第70話『音楽に愛されて、一緒に踊りを』セリ編
求人募集にこんなものがあった
『フルート吹ける人、3名
フルート吹けない人、1名』
何これ?と思いながらも面白そうだったからフルート吹けない人で応募してみた
なんか知らんケド採用された
もうすぐ今日!野外にある舞台で披露するみたいで色々教え込まれた
いざ、舞台に上がりお客さんがたくさん見ている
緊張はしていなかった
俺以外はフルート吹ける人達
しかし、はじまると何故か歌と踊りでアイドルのコンサートみたいになって
フルートどこいったん!?って感想しかなかった
歌詞とか曲もよく知らないから適当に歌って踊ってたし
でも、楽しかった
な・に・こ・れ
「セリ起きろ、またいつまで寝てるんだ?」
レイの声に俺はハッと身体を起こす
なんだ夢か…意味わからんかったな(実夢)
「おはよ~レイ、変な夢見た」
まだネムな俺だが、なんとなく身体が変な感じする
寝起きだから身体がダルいってワケじゃない
なんだろ…身体の半分がなくなったような感覚……
セリカに何かあったのか…
身体の半分がないような感覚…か
死んだとかなら俺も死んでるし、身体が真っ二つにされたとかなら俺もそうなってるし
一体この変な感覚はなんなんだ
「おはよう…はっ!?セリ…やばいぞ……」
「どうした?レイ?」
セリカに何かあったかもと心配しつつもベッドの上でゴロゴロしていると、レイが迂闊だったと眉を潜める
数日前からレイと俺とロックはセレンに宣言した通り、近くの国に協力を求める旅をしているんだが
今回泊まった宿はどうやらハズレを引いてしまったみたいだ
「財布が盗まれている…オレの分だけじゃなくセリの分も」
「マジで!?」
寝る前まで財布はちゃんとあったぞ
「…ロックは?」
「わからない、確認しよう」
ロックとは別の部屋だ
リア充カップルと同じ部屋は嫌と言って、隣の部屋を取っている
みんな男なのに…まぁいつものコトだからいいんだが
「やられたでござる…」
ロックの心配をしていたらいつの間にか部屋の天井に張り付いていた
いつからだオマエ…
「ロック、それじゃ財布はなくなってるんだ?」
「忍者の拙者から盗むとは…」
シーンとみんなの気持ちが暗くなる
なんだよコレ!?朝から気分最悪じゃん!
レイとロックがいれば、食べる物調達できて野宿もできるからお金なくても旅はできるケド!
雨風凌げて暖かい部屋とフカフカのベッドとお風呂と着替えと美味しいご飯と…その他いろいろ…必要だもん!
せっかく遠くまで来てるのに、お土産も買えませんよ!?
やっぱりお金って大事だよね
ここの宿代は前払いだから心配はないケド、これから先の心配だよ!
野宿ってあんまり好きじゃないんだ
眠れないし、お風呂ちゃんと入れないもん
川とか湖とかでお風呂って苦手なんだよな
俺のすぐ心配するのそれ?って感じだが、それなんだよ!!
「これから困ったでござるよ、レイ殿の彼女は野宿を嫌がるでござる」
「近くに町や村がないなら仕方ないって思うケド、近くにあるのに野宿はイヤなんだよ
お風呂は入れる時にちゃんと入りたい」
「おなごは面倒でござるな」
女じゃねぇし
「心配するなセリ、この町で仕事を探して金を作るから」
またレイはそう言って「待っててくれ」と爽やかに笑って出て行くから
「あっ…」
何か言う前にさっさと行動を起こす
今までにもレイはこういうコト何回もあった
「それでは拙者は財布を盗んだ者を成敗しに行くでござる」
ロックも消えちまった
レイはいつも俺を甘やかす
大切にしてくれるのは嬉しい
でも、これはなんか違うだろ?
俺はレイのペットでも嫁でもないんだよ
だから俺はこういう時レイに黙って自分でも稼いでるんだからな
久しぶりに普通の仕事を探す
どこの町にでもあるこの世界には人を募集している仕事だけの掲示板が
山ほどある
その中で文字が読めないのはパス
他人に聞いて騙されて変な仕事だったのとかあったから(やってないからな!)
それでも俺の世界の文字で書かれているものも結構あって、選んでいると知らない男が静かに声をかけてきた
「君、綺麗だねぇ…一晩10万で…」
イラッ
「安すぎじゃボケ!」
俺の一晩が10万とかナメてんのか!!
いくら積まれてもそんなの絶対イヤだね!
キッと睨みつけ大声を出すと、周りの目を気にして男はさっさと立ち去った
「ふん、俺をそんな目で見てる奴がいるってだけで気持ち悪ぃ…」
1人でいると…いつもこうだ
レイがいてくれて俺はどれだけ安全に過ごせているのかわかる…
「あっ、あれ…」
少し高い所にある求人に興味を持ち手を伸ばした時、誰かの手が俺の腰に触れる
今度はセクハラか!?痴漢か!?
「へぇ…なら、いくらあれば」
「……!」
また怒りのままに振り返って何か言ってやろうと思っていたのに、聞こえた声に俺の心臓は飛び跳ねる
聞いたコトのある声だったから…
それが誰の声なのか、気付いたら熱が上がる
もしかして…いや、いやいや
ありえない、ありえない…ありえねぇ
こんな所にアイツがいるハズないだろ
人違いだって、たまたま声が似てる奴で
……本当に?違うって首振ってても
本当はそうであってほしいって期待してるクセに
「あっ…か……!」
振り返るのが恐かった
どんな顔していいかわからなかったから
だって…俺、アンタに殺されたんだぞ!?
何を話せばいい!?話したいコトはたくさんあるのに
なんで俺を殺したの!?その答えを聞くのが…恐いし……
アンタを好きでいるのは苦しいよ…
「………いない…」
それでも俺は振り返った
会いたかったから…好きだから……
この気持ちがなくなったら、楽なのに
真っ赤になっていた顔の熱も冷めていく
なんだ、気のせいだったのか
アホだな俺は
本当に…気のせいか人違いか、本当はもしかしたらってまだ思ってる?
自分の弱い心…大嫌い
「………ん?これって」
手の中に何かあるコトに気付く
知らないうちに俺はさっき見ていた求人募集の紙を握りしめていたみたいだ
それでよく募集条件を見ると…
『フルート吹ける人、3名
フルート吹けない人、1名』
………どっかで見たコトあるようなないような、ってかどんな仕事だよコレ!?
内容書いてねぇし!怪しすぎるだろ!!
「面白そうだからやってみよーっと!!」
楽器は全然ダメだからフルート吹けない人でね!
面白そうな求人見つけて意識は完全にこれに向いてる俺はさっきのコトなんてポロッと忘れて、すぐにこの募集主の所へと走った
「ああ、募集見てくれたんだね
フルート吹けない人の空きならあるからいいよ、採用ー」
はやっ!?名前も聞かれてないのに採用されたよ!?
しかもフルート吹ける人はすでに満員らしいんだが、なんでフルート吹けるほう先に埋まった
この世界はフルート吹けない人のほうがレアなのかよ
「君のその綺麗な容姿は人目を惹き付けるねー、いいよーいいよー、名前は?」
えっ?容姿関係あんの?
それと、俺名前聞かれるの滅多になくて驚いた
勇者の俺を知らない人もいるんだなー、なんか新鮮でいいな…
募集主も明るいお姉さんだし…変なお仕事じゃなさそうだ
「セリくんねー、他のメンバーはもう待ってるからちょっと急げるかな?」
「はい!」
俺はお姉さんに案内されて他のメンバーが待つ部屋へと案内される
「おー来た来た」
「よ、ヨロシクお願いします……」
待っていたのは全員若い男だった
爽やかな奴とクールな奴と天然な奴
偶然かどうかしらんがバランスよく集まったなコレ…しかもみんなイケメンだし
「よろすく!!」
「1日だけの仲間だけど、楽しくやってこーや!」
「一緒に頑張ろう!」
みんな良い人そうでよかった
「それじゃみんな、時間はないから頑張ってダンスを覚えてね!」
「「「はーい!!」」」
えっ?
お姉さんに言われるまま俺達はダンスを教え込まれる
どういうコト!?と思いながらも仕事だからと受け入れ始める
「あっ、間違えちゃった」
簡単な振りなのに、俺は横の人と違うコトをしてしまった
すぐにみんなに気付かれて
「どんまい☆どんまい☆」
「そういう日もある!」
「いっそ、そこの振りそれにしちゃう?」
メンバー…良い奴らすぎる……と感動してたら
「そうよ!セリくんは立ってるだけでいいから!」
「そうそう!その見た目で立ってるだけでお客さんたくさん来るって!」
「ダンスしなくてもセリくんは綺麗ってだけで全て許されちゃう☆」
「よかったな!」
会社の窓際に追いやられて仕事貰えない人みたいなイジメを受けた
甘やかしとか優しいとかじゃねぇ、これ立派なイジメだよ!?
「やるし!立ってるだけなんて、つまんねーし、お客さんに指さされて
えっあの人どうしたの?大丈夫?って恥かくだろ!?
俺もダンス覚えてやるんだ!!」
何よりダンスは楽しかった
昔、キャラクターショーのバイトしててその時に簡単に踊ったりするんだがスゴイ楽しいの覚えてる
今の音楽も良い曲だし、ダンスは楽しいんだ
セリカはたまにダンスパーティー楽しんでるみたいだけど、あんな優雅なお上品なダンスはちょっと飽きた
カッコよくて楽しいダンスがしたいんだもん!
…あれ?そんな仕事だったかこれ?
「セリくん……偉い!偉い!!」
「拍手!拍手!!」
そんな褒められるコトかよ!?なんだよこの盛り上がり!?
俺は普段なんも出来ない子みたいな感じの接し方だなオイ!?
それから俺達は時間が許す限り、ダンスの特訓をした
「いいね!いいね!みんなイケてるよ!」
「イエーイ!」
「謎の達成感!!」
本当に謎だよな、まだ本番じゃねぇよ
「はぁ☆はぁ☆」
コイツいつから語尾に☆付けるようになったの!?いきなりキャラ変更!?
……俺、何やってんだろ
何の仕事なんだよコレ…本当に、不安になる
でも…なんか、ダンスって楽しいかも
単純なダンスだった為に覚えるのは簡単だった
音楽に合わせて最初から最後までダンスを踊りきると、お姉さんは大喜びで拍手して飛び上がる
「グッド!グッドよ!みんな!!これで今夜のステージは大成功間違いなしね!!
本番もこの調子で頑張って頂戴、それじゃ休憩ー」
お姉さんは立ち去る
メンバー達は謎のやる気と本番の待ち遠しさに、休憩中もテンションが高かった
「おれら息バッチシだよなー!」
「最高のメンバーって感じー!」
「本番が楽しみーフー!」
☆付けろよ!?
待って!?なんか忘れてねぇ!?あれ…あれ…………なぁ、フルートどこいった!?
ずっとダンスだけしててフルートなかったケド!?フルート吹けるか吹けないか関係ない感じだったケド!?
「さーみんな、本番よ!」
立ち去ったお姉さんは1分で戻ってきた
早いし、全然休憩してないよ
「あっ、忘れてたわ
お姉さんのお名前はね、幹美樹」
今!?今!?えっ今さら自己紹介!?
しかも左手の薬指に結婚指輪してるからミキって名前なのに、ミキって人と結婚しちゃってミキミキになってんじゃん
「幼稚園の先生です、美樹先生って呼んでね」
幼稚園の先生がフルート吹ける若いイケメン集めてちょっとダンス教えてすぐステージで本番ってどういうコト!?!?!?
「ジュンヤくん、今まで通りで大丈夫よ」
「はい!美樹先生!」
なんのツッコミもなしで受け入れ早いなジュンヤ
「大化くん、君は出来る子!」
「はーい☆美樹先生ー☆」
完全に園児扱い、大化くん幼児化完了
「折れた暗黒の片翼くん、笑顔笑顔♪」
「美樹先生!オレ頑張ります!」
本人の見た目も中身もまともなイケメンなのに、親厨二病かよ!?
呼びたくねー…この人の名前…
「セリ……?…ちゃん!ファイト!美樹先生ちゃんと見てますからね!」
いつの間にか俺、男(くん)から女(ちゃん)になってんぞ!?この人の中で!?
しかも一瞬あれどっちだっけ?みたいに考えたよな!?
男でも名前をちゃん付けは変じゃないが…
なんでみんなくん呼びなのに俺はちゃん呼びなの!?
そんなこんなで不安しかない本番が始まろうとする
本当、この仕事なに…
大きなステージなのに俺達の他に誰かいる気配もなく
素人相手の俺達にめっちゃ人集まってっけど…
ちょっと…緊張してきた……
本番間近になって、そんな俺の気持ちに気付いたジュンヤが俺の肩を叩く
「教えた通り!そっ教えた通り!」
オマエには教わってねぇよ!?ウインクして笑顔を俺に向けんな!!
「心配はない、ミスしても皆で助け合っていこう!」
「「「おーーー!!!」」」
いや…なんだろう…このメンバーに不安……
開演のアナウンスがあった後、さっそく音楽が流れる
は、はじまったー…!!
片翼に背中を押してもらって俺はステージへと出た
近くで花火が吹き出し、黄色声が会場を覆い尽くす
「「「きゃああああああああああああああ!!!!!!」」」
アイドルみたいな反応するな!?
もしかして俺以外のメンバーって有名なアイドルかなんかなの!?
しかもフルート吹けるのに吹かないアイドル
ステージでリハーサルしてないから、花火めっちゃビビッたし
花火なら俺の炎魔法でできたのに、無音だよ?人が作る花火じゃ出来ない花火出来るよ!(自慢)
と、とにかくダンスに集中しなきゃ
はじまる前はとても緊張していた
でも、観客席は夜なのもあってかステージが明るくてあんまり見えなくて
意外にもそれが緊張をなくしてしまった
練習していた場所と違って、広いステージは思いっ切り踊れる
大好きな音楽を聴いてテンションが上がる
身体がいつもより軽い
楽しい、なんでも出来るような気がする
自分の表情がだんだんと本当の笑顔に変わっていくのがわかる
心から楽しいと思ってるから、心の素直のままに笑ったのははじめてかもしれない
あぁ…なんで楽しいか、わかった気がするよ
俺は音楽が大好きだった
でも、歌も楽器もダメ
作曲なんて無理、文字を書くのは大好きだが歌詞は書けなくて
音楽に片想いしてた
でもでも!今やっと大好きな音楽に愛されてる気がするんだ!
大好きな音と一緒にこの身体が動く
リズムが俺の身体を連れ去ってくれる
心は一体に…
「ぼ~く~ら~、こーのーさーいーこーのー♪」
「つ~ば~さ~、がっ!」
何!?えっ何!?
「そーろったー時~♪」
歌あった!?ないよね!?
メンバーが次はオマエだって目を笑顔で送ってくる
ヤダよ!?俺歌ダメって言ったじゃんさっき!?(言ってない)
「ふーん♪ふふーん~るるる~♪」
だから言ったのに!?
アドリブなんか入れてくんなよ!?クッソ恥ずかしいだろうがボケ!!
歌詞もできないって言ったよな!?(声に出して言ってない)
調子に乗ったメンバーは途中からダンスもアドリブしだした
なのに…奇跡的にみんな上手いコト揃っていて会場は大盛り上がり
俺は…なんか頭空っぽにした
メンバーを無視した
色々ツッコミはあっても、ダンスがめちゃくちゃ楽しかったからだ
メンバーは俺を無視しなかった
むしろ合わせてくれた
「ジャーン!ジャジャン!……ジャンジャン!!」
曲が終わると同時にメンバーがポーズを取ると、観客席はみんなスタンディングオベーション
もう感動して泣いてる人もいる
俺は冷静になった
………えぇ!?そんなによかったの!?ドコが!?
素人ばっかだぞ!?ダンスは幼稚園の先生に教わったんだぞ!?
プロから見たら俺達ただのお遊戯じゃないか!?いいの!?
この世界の人おかしくないか!?
「セリくん☆」
大化はポンっと俺の肩を叩く
「感動する事にプロも素人も関係ないんだぜ☆」
か、かっけー……けど、普通になんで?って思えよ……思うだろ…
そうして、俺達のステージは大成功して幕を閉じたのだった
結局、この仕事の意味はなんだったのか…
まぁ、お給料はそこそこもらえたからいっか
打ち上げだ!
「いやー!セリくんよかった!よかったよ!!オレ達の中で1番輝いていたよ!」
「本当それー!」
えっ?えっ?どういうコト?
「ダンスの技術はなくても、セリくんのダンスは人目を引くねー☆」
「マジか…」
ちょっと嬉しい…
自分の為に、自分の満足で楽しんで踊ってたから
それでも、良いよかったって思ってくれる人がいてくれるのは…とても嬉しい
俺はダンスが楽しくて好きだから、ただそれだけ
スゴイ技を覚えたいとかも思わないんだ
音楽が大好きだってコトをダンスで表現したいだけ
踊ってると、俺も音楽に愛されてるって思うんだ
だから…だから…その俺の気持ちに、よかったと思ってくれる人がいたら素直に嬉しいよ
俺の好きを同じように好きになってもらえたみたいで
「あの、か、カッコよかった…?」
「いや!!カッコ可愛かった!そして、どこか上品でちょっぴりセクシーな感じで、セリくんみたいなダンス出来る人他にいないよ!」
微妙にガーン!カッコイイがよかった…
「教えてもいないのに、動きが美しいね☆
ダンスしてない普段から自然と綺麗に見える振る舞いをするから当然なのかもな☆」
「もう!カッコイイはおまけだった!!」
おまけにすんなよ!?
カッコイイダンスは俺には無理か…まぁ仕方ないか
でも、褒められて嬉しいし楽しいからいいや
「なぁなぁ、オレらでアイドルグループ結成しねぇ?☆」
「いいねー!これだけ盛り上がるってなかなかないじゃん
オレ達って運命的に出会ったメンバー?」
「女の子達にキャーキャー言われる毎日最高だな」
「だっしょだしょー?☆
儲けもいいしねー☆」
あれ…なんか変な方向に話が…
「チヤホヤされて気分良いし、これからもこの4人で……」
みんなが盛り上がってる中、俺はどうしてもその話に頷けなかった
「俺はやらないよ」
「えー!?どうしたのセリくん!?」
「女の子達にキャーキャー言われてモテたくないの?」
女の子には好かれたいよ!?切実に!?
「だって俺ダンスするの、女の子にキャーキャー言われたりモテたいからじゃないもん」
「アイドルだよアイドル!?なりたくない?華やかな世界が目の前に迫ってるよ!」
「やりたかったら3人でやったらいい、アンタ達だけで十分やっていけるし」
「えー何故さセリくんー」
3人からしたら俺はノリが悪いんだろう
でも、そんな考えの君達と一緒に俺は踊れない
「俺は音楽が好きだから、踊るんだよ
モテたいワケじゃない、それでお金を稼ぎたいワケじゃない
君達のやりたいコトは俺とは違うよ…
楽しかったケド、ここでバイバイ」
有名になりたいワケじゃない
ただ…本当に楽しいから
この楽しさ、他人を気にしてなくしたりしたくないだけ
アイドルになるってコトは、求められたり期待されたりするんじゃないかな
他人が求めるものを気にしてそればかりを追って踊ってたら、俺はこういうダンスはしたくないって思ったら
きっとイヤになる
音楽も好みじゃなかったらイヤだ
俺は踊れたらなんでもいいワケじゃない
好みとかイメージとかあるもん
趣味を仕事にしたらあかんって言うのと似たようなもんじゃねぇかな
「残念セリくん~…」
誰も見てなくてもいい…下手くそでもいい
好きだから踊る
ずっと大好きだった音楽と一緒に、ダンスを
……でもまぁ、褒められたら素直に嬉しいケドね…ふふ
「わかった、それなら無理にさせたくないから気が変わったらいつでも声かけてくれな」
「オレらは一生仲間☆」
「うん…ありがとう、みんな」
別々の道を進むコトになっても、理解してくれる仲間か…なんか良いな
って半日前に会ったばっかでこんなに強い絆あり!仲間!みたいな感じでいいのか!?
「あらー!美樹先生は感動したわ!!」
俺達のやり取りを黙って見ていた美樹先生はハンカチを握りしめて感極まっている
そして、みんなの手を集め握る
「今日が終わっても、美樹先生はいつまでも貴方達の先生よ!
1週間に1回はこうして集まって同窓会しましょう!ねっ」
そんな頻度の同窓会ないだろ!?しんどいわ!!
そんなこんなで俺の1日限定の変なバイトは終わったのだった
「そんじゃ、またな☆」
「次会う日まで」
「皆元気でね!」
またみんなで会おうと言う約束をして、俺達は別れる
すっかり暗くなっちゃったな
宿屋に帰って、先にレイが帰ってたら俺がいないって怒って捜してそうだケド
ロックは財布を盗んだ奴から取り返してくるって言ってたのも、大丈夫だったか気になるし
2人のコトを考えながら宿屋へと戻る道
ふと、俺はセリカの気配がだんだんと近付いてくるコトを察っする
セリカ…身体の半分がなくなったかのような感覚はまだある
でも、セリカはすぐここにやってくるから…何かあったのかと少し覚悟
「セリさあああああんんんんん!!!」
俺の名前を呼びながらセリカの気配とともに近付いてきたのは人間の数倍もある大きな犬の式神にまたがった遊馬だ
陰陽師だったか霊媒師だったか…幽霊や妖怪退治してる奴
俺、幽霊とかまったく見えないんだよね
でも、こうして式神が見えるのも遊馬の力が俺に影響を与えてるからだそうな
「捜したっす!!」
「なんで?ってか、セリカがいるハズなのに姿が見当たらない…おかしいな」
「そんな話してる時間はないんすよね今!」
慌てている様子の遊馬はウサギ型の紙を取り出す
「………えっ…もしかして……」
俺はそのウサギの型紙を見てすぐにわかった
「そうなんです!セリカさんなんですよ!?
普通の人型の型紙は嫌だとかダダこねられて、ウサギ型にするの大変だったんですから」
俺ならそう言うだろうから、セリカもそう言うだろうな
何があってそうなったのかわからないケド、そのウサギの型紙にはセリカの魂が入っていると俺はすぐにわかった
自分だからわかる…これか、身体が半分なくなったような感覚は
本当に身体がなくなっちまってるんだからよ
「セリカ、何があっ…」
「話はあとあと!まずは」
遊馬は俺の言葉を遮り、ウサギの型紙を俺の胸に押し付けた
その瞬間、さっきまでの身体の半分がなくなったような感覚がスッと感じなくなり身体も心も楽になる
「あービックリした、死ぬかと思ったもん」
一心同体のセリカとは何もかもを共有していた
しかし、別々の身体を持つ為にお互いがいない場所で見た記憶までは共有できていなかった
感情や痛みや怪我も何もかも繋がっていてもね
なのに今はなんだ
セリカの記憶が全て、俺の記憶にプラスされるかのように重なる
セリカの言葉も不自然なく自然に、俺の脳と口から出てしまう
「ミクさん…なんでこんなコト…」
「よかったですセリカさん!」
「おい遊馬、ミクさんが私の身体を盗んで魂のままじゃダメだったってのはなんとなくわかるが
なんで型紙のままじゃダメなんだ?
わざわざ俺を捜してまで」
俺とセリカが完全にひとつになってしまった
不思議だ、なんの違和感もない
これが当たり前かのようだ
違和感はないが…
女の身体じゃなくなったってのが不満よ私
だって、男のセリくんの身体じゃ可愛いお洋服着れないし髪も長いほうが可愛いもん
「だめですよ!魂は肉体がなくちゃ生きられないっすからね
もちろん自分の肉体に
他人の身体は動き辛いだけじゃなく魂と肉体の相性は最悪」
ふーん、肉体じゃないからリジェウェィさんの作った人形はいいって言うのか
それでも普通の人形じゃダメなんだろうケド
ミクさんの人形は黒焦げになってしまってもう使えないみたいだ
「そのうち、魂か肉体のどっちかが負けて滅びます」
「………つもり…さっさと取り戻さないと、私の身体は最悪消滅しちゃうってコト……?」
私の言葉に遊馬は難しい顔をして頷く
「そんなん困るわ!!俺は女になりたいなんて思ったコトねぇケド、私は女の身体じゃないとイヤだよ!?」
それに…俺と私が1人になったら……
絶対面倒くさいぞ
とくにイングヴェィとか香月とかイングヴェィとか香月とか……イングヴェィとか香月とか…
レイだって混乱するし、俺の友情が大ピンチだ
「ミクさんの魂が消滅するのも…ヤダ……
私、あの人のミュージカル好きだもの…
死んでもよ、あんなにミュージカルを愛してる人…」
「セリカさん…あの女は実は性格悪かっただけじゃないっすか、そんな気にしなくても」
「えっ?知ってっけど?
私の身体を奪って自分の恋を叶えようとした…私を妬んで恨んで……憎んで
でもな、それだけ恋に苦しんでるってコトなんだ
憎まれて気にしないなんて、俺はそんな立派じゃねぇよ
傷付くしショックだし悲しい
それでも、ミクさんをそうさせたのは恋に愛に必死だから
報われないから叶わない恋だから…
恋愛してる奴なんて周り見えてねぇだろ
別にいいんだよ、俺は」
めちゃくちゃショック受けてるケドねー!?本当はー!?
でも、言ったコトはウソじゃないよ
そんなもんだよ恋なんて…とくに叶わない恋なら…苦しんでもがいて、自分の心に余裕がなくなって、何が正しいのか悪いのかわからなくなる
って…俺、恋愛のコトなんて全然わかんねーケド
なんとなく恋愛じゃなくても、人の心理って教わらなくてもわかってしまう…
「セリさん……さっきから思ってたんですけど、いつも綺麗なんすけど
さらに綺麗になりました?さっきの一瞬で」
聞いてなかったのかよ!?さっきの俺の話!?ちょっと真面目で真剣な話してたよね!?珍しく!?
「セリさんとセリカさんがミックスされて、2人の美しさも合わさった感じですよね!」
「あ、あら…そお?人の話聞けよ!
褒めてくれてありがとう」
「ムラムラするっす!」
「帰れ!!!」
「いつもより!!」
「オマエ、私のファンだったんじゃないのか!?普段からそんな目で見られてたとか、引くわ…」
「嘘っす嘘っす!オレの中でセリカさんは聖女様っすから、アイドルみたいなもんで変な気はありませんよ~」
ヘラヘラ笑ってんな
「あっでも、魅力も2倍なら勇者の力も2倍っすからいつでも魔王を倒せますね!」
「ふーん」
戦う気ないから強さが倍になったとか別にどうでもいいや
「とにかく、私の身体を取り戻さないといけないな
ミクさんはイングヴェィに会いに行ってるハズ
遊馬は俺と一緒に来てくれるな?」
「もちろんっすよ!!お2人の為なら何処までも霊界までもお供しまっす!!」
そこまで頼むコトってあるんだろうか…
さて、それじゃイングヴェィの城に向かうかって時に帰らない俺を捜しに来たレイに声をかけられる
「セリ!こんな所にいたのか、心配したぞ」
「レイ…」
振り向くとレイはえっ?て顔をして
「あれ…セリカ?セリ?……なんだかいつも綺麗だがいつもより綺麗だ……」
完全に恋の表情になっている……
こういうレイは苦手だ
私はレイに恋愛感情がないから、前世の恋人だったみたいだケド
それってどんな感じなんだろ…レイと恋人って……
俺には考えられないな
「レイさんレイさん、かくかくしかじか」
「お前はこの前の胡散臭いガキか」
遊馬が代わりに今の状況を説明してくれた
「誰が胡散臭いガキだ!?」
「信じよう、セリとセリカを守る為にもちろんオレも同行する」
「レイ!ありがとう!やっぱりオマエは俺の大親友だよ!」
「最悪、セリカが自分の身体に戻れなくてセリの男の身体になったとしても、オレの愛は変わらないからな!」
「レイ…それはヤダ…俺が
レイは私の顔が好きなのね、セリくんと私の違いって性別だけだもの
私の身体じゃなくても好きってコトは顔よね顔」
「それは……」
そうなんかい
「いや、オレはその顔が好きだが、ちゃんとセリカの事が大好きだぞ!
前世からオレはセリカの騎士なんだ」
前世の記憶ないくせに何言ってんだ
前世の恋人同士って噂信じて舞い上がってるな
俺はレイに協力するって言ったケド、こうして面と向かって言われるのを見るとちょっとウザイな
まぁ俺も実はちょっと気になる
セリカはイングヴェィかレイのどっちを好きになるのか…
セリカはセリカでレイに何度も助けられているから、少しずつ心は開いてる
だからレイのあの爽やかな笑顔にセリカの頬も自然に緩む
それが恋に変わるかどうかはわからない未来の話
「自分が好きでもない人に好きって言われると困る
あと、好きだからって恋人でもないのになんでもかんでもプレゼントしないでよね」
「何か言ったかい?それよりセリカこれを」
さっそく近くのフラワーショップで花束買って渡してきた
「今から出かけるのに邪魔やろが!」
「問題ない、枯れないようにした」
レイの氷魔法で花束を凍らせた
「いや、枯れないとかの話じゃなくて邪魔だって!」
「はははーイチャついてないで行きましょうよ」
「イチャついてねぇし!!」
「騎士のレイさんと勇者のセリくんがカップルってのは一歩も外に出ないオレのばっちゃんまで知ってるくらい有名っすよ
前世の恋人同士だった騎士と聖女が現世でまた結ばれたロマンチックな話だって」
噂って恐いね
こうして俺達はセリカの身体を取り戻す為に、ミクさんが会いに行くハズのイングヴェィの所へ向かった
ん?ロック?お財布取り戻したから帰ったよ
―続く―2016/09/24
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