182話『大空の神と空の神』カーニバル編

神座でふんぞり返っている天空を堕落させるために、大悪魔シンを参考にゲームやスナック菓子やらを与えたらどうだ?デブらせろとタキヤ達と話して試したが天空は見向きもしない

まぁ当たり前か

タキヤはハニートラップを仕掛けましょう!とか言っていたが、天空は自称モテる男だしその辺は効果ねぇんじゃねぇか?対策してるだろうし今更女に溺れて堕落するか?って思って蹴った

さて……どうやって堕落させるかな…

そんなコトを考えながら日が過ぎていく

「あー嫌ですねぇ…このハンカチから小僧の匂いがします」

ノック後に部屋に入ってくるタキヤはテーブルの上に置いてあるハンカチを嫌な目で見てはわざとらしく鼻を覆う

後ろにはオミノもついて来る

「そのハンカチはメスのセリちゃんのだ

僕の大好きな花のような良い匂いだぞ、オマエはいつも変な匂いするくせに」

オスのセリちゃんも同じだから匂いだけで嗅ぎ分けろと言われたら、どっちかはウサギの僕でもわからなかったりするぞ

「どっちでも一緒ではないですか!!

……オミノ、私は変な匂いがしますかぁ?」

「ちょっと加齢臭が……」

オミノは女神結夢の特別な加護のおかげで百歳くらいのジジイなのに見た目は若いが、匂いは年相応みたいだ

「女は甘い匂いがしますからねぇ、ちょっと嗅いでもいいですか?」

「キモイんだよ変態、触んな」

オミノはセリちゃんのハンカチに手を伸ばそうとして僕が睨むと手を引っ込めた

「小娘と言えばカーニバルくん、ハガキが届いていましたよ

破り捨てようかと思いましたがねぇ

何が書いてあるかわからない物を破るのは気になります」

タキヤからセリちゃんのハガキを受け取る

セリちゃんの前の世界の文字はタキヤやオミノは読めない

一部の人だけ、僕もその1人だ

内容は…死者の国で夏祭りをするから遊びにおいでと書かれていて、僕は待ちきれない楽しみな気持ちが高まる

「えっ今度は夏祭り!?楽しそう!!」

この前、セリちゃんのハンカチと一緒にイングヴェィとレイのコンサートの招待が来て、オミノと一緒に行ったのも楽しかったのに

またすぐにセリちゃんに会えて、しかも楽しいお祭りなんて!!

夜しか眠れなくなりそうだ

「オミノ今度は夏祭りだ、行くぞ」

「いいですねぇ」

子供の僕が1人で出掛けるのは心配だと、出掛ける時はタキヤかオミノが同行する

場所によるから今回もタキヤは選択肢にない

「異議ありです!!

この前も私がお留守番でした、今度は私がカーニバルくんとご一緒です!!」

僕とオミノが夏祭り楽しみだと盛り上がっているとタキヤは怒りに震える

「無理に決まってんじゃん、セリちゃんがいるとこにオマエを連れては行けねぇぞ」

「私も小僧には会いたくありませんよ!!

しかし、死者の国には我が女神結夢様がいらっしゃるのです

この前のコンサートにも招待されていたと聞きましたが、私と結夢様を引き裂くおつもりですか!?カーニバルくん!!」

「そうだよ」

何か勘違いしてるタキヤにハッキリ突きつける

「結夢様は私の妻になる女です」

何言ってんだコイツ?

「オマエ、それストーカーだからやめろ

本人怯えてるし酷いコトしたんだろ」

タキヤは自分が女神結夢に何をしたかをペラペラ喋るタイプだ

僕が子供だから言い方は生々しくなく、子供にはわからないが大人ならわかるような言い方で

僕は見た目は子供でも中身は子供じゃないからな(大人ぶってるだけ)

女神結夢はウサギの僕のコトをとても可愛がってくれていた

ウサギは優しい人が好きだからな

見てるだけでセリちゃんのコトが好きだってのもわかる

セリちゃん本人は全然気付いてないけど…

「順序などよいのですよカーニバルくん!!いずれ私の妻になる女」

「それは彼女の気持ちを知っての話か?わかってるのか?

なら、何故自分のこの国に帰って来ないんだ?

僕から見たら女神結夢はオマエには気持ちまったくないように見える

無理矢理は犯罪だぞ、この性犯罪者が

僕はオマエみたいな男が死ぬほど嫌いだ」

女神結夢は喋れないから直接気持ちを聞けるコトはない

でも、いつでも帰れるハズなのに帰らないってコトはそうなんだろ

セリちゃんの傍にいたいだけじゃなくて、オマエが怖いんだよ…タキヤ

「何故です!?カーニバルくんはウサギで子供ですからねぇ、ちょっとわからない部分もあるかとぉ…

オスだから男の気持ちはわかると思いますが、女は物です

結夢様が私の妻になれば私の所有物何をしてもいいのですよ、自分の妻なのですから、女は男に逆らわず従うのが当然の事ですからねぇ」

残念だが…タキヤは本気でそう思っている

何もおかしいと思わず自分の考えをペラペラ話しては、僕の言葉は何も通じない

タキヤの中ではそれが正しいコトだと信じて疑わない

「本気で言ってんのか…?オマエとは根本から合わねぇんだな、失望した」

確かに僕は子供だが、女性は物じゃないってわかる

自分の妻や彼女になったからって何してもいいワケないだろ

子供の僕には恋愛も結婚もまったくわからないが、もし僕がそうなった時は大切にしたいし守って幸せにしたい

そう思うから…僕はタキヤの考えは軽蔑する

そもそもコイツ一方通行の犯罪者だった

女性を無理矢理支配するのも最低だな

ってコトでタキヤは置いてきた



腹立つタキヤと暫く顔を合わせたくなくて、オミノと一緒に夏祭りより早くに死者の国へとやってきた

僕が姿を見せるとセリちゃんはおかえりって抱きしめてくれる

うん…セリちゃんの花のような甘い香り…僕はこの匂いが大好き

タキヤに誘拐される前は照れ隠しでセリちゃんに対して口悪く言ったり態度も悪かった僕だけど

また離れるのはやっぱり辛すぎて……今の僕は少しだけ素直になった

僕だっていつまでもガキじゃねぇってコト、成長してるんだぞ

「セリちゃん…抱っこもういい?」

でもやっぱりずっと抱っこは恥ずかしいから…って遠慮がちに押し返すとセリちゃんは離してくれる

その後、セリちゃんは微笑んで頭を撫でてくれる…ナデナデ大好き……

それにしても死者の国、いつの間にか花や緑が増えたな

植物モンスターがせっせと大規模な庭園を作っている最中だと見てわかるくらいの出来にはなってきている

セリちゃんは植物モンスターにバラの育て方のアドバイスを受けていた所みたいだ

「うんうんなるほど、バラの咲く季節が楽しみね」

「我ラモ一緒ニ世話シテヤル」

「任セヨ」

コイツら居座る気じゃん、死者の国で庭師として働くつもりか?

セリちゃんは植物モンスターがいてくれたら安心と心強いみたいだ

バラの次は今日完成したらしいビオトープを見せてくれると植物モンスターに案内される

見事なビオトープが目の前に広がり、さすが植物のプロ植物モンスターだと感心する

「蓮!綺麗…私、蓮の花も好きなの

メダカ可愛い~、赤ちゃんも泳いでるね」

よく見ると小さすぎる稚魚達がいる

……僕の方が可愛いもん!!なんてヤキモチ…

そんなメスのセリちゃんをはじめて見たオミノはアホみたいにずっと口を開けていた

「………なんて綺麗な人なんだ……オレの妻になるべき女じゃねぇですか」

えっオマエいたの?なんかずっと黙ってるからどうしたんだって思ってたけどさ

オミノが近くのラベンダーを束で摘むと、植物モンスターが「アッ!?」っとキレた声を出すがお構いなしだ

「はじめましてー!オミノと申す!」

申す?緊張しすぎじゃ

「貴女の事を教えてください!」

お願いするように頭を下げてセリちゃんにラベンダーを手渡した

「ありがとう、私はカニバの飼い主セリカ

いつもカニバがお世話になっています

気が強くてやんちゃな子だけど、よろしくお願いしますね」

「セリカ様!!あの今度2人っきりでお茶」

「カニバくん、ほらこのラベンダー良い匂いね」

セリちゃんは僕の目の前に差し出して、食った

「美味しい?」

ラベンダー美味い、好物の1つだ

オミノがアッ!?ってマヌケに口を開けている

セリちゃんに近付いたら殺すぞオミノってウサギの姿で睨み付ける

そうしてセリちゃんはビオトープの遠くの方まで見に行ってしまい、僕は呆然と立ち尽くしたオミノを小突く

「は~…男の勇者はこの前見た事ありますが、女だとなんて美しいんだ」

そういや、契約で来てた時に一度見ていたか

オミノはセリちゃんの姿を帰る時に少しだけ見ただけだったから話してもいない

オスのセリちゃんもメスのセリちゃんも見た目は同じだろ

髪の長さや身体付きは男女で違うが、オスのセリちゃんもそっくりなのに

「セリちゃんには恋人がいるから諦めろ」

「何!?いやですね、落ち着いてくだせぇよカーニバル様」

僕はずっと落ち着いてるが?

「おれは女が結婚したい職業ランキングの1位聖職者、神官ですよ!?

年収教えましょうか!?その辺の男どもより」

何だそのランキング…年収でえばってるけどセリちゃんそういうの興味ないぞ

「セリちゃんの恋人は伝説上の存在だから、オマエもイングヴェィの名前くらい聞いたコトあるだろ?

それにセリちゃんの周りにいるオス達はヤバいのいっぱい

魔王の香月とか生死の神の和彦とか世界一のイケメンのレイとか」

「………勝てる気がしねぇです」

「だろ?僕だってそんなメスは諦める

命がいくつあっても足りねぇよ」

セリちゃんに恋愛感情があるワケじゃないが、もし僕がオミノの立場だったらって話だ

「それによく見ると胸の大きさ微妙、おれ巨乳好きなんですよねぇ」

「ダメだとわかったら急にディスる奴!?」

「やや!あそこに一際光輝く女は一体!?」

オミノはすぐに別の女の子に目を向けては走り寄った

「年収教えましょうか?お姉さん、おれと一緒に食事でも…」

年収アピール!?自分の強みを生かすのは良いコトなんだろうけど、年収はなんかやらしくねぇか!?

今度は光の速さで光の聖霊にアプローチするオミノ

だが、光の聖霊は世界一のイケメンレイが好きだった過去があり目が肥えていた

「何あんた?鏡見て出直して来なさいよ、私はレイレベルのイケメン以外眼中にないから」

オミノもそこそこな見た目なのに、冷たすぎる!?もっと優しく断るとかしてあげて……

「あの光ってる女よく見ると幼児体型」

最低だ!?また振られたからって悪く言うな…

「ややや!!そこのお姉さんーー!!おれと」

またオミノは視界に入る女性を追いかけに行く

誰でもいいんかオミノの奴…範囲広すぎだろ

さっきからタイプがバラバラだけどさ

この国の生きた女性陣は色んな意味で強いからオミノはこのまま放置で大丈夫かな

死者には触れるコトすらできねぇから変なコトはできないし、生きてる女の子はセリちゃんと楊蝉と光の聖霊と女神セレンくらいか?

女神結夢はオミノの神様だから手出ししないだろうし、マールミは子供だから手出しはしない

ってコトで女の子のお尻を追い掛けてるオミノを置いて、僕はオスのセリちゃんに会いに行くコトにした


部屋を訪ねるとオスのセリちゃんがいなかったからどこにいるか聞いて回り、やっと居所がわかった

フィオーラの占いの館の近くにいるのを発見

声をかけようとしたら、僕の後ろからムカつく奴の声が聞こえる

「セリくん!会いに来たよーー!」

はっ……天空!?なんでここに!?

急に現れた天空は振り向く僕に対して嫌な笑みで笑う

誰か助けを…って近くのフィオーラの占いの館を見ると、さっきまでオープンしていたのに急に閉まってる!?

あの野郎!隠れやがったな!!フィオーラは天空を苦手としているって聞いたコトがある

セリちゃんを見捨てて逃げたか!?

とにかく、天空のクソカスゴミ野郎はセリちゃんを狙ってる

でも、オマエじゃセリちゃんの心は欠片も動かせられない

だってオマエはセリちゃんのコトが好きなんじゃないし、いや元から誰も好きじゃない、ただモテる自分が好きなだけ

女の子からチヤホヤされるのが気持ち良いだけ

そんな薄っぺらいもんはあの超鈍感なオスのセリちゃんだって見抜いてる

そんな危険な天空…どうする!?って僕はセリちゃんを心配したが、セリちゃんは僕に微笑んで近付いてきた

天空が見えてないのか?危ないんだぞ…セリちゃんに何かあったら…僕は……

天空は両手を広げてセリちゃんに近付くが、普通に避けられて無視までされた

「カニバ、俺に会いに来てくれたのか?セリカと会っていただろ、俺も会いたくて探していたんだ」

そう僕に話し掛けてくれるセリちゃんとの間に天空は割り込む

「好きなんだ、付き合ってほしい」

突然の告白!?それがオマエのモテテクか?

「えっごめん死んでも無理

カニバ美味しい水蜜桃があるんだが食べるか?」

無視してたのにちゃんと返事してあげるセリちゃんは優しいだろ!?

少しも可能性がないってハッキリ突き放す優しさ

ざまぁみろ天空、オマエの思い通りなんかになるか

「食べる」

「そうか、じゃあちょっと待ってろな」

セリちゃんは僕の頭を撫でてから水蜜桃を取りに行った

冷たく振られた天空は固まってたが、セリちゃんがいなくなってから息を吹き返し怒り出す

「あの尻軽めが!!このボクに声を掛けられて喜ぶべき所を!!」

「全人類がオマエのコト好きって勘違いやめろよ」

「女だ…女でなければボクの魅力は伝わらないのだな

このボクに恥をかかせて女の方をめちゃくちゃにしてやる」

やめといた方が……前にも言ったがオスのセリちゃんよりメスのセリちゃんの方がその辺は優しくないぞ

めちゃくちゃに返り討ちにされる姿が目に浮かぶ

「行かせねぇぞ」

だが、ここでセリちゃんに会わせるワケにいくか

通せんぼうしたが、天空は僕の首根っこを掴んでメスのセリちゃんの所へ向かう

僕を連れて行くコトで油断させる作戦か?

あ~僕の水蜜桃が……そしてなんて無力な僕

オスのセリちゃんが和彦に話してくれるだろうからそれほど心配ではないが、助けが間に合ってくれればの話だ……


天空は何も聞かずにセリちゃんの居場所がわかった

セリちゃんは部屋に帰っていて、僕の姿を見ると部屋に入れてくれる

天空は閉め出そうとしたのに無理矢理入ってきやがった

「カニバくんどうしたの?急にセリちゃんから離れるから」

セリちゃんは僕の頭を撫でてくれて、天空は何を勘違いしたのか

「女は強引な男が好きなんだ、見てるがいいウサギくん

君の飼い主がボクの前では所詮メスだって事をね!」

自信満々でセリちゃんに壁ドンからの決め台詞

「はじめまして、なんて美しい女性なんだろう君は」

そういや、天空はメスのセリちゃんとは初対面か

動きがいちいちナルシストっぽくてムカつくんだよな~

「その薔薇色の愛らしい唇を奪ってしまいたい、ボクからの口付けを受け…」

からの強引にセリちゃんにキスしようとしたが、セリちゃんは躊躇するコトなく天空の股間を蹴った

ひぇーーー!?見てるこっちまで死ぬほど痛そうだ!?メスにオスの痛さはわかんねぇからか!?躊躇なくいったぞ!?さすがの僕もそれはできねぇ!!

天空は目の前で崩れて動けなくなってしまった

だよな……

「まぁ…怖いわ…こんな所に暴漢がいるなんて」

怖いのは躊躇なかったセリちゃんだけど……

「私とオマエは初対面であって初対面ではないわ、セリくんへの言葉は私への言葉と同じ

尻軽?男なら誰とでも?簡単にヤれる?

そんなワケあるか、オマエはないわ…身の程を知れ」

めっちゃ根に持ってる!?何があったか知らねぇけど、天空はすでにセリちゃんに嫌われるようなコト言ってんじゃん!?

そら股間も蹴られるわ……強引にキスしようとしたりも無礼すぎるし

うずくまって激痛に耐えていた天空はセリちゃんの言葉にカッとなって立ち上がる

内股で足プルプルしてるけど

「聞き捨てならないなぁ!ボクは大空の神!神族の中でも位が高いのだぞ!!

身の程を知るのはそっちだろう!?天の異物めが!!穢らわしい!!

売女が!!…売男?が!!」

「……あっ?」

セリちゃんの笑顔が固まって目に見えてキレてる

天空は天空で怒りの興奮が頂点すぎて地が出てるな

「私を売女と罵るかテメェ…」

「すました面が割れて本性表したな、女は愛想振りまいてればいい反抗するな」

「オマエこそ大丈夫か?優男の面が剥がれてんぞ

今のオマエを見たら、オマエのファンの女達はガッカリだな」

「女の分際で生意気な口を利くな!女は黙って男の言う事を聞くがいい!!女の貴様など力でどうにでも出来るんだぞ!!」

「なんて、情けない野郎だ

力でしか女をねじ伏せられねぇなんて、恥を知れ

カッコ悪いんだよ

そんなに見下してる女の生意気な言葉くらい流せば良いものを、器の小さな男だな」

カッとなった天空がセリちゃんに手を挙げる

僕はセリちゃんを庇うように間に入って天空の平手打ちを代わりに受けた

「カニバ!?なんてコトを…」

僕が代わりに殴られてセリちゃんは顔を真っ青にする

あ~…ちゃんとスゲー痛ぇ

天空の奴、女相手に本気で殴りに来たな

セリちゃんは最初の言われっぱなしには腹が立っていたんだろう

そこから強引にキスしようとして、女を見下した発言の数々

さらに天空は油を注いだ

「先にセリちゃんを侮辱したのは天空なんだろ?

尻軽だの、簡単にヤれるだの

強引にキスしようとしたのも最悪だ

言い返されて、暴力でねじ伏せるってのはなかなか卑怯じゃねぇか

女は男に力で勝てないってわかってて黙らせるって最低だぞ」

「ウサギの獣が神のボクに説教か?

女は男に反抗するだけで罪なんだよ!!

男に逆らったらどんな目に遭うか思い知らせ……!!」

天空がセリちゃんに掴みかかろうと手を伸ばしたが、それは届かなかった

和彦が来てくれて天空の手を掴んで止めてくれたから

さすが和彦はセリちゃんを守ってくれる

「端から見れば、天空がセリカを乱暴しようとしているように見えるが?言い訳なら聞くぞ」

なぜか、和彦が登場してくれるだけで安心感しかない

なんだろうこの安心感、セリちゃんが好きになるのも当然だと思ってしまう

少し時間をかけて場を落ち着かせた

僕はウサギの姿に戻ってセリちゃんの膝の上に座る

そんなセリちゃんは私は悪くないわって顔で座りながら怒りの熱を冷ますかのように涼しげにうちわを扇いでいた

天空は怒りがなかなか収まらないで鼻息が荒い

「なるほど、セリカに手を出そうとして失敗したと

セリカは蹴ったのか?」

「私はちっとも悪くないもん!!先にムカつくコト言って、無理矢理キスしようとしたのは天空だ!!」

和彦の言葉にセリちゃんはぷんぷん怒る

「わかっているよセリカ、無理矢理キスしようとして

セリカにそこまで言わせたのもさせたのも天空が悪いって事くらい」

「生死の神よ、女が男に反抗する事の方が罪深いのだぞ!!」

「女の口答えなんて反抗にもならないだろ、怒っても口答えも可愛いだけ

さすがに蹴られた場所は勘弁してもらいたいが」

天空は完全に女を見下しているが、和彦はそういう考えじゃない

蹴った場所は勘弁ってのは僕も同意

「元は人間か…貴様には神族のボクを理解出来まい」

天空は余裕のない表情で和彦を睨む

もう隠す気はないようだ、同じ神族でも和彦は元人間

天空にとっては対等ではなかった

生死の神は他の神族にはない唯一の力と位が高いコトから天空は和彦とやり合う気はなかかったのに

「セリくんにもセリカにも手を出すな」

和彦が自分の目的を邪魔するなら敵として引きずりおろしたいと考えたようだ

「生死の神もまた交代が必要かもしれないようだな……」

天空はそれだけ呟くと大人しく部屋を出て行った

不穏な空気を感じ取ったセリちゃんはさっきまで怒っていたのに心配に変わる

「…和彦……私が…悪かったのだわ、和彦は悪くないって謝ってくるね…」

自分のコトなら折れないセリちゃんも和彦を巻き込むとなるならどんな屈辱も間違いも呑み込もうとする

そんなコト…和彦は許さないってわかってるのに

大切な人を守りたいって気持ちはわかるよ…セリちゃん

そんなセリちゃんの手を掴んで和彦は止めた

「セリカは悪くない

水蜜桃をセリくんから預かっている、カニバに剥いてやってくれ」

和彦はセリちゃんに甘い香りの美味しい匂いがする水蜜桃を手渡して、セリちゃんはそれを剥いてくれる

早く早く!!

セリちゃんの手から水蜜桃を貰って……甘い…甘い…美味しい!!甘くて美味しい!!!

口の中に広がる甘さの幸せと贅沢さ

「和彦…私が我慢して全て上手くいくならそれで良いのよ

アイツのコトはムカつくけどな

でも、私が我慢すれば」

「オレを誰だと思っている?

セリくんもセリカも守ってみせる、オレは死なない

安心しろ…だから勝手に動くな

いつも、それが心配だ」

和彦はセリちゃんの言葉を切って釘をさす

わかってるんだ、和彦はセリちゃんの危うさを

自分を犠牲にしようとするから…そんなの僕だって嫌だよ

「水蜜桃美味しかった、セリちゃんにもお礼言ってくるね」

僕はセリちゃんの膝の上から降りて人の姿になる

すると、和彦はセリちゃんの膝を枕にして横たわった

「そこは僕の場所なんだけど!?」

「名前でも書いてるのか?」

「子供か和彦…」

和彦はたまに大人げないコト言う

「少しだけ休みたい」

そう言って和彦は目を閉じた

夏祭りが終わるまで忙しいんだってさ、疲れてるんだろうが知るか!!僕のセリちゃんだぞ!!

って、僕はペットで和彦はオスのセリちゃんの恋人だからある意味セリちゃんは和彦のものでもあるか

たまにメスのセリちゃんにこうして膝枕してもらってる

「カニバ1人で大丈夫?」

「僕を子供扱いすんなよな!1人でセリちゃんとこ行けるっての!!」

そう言って僕は部屋を出た

セリちゃんのコトは大好きだが、いつまでも子供扱いなのは嫌だ!


ちょっと拗ねたままセリちゃんに会いに行く途中の廊下でセリちゃん達を見つけた

あれは…セリちゃんと、その隣には鬼神か

それと天空が話してる

3人には気付かれない距離でも僕のウサギの耳はよく会話が聞こえた

「空の神について話が聞きたい」

セリちゃんの問いに天空は強い態度だった

さっきの和彦とメスのセリちゃんとのコトに怒りがおさまらないのか

「何の事だろう?悪魔の戯言を信じるかい?大空の神はボクのみ

そんなくだらない事より生死の神が交代する心配でもしてやったらどうだろうか?」

いつでも自分の方が有利だと、その自信はどこから来るのか、それともハッタリか

「…交代させるって、和彦を殺すってコトか?」

和彦が殺されるかもしれないって話にセリちゃんは少し動揺する

それを見逃さない天空はセリちゃんへと距離を詰めた

「その時はそこの鬼神もまとめてまた封印してあげよう」

「ああ?こらテメー、セリ様に近付くなや!

またわしらを封印するってんなら甘くみんなよ

あの時わしらは油断しただけや、今度はそう簡単にいく思うな!!」

鬼神が前に出てセリちゃんに近付く天空を阻止しようとしたが、瞬きしてる間に鬼神をすり抜けて天空はセリちゃんの目の前に立つ

「君の態度次第だ」

天空はセリちゃんの顔に手を伸ばしたが、セリちゃんはその手を叩き払った

雰囲気が変わった…?契約か

「……誰の態度次第で、なんだって?

そりゃおめぇの方だ

汚い手で俺に触んじゃねぇよ、レイ以外が触っていい身体じゃねぇぞ

ふん、勇者は弱みがありすぎるからこういう奴相手は俺に任せておけ」

契約の奴、レイのコトであんなに泣いてボロボロだったのに

何があったか知らんが、頼もしい奴になってる!?

和彦や鬼神のコトを言われたらセリちゃんにとって弱みになるが、契約はレイ以外どうなっても構わないってスタンスなら天空に強く出れる

そもそもセリちゃんはもっとみんなを信じるべきだ

和彦が負けるワケないって、鬼神が負けるワケないって

契約はそれをわかっているが…

でも…やっぱりセリちゃんには無理か、一度和彦を殺されてる過去もあってそれは大きなトラウマで弱点だ

「…邪魔だね……君の存在は、悪魔の契約如きが出しゃばるな」

「そのオマエが大嫌いな悪魔と同じようなコトしようとして恥ずかしくねぇの?

勇者の弱みにつけ込もうとしたじゃん

人間の弱みにつけ込むのは悪魔の専売特許だぜ」

悪魔と同じと言われた天空はセリちゃんの頬を思いっきり殴った

「セリ様!?」

セリちゃん!?それを見た僕も駆け寄ろうとしたが、近くにいた鬼神のコトをセリちゃんは手を上げて止める

「いっ…たた…俺は勇者と違って回復魔法が使えねぇんだから…優しくしろや

でも、オマエもうずっと余裕ないんじゃん?

大空の神、天空って奴はどんな奴だった…?

オマエもこっちに…片足突っ込んでるって気付いてねぇのか?」

セリちゃんは叩かれた頬を手で押さえて、怒りで余裕のない顔を真っ赤にした天空から距離を取った

「来い、空の神」

その名を口にすると天空の頭上にへどろのような泥のような生き物が姿を現す

「なんなんだ!?この醜い悪魔は!?」

天空は突如現れたその姿に驚いたが、泥の悪魔が天空を踏み潰した

「セリ様…これは一体なんやねん……」

僕も気になってウサギの姿でセリちゃんの足元へと近寄る

気付いたセリちゃんは僕を抱っこして頬ずりした

「近くにいたのか危ないだろ、カニバふわふわ可愛い」

それはいいから早く教えろ

「鬼神は気付かないか?その泥のような悪魔が千年前に存在した空の神の堕落した姿だ

話は勇者から聞いてるだろ、仲良くカキ氷食ってた時にさ

ソイツは天空に恨みを持ってるらしくてな、協力してやったんだ

勇者は気付いてないみたいだったが、天空は危険な男だ

この身体は勇者でも、俺だって住んでるようなもんだから身の危険を感じて潰しておきてぇのよ」

「カキ氷やなくてパフェや」

細かい奴だな

「空の神が堕落してた話は聞いとったけど、爽やかなあのレイみたいなイケメンさんがこんな泥になるなんて…しかもなんか臭いし

天空は危険な奴って和彦様から聞いとったけど、これで終わったんか?」

僕はセリちゃんの顔を近くで見て、叩かれた頬が腫れて痛そうで舐めてあげた

そんな僕をセリちゃんは嬉しそうにぎゅっと抱き締める

「ありがとうカニバ、大好き

終わったかどうかは暫くしないとわからないだろうな

このまま天空が堕落して、空の神が復活するか……」

「天空が堕落するって、その方法を知ってたんか?」

「いや、直前までわからなかったよ

ここで天空に会って、片足が堕落してるコトに気付いた

俺が悪魔の契約だからこそ見抜けたのかもしれないが

コイツにとっての堕落の条件は、余裕をなくすコトみたいだ

空の神は女関係で泥沼になっての堕落と違って、逆に天空は自分はモテるって絶大な自信と余裕があった

実際にそうみたいだしな

だが、勇者とセリカによってそのプライドはズタボロにされる

本来の自分を見失ったらもう堕落するしかない

コイツの負けは、モテるコトに執着したコトだな

自分が落とせない相手が存在したってコトを認められなかった

天が創った人間の勇者を忌々しく嫌ってのコトだろうが、タキヤのようにあの手この手を使って追い詰めるならまだしも、自分のやり方に固執して自滅しただけだ」

神族の敵、悪魔の契約…レイのコトしか考えてないと思ってたが、やるな……

まさか契約にセリちゃんが助けられるとは思わなかった

それはセリちゃんが契約を受け入れたからその恩を返しているのかもしれない

「神族ってわしら8人を封印するくらい強い力持ってるのに、弱点あるねんな

無敵やと思っとったわ

和彦様レベルの強い人じゃないと勝たれへんのかなって」

「誰にでも弱点くらいあるんじゃねぇか?悪魔だってそうだし、鬼神だってあるだろ?」

「そうやな!女人に弱いとことか!」

「それはまた違うような……」

つまり…これで天空は倒せた可能性もあるのか……?

僕達がどうやって堕落させるか悩んでいたのに、こんなあっさりと……

まだ油断ならないような気がする

「とにかく、後は空の神に任せて様子を見るしかない

できれば空の神に勝ってほしい所だが、天空がそのまま負けるほど弱いとも思えない

完全に堕落してるワケじゃなかったからな」

「天空が復活したら、セリ様がもっと危険になるんじゃ…」

「だろうな

できれば堕落してほしい

悪魔となって粘着されるだろうが

大悪魔シンの契約の俺がいる限り…強さは俺の方が上だからむしろそっちの方が心配はないぜ」

「よっ!大将!!」

鬼神はそんな心強い契約を持ち上げるが、僕は「俺がいる限り…」の部分が引っかかった

いつかいなくなるコトを覚悟してるような気がして…

ずっといられるコトの方が無理でおかしいコトなのに、僕も契約が消えていなくなるコトは寂しくて悲しいコトなんだと感じた

「ってセリ様!?わしらが喋ってる間に元空の神の泥と天空が消えたで!?」

「……天空の奴…逃げやがったな

簡単に堕落はしないか……

中途半端な奴は面倒だ

堕落して悪魔になれば死者の国は聖地で入れない、俺もいるし

さっきの俺のように中から呼び出さない限り

神族だと自由に出入りは出来るからな

天空はかなりキレてるだろうし、勇者もセリカも気を付けるべきかもしれねぇ」

「そんなヤバいやん!?」

「和彦もさらに警戒してくれてる

大丈夫だろう…オマエもいてくれるしな」

セリちゃんは簡単に言うが、僕はそのコトだって天空はわかりきってると思う

だから余計に心配だ…セリちゃんに何か悪いコトが起きるんじゃないかって……

セリちゃんは僕の心配にも気付かずウサギの僕をぎゅっと抱きしめて額にキスして撫でてくれた



それから無事に夏祭りの日がやってきた

空の神も天空も、どちらの動きもなくて

逃げたのか、消滅したのか、わからないが不気味だと感じる

あの天空がそんな簡単にやられるとは思えないからだ

そんな空気感にして、簡単にやられてたらどうしよう……実はめちゃくちゃ弱かったとか

鬼神を封印した時も実は複数いた他の神族の力だったとか

「カニバくん、セリちゃんと一緒にお祭り回らないの?」

お昼のうちにメスのセリちゃんに一緒に行けないコトを伝えると寂しそうな顔をされた

僕だってセリちゃんとお祭り行きたかったよ!?

「オミノを見張ってなきゃならねぇから…」

手当たり次第にナンパする女好きのオミノを、外からたくさんの人達が来るのに何かやらかしてからじゃ遅いから僕が監視しなきゃならねぇ責任感が…

タキヤは連れて来れないが、もうオミノも連れて来るのやめようかな

コンサートの時は大人しくしてたんだけどさ

「カニバくんは偉い子ね、良い子良い子」

セリちゃんに頭ナデナデして貰って嬉しい

そんなこんなであっと言う間に夜になって夏祭りへと出掛ける

「はぁあああ…こんなに沢山の美女がいるのにカーニバル様の子守をしなければいけないなんて」

大きな溜め息をつきながら僕の後を歩くオミノは文句を垂れる

「それは僕の台詞なんだが?

僕だってオマエの子守じゃなくてセリちゃんと一緒にお祭り楽しみたかったっての」

カキ氷やらからあげやら綿菓子やらイチゴ飴やら食べたいものいっぱい買って人通りの少ない落ち着いた階段に腰掛ける

僕は草食動物のウサギだが、人間の姿の時は人間と同じものが食べられるのだ

「ここのイチゴ飴美味しい、後でセリちゃんにも買って帰ってあげよっと」

「たこ焼きもお好み焼きも美味いですよ?」

隣でオミノははじめて食べたと感動してる

そういやたこ焼きとお好み焼きの屋台が関西弁の鬼神監修とか言ってたな

本人はカキ氷担当なのに、そっちにめちゃくちゃ力入れたとか

「たこ焼きもお好み焼きも、セリちゃんがいつでも作ってくれるもん」

「自慢っすか!?自慢っすか!?」

「自慢だよ」

もう少ししたら花火が上がる時間か~と真っ暗な空を見上げながら綿菓子を食べていると、少し離れた場所で知った人の姿が目に入る

あれは…美紀先生?それともう1人誰だろ?男の人だ

「美紀!会いたかった」

「あなた!あたしもよ」

オミノには聞こえないかもしれないが、ウサギの僕はその会話がよく聞こえた

どうやら男の人は美紀先生の旦那さんのようだ

生きた人間が…亡くした妻に会いに来た……

死者の国の夏祭りはそういうコトだった

年に数日の間だけ、会える…会いたくても会えない愛する人に

死者に触れるコトはできなくても、元気な顔と声が聞けたら…

2人はお互いの想いを言葉にして愛を伝え、その時間を大切にする

大切な愛の間に、美紀先生は木の陰に声をかけた

そこから遠慮がちに姿を現したのは浴衣を着たローズだった

「その娘は…」

「あたし達の娘、ローズよ」

いきなり自分達の娘と紹介されて、旦那さんは驚いたが妻のコトはよくわかっているようですぐに笑顔で受け入れる

「美紀の夫の美紀夫です」

美紀先生って苗字が幹だったよね!?

幹美紀夫と幹美紀の夫婦なの!?2人でミキが4つも!?美紀の夫で美紀夫って凄い運命的だな!?

絶対あだ名みっきーじゃん

「そしてローズのお父さんだ、可愛い僕達の娘」

みっきーはローズの前で屈んで愛しそうに見つめた

「お父さん……」

優しいその笑顔にローズは美紀先生に目を向けるが、美紀先生が優しく頷くとローズはお父さんを見て微笑んだ

「可愛いでしょ~!あたし達の娘!!」

「世界一だ!!抱き締めてやれないのが残念だな」

「しかもとっても賢いのよ」

血は繋がってなくても、似てなくても本物の親子になれるんだな

みんな幸せそうで、僕もなんだか嬉しい

そんな3人に近付く不穏な影……

生きた…人間だよな?でもなんか変だな

生きた人間は近くにいる死者の肩にぶつかってよろける

ぶつかった死者は驚いたがとくに気にするコトもなく通り過ぎていく

そうか、生きた人間は死者に触れるコトはできない

でも、僕もそっちの方はあまり詳しくないが死者に触れるコトができる遊馬のように霊感が強い奴もいるんだ

それに何か様子がおかしいぞ

「幼女……グヘヘ…ロリ……食べてしまいたい」

ブツブツ呟く声も周りは聞こえてなくても、僕にはよく聞こえてる

あの危ない奴、もしかしてローズを狙ってるのか!?

そう気付いた時にはもう危険な奴はローズの腕を掴んでいた

「グヘヘ捕~ま~え~たぁ!!」

「きゃーーー!?」

みっきーも美紀先生も一瞬ローズから目を離していた隙だった

ローズが悲鳴を上げるとみっきーが立ち向かう

「おい!僕の娘に何をする!?」

「邪魔をするなぁ!!この幼女はおいらのものだぁ!!」

マズいぞ!?危険な奴は手にナイフを持ってる

みっきーは気付いてないみたいだが、このままじゃ刺されるぞ

僕は助けに飛び出す

「カーニバル様?」

呑気なオミノは置いておいて、距離がある人の姿の僕じゃ足が遅い

ウサギの姿に戻って駆け付けるが、一歩間に合わない

危険な奴はみっきーの腹をナイフで突き刺した

「お父さん!?」「あなた!?」

その場に倒れ込むみっきーにローズと美紀先生が駆け寄る

そのローズの後ろから危険な影が…

僕は人の姿に戻って、ローズを掴もうとする危険な奴の顔目掛けて蹴りを入れた

が……僕と反対側から蹴りを入れてる人がいて、危険な奴は両側から強烈な蹴りを挟まれ後ろに大きく倒れ込んだ

暗くてよく見えないが…誰が助けてくれたんだ……?

「美紀…ローズ……すまない…」

「何謝ってるのよあなた!死なないで!!」

「そうよお父さん!死んじゃ嫌よ!!」

美紀先生とローズは涙ぐむ

反対側から蹴りを入れた人は危険な奴を拘束する

僕はみっきーを心配して

「誰か呼んでくるから!!」

そう叫ぶと、みっきーは僕を止めた

「少年よ必要ない…」

「必要ないって諦めないで!!」

美紀先生とローズが涙を零す

みっきーはシャツをめくって…なんか分厚い写真集出てきた……

えっ……?もしかして……無傷!?

「2人ともすまなかった……

この写真集を見せられながらローズの推しアイドルの話をされて、こんな若造に僕の娘はやるものかと嫉妬して後で燃やそうと……」

「「……………。」」

ローズと美紀先生の涙が綺麗にピタリと止まった

僕が危険な奴を怪しんでる間に、アイドルの話してたのか…

ローズの推しアイドルってオスのセリちゃんだよな…セリちゃんって写真集出してたっけ!?

みっきーの持つ写真集の表紙を見ると

いや非公式!?だって隠し撮りだもん!?

そうだよ!!公式だったら僕も買ってるし、レイなら買い占めてるぞ!?

いつも持ち歩いてるんだローズ…

いくら推しでも凄い…いや、セレンも同人誌常に持ち歩いて布教してたわ

「あなた……」

「…ふふふ……お父さんったら、アイドルに嫉妬なんておかしいの」

美紀先生とローズがふっと吹き出して笑うとみっきーは怒らないのか?と不安になる

「さすが私の推しのセリくんだわ、だってお父さんを守ってくれたんだもの

私はお父さんが無事で安心してるのよ

それに、写真集は同じものを最低5冊は持ってるから大丈夫」

2人の安心した笑顔を見て、みっきーも笑って手を伸ばす

「美紀…ローズ…僕の愛しい2人を抱き締められたらどんなに幸せだろう」

「あたし達はずっと待っているわ

人生を謳歌したあなたを…だから毎年会いに来てくださいね」

「お父さんもお母さんも大好きよ」

3人の親子の絆も幸せも誰にも邪魔できない

それじゃ、僕は黙ってこの場を立ち去るかな

同じように危険な奴を捕まえた人も考えていたようで、危険な奴を引きずって闇に消えて行く

結局…あの人は誰だったんだろう

「あっ待って、カーニバルくん助けてくれてありがとう

貴方ともう1人…あれ?待ってください!お礼を」

ローズは去ろうとした僕の手を掴み、もう1人を追い掛けた

途中でもう1人が足を止める

「あの…2人ともありがとうございました

2人が助けてくれなかったら…お父さんは危なかったです

そして私も…どこかに連れて行かれたでしょう……

あの時のように…」

ローズもまた…小さい子供なのにとても悲しい人生を生きた1人だ

このままローズには幸せになってほしい

「お名前を…」

ローズは僕の手を掴んだままもう1人に近付き、目の前に回り込む

見上げてはじめてその顔を見た

なるほど、この人は骸骨天使だったのか

見回りは骸骨天使がしてくれてるって話だったな

骸骨天使はたくさんいるから安心だけど、さっきのは刺されてしまってるから間に合ったとは言えないが運がよかった

納得した僕と違ってローズは骸骨天使にまた一歩と近付き、骸骨天使の長い首巻きを手に取る

「この首巻き……知ってるわ」

「えっ?」

骸骨天使とローズが知り合い?

ローズは懐かしいと微笑み見上げる

「あなた、ロックなんでしょう?

会いたかったわ……もう生まれ変わってしまったんだと思ってたもの」

ローズの瞳には大きな涙の粒が溜まる

骸骨天使は何か言いたげでアタフタしたが、照れ隠しなのか危険な奴を連れて猛スピードで闇へと消えて行った

「知り合いだったのか?」

僕が聞くとローズはとても仲が良かったのか、全てわかってるかのように話した

「えぇ、照れ屋さんなの

ちょっと変わった人だけど、とっても優しい人よ」

ローズがいつも5歳だってコトを忘れるくらい包容力も理解力もある大人に見えるぞ

後からみっきーと美紀先生も駆けつけてくれた

「カーニバルちゃんにも助けてくれたお礼を言わなきゃね」

美紀先生は誰でもちゃん付けで呼ぶ

「もう1人の彼にもお礼を言いたかったんだがな」

みっきーはロックが消えた先を眺めるがもう姿も確認できない

「また会えるわ、きっと」

ローズはいつまでもロックが消えた闇を見つめていた

その後、僕はローズからセリちゃんの非公式写真集を2冊譲って貰った

1冊は僕用でもう1冊はレイに100万で売りつける



次の日、レイは「セリの非公式写真集が100万?安いな、安すぎる」と言って買ってくれた

そして高額で売りつけたコトがセリちゃんにバレて怒られた

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