大人になって…」
今は2人ともそんなコトないかもしれないけど、いつまでも結夢ちゃんが叶わないセリくんに恋をしてるのも見てて辛かったから
2人が幸せになれるなら私は応援するよ
だけど、やっぱりフィオーラは浮かない顔で続ける
「と、良い結果は出たんだけどねぇ
残念だけどそれは叶わないかもしれないね」
「…どういうコト?」
「天使は大人になれないからね、成長出来ないんだよねぇ
天使はセリ様と同じ15歳くらいの姿をしていても、中身はもっと幼い子供のまま」
「セリくんあれでも23歳だよ」
「そうなの!?セリ様もセリカ様もかなり若く見えるんだねぇ」
18歳のレイからも最初は年下だと思われてたみたいだし、この世界じゃこの見た目はそれくらいに見えてしまうのか…
「実年齢は9歳の子供だがもっと幼く感じる
10年経っても20年経っても大人になれない存在なんだよねぇあの子は」
「そうなんだ…確かに天使は幼い子供のように見えるけど(中身が)」
「女神結夢は今の天使を子供としか思っていないし、天使も女神結夢を優しくて可愛いお姉さんと思ってるね
天使が成長しなければ、ずっとそのままの関係
叶わない初恋も終わらず…その愛は切ないまま」
フィオーラの浮かない顔の意味がわかる
結夢ちゃんのコトを心配していてくれたから、フィオーラは良い結果が出てもこの先も変わらない関係にため息すら付いてしまう
「……フィオーラは心配してるのね、その愛の行方を…
でも、天使と結夢ちゃんがどう思ってるかなんて私達にはわからないコトよ
このままでも幸せなのかもしれないし、もしかしたら天使だって成長して大人になるコトもあるかもしれないわ
私達は見守るしかないけど、フィオーラはそんな顔しないで
結夢ちゃんは優しいからフィオーラが自分のコトで浮かない顔させたり心配かけさせてるなんて、悲しむわよ」
「はは確かに、僕は愛の神だからそれを見守るのも愛の神としての役目だねぇ
セリカ様の言う通り僕は2人の幸せを見守る事にするよ、ありがとう」
フィオーラの曇っていた表情が晴れていく
フィオーラにとって愛は特別なものなんだな
だから、厳しく別れを言い放つ時もあれば全力で背中を押すんだ
ちゃんと神様なんだね
フィオーラの許可なし占いの館を見逃して、香月と私は魔王城へと向かった
その道中のコト
香月と2人っきりって緊張するな、セリくんの影響なんだろうけど
でも、イングヴェィの時よりは普通に喋れたりする
「そんな感じで女子会楽しかったよ」
まぁほとんど私が1人で喋ってるんだけどね
それは、香月がちゃんと聞いてくれるから嬉しくてついついお喋りになる
「セリカ、手に隠しているものは」
えっ…!?香月に言われてドキッとしてしまう
不自然にずっと握っていたコトに香月は気付いていた
「な、なんでもないわよ」
って言ってるのに、香月は私の手を掴むと強引に手のひらを開ける
やめて~!!勇者の力で抵抗したけど、負けた…
勇者の力は魔族を殺せる力があって強いけど、魔王を圧倒するほどの力じゃない
力だけでぶつかったら勇者の方が負けるのよね
「イングヴェィからのプレゼントですか?」
「はっ!?何でわかるの!?」
「大事に持っているので」
さすが香月、私のコトならなんでもお通しね
って香月は誰でもわかるだろって顔してる
「じっとしててください」
そう言って香月は私の手から白い百合のイヤリングを手に取ると、私の耳へと付けてくれる
両耳に感じる軽い重みに、私はどんな顔をしていいかわからなかった
「とても似合っていますよ」
「………香月まで……」
似合ってなんか……
私は耳に、イヤリングに触れて
「可愛い、綺麗、似合う、ずっと見ていたい」
「………えっ…?えぇ……!?香月が可愛いなんて……そんなコト言う人だった!?」
急に褒められて私は恥ずかしくなって顔を赤くする
あの香月の口から可愛いなんて浮いた言葉が出るなんて……偽者なんじゃ…
なんでも疑ってしまう
「セリがいつもセリカを褒める時に使っている言葉です」
「あっ…そう、じゃあ香月の本心じゃないのね、えーもうアハハ」
お世辞なんてらしくないじゃん
ときめいたじゃない、香月は私の理想だから褒められたら照れるぞ
「私が今のセリカを見て、その言葉が相応しいと思ったので」
「…………。」
じゃあ…本心で…?そっちの方が、やっぱり照れるわ…
魔王の香月には感情がない
でも、セリくんへの愛情だけはあって
そこから私に対して可愛いと…綺麗と…似合ってると…
心から言ってくれてるんだ
イングヴェィに…レイに…香月に、言われて…私は鏡を取り出して自分の顔を覗かせた
耳にある白い百合のイヤリングに触れて
「………本当だ…自分でも…とても似合ってるって…思っちゃった……」
もうそのイヤリングを隠そうと思わなかった
外したくなかった……
花言葉が私に相応しくなくても……
気にならないくらい…みんなの言う通りそれは私にとても似合っていた
香月は私の頭を優しく撫でてくれる
「イングヴェィに見せてあげなさい」
「うん…帰ったら、真っ先にイングヴェィ
に…見てもらいたい」
勇気が出ればの話…臆病なのは変わらないけど
イングヴェィに私を見てほしい
そして、ちゃんとありがとうって言いたいから
「私もセリに会いたくなりました」
「ふふ、もうすぐ帰ってくるからセリくんも香月に会いたいよ」
香月は表情にあまり変化がなくて、そこから読み取るのは難しかったりする
でも、さっきの私の言葉に微かに微かにでわかりづらいけど!嬉しそうだと感じた
だから私も嬉しかった
そして、ご機嫌で私は魔王城へとやってきた
楊蝉に結夢ちゃんのネイルをお願いしたら快く受けてくれて、今度時間が合う時に来てくれると約束してくれた
「その白い百合のイヤリング、とてもセリカ様にお似合いですわ」
私はすぐに帰るつもりだったけど、楊蝉が私の爪が伸びてるからと新しくネイルをしてくれる
ネイルを整えながら楊蝉は私のイヤリングを見て褒めてくれた
「ありがとう楊蝉」
「真っ赤なネイルをご希望でしたが、今日はそのイヤリングに似合うお色にしません事?
せっかくですもの、白のネイルにしましょう
白でも色々ありまして、セリカ様ならパールホワイトがとても良くお似合いになりますわね」
私は楊蝉のセンスを信頼しているから、お任せする
暫くしてネイルが完成すると、めちゃくちゃ可愛かった
「可愛い~!!満足だわ、本当にありがとう楊蝉」
私は光に当たるとほんのりキラキラするパールがとても気に入った
「そのネイルでそのイヤリングをプレゼントしてくれた素敵な殿方に会いに行ってくださいな」
「えっなんでプレゼントってわかるの!?」
「わかりますわ、セリカ様の顔を見れば」
楊蝉の優しい微笑みは、私を大切な友達と思ってくれてるのがわかる
きっと楊蝉なら白い百合の花言葉も知っているわ…
それでも、私に似合うと言ってくれてプレゼントしてくれた相手を素敵と言ってくれる
「次の女子会ではセリカ様のお話を聞かせてくださいませね
いつも隠すんですもの」
私は、楊蝉のコト大好きよ
でも楊蝉にだって私は心を開けてないんだね…
いつか…心を開いてなんでも話せたら…いいのにな
楊蝉と次に会う約束をして、私はラスティンを訪ねた
楊蝉が言うには今の時間は部屋にいるみたい
ラスティンの部屋のドアをノックして返事があってから開く
「あれ?女の子かと思ったらセリカじゃん」
数人の女をはべらせていた
このままドアを閉めて見なかったコトにしたかったけど、ラスティンが食事を面倒くさがって人を襲うようになる方が困るわ…
「私も一応女の子なんだけどな?」
部屋に入ると魔族の女の子達が道を空けてくれる
うーん…しかし、前にも見た光景なのよね
「セリカは女の子じゃない、僕にとっては食べ物」
「そうね」
私はいつものように自分の腕を切り落としてラスティンに与える
これで1週間は生きれるわ
ラスティンは神獣の白虎だったんだけど、昔の罪で人間を食べないと生きられない身体になってしまった
そこで私は他の人間が殺されて食べられないように、定期的にラスティンに私の人間の肉を食べさせてあげている
ラスティン自身も人間を殺したくないと言っていたから、でも今はわからないわ…
魔族と一緒にいすぎて人間を殺すコトに抵抗もなくなったように感じる
白虎のパパさんも心配しているからラスティンに人間を殺してほしくないのに
そして私はラスティンの部屋にある冷凍庫に自分の腕を入るだけ入れておく
そんなに大きな冷凍庫じゃないから4本くらいかしら、これで1ヶ月は持つわ
の、はずなのに…1本食べずに残ってる
それなのに生きてるってコトはやっぱりそうなのかもしれないわね…
……あれ?よく見ると、ここにいるハーレムの女の子達って…ラナが囲ってた羊っぽい魔族じゃない
確かにキルラとツルむようになってからラスティンはラナっぽくなったわ
だからかしら、囲ってる女達も同じになってしまう
「私は帰るわ」
私が部屋を出ようとすると
「送る、セリカ」
ラスティンは立ち上がって囲んでいる女の子達に待てをする
「いいわよ、女の子達が待ってるわ」
「この可愛い子猫ちゃん達は僕が待てと言ったらいつまでも待てる」
こねこ…子猫ちゃん!?やべぇおもしれぇコイツ!!!
いや羊だしな
子猫はむしろラスティンの方だろ、白虎の中でもまだまだ若いみたいだし
そして、ラスティンは遠慮する私を強引に送ってくれるコトになった
「セリカごめん、僕がセリカの所へ行かなきゃならないのに」
「たまに忘れるのもラスティンらしいわ」
「くっ、女の子達に可愛い我が儘を言われるとどうしてもそっちを優先してしまって…」
「食欲より性欲ってコトかい」
たまに忘れるのはラスティンがぼけっとした性格だからって意味で言ったのに、女を知ったらすっかり色狂いね
「でも、食事はちゃんとしなきゃラスティンにとっては命取りなのよ」
「わかってるよセリカ、パパみたい」
はいはい、久しぶりにラスティンからパパって聞いたわ
この前は親父とかカッコ付けて言ってたもんね
久しぶりにラスティンと会話をする
変わったけれど、ラスティンらしい一面も残っていて安心するな
そんな帰り道を私達の前から人がやってくる
ただの旅人だろうと思って気にしていなかった
よくあるコトだったから
でも、その人は通り過ぎに短剣を引き抜いて私を突き刺した
「セリカ危ない!?」
けど、それに気付いたラスティンが私を引っ張ってくれて怪しい旅人の短剣は私の腕に触れて掠り傷で終わる
「まぁビックリしたわ」
「あまり驚いてないみたいだよセリカ…」
もちろんよ、だって私には回復魔法があるのよ
短剣で刺されたくらいじゃそんな
「おいあんた!いきなり何してってこらぁ逃がすか!!?」
ラスティンは逃げ出す怪しい旅人を追い掛ける
私はそれより、自分の腕に小さな痛みが走るコトに気を取られた
なんてコト…?回復魔法が効かない…?
どうして!?回復魔法が使えなくなってる!?
ウソ……
ショックで動けなくなる
回復魔法が使えないってコトは…私は…さっきラスティンに助けてもらえなかったら、大怪我をしていたかも
下手すれば死んでいたわ
この状況はマズい……
「ちっ…セリカ大丈夫?」
ラスティンはすぐに戻ってきて私を心配してくれた
「さっきの人は逃げたの?」
腕を押さえて聞くと、ラスティンはすぐに察した
「いや、捕まえたと思ったら自ら命を絶って…何者かわからなかった…
セリカに怪我をさせようなんて許せない
それよりセリカ、様子がおかしいけど」
私が隠すように腕を押さえる手をラスティンは掴んで離した
塞がらない傷口を見てラスティンは眉を寄せる
「回復魔法は…」
「使えないのよ、どうしてかわからない
さっきラスティンに腕をあげた時までは使えていたのに」
一体私に何が…もしかしてセリくんに何かあった?
それなら私に伝わるハズ…何かあった感じはしないわ
だから余計に混乱する
ラスティンはハンカチを取り出して私の傷口に巻いてくれた
「急いで帰ろう、僕じゃセリカを十分に守れる自信がない
和彦さんに…かず…ひこさんんんににに」
和彦の名前を口にするとラスティンはプルプルと震え出した
まだ恐いみたいね
「僕が和彦さんに…セリカを届けるから!!」
ラスティンは和彦が大の苦手で恐がってる
でも、私を守るために強い人の所へってラスティンは頑張ってくれてるんだ
ラスティンは変わったわ…でも、変わらない所もある
やっぱりラスティンはラスティンなんだね
その変わらない優しさに私は安心した
私が魔王城に行ってる間に和彦もセリくんも帰ってるハズだから
回復魔法が使えないコトを早く解決しなきゃ
このままだと、あっさり死んでしまうわ
まだ死ぬワケにはいかないの
だから…私には必要な魔法
ずっと頼りにしてきた
これからだって私とみんなを守って助けてほしいの
ずっと古い前世から、はじめから私と共にあった大切な魔法…
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