第50話『勘違いして俺めっちゃ恥ずかしいんですケド!?』セリ編

レイからセリカが魔族にさらわれたと聞いて、イングヴェィもレイも魔王城に乗り込んで助けると言い出した

2人の勢いは俺には止められないし、物語りの序盤で絶対に負けるとわかってる無謀なラスボス挑みを見捨てるコトも出来ない

勇者の俺が同行しないとイングヴェィもレイも100%香月に再起不能か殺されるかわかっていたから…

俺は魔族を倒しに行くワケでもないし魔王と最終決戦する気もない

今回はイングヴェィとレイをフォローするだけだもん

勇者の剣はイングヴェィの城のセリカの部屋に置いたままらしいから俺はイングヴェィに連れて行ってもらって勇者の剣を手にする

これがないとすぐに魔力の底が来ちまうし回復魔法が範囲にならない

準備は俺以外万端じゃないケド、イングヴェィとレイはセリカが心配と勢いで魔王城を目指した


魔王城と聞いて暗黒に満ちてそうって勝手に恐いトコだとイメージしてた

でも、空は空気は澄んでいて星達や月も綺麗に見えるし変な匂いもしない

俺の勝手なイメージは周りは毒の沼がたくさん!みたいなあれ

深い森を抜けると断崖絶壁の上に魔王城がありその背景には綺麗な海が広がっている

ペガサスに乗りながらその素敵な景色に感動していた

えっこんなトコに本当に魔王なんているのか!?ってくらい良い場所選んだな香月の奴

イングヴェィの城も深い森に囲まれて光る不思議な湖に浮かぶ城って好きな景色だケドな

きっとこの素敵な景色に感動しているのは今は俺だけ

イングヴェィもレイもセリカが心配でたまらないから

俺は…?心配はしていない

だって、セリカは自分自身でそこにいるコトを決めたんだって俺はわかってる

何より凄い贅沢させてもらってるんだぞ…

イングヴェィもセリカへの贅沢は凄かったが、香月も変わらないくらい凄かった

みんなセリカが可愛くて仕方ないんだな…まっ俺だもんな綺麗だもんセリカは

今のイングヴェィとレイに言っても聞いてくれないから黙ってるケド


魔王城に侵入すると当然として魔族や魔物が勇者とその一味が乗り込んできたと騒ぎ迎え撃ってきた

「コイツらは俺に任せて2人はセリカの所へ行くんだ」

セリカの口から聞いたら納得するだろと思った俺はイングヴェィとレイにセリカは1番高い場所の部屋にいると言った

俺にはセリカが何処にいるかはなんとなくわかる

もちろんセリカも…俺がここにいるコトを見えなくてもわかってるハズだ

「ありがとうセリくん…」

イングヴェィは俺は大丈夫だって信じて迷わずセリカの下へと向かう

「しかし…セリ、この数の魔族を1人で相手にするには……」

レイは相変わらずだ

俺の心配をして立ち止まってしまう

「レイ…レイは俺の騎士じゃないよ

俺はレイの大親友

そして、勇者だから魔族が無限に湧いて出たって絶対に負けないだろ」

勇者の剣を持った勇者とまだ人間の魔王で魔族達の力が弱い今勝ち負けは目に見えてる

「セリ…」

嬉しいケド、迷うなレイ

オマエはセリカの騎士なんだろ

「…イングヴェィに負けていいのか」

俺がそう言うとレイはぐっと耐えるようにして、セリカの下へとやっと向かった

会話中に魔族が空気読んで待ってくれてると思ったら笑えるケド、実際は勇者の剣を持っている俺にビビッていただけだったりして

俺はイングヴェィとレイのどっちかなんて考えないよ

それはセリカが決めるコトだし、セリカの意志で俺も動く

ただ大親友として少し背中押したりしちゃうかもしれねぇな

何も考えずに…大親友として

「セリ様ー!!気でもおかしくなったんですかー!!

魔王城を攻めるなんて、今からでも遅くはない!!

やめましょう!!平和が1番ですよ!!」

なんかどっかで誰かが叫んでるなと思ったらラナがスゲー遠くから何か言ってた

この前のアンジェラ要塞戦で俺にやられたのがちょっとトラウマになってるみたいだ

いや平和が1番って世界征服するってオマエらが言えるコトか!?

「アハハハハハ!!いくらセリ様でも四天王+魔族魔物数十相手はキツイはずっしょ

オレ様は勝てる!!!!!!!」

キルラは俺の頭上で飛び回ってバカ笑いをしている

ムカつく…

「四天王ってキルラとラナの2人しかいねぇじゃん

しかもラナは俺を恐がって近付きもしないから実質四天王はキルラ1人ってコトで俺の勝ちだな!!!」

「………オヤビンは役に立たないとしてぇ…

ポップはこの騒ぎに何やってんだあ!?

おらラナごら!!来いよ!!」

キルラは1人じゃ俺に勝てないとわかっているのか遠く離れたラナの頭を鷹のような足で蹴っている

あれ痛そうだな…

四天王があの様だからなのか他の魔族や魔物も攻撃して来ないし

俺に擦り寄る動物系の魔物達はいつも可愛い

座り込んでそれらを撫でたり相手してやっていると、明るかった月明かりがふと俺の上だけ影ができる

「香月…出て来ないかと思ってたのに」

小型犬くらいの大きさの馬みたいな魔物を抱っこしながら俺は立ち上がり見上げる

顔を見なくても声を聞かなくても近くにいれば香り良い匂いですぐに香月だってわかった

「イングヴェィやレイはほっといてもいいのか?」

魔王なのに部外者放置かって俺は笑う

「セリカは帰りたくないと言いましたが、彼らに会いたくないとは言っていません」

うん…

「あのレイと言う青年…私の力を持っているようです

帰る前に返してもらわないといけませんね」

香月…気付いていたのか

レイは前世の俺の世界で魔王の力を拾ったと言って見せてくれた

魔王の力が普通に落ちてたとか面白いんだケド

俺…あの力嫌い…なんか恐いから

もし香月に魔王の力が戻ったら…今よりもっと恐くなる

そしたら、もう香月の顔を見上げるコトも…いや近付くコトもできなくなるんじゃ……恐怖して

「ダメ!それは困る!

だって俺は勇者で魔王の敵だから…

今より強くなるのを黙って見てるなんて出来ない」

「阻止すると言うのですか…私を、力付くで?」

「そ…や、やるってんなら……」

俺は乗り気なく勇者の剣を手にする

香月と戦いたくないのに香月から感じる恐怖が自分を防衛しようと動く

固まったように恐怖している俺に向けて香月は魔法を使う

気付いたけれど、避けるヒマもなく背より高く太い数本が俺の身体を串刺しする

足太股腹手肩あらゆる方向から刺さり身体と地面を固定されて身動きが取れなくなった

「勘違いしないでください」

「香月…」

回復魔法で痛みは感じないが異物が刺さったままでは傷は塞がらないし力任せに抜こうと動いても俺の力じゃ無理のようだ

さらに呪いと毒が串刺しになっている部分から少しずつ侵されていく

毒も呪いも自分の回復魔法で無効にできるが、それも異物を取り除かない限り延々だ

魔族の魔法はオプションで呪いと毒がついてるって感じ

「貴方には不死身の私を殺せる力を唯一持っている事だけで、勇者だからと言って無条件に強さも力も私より上であるとの事ではありません」

そんなコト…ちょっとはわかってる……

魔族や魔物…魔王に対して大ダメージを与えられるからってそれが香月を超えるかどうかはまた違う

何の力も付けてない俺が最初から持ってるものだけで魔王に勝てるワケなんてないんだ

「勇者でも貴方は人間、他の人間と同じように私は貴方を簡単に殺せるのだから」

ウソつき…香月は簡単には俺を殺せないだろ

今だって身動きを封じただけで俺の回復魔法が追いつかないくらい即死させるなんて香月には簡単なコトなのに

「香月はきっと俺の腕でも足でも、身体の半分でも何の躊躇いもなく奪うコトはするだろうケド

でも…俺を絶対に殺さない…」

その時、身動き取れなくなっていた俺の腕が串刺しから離れた

何が起きたのかと思うより先に次々と俺を拘束する場所が撃ち落とされ、瞬間回復で腕も足も元に戻り最後に俺は腰に刺さった串を自由になった手で引き抜く

「セリ!大丈夫か!?」

声とともに俺の前に姿を現したのはレイだ

レイが矢を放って俺の身動き出来なくなった腕や足を撃ち抜いてくれたんだ

でも

「レイ!?なんで戻って来たんだよバカ!?」

セリカには会わかなかったのか

「何言ってるんだ!心配した通りの事になっているじゃないか」

おいおい誰のせいでここにいるかわかってんのか

レイとイングヴェィがセリカを助けに行くって言ったんだろ

だったら最後までレイもセリカに向いてろよ

人から見ればピンチに見えるかもしれないケド、香月は俺を殺す気ないしただ遊んでるだけだから

イングヴェィに…取られちゃってもいいのかよ

俺は友情を優先にしてくれるレイの気持ちは嬉しいケド、それでレイが幸せを取り逃すとかなったら俺はイヤだぞ

「香月さん…セリを傷付けるなら許さない」

レイは香月に向かって弓を構える

やめろレイ!!今のオマエじゃ絶対に香月に勝てないし殺されるぞ…

「落ち着きなさい

セリとは話していただけです

それよりレイ、私の力を持っているようですね

返してください」

レイの奴…なんで魔王の力を処分せずに持ち歩いてんだよ

渡したら…ダメなのに

でも、渡さなきゃレイは絶対に殺されてしまうから

だったら…それは仕方ないし渡したほうがいい

香月はレイの方を振り向き手を出す

でも、レイは申し訳ないと首を横に振る

「すみません…

もう少し香月さんの力をオレに貸してください」

魔王の力を借りるって…?何言ってるんだレイ!?

借りるってコトは使うってコトか?

そんなの人間が使えるわけない

「何を馬鹿な事を」

「まだオレには何の力もなくて、今のままだとセリを守りきる事が出来ないから…貴方の力が必要なんです

お願いします」

香月だってレイの発言に呆れているし周りのキルラや魔族も笑っている

当たり前だ俺だって、アホだろって笑いてぇよ

でも、香月が怒ってレイを殺してしまうんじゃないかってハラハラするんだ

「レイ!人間が魔王の力を使うなんて絶対無理だ!

変なコト言ってないでここは黙って返して帰ったほうがいい」

俺が言ってもレイは首を横に振る

なんでだよ…

「私の力は私だけのもの

人間が勝手に扱う事は許さない

返さないと言うなら、死んでもらいます」

香月の高まる殺気を感じて俺は待ってと香月の前に回り込む

「…セリ、力付くで私を止めますか」

「力付くは…今は勝てないからやめとく

でも、レイは殺さないで」

イングヴェィも香月も…簡単にレイを殺そうとする

自分の邪魔をするから

俺がレイを大親友を大切に思っているのに

それをわからない奴らばっかだ

レイ本人だってそうだろ

友情は良いものだって憧れてたし思ってた

今も…思う

でも、そのせいで自分が苦しむコトもあるんだってなんて面倒くさいコトなんだろう

なんで…自分を犠牲にしてでも友情を守ろうとするのか

それが人間だから…今までレイが俺を守ってきてくれたコト

たまには俺だってそうする時はあるんだ

イヤなコトも嫌じゃない守れたってただの自己満足

「なんでもするから…

香月なら今でも十分強いだろ

レイが強くなるまでの間だけだからお願い…」

でも…俺の守り方って結局

「そう……わかりました

貴方が今夜、私の部屋に来るのなら」

香月の手を掴み微笑むと香月は高まった殺気を沈めていく

「……うん」

よかった…

俺は香月の傍から離れてレイに伝える

「レイ、香月が少しの間なら貸してくれるって

だからセリカに少し会ったら先に帰ってていいよ」

レイには香月と俺の会話は聞こえていない

だから俺の言うコトに戸惑っている

「急にどうしたんだい

香月さんがタダで貸してくれるとは思えない」

タダではないケド…

「香月は魔王だケド、別に俺とは仲悪いとかじゃないから話せばわかってくれる奴なんだよ

だからレイは気にすんな」

「セリ……」

何か疑っているケド俺はラナを呼んでセリカに会わせてやってくれと頼んだ

「イエッサーーー!!ささこちらにございます」

ラナに案内されるレイにまたなと手を振って見えなくなった所で、俺は香月に振り返る

キルラも他の魔族魔物達も勇者とその一味が魔王城に攻め入ったワケじゃないと知って解散した

「簡単に何でもすると言ってしまって後悔しないのですか」

「えっ?そんなの1回だけだし」

みんながいなくなってさっきまで騒がしかったのがウソのように静かになると香月は俺に近付く

レイを助ける為に咄嗟な行動に後悔が押し寄せる

…俺は結局、昔から何も変わっていない

世界が変わっても俺は何も変わらないんだな

俺は香月が自分を好きだって知っててその気持ちを利用した

こうすれば相手はこうしてくれるだろうって考えて決める

その答えが自分を利用するコトはたくさんだ

自分の綺麗な容姿も特殊な雰囲気も使えるもんは全部使って…

結果が自分の目的になるなら、その過程はどうでもいい

でも…

今回はちょっと別の意味で心が痛む気がする

香月のコトは少し気になるから…

暫くの沈黙の後、俺を見下ろす香月は自然に出る言葉を抑えるコトなく呟く

「本当に綺麗な人…」

「……もう、遅いよ

俺は香月が目に見えてるほど…綺麗じゃないもん」

「いつも貴方の言葉の意味がわからない

醜い部分なんて1つもありませんが」

香月は俺の頬に触れる

またキスされるのかなってちょっと身構えてしまう

「…いや…見えない部分がだよ」

「そうですか…」

絶対わかってないな…

香月は人間だけど、人間じゃないから心の考え方も感じ方も違う

香月は俺に他に好きな人がいても気にしないって言ってた

それは魔族と人間の違いなのかもしれないし

単純に個人と個人の違いかもしれない

でも、俺はやっぱりそんなのはよくないって思うし

香月の好きを利用して簡単に状況を変えるなんて卑怯かと思うし

俺自身もまだアイツが好きなのに、何やってんだろ…って思う

でも、レイが殺されるのがイヤだったんだ

その最悪が回避されるならなんだってよかった

香月も自分も利用するコトになっても

「私は好きですよ

貴方のその憎しみも苦しみも悲しみも含めて…美しい」

「香月…」

好きって言うなら少しは笑ったらどうなんだバカ…

俺のほうがちょっと笑っちゃうじゃないか


イングヴェィとレイが帰った後、俺は少しセリカの部屋に寄るコトにした

暫くここにいるなら勇者の剣は持っててほしいから渡しに来たんだ

「セリカ!」

ドアを開けてもらった瞬間、久しぶりに会えたセリカに嬉しくて思わず勢いのままキスしてしまう

その後はぎゅ~っと抱きしめて、それだけで自分が大好きだって満足する

「っセリくん…」

「これ、勇者の剣

セリカに届けに来たんだ」

俺は勇者の剣をセリカに渡して部屋に入る

豪華で広くて可愛い部屋を見ただけで、セリカがどれだけ大切な客としてさらわれたのかわかった

うん…安心だな

香月なら絶対セリカを守ってくれるし

勇者の俺であるセリカには魔族も魔物も、中には良く思わない奴もいるかもしれないがそうちょっかいはかけられねぇだろ

「そうだセリカ!一緒にお風呂入ろうぜ」

と言うコトでセリカと一緒にお風呂だ!!

暑い夏はお風呂入ってさっぱりしたくなる

セリカの部屋についてる風呂は俺の部屋の風呂より少し大きい気がするし

何かバラの良い匂いがするんだケド

「あんまり…見ないの」

「あ…いや、なんか自分なのに女の身体って…変な感じだなって思って…」

湯に浸かる前に隣で身体を洗っているセリカをついつい見てしまう

これも男の性なのか…

自分なのに、いや自分なのに女の身体って言うのが変な感じで本当に

別にエッチな気分になるワケじゃないんだケドさ

セリカは自分なんだし

でもなんか変な感じだ

何より…綺麗なんだもん……セリカ

「うん、私もセリくん見て変な感じ

私が男なんだもん変だよね」

身体を洗い終えるとミルク色の湯に2人で浸かる

美意識が高い魔族には美容マニアがたくさんいるみたいで、女性魔族がこれとっても良いから!と貰った入浴剤を入れてるみたいだ

確かに肌がしっとりしてサラッとツルッとしているような気がする

俺もセリカも自分が綺麗になるコトは大好き

女の子だったら誰もが可愛くなりたい綺麗になりたいって思うものだ(勝手なイメージ)

セリカはそれが人一倍強くて、俺も影響を受けて自分を磨くコトを無意識に求める

周りから褒められても、自分に満足するコトはなくて

もっと…もっと綺麗になりたいって思う

どんなに頑張っても…いつまでも自分は汚い、汚れてるんだって思ってしまうから……

「「……………。」」

急な沈黙…

俺がセリカの部屋に来た時、セリカが何か言いたそうにしていたのは俺のコトがわかって心配していたから

でも聞かれるのが恐かった俺のコトもわかってセリカは何も言わなかった

言わなくてもわかるから…

俺は湯の中でセリカを後ろから抱きしめる

「ゴメンな…セリカ……」

俺は今の自分のコトが大嫌いなんだ

昔と何も変わらない俺がスゲー嫌い

もっと強くなれたら

「ううん…私がセリくんを大好きだから、私が自分を大好きだから、大丈夫よ」

自分を嫌うってコトはセリカも嫌いってコトだから

俺は自分を嫌いたくないのに

いつまで続くんだこんな自分

きっと、永遠になのかもしれない


暫くしてセリカの部屋から香月の部屋に向かう途中のコトだった

なんか知らんケド、偶然廊下ですれ違ったキルラにゲームを押し付けられる

「これでラナとひと勝負やるつもりだったんすけどー

せっかくセリ様泊まりに来てるんだし貸してやらぁ!!」

とかなんとか言って…夜中に元気な奴

チェスとトランプ

こういうの触るのスゲー久しぶりだな何年振りだろ

でも…貸してもらえてよかったのかもしれない

香月と2人なんて何話せばいいかわかんねぇし、こういうのあった方が会話も広がるし一緒に遊べるもんな!

そうして手ぶらだった俺はチェスとトランプを持って香月の部屋を訪ねた

香月の部屋はセリカの部屋のちょうど反対側にある塔だ

1階下りた所に渡り廊下があるからそんなに遠くはなくちょっと離れてるくらい

キルラとラナの部屋は渡り廊下渡ってすぐに、また階段を上ったら香月の部屋

「香月!見てくれよ、キルラにチェスとトランプ貸してもらった!」

部屋に入れてもらった俺はさっそくチェスとトランプを掲げて笑った

香月に何か言われるのが恐かったから…

俺は香月が何も言えないように強引に押し付けてるのかも…

「これで遊ぶの」

テーブルにチェスをセットして~…えっと…久しぶりすぎてルールも所々忘れてるし

キングとクイーンってどっちに置くんだっけ?ナイトはドコだよ?

と迷っていると、香月の手が伸びて駒を綺麗に並べてくれた

「さすが香月!俺、白駒がいい」

「それでは私は黒で」

やるなら勝つぞ!!と気合いを入れ、途中忘れている部分のルールを香月に確認しながら進めるコト5分

負けた

「………今度は勝つ…」

気がまったくしないのに

「はい」

数十分後…あれ勝った

「ヤッター勝った~!」

嬉しい!と俺は笑って楽しいからともう1回やる

するとまた勝てた

「香月弱いんだな」

アハハと俺は満足しているが、後であの時わざと負けてくれたんだなって冷静に思うコトになる

調子に乗った俺はトランプでも楽しく遊べて勝った

数時間後、遊び疲れた…もう寝る

と言うか睡魔のせいで意識が朦朧としはじめた

敵同士の魔王と勇者が同じ部屋にいるってだけで寝たら死ぬ!!って状況なんだぞ

魔王に対して危機感がないと言うか、俺は香月のコトを敵と思ってない

「お休みになられますか」

「そうしたいケド…何もしないか…?」

香月が俺のコト好きってのもあるのかもしれない

好きなら危害を加えないだろって人間の価値観で考えて

魔族とは価値観が違うとわかってはいるのに

暑い夏の夜に肌寒く感じるのは香月から伝わる恐怖

一緒にいても恐いと思ってしまう

この恐怖に慣れる日があるんだろうか

俺は勇者なのに、香月が本当の魔王に戻ってしまったらどうなるんだろ…

恐怖しているのに安心するなんて信頼するなんて、変な感じ…

「自己回復のない今の私に貴方から拒絶されて大怪我を負うような馬鹿な事はしません

レイの件では貴方が今夜私の部屋に来る事」

「マジか!?俺はてっきり…深読みして恥ずかしいんですケド」

顔から火を吹くのと同時にほっとして、それからなんか…

そっかそうだったんだな

香月、ちゃんと約束守ってくれてるんだ

俺を本気にさせたらって言うやつ

ちょっと嬉しい…

レイの件もこんな簡単な条件で見逃してもらえて

やっぱり魔王って良い奴?

いやいや…世界征服しようとして、世界のあちこちで悪さしてる現実を忘れちゃいけねぇだろ…

「…そうですか

貴方に恥ずかしい思いをさせない為に、深読みしたような事…致しましょうか」

「いえ…いいです……」

香月の表情は読みづらい

冗談なのか本気なのか、わからないから恐い

俺の顎を香月の冷たい手が掬いあげるから、やんわりと身を引いてお断り

でも…香月の表情はわかりにくいのに

やっぱりなんとなくわかるような気がする

少し残念そうにして手を離すのも

「私のベッドを使ってください

おやすみなさいセリ」

「うん…オヤスミ香月…」

明かりを消した香月は部屋から出て行ってしまう

真っ暗になった部屋にひとり、でもここは香月の匂いがするから安心する

恐いのに安心するって変だぞ

この世界に来てから俺を大切にしてくれる人達がいるんだ…

レイも香月も…ある意味イングヴェィも

前の世界じゃ…なかったコト、たくさん…たくさん……

俺には恋人がいたケド、アイツは俺を大切にすると言うコトはなかった

自分の物だから他人には触らせなかったくらいで扱いは乱暴だし物の俺の心なんて考えずに踏みにじる

それでも好きだったし

そう思われてるコトに寂しい中でも楽だって感じてた

あの頃の俺は心ここに在らずと言った感じでやっぱり物だったから

人にはなれなかったから…

会いたい…今も

みんなが俺を大切にしてくれても

それでも…寂しさは消えない

忘れれば楽なのに、バカで最低だな俺は

香月の気持ちを知って利用して、それでも俺は自分のコトばかり考えてる

だから嫌いこんな自分が

弱い弱い俺が



-続く-2015/07/04

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