183話『君を助ける囁き』天使編

ついに待ちに待った夏祭り開催!!

楽しみで昨日は眠れなかったけど、めっちゃ元気だよ

夕方からみんなと待ち合わせ

先に待ってたのはセリくんとセリカちゃんで俺は2人と合流する

他のみんなはまだみたいだ

いつもも可愛いけど、今日のセリカちゃんの浴衣姿も凄く可愛い!!

「セリカ可愛いぞ!!」

自分大好きなセリくんは浴衣姿のセリカちゃんを見るといつにも増して褒めまくった

「花柄ピンクの浴衣めっちゃ似合ってる!!いつもと違う三つ編みシニヨンの髪型も死ぬほど可愛い!!」

「うんうんセリカちゃん最高に可愛いよ!」

セリくんと俺が褒めるとセリカちゃんはご機嫌だったけど…

「胸が小さいから浴衣を綺麗に着こなせ…」

キッとセリカちゃんがセリくんを睨むと、自分の機嫌を損なったコトにセリくんは口を閉じて青ざめる

余計なコト言ったんだろうなって空気だけは読めた

「…セリくんもどうせ浴衣着るなら私と同じ浴衣を着ればみんな喜ぶのに」

「なんで男の俺が女の子の浴衣着なきゃならねぇんだよ!?怒ってんのか!?俺はこれで良いの!!」

「私と同じ顔と背丈なんだもの、私と同じ浴衣の方がずっと似合うわ」

髪型を同じは無理だけど、セリカちゃんは腰まであるスーパーロングヘア(今はシニヨン)でセリくんはミディアムヘアだもんね

それってセリくんにそっくりな俺にもダメージ来てるよね…

「セリカは俺のコト嫌いなのか!?俺は大好きなのに」

自分のコトは自分が1番わかってるハズなのに、セリくんは自分の気持ちを取り戻すのに必死だった

いつものコトと眺めるだけ

そんなこんなで約束していたみんなが集まってくる

「お待たせ!アタシ夏祭りってはじめてで話を聞いた時から楽しみにしてました!!」

マールミはいつもの元気と一緒にワクワク感で目をキラキラさせる

「俺もずっと楽しみにしてたよ、だって今年もあっちの世界の地元の花火大会は中止だったから凄く残念だったな」

残念に思っていたからこっちの世界で夏祭りがあるって聞いた時はテンション上がったもん

「私も夏祭りはじめてで楽しみよ、それにこの浴衣とっても素敵だわ」

ローズはクルッとその場で回って浴衣をとても気に入って笑う

「ローズもマールミも浴衣似合ってて可愛いよ」

女の子はみんな可愛いよね

「子供組みはみんな可愛いわね」

「本当に可愛いみんな」

セリカちゃんとセリくんの言葉に

「だよね!」

って同調すると

「天使も可愛いわ」

セリくんもセリカちゃんも俺のコトも子供と思っている

それは最初からわかってたけど

「俺は子供じゃないもん!!」

やっぱり子供扱いは嫌

「9歳は子供だろ」

「俺は人間じゃないから9歳でもちゃんと大人なんだもん!0歳の時から大人だったもん!!

子供の時なんかないもん!!」

「そうやってムキになるとこが子供なんだぞ」

セリくんは俺の頭を撫でて笑う

完全に子供扱い……どうして?俺は大人だよ

セリくんと一緒じゃん

ヤダよ…嫌な気持ちになる

「みんな夏祭りは楽しいが、外から人もたくさん来るって話だ

骸骨天使が見回りをしてくれてるとは言っても、中には変な人もいるかもしれねぇからみんな俺から離れないように

そして知らない人にはついて行かないように

約束できるな?」

「「はーい!!!」」

セリくんの言葉にローズもマールミも元気に返事をする

俺は子供扱いされたコトに拗ねて返事をしなかった

確かにセリくんは23歳の大人だよ

俺は9歳だからセリくんの半分も生きてないよ

でもそれって人間の年齢の話でしょ

凄く不満だ、セリくんの分からず屋

俺が膨れていると、結夢ちゃんが姿を現す

まだ待ち時間より早いのにもうみんな集まってるコトに結夢ちゃんは慌てた様子を見せる

「あっ結夢ちゃん!」

彼女の姿にさっきまで膨れていたのも忘れてパッと気持ちが明るくなって笑顔で手を振る

結夢ちゃんと一緒は嬉しい

浴衣姿も可愛いな~…

「そんなに慌てなくても」

セリくんが結夢ちゃんに近寄ろうとした時、結夢ちゃんは慣れない下駄に足を取られ階段を踏み外してしまう

危ないって一瞬ヒヤッとしたけど、傍にいたセリくんが結夢ちゃんを受け止め支えて怪我をするコトもなく無事だ

「大丈夫か?」

セリくんの言葉に結夢ちゃんは顔を赤くして頷く

「よかった」

階段を下りる間、セリくんは結夢ちゃんを気遣って手を繋いでくれて

下りきった後はすぐにセリくんから手を離してしまったけど

その手を追うように少しだけ結夢ちゃんの手が迷って引っ込んだのに俺は気付く

結夢ちゃんはいつも手袋をしてて

最初はどうしてだろう?って思ってたけど、結夢ちゃんは素手でセリくんに触れると彼女の見える世界の不幸が見え伝わってしまうかららしくて

それはセリくんだけで、結夢ちゃんはいつもセリくんに触れるコトがないように気を付けてのコトだった

だんだんと……わかってきたコトがある

結夢ちゃんはもしかしなくてもセリくんのコトが好きなんじゃないのかなって…

結夢ちゃんは喋れないから、何を伝えたいのか一緒にいる時間が長くなると何となくわかってくるようになった

だから…結夢ちゃんがどう思ってるのか…もう気付いたよ

それに気付いたら……嫌な気持ちになる

なんでこんな気持ちになるのかわからない

セリくんはセリカちゃんだから、俺は大好きなハズなのに

気付いてしまってから……嫌な気持ちが膨らんでいくんだよ

「天使、どうしたの?夏祭りに行くわよ

楽しみにしてたでしょ?」

いつの間にかみんな離れていて、ついてきていなかった俺に気付いたセリカちゃんが顔を覗き込む

「……うん…」

セリカちゃんと一緒にみんなの後を追う

前を歩いてるのはセリくんと結夢ちゃんが2人で並んで話してる

結夢ちゃんは微笑んで頷くだけだけど

俺は結夢ちゃんと仲良しのハズだったのに、どうやって仲良くしてたっけ?

思い出せない

夏祭り楽しみだったのに、全然楽しくない

なんでかわからなくて、モヤモヤして…しんどいや

「金魚すくいだって、面白そう!!」

マールミが指差した屋台にみんなで向かう

マールミとローズが楽しんでるのを後ろから見てるだけ

「天使はやらないの?」

「見てるだけでいいよ」

「……具合悪い?」

「普通だよ」

セリカちゃんはきっといつもの俺じゃないって気付いてるかも、でも元気出ないんだもん

セリくんと結夢ちゃんが隣のヨーヨー釣りしてるのなんかムカつくもん

「おっしゃーーー!!今年もやったるぜーーーー!!!」

金魚すくいの屋台に一際うるさいのが現れた

「何代目か忘れた今年の四天王の1人オヤビンはどいつだぁ!!!!???」

「キルラ来てたの、アイツは目立つわね」

死者の国に魔族が来たら目立つよ

セリカちゃんが冷ややかにキルラに視線を送る

魔族の自称四天王の1人って金魚だったんだ…

いつも3人しかいないから後1人誰だろって思ってた

ってか、魔族の四天王じゃなくなってるよね!?

キルラとポップが魔族で、1人が白虎のラスティンで1人が金魚!?半分魔族じゃないけどそれで良いの!?

自称だから香月公認じゃないってとこが面白いわ

「おっセリカ様じゃーん、天使も一緒で楽しんでる~?」

「相変わらずキルラはお祭り好きで金魚すくいが好きね

死者の国まで来るなんて、魔族も毎年花火大会やってるんでしょ?」

「もちろんっすよ!今年の花火大会も派手にやりまっせ!!

もちろんセリカ様も来てくれんすよね!?」

「そうね、気が向いたら行くわ」

ふふふと笑うセリカちゃんの隣にいる俺を見てキルラは片手で俺の身体を掴んで持ち上げる

「いつもの元気はどうしたよ!?お兄ちゃんが高い高いしてやろうか~!?」

もうしてんだよ

「子供扱いはやめろ!そんなので機嫌良くなるワケないじゃん!!余計悪くなるだろ!?」

そもそも俺は空を飛べるから高い高いで喜ばねぇよ!?

「ほ~らたかいたかーい!!」

超うぜぇ…まぁでもキルラは俺には友好的かな

キルラは鳥型の魔族で、俺には天使のような翼があるから見た目だけで鳥の仲間と認識されてるようだ

全然違うのに見た目で判断

そして俺はセリくんにそっくりだからそれもあるのかも

「キルラやめてあげて、さっきから天使は子供扱いされて拗ねてるのよ」

「ガキをガキ扱いして何が悪いんだよ

そんな事で拗ねてるとかそれがもうガキじゃね」

キルラに下ろして貰うとスネを思いっきり蹴った

「いっ!?…たくねぇわ……可愛ぇ~子供可愛ぇ~な~反抗期かぁ?」

勇者のセリくんに蹴られる痛みを知ってるからか見た目が同じ俺が蹴るとキルラは一瞬ビビったが、勇者じゃない俺の蹴りに魔族のキルラは少しも痛くはない

「キルラ嫌い」

「これがイヤイヤ期!?何が嫌なんでちゅか~?お兄ちゃんに言ってみ?」

反抗期よりさらに下の年齢の話!?

赤ちゃん言葉とかめっちゃナメられてんじゃん!?

カニバが赤ちゃん扱いするなって気持ちがスゲーわかる

セリカちゃんがいくつになってもウサギのカニバを赤ちゃん扱いするように、魔族のキルラにとって俺はいくつになっても赤ちゃん扱いされるかもしれねぇ…

ここは下手に反抗すると余計子供扱いされるな

無視しよう

ふんっと俺はその場から離れて、隣の隣のカキ氷の屋台の前に移動する

「天使様や、どないしたん?元気ないやん」

カキ氷は関西弁の鬼神が担当してたのか

「カキ氷食べるか?わしの奢りやで」

「えっいいの!?」

「ええよええよ、何味にする?」

「イチゴ味!!」

カキ氷……嬉しい

鬼神がふわふわのカキ氷を作って甘いイチゴのシロップをかけて渡してくれた

「カキ氷冷たくて美味しい~」

「そうそう、天使様は笑顔が1番やな」

カキ氷を口に含んだだけで笑顔になる

鬼神に言われて、俺はさっきまでどんな顔してたんだろ?

いつも楽しいハズなのに、さっきまでは…

視線をセリくんと結夢ちゃんの方に戻す

また笑顔を失ったコトに自分では気付かない

「セリくんと…結夢ちゃんは…仲良しだよね……」

「わしは女神結夢の事はそんなに知らんけど、セリ様とは仲良しやんな」

鬼神も全てを知ってるワケじゃない

セリくんとは気が合う友達みたいだけど、結夢ちゃんと鬼神は関わりもそんなにない

「仲良しって……いつか、付き合ったり……するのかな…恋人になっちゃう?」

俺の言葉に鬼神は一瞬固まって

「いやそれはないやろ!セリ様には和…いや恋人がいるんやし」

普通なら真実を教えてくれたかもしれない、でも俺が子供だから鬼神は濁した言い方をする

セリくんに恋人がいる…って話は聞いたコトはあるけど

「別れるかもしれないじゃん…」

「別れ……られないやろ…万が一セリ様が別れたいって言っても無理やで……」

どんな人と付き合ってんの!?鬼神がビビるくらいの恐い人がセリくんの恋人なの!?

そんな恐い女の人いたっけ…?

別れるかもなんて言い方よくないよね…俺、悪い子だ

「そんな心配せんでも、大丈夫やって」

「心配?」

「ヤキモチやん?それ」

ヤキモチ…?なんのコト?って首を傾げる

「ほら、セリカ様が呼んではるで」

鬼神に言われて視線を向けるとセリカちゃんが俺を手招きして呼んでるのが見えた

「あっセリカちゃんが呼んでる!鬼神ありがとう、カキ氷美味しかった!!またね」

鬼神に笑顔でバイバイすると鬼神も笑顔で手を振ってくれる

「天使、人も増えてきたから離れちゃ迷子になるわよ」

「迷子になっても俺が空から探してあげるから大丈夫だよ」

「花火が上がるから危ないの」

そうだった、もう暗くなってきて花火の時間が近付く

その時間は危ないから空飛べないね

「あれ?ローズは?」

さっきまでマールミと一緒だったのにと見回す

「天使ってば、ローズは夜から美紀先生と一緒って言ってたの忘れちゃった?」

マールミに忘れん坊さんと笑われる

そういえばそんな話聞いたのを思い出す

変だな…そんなコトも忘れるくらい、余裕がないみたいだ

笑われてちょっと恥ずかしい…

すると、結夢ちゃんが俺の目の前にきて大丈夫と頭を優しく撫でてくれた

「結夢ちゃん……」

さっきまでのモヤモヤが一瞬で吹き飛んでしまうくらい、なんでか…凄く嬉しい

優しく微笑んでくれる結夢ちゃんが好き

「ねね結夢ちゃん!さっきね、鬼神のとこのカキ氷食べて凄く美味しかったから一緒に食べに行かない?」

俺の言葉と同じくらいのタイミングで、セリくんが言う

「混んできたし、そろそろ花火がよく見える場所に移動しようか?」

結夢ちゃんは俺じゃなくて、セリくんの方を向いて微笑み頷いた

………あぁ…そうか……

そんなにセリくんの方が好きなら……もう…いいよ

「俺は行かないから」

思わずセリくんを突き飛ばしてしまった

どうしてこんなコトをしたのかもわからないけど

「えっ?どうしたんだ、天使?ご機嫌斜めだが…」

セリくんもビックリしてるけど、みんなもビックリしてる

どうもこうもしないよ!ただ…

「嫌!!」

って気持ちが大きくて、俺はそのまま空を飛んでその場から去った

みんなは空を飛べないから追いかけて来れない

それでいい、誰も来ないで…嫌なの、何か嫌……


部屋に帰って引きこもろうと城の前で地上に降りると、俺の帰りを待っていたのか友達のリスが俺の肩へと飛び乗る

誰にも会いたくなかったけど……動物は可愛いだけだな

「もう夜なのに、オマエは帰らなくていいのか?」

他の動物の子達は見当たらない

話を聞くとママと喧嘩して家出してきたらしい

動物の世界でも家出とかあるんだな…

家出か…嫌な気持ちになるならそれもありなのかも

「可哀想に…なんて可哀想な…

こんなに可愛い天使の笑顔が奪われている」

「誰!?」

人の気配なんて感じなかったし、みんなお祭りに行ってるのに、いつの間にか俺の後ろに現れて声をかけてきた人物に警戒して振り向く

「怖がらせたかな?

そんなに身構えなくても、ボクは女神結夢と同じ神族だ

悪い人ではないから信じてほしい」

神族……?結夢ちゃんやセレンやフィオーラ、そして和彦が神族ってのは知ってるし

みんな良い人だ

同じ神族なら…良い人に違いないか

あれでも…セリカちゃんが神族の誰々は危険な奴だから近付くなって言ってたような……

なんて名前だったっけ?

それにしても…はじめて見る人だけど、なんで足元が泥だらけなんだろ?泥遊びでもしてたのかな?……大人なのに泥遊びするんだ

そんな泥遊びするようなわんぱくな人には見えないけど

「お兄さん、お仲間の神族ならみんなお祭りの方にいるよ」

「いいや、ボクは天使に女神結夢を助けてほしいと思ってね」

目の前の神族のお兄さんは大袈裟に辛そうな顔をして訴えた

「結夢ちゃんを…助ける?どういうコト?」

「女神結夢は話せないだろう?

ボクは同じ神族だから女神結夢の気持ちがわかるんだ

彼女は自分の国で幸せに女神として民達を守り平和に暮らしていた所を、あの見た目だけが取り柄の極悪人勇者がその幸せを壊し奪い去ったのだ!!」

めっちゃ憎しみが込められた言い方に圧倒される

そんな……話だったの?

実際に俺はその時のコトは見ていないし、結夢ちゃんがどうしてここにいるかも詳しく知らない

確か…結夢ちゃんの国のタキヤって男が悪い奴で……でも俺はそれも詳しくは知らないな

「えっでも結夢ちゃんはセリくんのコトが好きでここに来るコトを選んだんじゃ…」

ってマールミも言ってたような気がする

そう聞くと神族のお兄さんは物凄い形相で俺の両肩を掴んだ

「それは女神結夢本人から聞いたかい!?

自分を攫った男を好きになる女がこの世のどこに存在する!?

女神結夢はずっと自分の国に帰りたいと思っている

君は騙されているんだよ!?あの極悪人の勇者に!!

可哀想に!!なんて可哀想な天使!!こんなに愛らしい子供の天使まで騙すとは、とんだ大罪人ではないか!!」

「えっ…うっ……」

まくし立てられて言葉を失い、それと同時に混乱する……えっ?そうなの?

でも……ううん…よく考えたら、結夢ちゃんは優しい人だ

どんな相手にも優しく微笑む

それが悪い人にでもそうだとしたら……

セリくんは本当は悪い人…?

結夢ちゃんに酷いコトしてるのは…タキヤじゃなくて、セリくんなの?

そんなの……ウソだよね……?

「可愛い天使…君はボク達とは違う不思議な魔法を使うそうだね

何も難しい事はない、その不思議な魔法で…ほんの少し…すこぉしだけ、過去を変えてくれればいいのさ

女神結夢のために…君の大好きな彼女を助けるために……

天使にしか出来ない事なんだよ」

この人は俺の心を呼んでいるかのようだった

どうして、俺が過去に行ける魔法を使えると知っているのか…

今は不思議に思うコトも出来なくて、結夢ちゃんを助けるコトが出来るのは自分だけだと言われたら

俺は何も迷うコトなんてない

どうしたらいいか…神族のお兄さんが耳元で囁く

その言葉に俺は頷いた

「あら、こんな所で何をしていますの?せり」

後ろから名前を呼ばれて振り返るとセレン様がいつものように微笑んでくれている

「もうすぐ花火の時間ですわ、せりは皆さんと一緒かと思っていましたけれど迷子になりましたの?」

嫌な気持ちになってセリくんを突き飛ばして帰ってきたなんて素直に言ったら怒られるかな…誤魔化そう

「う…うん…迷子になって帰ってきてたの

それでこのお兄さんに会って」

「?…誰もいませんわよ?」

セレン様が首を傾げて、俺は視線を戻すといつの間にか神族のお兄さんは姿を消していた

「迷子なら仕方ありませんわね!セレンが一緒に皆さんを探してあげますわ」

そう言ってセレン様は俺の手を繋いでワクワクしている

たぶん…仕事で居残りか何かさせられてたけど、俺を口実にお祭りを楽しみたいんだろうなってのがヒシヒシ伝わってきた

「えっいいよ、セレン様

なんか気まずいし…」

「気まずい?どなたかと喧嘩でもしまして?

せりが喧嘩なんて珍しいですわ…」

「喧嘩はしてないけど…」

セレン様と目を合わせられない

言葉を濁していると、セレン様は屈んで俺と同じ目線になる

「せり、お前は良い子ですわ

お友達と喧嘩してもちゃんと仲直りできます

だから落ち込む事も心配も何もないんですのよ」

良い子…俺は良い子?

そうだ……そうだよね……!!

俺は良い子だから…悪い人は許しちゃいけないよね

わかったよセレン様

友達だからって、悪いものは悪い

ちゃんとしなきゃダメだよね

「ありがとうセレン様!俺、頑張るね!!

セレン様はお母さんみたいだから大好き!!」

「なんて可愛いのでしょう……

せりがセレンの天使だったらどんなによかったか

お前の事はセレンの他の天使同様に大切で可愛い存在ですわ」

セレン様は俺を抱き締めて頭を撫でてくれる

……セレン様……俺を創った人と生き写し…

あの人も…俺をこんなに可愛がって愛してくれたら……って

違うってわかってるのに、こんなに優しいセレン様を心のどこかで重ねてしまう

あの人は俺を欠片も愛してはくれなかったけれど…

「何かあったらいつでもセレンに相談するのですよ」

「セレン様…」

嬉しさと恥ずかしさに微笑み頷く

それからセレン様と一緒にセリくん達と合流する

みんな俺を探してくれていたみたいで申し訳なくなった

せっかくの夏祭りと花火なのに、こんなに心配かけたのはよくなかったな

反省

それから

「セリくん…さっきはいきなり突き飛ばしてごめんなさい」

頭を下げて謝る

「俺は気にしてないよ、天使が無事に見つかってよかった

みんな心配したんだぞ」

今は無理だってわかってる

セリくんが1人になってくれなきゃ……ね

「セレンも天使を連れて来てくれてありがとな」

「皆さんと合流出来てよかったですわ」

このままセレン様も一緒にお祭りと花火を楽しむ話になっていると、偶然レイとフェイが通りがかった

レイはフェイのお手伝いとして一緒にいるって言ってたっけ

「セリ、セリカ、みんなも楽しんでいるかい?」

「レイとフェイ、お仕事お疲れ様

俺達は楽しんでるが、オマエ達はやっぱり忙しいのか?」

「みんな可愛いが、好きなセリとセリカの浴衣が可愛すぎて言葉が出ない」

たまにレイは会話が出来ない時がある

「忙しいですね」

レイの代わりにフェイがちゃんと答えた

「あービックリした、レイの一言でセレンのスイッチが入るかと思って構えてたが落ち着いてるな

子供の前では徹底してるとこだけ尊敬する」

セレン様は変わらずニコニコと微笑んでいた

「セリカ様、このかんざしを頂いてもよろしいですか?

いつもとは違う今日のお美しいセリカ様の記念に」

フェイはセリカちゃんのかんざしに触れて

「いいわよ、似たようなの持ってるから」

「ありがとうございます」

許可を貰うとそのまま髪から引き抜いた

が、その直後にレイに奪われ真っ二つにかんざしが折られてから渡される

レイってたまに行動がよくわからない

「ほらよ、セリカから貰えて嬉しいな?」

「私のものになるくらいなら壊すって発想嫌いじゃないですが…」

「最低…」

セリくんの自然と出た軽蔑の一言にレイは自分のやったコトのまずさに慌てる

「いや…その…セリ…これは…

そうだ!セリカには新しいかんざしを買うから!!」

「そういう問題じゃねぇだろ」

「新しいかんざしなら私がセリカ様に買いますよ

セリ様も一緒に買い物に行きましょう

何でも買ってあげますよ」

「オレだって何でも買うぞ!」

「いや、俺とセリカはフェイと一緒に買い物に行く

レイとは行かねぇから」

「もちろんです、セリ様

残念でしたね?レイ」

またレイの息が止まった

「嵌められた…フェイの奴……こうなるとわかっててやったな」

「もっと大人になりましょう、レイ」

レイとフェイは仲良しで友達だ

そして、セリくんは人気があってみんなから好かれてる

みんな騙されてるんだ…本当は悪い人なのに

この世界で最初に出逢ってずっと一緒にいたのはレイだったっけ

レイとは大親友だってセリくんが話していたのを聞いたコトがある

レイはずっとセリくんを守ってきて助けてきていた

じゃあ…レイが一緒じゃなくなったら……

それからレイとフェイとは分かれ、みんなで花火を見たり夏祭りを楽しんだりした

俺はずっと考え事をしていて楽しめてはいないけど、来年もあるしそれはいいや

今は…



2日開催された夏祭りが終わって、俺はセリくんが1人になるのを待っていた

いつも誰かといるんだね…本当に人気者

悪い人なのに、悪い人だから人に好かれるのが得意なの?それでみんなを騙してるんだから

そして、やっとセリくんが1人になったのを見て俺は声をかけた

「セリくん」

「ん?天使か、どうした?」

「あのね…ちょっとついて来てほしくて」

「いいけど、どこに行くんだ?」

俺はセリくんの手を掴んで引っ張る

セリくんは何も聞かずについてきてくれて、人気のない街外れまでやってきた

それじゃあ…ちょっと眠ってもらうね

魔法でセリくんを眠らせる

「こんな所に連れて来て…ん…あれ、なんか……急に眠く…」

立っていられなくなって地面に膝がついてそのまま倒れ込んだセリくんを見下ろす

「……セリくんは間違えちゃっただけなんだよね……大丈夫、俺が正してあげるから

俺が結夢ちゃんのコト助けてあげるんだ」

とりあえず、ここじゃすぐに見つかっちゃうから移動しよう

神族のお兄さんの最後の言葉を実行する

少し変えるだけでいい……過去を

俺にしか出来ないコト

過去に行ける魔法が使える俺だけが結夢ちゃんを助けられるんだよ

過去を少し変えるだけでいい、そして変えるのはレイとセリくんを出逢わせないコトだって気付いたんだ

レイは今は力を失っているけど、それまでのレイは強かったしセリくんの言うコトはなんでも聞く

きっと結夢ちゃんのコトにも手を貸していたに違いない



誰にも見つからない場所にセリくんを運ぶ

それじゃ、さっそく魔法でセリくんの過去に行こうか

過去に行く魔法を使うと目の前の景色も空気も変わる

ここは……セリくんがはじめてこの世界で目が覚めた場所

懐かしい~、俺も前の世界で死んだ後はここで目が覚めたんだよね

はじまりの場所って呼ばれてて、凄いたくさんの棺桶があるんだ

懐かしんで周りをキョロキョロしていると、知っている声が聞こえる

「…ここは……一体…」

その声にハッと自分が何をしに過去に来たかを思い出す

俺はその声の人の前に立った

「おはよう…レイ」

俺が声をかけると、レイはビックリして目を見開く

「君は、天使か…?」

天使に見えるだけで、天使じゃない

でもレイを連れ出すには天使と思われていた方がやりやすいかも

「俺はせり、君を迎えに来たんだよ」

手を出すと、レイは少し戸惑ってから俺の手を取った

「……ここは、死後の世界なのかい?」

「そんな感じかな、だから天使の俺が案内してあげるね」

まだ混乱しているレイの手を引いてはじまりの場所から連れ出した

案内なんて言ったけど目的なんてないよ、ただセリくんから遠く遠く離れてくれればいいだけだから

道中はモンスターに襲われるコトも多くて、でもその度にレイが倒してくれる

めっちゃ強すぎない?レイってこんなに強いんだ…

ずっとセリくんはレイに守られてきたんだもんね

そうしてレイをはじまりの場所から連れ出して数日が経った



「せり、そんなに急いで何があるんだ?

疲れた顔をしているし、たまにはゆっくり休んでもいいと思うぞ」

急いでるつもりはなかったが、早く遠くに離れなきゃって意識が出てしまっていたのかもしれない

自分では気付いていなかったけど、言われて確かに俺はずっと疲れているコトを自覚する

未来のレイと違って過去のレイは俺に優しいんだよな

俺の世界にいるレイと同じくらい優しい

未来のレイはいつも俺を見ると、罪悪感がなんとか背徳感がなんとかって言って避けたりするもん

罪悪感?背徳感って何?

「そろそろ何処に向かってるか教えてくれてもいいんじゃないか?」

レイの言うコトはわかる

でも、俺はとくに何処に向かってるとかもなくて…困ったな

「世界の…果てまで案内…してるとこ?なんちゃって」

えへへとごまかして笑うとレイは、いつもなら仕方ないなって笑ってくれるのに

「世界の……果てまで…か」

とても辛そうに切ない表情をする

「せり…オレはずっと何かを探していたんだ

前の世界で果てまで探しても…結局見つからなかった」

「何かって…何を?わかってないのに探してたの?」

「世界の果ては危険な場所だった

オレなら生きて帰る事も出来たが…見つからなかったから、生きる事を諦めた」

それでこの世界に…?

レイは…その何かに命を懸けるくらいだったのか

「この世界に来て、その何かはわかったような気がするよ

お前の顔を見た時…オレはやっと見つけたんだと……思った

だからせりに付いてきたんだ

でも、違う……違った…お前はオレの探し求めていた人じゃない

お前と会ってわかった事は、オレが探していたのは人だったって事だ

手掛かりもなかった前の世界とは違う…

もうすぐ見つかるような気がする…会えるような気がするんだ」

何を…言ってるの?そんなの困るよ…

レイはわかってる…その誰かってセリくんのコトだ

2人は大親友だし、未来のレイとセリくんの縁の結び付きが強いコトはわかる

まだ会ってもいないのに、俺を見ただけで気付きはじめてる

これじゃ、レイがセリくんと一目会っただけで元通りになっちゃうよ

レイにセリくんを見つけられたら困るから絶対にダメ

なんのために過去に来たと思ってるの

俺は結夢ちゃんを助けるために……レイとセリくんを出会わせるワケにはいかない

「………レイ……そうだね、見つかると良いね

レイの探してる人……」

「ありがとう、せり」

ダメって言えない、そんなの怪しまれちゃうもん

どうにか……引き離すには…どうしたら

「もう案内はいいよ、ここからはオレ1人で探すから

せりは帰る場所があるなら送るよ」

マズいマズいマズい……それはダメ、俺と離れたらもっとダメだ

縁ってのは凄い強力な結び付きの力がある

こんな広い世界でも縁があれば遅かれ早かれ出会ってしまうのが運命だもん

せっかく結夢ちゃんの運命を変えられるハズなのに、そしてセリくんも悪い人じゃなくなるのに

このままじゃ未来にも帰れない

どうしたら……

「俺は……帰る場所がないから…」

話の途中で、周りの空気がガラッと変わる

何………この全身が重くなるような……息苦しい……恐い……

この感じ…空気が耐え難い強い恐怖に変わっていく

知ってるこの恐怖を、俺は

でもいつもこんな感じじゃない

「この感じ…最悪だ……せり、逃げッ」

逃げようとレイに強く身体を押されたが、そのままレイは躓いたのか俺を押し倒した感じになって地面に倒れ込む

「わっ…ビックリしたぁ~……

レイが転けるなんて珍し…?」

何か……違う…?

血の匂いが広がって嫌な予感に襲われる

ハッとしてすぐに身体を起こそうとしたタイミングで上に乗っていたレイの身体が宙に浮いた

「あっ……レイ…」

言葉を失うとともに血の気が引く

レイの……身体が上下半分に引き裂かれてるのが目に入った

一瞬で理解する

レイが…殺されてしまったんだって

言葉を失って動くコトも出来ないでいると、レイを殺した人が俺に近寄る

「……そっくりですが……人違いのようですね」

俺も殺されると本能で感じた

目の前の人は香月……容赦ない

逃げなきゃ…でも、すでに周りは強い魔物にも囲まれてしまっている

それでも恐怖から腰が引けて後退りしてしまう

「あ…れ…?」

次の一歩後ろへ下がった時は尻餅を付いてしまって、自分の両足が切断されているコトにも気付く

殺されるんだ……俺がセリくんじゃないってわかった香月は俺を殺そうとしてる

恐い…恐い恐い恐い……

「やめて……やめてよ!香月!!」

ワッと声を上げて泣いてしまう

嫌だ!死にたくない!!恐い!!恐いのヤダ!!痛いよ!痛いのヤダぁ!!!

「私の名前…」

香月の恐怖が少し和らいで、その隙に俺は空へと逃げ出した

香月も魔物も空までは追ってこれない

幸い空を飛べる魔物がいなかった

キルラみたいな奴がいたら俺は死んでたな

とにかく逃げなきゃ……

痛いのも恐いのもレイのコトも…もうめちゃくちゃだ

こんなつもりじゃ…こんなつもりじゃなかったのに……

俺は結夢ちゃんを助けようと思って少しだけ過去を良い風に変えたかっただけだもん…

なんでこんなコトに……

レイが死んじゃうなんて…そんなの絶対ダメだ

失敗した…失敗しちゃった

どうしよう…どうしたら……

魔法力を回復してもう一度過去に戻ってやり直すしかない

時間はかかるけど、それしか……

みんなが助かる幸せな未来じゃなきゃ意味ないんだよ

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