第39話『プライドを崩す無力さ』イングヴェィ編

セレンさんの国にいよいよ魔族が本格的に攻め入ると言う情報が入ってきた

悪魔を押さえ付けるだけでも手一杯の神族天使族にとってまた辛く大きな負担となる

それによって同盟関係にある俺の所へ援軍の要請が来て、俺はリジェウェィとセリカちゃんと少しの仲間を置いて城を離れた

今回は魔族が相手だから勇者でもあるセリカちゃんの力を借りるのがいいってわかるケド、絶対に危険だってわかってるのに連れて行くコトなんて出来ない

君は「私なら力になれるから」とついて来ようとしたけれど、やっぱりダメだよ

プラチナの力がない今の俺はあまり自分に自信がない

いくら君に有利な相手だったとしても

わざわざ君を危険な場所に連れて行くなんてできないもん

もう少しでセレンさんに手助けを頼まれたアンジェラ要塞へと着く頃

「天使が回復魔法を使えると言っても、セリカさんの瞬間回復には劣る

少し時間がかかる回復魔法より広範囲に瞬間の回復魔法を持つ彼女を連れてきた方がより心強かったのに」

隣でカトルがちょっと不満だと笑った

カトルだけじゃなくきっと他の仲間もそう思っているかもしれない

俺の仲間には自己回復を持つ種族も多いけれど、誰から見てもセリカちゃんの回復魔法には敵わないし魅力的なんだ

「甘えすぎだよカトル

セリカちゃんがいなくても大丈夫だって証明しなくちゃ、俺達のプライドに懸けてね」

「そう…忘れてた

僕達にはプライドがあった

空まで届くくらい高すぎるプライド

誰かに頼るなんて情けない

自分が1番なのだから…ははは」

やる気を出したカトルが馬を急かしたから俺も後に続く

少しするとセレンさんの言ってたアンジェラ要塞が見えてくる

その様子は魔族より天使と人間の数のほうが多く見えるケド、防戦一方で少し押されているようだ

このまま長引けば魔族が攻め落としアンジェラ要塞は制圧されてしまうね

今は魔王が人間だから魔族の力は天使族と互角くらいだと聞いていた

でも、押されているのを見てわかるのと1つだけ飛び抜けて強力な魔力を感じる

その強い魔力を目で追うと、以前カツアゲしてきた羊と人間を混ぜたような魔族のラナを見つけた

三馬鹿の1人…じゃなかった魔王四天王の1人か…

四天王はバカしかいないケド、強さだけは四天王を名乗るほどのコトはある

俺達が加勢してもちょっと厳しいかもしれない

「カトル、9割引き連れて天使達と合流して要塞を守って

残りは俺と一緒に

人間達の疲労が高まる長期戦は不利だから、さっさと大将を討ちに行くよ」

人間達が疲労してしまうと天使達の士気も下がる

天使達は人間の信仰心で強さを左右されちゃうんだ

押され気味の長期戦は人間達に絶望を与えてしまい信仰心が薄れやすくなるからね…

人間は弱い…

天使がどんなに励ましても絶望してしまうと結局人間を救えないんだろ!と神を否定しその力を自ら手放すのだから……

「「「はい!!!」」」

俺はここまでの移動として乗ってきたペガサスから降り、仲間と一緒に大将ラナの間にいる雑魚を軽く蹴散らしながら進む

プラチナの力がなくても、まだ魔族に遅れは取らないもんね

すぐにラナとの道は開かれる

「うぉっ!?えっ急になに…って思ってたら香月様の知り合いのプラチナじゃん!?

ちょっと待っ……!!」

一気に片を付けたかったケド、そう簡単にはいかないよね

ラナは俺の不意打ちに近い攻撃を槍で弾き返す

俺は自分についてきた仲間達に手を出さないでと合図を送る

ラナは強いからね…犠牲を出したくないの

「ぁっぶねーー!!セーフセーフ」

「「「きゃ~~~不意打ちされてびびってるラナ様も素敵~~~」」」

黄色い声援を聞いて気付いたケド、ラナの少し後ろには人間と羊が混ざったような魔族の女性達がズラッと並んで熱をあげながら応援していた

何これ…

「ありがとー!ありがと~皆!!」

「「「きゃーーー!!!」」」

ラナはカッコイイポーズをしながらファンからの声援に応えている

これは待たなきゃいけないのかな…

「さてさて、プラチナって香月様の知り合いじゃなかったの?

どーしてオレを攻撃するんすかね」

「久しぶりだね

知り合いだけど味方とは言ってないよ

今俺はセレンさんと同盟関係にあるから、ここにいて君を追い払いに来たの

あの時のカツアゲから随分レベルアップして悪さしてるんだね

ダメだよ他人の地を奪おうだなんて」

「ぬぬぬぬぬ………!!

まさかプラチナが神や人間の味方をしてるなんて

でも無駄ですよーーー!!

世界征服は魔族の夢!目標!オレ達魔族が最強!魔王様が1番!!

邪魔する奴は相手が誰であろうと、こてんぱん!!だ・か・らっ!!」

ラナは相手がプラチナの俺だとわかって手加減なしで襲い掛かってきた

おっとりした羊のイメージとは変わって、目に見えない速さに俺はついていけずあっさりとラナの攻撃をまともに喰らう

「うっぐ……」

ラナの一撃を受けただけで俺は数十メートル先まで吹っ飛ばされる

「「イングヴェィ様!?」」

目に見える傷より身体の中が破壊されてダメージが高く情けなくも口から血へどまで吐いてしまった

心配する仲間達の声に危ないからそこから動かないでと返す

やっぱりプラチナの力がない俺は弱いな

そんな俺が魔族の四天王に勝てるワケないのかもしれない

まだ魔王が人間であり魔族全体が本調子ではないにしろ

一撃でこのダメージならセレンさんが悪魔と同じくらい重く見て注意している意味が身に染みてわかった

「ラナ様が一撃でプラチナを…」

「素敵素敵~~~!!」

「私達のラナ様はやっぱりラナ様よね~~~!!」

キャーキャーと騒ぐファン達にまだ終わってないよとラナが手を上げた

「皆、危ないからね~

この戦いが終わったら1匹ずつ抱いてやるから今は大人しくしててくださ~い」

「「「は~~~いラナ様~~~」」」

羊が混ざってると言っても人型が強い

なのに、1人2人じゃなくて1匹2匹なんだ…

俺が今気になったのはそこだった

「プラチナだからって警戒してたら………

こいつ弱ぇえぞぉおおお!!!!!!!」

ラナは俺が立ち上がる間も与えずチャンスだと調子に乗って攻撃を仕掛けてくる

「ははははは!!!香月様はプラチナの力をほしがっていたけど、こんな弱っちぃ力貰った所で何のプラスにもなりませんね~~~!!!!」

ヤバイ…俺は死ぬコトはないケド、このままだといつか意識が途切れて負けてしまう

プラチナの力がなく自己回復ができない俺が意識を失う事は再起不能で誰かが魔法でもアイテムでも回復してくれるまで目を覚ますコトができない

ラナの攻撃を俺が弾こうとするよりラナのほうが何倍も速い動きをする

きっとラナは俺が動かなくなるまで攻撃をやめない

どうすれば…

考えても考えてもここから抜け出す方法は何も思い付かない

ただ単純に…力の差が大きすぎるってコトなの…

「おい、やめろよ!!」

少し遠くで聞き覚えのある愛しい声が耳に届く

その声が聞こえたと同時に君の体温と同じくらいの温かさを感じたかと思うと薄れゆく俺の意識はハッキリし傷は瞬時に回復して痛みも感じなくなる

ラナはそれに気付いていないのか俺は攻撃を受けては即回復の繰り返しになってしまってる

痛みもない受けたダメージも即回復するのに俺は怒涛のラナの攻撃を受けて身動きだけが取れない状態となった

「やめろって言ってんだろ!!?くそ…全然当たんねぇしこれ!!もういいや」

そう聞こえたかと思うと、俺の目の前にいたラナが簡単に吹っ飛んで視界から消える

変わりに現れたのは短銃を持って、それでラナを殴ったと思われるセリくんが姿を見せた

「大丈夫かイングヴェィ?」

ラナの攻撃で地に埋まっている俺へと手を伸ばす

セリくんの回復魔法のおかげで無傷とは言え、一方的にやられるだけの情けない姿を見せてしまうなんて…

セリくんは手を差し出してくれるケド、俺には複雑な気持ちしかなかった

君が勇者だから魔族に対しては強い力を持ってるとしても

こんな簡単にやられる俺じゃ、この先ちゃんとセリカちゃんを守れるのか不安しかない

「…ありがとうセリくん……

情けないね俺は、君にだけはこんな姿を見られたくなかったよ」

セリくんはせっかく手を貸してくれたのに俺はあまりの自分の惨めさにその手を取らず起き上がった

その俺の行動に少し困った表情をしてセリくんはゆっくりと手を引く

「イングヴェィ…」

「下がってて、今の俺は強くないから君が傍にいるとやりにくいんだ」

俺の気持ちをわかってくれたのかセリくんは仕方ないなと下がってくれる

君に情けない姿を見せたままこの戦いを終わらせたくないんだもん

「俺もイングヴェィがいると戦えないからやりにくいよ

そう言うならちゃんと勝って

俺にイングヴェィは絶対にセリカを守り抜けるって強さを見せてくれよ」

セリくんはそう言ってくれたケド、俺に回復の支援をしてくれる

このセリカちゃんと同じ体温が身に纏う感覚がその証拠

俺に絶対勝ってほしいからってセリくんからの応援

君達の瞬間と痛みを感じなくさせる回復は誰にも使えない最高レベルの魔法だ

神や天使でさえ回復魔法の詠唱と効果には少し時間がかかるし痛みを感じさせないなんてできない

死者蘇生はできないから即死じゃない限り瞬間に回復もしくは再生させる

不死の俺は首が吹っ飛ぼうが心臓を貫かれようが死なないからセリくんの回復魔法があれば防御面は無敵か

力を借りる…プラチナの力がない俺は誰かの協力がないとダメなんて…本当に情けないな

「もぉおおおおお!!!!!!?????

だから嫌だって言ったのに~~~~

セリ様が女神の仲間になったって聞いて、ほらね!!

実際こうしてやっぱりセリ様来ると思ってましたよ!!!!???」

吹っ飛ばされたラナは身体中の土埃を払いながら立ち上がると不満を早口で喋り出す

「なのにキルラがオレら2人なら大丈夫とか強引に言うから!!!!

そして本人遅刻ッッッ!!!!」

「あのモフモフな羊男も俺のコト知ってんのか

キルラって、じゃあ羊男も魔王四天王の1人?」

ラナは遅刻のキルラが来る前に勇者のセリくんが来てしまったコトにかなり動揺している

「そうだよ

ラナって言ってキル…」

「ラナ様~~~頑張って~~~!!」

「勇者か何だか知らないけど弱い人間に変わりないですよ~~~!!」

「ラナ様なら勇者の1人や100人へっちゃらです!!!」

キルラと同じ魔王四天王の1人ってコトをセリくんに伝える言葉をラナファンの黄色声で消し去られる

「可愛いオレの子羊ちゃん達の声援はとっても嬉しいんだけど

若い君達は何もわかっちゃ…いねぇ!!!!!」

常にバカ笑いを含めて声のデカイキルラもあれだったケド、一瞬溜めて語尾を強調するラナも…似た者同士って感じが……

「魔族のオレらに負けの文字はない

だがなぁ~~~~~~セリ様が相手だとそうもいかないわけですよ?

つまり勝っても負けても香月様に怒られちゃうわけですよ?

んじゃどうしろと!!!!!!????」

ぬぬぬと言いながらラナは今の状況に頭を抱えて考えている

隙だらけで今攻撃したら勝てそうだケド、魔族も色々複雑みたいで可哀相に見えたから待ってあげようかな

「はっ!?わかったわかっちまったわ簡単な事よ

このアンジェラ要塞を攻め落としてなんとかしてセリ様を土産に持って帰れば、香月様は喜ぶ!!

よっしこれで行こう!」

普通に考えてどうして敵である勇者を簡単に魔王城の中に入れて魔王の目の前に差し出すの!?

その時点で最終決戦になっちゃうよ!?

まぁ俺は香月くんがセリくんを気に入ってるのを知ってるから喜ぶとは思うケド…

ラナは決めたと手をポンッと叩くと俺の後ろにいるセリくんに目掛けて走る

「やめときなよ

ラナ1人じゃセリくんには勝てないからお土産にできないね」

向かってくるラナの目の前に立ちはだかり足を止める

「それに、俺がいるから簡単に渡さない」

「えっ何言ってんのこの人?

弱いくせにカッコつけちゃって、ボコボコにされたのにわかってないとか馬鹿なの?馬鹿なんだろ?馬鹿なんだよ」

ラナは俺が弱いとさっきのでわかったのか今度は本気じゃない攻撃を仕掛けてくる

スピードも威力もさっきより落ちているその槍を軽々しく避けた

ナメられたもんだね

今はそれでいい

じゃなきゃ勝てないから…俺を甘く見てナメてなよ

倒してあげるから

「ちょっと手抜きすぎたわ…真面目にやりますよっ」

そう言ってもラナの甘さはすぐには抜けない

俺はラナが繰り出してくる攻撃を全て弾き返すコトができる

「うわっあぶね!?」

隙を見抜いて俺のブーメランの刃先がラナの鼻を掠める

それにはビックリしたのか一度距離を取られてしまった

立て直されると次は勝てない

一気に蹴りをつけなきゃ

そう思った俺は今度はこっちから仕掛ける

「調子乗んなよ!!」

簡単に弾かれちゃったケド

「それはこっちの台詞だよ

俺を弱いって思い込んで手を抜いてる君のほうが今は弱いんじゃないのかな」

「あったま来た!!」

ラナは俺への思い込みをまた塗り替えて徐々に調子を取り戻していく

だんだんとラナの攻撃を避けられなくなってくるケド、セリくんの回復魔法で俺は攻撃を受けても無傷みたいなもんだった

そろそろ限界か

また一方的にやられる本気を出される前に決着つけないと

でも…どうやって……力の差は圧倒的なのに

1秒の間にどんどん強くなるラナと違って俺はだんだんとついていけなくなる

何も出来ないまま負けてしまうのか

また…情けなく惨めに君の前で……

「イングヴェィーーー!!!何やってんだよ!!!??負けるなんて絶対許さないからなーーー!!!」

少しでも俺に負けるかもなんて迷いがあった時、セリくんの声が聞こえて

その一瞬だけラナが氷に包まれて動きが止まった

すぐにラナは自分の身体を押さえ付けていた氷を力任せで粉々に割ったケド、俺はさっきの一瞬を見逃してはいない

ブーメランの刃を氷に覆われたラナの胸に力いっぱい突き刺した

「っぐあー!!!??」

ラナはすぐに槍で俺を身体ごと弾き飛ばす

致命傷じゃなくてもラナは胸を手で押さえて流れる血と屈辱に耐えた

セリくんの隣にはいつの間にかレイくんが寄り添っていて弓を構えている

さっきのラナの氷での一瞬の足止めはやっぱりレイくんだったんだね

プラチナの俺が援護されるなんて…誰かの力を借りるなんて……変な話だよ

でも、負けるくらいなら素直に受け取らなきゃいけないのかもしれない

本当に守りたいならその為にプライドだって捨てなきゃいけないんだね

「ありがとうレイくん」

「別に、セリがあんたに負けてほしくないみたいだったから少し援護してやっただけさ

まだ終わってないぞ…前を見ろ」

言われて俺は悔しがって身を震わせているラナに向かってブーメランを投げたケド、簡単に槍で弾かれて戻ってくる

「ぬぬぬぬぬ……セリ様に傷を負わされるなら

勇者だからまっ仕方ないか~って思うけれども、弱っちぃ奴から攻撃受けるとかありえねぇ!!!!!」

完全にラナは屈辱に怒りを震わせて何か言ってるケド、セリくんがあっと気付いて俺の傍に駆け寄ってきた

「今思ったケド、イングヴェィの武器ってブーメランなのか!?

俺、ブーメランってなんか好き!!

ちょっと貸して見せてよ」

今!?今なの!?

セリくんは俺の弱いセリカちゃんと同じ顔で興味津々に手を出して笑うから…ん~仕方ないな~

俺はその顔に弱いし、知ってたケド本当にセリくんもセリカちゃんも自由だよね

可愛いからと甘やかす俺も俺かもしれないが、と思いながらセリくんにブーメランを渡す

「スゲー!カッコイイ~~!!

でもちょっと重いな

ブーメランって投げても戻ってくるんだよな?」

そう言ってセリくんは目を輝かせながら試しにとブーメランをおもいっきり投げる

すると

「のあーーーーー!!!!!!???」

運悪く投げた先にラナがいて、セリくんの投げたブーメランがラナの身体を横に真っ二つにした

セリくんの勇者の力はどんな武器でも効果を発揮する

だから俺の武器であってもセリくんが使えば勇者の力として見ての通り魔族には大ダメージ

「あっ…悪ぃラナ当たっちまった」

まったく悪びれるコトもなくセリくんはサラッと言った

そして戻ってきたブーメランに手を出して受け取ろうとしたら刃の部分に当たって指を切断してしまったみたいで

「……あ~……うっ……ブーメランなんて…もう大嫌い………」

涙目で俺を見た

セリくんのとめどなく溢れ流れ出る切断された所からの血を見ていると妙な気分になる

セリカちゃんの指が切断されてそんなに綺麗な血を流して…地に落としてしまうのはもったいないよね……どんな味がするのか…なんてね

「セリくんにはちょっと難しい武器だったのかもしれないね…うんうん」

俺が慰めるように頭を撫でてあげると涙を浮かべながら回復魔法で指を再生している

「綺麗に治った!」

回復魔法で切断した指を元通りにしてそれを自慢するように手を出して笑って見せてくる

セリくんを見てると早くセリカちゃんに会いたくてたまらなくなるよ

ふふっと俺は君を見ていると自然と笑みが零れる

「ちょっセリ様、悪いって言うならオレの身体も治してくださいよ!!?」

ラナも魔王が人間の為に自己回復がまだできない

上半身と下半身が分かれてしまっても死ぬコトがないラナは大量の血を流しながら喚いている

セリくんの綺麗な血を見た時は妙な気分になったケド、ラナの血を見てもなんとも思わないな~

「えっヤダよ

だって魔族倒せば給料アップするし、オマエが四天王だって言うならもっとお金たくさん貰えるかもしれないもん!!」

「えぇ!?ヒドイ~オレの再起不能と金とどっちが大切なんすか!?」

「迷うコトなく金!!」

「あんたそれでも勇者かよ!?」

「だって俺はオマエ知らんもん

レイと金だったら、レイを選ぶケド…」

傍にいるレイくんを見上げ目が合うとレイくんが微笑むからセリくんも釣られて微笑んでいる

「はぁ!?何このバカップル!!ウザすぎんだけど!?」

「バカップルじゃねぇし!!」

セリくんいつも否定してるケド、そう言われるのは誤解を招くような言動を素でやってるからじゃないかな~って最近思うの…

「いや~~~ラナ様が負けてしまわれたわ!!」

「でも~負けたラナ様も新鮮で」

「「「素敵~~~!!!!!」」」

ラナファン達がラナの上半身と下半身を担ぎ上げて逃げる準備をしている

「これも全て遅刻して今だに来ないキルラのせい!!!あんにゃろ~~

セリ様さえいなければ簡単に攻め落とせた要塞なのに~~~

貴方がいると簡単に世界が征服出来そうにないのはいつもの事なんで

今日は負けを認めて撤退しますよ~

この身体じゃ戦えねぇしな!!!」

ラナがそう言うとファン達がラナを担いだまま撤退を始める

大将が撤退を決めたコトで要塞を攻め落とそうと天使や人間達と戦っていた他の魔族達も次々と引き上げていった

あっという間に嵐が去ったような静けさになっても

「とりあえず勝ったのか

でも、俺はまだ休めそうにないな」

回復を持つセリくんはこれから負傷者達に魔法をかけてあげなきゃいけない

天使達だけじゃ大変だもんね

いくら勇者の剣で回復魔法が範囲になってもそれは目の届く場所まで

要塞の中やここから反対側にいる人達には届かないんだ

「俺もセリくんのお手伝いをするよ

セリくんは要塞の中へ

外にいる負傷者達を運ぶのは俺の軍に任せてね

レイくんはセリくんの傍にいて何かあったら守るんだよ」

「当然だ」

そうして俺達は役割を分担する

俺は自分の仲間に伝えて外にいる負傷者と死者を要塞の中に運んだ


全員を運び終えると回復魔法で元気になった人間の兵士達がセリくんを囲んで騒いでいた

「勇者様ありがとうございます!!!」

「貴方様がいたから我々は勝つ事が出来ました!!」

セリくんは兵士達の感謝の言葉に戸惑いを隠せていない

セリカちゃんと同じで他人が苦手なのか顔を赤くして緊張しては笑顔が固かった

「おら田舎もので勇者初じめて見ただ!!」

「綺麗な人だ~~これが聖女様なのか~」

「戦は男の世界みたいなもんだから綺麗な聖女様がいるってだけでやる気出る!!」

中にはセリカちゃんでもあるセリくんを聖女と見えてしまう人も少なくないみたいだ

「だが彼氏持ち…」

「ちっリア充かよ」

「強くてイケメンとか勝てる気がしない」

隣にいるレイくんを見て勘違いする人も少なくなかった…

「勇者さんの仲間のレイさんも凄かったですよ!!」

「押され気味だった要塞の中の魔族を押し返してくれたのもレイさんとイングヴェィさんの仲間だったからね!!」

「同じ人間なのにレイさんの魔物の大群を押し返す強さはセリさんの勇者の力に負けないくらいだった!!」

ふ~ん…強かったのは大将のラナだけでそれ以外の魔物はたいしたコトなかったんだ

(それなりに強いから天使と人間が押されていたのに人間のレイくんの強さを認めようとしない)

そういえば俺がセリくんに助けられた時にレイくんが傍にいなかったのは要塞の中で守りに入っていたからなんだ

少しして現れたのは黙って姿を消したと思われるセリくんに気付いたからなのかも

レイくんはセリくんの騎士みたいなものだからいくら言われてもセリくんから少しでも離れるのは考えにくい

2人ともみんなに感謝されるくらいの活躍を見せたのに

今回の俺と言ったら…情けなくやられる一方だった……

要塞の守りを任せたカトル達はそれなりに活躍してくれたみたいで無駄ではなかったケドね

「お疲れイングヴェィ」

「お疲れ様、カトル」

大勢が集まる場所から少し離れた俺を見つけたカトルが傍まで来る

「あの男が勇者の仲間

はじめて戦い方を見たけれど、人間にしては強すぎかも

イングヴェィがやたらとライバル視するのがわかった」

「な、何言ってんの…

人間がプラチナの俺のライバルになんかなれるワケないでしょ

俺のほうが圧倒的に強いんだから!」

「そーかな」

ふふっとカトルは面白そうな事になりそうって人のこれからの苦労を想像して笑う

俺は動揺が隠せてなかった

カトルの言ったコトは図星だもん…

レイくんが人間で強いからってのもあるケド

本当に恐いのは目に見える強さじゃない

セリカちゃんの心を奪われてしまうかもしれないと言う不安

恋に愛にプラチナも人間も種族なんて関係ないのだから…

大丈夫だもん…俺は絶対にセリカちゃんをレイくんに会わせたりしない

そう思ってそうしているけれど

レイくんを見る度に俺の不安や心配はなくなるコトはなく増すばかり

もうすぐ…2人が出逢ってしまう

その不安や心配は予感に変わって……強くそう思うようになった



-続く-2015/05/17

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