第57話『闘技場か…えっ無理!一瞬で負けるぞ!?と自分ばっかりの悩み』セリ編

「レイ~!ちょっと買い物に付き合っ…あれ?」

なんだよいないのかよ

自分の部屋にいた俺はレイなら音楽室にいると思って見に来たのだがシーンと静まり返っては誰もいねぇ

その後もレイのいそうな場所を探してみたがいない

俺に何も言わずに長時間いなくなるなんてしない奴だから、少し待っていれば部屋に帰って来るだろうとは思うんだが

ん~…たまにはレイに甘えないで1人で買い物に行けと言う天のお告げか導きか…いや知らねぇケド

まぁ俺1人でも大丈夫だろ!近場だしな!

もうすぐ冬だからさ、少しずつ冬物揃えよっかなって思ってるんだよ

とりあえず1人で行くと決めた俺は神殿から出ようとした所、セレンに会ってしまい止められる

「あらセリ様、お1人でのお出かけは危険ですわ」

「平気だってすぐそこの街で買い物するだけなんだから、コンビニ行くみたいな感じで簡単に」

と言いながら俺のコトだから気が向いて急に遠出するコトもあるかもしれねぇが

「いけませんの!!」

セレンの過剰な心配性から来る大声に少し抑えつけられるような感覚に陥る

俺は大きな音が苦手だからなのかもしれない

「レイ様がいらっしゃらないのでしたら、あそこに張り付いている忍者でも護衛として同行させるべきですわ!」

言われてセレンの指す方に目を向けると、ロックが天井に張り付いて「何故自分拙者が…」と嫌そうな顔をした

俺もだよ…不審者

「大丈…」

「いけませんったらいけませんの!!」

「は、い…」

強引なセレンの言葉で俺はロックと2人で買い物に行くコトが決まったセレンが過剰に心配するのもロックが嫌そうにしても同行してくれるのも

今までのコトからして当たり前なのかもしれない

なんやかんや俺は自分は大丈夫って言っていても大丈夫じゃない時のほうが多い

次はないだろ平気平気って簡単に適当に考えて、いざって時はそれでも自分はなんとかなるでなんとかなって

だから大丈夫だって答えを出しても、周りから見れば俺との答えは違って俺が思う以上に心配をかけてしまってるんだ

前の世界とは違うから…よくわかんなくて…俺は今だに周りが心配すると言う自覚がない

心配してくれなんて頼んでないし望んじゃいないのに

レイが大怪我した時は俺は心配したよ怖かったよ

自分が心配するコトはあっても、他人に心配されるのは慣れない

いつもレイが俺を心配してくれてるコトはよくわかっているのに…


そうして、俺はセレンの強引な心配性で珍しくロックと2人で出掛けるコトになった

レイの3人でってのはよくあるコトなんだケドな

「レイ殿の彼女の護衛をするほど拙者は暇でないでござる

買い物が終わったらすぐに帰るでござるよ」

「言われなくても早く帰るっての!」

「2人でいる所をレイ殿に見られて誤解でもされてはたまったもんではないでござる」

「何の誤解だよ!?」

チラチラと周りを気にするロック

「そもそも恋人のいるリア充と同じ空気など吸えずただただ息苦しく…」

ロックにリア充はなんたらかんたらといつものを聞かされながら聞き流し街の外へと一歩出た瞬間

巨大な網が上から降って見動きが取れなくなる

「えっ!?いきなり何!?どういう展開!?」

もがけばもがくほど網は絡みついてきつくなる

「この世のイケメンが憎い!手の届かない美女が憎い!」

「まだ言ってたの!?そんなコトより今は現実を見てなんとかしろよロック!!」

状況に呑まれてる俺の横で網に絡まれながらもリア充へ激しい憎しみをぶつけてるロックとはどうやら同じ世界にはいないようだ

セレンはロックを護衛にと言って無理矢理同行させたケド、全然使えねぇぞ!!

とにかくロックはいない者として自分でなんとかしようと腰にあるナイフに手を伸ばそうとするが、網に腕を引っ張られて届かない

「そもそも拙者は12歳以上のババアには興味がないでござるから、イケメンがババアとリア充しようが何も」

「ちょっと黙っててくんねぇかな!?自分の中で勝手に解決して納得するのは構わねぇが今はそれどころじゃないんだよ!?」

嫌な予感がするんだ

このままこの網の中にいたら…ほら、その時が来ちまった

「無様ねぇ…それになんて簡単な事でしょうお姉様」

「ほほほ、そうねぇ妹よ

これがあの魔王を倒す唯一の存在なんて笑っちゃうわぁ」

この感じ…かなり強い悪魔の気配だ

こんな街の一歩外すぐに悪魔が待ち伏せしているなんて誰が思うんだ

「1ヶ月ここで粘って正解だったわね!お姉様!」

「勇者を連れて帰ればお兄様も喜ぶもの!やりましたわ妹よ!」

1ヶ月スゲー暇だったんだなオマエら…

俺がここを通らなかったらいつまで暇を持て余すのかも気になるんだケド

「勇者は魔族魔物以外には弱いとの噂は真のよう

しかし、この姿で男とは信じがたくもあるわね妹よ」

「綺麗な容姿に惚れ惚れしましょう

私達の周りにいる男性はたくましい方々ばかりですもの

これほどに綺麗で小柄な男性は珍しいですわお姉様」

つまり悪魔男性はマッチョが多いって解釈でいいんだな?

珍しいものを見るように暫く俺を観察しては動こうとしない姉妹

次に動きがあれば、俺はそのお兄様とやらの所に連れて行かれるんだろう

悪魔が勇者を狙う理由は魔王を倒せる力を持っているからだ

利用されるってコト、悪魔は魔族魔物を邪魔だと思ってるから

前々からセレンには気をつけろって言われていたが、悪魔ってあんまり出番がなかったから忘れてました

さてどうするか…俺はわかりきっているコトだが、ニッコリ笑って

「帰りたい♪」

「「無理よ~♪」」

ニッコリ笑顔で返された

網ごと身体が宙に浮いたと思ったら悪魔の姉妹に連れて行かれる

まだ現実に気付かないロックと共に…


暫くして、慌てても仕方ないと思っていた俺はいつの間にか眠ってしまって気付いた時は薄暗い牢屋の中に入れられていた

「このピンチな状況でよく眠れたものでござるな」

牢屋の隅で腕を組みながら溜め息つくロック

現実逃避してたオマエだけには言われたくねぇよ

「ピンチねぇ…そうでもないんだよな」

不思議なコトに今は恐くもなくて、心配するコトもない

悪魔は勇者の力をほしがっているから、殺したりしないだろって思ってて

殺される恐怖がないからかな、なんか落ち着いてんだ

「ロックは忍者だから、煙になっていつでもここから抜け出せるのに」

俺は牢屋の中にある小さな窓を指さして笑う

「俺を置いていかないでいてくれたんだ」

「レイ殿の彼女に何かあっては、世界の滅亡になりかねんでござるよ

プラチナのイングヴェィ殿に魔族の魔王殿までもがレイ殿の彼女にご執心でござる

とんだビッチでござる

その綺麗な微笑で幾多の男を骨抜きにして来たでござるな!!!」

香月やイングヴェィのコトは違わないケド、俺はビッチじゃねぇから!ってかレイの彼女じゃないし!男だし俺!

言わないケド、俺にはその3人じゃない別に恋人がいたって知ったらロックは失神するかもしれないな…なんか恐い自分が……

「まぁ、とりあえず今日はロックがレイの代わりに俺を守ってくれると言うコトだけはわかった

でも危なくなったら俺のコトはいいからちゃんと逃げてくれよ」

「言われなくても、拙者は幼女の為なら死ねてもリア充の彼女の為に死ぬほどお人好しではないでござるからな」

「うん!」

それでこそロックだ!安心する…

ロックと会話が途切れた頃、悪魔がやってきて牢屋の鍵を開ける

「出ろ」

あの悪魔美人姉妹じゃなくて、暗い印象のある男性の悪魔…うーむ、がたい良いな…マッチョだな

男らしいな…華奢で細く小柄な自分が恥ずかしくなるくらいに見比べてしまう

いや、俺は大好きなセリカと同じ容姿に何の不満もないんだが

男と意識した時、妙な劣等感がある

セリカが巨乳の女性を見て、ちょっといいな~と羨ましがるのと似た感情か

「えっ何?もしかして逃がしてくれるのか?」

そんなワケあるかと思いながらも俺は笑顔で話しかけてみたが無視された

この数秒の静けさが痛いだろ

悪魔について行くと薄暗い階段を上がり外へと出る

急な太陽の光が眩しい

目が光に慣れて広がる光景は観客満員御礼の闘技場の中だった

360度周りは悪魔にのみ囲まれた場所で、俺が姿を見せると何か知らんが盛り上がりが強くなる

ちょっと待って…盛り上がってるトコ悪いんだケド、これから何かと戦わされるんだよな

この雰囲気からして

俺めちゃくちゃ弱いから一戦目で負けるぞ?

1番高い所から手を叩く音が聞こえると、うるさかったのが一瞬で静まり返る

「勇者の実力がどれほどのものか、この目で確かめてみようではないか!なぁ皆の者!!」

何か喋ってるのはわかるが、何言ってるか全然聞こえねー

「もっと大きな声で言ってくれないと、何言ってるか全然わかりませ~ん!!」

俺の後ろにいる観客席の奴らも絶対聞こえてないだろ

悪魔姉妹が寄り添ってるのから見て、たぶんあの偉そうにしてるマッチョがお兄様だと予測する

何か見下されてるのがムカつくから、俺はその辺に落ちていた小石を拾い投げるが全然届かない

腹立つな~

聞こえないうちに悪魔兄の高笑いで締めくくる挨拶が終わると、前方の重たい鉄格子が開く

これよく映画とかで見るやつだ~!そこから強い奴が出て来るんだろ…ついに始まるのか…

先は見えない恐怖で不安になってくる

いつもなら隣にいるレイに頼るのに、ロックの顔を見るとそんな甘えも弱さも無理矢理引っ込めるしかない

そして、暗闇の中から勢いよく飛び出してくる数匹がそのまま俺に飛び込む

一瞬身構え足に力を入れたが、あっさり力負けして押し倒され頬や手を舐められる

「あっは…ちょっと、落ち着けよオマエ達」

こしょばいよと抑えつけるが言うコトを聞かない

出てきたのはライオンの子供と似た姿をした力の弱い魔物達だった

なんだ可哀想に、悪魔に捕まっていたのか

頭を撫でてやると気持ちよさそうにしてる

「力の弱い魔物は勇者に懐くと言う噂は真のようだ」

「つまらないです!もっと強い魔物と戦わせてお兄様!」

悪魔兄と姉妹が何を話してるかやっぱり聞こえないが次と言わんばかりにそれなりに力のある魔物を出してきた

殺意…敵意…よくないものを感じる

3mの巨体、ワニのように口が大きく硬い皮膚

その魔物は俺を見ると襲いかかるが、魔族や魔物に強い俺は相手の動きを先読みするコトができるかのようにわかって簡単に避けるコトができる

「レイ殿の彼女、いくら魔物に強く回復魔法があると言ってもこいつはなかなかの敵でござる」

うん…俺は短銃を手にして戦う意思を見せた

悪魔達は勇者の力がほしい…そして、これは俺の力がどれほどのものか試し見ているんだ

「大丈夫、この程度なら」

魔物の攻撃を避け、隙が出来た時に顔に蹴りを入れると魔物はデカイ図体をひっくり返して動かなくなった

「余裕で勝てるぜ!」

一撃で気絶した魔物を見てロックは少し驚いている

きっと勇者の力がどれほどのものなのかまだわかっていなくて、ロックにとったら強い敵を一撃で倒す俺に対して見方が少し変わったのかもしれない

「いつもレイ殿に守られているイメージばかりで、彼女殿の勇者の力がここまでとは思ってもみなかったでござるよ」

だから彼女じゃねぇって

まぁ俺はいつもレイに守られてるし…自分の力がどれだけあるのかもわかっていない

とりあえずは香月が人間の間なら四天王にも負けないくらいの力が俺にはあるってコトだ

香月が魔王になったら…俺の力の限界はすぐにでも目に見えるだろうな

だから…

「しかし…さすがの彼女殿でも次の魔族には勝てないのではござらんか……」

もっと強い奴をと悪魔達が叫ぶと次に出て来た奴は四天王と変わらないくらいの強さを持った魔族が登場する

「勝てるよ、勝って帰るんだ

レイが心配するから早く帰らないとな

お腹も空いてきたし」

目の前の魔族の強い魔力に怯み気を張るロックは俺が笑うと表情を和らげる

「ロックは下がってろよ」

「おなごの後ろに隠れるほど情けない男ではないでござる!」

ロックは俺に負けじと魔族に立ち向かう

でもロックじゃ無理だ…四天王レベルの強さ

瞬殺されてもおかしくない

俺の回復魔法は即死には効かないから無茶しないでくれよ

と焦りもしたが、魔族は攻撃をしてくるが本気じゃなくて敵意をまったく感じない

よくよく観察していると魔族の首に変な輪っかがつけられていてそれが時間が経つ毎に少しずつ締め付けているように見える

苦しんでる?戦う気はさらさらないのに無理矢理戦わされてるってコトなのか?

痛い思いをしても本気を出さない…俺達を殺そうとしない…悪魔に抗ってるのか

「ロック、ちょっとこっち来い!」

ロックの腕を引っ張り気になるコトを伝える

いまさらだケド、スリムなロック久しぶり

「ちょなんでござるか、顔が近いでござる!」

女慣れしてないロックは目に見えて動揺する

本当は女じゃないのに…

「あれ!あの魔族の首についてる変な輪っか

あれ外せないか?」

「首に食い込んでる輪っかでござるか…

無理でござろうな、あの魔族ですら外したり壊したり出来ないものを拙者が出来るわけないでござるよ」

た、確かに…でも…可哀想だ

戦いたくないのに…戦わされて

「あっ、いやできるよ!ちょっとエグいけど

輪っか自体をどうにもできないならそれ以外をなんとかすればいいんじゃん」

ロックは俺の発言にハテナマークを浮かべるが、俺は思い付いたコトを魔族に伝えに行く

「なぁアンタは首が胴体と離れたらどれだけ生きてられるんだ?

魔族だから即死ってコトはないんだろ?」

相手の攻撃を避けながら話しかける

声が出せないくらい輪っかが食い込んでいて魔族は指で5の数字を示す

5分かな?いや5秒かもしれない

俺はロックの元まで戻り、思い付いた作戦を話す

「ロック、俺があの魔族の首を切り落とすから5秒以内に首の輪っかを抜いてくれよ」

ロックの双剣の片方を貸してと手も一緒に出す

短剣持ってるケド刃渡りが足りないからさ

「彼女殿!?首を切り落とすなど残酷すぎるではござらんか!?」

「えっだって、それしかどうしようもないし

アイツは5秒なら生きてられるって言ってたから俺の回復魔法でなんとかなるし、完璧な作戦だろ」

「頭おかしいでござるよ…

そんな作戦をさらっと思い付く彼女殿との付き合い方を真剣に考え直した方がレイ殿の為でござる」

「普段から敵倒すのにブシャーグシャーやってるオマエには言われたくねぇよ!?」

ロックにとってそういうのは男の世界で女には血なまぐさい世界とは無縁で綺麗なままでいてほしいと言う願望があったようだ

女に夢見すぎやろ

ユリセリさんとかもっとヒドイぞ

俺は女じゃないからなんの問題もねぇな!

「お願い…このままだとアイツが可哀想なんだ

助けたいから」

「………拙者は意地悪で言ってるわけではないのでござる

レイ殿の為に代わりに彼女殿を守るのはそういう事もしてほしくないと……ぐぬぬ、わかったでござるよ」

自分が首切りの役をやりたくても自分じゃあの魔族にかすり傷も与えられないとわかっているロックは俺のお願いに折れてくれる

本当…女に弱いよなロックって、俺もだケド

セリカと同じ顔でよかった

ワガママが通りやすいからなこの綺麗な顔って

「それじゃ、頼んだぜロック」

待ってろよすぐその変な輪っか外して楽にしてやるから

俺はロックの双剣の片方を借りる

ちょっと重くてスピードは落ちるが、まぁ魔族の攻撃を避けられないワケじゃない

そのまま間合いを詰めて一気に首を切り落としに行く

「うっそ…切れ味微妙…」

予定では綺麗に一瞬で首を落とすだったのに、ロックの双剣は勇者の力に耐えれるほどの武器ではなかった

そりゃ四天王レベルの魔族だ、そんじょそこらの武器じゃ歯が立たないか…

前にラナの身体を余裕で真っ二つに出来たイングヴェィのブーメランはそれなりの武器だったと言うコトなんだな

「ちょっと…我慢してくれよ…」

それでも俺はロックの武器が壊れる前に力任せに押し切る

魔族の頭と胴体が離れた時にはロックの武器はガタガタに折れ壊れてしまう

悪ぃなロック、後で弁償するから許してくれっかな~

「まったく無茶するでござるよ彼女殿」

俺の後すぐにロックは魔族の首にあった輪っかを取り除いてくれる

瞬間、俺は魔族に回復魔法を使って何事もなかったかのように頭も胴体も元通りになった

きっと2秒もかかってない

ロックが優秀だったから

「そこは褒めるトコだろ~

ってか、ロックの武器壊れちまった…ゴメンな」

「良いでござる

後で彼女殿の財布(レイ)に請求するでござる」

「財布!?なんてコト言うんだよ!!酷くねーかそれ!?」

ま、まぁ…レイはいつもなんでも買ってくれるから

最初は遠慮していた俺も最近はそれが当たり前みたいになってマヒしてる感はあるが…

そうだよな…一度俺のほうが年上でお兄さんってコトをレイに示してやらないとダメだな、うんうん

レイはお財布でもない彼氏でもない、大親友なんだって見せつけないと!

(すぐ甘やかされて忘れる)

ロックと言い合っていると身体がふわりと浮く

首の輪っかが取れ悪魔の束縛が解けた魔族がロックと俺とここにいる魔物達をまとめて小脇に抱える

「えっ、おい…?」

何をと思っている間に、変化に気付いた悪魔達が立ち上がる前に

「逃げられるわお兄様!」

「皆の者!今すぐ奴らを…」

悪態兄姉妹の声は途切れ、封鎖された闘技場の透明な天井を突き抜け脱出する

この速さは身体が感じるより速く気付いた時にはもう魔王城の目の前だ

振り返っても悪魔のいた闘技場の形なんて少しも見えず、いつか通ったコトがある景色だけが広がっている

なんつースピードだよ…四天王レベルでも、このスピードじゃ俺はついていけねぇぞ

まるで瞬間移動でもした気分だぜ

そんな感想言ってる間に魔族は魔王城の庭に降り立ち俺達を離すと

「あっ待って」

俺が声をかけるより先に超スピードで消えてしまった

たぶん自分の部屋に帰っただけだろうケド…

悪魔に捕まってた間に何かされたりとか大丈夫なのか聞きたかったな

「感じの悪い奴でござる

助けてやった礼も言えんとは」

ロックは魔族の消えたほうを見て不機嫌にする

「まぁいいじゃん、俺達なんか助かったんだし」

俺の足元にまとわりつく一緒に助かった魔物達を撫でてやってるとその数匹が俺から離れる

「いらっしゃいセリくん」

数匹の魔物は俺に気付いて庭にやってきたセリカに飛びつく

「セリカー!会いたかったぞ!」

自分大好きな俺はセリカに会うと必ずキスするのがもう癖になってしまった

「相変わらずナルシストでござるな…」

ロックに飽きられながらも俺はセリカを抱きしめて満足

だってセリカ可愛いし!…それにこの前、不安定になったから心配だったんだ

全て伝わってるからわかる

その不安も恐さも心配も全て俺のものでもあるから

「じゃあ私はロックと帰るからセリくんは私としてポップの相手ヨロシクね」

「へっ…?」

セリカは俺の腕からスルリと抜けてロックの腕を掴んで魔王城から出て行く

「彼女殿!?やめるでござる!レイ殿に見られたら誤解されるではござらんか!」

「えっなんの誤解?腕掴んだくらいで誰も何も思わないわよ」

ロックの女慣れしていない慌てぶりにセリカのアハハと言った笑いが遠くから聞こえてくる

えっと…セリカ、もしかして……

「セリカ~~~~~~~!!!こんな所にいた~~~

探したんだよそろそろ着替えないと間に合わないよ!」

後ろから物凄い勢いで俺を羽交い締めにするポップの声

何が!?って聞き返すヒマも与えずズルズルと連れて行かれる

ってか、ポップの胸がめっちゃ背中に当たってるんですケド…やめてくれ!俺はセリカじゃないから男としてよくない状況だぞこれ!?

いや本当こいつ巨乳だよな

俺はセリカの部屋に連れて行かれてポップにされるがままドレスを着せられた

そこで察した

あぁパーティーか、セリカはパーティーは嫌いじゃないみたいたが蛇とポップの性格が苦手で俺と交代させたんだな

セリカの奴…俺にも自分自身に小悪魔使うとかやるな

ってか、俺が感じるコトは全部セリカにも感じるから交代とか意味ないんだケドな

セリカが感じるコトずっと俺も感じてたから

「セリカ痩せた?」

「いや?」痩せてないと思う

元々細身なだけで

「とくに胸、痩せたよ~~~!?これじゃドレスの胸の辺りがブカブカじゃん~~~!!!」

そう言ってポップはその辺にあったメロンパン入りの袋を2つドレスの胸の辺りに突っ込む

「これで良し!」

いいのか!?ってかなんで良い所にメロンパンあんの!?

セリカはメロンパン好んで食べないから買い置きしてるってのはちょっとないと思うんだよな!?しかも2個も!

はぁ…目の前はスイカ(ポップ)なのに

俺(セリカ)は所詮小さなメロンパンレベルか…後で殺されそうだ

「セリカ、髪切った?セリは短くても似合ってるけど~~~…セリカはやっぱり髪長いほうがいいよ!」

そう言ってポップはその辺にある鞄に手を突っ込んで俺の髪色と同じセリカと髪の長さが同じウイッグを取り出した

だからなんで都合良くそう言うの出てくるんだよ…おかしいだろ?

「ほら~~~!今日も綺麗だよセリカ!!香月様も喜ぶよ絶対!!」

されるがままされて、俺は綺麗にドレスアップさせられた

鏡に映る俺は俺だけど、髪と胸を付け加えるだけでセリカにしか見えない

やっぱセリカは綺麗で可愛いな…最高だよマジヤバイもん大好きだわ(ナルシスト)

「セリカの好きなダンスパーティーは21時からだからそれまではキルラ達のパーティーに参加しよ~~~」

ポップは強引に俺の手を引っ張る

あのさ…前々から三馬鹿はバカだと思ってたが

俺がセリカじゃないってなんで気付かないんだよオマエ!?

男と女の胸の違いくらい見たらわかるだろ!?ペッタンコだったら、なんで痩せた?って思うんだよ

おかしいよ~しんどいよ~

女の子が胸だけピンポイントに洗濯板並に痩せたらそのショックは計り知れねぇよ

まっ、いっか

いちいちバカにツッコミしてたら精神力が持たんわ

魔族のパーティーがどんなものかこの目で見てやるか


ポップに強引に連れていかれ俺はキルラ主催と言う狂ったパーティーに参加するコトになった

パーティー会場の扉を開けたら、そこは地獄だった

一瞬で扉を閉めて見なかったコトにする

OK、現実逃避しよう

「どうしたの~~~セリカーーー!?」

会場から背を向けた俺はポップの強引な性格に逃げられない

会場内に引きずられるようにして無理矢理その地獄の場所へと身を置くコトになる

現実を見ろ…これが魔族なんだって知らないと

魔族は自分以外の種族はおもちゃで食べるものとしか思っていなかった

人間も天使も悪魔もエルフも妖精も…俺の知らない種族もたくさんいて捕まっている

人を並べては目刺しにされてたり、人を的にしてダーツしてるトコもあれば、モグラ叩きだって楽しそうにしてやがる

人の踊り食い…殺し合いさせたり、子供が遊びでおもちゃを壊すように身体をバラバラにしたり

頭おかしい…俺の感覚からしたらこの一言しかない

まず匂いがダメだ…ココの匂いは人の傷付く血と死の匂いが充満してて吐きそうに気持ち悪い

こんな感覚ははじめてだから、セリカは今まで見たコトがなかったんだろう

「お~~~い!セリカ様、ポップ!こっちこっち~~~!!!」

俺達に気付いたキルラは大きく翼を広げて振っている

オマエも俺だって気付かないのかよ

いや…俺とセリカは同一人物だから違いなんてなかった

「悪趣味なパーティー開きやがって」

鼻を抑えながら俺はキルラを睨みつける

「えっどしたんすかセリカ様」

俺がなんで機嫌が悪いのかさっぱりわからないキルラもラナもポップも笑っている

わからないよ…だって、種族が違うんだから

魔族には魔族の価値観、人間には人間の価値観…

人それぞれ違うと言っても、基本になる種族の根本はあると思うから

それが合わないだけ…

こんなんで俺は香月と仲良くやっていけるのか…

「どうもしねぇよ

オマエらとは合わねぇなって思っただけ

俺は気分悪いから部屋に戻るからな」

「セリカ…それってどう言う意味~…合わないとポップと親友になれ」

急にポップは不安な声を出して俺の腕を掴んで止めるから振り払う

「うるせーな、俺は部屋に戻るって言ってんだろ」

ムカムカする…イライラする…

なんで、何に対して、自分の思い通りにいかないからか…

魔族と仲良くしたいのに、知れば知るほどイヤになるから…

ポップの悲しい表情を横目に俺はこの会場から出るコトにした

冷たく突き放しすぎたかな、追っては来ない

俺は出る前に、目刺しにされて苦しんでる人々が視界に入って

それらを見て笑ってる魔族を見て腹が立ったから目刺しにされている全員を勇者の剣で切って殺した

いつまでも苦しんで生きるより死んだほうが幸せだと思ったから…

「セリカ様ったら手が滑ったなんてドジっ子なんですから~」

なんでそう思ったのかわからんが、魔族達は俺のやったコトを笑いで済ませる

俺は…人間が嫌いだよ…殺したいよ

でも、そう思ってても…誰かが苦しんでいるのを目にするのはイヤなんだ…

なんで、悪になりきれたらこんなに苦しんだりしないのに

自分を傷付けた奴なら穢した奴なら苦しめた全てだったなら

俺はこの場所で笑っていたかもしれない

………鼻が曲がるな、さっさと出よう

扉に手をかけた時に足元に羽をむしり取られた妖精が小さな籠に入れられていたから

俺はしれーっと自然に持ち出して会場を出た


妖精を逃がそうと中庭にやってくると誰もいない

みんなパーティーに夢中だもんな

静かで綺麗な中庭…魔族の残酷さとは反対に美しい場所

美意識の高い魔族だからセンスが良くて芸術性が高い

その部分は種族が違っても合うと言うか素直に認める

イングヴェィの城もスゲー綺麗なんだケドさ

それに負けず劣らずの景色を持っていた

一応、周りに魔物達の気配がないか確認してから妖精を籠の中から出す

「羽がないと飛べないか?」

妖精は人間の言葉が理解出来るのか首を横に振って俺の手から飛び立つ

妖精って羽で空飛んでるのかと思ってたが違うのか

ピーター○ンの妖精は鱗粉で人間飛ばしてたから、もしかしたら鱗粉が身体についたままなら飛べるのかもしれない

それは俺の勝手な予想だから真実はわかんねぇケド

妖精は言葉を喋らなかったが、振り返り俺にありがとうと手を振って空に向かう

すると、急に魔物が近付く気配を感じて

そのスピードは目にも止まらぬ速さで夜空に向かった妖精を一口で食い殺した

そのまま魔物は何事もなかったかのように愛らしい小鳥の姿で俺の手に止まり懐く

「なんで…」

俺はふつふつと湧き上がる怒り任せに手に乗った小鳥の魔物を両手で握り締める

「なんで悪いコトするんだよ!?」

逃げるものを追うなんて殺すなんて、腹が減ってたワケじゃないんだろオマエ!!?

このまま簡単に勇者の力で魔物を握り潰して殺せる

手の中にいる魔物はどうして俺が怒るのかわかっていなくて、苦しいと鳴く

「……………。」

鳴く泣く…弱い存在だと気付いて、俺の力は弱まって離す

すると、小鳥の魔物は俺の手の中から飛び立っていった

「なんか…やってらんね…」

はぁ…っとため息つきながら俺はウイッグを外してその辺のベンチに座り夜空を見上げる

胸の中に詰められたメロンパンの袋を取り出して開ける

「腹減ったな」

腹は減ってる…だからメロンパンの袋を開けたんだ

でも、口元に持ってきても食べる気にはならなかった

2つもあんのに…目の前のメロンパン2つが肉まんだったら食べれた

いや肉まんそんなに好きじゃなかった

なんだったら食べれたんだよって考えていると、強い魔力と恐怖を感じては良い匂いがする

恐いのに落ち着く香りを俺は誰か知ってる

「似合ってますね」

「喧嘩売ってんのか」

ドレスが似合うと言われて喜ぶ男はそういないだろ

でも俺が褒められるってのはセリカが褒められるのと同じだからまぁ悪い気はしない

「メロンパン食べる?」

俺を見下ろす香月に隣に座ればと一緒にメロンパンを渡す

が、香月は受け取るだけで食べはしなかった

そういや甘いもの苦手だったな

後で空気に触れてカッチカチになったメロンパンをキルラ辺りにやるか

鳥なら喜んで食うだろ

「いつも、セリカのコト大切にして守ってくれてありがとな」

とりあえず礼を言っとく

「人質なので」

「あぁそう」

だった、香月にとってセリカは俺を手に入れる人質

香月はお喋りな奴じゃないから俺が話さないと結構沈黙になる

セリカはそんな香月との沈黙になんも苦痛はないみたいだが、多少条件の変わる俺にしたらちょっと辛い

「なんかさ…やっぱ魔族と人間じゃ合わないのかなって思っちゃった」

「種族が違うのだから当然の事」

「そりゃ…そうだケド…香月はイヤじゃないのかよ」

なんとも思わない感じない香月にちょっとムカつく

俺ばっか悩んでるのが、ムカつく…

「何が嫌なのですか」

ほらムカつく

「合わないってコトは敵対するってコトだろ!?」

「魔王と勇者…」

「だから当たり前って!?んなこたわかってんだよ!!」

なんで…わかってくれないんだ

なんで、俺はわからない

感情のない香月に俺と同じものを求めたって無理なコトわかってるのに

「そんなんじゃ…俺は香月のコト好きになれねぇわ…」

おかしいのは自分だってわかってる

今はちょっと不安定な時期なんだって知ってるから、でも止まらないんだよ

好きになったら…もっと苦しい

俺の言葉が気に入らなかったのか香月は俺の両手首を掴み抵抗できないように拘束する

元々ある力の強さでは非力で振りほどけないし敵わないかもしれないが、俺に拒否する思いがあれば香月が触れる手は目に見えて焼けただれていく

でも、そんなの気にしないとする香月は離しはしないし気に触ったコトを言った俺の口をキスで塞ぐ

香月の手が俺の拒否する勇者の力で溶け切るまで続いた

「………卑怯だ…」

完全に香月の手がなくなると俺は自由になった自分の手で香月の胸を押して突き放す

「卑怯…だって、ズルい…」

あ~俺もう自分がイヤ…なんか女々しいじゃん

弱いな~俺…涙も出てくるぅ…

香月は俺が泣いたって、その意味がわからないし

「貴方が勇者の力で私を拒むと言うなら、私は私の力を取り戻して貴方を力強くで手にするまで」

自分が満足できればいいんだ…

そんなトコ…嫌い……

やっぱ、合わねぇな

ちゃんと好きになるコトが大切なのに

わかってない、わからないよ魔王だもん

アイツも似たようなもんだが…バカ

「あぁ…!?それってレイから無理矢理力を返してもらうってコトか!?

その時にレイを殺すって言うなら…」

「素直に返すなら貴方に免じて殺しませんが、返さないなら…」

「そん時は殺し合いだな」

「一方的に貴方がやられてしまうのでは」

腹立つな~ホンマに

ちょっとそうかもって思ってる俺も情けないし!

「もう…帰る!!」

知らねぇわこんな奴!!バカ!

「帰る?人質を大人しく返すわけにはいかない」

それはセリカが戻るまで離さないと言われた

香月は手はなくても腕で俺の腰を引き寄せて逃さなかった

「うっ…嫌い……」

「私はセリが好きです」

なんも表情変えずに、言葉だけなのに

ちょっとドキッとしたのはなんでだ…

香月には俺のコトが好きと言う感情しかないから…他の感情がないから、だから

好きなら俺に合わせろ!とか思うケド、魔族の自我の強さはハンパないから合わせるのも変わるのも無理だ

俺はいつから不誠実に、他に好きな奴がいるのに…最悪

心の中でアイツとは終わったって思ってるから…ふらつくのかな

だからって香月を好きになるかはまた別の話なんだし!!

うぅ………なんとなく、香月がアイツに似てるから…


ー続くー2015/10/12

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