第48話『鳥と羊と蛇とゆかいな仲間たちとの新しい生活』セリカ編

巨大蛇のモンスターに飲み込まれて、もうダメだと思った

回復魔法のある私はちぎれた腕も一瞬で再生したし死にはしなかったけれど、さらわれたらドコに連れて行かれるかわからないし殺されると思うほど恐い

でも、暫く巨大蛇の腹の中で揺れていた私の目の前は外の世界をようやく見るコトができた

「セリカ、ようこそ魔王城へ!」

巨大蛇モンスターの腹を裂いて私を外に出したポップは目の前にそびえ立つ城を紹介する

「あの…」

私はレイのコトが心配でポップに確認しようと思ったケド遮られてしまう

「あっちょっとの間ごめんねセリカー!」

そう言ってポップは思い出したかのように私を捕らえたと言う証として縄で身体を縛ったまま城の中へと連れて行かれるコトに

また…後で聞けばいっか


ポップに引かれ城の廊下を歩きながら中の様子を見ていると、私の勝手なイメージする魔王城内と違ってイングヴェィの所とあまり変わらなかった

明るい場所ではないケド上品で静かで…

「ドアッハハハハハハ!!!!」

…そうでもなかった

魔族も人間と同じで上品な人もいれば下品な人も、開いたドアから漏れる声と見える光景は一部の魔族がドンチャンバカ騒ぎをしていた

なんやかんや歩いた先に魔王がいると言う部屋に案内される

そこには他にも魔王に何かを報告している魔族や魔物が数名いて

四天王のポップが現れたコトでその道を開けた

「魔王様!このポップが魔王様の命令通り、勇者を誘拐して参りました!!」

姿勢を正して香月に報告するポップは褒めて褒めてと言う忠犬のような雰囲気を出している

「……………。」

どうしよう…私、香月の思ってるコトが不思議となんとなくわかる

香月は私じゃなくてセリくんをさらってこいって言ったんだろう

なのにポップは間違えて私を連れて来ちゃった

間違ってはいないがこっちじゃないと言う空気

だよね!?私わかってたよ!!

「こいつがぁ勇者かーはじめて見ただ

それにこんだ綺麗な人間もはじめてだー」

人語が喋れる小さなゴブリンみたいな魔物が涎とともに長い舌を出して私を舐めようとする

うっ気持ち悪い…と身体を引こうとした瞬間、魔物の首がへし折れた

これは…香月の魔法?

「それを汚したり傷付けたりしたら殺します」

もう殺してますケド…聞こえてないよこの隣で死んでる魔物

私が見上げると香月は魔王が座ってそうな不気味な椅子から立ち上がり私へと近付く

「ポップ、彼女は勇者ですが勇者ではありません」

香月は私の縄を外して私を立たせてくれる

「へー???

勇者は今回は女のセリカに生まれて来たんじゃないのーー!!!!????」

「違います

セリとセリカは同じ人間ですが…」

香月はセリくんと私の関係と違いをポップにもわかりやすく教えている

たぶんポップに何かを教えるのは香月以外できないと思う…

「そっか~……残念だねぇ……

でも、セリカがセリなのは間違いじゃないんでしょ

だったら香月様、このままセリカにいてもらおうよ!!

セリカも勇者の力があるなら同じ同じ!」

間違いじゃないケド香月がほしいのはセリくんだからやっぱり間違いだろ…

「間違ったのだからセリカは帰してあげるべきです」

えっ…魔王超優しいんだケド……しかも黒髪紫瞳長身美形って私のタイプだし

やっぱり香月良いよね!!

「だってー!!ポップはセリカとお友達になりたいよぉー!!

それに香月様だっていざとなった時にセリカを人質にして色んな要求を無理矢理通す事だってできると思うんです!!!」

「………それも…そうですね」

香月!?さっき超優しいって私のときめきを消すようなコトはやめて、何を考えてるの!?

「セリカは今日から私の人質です

よろしいですか」

よろしいですかって…

「…暫くは帰れないって思ってセリくんの所に行こうとしてたから、それが香月のとこに変わっただけだから別にいいかな」

香月は私に対してはカケラの敵意も殺意もない

それどころかセリくんを通して私を特別に見てくれて大切にしてくれるのはわかる

その特別には恋愛感情がまったくないから私にとってこれほどベストな距離感はない

香月が好きなのはちゃんとセリくんなんだ

他の魔族も魔物も勇者の力を持つ私には何もしてこないだろうし

いざって時は逃げればいいもんねって軽く考える

「本当~~~!!!??

やったやったー!!セリカと一緒に暮らせるなんて嬉しい楽しみー!!」

ポップは喜び過ぎて蛇の下半身を私の身体に絡める

蛇が苦手な私は死にそうになった

「改めて自己紹介!

魔王様四天王の1人、ポップです!!これからよろしくねセリカぁ!!」

魔王様四天王と名乗るポップに香月はそんなのいた?って顔をしている

どうやらまさかの魔王非公認の四天王でただの三馬鹿なだけみたいだ

そうして私は暫く香月の下でお世話になるコトになった


私はすでに用意してくれていた部屋に案内されて一息つく

…ヒマはなかった

「セリカ!セリカぁ!!朝ご飯食べ行くよーーー!!!!」

昨日の夜から襲われて連れて来られて寝てないのに朝になって休むヒマもなく朝食だとポップに連れて行かれる

騒がしい…

部屋の中も色々見たかったのに

パッと見た感じはイングヴェィの城にいた時と同じくらい良い部屋だってコトと、この城1番高い場所だから窓からの景色が最高に素敵なコト

さらわれてきた人質とは思えない待遇だ

ポップに引きずられるように大食堂に着くと品のあった落ち着いた廊下から急に雰囲気が変わる酒場のように騒がしくなった

酒の匂いが充満し、朝から酒を飲んで騒いでる魔族の男達ばかりいる

朝食を食べると言うよりは飲みがメインで酒に合うものを食べる場所って感じかな

私はお酒が飲めないし騒がしい所は嫌いだからちょっとヤダな…

でもここが大食堂だと言うなら仕方ないよね

落ち着いたレストランとかがいいんだケド

私はイングヴェィの城のルルさんが経営してる大食堂やオシャレなレストランやカフェで美味しいものを食べたコトを思い出す

とりあえずカウンターで料理を受け取ると、グロテスクな見た目と鼻が曲がりそうな匂いに倒れそうになる

食えるか!こんなもん!!

そうだ…魔族と人間なんだから食べるものが違ってもおかしくない……

見渡す限り、みんなは私が見たコトのない料理を食べている

いや…見たコトがあるものもあった

まだ原型を留めてる人の手や足、頭まである

ふ~ん…魔族って人肉も食べるのね

「お水だけでいいです…」

一気に食欲が失せた私は料理を返して水の入ったコップだけを貰った

先に席を確保してくれていたポップが遠くから「こっちこっち!!」と呼んでいる

気が進まないケド、そこらにいる酔ったおっさんに絡まれるのもイヤだと思った私は重い足を動かす

ポップのいる席に近付くと手前にいたキルラがわざとらしく私の前に足を出してきた

「……………。」

それで私が転ぶのを想像でもしてるのかキルラはニヤニヤしている

いや…そんな最初から見えてる罠に引っ掛かるバカはいないだろ

バナナの皮が落ちてたらわざと引っ掛かったケドね

私はポップの隣の空席がある道を妨げるキルラの足をおもいっきり蹴飛ばした

「うぉーーーーー!!!!!???」

キルラは死にそうな声を挙げて足を抑えながらその辺を転げ回っている

あっそっか…勇者の力がある私だと魔族は痛みも凄まじいんだったね

まいっか、キルラがちょっかいかけてくるのが悪いんだし

「回復して!セリカ様!!」

「馬鹿だよな~あいつ

鳥だから後がどうなるか考えられないんですよ」

「キルラってばおもしろ~い!」

転げ回るキルラを笑ってラナもポップも見てる

やっぱり四天王だからなのか3人は仲良しって印象を受ける

ちなみに私はキルラとラナには今日始めて見るし会ったケド、前に鳥と羊と蛇が三馬鹿四天王だからってセリくんが言ってたからすぐにわかった

「あれセリカ様、朝飯は?水だけ?

よかったらオレの女体盛り半分こしてもいいですよ~~~~~!!」

机の上に何かあるのはわかってた…視界の端にチラチラしていたのも知ってた

だけどあえてスルーしていたのに、ラナはそう言って私の前に女体盛りを引っ張ってきた

「これはこうしてね、こうやって食べるんですよ!!!」

とラナは女体盛りの食べ方、まずは腕を引きちぎりますとちぎっては食ってちぎっては食っている

女体盛りって仰向けになった全裸の女性の上に刺身とかフルーツとか乗せるやつじゃないの……

目の前の女体盛りは普通に数人が乗る大きな皿に生でもいける新鮮な女性の死体が盛ってるだけだった

「あれれっセリカ様食べないんですか

美味しいですよ~~~」

ドン引きしている私の気持ちを知るコトもないラナは女体の腕を私の頬に押し付けてくる

やめろ

「ばっか!セリカ様は人間なんだから食ったら共食いになんだろ」

キルラが翼でラナの後頭部をはたく

「あっそっか~

って僕らも鳥肉羊肉食べてますけどね~~」

「うめぇからいいんだよ!!アハハハハ、ウヘヘヘ~~~」

「……………。」

魔族との食事の違いに慣れない私はコップに入った普通の水さえ喉を通らなくなった

「ちょっと!こんな野蛮で下品な食堂にセリカ様をお連れするなんて無神経にもほどがありましてよ」

キルラ達のバカデカイ声を遮り、1人の女性が三馬鹿を睨みつける

「あー楊蝉!!」

席から立ち上がりポップは叫ぶ

ヨウセンと呼ばれたその女性はストレートな長い暗めの茶髪に金色の瞳をしていて顔立ちはなんとなく東洋系美女

扇子で口元を隠し、その後ろには数人の女性魔族を引き連れた1つのグループのリーダーと言った所かもしれない

数人の魔族はそれぞれタイプが違うっぽいから同種ではないみたい

グラマーなポップとは反対にスレンダーな楊蝉

だがスレンダーなのに大きな胸が…ある…スレンダーなのに…

「セリカ様、このようなはしたない所ではなくいつも私達が利用しているカフェへ参りましょう」

「はい!!行きたいです!!」

こんな所はヤダと思っていた私は他にカフェがあると言うなら願ってもないお誘いだった

「何言ってるの~~~!!!

セリカはポップと朝ご飯食べるんだから楊蝉は邪魔しないでよ!!」

「セリカ様は私と行くとおっしゃってくださったのですよ

強引にお引き止めするのはいかがかと思いますわ」

ポップと楊蝉の間に見えない火花が散ってる気がする

2人はライバルなのかな

「何よ~!!」

「何ですの!!」

女同士の火花は男には入れないとわかっているキルラもラナも珍しく静かにご飯を食べていた

「さぁセリカ様、参りましょう

普通の女性はこのような野蛮な場所でお食事はしません」

楊蝉の連れていた女性魔族達が静かに私を連れ出してカフェへと連れて行ってくれた


城の2階にあるカフェは日当たりがよく明るくテラスもあってオシャレで爽やかな場所だ

天井が高いから開放感があるのも良い

さっきの酒場みたいな騒がしさも馬鹿笑いが聞こえてくるコトもなく、利用している人達はたくさんいるケドみんな静かにお話したり食べたりしている

私は1番景色の良いテーブルに案内されて、座ると朝食が運ばれてきた

「わぁ美味しそう」

さっきのグロテスクは夢だったかのように、目の前に出されたのは美味しそうなサンドイッチとキッシュ、サラダにスープにデザートに紅茶と言った朝食メニュー

さっそくいただきますと私はサンドイッチを口に入れる

「このハム美味し~」

魔族とは食べるものが違うと思ってたケド、そうでもないんだね

「ここはサンキュー地方の人肉を使用しているのです

自然に囲まれてのんびりした民族なので…」

………普通にやっぱ食べるもの違うかったわ

人間のハムだったのかこれ!!?普通に共食いしちゃったよ

女性魔族は人肉が何産で何で美味いのかを説明してくれてるケド私は耳を塞いだ

「この果物は美容にとっても良いのですよ」

デザートを食べようとしたらそう教えてもらった

「そうそう、私この前とっても肌に良いと言う入浴剤を手に入れて~」

「もしかして楊蝉さんが言ってたあれですか?」

「えぇ、苦労しましたわ」

「えー!入手困難なのに凄いわ」

「後でみなさんにおすそ分けしに周りますね」

話を聞いていると、魔族は美意識が高いみたいで美容に関して積極的な印象を受ける

確かに周りを見てみると男も女も美形な人が多い

キルラもラナもポップも中身はアホだけど見た目はそれなりだし…

何より魔王の香月があんなに美形なんだもんね

「セリカ様にも是非お渡ししたい代物なんですよ」

それから…魔族の人達はイングヴェィの所にいた遠くから私を見ていた人達と違って

私にちゃんと話かけてくれる

「嬉しいです…ありがとう」

人見知りな私は緊張してちゃんと話せないケド…嬉しい気持ちはある

魔族は残酷な種族だってコトを忘れてしまうくらい日常は人間と変わらないのかも

慣れれば…私もちゃんと楽しくお喋りできるようになるのかな

「セリカ様のその綺麗な容姿に憧れるわ~」

「楊蝉さんも昨日の夜からセリカ様を一目見て大騒ぎでした」

「あの楊蝉さんが認めるほどの綺麗な人、私も納得です!」

「ポップ様もとてもセリカ様を気に入られていますもの」

「そうよね~」

とくにポップと楊蝉は魔族女性のカリスマって感じなのか

だからあの2人は犬猿な仲みたいに見えるのかも

楊蝉はまだどんな人かわからないケド、種族も違うのに

私と同じ東洋系の見た目ってコトで少し気になる

親近感があるって感じなのかなこういうのって

朝食を終えて暫くお喋りをしても楊蝉は来なかったからとりあえず解散となった

私は寝ていない身体を休めたくて自分の部屋に戻りベッドに寝転ぶとすぐに眠ってしまった


自然と目を覚ますと夕方になっていて窓から入る光が少し赤らんでいる

「はっ…香月!?」

寝起きの眠気も一瞬で吹き飛ぶくらい私の隣にベッドに腰かけている香月を見上げてビックリした

「ゆっくり休めましたか」

「見ないで…恥ずかしい」

寝顔を見られるって恥ずかしいコトじゃん

しかも私着替えるのが面倒くさくて服を脱いだだけで下着のまま寝ちゃってたから…

「…レイは大丈夫かな」

私が巨大蛇に飲み込まれた後、レイがポップに殺されていないかとても心配だった

私を助けようとしてくれたもん…

ポップが元気すぎて結局まだレイのコト聞けてなかった

「レイ…いつもセリの傍にいる騎士の事ですか」

「うん、私がポップにさらわれる時に一緒にいたの

レイは私を助けようとしてくれて…だからポップがレイを殺したりしてないかなって……」

レイはセリくんの大切な大親友よ

友達のいなかった私達のはじめてでたった1人の…

だから、レイを失うコトはセリくんにとって死ぬほど悲しいコトなの

無事かどうかわからない今めちゃくちゃ不安で心配でたまらなくなる

「貴女を連れて来た時、ポップからは人を殺した匂いはないので大丈夫ですよ」

「本当!?匂いでわかるの?

じゃあレイは無事なんだね…」

魔族の王様が言うんだから大丈夫なんだ…

不安だったものがスッとなくなって軽くなる

私はよかったと微笑む

すると香月の手が伸びてきて、私の頭を撫でるとそのまま髪を掬う

「どうしたの香月」

「綺麗な人だと思いまして」

あまりクールな表情を変えない香月が微かに笑ったような気がした

そう、気がするだけで本当はその笑みは目に見えないものだと思う

私は何故か香月のコトが不思議とわかるの

考えてるコトはわかんないケド

イングヴェィが私のコトならなんでもわかるってコトと似たようなものなのかもしれない

きっと香月とはセリくんが何回も生まれ変わって長い年月を共に生きているからいつの間にか相手のコトがなんとなくわかってしまうようになったとかかな

「ありがとう香月」

私を褒めてくれる純粋な言葉に私はいっぱいの微笑みで返す

なんかね、そういうトコはちょっとイングヴェィに似てるような気がするよ

違いはイングヴェィが私に恋をしているコト

私はその気持ちにどう応えていいかわからなくて、私が傍にいたらイングヴェィは悪い人になってしまうからって逃げてきちゃった

本当は私が弱いから悪いのに…

ここに甘えてる……



-続く-2015/07/05

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