第51話『えぇっと…いろいろ』セリ編
レイとは1日遅れで俺が魔王城から帰ると自分の部屋の中にはたくさんの楽器で溢れていて、2人でも十分広かった部屋が圧迫されたような空間になっていた
「セリ!無事に帰れたんだな
数日帰って来ないとなったら迎えに行こうと思っていたぞ」
たくさんある楽器の影から顔を出していつも通りのレイに対して俺はこの部屋に何て言ってやろうか考えていた
「えっ?何この部屋」
あまりにあれで普通に聞いてしまったよ
「オレとセリの部屋じゃないか」
「この楽器の山はなんだって聞いてるんだよ!?
邪魔だろ!ここは音楽室じゃないんだぞ!?」
レイは俺が喜んでくれると思っていたのか俺が怒ったコトに面食っている
確かに俺は音楽は大好きだしいつも聴いてないと死ぬとか思うくらいめちゃくちゃ好きだケド
自分の安らぎの部屋で常に圧迫を感じながら過ごすなんてヤダろ
「音楽室…そうか、それ良いぞセリ
さっそく女神セレンに頼んで用意してもらうから楽しみにしててくれ」
そう言ってレイは俺の怒りを宥めるように頭を撫でてから部屋を出て行く
「楽しみに…?」
楽器で部屋を飾るのか?
レイがいなくなって静まり返る空間、俺はソファに座りながらたくさんの楽器を眺める
俺が音楽が大好きだってコトをレイは知ってる
前に言った時にそうかとレイは爽やかに笑って自分のいた世界には音楽がなかったと言っていたのを思い出す
そのレイがこんなにもたくさんの楽器を集めるなんて…
俺は音楽が好きだとは言ったが楽器は全然ダメだぞ
聴く専門だもんな
楽器を眺めながら数分が経つとレイが何人かの天使を連れて帰ってきた
「この部屋の全ての楽器を頼む」
「「「はい!!!」」」
数人の天使達はレイの言葉で次々と俺達の部屋にあった楽器を運んでいく
「レイ、こんなに楽器を取り寄せたのか?どうして」
天使達と一緒に楽器を運ぶレイに俺も手伝うと適当な楽器を持って隣を歩いた
「音の町で楽器を触らせて貰ったんだ
その時の楽しさが忘れられなくて、帰ってからも音楽は続けたいと思ってさ」
「ふ~ん」
俺達の部屋の窓から見える反対側の部屋を音楽室として使っていいとセレンに許可を貰ったレイは天使達の手伝いもあり短時間で楽器を全部運ぶコトができた
「しかし…音楽が楽しかったからって、こんなにたくさん買って」
どうすんだよって正直な感想
色んなそれぞれ違うたくさんの楽器達
それを全て使うと言うのか
全て楽器を運び終えると天使達は帰ってしまい、俺はピアノの前に座るレイを見る
「オレの曲をセリにも聴いてほしい」
レイの曲…?作ったのかよ
楽しみにしててくれと言われ聴いてほしいとまで言うなら、期待していいんだな!?
音楽のなかった世界にいたレイの曲か…気になる
俺は自然と楽しみになってピアノの傍にあるソファに座る
それを見たレイがいつものように爽やかな笑顔を向けた後、ピアノに向き合った
数秒の静けさの中を待っているとレイがピアノを弾き始める
明るくて綺麗な音色で出来た聴いたコトのない素敵な音楽に
俺は息をするのも忘れるくらいレイの音に引き込まれてしまう
心地好く流れる音は心に強く響き、レイの気持ちが伝わってくるような感覚
最初から最後まで俺はレイの音楽に感動させられて
「ははは、セリを見ているといくらでも弾ける気がする」
演奏が終わったコトにも気付かず、レイが俺の無意識に流れていた涙を拭ってくれた
この感じ…レイとセリカが音の町にいた頃に遠くにいた俺がセリカを通じて感じたものと一緒だった
「……何だよそれ」
よかったよと俺はレイを見上げて笑う
「次はセリカの為に弾いた曲だ」
またレイはピアノへと向き合って、素敵な曲を聴かせてくれる
これが…音楽のなかった世界の人間が作り出せるものなのか
いや、レイは最初から音楽の才能を持っていた天才だったってコト
レイは自分の気持ちを心をそのまま音楽で表現するコトが出来る人だったんだ
だから俺はレイがセリカの為に弾いた曲を聴いてすぐにわかったよ
レイはセリカのコトが好きなんだって
ポップにさらわれたセリカを取り返しに行くって言った時からなんとなく気付いていたケド、レイの伝わる曲で確信する
「もっと聴いてほしいが、今日はもう遅いか」
レイがピアノから離れているのにピアノは休むコトを忘れたかのように音を出してる
レイが聴かせてくれた同じ音色で
「レイ!?ピアノから勝手に音が!?」
よくある七不思議の1つ真夜中に誰もいない音楽室からピアノの音が聴こえるってやつ!?いきなりホラーな展開!?
「あぁ大丈夫、オレが一度触れて音を出した楽器は音の魔法で奏でられるんだ
だからオレ1人でも」
レイは口で言うより実際にと音の魔法を使ってバイオリンとフルートをピアノの音に絡ませる
えっ何それこれヤバイくらいめちゃくちゃ良いんだケド
スゴイな…レイの音楽、聴けば聴くほど心を奪われるもん
音楽大好きな俺をここまで感動させるなんて、そうないのに
でも、1人でって寂しくねぇか…
「音の魔法?楽器を使って音楽をする人はたくさんいるケド
音の魔法を持ってる人ってスッゲー珍しいって聞いたあれか?」
音の魔法は数少なくてレイの言ったコト以外にもあるらしいがまだまだわからないコトもたくさんあるって話を風呂入ってる時にメイド天使から聞いたっけ
「セリ1人持つ天魔法より珍しいものはないと思うぞ」
それを出されると…自分でもわかってないから天魔法が何かって
「俺から見れば音の魔法はスゴイんだよ
今日はじめて聴いてレイの音楽一瞬で大好きになった」
「ありがとう
セリに好きと言ってもらえる事が1番嬉しいよ」
「レイの音楽ファンになる!これからも頑張って
また聴かせてくれよ」
レイの音楽は本当に大好きになった
また聴きたいって一心で軽く言ってしまったが、後に頑張れの言葉は自分を寂しくさせてしまうのだった
「もちろんだ
さぁセリ、今日はもう遅い
オレは後少しピアノに触ってから休むから先に休んでいていいぞ」
レイは俺の背中を優しく押して寝るように言った
うんと1人静かな部屋に戻り寝る準備をしていると微かにレイのピアノの音がここに届く
良い音色……
明かりを消してベッドに転がり、枕横に置いているウサギとユニコーンのぬいぐるみを引き寄せる
なんか…1人って寂しくて
ウサギのぬいぐるみを見ていると、ふと俺が前の世界で飼っていたネザーランドドワーフのウサちゃんが頭の中に過ぎる
名前はカーニバル、略してカニバ、正式名カニバリズム
俺の可愛すぎるウサちゃん(オス)
静かに少しずつ睡魔が俺を誘う
今も聴こえるレイの心地好い音を耳にしながら眠りに入るのは悪くないよ
それから数日、レイは出かけて帰ってきても部屋ではなく音楽室に閉じこもるようになってしまった
夜も帰って来ない日が多いし、1人で寝る夜が続く
最初は1人部屋がほしいとか思ってたのに、2人に慣れて急に1人になると今度は寂しさに慣れるまで…寂しいんだな
1人静かな部屋に聴こえるのは遠くからのレイの音だけ
「別に…寂しくなんかねぇよ
俺にはオマエ達がいるもんな…」
ってウサギとユニコーンのぬいぐるみに話し掛けてる俺はどうかしてるのか
可愛いものは可愛いから好き
ふとレイの音が止まったコトに気付いて、それから数分すると久しぶりの夜にレイは部屋に帰ってきた
「まだ起きていたのかい」
いつもと変わらない爽やかな笑顔が今はムカつく
俺は部屋に入ってきたレイにユニコーンのぬいぐるみを投げつける
レイはどうしたんだと受け止めた
「頑張ってって言ったケド…夜は部屋に絶対帰ってこいよバカ!」
「どうしてだいセリ?」
「うるさい!なんでも!!」
俺が怒っているコトに気付いて察したレイは
「わかったわかった
悪かったな、これからはあまり夢中になりすぎないで夜には帰るよ」
いつものように優しくて…寂しいのも怒ってたのも消えていく
あれ…なんかこれカップルの日常みたくないか?いまさらかよ
俺は普通に誰かと付き合ったコトがないからわかんねぇケド
まいっかレイとは大親友だってコト変わらないもん
「セリ、明日から暫くオレに付き合ってほしいんだが」
投げてしまったユニコーンぬいぐるみにゴメンねしてレイから受け取る
レイの奴…もしかして今日部屋に帰ってきたのはそれを伝えたかったからで
それがなかったら帰って来ないつもりだったな
「ドコにだ?」
「光と氷の属性を持ったフェアリー、ついに見つかるかもしれないんだ
そいつを捕まえたい」
捕まえるって、虫取りじゃないんだぞ
でも、今度はちゃんと俺も連れて行ってくれるコトに嬉しかった
音楽だけに夢中になってるのかと思ったら、強くなるって約束忘れてないんだ…レイ
レイはフェアリーの住む森があると言う
前回みたいにデマの可能性もあるかもしれないが、少ない情報の中で藁をも掴む気持ちで確かめに行くんだって
見つけたらラッキーみたいな
「俺は一緒に行くよ」
「すまないな
さっそく明日、予定は1週間だ」
フェアリーってこの世界にいる話は聞いたコトあってもまだ見たコトがない
なんか丸く光ってて飛んでるんだって、光の玉なのか眩しいからなのかその中心がどんな形をしているのかは誰にもわからないとか
俺の勝手なイメージでは手乗りサイズの人型で蝶々みたいな綺麗な羽が生えた存在
フェアリーはそれぞれ違う魔法の属性を持っているがフェアリー自体は魔法が使えないらしい
フェアリーは他の存在に属性の力を与えると言う
元から持っている属性のフェアリーならさらに力が増し、持っていない属性のフェアリーならその魔法が使えるようになるらしい
スゲーよな
だったら全属性のフェアリーがいたら全魔法が使えるんだぜ
でも俺は今持ってる天と炎と回復魔法だけでいいかな
なんか魔法ってちょっと苦手
そうしてレイと俺は光と氷の属性を持つ珍しいフェアリーを探しに出かけた
数日かけてフェアリーが住む森の近くにある村に着く
途中でとくに強いモンスターに遭遇するコトもなく順調だ
まぁレイが普通に強いもん
魔王本人とか魔王四天王とか出て来て躓いてしまったケド、レイは普通に強いんだからな
「森に入るにはこの村を通らなければいけないのか」
フェアリーの森は小さくその森を囲むように村がある
木も花も草も他と変わらないサイズでも小さなフェアリーが住むには大きな森は必要ないってコトなのかな
村は森を守っているように見えれば、村が独り占めしてるようにも見えたりする
「レイ…なんだかあんまり簡単に入れさせてはくれそうにねぇかもだぞ……」
村の出入口で見張りをしていた男が俺達の姿を確認すると
「に、人間だーー!!人間が来たぞ~~~!!」
と見張りの男は慌て叫びながら村の中に入って行く
レイと俺は見張りのいなくなった村の門を潜った
村の中に入ると村人達が集まって待っている
「人間だ…人間が来たぞ……」
「こわい人間」
「私達の仲間のフェアリーを捕まえにきたんだわ」
人間人間とざわついているが…どう見たって
あんた達も人間だろ!?
フェアリーのコスプレしてるだけで!?なりきってんのか!?
羽とかめっちゃガムテープとかで張り付けてるのが見えてしまって、どうしたらいいのかわかんねぇ
スルーでいいか
最近、ツッコミするのがしんどい
「これはこれは勇者様とその騎士様、このような小さな村に何の用でござりましょうか」
ここまで俺達は有名になってるのか村長と思われるおじいさんが杖をついて前に出る
「わしは村長ではありませんが」
違うのかよ!?めっちゃ村長っぽい感じで出てきたぞ!?
「はぁっ?村長なんぞいたかいの」
「いましたよ村長はあなたです」
周りの人が耳打ちしてるのが聞こえる
「そう!わしがフェアリーの長老じゃったな」
「いえ村長ですフェアリーのコスプレをした人間の村の長です」
あっもうなんでもいいです
「村長、オレは光と氷の属性を持った珍しいフェアリーがこの先の森にいると聞いて来たんだ
どうしてもオレにはその力が必要だから」
「いかんいかんいかん!!駄目じゃ駄目じゃ駄目じゃ!!」
レイの話を途中で遮り、村長は杖を振り回して怒る
「フェアリー達は静かに暮らしとるんじゃ
そっとしておいてくだされ!!」
レイは許可が下りないとわかり話をするのも無駄だと思ったのか、何も言わずに俺の手を引き村長の隣を通りすぎる
見上げるとレイはまっすぐフェアリーの森しか見ていない
どうしても強い力がほしい…
たくさん挙げた力の中で最初に手に入れる…強い力
レイは村人達が、俺が何を言っても止まらないし
必ずフェアリーを連れて帰るんだって思った
「お願いじゃ~~~!!森を荒らさんでくれぇえ!!フェアリーを乱獲とは悪党じゃ~~~!!」
村長は森に入ろうとするレイの足にしがみつく
俺達めっちゃ悪人みたいにされてんぞ!?
「村長さん落ち着いてください
俺達は森を荒らしはしないしフェアリーを乱獲したりもしない
レイの探すフェアリーも仲間になる意思がないなら無理に連れて帰らないよ
なっレイ?」
「フェアリーの意思なんて関係ない
強い力を手に入れられるなら…それで守る事が出来るならオレは何だってしよう」
「レイ…」
やっぱり…俺が何を言っても聞いてくれないんだな
圧倒的な強さの差と人間の限界に強いコンプレックスを持ってるレイは強い力を求める
命を懸けても守りたいって気持ちがレイを突き動かし
扱えるハズのない魔王の力でさえ手放そうとしない
レイ…守ってくれるコトは相手にとって嬉しいコトでも
それで何かを傷付けては意味がないよ
そんな守られ方は望んでないって俺はわかるから
「はぁ~~~っ」
村長はレイの揺るがない強い意志に負けてしがみつく力を弱らせる
誰にも止められるコトなくレイと俺は森の中に入るコトができた
少し歩くと綺麗な水が流れる小さな泉があってそこにたくさんのフェアリーが集まっている
小さな森だからすぐにそこら中にフェアリーがいるなんて幻想的な光景が見えるんだ
これは夜に見るとまた違った光景が見られるんだろうな
「うわ~スゲーフェアリーがこんなにたくさん
はじめて見る感動
このほんのり赤い色のフェアリーは炎属性とか?」
涼しく澄んだ空気は癒しの空間
人間の俺が近付いて手を伸ばしても逃げないフェアリーには簡単に触れられる
感触はわからないな…手を伸ばすと手の上に乗ってきて掴まえようとするとひらりとかわされて手の甲に乗るって感じ
もっと素早く掴めば捕まえられるかもしれないが可哀相だからやらない
聞いた話と一緒で光の中心は確認できないな
でも、眩しくない
淡い光で目に優しいぞ
「なぁレイ」
フェアリーを手の上に乗せて振り向くとレイは1匹ずつフェアリーを掴んでは違うと投げている
「これも違うな…」
「おっとっと」
投げられたフェアリーは飛べるから地面に落ちるコトはないが、俺はふわりと宙を舞うフェアリー達をキャッチしてしまう
「おいおいレイ、乱暴にしたら可哀相だろ
そんなんじゃレイの探してるフェアリーが力を貸してくれないよ」
最初から勇者の力を持った特別な俺にはレイの気持ちがどれほど強いかなんてわからないのかもしれない
笑って言ったケド、レイ自身もそんなコトはわかっていて
焦りで余裕のない自分が1番イヤだってコトも
そして、セリカには直接言えなくても俺には言えてしまうコト
「…誰の為に…強くなろうとしているのか
目の前でさらわれて行くのを見ているしか出来ないなんて、もう嫌なんだ
セリに会わなかったら、セリカに出逢わなかったら
きっとオレは勝てない相手がいても、今以上に強くなろうなんてしなかっただろう
守りたい者があるから、そこにいるから…
焦りも不安も恐れも
オレが決めた事だから強い意志と共に全て受け入れて、強くなりたい
余裕がない自分も…すまない…セリ」
自分の情けない姿を見られたくないとするレイは俺に背を向けて森の奥へと消えてしまう
俺はそんなレイの背中を追えなかった
イングヴェィもレイも一生懸命になりすぎて、前しか見えなくて
それ以外に対して余裕がない自分がイヤだって本人が1番わかってる
セリカはそんなイングヴェィもレイも、自分がいるからそうなってしまうんだって距離を取った
間違ってない…
恋をすると余裕がなくなるのは俺にだってわかる気がする…
そんな自分がイヤになるコトも…よくわかるよ
でも、だからって…やっぱり……ダメ
「……レイは本当は良い奴なんだよ」
俺は受け止めたフェアリー達を見下ろしながらゴメンなと呟く
どうしたら、余裕のないレイのその辛さを軽くするコトができるんだろ
大親友として、レイをフォローしたいから…
立ち止まって考えていると俺の腕の中にいたフェアリー達が何か危険?を察したかのように一斉に逃げて行く
「どうしたんだ…?」
その辺にいたフェアリー達も姿を隠してしまって、俺はもしかしてヤベェのか?と後ろから何かが近付いて来るコトに気付き振り向いた
-続く-2015/08/10
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