第56話『絶望も踏みにじられて』セリカ編

魔王城に慣れてきた頃、城内がいつもより騒がしいコトに気付く

廊下ですれ違う魔族の女性に「何かあったの?」と聞くと

「植物系のモンスターが大群で押し寄せてるとの事で…」

どうやら香月が不在の今、残る魔族達では厳しい数のモンスターが攻めて来るらしい

その時間は後30分ほどでってコトで余裕がない

「残ってる三馬鹿…じゃなかった四天王はいる?」

「キルラ様だけでございます!」

キルラだけか~、キルラって鳥のくせに肉弾戦で魔法も苦手で大勢を相手にするには向いてない戦闘スタイルなのよね

強いのは強いんだケド

キルラを単身突っ込ませた所で敵がこぼれるのは当たり前だし、そのおこぼれは誰が相手するんだ?

今残ってる魔族や魔物じゃ無理ね…

香月にはお世話になってるから、このまま城が落ちるのを黙って見ているわけにはいかないわ

私は慌てふためもうダメだと諦めかけている魔族女性を宥める

「落ち着いて、大丈夫

私がいるんだから負けるなんて絶対ありえないでしょ」

ふふふと笑う私を見た魔族女性は目をパチクリさせて驚いてる

そうね、みんなには私は人質と思われてるからそれに励まされるなんて変な話だよね

とにかく…やってみなきゃね

そうして私は城に残った者と一緒に魔王城の防衛をするコトになった


「セリカ様、あまり無理をなさらないでくださいませ

その綺麗な肌に傷でもついては…」

「楊蝉ってば私を誰だと思ってるの?」

魔王が人間であるべき今は魔族や魔物達に自己回復能力はない

だから私がそれを補って無敵にしてあげるんだもん

魔王城に植物系モンスターがたどり着くのは後10分

私は戦力を必要な分だけ考え正面門外に集合させた

残った人達は万が一で城内を守る為に

まっ敵は一匹一歩も入れないケドね

「怪我をするコトを恐れないで、みんなの傷は全て私が回復してあげる

楊蝉は持ち場にいて、キルラは私と行くよ!」

「あいよセリカ様!」

敵が来るまで待ってるなんて私はしないわ

待つのも待たされるのも待たすのも嫌いだもの

さっさと終わらせよ

だから、準備ができた私はキルラと一緒に先に大群に向かって走り出す

キルラをはじめ、とにかく力のある者を集めて少数で迎え討つ

私と言う後ろ盾がある傷も怪我も恐いものがない彼らなら充分やれるはず

何より植物系相手なら私の炎魔法はかなり有利で、回復だけじゃなく戦力になるのもいいでしょ

「うぇーーーい!!埋もれるくらいの敵の数でもセリカ様の回復魔法があるだけで、全員ぶっ殺せるってのが気持ちいい~~~!!あははははははははあはははは!!!!!」

1番敵からの攻撃を受け普通なら一瞬で蒸発するような状況の中なのにキルラは回復があるだけで無敵に次々と敵を一撃で蹴散らしていく

他の魔族も負けじと一匹も城に近付けまいと奮闘する

キルラ…楽しんで楽してるケド、戦いながら回復って結構大変なんだよ私

苦じゃないし、出来るコトだけど

気を使うし精神力だっていっぱい使うんだからね

勇者の剣がある私の遠距離範囲瞬間回復魔法は自動だと勘違いしてる人多いケド

私の回復魔法は視界に回復対象を入れなきゃいけないの(視界以外なら直接触れるコト)

いつでも周りの状況を確認把握する

「わっ…!?」

のに気を取られてるとたまに自分を疎かにしてしまうコトがある

自分が何処にいればいいのか、立ち位置や振る舞い方は自然とわかっていても

こうした埋もれるくらい混雑してると処理が追いつかないって勉強になりました

私は植物系モンスターのツルに足を取られ宙へ引き上げられ逆さまにされる

「セリカ様!セリカ様!?」

キルラ心配してくれてるのかと思ったら

「パンツ見えてます!めっちゃパンツ見えてますよ!?」

後で殺す

ドロワーズだからパンツじゃないし、恥ずかしくないもん!!

「もっと色気あるパンツはいてこいやぁ!!紐パンで事故起こすとかそれくらいサービスしやがれ!」

10回は殺す

炎魔法で簡単にモンスターの捕われから自分を解放する

が、運悪く勇者の剣をモンスターの大群の中に落としてしまった

「うわっ、ヤバイ…しまったなぁ~」

勇者の剣がないと範囲も遠距離も回復は使えなくなる

「…仕方ない!作戦変更!キルラ以外、みんな撤退ね!!」

「ちょっセリカ様!?」

キルラは誰よりもいち早く空に逃げやがった

後少しだったのに…失敗しちゃった

私は追いかけてくる植物系モンスターに背を向け逃げながら落ち込む

このままだと私の失敗で城が落ちちゃうかも…

どうしよう、どうすれば

いつもセリくんも離れた場所でみんなをまとめて的確な指示も出せて引っ張ってフォローまでできてるから

私も同じようにリーダーできるかもって変に調子乗っちゃって

って言うか、調子に乗ったらダメになるのも私達じゃない

やっぱり私バカだ…

みんなに大丈夫だなんて言い切って全然大丈夫なんかじゃない…

「セリカ」

前見て…走ってなかった…

私は腕を掴まれ、その足を止める

暗くなった落ち込んだ失敗もなかったかのように

その声で私を振り向かせるのは

「今日はいつものように言ってはくれないのですか」

香月の後ろには灰になって溶け消えていく植物系モンスターの姿が見える

一瞬だけ彫刻のような錯覚でも見せるかのように、全ての城を攻める形あった敵達は灰となって景色に消えた

「か、香月…帰ってきたの…」

間に合ったんだ、よかった、これでみんな大丈夫…よかった…よかったわ…

責任を感じていた私は香月のお蔭様で重荷がなくなったみたい

これからは調子に乗らないようにと自分が恥ずかしく思うのは残る

香月はなかなか私の手を離してくれない

「えっと…おかえりなさい香月…?」

少し微笑んで言うと香月は私から手を離す

当たったみたい…ううん、なんとなく香月がほしい言葉がわかった

香月が一瞬で片付けて終わったコトでみんなもぞろぞろと城の中へと戻っていく

私は香月の後ろをついて城の中に入った

空飛んでるキルラに石投げてから

お腹に穴が空いて悶えながら落下した

「そうセリカ、ケーキを買ってきました」

香月は私の目の前に可愛い箱に包まれたケーキを見せる

「わっ、ヤッタ嬉しい~」

中を見てみるとクラシックショコラやフルーツタルト、プリン、シュークリームなどがたくさん入ってる

甘いものは好きだケド、積極的に食べないしケーキのスポンジは味が嫌いスナック菓子は嫌いな私だった

でも、この世界のお菓子は別!

私の嫌いなスポンジは甘くてふわふわで時にはしっとりで変な味がしないの

今までお菓子食べなかった私なのに、この世界ではスッカリ普通の女の子みたいにスイーツ好きになった

だから、みんな私にはお菓子与えとけば良いみたいな感じになってる

間違ってはいない

「ありがとう香月、後で一緒に食べようよ」

「私は甘いものは…」

そう言っていつも私が幸せそうに食べてるのを見て満足なんだよ

レイならセリくんと半分こして一緒に食べてくれるのに…まいっか

香月は甘いもの苦手だケド、私が一口あげるとちゃんと食べてくれるから嬉しい

そんなこんなで私は香月に貰ったケーキを食べながら久しぶりにミクさんに貰ったオルゴールを眺めていた

その中の小さなミュージカルはあの時と同じ感動を呼び起こす

スゴイな…

歌って踊って演じる…見ててワクワクするドキドキする

ミクさんの演技好きだな、だってそこにちゃんと役が生きてるって感じがして

どんな役でも完璧に演じてしまうから、舞台上ではそれがミクさんであるコトを忘れてしまう素晴らしい女優さん

音楽の中で色んな役を演じるって楽しそうだよね

また観に行きたい

って、思ったりすると何かのフラグなんだろって思うのは私がアニメとか見すぎてるからかしら…

何も悪いコトがなければいいのだけれど…

は~あ~…私は音楽が大好きだけど歌もダメ、楽器も使えない

作曲もできない

イングヴェィは歌が上手で、レイは楽器が得意でさらに作曲まで出来る

2人とも天才、私の周りは音楽に愛されてる人が多いのね

いいな、羨ましいな…私も音楽に愛されたい

私ばっか音楽大好きで片想いだよ


数日後、三馬鹿が人間の一国を制圧しに行くと言うから私は同行するコトにした

「セリカ様がついてくるのはオレらの邪魔をされるんすかね~?」

「セリカ様もセリ様と同じ勇者ですからね~」

キルラとラナが何か言ってるケド答えない

世界征服がどんなものか実際の一歩を見たかったから

セリくんは勇者が嫌になったら魔王側にいこうかなって簡単に考えてる

私もその気持ちは変わらない

でも、現実実際にキルラ達のやってるコトを目の前にして果たしてそれを魔族だからと人間の心を持った私達が受け止められて受け入れるコトができるのだろうか

魔王と…香月と生きるって簡単なコトじゃないと思うの……

「キルラ達がいつもどんなコトしてるか気になるだけ

邪魔する気はないよ、私の気が変わらなきゃね」

「勇者の剣しっかり装備されてちゃ~変わる気満々にしか思えませんよ!!?」

ラナは私に手が出せないでも国を落とせなかったら香月からの評価が下がるとサンドイッチの心配で胃に穴が空きそうだ

「セリカはポップの大親友だもんね~!」

そんな覚えはない

友達とかめんどくさいだけだからいらないよ

「ポップ達の邪魔はしないよ~!ラナは気にしすぎなだけ!!」

「そーそー!いつもみたいに酒と金と女確保して、後は皆殺…」

キルラの発言に私は鋭い視線を向け言葉を失わせる

「女確保してどうするの」

「そりゃ…あれしかない…っすよ、アレ…」

空気の読めないキルラもさすがに私の雰囲気が尋常じゃないコトには気付いたみたいだ

「女も殺すのよ…残したら、皆殺しの意味ないじゃん」

「………あ、そっすね…」

小さくなるキルラに私は勇者の剣を強く抱きしめる

何私は禁止にしてるの、本来の魔族のやり方を見なきゃ意味がないのに

ちゃんと知らなきゃいけないのに、自分が嫌なコト禁止してそれから目を逸らすつもりか…

「いや、ウソ

キルラ達の好きにいつも通りにやってよ」

あくまで私は見てるだけ…助けはしないわ…

それでも、三馬鹿は私が気になっていつも通りとはいかなさそうだ


一国を滅ぼす…それは簡単なコトじゃないハズなのに、キルラ達だけであっと言う間の2日で制圧した

人間側は同盟国に要請をしても援軍が到着する前に終わってしまって、キルラ達の強さに持ちこたえられなかったの

「今日のオレ様は寛大なんで、皆殺しはやめて負けた奴らは全員奴隷として生かしといてやんよ!」

「よっ!キルラさん優しっす!さすがっす!」

「よかったね~人間さん達」

アハハと笑ってるのは魔族側だけで人間は絶望一色しかない

皆殺しにする時もあれば奴隷にして生かすほうが多いと聞く

決める基準はその時の魔族の気分

最近は戦う前から降伏する種族や国も少なくはなくて、この前は香月の所にエルフの一国の代表者が来てて

魔王に従う変わりに自分の国に手を出さないでくださいと言う約束を交わしていたのをたまたま見てた

私は目に見える真実しか信じない

噂は情報として頭に入れておくだけ

香月は、魔王は恐ろしいとみんなが口々に言うケド…私はその恐ろしさをまだ知らない

香月は私には優しいから、私だけに優しいって知ってるの

いや、本人は優しくしてる自覚はない

魔王は勇者を好きなコト以外の感情が一切ないから

嬉しいも悲しいも楽しいも苦しいも、何もかもがないの…

それでも香月が変化のわからない表情で嬉しいと笑う時があるのを私には…わかる

好きだから笑ってくれるって、わかるわ…

「あまりおもちゃにしたら可哀想よ」

キルラ達は後から来る香月を待つ間、人間をおもちゃにして遊んでいる

腕を引っ張り抜いたり、目玉をくり抜いたり…残酷にね…

「へいへい、セリカ様」

絶対聞いてない返事だわ

現実を知らなきゃ…見なきゃいけないと思って来たのに、やっぱりこういうのは見たくない…

私は目を伏せるようにキルラ達から離れるように城下町を歩き回る

じゃあ…戦えばいいのに、イヤなら戦えよ

私には戦う力も変える力もあるじゃないか

腰にある勇者の剣を手に取って視界に入れる

私は…セリくんの運命は魔王と戦うコト…

でも、香月と戦いたくない

だから少しでも知りたくて、ここに来た

魔族がどんなものなのか受け入れる為に…?

受け入れられるのか…?

「助け…て……」

色んなコトが頭の中を迷いとしてグルグル回っていると微かに女の人の声が聞こえる

か細い声…それに耳を傾ける先には崩れた家の瓦礫に挟まれた女の人の姿が目に入る

瓦礫の重さは致命的ではないけれど、女性1人では重くて動かせない

人気がなく誰もいなかった為に反射的に私は駆け寄ろうとしたケド、反対側から女性に気付いた人間の男性が彼女に近付く

私は身を隠して2人に気付かれないようにする

そうだ、今日の私は様子を見に来ただけなのだから

起きたコトに手を貸しちゃいけない

どんな結末になるのか、真実を知りたいの

それに…運良く人間の男性に見つけてもらったからあの女性は助か……る…ハズ

と思った、私は人の善意を心の隅では信じていた

でも、この光景に目を疑う

「いや…やめて、何をするの………!触らないで」

男は見動きできない女性に自分の醜い欲をぶつけては乱暴して犯す

なんて…コトを…

時が止まるかのように息が詰まり瞬き出来ない

その光景に

見たくない、知りたくない

心臓が壊されるような…この感覚…苦しい…

思い出すの…まるで、私を見ているみたいで

気持ち悪いの一言しかなくて、嫌で嫌でたまらない

足が動かない息が出来ない…恐いの、助けてほしいの

「嫌なら、戦えよ…今の自分にはその力があるだろ…」

口からこぼれ落ちるのは、私の心を無理矢理に引っ張り出す

そうだよ、私は人間が大嫌いだった

人間を傷付けるのは人間だから…

殺したい…私は

剣を引き抜いて、私に気付かない男の首を背後から切り落とす

「汚いな…」

頭のなくなった男の身体を蹴り飛ばし、瓦礫に挟まった女の人の身体を自由にする

立って…貴女はもう自由なの、助かったの

さあ、決めてよ…貴女のこれからの行き先を

「助けて…」

貴女を乱暴していた男は殺してあげたのに、女の人は私にそう言ってしがみつく

その表情はきっと私も何度もしてきた

見えない自分の顔でも、わかった…

だって、痛いほど苦しいほどわかるんだもの

はじめてセリくんを、自分を受け入れた時に見たわ

自分がいつもどんな顔をしていたか、自分がどんな心だったか願いだったか

でも、誰も私を助けてくれはしなかったでしょ

私は違う…私は

「大丈夫…助けて…あげる

今の私にはそれができるから…」

私は剣を振り上げて彼女の命を斬ってあげた

願いを叶えてあげたの

私をここから救ってよ…それが死でも構わないから…

苦しむコトなく私の足元に崩れ落ちる彼女の顔は見えない

殺したい…殺してほしい

汚く醜い私を

だから、私は彼女を殺したの

彼女も私と同じ気持ちだと決めつけたから

こんなの、生きてたってずっと死ぬより苦しいものがつきまとうんだよ!?

嫌だよ!生きるなんて!

誰も救ってくれない助けてくれない守ってくれない

死しか救ってくれないよ…

「なのに、自分では死ねないの…」

勇者の剣を自分の胸に突き刺す

どんなに深く突き刺しても、私は回復魔法で自分を生かしてる

死ぬのが恐いから…それが人間の本能なんでしょ

縛られて縛られて…いつまで、私は苦しみに悲しみに憎しみに支配されるのか

「セリカ、服を汚すなんて貴女らしくないですね」

いつの間にかここに到着して私を見つけた香月は私の手を掴んで勇者の剣を私の胸から引き抜く

「香月…私、間違ってないよね?

この人は死ぬコトを望んでたよね…?

苦しみから救うには殺すしかないと思うの…」

感情のない香月に答えを求めても意味がないとわかっていながらも聞いてしまう

「人間なんて嫌い…大嫌い」

なんであんなコトが出来るんだ…

香月は私を抱き寄せて静かに聞いてくれる

「私も嫌い…私…汚いの…とっても醜いの…」

でも私は誰かに触れられるのが無理で香月から離れる

心が落ち着けない

次から次へと私を殺すかのように過去の記憶が襲ってくる

やめて、やめてよ、と叫んでも逃げても

過去は消えない

事実はなくならない

なんでだよ…なんで…

大変な時にこんなコトするんだ

あの女性は瓦礫に挟まって怪我して、さらにいつ魔族に見つかって殺されるかわからない恐怖と誰もいない心細さに絶望しかなくて

やって同じ人間が自分を見付けてくれて助かったと一瞬でも安堵しただろう

なのに、それを踏みにじるようなコトして、今でもいっぱいいっぱいの不幸を抱えているのに

追い打ちをかけるように傷付けて…不幸にするなんて……

おかしいよ、許せないよ

だから…人間が嫌いなんじゃないか私は

勝手に期待して信じるほうが悪いって言うなら…

私は…そんな考えの奴らとは合わない

こんな不幸なコトは認めないわ…

「セリカ…」

私は不安定な自分を見られたくなくて、黙って香月の前から姿を消す


今日は魔族もみんなここに泊まるって話になってるから、私はあてられた城の一室にこもる

眠れば少しはマシになるかもと思ったケド、全然眠れない

頭の中は襲いかかる過去の悪夢を消し去るように

誰か助けて…と心の声で塗りつぶす

そんな時、良い香りがして…目を向けるとドアを開けて私を見る人と目が合う

「応援には間に合わなかったケド、君の匂いがしたから見つけちゃった…」

いつものイングヴェィの太陽みたいな笑顔は少し曇っている

「イングヴェィ…」

それは私が苦しんでるから笑えないんだってわかった

イングヴェィは私の傍へ少しずつ近付く

「どうしたの、セリカちゃん…そんな顔して…心が君の笑顔を奪ってる」

私のコトならなんでもわかるってのはウソじゃないみたい

「触らないで…私、汚いから…」

イングヴェィが私の頬に触れようとしたから私は身を引く

「前にも言ったケド、君は汚くなんかないよ」

「そんなのイングヴェィはわかってないだけだ!!

私のコトは私が1番よくわかってる

他人には見えなくても私の身体は酷く醜くて汚いの!!」

見えるワケないじゃん…他人には

私じゃないんだから

いつまでも残ってるんだよ気持ち悪い感触…感覚…匂い…味…

私の全てが汚いの

綺麗な所なんて、1つもないわ…

「帰って…」

「帰らないよ

苦しんでる君を1人にしたくない」

真っ直ぐな瞳はウソをついていないとわかるのに…私は信じるコトができなかった

「…みんな言うわ

私の綺麗な容姿、一度は触れてみたい穢してみたいんだって

それじゃ、イングヴェィも私で満足したら帰る?

いまさら…私はそういうの平気だから、好きにしたらいいよ」

貴方から視線を逸らす

「セリカちゃんウソついてる…平気なんて絶対ウソだもん

なんで…そんなコト言わないで…

君が苦しいと俺も苦しいの、傷付けたくないよ

信じられないなら、君が疑うなら

何度だって同じコトを言ってあげる

俺はセリカちゃんが大好きだから愛してるから…」

イングヴェィはその後の言葉は続けなかった

それは、どうしたら私を救えるのか助けられるのか守れるのか考えて…考えてくれてるからだとわかったから

「好きって…わからないよ」

わからない…でも、イングヴェィの愛に触れると私の心が動かされるような気がするの

「今はわからなくても、いつかわかるから大丈夫」

ニッコリとイングヴェィは太陽の笑顔で私の頭を撫でてくれる

私はその手を掴んで自分の胸に押し付けた

他人に触られる感覚…やっぱりイヤだ

「セリカちゃん!?」

イングヴェィは驚き顔を真っ赤にして私から手を離す

「試してるの、口だけの男なのかどうか」

「これも前に言ったケド!

俺だって、そういう気持ちはあるんだから…

でも…セリカちゃんが嫌がるコトはしないから安心して」

「しないからじゃなくて、はじめてだから出来ないヘタレの間違いじゃ」

「セリカちゃん…可愛いからってなんでも言っちゃいけないよ?」

怒ってないケド、イングヴェィは悪い子と私を抱きしめて叱った

……イングヴェィ…私に何もしない

暫く一緒に暮らしてたのに、いつも大切にしてくれてた

そんなコトも忘れてた…

「私が…汚くても…いいの?」

本当はわかってたのかもしれない

イングヴェィは私を傷付けないって

でも、私が穢い身体なのを知らないから

知られたら…愛されないと思ったから、恐かった

好きかどうかなんてわからなくても…私はイングヴェィに汚いと言われるコトが恐かったの

「俺はそうは思わないケド、セリカちゃんがそう言うなら…俺はどんなセリカちゃんでも変わらず大好きだよ」

「イングヴェィ…きっと、わかってないわ

嫌じゃないの?他の男達に…」

「嫌だよ…嫌に決まってるよ」

イングヴェィは震える声で、私を抱きしめる腕に力を込める

貴方の顔が見えない…

「君を穢した奴ら傷付けた奴ら壊した奴ら、全員殺したいよ!?許せないよ…

でも、1番許せないのはもっと早くに君を見つけられなかった俺自身

今も…前世でも…俺は間に合ってなんかいない」

私より苦しむの?どうして、そこまで

苦しいのはイヤでしょ

私を好きにならなきゃいいのに…

「私の話全部聞いたら、さすがのイングヴェィも嫌になるよ」

「セリカちゃんはそう簡単に俺を信じてくれないみたい

当たり前だよね、未来の結果なんて誰にもわからないんだもん

俺がどんなに言葉で伝えてもわからないコト…

君のコトはなんでもわかってるつもりだケド、いつか君が君のコトを話したくなったら

いつでも聞くから、いつでも言ってね…」

今は話したくない私の気持ちがわかるイングヴェィは無理に聞こうとしない

私は…言えばイングヴェィに嫌われると思ってる

私を好きにならなければイングヴェィは苦しまないとわかっているのに

なんで言えないの…本当は自分でハッキリわかってなくても、イングヴェィに嫌われるのが恐くて不安なんだ…

運命の人だから…?わからなくても惹かれるの…?

「うん…いつか…」

私は抱きしめ返すコトがないのに、イングヴェィの体温のない冷たい腕と胸も…その中はとっても温かくて

落ち着く…安心するの

パニックになって自分を見失うくらい人間を憎むコトがあっても、消えていく今だけこの瞬間だけ

「うん!いつでも待ってるね!

あっ、後もうそろそろ俺の所へ帰ってきてくれる気になった?」

イングヴェィは腕の力を緩めて私の顔を覗き込む

「まだイヤ」

「うっ…ハッキリ言われてショック…」

素直に自分の感情が表情に出るイングヴェィは本当に傷付いた顔をする

でもすぐに笑ってくれる…私がその笑顔好きだって知ってるからなのか、ただ単純にイングヴェィは私を目の前にしてるからなのか…

「まだってコトはいつかは戻ってきてくれるってコトだよね」

何も考えずに出た言葉なんだケド、イングヴェィは超ポジティブに受け取る

「気が向いたらね…今日は…ありがとう……」

私はお礼を小さな声で伝える

なんか恥ずかしいから!

「ううん、いつも君のピンチを察して…駆け付けられたらいいのにって思うの

それが出来たら…どんなにいいか」

そんな風に言われるのも思われるのも初めてだな

イングヴェィの申し訳なさそうに私の手を繋ぐ手は冷たく、でも想いが伝わるようでそれが今のイングヴェィの願いなんだってわかる

願い…私のコトを想う純粋な心、だから狂わせてるんだってのもわかってるわ

私は自分のコトでいっぱいいっぱいなのに…な


ー続くー2015/10/04

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