第71話『はじめてミュージカルの世界へ向かう』セリ・セリカ編

セリカの奪われた身体を取り返す為に、俺とセリカとレイと遊馬はイングヴェィの城へとやってきた

私を応援する、イングヴェィのコトはただのファンと言っていたミクさん

私には本当のコトを言わなかった

でも、私はそれに気付いていたから…

彼女はイングヴェィの愛しのセリカの身体を奪ってまで愛されたかった

他人になってまで…

そんなコト少しも幸せじゃないのに

それを最高の幸せと信じ込んで…

今も苦しんでる気がする

ねぇ、私はそう思うよ

それでも、貴女にとっては幸せだと言うの?



「セリくん!セリカちゃん!来るってわかってたよ

いらっしゃい、いつも可愛くて綺麗だけど今日はいつもに増して可愛くて綺麗だね」

イングヴェィはいつもの感じで私を抱き締める

私に対してすぐ抱き締めたり好きって言ってくるのはイングヴェィの中じゃ挨拶みたいなもん

「あんたのものでもないのに、気安く触るな」

レイがすかさずイングヴェィと私を引き離す

「この人、嫌い」

笑顔で思ってるコトをストレートに伝えるイングヴェィ

「ところでイングヴェィ、私の身体がここに来たでしょ?」

どういう状況なのか説明しなくてもイングヴェィはわかっているみたいだ

私がセリくんの身体にあるコトも、ミクさんが私の身体を奪ったコトも

「うん、来たよ

ちゃんと捕まえておいたから大丈夫

早く戻らないと大変なコトになっちゃうからね

セリくんとセリカちゃんは同じ心、同じ身体で当たり前だから

このまま君達がひとつの身体にいたら、本当に…1人になっちゃう…」

イングヴェィはそれは俺達の望んでいないコトってわかっていて、とても心配そうに優しく微笑む

うん…それはイヤだ

俺はセリカで私はセリくんだケド…

自分はひとつだけじゃないんだって、俺と私は特別だから、自分は自分でいたいだけなんだ

「イングヴェィ、ミクさんはドコ?」

「身体はセリカちゃんだから、1番良い部屋で1ミリも動けないように拘束しているよ」

それ大事にされてるのかどうか判断に困る扱いだよ!?

「身動き取れないって苦痛だよな…いくらなんでもそこまで」

「セリくん甘いよ!あの子は君が思ってるような人間じゃない

あんまり…言いたくないケド……」

イングヴェィは私のコトを気遣って言葉を詰まらせる

言わなくても想像はつく

どうせ、セリカの身体を手に入れてもイングヴェィに愛されないから

それならセリカの身体に傷をつけようとしたんだろう

セリカの身体は刃物で傷なんて意味がない

拘束するほどのコトなら、別の傷付け方…汚し方というか、そんなだったり

回復魔法の効かない危険なウイルスに感染させたりとかか…

「セリカの身体は誰にも渡さない…俺だけの、自分だけのものだ」

確かに嫌な女だろう…でも、なんか…可哀想にも思えるよ

それだけイングヴェィが好きなんだから…

私にはわからない…好き

それに、俺も私もミクさんの歌と踊りが好き

人の中身がアレでも彼女のミュージカルには関係ないから

それにミクさんにも良い所あるもんね

俺達はイングヴェィに案内されてミクさんのいる部屋へと行く途中、遊馬が俺を少しだけ呼び止めた

「セリさん、ミクちゃんが身体を返す事を強く拒否しても力強くでも取り戻さないといけないっすよ」

「そんなコト、俺がやらなくてもイングヴェィもレイもやるだろ」

「そうですけど…セリさんって、女の子に弱いでしょ

なんやかんや言いくるめられて、まいっかこのままでもとか暫くいいかなとか思うでしょー?」

ちょっとそんな未来はないとは言い切れねぇな…

遊馬と俺は初対面みたいなもんだが、セリカとは仲良いみたいでよくわかってんな

俺は女の子には弱いよ

「他人の身体に魂が長い事いると魂のほうが負けて、消滅しちゃうんですよね

それで魂の抜けた身体もそのまま死んでしまいますから」

なるほどな…自分の身体には自分の魂か

最高だよ

こんな最高な気分はもう二度とねぇからさ

俺はセリカで私はセリくんだから、ひとつになった自分は最高な気分だ

それでも、やっぱりひとつにはなりたくない

君が目の前にいなきゃ、不安でたまらないよ

鏡の中じゃなくて、触れ合いたいから…自分に


ミクさんがいる部屋につくと、本当に1ミリも動けないくらい拘束されていた…

手足頭身体はもちろんだが、視界も塞がれ言葉も発せないように

そんな自分の姿を目の前にして、ちょっと…引く

「おいおい、イングヴェィさん…そすがにこの姿は酷くないかい

中身は違うと言っても身体はセリカによくこんな事が出来るな」

「レイくんはその若さと甘さで、セリカちゃんを不幸にする気?

逃げられてダメだったってなってから焦るの?

後悔しないようにするのは、いつだって自分自身だよ」

イングヴェィはいつもの笑顔で話す

人間と変わらない姿をしていてもイングヴェィは人間じゃない

だから、人間の感覚なんてわからない

俺もやり過ぎじゃって思うケド、こんなイングヴェィは嫌いじゃない

言う通り逃げられるより全然マシだ

「セリだってドン引きしてるじゃないか」

「確かに…

でもレイ、私の身体にはひとつも傷はない痛みもないの

あの格好で辛いのは精神のほうだ

それは私じゃない…

イングヴェィは私のコトになると冷たく残酷なのは今に始まったコトじゃないわ」

「セリとセリカが言うなら…

遊馬は固まってるぞ」

とりあえず、ミクさんと話が出来るように拘束を解く

全ての拘束を解いてやりたがったが、何するかわからないから危ないとイングヴェィに止められて手足の拘束だけを残した

「…あのまま私として死んだのかと思いました、セリカさん」

「セリカちゃんに酷いコト言」「セリカにそんな事」

ミクさんの言葉にイングヴェィとレイが不快に思うが私は制する

「死なないよ

私が死んだら、セリくんまで死んでしまうから

私はひとりで死んだりしない」

「それなら」

「セリくんを殺したら、私の身体も消滅するってコト教えといてあげる」

気に入らないのか、ミクさんは私を睨み上げる

嫉妬…憎しみ…僻み…

舞台の上にいる彼女とは別人だ

私はいつも彼女を、彼女としてみていなかったのかもしれない

舞台の上で別の自分を演じ続ける女優の彼女しか見ていない

……私は彼女のミュージカルが好きだった

その後も舞台の上から降りた彼女と仲良く……なったと思っていた

私だけ…

励ましてもらったのは…あれはまた別の彼女だったのではないかと

舞台の上と変わらない彼女だったのかと

今目の前にいる彼女はどの彼女なんだろう

「私の身体を返してくれる?」

「嫌に決まってるでしょ!!」

困った女だな…

そう叫んだがミクさんも自分が囲まれてる事を忘れてはいない

「って言っても、監禁され続けるだけですね

それじゃ…ミュージカルで勝負しましょ?」

「勝負?」

「そう、私と仲間が勝ったらこの身体は私のもの

貴女と仲間が勝ったらこの身体を返してあげる

まー、私に勝つなんて無理な話ですけれどー!!」

高笑いとともに勝った気でいる

そらそうだ

私はミュージカルなんてやったコトない

キャラクターショーとパレードに出たくらいだ

完全にプロと素人、勝敗はすでに見えているようなものね…

「許せない!セリカちゃんの身体なのに!!

勝負なんて関係ないよ

今すぐ殺してでも返してもらわなきゃね」

「セリカの身体がどれだけ貴重かこの女はわかっていない

例え殺してでも取り戻してやる」

私のコトになるとすぐ熱くなるふたり

ミクさんが怯えてるだろ

それにミクさんはイングヴェィのコトが好きなんだから

まぁまぁと宥めると

「何故だいセリ!?

いつもなら怒り狂うじゃないか!」

「短気でイラちで沸騰点が物凄い低いセリくんが何も言わないなんて……」

「オマエら俺をなんだと思ってんだ!?」

何故か俺が言われる側になった

「短気だけど!?すぐキレっけど、オマエらが凄過ぎて逆に冷めるわ!!

短気な俺でもすぐ殺すとかならねぇから!!

あっ…もう…いいんで…そこまでしなくても…みたいな感じな!?

オマエらふたりいると、俺の心は常に平穏だっての」

ホント、ふたりのどっちかといるといつも穏やかに落ち着けるような気がする

俺がイラッとするコトを彼らが代わりに怒ってくれたり庇ってくれたりフォローしてくれたりするから…

この世界に来てから、なんか俺変わったなって思うもん…

今更だけど、自分の為に怒ってくれたり…してくれるのって、実はこんなに嬉しいんだ…知らなかった

いきすぎだけどな……

今まで庇ってもらうとか守ってもらうとか、してもらったコトなかったもんな……

「でも…ありがと…私の為に」

俺はイングヴェィとレイを両腕いっぱい使って抱きしめる

セリカの為に…嬉しい

いつも俺の私の為に…ありがとな

「セリカちゃん…好き

わかった、俺達がミュージカルに勝てばいいんでしょ

誰に喧嘩売ったのか思い知らせてあげる」

「セリもセリカもオレが守ってみせる

相手はオレ達が誰かわかっていないようだ」

音楽に愛された天才2人だろ?

わかってるだろうケド、それでも自信があるんだろうプロは

そうして私達はミクさんと1週間後にミュージカル対決をするコトになった



「1週間て……」

あれから2日目、遊馬は10キロ痩せた

「どうした遊馬!?ゴボウみたいになってんぞ!?顔色も悪ぃし!!」

「オレ…無理です……」

ミュージカルでこっちの仲間として舞台に立つコトとミクさんに指名されてからろくに眠れてないみたいだな

イングヴェィ、レイ、俺、遊馬、後は誰でもいいって言うのがミクさんの条件だ

だって…遊馬…今の見た目はゴボウでも、演技は大根だもんな…ヤバイくらい

「だあってぇ!?後5日しかないんでっせセリさん!?」

「何言ってる遊馬」

遊馬の悩みで押し潰されそうな必死さをカトルは甘い匂いをさせながら自信満々に言う

「曲はレイに作詞はイングヴェィに台本はセリくんが、振り付けはこの僕が昨日のうちに完成させた」

話してないのに、面白そうな匂いを嗅ぎつけたカトルは率先して振り付けとさらに総監督まで名乗り出ている

「あんたらが優秀すぎて余計追い詰められてんですけどね!?

レイさんは器用だから何でも出来る、わかる

イングヴェィさんはプラチナだから何でも出来る、わかる

カトルさんは何か出来そうな人だから、わかる」

全然わかんないケド!?何その理由!?

「ひとりくらい出来損ないがいるなら、オレのメンタルもまだこんなに追い詰められる事なかった!!」

チラチラと俺を見る…おいコラ

「なのに!?なんでセリさんもそんな出来るんすか!?

台本書けるとか意外な才能すぎて引くんですけど!?」

「あー俺、本読むのは大嫌いだけど

文字書くの大好きだから

内容は良いか悪いかは別として…」

「わかった!!それはわかった!!

でもですよ、踊りも演技もそれなりに出来るって聞いてないっす!!」

「ダンスは最近目覚めた(とても嬉しい)

演技は…まぁキャラショーのバイトやってたりパレードに出てたりしてた…から?」

「聞いてなーーーーーーーい!!!」

もうっうるせっぇええ!!!

遊馬はオレだけオレだけと負のオーラをまとわり付けながら床を転げ暴れる

「セリくんはやれば人並み以上にこなせるんだよ」

「そう、いつもやらないだけで」

イングヴェィとレイは俺を褒め頭を撫でる

「ところで配役はどうしよっか、主役が女の子だから」

「あ、なんも考えてなかった…女いねーのに」

「セリくんしかいないね」「セリしかいないな」

「主役を男に変えようと言う考えないんか!?」

「だって可愛い衣装をセリカちゃんに着せて見たいもん」

「今はセリの身体でも、セリカである事にも変わりないなら…可愛い姿を見たいじゃないか」

えっ何この人達…勝つ気あんの…?

イングヴェィの仲間である衣装のデザイナーに事細かく2人は注文を付けて楽しんでいる

もうセリカの綺麗で可愛い姿を見るのが目的みたいな

「じゃ、じゃあ…主役の友達は女なんだ

主役が男なら男にしたケド、主役が女なら友達も女

それ演るのはイングヴェィだからな!」

「俺はセリカちゃんの王子様役だもん」

「そんな役ねぇから、勝手に作んな」

いつもなら俺(セリカ)の言うコトならなんでも聞くのにイングヴェィは不満そうにする

「女の子の役なんて…イヤ!セリカちゃんと結ばれないじゃん!!」

思いっきり私情挟んできて、舞台と現実一緒にしてんぞ!?

「レイくんにして!」

イングヴェィが指を差す先のレイは「えっ…」と嫌な顔をする

「レイはダメだ」

「どうして?」

「レイはめちゃくちゃイケメンだけど、容姿が少しも女性寄りしてないから女装してもキモイだけだ」

そう言った瞬間、シーンと静まり返る

きっとみんなレイの女装姿を想像したんだろう

誰も何も言わなかった

「だから、イングヴェィみたいに女性的な感じもある中性的なほうがいい」

「うーん…納得いかないケド、仕方ないか」

それに声も高く明るく綺麗だから

女の声じゃないケド、それでもおかしくないくらいイングヴェィの声は美しい

「セリがこの顔好きじゃないと言うなら整形して来るぞ!」

「何か勘違いしてねぇか!?」

イングヴェィばかりと話してるとレイが頭のおかしなコトをマジで言ってくる

とりあえず、配役を決めてからの歌と踊りの練習に入る

時間はない

とにかく覚えるコトに集中して、出来る奴(主にイングヴェィとレイ)がフォローをするコトになった

遊馬ばっか悩んでいるが、俺だって演技には自信があまりない

演技の経験があると言っても所詮はバイトだったし、人並みに出来ると言ってもこんなの出来てないよ

一生懸命練習はする

でも23時には寝る眠いから



さらに2日経って4日目のコト

「あーーー!!遊馬じゃないケド、お歌が上手く唄えない…」

記憶するのが苦手な私だケド、台本を書いたのは私だからある程度の台詞は合わせられる

そこは問題ないの(完璧覚えてないからアドリブ入れる←問題だ)

踊りもカトルが簡単でも華やかで可愛い感じの振り付けを教えてもらった

だけど…歌だけは…

「音痴だから……」

「大丈夫だよセリカちゃん、本番は俺が君の声を真似てカバーしてあげるから」

イングヴェィもみんなも、だから気にするコトないよって気遣ってくれる

私が歌うよりイングヴェィに任せるほうが絶対上手くいくのはわかってる

自分が音痴で、歌うのは嫌になるのに

それでも…なんとなく、大好きな音楽を口ずさみたくなる

ダンスが出来て嬉しくてもっともっとって思ってしまう

ワガママだわ、今は負けられない勝負があるのに

「んー…そうか、セリカ」

レイは私の歌を聴いて考え込む

セリくんが歌うの嫌がって今まで聴いたコトがなかったらしい

「歌いにくいだけじゃないか?」

「そうかも、なんか声が出ないんだよね苦しい感じ」

「ちょっと待っててくれ」

何かを思いついたレイはそう言って一度書き込んだ楽譜を書き直す

楽譜がまったく読めない私はレイのスラスラと書き直す手の速さに天才さを見る

それを見ながら試しに軽く歌い合わせる

「セリカは普通の女性と比べて声が低い

だから、『普通』の女性としてキーを設定しても無理なんだ

かと言ってセリカは男ほど低くはないから男のキーも無理だろう

簡単な事でこっちをセリカに合わせればいい

セリカは音痴じゃない、その少年ボイスを生かすように作ってやらなくては意味がなかったな

セリカだけが歌える曲にしたから」

レイは出来たと笑う

「それじゃ、まずはこれをイングヴェィと合わせて歌ってみてくれ」

私の歌…ホントにそんなんでちゃんと歌えるのかな?って不安はあった

自分は音痴だって思ってたから…

なのに…

「じゃあいくよセリカちゃん」

主役の女の子が歌う曲…

私が…ちゃんと…

「うん…!」

書き直した楽譜を見ながらイングヴェィが歌い始める

私はそれを追いかけるようにイングヴェィに合わせて…だんだんと覚えていく

あれ……なんでかな、さっきとは全然違う

凄く歌いやすくなってる!?

不安、恥ずかしさ、いつの間にかそんなもの消えて

いつの間にか…イングヴェィを追い越して、私は私の歌を唄っている

私に歌の才能はない、だから上手くはないってわかるよ

でも、ちゃんと歌えてる

それだけで楽しい

「セリカちゃん、楽しそう

はじめて聴いたセリカちゃんの歌声…好き」

イングヴェィは私ならなんでも好きなんだろうね

「良いぞセリカ」

さすがレイは音楽の天才だよ!

「ありがとうレイ!嬉しい!歌うの楽しかったよ」

楽しい……踊れて、歌えて…演じられて

勝負で負けたら身体を失くしてしまう真剣なコトなのに、私楽しんでるね…

「嬉しい好きだなんて、セリカ」

「好きとは言ってない幻聴、イングヴェィは言ってたケドね」

はじめてのミュージカルがひとつひとつ形になっていく

不器用でちっぽけな素人達をミクさんたちから見たら学芸会レベルでも

私達は私達のミュージカルをやるだけしかないから



勝負の前日

「そこで浮け遊馬」

「無茶言う!?」

総監督のカトルから演技指導を受けてボロボロになった遊馬は前日になっても大根は変わらなく

練習が終わった夜に遊馬は灰になってしまった

「大丈夫かよ遊馬…」

「セリはーん…わいはもーあきまへんわ~…」

「やめろ、発音が違うくてムカつく」

別に遊馬は木の役だからそんなに頑張らなくてもいいんだが、見かけによらず真面目なのか?

「ホストクラブに行ってきます」

「あのさ、遊馬はそんなボロボロになるまで」

「ホストクラブ行くから」

「無理しなくていいんだよ

俺達みんな素人だし、みんなでフォローしていこうって」

「ホストクラブレッツゴー!!!!」

遊馬は消えた

や、やべぇ……いきなりホストクラブって聞こえたのは空耳かなんかだと思って聞こえないフリしてたのに

マジで行っちまったぞ

辛い→女→キャバクラ、ならまだわなる…いやわからん

おい遊馬は未成年だからダメだろ!?

なんでホストクラブ!?急に!?

辛すぎてなんでホストクラブ!?

アイツ…男好きだったのか…知らんかった

そっとしとこう

………でも、心配だ

ホストクラブ…セリカが男嫌いだから、スゲー足が重い

うるさい騒がしい馴れ馴れしい酔っ払い嫌い煙草嫌い、勝手なイメージだがセリカはそれが凄く苦手だ

それでも精神的に追い詰められてる遊馬をほっとけない気持ちに俺は追いかけるコトにした

遊馬が入っていったホストクラブ

入口にキメ顔のホスト達の写真がデカデカと飾ってある

あっ…もう無理、恐い

いやいや今は男の俺なんだ

何も恐いコトはない

お尻触られるコトもない、大丈夫だ…きっと

俺の弟が一時期ホストやってて、好きな香水がエイト○ォー(制汗剤)ってプロフに書いてたの思い出すわ…

ウケ狙いだったのかガチだったのか、恐くて(アホさが)未だに聞けねぇ…

遊馬を追いかけてホストクラブに入るとそこは……

「よ~う~こ~そ~~~」

「きーみーとの~、この出会いを」

「大切に~っ……したいっっっ!!」

ミュージカルだった

歌い踊りながら客の俺達を出迎えてくれる

俺は黙って外へ出て看板を確認した

何度見てもホストクラブだ…

でも、中はホストっぽい男達がスーツ姿のままミュージカルしながら接客している

なんだかイメージしていたホストクラブとはかけ離れているが…

あれか、喫茶店にメイド喫茶やツンデレ喫茶や執事喫茶とか色んなあるやつのホストクラブ版?

「いらっしゃいませ~オレ聖夜です!よろしく、美しいお嬢さん」

ホストが俺の手を取って口付けしようとするから振り払う

「誰がお嬢さんだ、男は触るなシッシッ」

あっち行けとあしらっても、さすがプロなのか聖夜は笑顔を崩さない

「おい遊馬、なんでこんな所に」

「ここのナンバーワンホストに会わせてください」

そう聖夜に言ってから遊馬は俺に向き直る

「大丈夫っすよセリさん、オレは真剣なんです!!ヤケになったとかおかしくなったとかじゃないっす」

「えっ……ホストにハマったのか……その歳で……」

知らなかった

「なんで!?誤解です!男には金出しませんよ~

セリカさんみたいな綺麗で可愛い女性にならいくらでも~ワハハ」

「いらないからそういうの」

遊馬は冗談で言ってる

ちゃんとわかってるから、セリカはそういうの受け取らないって

恋人になる人以外からは何も受け取りたくない

「オレが何故ここに来たのか、セリさん

オレはここのナンバーワンホストの生霊を憑依して明日のミュージカルに挑みますよ

ナイスアイディア!」

ミュージカルの何たるを教えてもらうとかじゃなくて、ここのナンバーワンホストに遊馬としてミュージカルに出てもらうとかせこいな

さっきまでの大きな悩みはそれで吹き飛んだかのように遊馬は清々しい顔をしている

でも、遊馬はセリカの為に頑張って無理だったら対策を考えて実行してくれるんだ…

良いヤツだよな、コイツも、この世界で知り合った良いヤツのひとり

「と言う事なんで!セリさん心配でついて来てくれたっすけど大丈夫ですよ!

もう夜も遅いですし、セリさんこの時間眠いでしょ

先に帰っててください」

「わかったよ、こんなコトなら先に言ってくれよな」

すまんすまんと遊馬は笑う

それじゃ俺は先に帰るか、本当に眠いし、遊馬が大丈夫って思ったらさらに眠くなるわ

「それじゃ先帰るからまた明日」

「はいセリさん!!」

ミュージカル風ホストのナンバーワンを見たい気もするが、やっぱりこういう場所は苦手だから帰ろうかセリカ


ホストクラブを出ると、なんか見たコトある人が待っていた

「あれ、結愛ちゃん?」

夜でもよくわかる、女神は神々しいから

あのセレンでもな…

なんでこんな所に?

待て、そんなコトより今めっちゃマズくねぇか?

「いや!?待って!これは違うんだ

別にホストに興味があってとかじゃなくて!色々事情があってここにいるワケで」

結愛ちゃんは俺の話を聞いてるのか聞いてないのかもよくわからなくて、とても心配したと言う表情をしている

そういえば、ロックと一緒に出掛けてて帰る予定より遅くなりすぎたから心配して来てくれたのか?

結愛ちゃんの姿は俺にしか見えないし、どんなにみんながいてもそれじゃ独りぼっちと変わらなくて寂しいのかもしれない

なのに、俺は何の連絡もしてない…

セレンとかにはロックからは聞いているだろうケド

「…心配かけたな、ちょっと色々あって帰るのが遅くなってるんだ

とりあえずここで立ち話は寒いし、ちゃんと話すから行こうか」

俺がそう言うと少しずつ結愛ちゃんの表情は心配の色が消えてくれたようだ

「なんやかんやあって明日はミュージカルに出るから忙しくなるよ」

歩き出して少しすると結愛ちゃんは俺の腕にそっと手を添えて近付く

慣れてない俺には、ん?と一瞬思ったケドすぐに気付く

この世界は女性をエスコートするのが当たり前のように行われているからこうして歩くのは普通だ

自分がいた世界にはあまりなかったし、いつも男としか歩くコトがなかったから変な感じ

セリカはこの世界に来てから慣れていくうちに普通に出来るみたいだが、男の俺はこんな場面になるコトはあまりないから

視線を結愛ちゃんのほうに向けると、彼女もそういうのに慣れてないみたいで精一杯顔を赤らめてる

お互い慣れない俺達は小さく笑い合った


明日は自分の身体を取り戻す勝負だとしても、やっぱり舞台に立つのは緊張する

焦ってないのは…私の身体がなくなっても平気だからとかじゃなくて

勝ち負けなんて関係なく、絶対に身体が戻ってくるから……

このコトに意味なんてあるのか、ミクさんはこんなコトで満足するのか

愛とかやっぱりよくわかんない

そんなに苦しいのに、どうしようもないのに

それでもしがみついて後戻りできなくなる

彼女自身だって気付いてるハズ、自分のコトに

そんなになるなら、私は恋なんてしなくていいや……



-続く-2017/01/03

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