第54話『生け贄の村』イングヴェィ編

今日はリジェウェィの魔術の材料を取りに遠くまで来たんだ

いつもは誰かにお願いするんだケド、今回はリジェウェィ自身じゃないと見分けられないからってリジェウェィとカトルと俺の3人でね

今リジェウェィは死者蘇生の魔術を完成させようと挑戦中みたい

死者を蘇生するなんて禁忌と言われているのに、大丈夫なのかなって心配になるケド

「誰かが決めた事などオレには関係ない」って言うんだよ

まぁいいケドね、俺も誰が決めたか知らないもん

それでなんとかの葉がほしいらしくて、それは四つ葉のクローバーにそっくりで普通の人は見分けがつかないの

前に仲間が四つ葉のクローバーを集めて帰ってきたケド全部ハズレだったから今回はリジェウェィ自ら確かめる

もちろん俺もカトルもわからないから、付き添いってね

しかし随分と遠くまで来ちゃって、こんなに植物の匂いも少ない高い山に本当に四つ葉のクローバーみたいな葉があるのかな~

雪積もってるよ本当にココ?

「この広い山を探すのか…」

カトルは温かい肉まんを食べながら面倒くさそうにする

「とりあえず、四つ葉のクローバーを見つけたらリジェウェィに知らせたらいいんだよね!」

カトルとは反対に俺はリジェウェィの新しく作る魔術はどんなコトも応援してるし協力する気は満々だよ

だって、リジェウェィが頑張ってるコトだもん

例えそれが禁忌で世界を敵にしても、リジェウェィがそうしたいなら俺は成功してほしいと願うよ

「そうしてくれ、イングヴェィ

カトルは面倒くさいなら何故着いて来たんだ…」

「暇だから」

俺はあっちの方を探すよと言ってリジェウェィから離れる

すると、なんだかんだ言ってるカトルも俺の隣を歩いては面倒より暇の方が嫌いだからと手伝う意思を見せた

「あっ、あそこに人間がいる

ちょっと聞いてみようよ」

少し歩くと景色の良い崖の上で座り込み絵を書いている15歳くらいの男の子と女の子を見つけて声をかけてみる

「こんにちは、君達はこの近くの村の人間かな?」

笑顔で話しかければ笑顔で返って来るコトを知っていた俺はいつもと変わらない笑顔を浮かべたケド

「「こんにちは」」

挨拶は返ってきても、その2人の表情には死相が表れていてしかも自分自身がそれを知っているかのように光りを失っていた

ちょっとビックリした俺は息を呑み、その間にカトルが呟く

「これは関わってはいけないタイプ」

すぐに、何でそんなコト言うのと俺はカトルを小突く

「絵描くのが好きなの?」

カトルの一言を掻き消すように俺は笑顔を絶やさず2人が興味ありそうなコトを聞いてみた

「絵を描くのがと言うか…僕もシェリーもデザインするのが好き」

好きって言葉を口にしているのに、男の子は少しも笑わなかった

「都会にいる有名なファッションデザイナーみたいに凄くないかもしれないけど

私もスバルも、大好きな事」

そうシェリーが言うとスバルと一緒にスケッチブックの中を見せてくれた

シェリーも大好きな言葉に笑わなかったケド…

2人のスケッチブックの中に描かれた色とりどりの綺麗も可愛いもカッコイイも素敵も…とにかくたくさんの大好きがそこに詰まっていた

「スゴイよ…お世辞じゃなくて、こんなに素敵なデザインは見たコトないもん

ねっカトル?」

「…目の厳しい僕が批判の1つも出ない

ど田舎の人間の癖に素直に素晴らしいと思う」

カトルは批判出来ないコトに少し不満そうにしながらも新しい肉まんを半分にして2人にあげている

自分の食べ物を他人にあげるなんてめちゃくちゃ珍しいコト

それだけカトルも凄いと認めた証だった

スバルのスケッチブックには男性向けのデザインでシェリーのスケッチブックには女性向けのデザインが何ページにもあって

めくってもめくってもどれもこれも素晴らしかった

「だって見てよ~!これなんてセリカちゃんが着たら絶対似合ってて可愛いよね

こっちも絶対綺麗!!あっこれもかな

って言うか全部着てみてほしい!!絶対似合うから!!直視できないかも!!

なんて、いっぱい見つめちゃうケドね~!」

「………肉まんが冷めてきた」

「俺の好みのデザインもたくさんある~

ほらカトルが好きそうなのもあるよ

リジェウェィもこれとか似合いそうだよね」

あまりの素晴らしさに興奮を隠せずカトルとスケッチブックをめくりながら見ていると、スバルとシェリーが言う

「そんなに気に入ってくれて嬉しい」

「よかったら貰って」

「えっいいの!?」

今日あんまりお金持ってないんだよね…

こんなに素晴らしいものだからかなり高値になるんだケド

俺は今入ってる財布の中の全部を2人に渡そうとした

「お金はいらない」

断られてしまった

「でも…これって君達の大切なものでしょ

頂けてとっても嬉しいけれど、タダって言うのは悪いよ」

お金を握った手を受け取ってもらえず、引っ込めるコトもできずにいると

「僕達、今夜…生け贄にされて二度とそのスケッチブックを手にする事ができない」

「だから、とても喜んでくれるお兄さんが貰ってくれたら私達は嬉しい」

素晴らしいものを見て心が温かかったのに、寒い山のせいなのか…身体が冷たくなっていく

生け贄…って…

「これはスルー安定」

カトルは2冊のスケッチブックを抱えて立ち去ろうとする

「生け贄…それって、君達に死相が出てるのは……そういうコトだったから?」

俺が、なんて酷い話なんだろうと心を痛めるとカトルは面倒くさいの来たと言わんばかりに立ち去ろうとした足を止めて俺に振り返った

「仕方ない」

「村の掟」

俺はカトルを捕まえて巻き込む

明らかに嫌そうな顔をされたケド、そのスケッチブックだけを持って帰るなんて絶対ダメだからね!

「はぁ…またイングヴェィは面倒事に関わろうとする

僕は無関係なのに巻き込むのはやめてほしい」

「そのスケッチブック持ってて、どの口が無関係なんて言うの」

「その優しさと言う面倒な部分、少しでもレイにも見せたらどう」

「えっどうして?レイくん相手だと俺の心は真っ暗に曇っちゃうんだもん

絶対無理だよ

レイくんがセリカちゃんを諦めたら俺の心も今のように晴れるかもね」

心は笑ってないケド、目に見える表情は最高の笑顔で言った

仕方ないなとカトルはため息ついた後に話す

「この近くに村は1つしかない

ポポ村の人間?」

カトルの確認の質問に2人は頷く

ここからなんでも知ってるカトルのお話が始まる(リジェウェィもなんでも知ってるからよく話す)

「ポポ村は見ての通り、神の目も届かないど田舎

寒い雪に囲まれて暮らしやすいとはとても言えない

地域的に当たり前の事だがポポ村は住みにくいのは化け物のせいだとし、年に一度生け贄を捧げる事で雪は溶けると信じている

数十年、生け贄を続けたが実際にはこの通り雪は少しも溶けはしない

それでもいつかは溶けると根拠のない意味不明な話を信じた狂った村」

なんだか…悲しい村だな

誰もおかしいと思わないんだ

生け贄になる本人達さえそれが村の掟だからと逃げるコトもせず従っている

最初から…諦めてる

誰もが信じていて……変化のないコトに、いつか変化が訪れると

「そうだ!化け物のせいだって信じてるなら、その化け物を追い払うか倒したりすればいいんじゃないかな?」

カトルにナイスアイディアでしょと提案すると、めちゃくちゃ面倒くさくてやりたくないと言わんばかりに無言でスケッチブックを持って速足で去ろうとした

すぐに捕まえた

「ドコ行くの?カトルと俺の2人なら楽勝でしょ」

「リジェウェィに頼まれた四つ葉のクローバーを探さないと」

「後でやるからいいの」

俺とカトルのやり取りを見ていたスバルとシェリーは

「化け物は強い」

「関係ない人達が無理する事ない」

と心配してくれる

魔王や四天王レベルじゃなきゃ、なんとかなるよ

…たぶん

プラチナの力がない俺はちょっと自信がなくなってきてしまった

でも、化け物を倒せば村の変な掟もなくなるかもだし!

スバルもシェリーも人生を諦めているケド…本当はもっと好きなコト、普通に生きて寿命で死ぬまでやりたいハズだよ

好きなコト大好きなコト、その想いがあのスケッチブックにはたくさん詰まってる

それって本当は幸せで笑顔になるコトだよ

なのに、それを認めたら死ねなくなるからみたいに諦めて閉じ込めたままにしてしまうなんて

よくないコトだよ…ね

ちゃんと笑って、幸せだって感じて

スケッチブックに閉じ込めたままなんて、もったいなくて悲しいよ

もっとデザインしてほしいってスケッチブックは思ってるもん…絶対そうだから

心と一緒に素直に感じてほしいな

「大丈夫、俺達は強いからね

君達は村で待ってて、今夜2人が生け贄にならなくてすむようにしてあげる」

「「お兄さん…」」

俺は2人から生け贄場所、化け物がいると言われている場所を聞き出してさっそくカトルと向かった

さっさと解決しないとリジェウェィにサボッたなって言われるのも辛いからね



聞いた場所はすぐ近くにあった

この前に俺が戦った明石のドラゴンが入れるくらいの大きさの穴がぽっかりと空いている

底は暗くて見えないな

底無しってコトはなさそうだし、マグマが噴き出すような匂いもしない

「底まで行ってみようカトル」

「食べれる化け物がいい

持って帰ってルルに調理させる」

ルルさんが大変そう…

俺とカトルは慎重に穴を降りて行った

どんなに降りて行こうとも何かがいる気配はしないし、匂いもしない

まだかまだかと思っているうちに足が地に着いてしまった

「何もいない」

カトルは穴の底に足が着くと明かりの石で辺りを照らす

「ううん…化け物はいないだけで、いるよ」

化け物はきっと最初からいなかった

匂いも気配も痕跡も何もなくて、あるのは高い所から落ちて折れたり砕けたりした人の白骨死体数体

今までの村が信じた生け贄の犠牲だけがあるの…

なんとも言えない気持ちになる

意味のない犠牲に

いや…意味はあるのか、生け贄を捧げたコトで雪が溶けると期待する未来への安心感

そんなコト永遠になくても信じたいんだ…

「すぐに村の人達に化け物はいなかったって伝えて、スバルとシェリーの生け贄をやめてもらおうよ

これからも生け贄なんて」

「余所者の誰かわからない僕達にいないと言われて信じる人達だとは思わない」

カトルはいっそ本当に化け物がいて自分達で倒して連れ帰り見せたほうが早いと焼き芋を食べながら面倒くさそうにした

「俺ってプラチナとして有名だと思ってた~」

「知らない人もいる

知ってたとしても見ず知らずには変わりない

イングヴェィの魅了の力で一時的に頷かせても意味なし」

だよね…

プラチナの魅了はそこにいて影響があるだけで永久に魅了じゃないんだよね

「でも、いないものはいないんだから正直に話してダメだったらダメでまた考えよ」

俺が前向きに笑うとカトルは

「その時はリジェウェィに化け物でも作ってもらえばいい」

これは面白そうと性根悪く笑う

まったくカトルってば、何人も意味なく犠牲になってるコト

面白いコトなんかじゃないのにな、仕方ないなぁ

考えや感じ方が違ってもそれがカトルだからと俺は個性の1つだと認める

そうして、俺達はスバルとシェリーの村へと向かい

村人達に化け物はいないから生け贄は意味がない

2人の生け贄をやめて、これからもやめてほしいと訴えてみると

「やはりそうでしたか!」

「もう数十年も続けてる事に何の変化もないものだから、おかしいと思ってました」

あれ…意外にもすんなりといきそう?

カトルが心配する余所者の意見を聞かないと言うコトもなく、村人の誰もが生け贄システムに疑問を感じていたみたいだね

「今まで、生け贄になってしまった子達が可哀想」

「ですね…」

「わかりました!イングヴェィさんが言う通り、これからは生け贄をやめてこの環境の中でも生きていけるように村の皆で考え協力していく事を誓います!」

迷信に頼らず頑張ると言う村長とそれに同意する村人達の姿を見て安心する

俺はスバルとシェリーの傍へ行き、カトルの持ってるスケッチブックを返す

「はい、よかったね

これでこれからも君達の大好きなコトが続けられるよ」

スケッチブックを受け取りながら、2人は少しずつ笑顔を見せる

その笑顔のはじまりはこれから未来に夢を見て楽しみにするコトができるから

とは反対にスケッチブックがほしかったカトルはチッと舌打ちしながらスルメを食べていた

「ありがとうイングヴェィさ…」

これでこの村の意味のない掟は解決したかなと思った時、村の中に不穏な空気が流れ始める

誰もが思うコト、悲しいコトの根源を

「今まで無駄な事をして来たのはわかった

それじゃ、誰がこんなくだらない生け贄を始めた?」

「それのせいで、去年は私の娘が生け贄で失われたのよ!」

「わしの兄も昔に生け贄で…」

「僕の妹も…今も悲しい!!」

誰が誰がと村人達は過去を遡る

そうしてたどり着いた先には…スバルの先祖がいもしない化け物へ生け贄を始めたコトだった

村人達はその血筋の最後、たった1人しかいないスバルに目を向ける

「大勢の人を意味もなく殺しておいて、自分は助かるなんて事があっていいわけないだろう」

「スバルには先祖の罪を償ってもらわないと」

「皆の気も晴れやしないし、死んでいった者達も浮かばれないんだ」

空気がガラリと悪く変わる

村人達は大切な身内を失った悲しみや憎しみをスバルへと向け静かに近付く

「待って、どうしてスバルが悪いってなるの!?

生け贄を始めたのはスバルの先祖かもしれないケド、スバル本人は関係ないでしょ!?」

関係ない…関係ないハズ…

そう言葉にして、俺はスバルの前に立って守ろうとしたケド…

それは俺が大切な人を生け贄で失っていないから簡単に言えるのかもしれない

もし、セリカちゃんを生け贄で失ったら俺は今と同じ行動が取れるの?

俺なら村ごと滅ぼすんじゃないの…ねぇ

スバルを庇う自信がなくなってしまう

頭ではわかっていても、きっと気持ちはついてこれない

村人達が武器を手にして行く

スバルを殺す為に

「……ここで、死ぬ…嫌だ」

俺から受け取ったスケッチブックを胸に抱きながら、スバルは始めて抵抗する

一度は諦めた夢を取り戻したスバルはもう一度その夢を捨てるコトができないんだ

村の外へと逃げるスバルの姿を見て俺はハッとする

何やってるの俺は

もしものコトを考えて目の前の現実から目を逸らそうとしてた

今の俺の気持ちはどうなの?スバルを助けたいんでしょ

夢を追いかけて叶えて笑顔になる1つの未来が壊れるのを黙ってみてるなんて、できない!

それが今の俺の感情なんだから!

明日には変わるものかもしれなくても、大事なのは今なんだからね!!

「みんなの気持ちもわかるケド、村から出たスバルはもう二度とここには戻れない

それって、死んだコトと一緒にしてくれないかな?」

スバルの出た村の出入り口の前に立つだけで、村人達は人外の俺を少し恐れる

俺は戦いたくないの、でもスバルを追いかけるなら少し痛い目見せちゃうかも…

それがわかるのか村人達は渋々武器を降ろし下がる

「ありがとう…」

俺がニッコリ笑顔を見せると村人達にプラチナの魅了が効いてしまって、みんな顔を赤くしている

そして後ろにいるスバルが小さく呟いた時

「この村とはこれでさよなら…よかっ…」

「よくないよ!!」

スバルの声をかき消すようにシェリーが大声をあげる

「なんで…なんで私に何も言ってくれないの!?」

「シェリー?」

なんで怒ってるのかわからないスバルは戸惑っている

シェリーはスバルと同じように自分のスケッチブックを胸に抱いて

「置いていかないでよスバル!

私はスバルとさよならしたくない…

生け贄になったのも、ずっと嫌だった恐かった

なんで私がって…でも、スバルと一緒なら全然恐くなかったよ

一緒ならそれでいいって思ってたのに

今生きて離れる方がずっとずっと嫌よ恐い…」

怒りから悲しみへと涙の色も変わる

スケッチブックで隠していても胸にある気持ちは溢れて止まらない

「私も連れてって…私、デザインするのと同じくらいスバルが…」

「僕、シェリーが好きだよ!!」

止まらない想いに気付いたスバルは自分の想いで全てを掬う

先に言ってやったって勝ち誇った顔して、シェリーを驚かせて涙を止めるんだ

「えっ…スバル……」

「でも、シェリーには僕と違ってお父さんもお母さんもいてこの村があるから」

「そんな事…スバルと天秤にかけたら、簡単に捨てられるよ…」

涙を滲ませながら笑うシェリーの言葉に後ろにいるお父さんお母さんがめちゃくちゃ傷付いた顔をした

それを見たカトルが大笑いしてる

「まぁシェリーったら、なんて事を言うの!大切に育ててきたのよ」

「そ、そうだぞ、スバルが好きだって?ついて行く?

あの罪深き血筋をお前が残すと言うのか!?パパは首吊って死ぬ思いだ!」

必死に引き止める親の愛も振り切って、シェリーは2人にトドメをさす

「そうよ!私、将来はスバルのお嫁さんになってスバルの可愛い赤ちゃんを産みたいの!

パパママ邪魔しないで!」

えええええええ~~~~~!!!??

ひゃーなんて過激な発言をするんだろう今の人間の子供は

シェリーの発言にこっちまで恥ずかしくなって、村人の何人かも頭から湯気を出している

シェリーのお父さんなんて白目向いて息してない…

スバル自身も顔真っ赤だよ

それでも、スバルは決意して左手でスケッチブックを抑え右手をシェリーに伸ばす

「シェリー…昔から変わらない

わかった、おいで一緒に行こう!2人で2つの夢を叶えよう!!」

「スバル…!嬉しい…大好き!」

シェリーはスケッチブックを胸に抱いたまま村の外にいるスバルの傍へ走り、お互いの手をシッカリと掴み合う

始めて会った時の2人と違って、明るく夢を追いかけて叶えようとする幸せな笑顔に変わって

俺はそんな2人を見れて、本当によかったな…

「シェエエリィィーーー!!!たまには帰ってきて顔を見せてくれーーー!!」

「誰に似たのかしら…いつでも帰ってきなさい

私達は貴女を待っているから、ここが貴女の家よ」

「パパママ…」

シェリーは最後に温かく送り出してくれるお父さんとお母さんに笑顔で手を振って頷いた

それじゃ、終わったみたいだから俺達も帰ろっか(リジェウェィの用はスッカリ忘れている)

「イングヴェィさんってお金持ち?」

「ん?急にどうしたのスバル?」

村が見えなくなるとスバルは俺の足を止めるように周り込む

「僕達は行く所がないから、お金持ちなら雇ってもらおうかなと…掃除洗濯なんでもします!!」

あぁ、そういうコト

「採用!採用!是非採用!!」

俺が答える前にカトルがちくわを食べながら、スバルとシェリーのスケッチブックと才能がほしいと強く希望する

「俺の所には掃除も洗濯も間に合ってるんだよね

だから、2人の才能を買うよ

いつも素敵なデザインを俺達にくれる?」

「それって…僕達はいつも好きな事に専念してていいって事…?」

「私達のデザインが誰かを幸せにする時が来たの…?」

「そうだよ、楽しみにしてるね」

俺の言葉にスバルとシェリーは目を輝かせて、ヤッターと大喜びする

カトルも俺の言葉に大満足でちくわにチーズを入れてグレードアップした

「あっ!スッカリ忘れてたリジェウェィのコト!?」

とりあえずと落ち着いたら、思い出して慌てる

早く頼まれた葉を見つけないとって走り出そうとしたら

「意外」

「えっ?」

カトルの言葉に足が止まる

「シェリーの子作り発言で、イングヴェィなら自分もセリカちゃんとの子供がほしい~~~!絶対可愛いよ~~~!って騒ぐかと思ったのに」

ちょっと待って、その途中の台詞は俺の真似して言ったの?俺そんなバカっぽいの?

「ん~…そうだね…

そう考えるだけなら自由だし、夢は見てもいいかもしれないケド

現実にはありえない話だもん」

アハハと渇いた笑いが出る

「そっか、忘れてた

勇者の書物に勇者は人間と変わらない姿をしていても、子を作れない身体と書かれている」

俺も忘れてたケド、確かに書いてたのを思い出す

天はたった1人の人間しか創らなかったから、2人以上は存在しないできない

それで子供が出来ないようになってる

セリくんがそうならセリカちゃんもそうだから…そうなんだよね…でも違うの

「純潔のプラチナも子供が作れない身体なんだよ

って、昔にユリセリさんのお父さんから聞いたコトがあるんだ

彼はプラチナハーフだったケド、俺より長生きした人だったから

俺以外の純潔のプラチナのコトも知ってて色々教えてくれたな」

俺が言いたかったのは自分のコト

「ふーん、残念」

「ううん…俺はセリカちゃんと一緒にいられればそれだけで幸せだから…愛して愛されるだけで、いいの!」

これも運命なんだって思ってる

もし、セリカちゃんがレイくんと同じ人間だったら…子供を望むなら…いいや…考えるのはやめよう

他の生き物の幸せと同じじゃなくていいの…

俺はセリカちゃんと2人だけの幸せを見つけるんだからね

「たまたまそのプラチナが駄目だっただけで、試してもいないのに自分もそうだと思うのはどうかと

他の女で試してみれば、イングヴェィなら腐るほど女が寄ってくる」

「カトル…その言葉は冗談でも聞き流せないな」

今まで合わない所はたくさんあったけれど、それがカトルだって理解してきた

でも…カトルは俺のコト何もわかってない

俺がどれだけセリカちゃんのコト大好きで愛しているかなんて…

絶対に傷付けたくないの!傷付けたくないの…

助けたいから救いたいから守りたいから

セリカちゃんを傷付けたら自分が死ぬほど苦しくなるよ

「もう二度とそういうコトは言わないで、次言ったら本気で怒るからね…」

「………そうだね、イングヴェィはセリカさんにしか欲情しない」

間違ってないケド、そう言うコトさらっと言うのやめてくれないかな

それは俺にとって愛し方の1つであって、普段からいつも思ってるワケじゃないよ!?………たぶん…

「カトルだって好きな子だけでしょ」

「そうでもない、女なら誰でもOKな男もいる

そういうのは僕を含めてイングヴェィと住む世界が違うみたいに見える

イングヴェィと話していると、価値観が違って面白い」

そう…みたいだね

俺はそういうのは嫌い

誰かが傷付いちゃうコト…やっぱりカトルとは合わないね

どんどん…いつかカトルとこうして友達やっていられなくなるような気がするよ…



―続く―2015/09/21

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