109話『幼なじみ』セリ編

「セリ…」

レイが心配してくれる

いつまでもふさぎ込んで部屋から出ない俺をとても心配してくれてるんだって

わかってるけど、でも今は全然そんな余裕がない

部屋には入るなって言ったからレイはちゃんと気遣って入って来ない

外からドア越しに言葉だけを伝えてくれる

「オレは何があっても、どんな時でもセリの味方だ

これからも…今まで通り、オレはずっと傍にいて守ってやるから…セリの事」

誰にも会いたくない、誰とも話したくない

どんな声だって右から左で聞いていないのに

でも…

レイのその言葉は何もやる気の出ない俺の心に少しだけ留まる

「また…元気になった姿を見せてくれ」

そう言ってレイは気配を消した

少しして俺は部屋のドアを開けて廊下の様子を見る

レイの姿はとっくにいなくなっていて、でも俺はそれでよかった

今の俺はレイの顔を見るコトが出来ない

こんな情けない自分を見られたくないって気持ちとレイに甘えたくなかった…

レイは俺の大親友で大好きな奴…だからこそ…

色々あった…ありすぎて……その後の和彦のコトはかなり堪えた…

頑張れば頑張るほど悪い方にいってる気がして……たくさんの感情が込み上げて来る…

もう……死にたい……って思うくらいふさぎ込んだ

「レイ…ごめん……」

何もかも嫌になったさ

静かにドアを閉めてまた部屋へと戻る

いつまで…いつまで俺はこんなに情けないままでいるんだろう

でも、頑張れないんだもん…もうしんどいよ

また寝て時間だけを無駄に過ごすコトになる



ふわふわする…あったかくて……とくに顔周りが

「ん…っ!?」

朝、目を覚ますと枕元に2羽のウサギが俺の顔を挟んでいた

「カニバとリズム!?なんでオマエ達が…」

可愛い……

「なんでってセリちゃんが元気ないから…いや!僕は心配で来たんじゃねぇぞ!?メスのセリちゃんが僕達にオスのセリちゃんの所へ行けって」

愛らしいウサギ姿から人間の小学生くらいの姿になったカニバはツンとしてあっちを向く

ウサギ姿の時は裸(ふわふわ毛玉)なのに人間姿になる時に服着てるのってなんでなのか凄い不思議だよな

そうか…セリカが送ってきた刺客だな

自分のコトなのに気付かなかった

和彦のコトで相当参ってる…寝て起きてもずっと気が滅入ったまま

なんやかんや俺は和彦のコトめちゃくちゃ好きで…仕方ないんだ…どうしようもなく

あんな浮気性な奴、何万回別れてやる!とかいつも言ったけど…別れる気なんてサラサラねぇのに

殴られた頬に触れると痛みはかなり和らいだし腫れも少しはマシになってる

でも…回復魔法が効かない……

なんで、どうして……これは俺が怪我として認めてないってコトか?

認めたら…和彦に殴られたって事実も……

いや…どう足掻いたって現実、見りゃわかんだろ

俺1人じゃなかった、レイだっていたんだから

ウソでも夢でもない

「セリちゃん…」

カニバに声をかけられてハッとする

ダメだな、また暗くなってしまう

いつまでこんな俺でいる気だ

もう一度和彦に会ったら…いや、会いたくない…会えるワケない

思い出したくもない、あの夜のコトは

和彦とは…もう……

「ねーねーセリちゃん」

人間の高校生くらいの姿になったリズムは俺のお菓子を勝手に食べながら話し掛ける

その姿を見て、ずっとお菓子を食べている奴がいたなって横切るが…それが誰か思い出せない…

まぁリズムはお菓子に限らずなんでも食べる食いしん坊で可愛いんだけど

「ボクこのケーキバイキング行きたいから連れてって

人間の姿なら色んなモノが食べられて幸せだなー」

お菓子を触ったベタベタの手で雑誌のあるページを見せて指を差す

「連れてってやりてぇけど、俺はケーキ苦手だからメイド片割れに連れて行ってもらえるように言」

「えっ!やだ!セリちゃんと行きたい!!だってセリちゃん元気ないから元気なってほしいもん!」

気持ちは嬉しいが、ケーキじゃ元気出ないな…余計辛い

リズムにベタベタの手で物に触らないようにと手を洗うように注意する

「セリちゃんがケーキ嫌いならそこは行けねぇじゃん、お前が食いてーだけだろ」

「カニバお兄ちゃんは黙ってて、これはボクとケーキの問題」

「お前は何しに来たんだ!?」

カニバはリズムに威嚇するとリズムは俺の後ろへと隠れる

小学生と高校生の体格差でリズムの方が大きいのにカニバは気がめちゃくちゃ強くリズムは気が弱かった

しかもリズムはレイくらい背があるから俺の後ろじゃ隠れきれない

「ボクはセリちゃんとケーキ食べたい…」

うーん……ウサギに甘い俺はわかったと言うしかなかった

リズムが喜んでくれるなら俺も嬉しいから

それに2人(2羽?)と出掛ければ気もまぎれるかもな

「わかったよリズム、ケーキ食べに行こう

カニバも食べたいものあればなんでも言えよ?」

「ふん、僕は別に…セリちゃんとお出かけできたらそれで…」

「ん?なんて?」

「なんでもねぇよ!!」

カニバに指を噛まれた

なんて凶暴なんだ、痛いけど可愛いから許せる


そうして俺はカニバとリズムを連れて久しぶりに街へと出掛けた

2人が俺を挟んで歩いていると、ふとラスティンのコトを思い出す

セリカが飼っていた白虎だ

カニバを助けた時に和彦に怒られて姿を消したって聞いたけど…うっ、和彦のコトは今なんにも考えたくないな

やめよう

「セリちゃんこっちこっち!もうすぐだね」

リズムに案内されながらケーキバイキングが出来るお店へと向かう

…考えるのをやめようと言っておきながら、こうして街を歩くと和彦とのコトをチラホラ思い出すな

アイツと色んなとこ行ったっけ…

どこ行っても…楽しかったのは、一緒だったのが和彦だったからだ

どこが、何が1番楽しかったかなんて言えない

全部楽しかったんだ

あっ…あの女の人

和彦と(レイもいた)夜歩いてる時に声掛けてきた夜のお店のお姉さんだ

昼間の今は普通の女性として友達とランチしてるから見たコトあるようなないようなって思ったけど思い出した

男3人で歩いてたもんだから、どう?って言われたんだが、あの和彦が断ったんだよ

俺が一緒だから?って考えた

いや、別にキャバクラくらいで俺は騒がねぇよ

可愛い女の子と話すくらいとか、まぁ最悪おさわりくらいあっても別に…男だから男の気持ちわかるしな

俺が嫌なのは一線を越えられるコト、浮気が許せねぇの嫌なの

それは和彦もわかっている、俺がその程度じゃ何も言わないコトくらい

だからなんで?って思ったから聞いたんだ

よく思い出せば、和彦は俺を色んな所へ連れて行ってくれたが、唯一連れて行ってくれなかったのが女の子がいるお店だ

大人しか入れないエッチなお店とかも

和彦は色んな所へ連れて行ってくれるが、そういうお店には連れて行かなかった

あの時だってそう…思い出す


「へー、和彦にしては珍しいじゃん

なんで?行ってもいいよ?これから何か予定あるワケじゃないじゃん

ってか、俺ああいうお店行ったコトないから興味あるし」

可愛い女の子とお話…俺だってしたい!!

そう言ってみたら和彦は俺の頭を撫でて

「セリくんには刺激が強過ぎるだろ」

って子供に言い聞かせるかのように見下した

待て待て、同い年だぜ?23歳よ?

いや!?オマエと一緒にいる方が刺激が強すぎると思うんだけど!?

和彦と香月と比べたらそれ以上の刺激なんてねぇだろ

俺がむっとしているとレイが必死に説得してくる

「セリにはそういう下品な場所は似合わない!!」

レイはいつも俺をなんだと思ってるんだ?

いや、レイはそういうお店行ったコトあるから言えんのそれ?

って目を向けると言い訳してきた

「ち、違うんだセリ!男には付き合いと言うものがあってだな…前に一度ロックから誘われて…」

「俺も男だけど?」誘われてねぇけど?

「いや…ロックが…1人で行くには勇気があるから一緒にって土下座されて……

それでも行くべきではないと反省している

オレはセリカ一筋なのに」

めっちゃ後悔してる!?

ロックなら仕方ない、付き合ってあげて「でも!オレは女の子に指一本触れてないし会話もしてないから!!嫌わないでくれ!!もう二度と行かないから!!」

「だ、大丈夫…別に嫌ったり引いたりしないから」

レイが怖いくらい必死に言い訳してて許す(?)しかないじゃん……もう

実家に嫁が帰るのを引き止める旦那みたいになってるぞ

ってか、会話もしてないとか何しにきたの?ってお店の子達思うだろ

「まっ、一度くらいセリくんに現実見せてやってもいいかもな」

レイの取り乱しに動じず和彦は思い付いたように言う

こんなレイ見て冷静にいられる奴おんの?

「現実ってなんだよ、ナメてんの?」

ムカつくな~、俺がなんも知らんみたいにバカにしやがって

俺だってそういう店がどんなものかってくらい知ってるっての(行ったコトないけど)

和彦が行こうと言い出してレイは不安しかないって顔と心配しながらも俺の傍を離れなかった

お店に向かう間にレイがセリは行かない方がいいって心配されて何度も確認されたが、俺は一度くらい見ておきたいって興味が強かった

さっきの声をかけてきたお姉さんのお店とは別の所に連れて行かれた

まぁ和彦のコトだから変なお店は選ばないだろうけど

お店の中に入ると店の雰囲気からして居酒屋かなってのは感じた

俺はお酒飲めないから普段居酒屋なんて行かねぇけど、居酒屋は行ったコトないワケじゃない

数回くらい付き合いで行くコトはある

出迎えてくれた女の子達はみんな露出の高い水着姿だった

「「いらっしゃいませ~」」

うわ、すげーな…まぁこれくらいなら別に、目のやり場に困るけど…

席に案内されてまずは飲み物を頼むコトに

和彦もレイもお酒を飲んでも人が変わったりしないから、むしろ酔ってても酔ってなくても変わらないからその辺心配するコトはない

俺はソフトドリンクで…おこちゃまか…!仕方ないんだよ!アルコールダメなんだから!!?

じゃあって飲み物を頼んで

「かしこまりました」

と注文を取った女の子が後ろを向くと尻丸出しだった

へっ…?なに…?どういうコト…?

「あっ…セリが引いてる……」

レイが思った通りと心配の声を出すが俺は何も聞こえない

ど、えっ?はっ!?こわ!?何!?わかんない!!

あっ、そ、そっか…Tバックだ、マジで?

なんか…ちょっと思ってたのと違って…ショックかも

「だ、大丈夫かい?セリ、ほら水」

レイは先に出されていた水が入ったコップを俺に手渡す

俺も自分を落ち着かせる為に水を飲む

Tバックは…ダメだ

もしセリカがTバックはいてたら俺は怒る

いや悪くないよ?悪くはないんだけど…エロすぎてダメ(女の基準は全てセリカ)

大丈夫、だって…ほら、メニュー表と一緒にこの居酒屋の注意事項って所におさわりは禁止って書いてあるから

これ以上の刺激なんてないよ

おさわり禁止の初心者向け、優しすぎる大人のお店で動揺するとかないだろ…

よかった、ここでギブアップしたら和彦に笑われるし一生バカにされんぜ

「ご注文伺います」

少しして別の女の子がメニューを持って聞いてきた

な、何食べようかな…ってか、すでに食欲とかなくなってるんですけど

「え、えっと…じゃあ…これ……」

適当にメニューにあるのを指差すと、女の子が俺の指をパクッと加えて舐めた

「………。」

えっなに?俺の石化が全然解けなくて時間が止まったかのように固まる

「…えっ…あの……おしゃわりとか…禁止じゃなかった、でしたっけ…?」

噛んだし敬語変になってるぞ!?

石化が解けると今度は震えが止まらなくなった

「お客様からのおさわりは禁止ですが、女の子達からのおさわりは禁止ではないんです」

にっこりと笑って女の子は立ち去って行った

もしかして俺ビビってる?何この童貞みたいな震え方

本物の童貞(レイ)すら肝が座ってるって言うのに…この俺がこの程度でビビるとか…

俺なんていっつも指を舐めるなんて可愛いレベルのもんじゃねぇのに!?

いいいいつも、和彦にあんなコトしたり和彦はいつも俺にそんな鬼畜なコトいっぱいするし…

いや女の子と付き合ったコトとかないですけど、悲しいくらい

「あらあら彼女さんビックリしてますね~、ダメですよこんなピュアな彼女さん連れて来ちゃクスクス」

注文した飲み物を持って来てくれた女の子に彼女と勘違いされて笑われてしまった

く、くそぉ…大丈夫だもん!平気だもん!

負けてたまるか!と女の子の方に視線を向けると隣の席の男達の前で女の子が胸をがっつり揉まれていた

もう1人の女の子がお客さんに見えるように女の子の大きな胸を掴んで……

「あれは…何を…してらっしゃるの?」

「あれですか?サービスです、こちらのお品を頼まれたら」

途中から聞こえなくなった

サービス?なんの?えっ?

「男の人って、ああいうのが好きなの?」

ドン引きで俺は真面目に聞いてしまった

「そうかもしれませんね、彼女さんには刺激が強すぎたかな?」

いや待って、俺も男なんですけど?いやホントに

女の子は大好きだぞ?そりゃ…女の子のエロにも興味がないってワケじゃなくて…むしろ興味ある方

でも俺が想像してたエロとはかけ離れていた

「セ、セリ…もう帰るかい?怯えてるじゃないか…」

俺は無意識のうちに隣に座ったレイにべったりくっついていた

なんか…こわくて…

「ふふ」

そんな俺を見て目の前の和彦は我慢しきれない笑いを零す

「はっ?なにオマエ?スゲームカつく」

バカにされたコトにちょっと腹を立てた俺は大丈夫だって気を持ち直す

「別にこれくらいなんでもな…って、うるせぇな?」

すぐ後ろの席が異常な盛り上げを見せていて俺は思わず振り向いた

すると客の男とお店の女の子がポッ○ーゲームしている

ギリギリの所でお菓子を折るのかなって思ったけど、そうでもなくそのままキスしてしまいさらなる大盛り上がりだった

よく見ると周りではお客さんの男とお店の女の子が酔った勢いで抱き合っていたり、寝転んだ男の顔に女の子のお尻を当てたり、えげつない下ネタトークで盛り上がりを見せたり、ほかにも色々

えっなにこれ…どういうコト?

それを見た俺は顔面真っ青になってショックを隠しきれない

いや…だって…キスって、好きな人とするもんだって……思ってたし

抱き合うコトとかも…

寝転んだ男の顔面にケツを押し付けるとか、もはや意味がわからない(お尻が好きなのはわかるが)

なんか…なんか…全部全部、俺が思ってたのと違う……こんなのじゃない

「……和彦も…こういうコトするの…?」

もう誰になんと思われても知らん、俺は半泣きで指さして和彦を見上げる

「ククク、さぁどうだろう?オレならもっと凄い事するよ」

ガーン!凄いコトって…なに……

ううん…コイツ、平気で浮気するからキス以上のコトしてるし……

なんか……死ぬほどショックで悲しいんだけど

「和彦さん、セリをからかわないでください…」

レイが優しくするから涙が零れ落ちる、泣いてしまった

こんな人前で

自分からこういう世界を見たいって言っておきながら、刺激が強いって和彦とレイの忠告を押し切ってまでしたコトなのに

俺ってバカすぎる

想像、イメージと現実が違うのなんて当たり前じゃないか

自分がどれだけバカみたいに女の子に夢見てたのか、スゲーバカだ

いや、これが全てじゃないだろうけど…こんな世界もあるってコトだ

「あぁ、セリくんは本当に可愛いな

オレが他の子とキスするのが嫌なんだ?」

テーブル越しに和彦の手が伸びて俺の頭を撫でる

「当たり前だろ、こういうお店にも行ってほしくない」

うわ~、ワガママすぎる

こういうお店に行くくらい騒ぐコトじゃないって偉そうに言ってたのは何分前の俺だ?

「どうしようかな」

その答えにムッとして俺は顔を上げて和彦を睨み付けようとしたら、いつの間にかテーブルを越えた和彦の顔が目の前にあってそのままキスされる

「だって、そうしてセリくんが泣くほどヤキモチ妬いてくれるのが可愛いから」

「う…うざ…レイの前でキスなんかすんじゃねぇ」

大親友の前でキスとかホントやめろ

人前ではイチャつきたくないって言ってんじゃん

でも、キスしてくれて嬉しいって思う俺もいるし、こんなコトでちょっと機嫌直す俺も

「キスで機嫌直してくれるセリくんもめちゃくちゃ可愛いよ」

「ぐっ…!めっちゃうぜぇ!!もういい!帰る!!帰ろうレイ!!」

ふんって和彦の顔を見ないでレイの腕を掴む

「オレは構わないけど、和彦さん1人この店に置いて行っていいのかい?」

「うっ…和彦も帰んだよ!!一緒に!!」

「はいはい」

お店出る前も出てからも和彦はずっと笑っていた

はじめて女の子のお店に行ったけど、俺はもうこりごりだよ

自分には合わないってわかった

楽しく過ごせる人もいるから良いと思う、悪いコトじゃないよ

だから和彦に行くなってのは強制できない

行ってほしくないってお願いするくらい

俺はやっぱり好きな人じゃないとダメなんだ

女の子は大好きだけど誰でもいいってワケじゃないし、割り切って楽しめない男だってコトはわかった


と、まぁ思い出話がちょっと長くなったがそういうコトもあったなって

和彦のコト思い出したくないって思うのに、良い思い出だけは忘れられないって言うか…現実逃避なんだろうな(えっ?さっきのは良い思い出じゃないだろ)

あの頃は…とか過去を振り返ってしがみつくのは、信じたくないんだよ

昨日の現実なんて

リズムの後をついて歩いていると急にカニバが足を止めたコトに気付く

「どうしたカニバ?」

じっと見つめる先にはこの街の広場を背景に写真を撮る家族がいる

「あー、写真撮ってる~」

俺とカニバが立ち止まったコトに気付いたリズムがニコニコして言う

「ボクもウサギ時代はよくセリちゃんが写真撮ってくれたよ

薔薇のやつとクリスマスのやつと、お雛様とお正月とマリンとお祭りと他にもたくさん!」

「はっ?オマエ、オスなんだからお雛様関係ないだろ」

「だってセリちゃんは女の子だからお雛様する……うっぅ」

ちょっと機嫌悪そうにカニバはリズムを睨み付ける

それにビビッたリズムは口を閉じて眉を下げている

俺は…あんまり写真を撮らないタイプの人間だった

自分を撮るのもだけど、撮られるのも嫌だし

なにか景色とか撮るのも興味がなかった

旅行でも遊びに行っても、和彦といる時だって写真はあまり撮らない

全て目で見たコトは記憶してればいい、記憶がなくなったらその程度の思い出だなんて思ってて…

だからカニバの時も写真を撮ったコトがなかった

知り合いがウサギを見たいって言った時に数枚撮ったのみ

だけど、カニバが急死して…何もなくて死ぬほど後悔した

寿命はもっと先だから記憶に、良い思い出として残るハズだったものが急になくなって

はじめて俺は写真がないコトに後悔したんだ…

たった数枚の写真しかなくて…もっと撮っていれば…もっと、色んなカニバくんを残しておいたら…って

後悔しかない、俺の短い人生で後悔したのはあまり多くはない

数えるくらい、その1つがカニバの写真を撮らなかったコト

他は嫌なコトすらも今の自分である為だから後悔とは違うと思っているから…

「カニバ、写真撮ってもらおうか」

「えっ?」

「今は俺で我慢してくれるか?次はセリカと撮ろう」

あそこに観光客相手に商売してるカメラマンがいるからとカニバに言う

「……オスでもメスでも関係ないよ…セリちゃんはセリちゃん……」

俺に聞こえないように呟くけど、実は聞こえてたりする

カニバは嬉しそうに口元を緩めて、でもそれを隠す

「仕方ないなぁ、そんなに言うなら写真撮ってやってもいいぜ?

セリちゃんがそんなに僕と撮りたいって言うなら?」

「えっ?えっ?ボクは?ボクもセリちゃんと一緒にお写真撮りたい!!」

今でも俺は自分の写真なんて撮りたくないって思う、別に写真にトラウマがあるってワケじゃないがなんとなく嫌なんだよな

写真嫌いはたぶん一生だ

それでも、カニバが喜んでくれるなら俺は大嫌いなカメラの前でも笑うよ

ちゃんと笑顔で、カニバとリズムの思い出にする

「もちろんリズムも一緒に決まってるだろ

ほら行くぞ?」

右手でカニバの手を、左手でリズムの手を握ると2人はウサギの姿に戻る

ああそうか、そうだったな

カニバもリズムも俺の大切な家族、ウサギさん

改めて2羽のウサギを抱きしめて、写真を撮ってもらう

2人とも抱っこ嫌いなのに写真撮り終わるまでお利口にしていた

カメラマンは動物好きだったらしく1枚の料金しか払っていないのに何枚もおまけで撮ってくれてた

「いいね!いいよ!最高ですね!」

大袈裟な…と思ったけど、カメラマンがくれた写真はどれも良く撮れている

カニバもリズムもめちゃくちゃ可愛い、ウサギは正義、可愛いは正義

それに…俺、本当はめちゃくちゃ落ち込んでるのに写真じゃちゃんと笑顔だ

しかもよく笑ってる…

やっぱりカニバ達と外に出て来て少しは気分が紛れたんだな

「ホント最高ですよ!よかったらモデルやりませんか?」

「この世界でウサギが珍しいのはわかるが、コイツらはそういうのに興味ないし」

カニバもリズムも人間姿になってそれは嫌と首を振る

「いやいや、ウサギもですけど私は勇者様に目を付けてるんですよ~」

「えっ…俺?無理無理!写真嫌いだし!?」

なんで俺をスカウトしてんだ!?モデルの才能なんかあるワケねぇだろ!?

絶対嫌だし!!

「ほら前にダンスもやってたじゃないですか?あの時も写真撮らせてもらって」

ダンスとかなつかし~

ダンスは楽しいからまたやりたいって思うけど忙しいからなぁ、たまには踊りたい

「でも無理です!!ごめんなさい!!」

「そんな事言わずに~、まっ気が向いたら連絡くださいね」

ってなんか名刺渡された…

しつこくされるかと思ったけど、空気は読めるみたいだ、良い人だな

だけど俺はモデルなんて向いてねぇよ、意識したら表情固まるだろうし

カニバと思い出の写真を撮るって決めたから自然な笑顔が出来ただけだもん

写真のモデルするならダンスしたい、俺は踊りたい

「セリちゃん有名人なるの?」

早くケーキ食べたいってリズムに引っ張られながらまたケーキのお店へと向かう

「ならないよ」

いやすでに勇者として有名人だった

「モデルってヌードなんじゃ?セリちゃんのコト、メスと勘違いしてあの兄ちゃん脱がすつもりだろ」

「ひねくれすぎてねぇか?カニバ」

小学生の見た目でヌードとか言うんじゃない

「心配しなくてもモデルなんてやらないって」

「本当に?ヌードしない?」

「脱がねぇよ!?」

「でも香月お兄ちゃんと和彦お兄ちゃんとレイお兄ちゃんの前では脱ぐよね?」

えっ何この子…こわい…普通に恐怖

「ってなんでレイが入っ」

いやあるわ、よく温泉や銭湯行くし一緒に風呂入るじゃん

そもそもレイとは同じ部屋だから着替えたりとか普通にするし

そうそう!言い方が悪いだけで変な意味じゃない

そっちの考えにいく俺の心が汚かった

「カニバ、からかうな」

それ以上言うなって意味も込めてカニバの頭を撫でる

「あっお店ついたよ!!」

ケーキバイキングのお店を発見するとリズムがはしゃぐのはわかるが

「わーい!ケーキケーキ!!」

真っ先にテンションを上げてお店に入って行ったのはカニバだった

ケーキなんてって言ってたくせに、セクハラ発言してビビったけど

カニバは姿通りまだまだ幼いと感じて安心する

「待ってよ!カニバお兄ちゃん!ボクも!!」

すぐにリズムが追い掛けてお店の中へと入っていく

ケーキは気乗りしない俺は2人ほど足は軽やかじゃないけどまぁ2人が喜んでくれるなら

とお店に入ろうとした所で後ろから声をかけられる

「セリ?」

その声にピタリと動きが止まる

懐かしい声…そして俺の名前を知ってて呼び捨てにする奴は数少ない

「恋時(れんじ)……」

振り返ると通りすがろうとしていた人物が俺を見て立ち止まっている

恋時は俺の前の世界の幼なじみの同い年の男だ

小学生の時から一緒で家も近所で大人になっても友達で仲が良かった…少し前までは…

「やっぱセリや、久しぶりに会っても変わってないねんな」

恋時は…ちょっとチャラ男っぽくなったか?元からチャラかったけど、さらに磨きがかかったような

久しぶりだと言うのに恋時は嬉しそうとか喜ぶとかそんな表情じゃない

最後に会った時と変わらない表情をしている

「……北条とはまだ続いとんの?」

「………。」

俺は何も答えなかった

北条ってのは和彦の苗字だ

「ふーん、続いてんのかぁ」

答えない=続いてると恋時は解釈したようだ

「噂もよく聞くで、レイって奴ともそうらしいやん…気持ち悪……」

グサリと心が痛む…

恋時はそういうのがダメな人だった…

前の世界でも俺は自分から和彦のコトを言ったワケじゃない

たまたま俺の家の前で和彦にキスされたのを見られて…それで……

ずっと仲良かった幼なじみの友達はその一瞬で俺を気持ち悪い人間と拒絶した

「レイは…友達やから、なんでそんな噂になっとるんか知らんよ(心当たりはあるけどな)

和彦は…否定せーへんけど……」

俺がそう言うと、汚いものを見るような目は変わらない

「あっそ、やっぱ北条とはそうやってんな

あの時セリは違うって誤解やって言い訳しとったけど

ほんまありえんわ、きもいって、おれは無理」

恋時がそう言う度に、恋時を目の前にすると俺は傷付く

心が苦しくなる

わかってる…同性愛が無理な人がいるってコトも、それは別にいい

人には色んな価値観や考え方、感じ方があるから

俺を気持ち悪いって思っても仕方ないよ

それには怒らないし、わかってもらおうとか思わないし

でも

「そんなん…いちいち面と向かって言わんでええやろ…

恋時は俺の幼なじみで友達やったし、楽しいコトもおもろいコトもあったやん

おもろい奴やなって俺は思ってるし、なんやかんやオマエとおって楽しかったわ

昔みたいに笑い合えるってのは無理なんわかってるけど」

言われて相手が傷付くってわかってるコトをわざわざぶつけるのは、なんか違うだろ!?

俺のコト気持ち悪いって感じても構わない

でも!それ言われたら傷付くよ…

頭では色んな人がいるから合わないコトもあるってわかってても、心は悲しいよ…!!

「おれ、セリのそのオマエって言う偉そうで生意気なとこもムカついとったわ」

生意気って…同い年だろ?

って…そう…か、そう思ってたんだ…恋時…

「友達にならんかったらよかったわ

噂が流れて来ると思い出す度に気持ち悪いねん、北条との事もほんま無理」

「悪かった…有名人で」

恋時は…俺のコトが生理的に無理なんだろう

友達だった過去すら否定するほどに

「でも、恋時が何を俺に言おうと思われようと俺は自分にウソつかへんよ

和彦のコト、好きなのやめへんし

だから先に謝っとくわ、これからも噂が流れて嫌な思いさせるからすまんなって」

「はっ?もうええわ」

それ以上喋るなって恋時は手を振って俺を振り返るコトもなく街へと消えて行った

俺は胸を抑えるように手を当てる

わかってる…わかってるって、誰も悪くない

むしろ男の俺に男の恋人がいるってコトが普通じゃないんだ

今までこの世界では周りが理解あって受け入れられてきただけで、拒絶されたっておかしくないんだ

うん……でも、やっぱり悲しい…

10年以上の幼なじみに気持ち悪いって言わるのは…辛いって

わかってても……辛いって…

胸が痛くて息苦しくなったら今度は涙が出てきた

鼻水だって出そうなくらいガチで泣いてる

でも声をあげて泣くほどじゃない

ちょっとすれば涙も引っ込んでくれる

でも、俺は友達に気持ち悪いって言われても…好きなのやめないもん

関係ないから…誰かを好きな気持ちに友達は関係ないコトだろ?

友達のコト気にして恋するワケじゃないじゃん

好きなものは好き…俺は香月と和彦のコトが好きなの

ウソつかない、気持ちを抑えたりしない

「レイは…いつも」

短く泣いて少し落ち着くとレイのコトが頭に浮かぶ

こんな俺でも…レイは受け入れてくれた

俺の大親友…

レイは俺が香月と和彦を、男の俺が男を好きになって恋人になっても

レイは気持ち悪がったりしないし、応援までしてくれる

はじめて会った時から変わらず笑ってくれる…仲良くしてくれる……

いつも守ってくれて大切にしてくれるんだ

わかってたよレイのコト

でも、やっと本当にわかったような気がする

レイの大切さが、わかってるつもりだったけどもっとわかったよ

俺にはレイが必要なんだって、レイがいてくれるから俺は立ち直れる

いつまでも落ち込んでなんかいられない

心配してくれて支えてくれるレイの為にも、俺は立ち直ってまた笑って過ごせるように…

「セリちゃんまだ~?」

「あっ、すぐ行くよ」

リズムに早く早くと呼ばれて俺は顔を上げる

レイが帰って来たら、笑っておかえりって言おう

またいつもみたいにたくさん甘えて…レイにありがとうって言うんだ

また頑張るからずっと傍にいて支えてくれって

そしたらレイは、あのいつもの爽やかな笑顔で俺を抱きしめてくれるよね

レイは俺の大切な…大親友…ずっと一緒にいたい人だから

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