第52話『真実は過去とともに埋もれて』イングヴェィ編

「俺のプラチナの力もどっかに落ちてないかな~?ん~…」

「……………。」

とりあえず身近な所からと俺は城の中を探し回っていると、最近かなり暑くなってきて夏に相応しいかき氷を食べているカトルに無言で「こいつ馬鹿」と言われているようだった

「……あるわけない」

一所懸命な俺に無駄なコトをするなとカトルは舌を真っ青に色付けて呟く

「だよね…」

そんなコト、言われなくてもわかってたんだ

この城に俺のプラチナの力が落ちてないコトはね

…レイくんが魔王の力を拾って持っている話を聞いて少し焦ってるんだ

ううん…俺はレイくんの話がなくても、今の自分の力の限界を感じていたから早く本来の自分の力を取り戻したいって考えてたよ

セリカちゃんを守る為には強くないといけないでしょ

セリカちゃんが俺の傍から離れて行ったのはね…

俺が弱くて頼りないからだってわかってる

だから、強くなってセリカちゃんに俺を認めてもらいたいの

まずは今出来るコトから頑張りたいんだ!!

レイくんが力を求めてるのも俺と同じ理由だからってのもわかってる……

人間だからっていつまでも見下していたらいつか足を掬われちゃうかもしれないもんね

「本当に…どうしちゃったんだろ俺の力、家出かな~」

「なくした時の事を思い出してみれば」

「この世界に来た時にはすでに記憶と一緒になかったんだよね」

俺はカトルの言う通り記憶を遡ってみる

この世界に来た時になかったなら、俺の前の世界かな

前世のセリカちゃんのいた世界から連れ出して、1週間後に俺の世界はなくなったんだよね…

俺の記憶はセリカちゃんを連れて来た日まで遡る

幸せな記憶だから、自然と思い出してしまう



ユリセリさんの力で別の世界に遊びに行くのが1つの楽しみだった俺は君の世界で君と出逢って

恋に落ちて君をそこから連れ出して自分の世界へと連れて来たんだ…

「セリカちゃん、見て見て

君の大好きなウサギさんだよ」

あんなコトがあって…違う世界に連れて来られて、なかなか笑ってくれないから

俺はセリカちゃんの気を引こうと、笑顔が見たくて…なんでもやったよ

「可愛い…」

動物が大好きでその中でもウサギが1番好きな君は俺の手の中にいる小さな生き物を見て笑みを零す

いいな…ウサギは何もしなくてもセリカちゃんに愛されて、笑顔を向けてもらえて

「俺は君の笑顔のほうが大好き

もっと見たいな綺麗な顔の可愛い君を

セリカちゃんがほしいもの…なんでもプレゼントするね」

「私のほしいもの…」

俺の手からウサギを受け取って可愛がりながらセリカちゃんは考える

「ないかな」

出た答えは俺が困るものだった

君にほしいものがなかったら、プレゼント出来ないし喜んでもらえない

それじゃ何をしてあげれば…

「ウサちゃんは可愛くて大好きだし一緒に暮らしたいとは思うケド

私はこれ以上何も望めないもん」

「どうして?もっとワガママ言っていいんだよ

俺なら君のお願いなんでも叶えてあげられるコトができるからね」

この時の俺はセリカちゃんに夢中で君しか見えてなくてあるコトに全然気付いていなかった

君はそのコトを知らなかったけれど、なんとなくわかっていたのかもしれない

「イングヴェィがいるから私にはほしいものなんてもうないよ」

嬉しい言葉、俺の周りに花が咲くような思いは動かない心臓を熱くさせて鼓動する

キラキラするの

綺麗な君がどんどん美しい愛で飾られていく

「本当!?それってセリカちゃんも俺が好きってコトだよねっ」

君のいた世界で君に告白してちゃんと返事を貰っていなかった俺は不安だったケド…凄く嬉しい

「うん…そうだよ」

やった~!これってレイくんに勝ったってコトだよね!?そうだよね…

「あのね、セリカちゃん大好き

でも俺達まだお互いのコトよく知らないからちゃんと教えておくね」

嬉しくて幸せでたまらなくて…この時の俺はちゃんと現実が見えていたのかもわからなくなる

「俺は人間のセリカちゃんとは違う存在なんだ

他種族は俺みたいな種族をプラチナって呼んでるみたい

だからそう言ったほうがわかりやすいかもしれないね

それでねプラチナにはそれぞれ特別な力を持ってて、俺の力は想像したコトが現実になるんだよ」

「へ-スゴイ、だからイングヴェィの周りはいつもあったかくてキラキラして見えるのかな」

想像したコトが現実になる力

想像力の乏しい俺にとって宝の持ち腐れになってる気もしてた

でも、君を一目見て恋に落ちて夢中になって…きっと想像した

君と恋人同士になるコトを

記憶を遡る未来の俺は、この幸せも嬉しさもキラキラも…君の笑顔さえ

俺の力で現実になっただけとしたなら、本当の君の気持ちなんて…消えちゃって

心もなくなっていたかもしれない

本当に俺を好きになってくれたのかな

本当はレイくんが好きだったのかな

記憶の中じゃ真実はわからない

この幸せは全て俺が作り出したウソだったら…

死ぬほど苦しいコトだよ

心が割れてしまうくらいの……

この時の俺はそんなコトには少しも気付かずに

…もしかしたら、ウソでもいいから愛してもらいたかったのかも

ウソでもいいから君を恋人にして、手に入れたかったのかも

きっと…今だって、君が俺を好きになってくれないなら

自分の力を使ってでも君を手に入れちゃうから…

いまさら気付くなんて…

過去の幸せな記憶は一瞬で苦しいものだと改めて認識し直してしまったな


それでも俺の記憶の中の君は俺に微笑んでくれる

それだけで幸せだった…

「えっ、この世界で1番綺麗な景色が見たい?」

ある日の朝に何も望まなかったセリカちゃんが遠慮がちに俺にお願いした

そのお願いの仕方もとっても可愛かったんだケド

「うん…イングヴェィと一緒に、思い出だよ」

「はっ!?それってもしかしてデート!?」

いつも俺からセリカちゃんとお出かけしたいってデートに誘ってきたけれど、セリカちゃんから行きたいって言われるのははじめてで凄く嬉しい気持ちになる

なんたってセリカちゃんの遠慮がちな初々しさがたまらない

もっとワガママ言って甘えてくれたらいいのに

「うん行こう!!一緒に思い出作ろ~ねセリカちゃん!

この世界には1番なんて決められないくらい綺麗な景色はたくさんあるんだよ

だから1つずつ連れて行ってあげるね」

俺がそう言うとセリカちゃんは一瞬だけ困った表情をしたけれど、すぐに「うん」と可愛く笑ってくれる

そうして俺は君を連れて光の湖にやって来た

俺の城から1番近い場所

光の湖は名前の通りキラキラ光るんだよ

とくに夜が綺麗

湖は深くなくて、底にはいろとりどりの宝石のようなものが散らばっていて

その1つ1つが自ら淡く輝いて湖を照らしているんだ

だから夜の闇にとっても映える

「わ~…綺麗……こんなに綺麗な所、はじめて見た」

光の湖を見たセリカちゃんは感動に息を吐く

俺から見れば、光の湖も綺麗だケド…セリカちゃんのほうが綺麗だよって思って言葉が喉で止まる

だって、綺麗な景色を見て感動してる君の幸せそうな横顔がまた美しくて可愛くて…ずっと見ていたいから

言葉を発してしまったら君は表情を変えてしまうでしょ

でも

「ありがとうイングヴェィ

私、綺麗なもの大好き

それを大好きな人と一緒に見られるってもっと嬉しいコトなんだね」

俺が言葉にしなくても、君は俺に振り向いて表情を変えて微笑む

君の笑顔はいつもそうだ…

俺の思った通りに綺麗に可愛く笑ってくれる

もしかしたら想像以上かもしれない

君を見ていると胸が熱くなってそれが頭にも伝わるようで、顔に表れるみたいなんだ

こんな気持ちになるのも知ってるのも世界で俺1人だけなんだってくらい思ってしまうくらい強い想い

俺と同じように君の白い肌もほんのり赤くなっているのを見ても

きっと俺のほうが強く深く溺れて…そして狂ってるんだろうな

「………私も、綺麗になりたい…」

「セリカちゃん…」

不安定に君の心に居座り続けるものは一瞬にして君の笑顔を奪ってしまう

セリカちゃんはふと前の世界でのコトを思い出してしまうみたい

どんなに俺が忘れさせようと頑張っても忘れられない深く根付くもの…

君の憎しみも苦しみも悲しみも…この時からあるんだ

生まれ変わっても…何度も…

「セリカちゃん…大丈夫、大丈夫

もう、大丈夫だからね……」

君の心が凍えてしまいそうな冷たい身体を引き寄せてしっかりと抱きしめる

綺麗だよ

君がどんな人生を歩いてきたとしても、俺の中じゃ君は何よりも美しい人

今も昔も…思うんだ

俺がもっと早く…もっと早くに君を見つけて連れ去っていれば

君は君の理想として生きていけたかもしれないのに

「大好き…セリカちゃん」

「でも、私…イングヴェィに好きになってもらえるような」

「人だよ

セリカちゃんは俺の永遠の運命の恋人

君のコトならちゃんと知ってるし、君のコトならなんでもわかるもん…」

不安にならないで、心配しないで

伝わってほしいの今も昔も…そして未来も、永遠を

君が疑って信じられなくても、俺はいつかそんな君を解放して幸せにするって誓うから

例え…永遠をかけても

「セリカちゃん…愛してる

本当だよ」

君の恐がってるコト傷付いてるコト迷ってるコト…全部全部、全部…奪い去るように

俺はそっと優しく君にキスをする

「…イングヴェィ」

これで本当に君の苦しみを全て消し去れたらいいのに

少しだけ溶けた心で君は恥ずかしそうに微笑むから頭を撫でて俺はいつもみたいな太陽の笑顔で返した


君をこの世界に連れて来てから1週間ほど経った頃、君は姿を消してしまった

「セリカちゃん…知らない?」

ユリセリさんに聞いてもカトルに聞いても知らないの答えしか返ってこない

だから俺は探したの

思いつく場所を片っ端から

そしたら、セリカちゃんは湖の近くで倒れてたんだ

この湖は君がこの世界に来て始めて見た綺麗な景色で凄く気に入ってた

夜の闇でもほんのり輝く幻想的な不思議な景色を

「セリカちゃん!?」

駆け寄って君を抱き上げた時、君の片足は朽ちてなくなる

それを見て俺はやっと思い出す

ユリセリさんの別世界のルールを

別世界の人も物も連れてきては持ってきてはいけない

それは元から世界に存在しない違う世界のものは朽ちてなくなってしまうから

セリカちゃんは1週間持ってたケド、ついに消えてしまう時が来ちゃったんだ…

あぁどうして俺は忘れちゃってたんだろう

君と一緒にいたい一心で……

「ヤダよ…消えないで、セリカちゃんがいなくちゃ生きていけないよ

大好きなの愛してるの君を死ぬほど…」

想像できない

君がこの世界にずっと存在する姿が

だって俺はユリセリさんが言ってた世界のルールを思い出しちゃったから

それが頭に焼き付いて離れない

なんで…こんなに悲しくて

生まれてはじめて涙が出るのに

不老不死の身体が心と一緒に引き裂かれるような想いをするのに

この運命を止められないの

「イングヴェィ…どうして泣くの」

セリカちゃんは気付いていたんだ

自分が近々死ぬコトを

だから何もほしがらなかったし望まなかった

恋人の俺がいてくれるコトだけで満足だった

「君が死んだら悲しいよ

涙が出るのは当たり前のコトだよ」

次々と君の身体が朽ちて消えていく

止めたい強い想いをこめて君の手を強く掴んだ

君の手は少し震えていて死ぬのが人間の本能として恐いんだってわかった

「ううん…私、信じてるのよ

生まれ変わった私を

例え世界が違っても、いつかイングヴェィはまた私を見つけてくれるって

だから…悲しくないし…死ぬのは恐くない……」

君は俺を気遣って微笑んでくれる

死の恐怖に耐えても零れる涙は俺が見つけられるかどうかわからない未来への不安も一緒に流して

「それでも俺は…」

悲しみが引かないよ

はじめて…なんで…たくさんの死を目にして来た俺は何も思わなかったのに感じなかったのに

死は悲しくて辛くて苦しいと感じるんだよ…

君に恋をして、感情のなかった俺はたくさんの感情が生まれてしまった

幸せも嬉しさも喜びも良い感情ばかりだと思ってたのに

こんな感情まで知るコトになるなんて

「悲しいコトなんてないもん

イングヴェィが言ったんだよ

私は貴方の運命の恋人だって

だったら、また会えるよ

私が何度死んだって…永遠を生きる貴方なら私を何度だって見つけてくれる

永遠に…終わりのない運命の恋人……でしょ…」

朽ちていく君がどんなに願っても祈っても止まらない時間が俺の腕から君を奪っていく

死が君をさらっていってしまう

「…セリカ……ちゃん……」

この世界に存在しなかった君は最初からいなかったかのように跡形もなく朽ちて消えてしまった

「どうして……俺の力はなんでも思い通りになるのに……」

霞んでは零れ落ちていく

晴れるコトのない視界は俺を悲しみから救ってくれはしない

何も見えない俺の頭の中は世界が終わるくらい苦しいってコトだけ

君がいないと生きていけない……

俺の力は想像したコトが現実となって自分のいた世界を殺した

一瞬でなくなった俺の世界

不老不死で死なない俺はすぐに別の世界が存在するコトを許し受け入れてくれる

それが今いる世界だった

そして、俺は君がいないと生きていけないと思ったコトで記憶をなくしてしまったんだ…

力は…世界がなくなる瞬間まではあったと言うコトかな



「イングヴェィ泣いてる」

記憶を遡らせていた俺はアイスクリームを食べているカトルの声で自分が泣いているコトに気付き涙を拭う

「何が悲しいかって言われたら、俺はずっと前世のセリカちゃんの恋人だって思い込んでただけで

実は俺の力でセリカちゃんの心を手に入れただけかもしれないってコトだよ~~~」

「あぁ…それはありそう」

「そんなコトないよってウソでも言ってよね!?」

カトルもユリセリさんもリジェウェィも俺が元の世界を殺したコトに何も言わないコトにも気付く

普通なら自分の世界を殺された俺を恨んでもおかしくないのに…

プラチナの力があった時の俺なら恐くて何も言えなかったかもしれないケド

今の俺ならみんな簡単に勝てるよ

……みんな…優しいってコトなのかな

なんだか申し訳ないよ

「まぁ今の俺でもセリカちゃんが好きになってくれないなら力を使うからいいんだケドね」

「病んでる」

「アハハ、でもね

セリカちゃんに本当の心から愛してもらいたいって気持ちもあるんだ

ウソで愛されてもね…虚しいだけでしょ

だから、今回は実力で頑張るよ」

それでもやっぱりダメだった時は力を取り戻して使うだけって言う保険は取り外さない

「頑張って

失恋のショックで今度はこの世界を殺されても困るから、僕はイングヴェィを応援しとく」

「ありがとうカトル

今は…前世のセリカちゃんが本当に俺を好きでいてくれたのか

自分の力で手に入れてたのか

どっちかわかんないケド…人間のセリカちゃんには前世の記憶はないもんね

でも、俺の気持ちだけははじめて出逢った時からこの先も永遠に絶対に変わらないから

ちゃんと伝えるの

何回も何十回も何百回も、それこそ永遠にね」

プラチナの力は俺自身が強くなる為に1日でも早く取り戻したい

だけど、ちゃんと君の気持ちが知りたいから取り戻してもいざって時にしか使わない

絶対使わないって約束はしないよ!?

だって…俺は必ず君を手に入れたいんだもん

俺の永遠の恋人だから…それが運命なんだよ

「恐い恐い」

笑顔で話してるのにどうして恐がられるのかわかんないな

ふふ…セリカちゃん大好き愛してる

いつかセリカちゃんが俺の傍に帰って来てくれる為に、強くなるよ

頑張るからね



-続く-2015/07/13

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