第53話『干し肉』レイ編

セリを置いて来たまま1人で森の奥へと進む

そこにいたフェアリーを捕まえ、自分が求めているものかどうかを確認した後

「これも違うか…」

呟きながらそっと葉の上に戻す

さっきセリに言われた事が引きずるんだ

乱暴に扱ったら可哀相だ…

そうだ…そんな事はわかっているんだ

自分に余裕がないと言う事が、今まで守りたいものがなかったオレには自分の力に焦りも不安も何もなかった

今のオレはイングヴェィさんと同じじゃないか…

セリカの事になると余裕がなくなってヤバイ奴だなって思っていたのは、鏡のようにオレを映しているのと変わらない

さっきの…セリにあんな顔させて…八つ当たりして馬鹿だオレ

謝りに行こう

そう決めて来た道を戻ると、さっきの場所にいたたくさんのフェアリーがいなくなって

泉の近くでセリが倒れている事に気付く

「どうしたんだ!?セリ、大丈夫…か…っ」

息が詰まりそうに全身がヒヤッとする

たった数分、傍を離れただけだと言うのに一体何があったんだ

回復魔法を持ってるセリが倒れているなんて、もしかしてと悪い考えが過ぎりながら駆け寄る

後一歩、手を伸ばして触れられると言う所でオレの手を阻止するかのように氷の槍が降り下げられた

「誰だ!?」

降り注ぐ氷の槍がオレの身体を後ろへ後ろへと引かせる

クソ、このままじゃセリとの距離が開く一方だ

調子に乗るなよとオレは降り注ぐ氷の槍を塞ごうと頭上に氷の盾を作るが、相手の魔力のほうが強いのか簡単に壊されてオレの腕を貫き傷付ける

「くっ…姿を隠して攻撃とは卑怯じゃないか!?」

氷魔法にはそれなりに自信があったオレは少しショックを受けている

オレのスタイルは魔法専門ではないから上には上がいるとはわかっていたが…それでも

姿を見せろと叫んだ事で相手は素直に応じる

セリの身体の下から現れ顔を覗かせ、這い出してオレの顔の高さまで浮かぶのは

「…フェレット……?」

いや、見ただけで普通のフェレットではないがどう見てもそれは動物のフェレットにしか見えない

普通じゃない部分はフェアリーのように淡い光を纏っている

水色と黄色の淡い光が交互に輝き纏い宙に浮くフェレット

モンスターでもない魔物でもない悪魔でも天使でもない…それじゃあ一体こいつは何なんだ?

セリに何をしたのかわからない

動物大好きなセリならこいつ相手じゃ油断したのかもしれない

しかし、目的は…何なんだ

ただ単純に人間は敵と認識している存在か?

「そこをどいてくれ!」

とにかく早くセリの状態を確かめないと

フェレットみたいな奴はその愛くるしい姿からは想像できないほど狂暴に魔法を次々と繰り出してくる

さっきより強力な氷の魔法がオレを襲う

逃げてばかりじゃ意味がない

対象が現れたのだから、攻撃して来るならオレも手加減はしないぞ

最初にやられた腕の傷はかなり深かったが、これくらいでオレの腕は鈍らないまっすぐ正確にフェレットみたいな奴の額に命中…

「おいおい…嘘だろう」

しない

相手は光魔法でオレの矢を消し去った

氷以外にも使える属性があると言うのかい

しかも光の魔法とは、気に入らないじゃないか

オレが体制を整える前に次の攻撃が来る

光の魔法はその輝きが届く全てを溶かして行く

影になる背中以外、オレの身体が徐々に溶けて行くのがわかる

それに眩しくて目も開けづらい

何よりこいつならオレを一瞬で溶かす事もできるのに手加減されていると肌の痛みでわかった

なんて屈辱だ

しかし、このままだと負けるのは確実

心配なのはセリだが…眩しい光の中、目を凝らして見るとちょうど大きな葉の影に隠れていて光魔法は届いていないみたいだ

それだけでもほっと安心する

オレは一度木の影に隠れて光魔法から逃れようとしたが、気付いた時には地面に張り付けられている

「動け…」ない?

オレは光の魔法で作られた小さな檻みたいな所に閉じ込められてるんだ

手足を折り畳むようにして一切身動きが取れない

また負けの二文字が頭に過ぎる

悔しい…何度…何度目なんだ

何度だって色んな奴に負けてしまう……のか

「いや、まだ…まだ負けてなんかいない」

オレが魔王の力を借りたままなのは何の為だ

自分が強くなるまで…助けてもらう為じゃないか

一度使ったあの時の死ぬほど恐ろしいものは二度と体験したくないほどの恐怖だが

オレは、セリをセリカを守る為ならどんな事だって耐えられるし

その為に…強くなってみせる

だから、オレはもう二度と誰にも負けやしない

「あまり調子に乗ってると手加減してやらないぞ」

持っていた魔王の力を使うと、また耐えられない恐怖と一緒に絶大な力が目に見える

光の檻は壊れ、怯んだ相手が光魔法を使うが一瞬で消し去る

「アーッ……!!」

フェレットは怯えて恐怖するのがわかる

回ったり転げたり狂ったようになって、でもその場から離れようとしない

「大人しくセリを返すなら殺しはしない

だが、返さないと言うなら…」

氷魔法も光魔法も次から次へと出して来るが、魔王の力を上回る事なく無駄に終わる

そして、フェレットの身体が空中で張り付けられたようになって手足が動かなくなった

引き裂くから…

「…ッレイ!待って!!?」

魔王の力で相手の身体を引き裂こうとした時、急にセリが身体を起こしてオレに抱き着く

「セリ…無事だったのか」

魔王の力の影響がなくなったフェレットは自力で浮く事も出来ないほど精神的にやられ地に落ちる

それを見たセリはすぐにフェレットを抱き抱えた

何故だ…そいつはセリを襲った悪い奴じゃないのかい

しかし…セリが無事なら……よかっ

「あのレイ…これは」

フェレットを抱えながらオレのほうを振り向いたセリは一瞬で青ざめてこの世の終わりと言う表情をする

「レイ…何やってんだよ……」

何か言いたい事があったんじゃないのかとオレは聞きたいのに声が出ない

何故かって…オレは気付いたら腰にあった短剣を引き抜いて自分の首に突き刺してるからだ

「バカやめろよ!?どうしたって言うんだよ!?」

目の前でセリが泣きながら必死でオレの手を掴み止めようとする

でも、セリの力じゃオレの力には敵わないし短剣はどんどんオレの首に深く突き刺さる

セリの回復魔法があってなんとか耐えられているが、このままじゃ自分で自分の首を切り落としてしまう

自殺すると言うのか

「レイ、やめて、やめろって…死ぬなよバカ!…死なないで……」

少しずつわかって来た

オレがなんで自分の首を切り落とそうとしているのか

オレがオレを殺すのか

それは魔王の恐怖が死ぬほどのもので耐えられなくて自殺してしまうからだ

後ろから襲い掛かって来るような感覚にいつの間にか捕まって…逃げられない

この恐怖から逃げるには死しかない

魔王の力が人間には扱えない…魔王以外には扱えない理由が体験してわかる

恐い…死ぬほど…耐えられない

「死んだら…もう守れないのに、それでいいのかよレイ…!!」

薄れゆく意識は恐怖に支配されて何も考えられなくなっていた

でも、セリの言葉で微かにでもオレは自分を引き戻す

何の為にこの力を使ったんだ

恐怖で消された想いも誓いも思い出せば…こんな所で死ぬなんて出来ない

命を懸けてでも、今がその時じゃないか

前にセリカをポップに連れて行かれた時も魔王の力を使っただろう

あの時の事を思い出すんだ

あの時…どうやって魔王の力はオレから抜け出したんだ……どうやって……

止まらないオレを殺す手が命の糸を切る前にオレは思い出す

それが正解かわからないが…生きて守る為なら、やるしかない

両手で力を入れていた短剣から意志を強くして抗った片手でオレはセリの顔を引き寄せる

そして、そのままキスするとオレを押し潰していた恐怖が一瞬で消え去ってあの時と同じように足元に魔王の力が転がった

「やはり呪いはキスで解くと言うのは迷信ではないんだな、ハハハ」

首に突き刺さる短剣を引き抜いてセリの回復魔法で綺麗に塞がる

が…

「……………………。」

セリは渇ききらない涙を頬に残したまま呆然とオレを見上げている

おっと、セリが恐がるから魔王の力は隠してやらないとなと拾っておく

「どうした?」

「いや、どうした?じゃねぇだろ!?

なんで何事もなかったかのように言ってんの!?」

怒ってるなぁ~…いつも思うが怒っても美人だし可愛いから、駄目だとわかっていても笑ってしまう

「セリが死ぬなって言ったんじゃないか

死んだら守れなくなるのはオレも嫌だしな」

「だからって…キスするなんて……」

怒ってたと思ったら、今度は泣きそうになっている

それは…ちょっと困るぞ

泣かせるのはよくない

「す、すまないセリ…仕方がないんだ

前に一度同じ事があって…」

セリカと偶然キスしたら魔王の力が抜けた事を説明したが、おかしいな…セリカはなんともない反応だったのに

セリのほうがこのような反応をしてしまうとは

セリとセリカは一心同体で感じる事も思う事も一緒のはずなんだ

「別にいまさらキスの1つ2つで喚くような俺じゃないケド」

なんだろうそれ…凄い傷付くんだが……

セリカにとって、愛の大切さもわからなくてないんだって思ってしまうから

「レイとはそう言うのなしがよかった…

だって、レイは俺の大親友だから!友達同士はそんなコトしないだろ

だから…ショック……」

大親友に強いこだわりがあるのか、嬉しい事じゃないか

セリカと反応が違うのはこれだな

「そうだな、でもセリ

川や海で溺れたなどで息をしていない人がいたら人工呼吸をするだろう

さっきのはそれと一緒さ」

「はっ!?そうか!そうだよな!!さっきのは人命救助ってやつだな!!そっか~」

「うんうん」

簡単に納得してくれたセリはパッと花を咲かせたように綺麗に笑った

よかった単純で、機嫌直してくれて

難しい性格をしているセリだが、変な所で単純で抜けている所がある

「それでセリ、さっき何か言いかけていたが」

オレが聞くとセリはフェレットを抱き上げてオレに見せる

「このフェレットみたいな奴、レイが探していた光と氷のフェアリーなんだぞ」

「ん?どういう事だい?」

確かにこいつは光と氷の魔法を使ってオレを攻撃して来たが、フェアリー自体は魔法が使えないって話だろう

それに他のフェアリー達と違ってフェレットみたいな姿をしているなんてな

「コイツ、ここにいるフェアリー達のボスなんだ

レイが他のフェアリー達を乱暴に扱うからちょっと怒ってて」

セリは自分を通してフェアリーに魔法を使わせる事で鬱憤を晴らさせたかったと言う

つまり…セリはやられたフリをしていただけで意識もあって、魔王の力を使ったオレが危険だと感じたタイミングで出て来たって事か

オレに手加減してたのも相手がフェレットじゃなくセリだったからなんだな

「レイを騙す事みたいになって…怒った?」

「いや、オレがフェアリー達に失礼をしたんだ

当然の報いだよ」

最後は魔王の力で怯えていたがそれまでで鬱憤は晴らせたみたいでフェレットフェアリーは手を伸ばしたオレに飛び移る

「すまなかったな」

お詫びになるかわからないし食べるかどうかもわからないがオレは干し肉を与えてみた

「クククッ」

食いつきぶりと鳴き声からして凄い喜んで食べてくれてる

いつの間にか恐る恐る集まっていた他のフェアリー達にも

「みんなも…すまなかった…」

と頭を下げる

心広く優しいフェアリー達は気にするなと言ってるようにオレの周りを優しく飛び回った

「今なら仲間になってくれるかもよ?」

セリは見つかってよかったなと笑う

念願の光と氷のフェアリー……

「光と氷のフェアリー……オレに力を貸してくれないか?」

フェレットには人間の言葉は通じないのかもしれない

干し肉を食いながらオレの手の中で立ち上がって首を傾げてる

「お前の力が必要なんだ

オレには守りたい人がいるんだ…頼む」

言葉が通じなくても、オレの強い想いも誓いも通じてくれたのかフェレットは

「ククッ」

と鳴いて、オレの肩に上ってついて行く意志を示してくれた

「ヤッタじゃんレイ!

フェレットが何言ってるかわかんねぇケド、なんとなくレイについて行くって言ってるんじゃん」

「本当にいいのかい?」

もう一度聞くとフェレットはまたククッと鳴いて離れる事はなかった

どうやら本当に良いらしい

……セリが、こいつの鬱憤を晴らしてくれなかったら仲間になってくれなかったかもしれない

オレに余裕がない事を知っているセリは、どうしたら良いか考えてフォローしてくれたんだ…

守りたい人にそんな事をさせてしまうなんて、オレはまだまだ子供だって事かい

情けない姿は見せたくないな

そう、これからまた頑張ればいいんだ

念願の新しい強い力も手に入れた事だし

オレとセリは森を出る道を歩く

「こら、何をしてるんだ」

フェレットはオレの肩から腰に移動したかと思ったら干し肉が入っている袋から取り出して食べている

「もしかして、その干し肉が気に入ってついて来てるんじゃ…」

「………………。」

まぁ…何でもいい

力を貸してくれるなら、好きなだけ干し肉をやるよ

「名前は?決めないのか?せっかくなんだし」

「名前がないと不便か

あまり考えるのは得意じゃないんだが、フェレットフェアリーだから…そうだな……

フェレートでいいか」

「フェレートか、悪くねぇと思う

フェレート可愛いよな~」

そう言って動物大好きなセリはオレの腰で干し肉を盗み食いしているフェレートを抱き上げて可愛がっている

ふとオレは気付いてしまった

強い力を手に入りた事には変わりないんだが、さっきの魔王の力を使った時フェレートは手も足も出なかった

フェレートを使っていたセリが手加減していたと言うのもあるが、もし本気だったとしても…

それは珍しい光と氷のフェアリーでも魔王の強さには敵わないと言う事だった

絶対の力が相手なんだ当然と言えば当然で、それがわかった事でオレはこれで満足はせずにもっと強い力を探すと決める

強くなりたい…誰よりも

そしたら何があっても必ず守り抜けるから



-続く-2015/08/16

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