第41話『蛇のお気に入り』セリカ編

大ホールから庭へと逃げてきた私はいつの間にかお城の外まで出てきてしまっていた

お城の光から離れた近くの森は真っ暗で木々の隙間から微かな月の光が射しているだけ

外の涼しい風に当たって少しずつ気持ちが落ち着いてくるケド、今の私はイングヴェィと顔を合わせるコトができない

あんなに酷いコトを言ってしまったんだもの…

私のせいなのに…それがイヤでイングヴェィを嫌いなんて責めてしまった

私も…心の醜い人間なのだと思い知る

「あっ…」

複雑な気持ちが心と頭にぐるぐると回っていた時、少し離れた先に真っ白な子ウサギがいるのに気付く

この世界でウサギと言う動物はかなり珍しいのに…また会えるなんて

一瞬、この前のウサちゃんのコトを思い出して胸が痛んだ

「ドコへ行くの?待って」

愛らしい姿をしたウサちゃんは私に背を向けて森の奥へと走っていく

私は可愛いウサちゃんをドレスの裾を持ち上げながら追いかけた

ウサギを追いかけるなんてアリスみたいって思っちゃったケド

モフモフの可愛いウサちゃんがお尻をプリプリさせながら走って行ったら追いかけるしかないでしょ!?

私動物の中で1番ウサちゃんが大好きなんだもん!!

「ねぇウサちゃんってば」

ウサちゃんは私の走る距離に合わせて走っているように感じた

このウサちゃんは人間の私から逃げると言うよりはドコかへ案内しているような…

私が話し掛けても止まらず振り返らずだケド、ウサちゃんを追いかけてから結構走ったかもしれない

後ろを振り返ってももうお城が見えないくらいに

このまま不思議の国に行ってしまうのかな

そんなコトを思いながら私はやっとウサちゃんを捕まえる

「もう追いかけっこはおしまいだよ

可愛いウサ…」

ウサちゃんに触れると煙のように消えてしまった

幻…?なんで?

私の後ろにガサッと何人かの気配が動いた

「ヤッホ~セリカ!」

振り向くとそこには周りの木と同じくらいの高さのある巨大な蛇のモンスターを5匹連れた上半身が人間の女性で下半身が蛇の魔族が何か知らないケド喜んでいた

透き通る海のような水色の髪をポニーテールにして瞳は金色の蛇目

1番最初に目が行くのは豊富な胸でそのグラマーな体型は私とは違って理想の女性の体型と言う感じだった

服は和柄の踊り子みたいな感じで露出が高い

なんかその服だとちょっと動いただけで胸から外れそうなんだケド実際どうなんですか大丈夫ですか

目の前の魔族はハッキリ簡単に言うとこんなにエッチな身体をしているのに顔つきはドコか幼さが残り元気があって可愛いらしい

この魔族…私の名前を呼んだような気がするケド……私は知らない

そして、私は周りの蛇のモンスターと彼女の下半身を見て固まってしまう

蛇がめちゃくちゃ苦手だったからだ…

何かわからないケド蛇は恐いと思う人は多い

私もその1人で、蛇を目の前にした恐怖で足がすくんでしまう

しかもデカイんだもん!!恐いよ!!

「ポップはずっとセリカに会いたかったんだよ」

自分のコトをポップと言った魔族は語尾に音符でもつけてるくらいご機嫌で敵意がまったくないのがわかる

でも、やっぱり蛇が恐い私はポップが近付く度に後退りしていた

「勇者はずっと男として生まれ変わってきてたもんね~

ポップはずっとずっとセリと友達になりたかったのに、セリは自分は男だからそういうコトはできないって言うんだよ」

一体何をしようって言ったんだ…

「町のカフェで仲良くデザート食べたり、一緒にお風呂入って洗いっこしたり、お泊りして好きな人の話したり、1つのパンを端と端から一緒に食べたり、お揃いの髪型にしたり、お揃いのグッズ持ったり、遊びに行くのも旅行に行くのも…」

その後、10分くらい友達とやりたいコトを語るポップに私は寝そうになった

まぁ…確かに男のセリくんじゃ女のポップとじゃできないコトばかりかも

「今までセリはキルラやラナばっかりと遊んでて、ポップは1人寂しかったよーーー!!

でもでもでも!!今回はやっと女の子のセリカが来るって聞いてポップはすっっっごく嬉しかったんだよ!!」

ふーん

「プラチナのユリセリの館でその話を盗み聞きした時はつい嬉しくてバレそうになってヒヤヒヤしたりしたけど

早く来てほしかったからセリカのいた世界にリジェウェィが失敗したって言ってた小瓶を落としてみたんだよね~」

「…小瓶……?」

「世界が破滅するくらいの何かが詰まってたんだって

そのおかげでセリカがこの世界に早く来てくれたんだよねっ」

ポップは何の悪気もなくペラペラとよく喋る

「あ~でもぉ、早く来てほしかったけど

セリカが変な人に襲われてるのを見るのは辛くなって刀も落としてみたりして…」

ちょっと…待って

さっきから頭がついてこれない

私のいた前の世界が急におかしくなったのはポップがよくわからない小瓶を落としたせい?

私の近くに刀が落ちていたのもポップが…?

ポップは私がこの世界に早く来てほしいからって……1つの世界を破滅にしてたくさんの人を殺したって…コト?

「ねぇセリカ!ポップ達はやっと友達になれるよね!?

だって今度は女の子同士だよ!?

もうポップはセリと友達になるのを夢見るだけじゃないんだよ

長年の夢が現実になるんだよ…ずっと憧れていたセリと友達になって友達みたいな事をたくさんするって……」

ポップから私のいた前の世界のコトを聞かされても私は何も思わなかった

あんな世界さっさと壊れてなくなってしまえばいいと思っていたから

でも…私の見えていた世界は狭いものでしかなかった

世界中を歩いたワケでも見たワケでもなかったから

だからもしあの世界のドコかで幸せに過ごしていた人達がいたかもしれないと言うなら、ポップのやったコトは許されない

……私は何を考えているんだ

人間が嫌いなのにこんなコトを思ってしまうなんて

いつもそうだ

私は嫌いになりきれない憎しみきれない…死ぬほど人間を嫌って憎んでいると言うのに

勇者だから聖女だから…心が引き裂かれるほど矛盾してしまうのかもしれない

「私は友達がいなかった

これからも作る気なんてない…私に友達なんていらない」

自分の性格は私が1番わかっている

友達ができない難しい性格だってコトはね

もう疲れちゃったのよ…そういうコトに

本当は誰も本気で友達になる気なんてないくせに

期待して楽しみにして、いつも壊れてなくなって

……つまらないよ

ポップの言ったコトは全て私が夢見ていた頃の話

その時の私だったらポップと友達ごっこなんてできたかもしれないね

でも、今はもうない

私には友達がほしいなりたいそんな気持ちのカケラすらなくなってるの

寂しいも悲しいも何もない…

友達ごっこしてる他人を羨ましいと思うだけで、できないとわかってる私にはいらないもの

友達なんてほしくないわ…いらないよ

それに…ポップには悪いケド、やっぱり私は蛇が苦手で恐いと感じてしまう

私はポップから背を向けて走った

「どうして…セリカ……

セリは男だから女のポップと友達になれないんだと思ってたよ

セリカはポップと同じ女なのに…どうしてダメなの!?わかんないよセリカ!!!

ポップの可愛い蛇ちゃん達っセリカを捕まえて!魔王様の命令だよ!!」

ポップの言葉を合図に5匹のモンスターが私を追いかけてくる

相手のほうが少し早く私を捕まえようと丸呑みしようとしては失敗して腕や足を引きちぎる

私には回復魔法があるから大丈夫なんだケド…

逃げられる気がしない

何よりパーティーを抜け出した私は勇者の剣を持っていなかった

あれがないと底無しの魔力はないし、魔族じゃない蛇のモンスター相手だと私は不利でしかない

そのうち追い詰められて捕まる…

ポップは魔王様の命令って言ってた

魔王って香月のコトだよね

香月が私を捕まえるってどういうコト?

香月とは勇者の前世の世界でちょっと見ただけだった

黒髪で長身美形、あの冷たく鋭いけれど綺麗に整った顔立ちは…めちゃくちゃ好みのタイプとか内心キャーキャー騒いでました

もうめっちゃ美形!

あんな魔王だったら迷うコトなく寝返るわ

イングヴェィも綺麗な超美形なんだケド、香月とは違うタイプなんだよね

イングヴェィが太陽なら香月は月って感じ

どっちがタイプかって言ったら…見た目だけなら香月かな

いやいや今はそんなコト考えてる場合じゃない

香月が私を警戒するのはセリくんと同じ勇者の力があるから…だからなのかもしれない

ポップは思い込みと押しの強さがイングヴェィに少し似ている

ポップもまた私だけしか見えていないのかもしれない

「はっ…!?」

何も考えずに逃げていたらいつの間にか森を抜けて崖を前にして行き止まりに足を止める

暗くて崖の下はよく見えないケド、かなりの高さがあるのかも…

崖の上から景色を確認すると少し離れた場所に町の明かりが見える

町に近いってコトは、思った通り崖の向こう側はモンスター避けの結界も張ってあって

飛び降りればポップ以外は私を追って来れない

ポップは魔族だから1人になれば私でなんとかできるかもしれないし

ここから飛び降りて大怪我しても回復魔法で治せば問題ない…一か八か……

「もう逃げられないよセリカ」

崖の下が確認できない私が迷っているうちにポップが追いつく

ここで捕まっても香月なら私に酷いコトはしないとなんとなくわかる

でも…蛇が恐い私は逃げるコトを選んでしまうの

「まだ逃げられるよ」

私の言葉に察したポップは慌ててナイフを私に目掛けて投げる

それは私の肩に突き刺さり、同時に私は足を地面から離し崖の下へと落ちた

「この…ナイフ……っ」

落ちながら自分の身体に突き刺さる異物を引き抜こうとした時にナイフには強力な睡眠薬か魔法がかかっているコトに気付く

「セリカーーー!!!」

このまま眠ったら回復魔法が使えない…焦りはあるのに私は何もできないまま落ちながら深く眠る


崖下への衝突の痛みで少しでも意識が戻ればと思っていたけれど

私は暫く目を覚ますコトはなく、すぐに夢を見るコトになった

いつも悪夢を見る私が珍しく恐くない夢を見たの

不思議な…夢

金髪の騎士が私をお姫様抱っこしている

その蒼瞳は夜のように深く綺麗な色をして、私だけを見つめていた

始めて見る人なのになんだか懐かしく優しい匂いと人間の温かさ

安心する…私、この人を知っているような気がする……

貴方は…誰なんだろう



-続く-2015/05/31

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