第28話『「金(即答)」→喧嘩した』セリ編
そして、窓から差し込む太陽の光が朝を知らせるとネクストが俺達を呼びに部屋へとやってくる
「セリ様、レイ様おはようございます!!
上原ラブリープリプリキューティーネクストです!!!」
「………俺、超低血圧で朝は機嫌が悪いから続きの名前で笑かすなよ!!!」
ネクストが来る前に起きて顔も洗って着替えも済ませていたケド、どうも朝は暫く辛い…
プリプリってエビかよ
しかも名前まだ続くんですか?
「まぁおはよう、朝から元気だなネクスト
レイもだけどさ」
レイはあの時間に寝たのに俺より早く起きて、鍛練や弓の手入れまで終わってる
常に爽やか
「朝食が終わりましたら別室へと案内させてもらいますね
そこでセレン様から大事な大事なお話があります!」
「大事な話の1つがどうせ腐ってんだろ」
「正解です
勇者様ともなると何でもお見通しなんですね」
バカ言ってんな
ネクストは感心してでは後ほどと言って部屋を出ていった
そうして、レイと俺は出来立てで温かくて美味しい朝食を食べてからセレンの待つ部屋へと案内された
昨日の謁見の間と違って、ちょっとしたお客様を持て成すような応接室だ
白を基準にした内装は気分が晴れやかになるような感じ
フカフカのソファにレイと俺は座らされた
「それで、昨夜はレイ様と…」
「おいこら待てよ!?会って最初の一言目がいきなりそれかよ!?」
本当に女神のように慈愛溢れた微笑みをするのに、脳内がダメすぎてもはや詐欺じゃねぇか
オマエが期待するようなコトは
「な・ん・に・も・ね・ぇ・よ・?」
俺は満面の笑みで返した
「あらあらまぁまぁ残念ですわ~
これから先も長いのでゆっくり仲を深めていくのがよろしいですわねオホホホホ」
この腐れ女神が!!!
あったとしても、そういうコトを他人にペラペラ喋るかよ
まっ普通の女って生き物は恋バナとかが好きだから、自分の話も他人の話もペラペラ喋ったり聞いたりするのかもな
セレンは残念残念と眉を下げて頬を染めながら笑っているが、たぶんコイツの脳内ではいつかレイと俺がそうなる予定の妄想であってそれを期待してる…ような気がする
言ってやるよ
目の前の神様に誓って、レイとはねぇからな!!
「では、セリ様に大切なお話をさせて頂きますわね」
急に真剣な切り替わりに俺はちょっと身構える
セレンが目の前のテーブルに今にも朽ち果てるような1冊の古い本を置いた
「この書物には貴方様の事が記されておりますの」
崩れないように俺はそっと本を手に取りページを開く
俺のいた世界の文字で書かれてる…
でも、読み進めていくと世界はまったく似ても似つかない違う世界だとわかった
「生まれ変わる度に記憶を失うセリ様にはこの書物を読むだけである程度は自分が何者であるかがわかるでしょう」
えっ俺文字読むのめっちゃ嫌いだから、頑張って5行くらい読んでもう投げ出したいんだケド
チラッとセレンを見て、横にいるレイにも目を向ける
………投げ出せる雰囲気じゃねぇ……
仕方ない…読むか
それに自分のコトなら興味がある
文字を読む苦痛も少しは和らぐもんだ
え~っと何々、勇者は世界を征服する魔王を倒して世界を救う存在
王道だな
自分のコトが書かれていると聞かされて読んでいるが、ハッキリ言ってこんな記憶のない俺からしたら他人事のようだ
あっちなみにレイが俺のいた世界の文字が読めないからこの勇者の書物は一応音読してるよ
「勇者の容姿は何度生まれ変わっても変わるコトなく、誰がいつの時代に見ても勇者だと認識できる
肌が綺麗で色が白く細く小柄な人間
髪の色は黒なのに光に当たると茶色っぽく見える…」
以下ずっと俺の容姿について書かれていて挿絵まであった
めちゃくちゃ俺にソックリでうますぎる絵に褒める意味で引いた
なんか俺が本に乗ってるとか恥ずかしいんだケド
「綺麗な人って書いてるケド、当たり前だろが俺を誰だと思ってんだよ」
勇者は人間でも、神が創った大勢の人間の1人ではなく天が創ったたった1人の人間だと書かれている
その為、神が創った人間と違い子供を作るコトができず子孫を残せない
へー知らなかったー
産まれてくる時は適当に神の創った人間の子として産まれてくる
適当なのそこ!?
短命であり、勇者の力は魔族と魔物のみに強くそれ以外には見た目通りの非力さで弱い
回復魔法と炎魔法と天魔法が使える
とくに回復魔法はチートレベル
天魔法はこの勇者のみにしか使えない魔法の為、その詳細は不明
勇者の剣があるとさらに強くなる
低級魔物や動物くらいだと無意識の魅了の力で結構懐かれる
妙な魅力があり、よく変なコトに巻き込まれている
どの時代にも勇者に仲間はいなかった
こんな感じで書物のはじまりは勇者がどんな人物だったかが書かれている
まぁもう俺の話はいいよ
勇者がどんな人生を送ってきたのか知りたいな
「人間の勇者は生まれ変わる度に記憶をなくしてしまうが、魔族の魔王は生まれ変わっても記憶を保てる
いつからか魔王は…あっ?」
「うふふふふ」
気になる所はこれからなのに、セレンが俺から書物を取り上げる
「まだ半分も読んでねぇぞ」
「勇者様がどんな人だったかはもう充分にわかったでしょう」
セレンは書物を天使に渡して天使は部屋を出て行く
俺の目に触れさせたくない何かがあの後に書かれていますよと言ってるようなもんだ
「まぁ、なんとなく
とにかく勇者っぽくなってさっさと魔王を倒せってコトだろ」
回復魔法は使えるようになっているから、後は炎魔法と天魔法と勇者の剣か?
「そうですわ!
これはセリ様にしかできない事なんですの」
確かに書いていたよ
魔王は勇者以外には誰にも倒せないって
だから、勇者が魔王を倒すのは当たり前むしろ使命絶対やれってコトが何回も書かれて強調されてた
魔王…と聞いて、俺は香月のコトを思い出す
アイツは俺に対して敵意がなかった
それなのに香月と戦えって言うのか
いや敵意があるとかないとかじゃなくて、あれに勝てるなんて絶対無理だろ!?
目の前にいるだけですでに恐怖なんだもん
勇者だからって恐いもんは恐ぇよ
ただ倒す殺す消滅させるコトができるってだけで、魔王より強いってワケじゃないんだろ
じゃあ無理だろ
俺があんまり乗り気じゃない顔をしているとセレンは説得モードへと入る
「セリ様はまだあの魔王の恐ろしさがおわかりではないのですわ!!!
魔王は世界の片っ端から支配しようと、どれだけ沢山の人々が傷付き殺され不幸になっているか…」
その後、セレンは魔王のヤバさについて6時間くらい必死に語る
俺は5分くらいしてレイの膝を枕にして寝た
昨日変な時間に寝たから眠いし
俺は見てないし知らないから香月の酷さはわからない
会って恐い人だって感じただけで
だから…今俺に戦う気がなくても、香月を知ったら戦うと決意したりするんだろうか……
「もうセリ様!レイ様とイチャつくのは構いませんが、ちゃんと聞いてくださいましたの!?」
「ハッ…うん、めっちゃ聞いてた」
セレンの怒鳴り声で起きあくびをしながら平気でウソついた
後でレイに聞こっと…と顔を上げたらレイも腕組んで寝てた
あっ、まいっか
部屋の時計を見るとなんだよもう夕方じゃん
話長すぎだろ
「そういう事ですので、セリ様にも魔族との戦いにお力を貸して頂ければと思いお願い致しますわ」
「気が向いたらね」
キルラ(一方的)以外とまだちゃんと戦ったコトないし
何よりめんどくさいコト大嫌いなんだよな俺
「もうっ世界を救うのが勇者様の宿命ではございませんか!」
セレンは人間を守りたいって気持ちから必死にもなるんだろうが、俺は他人なんてどうでもいい
人間なんて救うも守るも助ける価値もないのに…
俺自身も含めて………
前の世界で早くこんな世界が自分が消えてしまえばいいとまで思っていた
そんな俺が人間を救う為に世界を平和にする為に戦う?
バカ言うなよな
でも、俺はそう思っているのに反するコトもある
誰かを助けたいと思う時もあるのさ…
矛盾してるのは、本当に俺が勇者と言うならその運命のせいなのかもしれない
だから俺はいつも気まぐれで行動するだけだよ
こうしてセレンに頼まれたって俺は俺のままに…
「むむむ~…はっ!?
では、こう致しましょう
一月100万のお給料と、今お使いの部屋はこれから好きに使ってくださって構いませんわ
家賃や光熱費などもお気になさらずに」
なんだと…給料1ヶ月100万で家賃いらない光熱費とかもタダだって言うのか!?
あの広くて綺麗で住み心地の良い部屋を!?
「さらに!敵の討伐数に応じてお給料も増しましょう
朝昼夜3食とおやつ付きに、ほしいものは相談の末にご用意致しますわ!
もちろんレイ様にも」
「やります
魔王だろうがなんだろうが根絶やしにしてやります」お金の為に
金に目が眩んだ俺は迷わずにソファから立ち上がりセレンと交渉成立の握手を交わす
こんな良い条件受ける以外ないだろ!!
人間の為って言われたらえーってなっても、金やるって言われたら喜んで!
「ちょって待ってくれ、セリ
よく考えるんだ
セリが勇者で魔族や魔物に対して強いって事はわかったが、危険である事には変わりないんだろう?
オレは反対だな
どうしてセリが人間の為に危険に身を置かなければならないんだ」
「いやいやレイこそよく考えろよ
1ヶ月で100万だぞ100万
あの部屋だってタダでいいって言ってくれてるんだし」
「馬鹿言うな
セリは金の為なら何だってすると言うのかい?」
な、なんだよレイの奴…
いつもと違ってめっちゃ怒ってないか
レイが怒るなんてはじめてかも…
でも、なんか言い方がムカついてムッとする
「オマエには貧乏人の苦労なんてわかんねぇんだよ!?金はあればあるほどいいんだからな!!
別に善良な人を抹殺するみたいな悪い仕事じゃねぇだろ!?」
「そういう事を言ってるんじゃないこの分からず屋!
セリは自分の事を軽く考えすぎていて、心配でオレの寿命が縮むじゃないか!!」
「俺より長生きするから心配すんな!!
俺はやるって言ったらやるし自分の事は自分で決める
レイの許可なんていらない」
「セリ!!!………いや、少しお互い頭を冷やそう」
レイは何か言いたかったようだったケド、抑えて部屋を出て行ってしまった
なんでこんな流れに…
レイと喧嘩なんてしたいワケじゃないのに
でもだってレイが……
傍にいたセレンはずっと俺達の空気が悪くなるのをオロオロして見ているしかなくて、レイが出て行って静かになった今遠慮がちに声をかけてくれる
「ま、まぁまぁセリ様
そのような悲しいお顔をなさらないでくださいまし
私達は人間の為にと貴方様のお力をお借りしたい
ですが、セリ様の彼氏…(今は腐ってる場合ではありませんわね)いえレイ様からすれば
やはり大切なご友人が危険な事に身を置かれるのは胸が痛むほど心配になるものですわ
あれだけお怒りになるのはセリ様の事が大切だからですのよ」
……………大切に…思う
あの世界で生きていた俺には大切に思う思われると言うコトがよくわからない
この世界に来てからレイにずっと助けられて守られてきたけれど…
俺が勇者と言うなら、ここでセレンのお願いを断っても俺の気が向かなくても
いつか魔族や魔物と戦う時が来るハズだ
王道のようにいかなくても、それが俺の運命になるのだから…
だったら!どうせなるなら今のこの好条件飲んだほうがいいだろ!?
レイのバカ…俺は勇者になる運命をオマエに反対されるコトを望んじゃいない……
暫くして、部屋に戻る
セレンの長話であっという間に1日が無駄に過ぎた
「今日からここが俺の部屋か…」
1人で使うにはちょっと広いなと零したら、セレンがレイとの2人部屋で同室解除は絶対に譲らないと押し切られてしまった
あの腐れアマ…
まぁいいケド、でも今は気まずいのに……
とかモヤモヤしながらソファで体育座りしていたらレイが帰ってくる
「…………………。」
目が合ったのに、おもいっきり反らされ無視された
はぁ!?何コイツ!!
……ふん!別にいいもん!!
それから夕食も気まずいし、何より寝る時がベッドが1つしかないからお互いに背中向けて寝るって言う空気の死亡
どっちかがソファで寝るとかそこは譲らない
俺は友達いなかったから、仲直りの仕方とか知らなかった
恋人と喧嘩するコトもなかった
一方的に俺が怒るコトはあっても…
だから…正直戸惑ってる
こんなのがいつまでも続いたら…ヤダなって
-続く-2015/04/04
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