第49話『騎士との休戦協力』イングヴェィ編

ロックからセリカちゃんがレイくんと一緒に音の町にいると聞いて俺はセリくんと共にやってきた

ペガサスから下りて町に入ると

「勇者様!何処におられたのですか!?」

セリくんを見た町人達がわっと寄ってくる

「レイ様が大変な大怪我をなさっているのです!」

町人に囲まれて何が何やらと困惑していたセリくんはそれを聞いて顔を青ざめる

「えっレイが大怪我!?なんで!?何処にいるんだ!?」

俺は不謹慎にも、そのままレイくんが死んでくれればセリカちゃんを取られないのに…とか酷いコトを思ってしまうの…

町人達にどこどこの宿にいると聞いたセリくんは俺から離れてレイくんの下へと走る

仕方ないか

セリくんの大切な大親友だもんね

セリくんが悲しむとセリカちゃんも悲しんじゃうから…

俺は仕方なくセリくんを追い掛けてレイくんのいる宿へと向かう


「レイ!?うぅ…なんでこんな大怪我……あの強いレイなのに、一体誰にやられたんだ

だから俺を連れて行けって言っただろバカ野郎」

セリくんは思った以上のレイくんの大怪我を見て泣きそうになりながら、その身体に触れ魔法を使って回復させる

レイくんの怪我…魔族の呪いと毒がかかってるように見える

それもかなり強力な…普通の人なら即死、強い人でも数時間で死んでしまうのに

レイくんはそれに耐えて生きていたと言うんだ…ね

「っ…セリ、か」

「よかったレイ…」

「なんだ泣いていたのかい」

「な泣いてねぇし!!」

いつ見てもセリくんの瞬間回復はスゴイな

さっきまで死にかけてたレイくんが一瞬で元気な姿で目を覚ますんだもん

いつもの爽やかな笑顔でレイくんはセリくんの涙を拭いて抱き寄せて頭を撫でてあげてる

セリくんも嬉しそうに抱き着いてるね

それもいつも思うケド、君達の友情関係も色んな意味でスゴイよね…

「ところでレイくん、セリカちゃんと一緒だって聞いたけれど

セリカちゃんはどうしたの?

その大怪我…まさか一緒にいたセリカちゃんに何かあって助けられなかったって言うのかな」

俺の敵対心剥き出しの強い口調にセリくんは悲しい顔をする

「イングヴェィ…セリカなら無事だよ

セリカのコトなら俺が1番よくわかるもん……」

「相変わらずだなイングヴェィさんは」

「レイ、イングヴェィは本当は優しい奴なんだ

ちょっと…いやスゲー嫉妬深くて病んでるだけで……

普段はめちゃくちゃ良い奴だから」

「そうは思えないな」

俺とレイくんがお互いによく思ってないのをなんとかしようとセリくんは一生懸命フォローしてはサンドイッチ状態にさせてしまった

セリくん…やっぱり君がいるとやりにくいよ

君にそんな顔をさせるってコトはセリカちゃんにそんな顔をさせるのと一緒だからね

「まぁ…セリくんがセリカちゃんは無事だって言うなら……」

セリカちゃんと同じ匂いがするセリくんがいると少し心が落ち着くような気がする

「いや…オレがセリカを守れなかったのは事実だ

イングヴェィさんがオレを責めてもその事には何も言い返せない

セリカは…魔族にさらわれたんだ」

レイくんは悔しさいっぱいに拳を握りしめる

魔族に…セリカちゃんがさらわれた……?

「そんな、助けに行かないと

香月くんはセリカちゃんに酷いコトはしないだろうけど、勇者でもあるセリカちゃんは魔族と魔物から見れば敵だよ

もしかしたら恐い思いをしてるかもしれないし…きっと寂しい思いだって」

セリカちゃんのコトを思うと心配でたまらない

嫌いって言われた言葉がずっと胸に突き刺さっている

本当に嫌われてるかもしれない…

でも、俺は君の前から姿を消すなんて絶対にできないの

君への想いが俺の命そのものだから、君がいないと生きていけない

「えっ?大丈夫だよ

セリカは贅沢させてもらってるから」

「イングヴェィさんの言う通りだ

今すぐにセリカを助けに行こう

あの魔族達だセリカに何かするかもしれない」

「ないないそんなエロ展開絶対ないって

そんなのしたら香月が絶対怒るもん

香月はセリカには絶対手を出さないし」

「何かするって何をするの!?

セリカちゃんを傷付けるなんて絶対許さないよ!!」

「今は一時休戦って事で協力してセリカを助けよう」

「そうだねレイくん!魔王城に乗り込むんだもん

俺達が喧嘩してる場合じゃないね」

レイくんのコトは大嫌いだけどセリカちゃんを助けるには協力が必要だった

俺達が力を合わせればなんとかなるかも

俺とレイくんはしっかりと手を掴んでセリカちゃんを助けると強く誓い合った

「誰も俺の話なんて聞いてねぇな…」


勇者の剣が俺の城のセリカちゃんの部屋にあるからとセリくんが取りに行くと言う

セリくんがいてくれれば心強いケド、今でも危険な所に連れて行くのは気が進まないな…

セリくんは絶対着いて行くって聞かないし

でも、まぁセリくんは勇者で魔族や魔物の敵になるケド色々あって敵対してる感じはないから大丈夫かな

それでも、もしかしたらってコトがあるから閉じ込めておきたくなる

俺が安心する為だけに

俺の城から香月くんの城、世間からは魔王城と呼ばれている場所はそんなに遠くはなかった

ペガサスに乗っていけば早く着くほうだとは思うんだケド…セリくんだけならまだしもレイくん含めて大人3人でペガサスに乗るのは狭すぎる

セリカちゃんを助ける為だと思って我慢はするよ

魔王城の手前で降りるとすでに俺達に気付いた事情を知らなかったり勇者は絶対敵とする魔族や魔物が

「勇者とその一味が魔王城に乗り込んでくるぞーーー!!!」

って言うのが一気に広まってしまった

あ~あ困ったな~、今回は別に乗り込むつもりも魔王を倒すつもりもまったくないのに

セリカちゃんを返してもらうだけだよ

「みんな、落ち着いて!!

俺達は戦うつもりはな…わっ!?」

何も知らない魔族や魔物達からすれば、勇者(と仲間)=敵と言うのは当たり前なコトで

たぶんきっと何を言っても届かないのだろう

城のありとあらゆる方向から矢や魔法が飛んでくる

まっ仕方ないかな

「めっちゃ攻撃されてるぞ!?」

「大丈夫大丈夫」

雑魚の飛ばす矢も魔法なんてなんともない俺とレイくんは基本的にセリくんを守る形で魔王城の中へと走る

大きな門は固く閉ざされている…つもりみたいだケド、なんの結界もしてない門なら俺の怪力だけで簡単に開いちゃう

「いいのかこんなんで…

魔王城、簡単に入れちゃうんだケド」

「大丈夫大丈夫、俺達がね

簡単に入れるってコトは香月くんが歓迎してくれてるってコトなんだよ」

きっとそうだと思う

だってあの香月くんだよ…敵だったらそう簡単に城には入れさせないし近付くコトさえ許さない

「おうおうおう!!いくらセリ様でも勝手に入って来られると他の奴らがパニックになるから困るってーの!!」

夜の空からキルラが目の前に降り立つ

かなり遠く離れた所ではラナの姿も見える

ラナが近付いて来ないのはアンジェラ要塞でのセリくんからの一撃半殺しトラウマからまだ抜け出せてないのかな

「勇者が乗り込んできて四天王のオレ様達が出ないのもあれなんで、軽くパフォーマンスさせてもらいまっせぇ」

「えーめんどくせぇな~」

と言いながらもセリくんは勇者の剣を手に取る

「でも、まっ俺が一緒に来たのはキルラ達の相手をする為だもんな」

セリくんは俺とレイくんにセリカちゃんの所へ行ってと言ってくれる

「ありがとうセリくん」

キルラも軽く遊ぶ程度って気だから心配はないみたい

「行かすな追えー!!」

セリカちゃんの下へ走る俺に気付いた魔族達が追ってこようとしたけれど、すぐに炎の壁に囲まれて追ってこれなくなる

この綺麗な色と美しい姿の炎はすぐにセリくんの魔法だとわかった

「少しでも動いたら、死ぬぞ」

セリくんってば…本当にありがとね


セリカちゃんがいる部屋はこの城で1番高い所にある部屋

俺はその部屋の開いた窓の枠に足をかけた

「セリカちゃん!やっと…見つけた……」

「イングヴェィ…」

俺が来るコトはわかってたみたいで(外騒がしかったもんね)

君はそんなに驚くコトはなくて、申し訳なさそうに困った顔をする

「帰ろう…」

手を差し出して、君の返事を待つ

痛いな苦しいな…君の表情が俺の胸を心を締め付けて息苦しくさせる

プラチナの俺は人間みたいに呼吸なんかしないのにね…

なのに、死ぬほど生き苦しくなるんだよ…セリカちゃん

「まだ…帰れない」

「どうして?

本当に俺のコトが…嫌いになっちゃったの……?」

もう一度聞くのそれを

俺は、そんな言葉聞きたくないハズなのに

確かめて…また嫌いって言われたらどうなるの

恐いコトだよ…

「嫌いじゃないよ!

…嫌いじゃないから、帰れないの

イングヴェィ………」

「うん…」

よかった…よかった…君に嫌いじゃないって言ってもらえて

苦しかった重みも悲しかった囚われも全部全部解放されて

あとはたった1つだけ

君から、セリカちゃんから聞きたいの

俺と同じ気持ちの想いの言葉を

苦しいも悲しいもない綺麗な心の中に迎え入れるから

今すぐに…ううん、ゆっくりでいいよ

いつか聞きたいな…

そうだね…今は俺が君にそんな顔をさせちゃってるから

いつか、君を笑顔にするコトが出来たら…

「セリカの事、連れてっちゃ駄目~~~!!」

後ろから叫び声が聞こえたかと思うと、無数のナイフが飛んでくる

「いっ…いきなり何…!?」

気付いた時には全部避けきれなくて、数本が身体を掠める

そこからすぐに呪いと毒が広がっていく…

俺が避けれないなんて…しかもこの呪いと毒の回りの速さは異常だ

四天王レベルの強さ…

振り向くと思った通り、屋根の上からポップが俺を睨みつけている

「イングヴェィ!逃げて…」

セリカちゃんの声が聞こえると俺の身体に回る呪いも毒も傷も一瞬で消え去っていく

今の俺じゃ四天王には勝てない…逃げるなんてイヤだけど

でも、セリカちゃんが帰らないと言うなら今日は大人しく帰るしかないかな

残念だな…残念だね

ポップの攻撃でバランスを崩し窓枠の上の方を掴みぶら下がっていた俺は最後に窓からセリカちゃんの手を掴み見下ろす

「君が帰りたくなった頃に、今度は俺がさらいに来るね

セリカちゃん…大好き……とっても愛してる」

「…イングヴェィ……」

君の手を自分の口元に引き寄せてキスをする

…大好きなセリカちゃん……このまま手を離したくない……

名残惜しすぎるケド、俺はセリカちゃんの手を離し城を降りるコトにした

「………ここからじゃ…見えないね」

地に足が着いて見上げると、あまりに高すぎる君の部屋はここからじゃ少しも見えなかった

自分のワガママで無理矢理にでも連れ帰りたくなるよ

でも、君が困った顔をするとそのワガママも消え去ってしまう

ふふ、俺は…君に弱いんだよね

でも、他の人に奪われるくらいなら君が泣いたって俺は引かないよ…

…セリカちゃん……

レイくんと何を話して何があったんだろう

気になる…

ううん!絶対負けないもんね!!

「さて、セリくんと一緒に帰るから捜さないと」

レイくんは置いて帰ってもいっか…なんて意地悪なコトを一瞬考えちゃったケド

セリカちゃんのいるこの場所に置いて帰るなんて絶対ダメ!!

ちゃんと連れて帰ってあげなくちゃね

2人ともドコにいるんだろ?と捜していたら偶然ラナに会ったから声をかけてみた

「あっラナ、そろそろ帰ろうと思うんだケド

セリくんとレイくん知らない?」

「あ~セリ様なら今日は帰らないですよ~約束があって

レイさんはセリカ様の所へ案内しました!!」

笑顔が凍りついた

どうしてラナ!?レイくんをセリカちゃんに会わせるの!!

ふ、ふん…レイくんだってポップに追い返されるんだから……

「セリくんは何の約束をしたの?」

「キルラ伝で聞いたんで詳しい事は知らないんですけど、レイさんが魔王様の力を拾って持ってたみたいで返さないからそれで揉めてセリ様が場を収めたって話ですよ~

香月様と何を約束したのかはちょっとわからないです!!!」

ラナは世間話ってレベルで話してるケド、ちょっとそれ大事だよね!?

ラナ達魔族の王様の力を人間が持ってて返さないんだよ!?大丈夫!?

そんなお気楽に笑ってていいの!?

レイくんが香月くんの…魔王の力を持ってる…拾ったなんて…どうして

魔王の力は本人の香月くん以外には扱えないものだよ

人間のレイくんが持ってても意味がない

香月くんに返したら返したらで大変なコトにはなるだろうケド…

もし、レイくんが使えたとしたら…

ううん…それでも俺は負けない

人間なんかに…負けたりしない

人間じゃなくても負けない

セリカちゃんのコトは誰にも渡さないもん……



-続く-2015/07/07

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