第40話『憧れのダンスパーティー』セリカ編

アンジェラ要塞を守り魔族を追い返したとの話はイングヴェィ達が帰ってくるよりも早くに私のいる城にも届けられた

魔王四天王の1人ラナが大将としていたコトで、勝ち目はないかと思われ数多くの犠牲も出してしまったみたいだケド

イングヴェィが来て犠牲が抑えられ少し後にセリくんが来てラナを倒し終わったのだと

私はまだ魔族と戦ったコトがないから強さがよくわからない

でも、セリくんは簡単に勝っちゃう…

実感ないし信じられないケド、勇者の力ってそんなにスゴイんだ

今日にはイングヴェィ達が帰ってくると聞いて私は朝からまだかなと部屋の窓から外を見ながら待っている

すると、私のお世話をしてくれているメイドさんがたくさんの人間を連れて部屋に入ってきた

メイドと言う名の植物と人型をした人外でとても温厚で花の香りがする優しい人

「セリカ様!今夜はダンスパーティーですよ!」

「はっ…?」

いきなり言われて私が何もわかってないまま、メイドさんが手を叩くと一緒に来ている人間達が私に近付く

そして、数時間かけてされるがままに身体を磨かれ綺麗で可愛い真っ白なドレスを着せられて髪もメイクもと

気付いたら、私はお姫様みたいに綺麗で可愛い姿にされていた


「いつも綺麗なセリカ様ですが、今日はいつもと違った美しさはもう素晴らしいですね!!」

部屋の窓から見える外はもう真っ暗になっていてあっという間に夜になっいた

私をこんな姿にし役目を終えた人間達は私の部屋から出て行くけれど、メイドさんは最後の仕上げと言って

私の髪と胸に綺麗で可愛い真っ赤な生花をつけてくれる

「………………。」

私は何も言えなくなっていた

綺麗にしてもらえるのは嬉しいケド、いきなりだったし……

何より全身が映る鏡を見て私はちょっと照れる

自分で見てもいつもと少し違う私がいるから

真っ白なドレスはフリルとレースがとっても綺麗で可愛い

ほんのりドレスが輝いて見えるのは特殊な生地だったりするのかな?

光が当たると所々が小さな七色の光を放ってるみたい

髪はハーフアップに真っ白なレースのリボンにさっきメイドさんが付けてくれた真っ赤な生花からお花の良い香りがする

ちょっと…嬉しいかも……

自分が綺麗になるコトって…イヤなコトじゃないもんね

「ありが…」

私がお礼を伝えようとした時、メイドさんは

「さっ行きましょうセリカ様!

もうパーティーは始まってますからね!!」

と強引に部屋から連れ出されて大ホールへと引っ張っていく

えぇ!?本当急なんだケド!?心の準備とか何もないって言うか…

まず、私ダンスなんてやったコトないよ!?

大ホールの扉が開かれると静かだった廊下とは違ってガラリときらびやかで明るい雰囲気に変わり、大ホール全体に流れるクラシック音楽は聞いたコトがある

人の多さ、今まで体験したコトのない世界を目の前にして場違いすぎる私は卒倒しそうになる

「ではセリカ様!頑張ってくださいませ!!」

メイドさんは私にそう言って大ホールの扉を閉めた

もう逃げられない!?急にひとりぼっちにされて、どうしたらいいかわからない私は目眩がしてくるんだケド…

しかも私に気付いたみんなが注目をし始めた

誰かが近付いてくるワケでもない話し掛けてくるワケでもない

それでも注目されるのはとても恥ずかしいと思う

私が顔を真っ赤にして1人その場で固まっていると、大勢の中から私の前に出てくる人がいた

俯いていた私は足元に見える影と声とともに気付く

「セリカちゃん…」

優しい声、明るい声、そしてとっても良い匂いがする

私の心が少しずつ落ち着くのがわかって…顔をあげると

そこには久しぶりに帰ってきたイングヴェィの姿があった

「イングヴェィ…」

いつもカッコイイし綺麗な人だったケド、今日はいつもと違って…なんだか素敵に見えてしまう

こうして正装しているイングヴェィを見るのが始めてだから?

それとも、こういう場所の元で見るから?

イングヴェィも私も少しの間、言葉が出なかった

少し顔が赤いように見えるイングヴェィは何を考えているのかな…

「…ビックリしちゃった

いつもセリカちゃんは綺麗で可愛いけれど、今日はいつもとは違う綺麗な君だったから……」

ふふふと笑ってイングヴェィはさらに私へと距離を詰めて手を差し出す

「俺と踊って頂けますか?」

……!?

一度は言われてみたい台詞ベスト10のうちの1つ来た!?

あまりの嬉しさにテンションが上がってしまった私は自分がダンスをしたコトがないってコトも忘れてしまう

「やはりイングヴェィ様はセリカ様にダンスを申し込まれましたね」

「今まで誰にも申し込まず断り続けたあのイングヴェィ様が…」

「素敵~羨ましい~~」

「私もイングヴェィ様に言われてみたい…」

周りの注目度もさっきとは比べものにならないくらいざわついている

そうなんだ…イングヴェィは誰とも踊ったコトないんだ

イングヴェィは見ただけで覚えるし身体も動くから一度もダンスをしたコトなくても、私と違ってちゃんと踊れて上手なんだろうな

イングヴェィは返事を忘れてしまっている私の手を取って優しく引っ張る

「断られても、俺はセリカちゃんと踊るケドね」

みんなが目で追いかける中をイングヴェィは大ホールの中央まで私を連れてきた

大ホールの隅で聞いていた音楽がだんだんと大きくなると一緒に私の緊張も高まっていく

「で、でもイングヴェィ…私踊ったコトないし

前の時とは違ってみんなの前で踊るなんて恥ずかしいよ」

足踏んだり躓いたりよろけたりしたらどうしよう!?って不安を…

イングヴェィは太陽みたいな笑顔で吹き飛ばしてくれる

「大丈夫

ダンスは俺に任せて、周りなんて気にしないで俺だけを見ててよ」

今流れていた音楽が終わって、周りのみんながイングヴェィと私のダンスを楽しみにしているのか中央から離れて注目している

次の曲はイングヴェィと私だけみたいだ

余計目立つんだケド!?

イングヴェィの手が私の腰を支えると、ちょっとドキッとしてしまう

貴方の手は冷たいハズなのにそこから熱が全身に広がるみたい

私は緊張しながらもまっすぐにイングヴェィを見上げた

数秒静まり返っていたホールに音楽が流れ始める

私はすぐにその曲がメヌエットだとわかった

私はクラシック音楽が好きだしメヌエットは有名だったから、この世界にもクラシック音楽があるなんて嬉しいコトだった

音楽に合わせてダンスが始まる

緊張していた私だったけれど本当にイングヴェィに身を任せているだけで不思議と綺麗に踊れていた

音楽に合わせてダンスをするコトが楽しいと思うくらい固まっていた私の表情も少しずつ柔らかくなって笑顔になる

そんな私を見ているイングヴェィも太陽みたいな笑顔がますます輝いているようだった

周りの目なんてもう気にならない

大好きな音楽に合わせて身体を動かしダンスをするってこんなにも楽しいんだな

前もこんな気持ちだった

凄く楽しいって感じたもん…

楽しい時間、嬉しい時間、心が満たされるようなそんな短い時間が……壊されていく

「何あれ最悪」

「皆、イングヴェィ様と踊りたくても断られてるのに自分だけ踊れるって自慢ですかー」

音楽だけしか聞こえなかった静かな空間に誰かが聞こえるような声で場の雰囲気をピリッとしたものに変えた

「だよねー

いつもあの女だけ良い思いしてそれを見せ付けられるとか勘弁してほしい」

イングヴェィしか見ていなかった私の視線はだんだんと下がってきた

耳を塞ぐコトができなかった私は他の人間の女の子達の嫉妬も羨ましさも全て聞こえてくる

音楽が終わると途中まで楽しかったダンスも終わる

シーンと静まり返る大ホールの中はイヤな流れをしていた

「イングヴェィ様も皆もあの女に騙されてる

あたし達と変わらない人間なのに何が違うって言うの

自分だけは特別って女、大嫌い消えてほしい」

頭ではわかってる

私を嫌いだと思う人達の気持ちを

前にもあった同じコト

好きな人が憧れの人が自分じゃない別の人を好きだったら羨ましいし悲しいしイヤになるよ

ひがんじゃうよ

でも…頭でわかっててもやっぱり嫌われるってのは……私にとっては傷付くコトだった

「まだ…セリカちゃんのコトを悪く言う人がいたんだ……」

イングヴェィの私の腰を支える手に少し力が入るのがわかる

冷たく刺さるような声は怒っているのだと誰もがわかり空気は一瞬にして身を裂くほどに冷たくなった

イングヴェィが睨むと私のコトを言っていた人達が固まる

死を感じて待っているだけの表情

「…やめて!イングヴェィ!!」

私はイングヴェィの殺意のある魔力が上がるのに気付いて声を上げた

イングヴェィは…また殺すわ……

私の為に…人を殺す

「どうして?俺は君のコトだったらなんだってわかるよ

なのに…どうして……止めるの?」

イングヴェィの言う通り、確かに弱い自分はそう願ってる

自分が傷付くコトがイヤだから私を傷付ける全てを殺したい消したいって…

私は人間が大嫌い

さっきのコトなんて今までのコトに比べればマシだ

憎くて仕方がない

人間の中にも良い人だっているのにと言う考えさえ消し去ってしまうくらい

私は嫌い

人間の1番醜い部分は心

神様は人間を愛しているのに

私はちっとも人間を好きになれない

知れば知るほど、関われば関わるほどに醜い部分しか見えなくて嫌いになっていく

私はおかしい

人間なのに他の人達と考えや想いがズレているのかもしれない

自分だけが間違ってるのかもしれない

それでも…私は自分の信念を捩曲げたり折ったりしない

頭で考えて、その気持ちもあの気持ちもわかる部分はあるケド

私の心で感じたら首を横に振るコトばかり

人間は人間を傷付けて生きている

私はそれがイヤなの

嫌い…

人間として生まれ生きている私自身もそうだから…

私含めて、人間なんて…大嫌い

消えてなくなってしまえばいいのに…

でも、私のこんな醜い心のせいでイングヴェィまで巻き込みたくないの

私の為にそんなコト、イングヴェィには絶対してほしくないんだよ

イングヴェィは私の心はわかるみたいだケド、私の考えはわからないみたいだ

だから純粋に私の心だけを読み取ってそれを叶えようとする

「私はそんなコト望んでない!!」

「俺はね…セリカちゃんのお願いならなんでも叶えてあげる

ウソなんてつかなくていいんだよ」

私には優しくて明るい笑顔を向けて、その後ろでは私を良く思わない人達を魔法で串刺しにして殺した…

きらびやかで美しい舞踏会の世界は一瞬で一部分だけを死の色に染める

周りのみんなは動かず見ているだけ

みんなイングヴェィに怯えてるのがわかる…

こんな…私のせいで太陽みたいに明るくて優しい貴方をそんな風にしたくないと強く思ってるのに…

なんで、殺すのよ

「やめて!!やめてよ!!そんなイングヴェィ、私は嫌いだから!!イヤだよ…大嫌いだよ!!」

私が楽しい時間も嬉しい時間も何もかも壊してるのになんで私の口からは貴方を責める言葉に変わってしまうの

「セリカちゃん…が…俺を嫌いって……」

私の言葉はイングヴェィを死ぬほど傷付けたってハッキリ目で見てわかった

ショックを受けているってのもわかった

本当は私が悪いのに…私自身が止められなかったのをイングヴェィのせいにして酷いコトを言ってしまったってわかってるわ

だから…私の視界は霞んでは涙が溢れてしまう

なのに、私はイングヴェィに謝るコトも出来ずに逃げ出した

この場にいるコトが耐えられなかった私は大ホールから庭へと飛び出す

イングヴェィにしてほしくないコトをさせてしまう私がイヤだったから

何もできない私が死ぬほどイヤでたまらなかったから

貴方は私みたいになってほしくないの

いつまでもずっと…永遠に太陽みたいに綺麗で明るくて優しい人でいてよ

私はそんな貴方を見ているだけでよかった

温かくて眩しくて住む世界が違うってわかっていても…

それが私の救いだったから……

こんなにも穢れていて醜く汚い私を見つけて連れ出してくれた貴方に、私は救われたのよ

私の理想や憧れを押し付けてるのかもしれない

でも、私のせいで貴方と言う人を狂わせたくはないってコト

私が傍にいるだけでダメなのだと、一緒にいればいるほど強くわかる

いつか貴方の素敵な笑顔を壊してしまうんじゃないかって

それが恐いよ…

私…イングヴェィのあの明るくて太陽みたいな笑顔が……



-続く-2015/05/24

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