第58話『ふたつの音楽と惚れ薬』セリカ編

ポップの強引さにうんざりしていた私はセリくんと交代してロックと一緒にセレンの神殿に帰ってきた

誰も私の女の姿に疑問を持つコトなく、勇者様だのセリ様だのとおかえりしてくれる

とりあえず私は自分の部屋に着くとセリくんの服に着替えて、胸はさらしで潰して隠す

これちょっと苦しい…と感じたが回復魔法の痛みを感じさせないのと同じで苦しいのも気にならなくなる

そして、都合良くあるセリくんと同じウイッグを使って見た目を完璧に彼にした

「うん、いいじゃん」

どっからどう見ても私はセリくんだし、セリくんって本当可愛い超可愛い!もう大好き!(ナルシスト)

「あれ、セリ?帰っていたのかい?」

鏡で自分の姿を確認しているとレイが部屋に入ってくる

そういえば、セリくんはセレンの策略でレイと同室だったね

1人でくつろぐってのは出来ないのか、まいっか

「うん」

とにかく自然にいつも通りよ

レイは私を見て少し眉を寄せては、いつもと何かが違うと感じているみたいだ

「セリ…いつもはもう少しお尻が小さかったはずなんだが…」

おもいっきり蹴った

黙れよバカおい!男と女じゃお尻の大きさが違うだけで決して私がお尻大きいとかじゃないんだから!!……ないんだから…

「それセクハラだろ!」

「な、えっ…なんか、すまない…」

レイはなんで私が怒ったのかわからないケドとりあえず謝る

レイはセリくんとして接してるんだろうケド、女の子にそう言うのはセクハラなの!

怒らせたとわかったレイは私にクッキーを渡して機嫌を取った

わ~このクッキー、超美味しいやつじゃん

さすがセリくんの大親友レイ、なんでもわかってるわね

美味しいって笑顔で食べると私を見るレイも嬉しそうに微笑んだ

大親友と言うよりまるでペットのよう

おやつあげてお世話して可愛がって、もうペットじゃん

でも…いいな、セリくんはレイのコト大親友って思ってる

レイもセリくんを大親友として大切にしてる

(いや…過保護にしすぎて甘やかして姫扱いで、どう見ても付き合ってるレベルで仲良しなのは見てておかしいが)

私にはそんなのないから羨ましい…

ポップは私と親友になりたがってるケド…正直合わなくて…蛇は恐いし……

ポップの部屋にたくさんある壺の中に大量の蛇が詰まってうごめいてたのはもう最上級のトラウマ

可哀想だケドさ…合わなきゃ、親友にはなれないよ

親友とか友達って、その言葉を使って結びつけて作るものじゃないもの

私にもほしい時期がありました

でも、今はいいや…

セリくんと私は一緒だけど、周りは一緒じゃないから

私がレイほどの大親友には出会えないってわかってる

別にいなくても不便なコトないしね

寂しいって思ってたのも若かりし頃の私だっただけだもん(数ヶ月前くらいまで)

「今日は久しぶりに外食でもどうだい?

セリが好きそうな雰囲気の店を見つけたんだ

もちろん、料理も美味いと評判が良い

実はもう1番良い席を予約しているんだが」

「えっ何カップルみたいな会話してんの?」

「どうしたんだセリ!?今日は少しおかしいぞ!?」

おかしいのは普段のアンタらで、私は至って普通だよ

セリくんはなんも考えずにレイに甘えまくってるケド、条件の違う私だとそうはいかない

今はセリくんとしてここにいるとしても、レイが私に恋愛感情を持ってると知っているから変に身構えてしまうの

「美味しいデザートも用意させたし、その後はセリの好きなクラシックのコンサートも予約して

何が気に入らないと言うのかい?」

みんなが付き合ってるって言ってる意味がわかったような気がする!?

大親友の付き合い方を超えてるだろ!?

いやいいよ別に、人それぞれね、友情のあり方ってねあるだろうからね、うん

しかしスゲーなちょっと恐いもん

ううん…スゴイよ…レイは本当にスゴイ

セリくんを私としては決して見ないから

だから…嬉しいの

ちゃんとセリくんを大親友として接してくれるコトが、嬉しいな

接し方はおかしいケド、本人達が良いなら何も言うまい…

「悪ぃ悪ぃ、ちょっとふざけただけ」

レイは私が変なものでも食べたと慌てて心配するから、私は微笑んでレイを落ち着かせる

「そ、そうかい……今日は調子が狂うな」

あれ、なんかレイの顔が赤いような

「まだ時間ある?

風呂入ってから着替えよっかなって」

セリくんの服に着替えたばっかだけどこれ部屋着だし、外食するならちゃんとオシャレしなきゃ!

魔王城からここに来るまでまともに風呂入ってないから綺麗にしたい

「そう言うと思って、時間はあるから風呂に入ってきな」

さすがレイ、さすがすぎるぜ!

私はタオルと着替えを持ってバスルームに入る

お風呂好き~、お風呂に入るのを楽しみにしながら服を脱いでいると

「そうだセリ、来週なんだが…」

急に何かを思い出して伝えようとするレイにドアを開けられてしまった

が、すぐにドアを閉められて見なかったコトにされた

「今日疲れてるのかな…オレ……」

私の裸を見てドアの向こうでそれは幻覚だとレイは自分に言い聞かせてるようだった

私はと言うと、とくに何も気にしなかった

いまさらこの身体を他人に見られたからと言って恥じらうコトもない

隠すほど…美しいものではないから…

いや、さすがに全裸で街中を歩けとかは無理だけど

服を着る人であればそれは普通に恥ずかしいでしょ誰だって!?

まっレイは私をセリくんと思い込んでくれるからほっといてもいいな

最後にパンツを脱いでカゴに入れようとした時、ドアの向こうで新しい声が響く

「セリくん、こんばんは!近くまで来たから顔を見に来たよ…ってあれ?」

「帰ってください」

「えーレイくん意地悪~、そんなんじゃセリカちゃんに嫌われちゃうよ?」

「あんたにだけは言われたくない」

イングヴェィ来たんだ…

でも、もう服脱いじゃったし顔見せなくてもいっかな

って考えてたら、イングヴェィに私がいるって気付かれて

「あっ…違う…セリくんじゃない

俺が間違えるハズないもん、嬉しいなっ

こんな所で会えるなんてセリカちゃ…!」

イングヴェィは私のいる場所がバスルームだとも気付かずにドアを開けて固まる

「「……………。」」

固まったのはイングヴェィだけじゃない

目に映るイングヴェィはみるみる顔を赤くしていって、それは私も同じだった

わかんない…わかんないよ

私はこの瞬間、死ぬほど恥ずかしいと思って

「いやっ見ないで!!」

自分の身体を隠すようにしゃがみ込む

私の声で止まった時間を取り戻したイングヴェィは慌ててドアを閉めてくれる

「ご、ゴメンね!!セリカちゃんがいるってわかったら早く会いたくて、何も確認しないで…

最低だよね…ゴメンね……」

私を傷付けたんじゃないかってイングヴェィから申し訳ない強い想いが伝わる

違う…私は傷付いたんじゃない

ただ…単純に恥ずかしかっただけで、驚いて…

最初はイングヴェィの目の前で着替えるのも恥ずかしくなかったのに

なんでだ…運命の人だから?

恥ずかしいって…思うなんて、ないと思ってたのに

私の意志なんて無視で運命に引きずられるみたい…

「セリ?どうしたんだ?イングヴェィを追い出すなんて喧嘩でもしてたのかい?」

レイはドア越しに心配してくれる

こんなの…私がイングヴェィのコト好きみたい

好きなんて、わかんないのに…

「なんでもない

喧嘩もしてない…だから大丈夫

夕食、美味しいの楽しみにしてるからな!」

そうそんなコトよりお腹が空いた私はさっさと身体を洗ってご飯が食べたかった


レイが予約したお店に行くのをイングヴェィは自分も一緒にと着いてきた

「2人分しか予約していません」

一応年上であるイングヴェィには敬語を使うレイ

トゲトゲ付きだケド

「大丈夫大丈夫」

「何が大丈夫なんだ…」

イングヴェィは私がセリくんじゃないってわかってるケド、レイにも誰にも黙っててくれた

いや…ただ単に言いたくないだけかも

「だって、セリカちゃんをレイくんと2人っきりにさせたくないんだもん

レイくんが今の君をセリくんだと思っててもね」

イングヴェィはレイに聞こえないように私の顔に近付いて話す

「香月とはいつも2人っきりだよ」

「香月くんは俺からセリカちゃんを奪ったりしないからね」

よくわかってるね

ってか、イングヴェィの私じゃないケド

なんか…ドキドキする?イングヴェィが傍にいると…気のせいよ

運命の人…

じゃあ、レイはイングヴェィに敵わないの?

運命ってだけで負けるの…?

それは…なんだか可哀想な気がする

………私の知ったこっちゃないが

レイの言う通りお店の雰囲気は私好みだった

大聖堂をイメージした綺麗で淡い明かりが落ち着く本当に素敵で…周りはカップルばっかりだった

レイ…イングヴェィがいなかったら、こんな場所にセリくんと2人で来たのか…

そうして自然とカップルに溶け込むんだろうな…

2名で予約してて空席がなかったケド、イングヴェィの魅了の力でお店側は2名席を3名席に変えて用意してくれる

そうして、なんやかんやお喋りしながら美味しい夕食の時間を楽しんだ

「美味しかった~」

「ね~、人間の料理は本当に美味しいよ」

お腹がいっぱいになって眠くなってきちゃったな

でもこの後はレイがクラシックコンサートのチケットを取ってくれてるんだっけ

クラシックは大好きだけど、寝ちゃいそうだな

「この後のコンサートはチケットが2枚しかない

イングヴェィさんはここでお別れと言う事で」

レイ、めっちゃ嬉しそうな顔してる

負けじとイングヴェィは微笑んでまた大丈夫大丈夫と押し返す

イングヴェィの大丈夫って自信はどっから来てるんだろうか…

運が強いラッキーさんってイメージはあるケド、そのラッキーがドコまで続くか

街で1番広くて有名なコンサートホールはお客さんが続々と入って行く

ここの雰囲気も好き~、レイは本当にセリくんの好みがわかってるな~

優雅で綺麗で上品で……

「なんだって!?」

ん?コンサートホールの入口の近くまでやってくると、ここの関係者らしき人が真っ青な顔して卒倒しそうになっている

なんか大変そうだケド話が勝手に耳に入ってきた

どうやらこれから始まるコンサートのピアノ演奏者と歌手が急に酷い腹痛で動けないらしい

大変だ大変だと騒ぐ関係者達が私達に気付き、ピタリと動きを止める

その顔はまさに都合良く音楽の天才、救世主がその辺に転がってた時の表情だった

「これはもう~プラチナのイングヴェィ様と勇者様の騎士レイ様」

私はとくに何もなかった

何この疎外感

音楽に愛されてる奴らが羨ましい!!

音楽に愛された、歌のイングヴェィと曲のレイは有無を言わさずに

「私達を助けてください!」

と連れて行かれてしまう

「な~に?俺が歌うの?

セリカちゃんが音楽大好きだから喜んでたケド、レイくんも一緒で大丈夫なの?

ピアノって難しいんだケドな~」

「オレの音に腰抜かしても知りませんから、そっちこそカラオケじゃないって事わかっているのか?」

お互いの実力を知らない2人はお互いを見下してしまっている…

だ、大丈夫だろうか…あの2人は音楽に愛された天才同士だけど、その険悪でお互いの良さを潰し合ったりしないかな…心配だわ

私は心配を胸に持ったままレイが取ってくれた席へと向かう

やっぱりコンサートでも1番良い席で高かったんだろうなとわかる

どんだけセリくんのコト好きなの!?

大切にされてるな~

さてさて…始まる…音楽の世界が光とともにやってくる

普通に楽しみたいケド、私はイングヴェィとレイが心配でハラハラしてるの

素敵な音楽を…潰してしまわないか…

あっ出てきた

なんか知り合いが舞台にいるって変な感じだしテンション上がるな

頑張って2人ともって私は拍手で伝える

私に気付いたイングヴェィが太陽みたいな笑顔を向けレイは爽やかな笑顔を見せては手を振ってくる

恥ずかしいからやめて!授業参観じゃないんだよ!?

もうこっち見てないで集中しろ緊張ってもんがないのか

拍手が終わって数秒の静けさの後、私はすぐに最初から心を奪われるコトになる

音が響く…高く深く、美しく気高く上品に華麗に

聴く人々全ての心を虜にする音楽を…目にするの

2人が険悪だからなんて心配なんてカケラもいらなかった

イングヴェィの歌もレイのピアノの音も、お互いを潰すコトも置き去りにするコトもなく

綺麗に繋がる…言葉に出来ないくらい完璧な素敵な音楽

他の人達の音もイングヴェィとレイが上手に拾って一緒に生きて輝いてる

今までに聴いたコトのない音楽

私は別々に聴いていたイングヴェィの歌にもレイの曲にも感動したよ

でも、2人が1つの音楽にすると言うなら

私の心はえぐれるほど奪われてしまう

素敵な音楽は私に愛を知らせる

好きって今ならわかるの

私が音楽を大好きだって気持ちは永遠に失わない

なんか、音楽を聴いていると明るくなったり元気になったりするケド

今はそれだけじゃないよ

懐かしいような、本当の私がわかるような気がする…

素敵な…音楽…私の命の水だわ……

たくさんこの胸に溢れる感じるコトを言葉にしたいのに、なんて言えばいいのかわからない…

そうして私はあっという間に過ぎ去った時間にいつまでも気付かずに感動で涙を止めるコトが出来なかった

「セリカちゃん」「セリ」

公演が終わったイングヴェィとレイが私の席まで迎えに来てくれる

「あぁ、そんなに泣いたら目が腫れてしまうのに」

号泣してる私をレイはいつもと変わらず抱き寄せて落ち着かせるように頭を撫でてくれる

「だって…すっごくよかったんだもん……」

素敵な音楽、私の心を奪って連れ去ってしまう

現実から美しい世界に

そこには憎しみも苦しみも悲しみもない幸せな場所

「セリカちゃんの為ならいつでも歌ってあげるからね」

イングヴェィはレイから私を引き離して抱きしめる

それが気に入らないのかレイはもう一度私を引き戻す

そしてまたイングヴェィが…っておもちゃの取り合いみたいにするのやめろよ!?

私は2人の間に立って、2人の手を取って握る

「イングヴェィもレイも素敵だった

最高だよ、大好き…」

シャレた感想なんて言えないケド、私の心に残った強い気持ちは本物だから

私が笑顔で言うと2人の顔が目に見えて赤くなる

イングヴェィは私だってわかってるケド…レイはあまりやりすぎるとその道に目覚めさせてしまいそうだな

「セリ…今日はやっぱり調子が狂う…」

「嬉しいな~!君に喜んでもらえて…セリカちゃんのその笑顔大好きだよ」

私が手を離すとイングヴェィとレイはお互いを見るの、認めるの

「レイくんのピアノ、素直に凄かったね

あんな音色聴いたコトないもん

何百年も生きてて始めて感動しちゃった」

「イングヴェィさんはさすが人外で人間にないものを持っているのに

人外だから特別と言うわけではない本物だった」

ふふふ、2人が仲良くなったみたいで嬉しいな

「今度はオレの作った曲も歌ってほしい」

「レイくんの音楽には触れたいと思ったから、そう言ってもらえて嬉しいよ」

もうずっと険悪だと思ってたから2人が笑い合える日が来るなんて

「2人とも仲良くなってよかった」

「ううん、仲良くはなってないよ

レイくんの音楽は好きだケド~レイくんはキラーイ♪」

「お互いの音楽を認めただけで、オレはこの人の事は良く思えないな」

…なかった

それとこれとは別と言い切る2人は、やっぱり永遠のライバルなんですね

まっ、仕方ないか…同じ人を好きになって仲良くするなんて現実は難しいよね

おっと、落ち着いたら眠気であくびが…

「そろそろ帰ろうかセリ、最近は寒くなってきたから温かくして寝ないといけないな」

「うん…」

早く帰って寝る…眠いと頭が回らないし無理して起きてると余裕がなくなるもん

「うん今夜は俺も泊まるね、レイくんは廊下で寝て」

「いや帰ってください」

眠かった私はこの後のイングヴェィとレイの言い合いが記憶にないまま、気付いたら朝になっている


「おはよ~」

って誰もいないじゃん

朝の明るい光がカーテンから漏れている今日も良い天気だな

顔を洗ったり着替えたりしていると、レイが部屋に帰ってきた

「あれ、イングヴェィは?」

「おはようセリ、イングヴェィなら急用だと呼び戻されて帰ったぞ」

ふ〜ん、そうなんだ

きっとイングヴェィは私に伝えたいコトたくさんあったんだろうケド、私が寝てたから起こさないようにと気を遣って黙って帰ったんだね

書き置きしても私はイングヴェィの文字が読めないから…

「寂しいかい?」

「ううん…普通」

香月の所にいる時だってイングヴェィとはあまり会ってなかったし、寂しくはないよ

「そんな顔してる

イングヴェィとセリはそんなに仲が良かったか?と思うくらい」

それはイングヴェィが私の運命の人だから勝手に出てるだけなのかも

このまま普通にいけば、好きになって恋に落ちて…そんな運命が私を待ってると言うの

レイの言葉に何も答えない私を待つような沈黙がやってくる

その沈黙を壊したのはまったく別の人物セレンだった

「セリ様!レイ様!お使いを頼まれてくださいましな!」

何かを期待しているかのようにノックもなしに突撃して来るのは見なくてもセレンかネクスト辺りだってわかるわ

私はここにいなくても、セリくんの私はなんでもわかってるんだもん

「とくに用はないからいいケド」

ノックなしで何かを見られたかもしれない、でも何も見れなかったコトにセレンは舌打ちする

何!?この人が女神で本当にいいの!?

「ありがたいですわ!このメモに書いてありますの、それではよろしく頼みますわ」

わかったと受け取るとセレンはおほほほほと部屋から出て行く

渡されたお使いのメモを見てみると私の読める文字で書かれていて、レイは私の知る文字が読めなくて音読してあげる

え~っとなになに…

「広場の噴水前で待ち合わせ

ちょっと遅れて「ごめーん待った?」「いや今来た所だから気にするな」と言うやり取りをする」

えっ…何これ?

「予約していたお店で昼食をとる

1つのドリンクに2つのストローを入れて一緒に飲む」

なんだよこれ!?

その後も遊園地に行く

お揃いの被り物を身につける、こわ~いゴーストハウスで密着、夜は観覧車に乗って良い雰囲気になるとか書かれている

なるかボケ!!!ふざけんなアホか!

お使いじゃなくてあのクソ腐れ女の妄想メモじゃねぇか!?

観覧車の後も色々書かれていたが、過激すぎてムカついて最後まで読まずに細かく破り炎魔法で燃やしてなかったコトにした

「セリ、どうしたんだい?一体何が書かれていたんだ…」

「いつもの嫌がらせだ気にするな」

セリくんがこんな嫌がらせにいつも合ってたなんて私知らなかった…

嫌がらせで間違いない…

でも、さっきのメモに書かれていた内容は恋人同士なら普通にありえ………ねぇわ

あんなベタベタなカップル今時いねぇだろ

とにかく…まぁ、恋人とデートして楽しいってのは普通にありえる話で

なんだかあのメモは私とは別の世界の話なんだって感じて寂しくなっちゃったな…

好きってどんな感じなの…

気持ちってよくわからない

「そうかいそうだなセリ、久しぶりに気分転換に何処か遊びに行かないか?」

「本当!?じゃあディッフィーに会いに行きたい!」

ディッフィーとはこの国の巨大テーマパークの人気ナンバーワンキャラクターで超可愛いウサギさんなの!

初期は全裸で服も着せてもらえなかったのに、人気が出ると服はもちろん彼女まで手に入れたスゴイ奴

私はディッフィーランド始めてだケド、セリくんは何度か行ったコトがあるみたいで羨ましい

ディッフィーのお土産を送ってくれてて

でも私もディッフィー見たいし遊んでみたい

「行こうか」

レイは楽しみにする私の頭を撫でながら爽やかに笑う

何も考えずに言ったケド、結果的にセレンの妄想メモのようになってしまうコトに後で気付く


可愛いウサギのディッフィーに会うのをワクワクしながら向かう途中、少し狭く薄暗い路上で綺麗な色で光る物を並べてるお店に足を止める

「見てレイ、これ綺麗」

よく見ると小瓶の中に入ってるピンク色の液体が光ってるんだ

ジュースかな?甘そう

「身体に悪そうな飲み物だな、駄目だ」

私がほしいと言う前にレイは首を横に振り私の手を掴み行くぞと引っ張る

「でも…部屋に飾るだけならいいでしょ?」

インテリアの1つなら綺麗だよ暗闇でも光るのってなんか楽しくないか!?

残念だなと思っていたらお店の人が商品の説明をはじめるとレイは目にも止まらない速さで反応する

「この商品は惚れ薬…」

「全て買います」

さっきまでの関わらないって態度はドコへ行った!?

おいおい、惚れ薬ってありえないだろ…

「レイってば!身体に悪いものを好きな人に飲ませるの!?」

「身体に悪いかどうかはまだわからないじゃないか

まずは詳しい話を聞こうオヤジ」

どうしよう…レイ絶対騙されてる

高い壺とか買わされるタイプだぞ…

惚れ薬なんて現実に存在するワケないのに、偽物だよ

笑うトコだろこれ

「全部を買う必要はない少年よ

これひとつで想い人は永遠に身も心も少年のものじゃ」

アホくせー、そんな都合の良い話があるかよ

こんな薬1つで他人の心が思い通りになるなら世界は狂ってるっての

「なるほど」

真剣に聞いてるし…

「例え、運命の相手でなくても確実に手に入れられるのだぞ

ひとつ一億円じゃ」

ぼったもええとこじゃねぇかこのクソオヤジ!!?

「買います」

オマエもそれで買うのかよ!?どんだけ必死なんだって言うか一億ぽんっと出せるくらい稼いでるレイが恐えーよ

「おいレイ!騙されてるって、やめろよ!

そんなの偽物に決まってるぜ

効果がなくてもどうせ返品出来ないんだろ!?

金の無駄だからやめとけって!」

「効果がなかった時は全額返金しよう」

「いい度胸じゃねぇか詐欺師野郎…」

私は惚れ薬なんて信じねぇ…そんなもんで他人の心を好きにできるなんてコトありえない

許せないんだ

レイは運命と言う言葉に弱い、コンプレックスみたいなもんだ

その弱い部分を狙ってせこい商売する腐った根性が気に入らないんだよ!

このオヤジ…そんな都合良い話で何人から大金を騙し取ったんだ

詐欺で豚箱にぶち込んでやるから覚悟しろよ

「何をそんなに怒ってるんだ」

「レイがバカみたいに騙されてるからだろ」

「騙されているかどうかは試してもいないのにわからないじゃないか」

た、確かに…万が一本物だった場合は詐欺ではないし…

いいや…詐欺のほうが幸せだ

こんな小瓶1つで人の心を操るなんてあってはならない…

使う本人はそれで幸せかもしれないが、使われた相手の本当の気持ちは…それを消し去って心を奪って、それでいいのか…レイ

「レイ、そんなせこい方法で好きな女を手に入れて幸せなのかよ

それで…いいの………?」

もっと大人になって、レイは私より年下でもずっとずっと賢い奴だろ

「随分と他人事のように言うんだな…」

「…はっ?」

レイは私のウイッグを掴み引っ張り外す

その一瞬でセリくんの姿から私へと戻ってしまう

たったそれだけの単純なコトで…

レイの目の前に立っていたセリくんが私へと変わる

「セリカはオレが気付いていないと思っていたようだが、ちゃんと気付いていたぞ」

「そう…」

いつから気付いてたのかわからないけれど

「何もわかっていない

どれだけオレが運命を恐れているか

運命と言うだけで、好きな女を他人に奪われるなんて…納得出来ないじゃないか」

レイの気持ちなんてわからない…

好きって、そんなに必死なものでどんな手を使ってでも手に入れたいものなのか…

正しいコトだけでは語れない話なんだ

「それは…可哀想だとは思ったケド、でも…だからって…惚れ薬なんて私は信じない

こんなんで、人の心を奪うなんて」

そんなもので私の心が変化するワケない

そんなもので他人を思い通りなんてあってはいけないコトよ…

「そう思うなら…確かめてみればいいじゃないか」

レイが惚れ薬を差し出す前にいるのは私

レイは私のコトが好き…

きっと私にはレイの気持ちがわからない

本気で誰かを好きになったコトがないから恋に落ちてないから愛してないから

目の前の気持ちを少しでも知ったなら、私は惚れ薬の存在を否定出来る?

好きな人に愛されたい…片思いは苦しい

他の人に奪われるのは悲しい

辛いの…他人にはわからないくらい…の気持ち

突き付けられる惚れ薬は罠でしかない

挑発に乗って受け取れば、それはもうレイの思い通りだろう

それでも私は…

「こんなもので人の心を思い通りに出来ないって証明してやる!」

証明しなきゃならないよ

自分がそう思うなら見せつけなくちゃならないんだから

惚れ薬も運命も同じだよ

運命だって、運命が勝手に決めたコトでしょ…

レイの手から惚れ薬を受け取り、私は小瓶の蓋を開けて一気に飲み干す

その味は想像通り甘かったけれど、強いお酒のような効果もあって

お酒が飲めない私は気持ち悪くなってそのまま倒れてしまう

「セリカ!?」

倒れる私の身体をレイがしっかりと支えてくれる

意識が…保てない

「目が覚めれば、その女はお前さんのもの」

「……………。」


お酒は嫌い

目が覚めた時に最初に思ったのはそれだった

お酒に弱い私を苦しめるから

あの惚れ薬とかほざいてたの普通のお酒なんじゃないのか

お酒は嗜める程度飲めると素敵なんだケドね

私には無理だな

目が覚めたのは真夜中で部屋の中は真っ暗だ

セリくんの部屋は静かで私以外誰もいない

「とくに何の変化もない」

よね…?

惚れ薬が本物なら私はレイのコトを好きになってるハズ

なのに、何も感じない

直接会えば違うのかな?

そう思っていると、窓が開いて

「セリカ」

会えば必ず私にキスをするのはセリくんだけ

どうやら迎えに来たみたい

ディッフィーには会えなかったケド、そろそろ帰らないといけない時間か~

「魔王城での生活は楽しかった?」

「全然…」

なんかあったってのは感じるケド…聞かないでって顔をされる

「セリカは何か変わったコトはなさそうだな」

「うん、惚れ薬飲んだケドなんもないよ」

「惚れ薬?何それギャグ?」

アハハとセリくんは信じらんねーと笑う

さすが私、反応が同じね

私達の中では惚れ薬なんて信じてないしありえない話なの

「レイの奴がそこまで本気だってのはわかったケド、惚れ薬なんてもん使ったって虚しいだけなのにな

仕方のない奴…」

「でしょ~、あれは偽物だったから全額返金してもらえって言っておいて」

偽物でよかったとほっとしてる

だって、本当に本物で心を無理矢理奪われてしまうのなら笑い事ではすまないもの

レイ…そんなコトじゃ運命には勝てないよ

本当に抗いたいなら…レイの強い想い次第じゃないかな

ん~…私ってば他人事みたいに言ってるケド、やっぱ他人事だし?

私は私の心のままに、好きになれるならそん時はそん時で好きになれなかったらそれだけのコト

私がレイだったら…レイと同じコトをしたかもしれないのにね

「セリカ様~~~!」

窓の下から声を潜めて微かに私の名前を呼ぶ声が聞こえる

あっ忘れてた、そろそろ香月の所に帰るからセリくんが来たコトを

「あっ下でラナを待たせてたわ、またなセリカ」

「またねセリくん、またいつでも交換してもいいからね」

「気が向いたら…」

微妙なお返事だ~

本当は一緒にいたいケド今はまだ一緒にいられないから、自分が遠く離れてるって変な感覚で心細いの

でも、大丈夫

自分はドコにいたって離れたりしないいなくなったりしないから…

だから大丈夫…この寂しさなんてただの弱さだもん

セリくんは私にちょっとのお別れのキスをしてくれて、私は微笑んで窓から飛び降りた

ラナを踏み台にして…

「もぉっ!セリカ様ったら!!」

「さっ帰ろ~ラナ」



ー続くー2015/10/19

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