第59話『もっと強く願えば』イングヴェィ編

どうしたら君のコトを救えるんだろう

この前、君と話したコトが頭を巡ってばかりだよ

君のピンチをもっと早くに、未来を気付けるコトが出来れば

すぐに君の傍まで駆け付けて…守ってみせるのに


「またイングヴェィが難しい事を考えている

解決しない問題を悩むだけ時間の無駄」

「カトル、またからかいに来ただけでしょ」

窓から君のいるほうの外を眺めているとカトルが後ろから甘いお菓子の匂いをさせて言う

カトルとは意見の違いで衝突するコトも少なくはないケド、それでもカトルは気付けばそこにいる

慕われてるってわかるんだ

きっと始めて会った時、空腹だったカトルにたまたま持ってたキャンディーを投げ渡したから

「そう言えば、カトルはお母さんと会えそうなの?」

ずっと前からお母さんに会いたいって言ってたコトを心配する

捜しているんだよね

するとカトルは首を横に振った

「そっか、まだ手掛かりも見つからないんだ

カトルのお母さんって妖精だっけ?天使だっけ?」

いつもどっちだったっけと迷う時がある

「妖精みたいな天使」

妖精さんみたいに可愛らしいって意味の天使族の女性か

「それなら今度セレンさんに会ったら聞いておいてあげる

セレンさんなら天使のコトよくわかってそうだもんね」

お節介って言われて迷惑に思われたくないから今まで見守ってきたケド、そろそろ協力してもいい頃でしょ?

「イングヴェィ…」

いつものカトルなら余計なお世話とひとことで俺の心配をバッサリするかと思ったけれど…

なんだか元気がないように見える

「どうしたのカトル?何か悩み事があるなら相談に乗るよ」

「相談…じゃない

ただ言いたいだけ、どうにもならない話を」

「うん、話していいよ」

「…イングヴェィが羨ましい

そうして今を悩んでもいつかは運命が解決してくれる

運命が結び付けてくれる

運命じゃない僕みたいなのはどんなに望んでも願っても、駄目なのに」

ど…どうしたの!?世界は自分中心みたいに常に舐め腐ってたカトルがこんなに弱々しい姿を見せるなんて…

風邪かな?お医者さん呼んであげたほうがいいよね!?

「カトル、後でお医者さん呼んであげるから大丈夫だよ

何も心配ないからね!」

「イングヴェィの天然は時に失礼」

「カトルはちょっと疲れてるだけだよ

だっていつものカトルなら運命が味方してなくても知らない

自分は自分のやりたいようにやるって人だもん」

何を悩んでいるのだろう、あのカトルが弱気になるくらい辛いコトって…

心配だな

「確かに俺は運命に甘えてるトコもあるかもしれない

プラチナは運命で生きているから

でもね、もし運命が味方してくれなくても 

俺なら運命を自分の好きなように掴んでみせるよ

運命は変えられる…

だから俺はレイくんには寛大になれない

カトル…自分の運命が納得いかないなら、あっち向いてる運命を振り向かせなきゃ」

運命が味方してる運命で生きてる俺からの言葉じゃ説得力がないかもしれない

でも友達が落ち込んでるなら励ましたいの

幸せを願いたいから…

笑ってよ…俺はカトルの味方だよ

たまに合わない部分があっても、ずっと一緒にいた仲間の1人なんだからね

「ククク…やっぱりイングヴェィとは合わない

根拠もないのに不可能な事なんてないって考え」

「うっ…」

根拠を求められると…困るな

「嫌いじゃない

イングヴェィのその超ポジティブな考え」

カトルはラムネをひと粒口に含み珍しくご機嫌に笑う

「イングヴェィに言われると何でも出来る気がする」

面白い面白いとカトルはいつもの調子を取りも出す

ええっと…元気出てくれたのかな?

空元気ではなさそうだケド

「カトルが元気になってくれたならいいケド、何かあったらいつでも言ってね?」

なんだか…本当に心配だ

「わかったわかった

それよりイングヴェィ、今日は出掛けるって話」

間に合う?とカトルに時計を見せられて思い出す

「あっそうだった!」

忘れてた!隣国にある人間の大都市メルルで盛大なフェスティバルがあって、そこで歌を披露してほしいって依頼があって受けてたんだった

「急がなきゃ!」

「面白そうだから僕も行く」

カトルの心配を持ちながら俺は急いで用意して、着いて来ると言ったカトルと一緒に隣国の大都市メルルへと向かった



「間に合ってよかった…いや早過ぎたかも」

間に合わないと思った俺は少しペガサスに無理させてしまった結果、かなり早く着いてしまった

「ゴメンね無理させちゃって」

ペガサスの頭を撫でると、問題ないキリッとした眼差しで応えてくれる

「ふふ、ありがと~」

ペガサスに待っててねと手を振ってカトルと一緒に大都市の正面門へと周り歩く

すると、めちゃくちゃ大好きな匂いがしてその方を向くとすぐ傍に見つける

「セリくんだ~!こんにちは」

いつ見ても今日も綺麗で可愛くてたまらないセリくんと出会う

「なんか良い匂いがすると思ったら」

なんだろ~、セリくんが近くにいると心が温かくなるんだ

セリカちゃんだからなんだろうケドさ

セリくんに会えて嬉しいケド、セリカちゃんがいないのは残念かも

「今日はセリくんここのフェスティバル遊びに来たの?」

「うん、みんなと一緒に来たんだ!」

綺麗な顔で笑うと物凄く可愛い…セリカちゃんソックリで、当たり前なのに可愛い

そっか~みんなと一緒に遊びに来て嬉しいんだね

「こんにちは、イングヴェィさんにカトルさん」

「久しぶりでござるイングヴェィ殿にカトル殿」

「こんにちは、ローズとロック」

ローズとロックが挨拶をしてくれたから、俺も挨拶を返す

「こんな所でイングヴェィに会うなんてな」

「うん嬉しいね、でも俺は遊びに来たんじゃなくて歌を披露しに来たんだよ」

「ふーん、じゃあレイと一緒か」

えっなんて?ちょっと聞こえなかったかな

笑顔は崩れない

それが心から笑ってるかどうかは別で

「歌手がいるとは聞いていたが、まさかイングヴェィさんだとは思いたくなかった」

「今日はピアノの伴奏者がいるって聞いてたケド、それがレイくんだって現実を直視したくなかったな~」

視界の隅にチラチラしてたケド意識して消してたのに

「オマエら…せっかくの楽しいフェスティバルでも喧嘩か」

「え~~~セリくん、俺とレイくんは世界で1番気が合うんだよ?(悪い意味で)」

「そうだぞセリ、イングヴェィさんとはお互いをよく知った仲だ(悪い意味で)」

俺とレイくんがセリくんに何を言っても、どうせオマエらはって顔をされる

もっともなんだケドね…

()の部分が音楽的な意味でとしても嘘じゃない

音楽に関してはレイくん以上の演奏者はいないし

音楽の中だけは俺とレイくんはお互いを認め合ってるからね

音楽に関してだけは!!(強調)


まだ時間があった俺達は昼間のフェスティバルを楽しむ

夜になるともっと楽しいらしい

みんなそれを楽しみにしてる

「はいセリくん」

「わ~、カボチャのクッキーにチョコ挟んだお菓子!やった美味しい~」

買ってあげたお菓子をありがとうとセリくんは美味しそうに一口食べる

その幸せの味はセリカちゃんにも通じているし、その笑顔もセリカちゃんと同じ

でも

「むー…もういいや、甘すぎ

いらなーい」

すぐに味に飽きるかお腹いっぱいで食べかけをレイくんに渡すのは

ちょっと嫉妬しちゃう…

セリくんはあまり食べない人だから、レイくんがいつも残り物を食べてあげてるみたい

彼氏かって思うくらい仲が良いんだよね

セリカちゃんじゃないってわかってても、セリくんがレイくんをそれだけ信頼してるコトが

セリカちゃんにも影響しちゃうもん

「あっローズ、あのお店見に行こ」

「あらいいわね行きましょう」

食べるコトに飽きたセリくんはローズと一緒にフェスティバルにしか出ないお店を見て回っている

「人間同士、仲が良い」

カトルが人間組を見て言う

「それは自然なコトだよ」

自然なコト…同族同士仲良くなるコトは

でも、種族が違っても仲良くなれるし同族でも殺し合うコトはあるんだよね…

「カトルもセリくん達と仲良くなりたいならなれるよ」

「そうしたい所だけど、勇者に粗相でもしたら誰かが恐いからあまり近付かないようにしておく」

「まったくだ」

ちょっとなんでいるのレイくん…

置いていかないで一緒に連れて行ってくれればよかったのにセリくん

「そうだよね、セリくんの傍にはいつもレイくんがいて邪魔だよね」

「おいおいイングヴェィさん、そうやってすぐオレに突っ掛かって自慢の笑顔が崩れてきているぞ」

「レイくんが俺を見て何か言いたげな嫌な顔をするんだから

それに俺は黙ってないで思ったコトちゃんと伝える性格なんだよね」

「性格悪いな」

「お互い様でしょ」

「……………。」「……………。」

無言の睨み合いに火花が散る

こうなるとどっちも引き下がるコトはしない

勝負して勝ち負けをハッキリさせない限り黙れないの

なら…

「あれで勝負だよレイくん!」

「望むところだ!」

近くでやっていたワインの飲み比べ勝負、酒戦を指す

「これに参加して優勝したほうが勝ちだからね!」

「いいだろう」

「他の人が優勝するかもしれないと言う考えはないのか…」

カトルのツッコミも聞こえないまま俺とレイくんは酒戦へ参加

タイミングよかったみたいで勝負はすぐに開始される

「あんまり無理しちゃダメだよ

レイくんは人間なんだから、しかも若いもんね」

「人外でも酒に酔うなら気を付けた方がいいんじゃないか」

絶対にコイツにだけは負けないと思いながら飲み始めてみたケド

時間が経って酔いが回って来ると、これが勝負だと言うコトを少し忘れてしまう

飲む手は止めずに俺はレイくんに話しかけた

「セリくんってレイくんとばっかりいるイメージだったケド、ローズとも仲がよかったんだね」

知らなかった

ここから見えるセリくんとローズが普通の友達みたいに話したり町を楽しんだりしているの

俺はセリカちゃんのコトならなんでもわかる

セリカちゃんは友達をほしがらなくなったから、セリくんも友達を作らないと思ってた

でも、それは作らないだけで自然と出来てしまった友達は別なんだ

俺はそれを知らなかった…

「セリとローズは好みは違うが気が合うそうだ

よく2人でランチやショッピングに行ったりしている」

女の子ってそんな感じだよねって言えなかった

セリくんが女の子じゃないからとかじゃなくて、まだ幼いローズが大人の女性すぎるコトに驚く

人間の幼い女の子にしてはシッカリしてるんだよね

「ローズはセリの事をシャンデリアなイメージと言っていたかな

紅茶やバイオリンっぽいとも」

「それ!意味わからないのに、わかる気がする~!」

お酒で酔ってるからなのかはわからないケド、俺とレイくんは勝負を忘れたワケじゃなく飲みながら会話を交わす

レイくんはセリくんのコトならなんでも知ってた

それはセリカちゃんのコトを知っているのと同じコトで

俺はセリカちゃんのコトならなんでもわかるハズなのに

傍にいなきゃ知らないコトもたくさんあるんだって、離れてちゃ知りたくても知れないんだって

思い知らされたよ

「いいね、レイくんは…」

そう呟いた時、俺とレイくんの手にあったワイングラスが取り上げられる

「またオマエらか…昼間から飲んで何やってるんだ!?」

「セリくん、どうしたの?」

俺達の酒戦を止めたのはセリくんでなんか怒ってる?から笑顔で聞いてみた

「どうしたの?じゃないだろ!?

2人とも夜にはコンサートがあるのに、酔っ払ってどうすんだよ」

「セリ、これは勝負なんだ

ただ酔っ払ってるわけじゃない」

「そうそう、勝ち負けをハッキリ決める大事なコトだよ」

「今勝負するコトじゃないだろ」

セリくんが怒ってるのは、コンサートを心配してくれてるんだ

優しいもんねセリくん

「イングヴェィさんが酒戦で勝負なんて言うから怒られたじゃないか」

「受けたほうも同罪だよ!」

何だ何だよとまた揉める

「喧嘩すんな!

いつも言ってるが、仲良くしなくていいから喧嘩もするな

お互いを存在しないとでも思ってたらいいだろ、もう」

うぅ…セリくんは俺とレイくんが仲悪いのをよく思っていない

なんでもお願いを叶えてあげたいケド、どうしても喧嘩になっちゃう

無視出来ない存在

セリくん怒って行っちゃったし…

仕方ない…夜になるまで

「音合わせでもしよっか」

合わせなくても大丈夫だケド、レイくんと一緒にいる時は音楽を絡めていないと喧嘩しかしないもん

「そうだな」

そうして俺達は舞台裏でリハーサルを始める

やっぱりレイくんの音はスゴイ

ひとりで歌う時に感じる最高を簡単に軽く超えさせてくれるんだ

俺はまだまだこんなに歌えたのって知る

「…やはりイングヴェィさんは歌の天才だな

その美しい声と歌唱力を超える者はいないだろう」

一曲終えるとレイくんは素直に褒めてくれた

「オレの音に良く合って、透き通るように綺麗な声は何処までも響くようだ」

「レイくんだってスゴイよ

レイくんの音は他の人が同じ楽器を使っても絶対に出せないもん」

笑顔は見せたくないケド、悔しいくらいレイくんの音楽だけは認めて笑顔になる

音楽で仲良くやってるそんな俺達を見ていたのか、遠くにいるセリくんと目が合って微笑んでくれた

「ホント可愛い~よね」「いつ見ても綺麗だ」

「えっ?」「んっ?」

隣にいるレイくんとお互いの思いが一致しているコトに気付く

「ちょっとレイくん、さっきのセリくんが微笑んでくれたのは俺にだよ

勘違いしないで?」

「それはこっちの台詞だ

四六時中セリと一緒にいるオレは、セリがオレと他人に向ける笑顔の違いくらい簡単にわかる」

「な、何それ~!!」

「何だと言うんだ」

ぬぬぬぬぬと俺とレイくんがいがみ合っているのに気付いたセリくんは仕方ない奴らと呆れて止めに入ってきてくれる

「またやってんのかよ…呆れるぜ」

「でも…セリくん…」

「でももなんもねぇの!

もう、イングヴェィちょっと来て

レイはローズ見てて」

一緒にいたローズをレイくんに任せて、セリくんは俺の手を引っ張って離れる

そしてカトルの所まで連れて来ると手を離す

「おかえりイングヴェィ」

「俺はもう諦めた

イングヴェィとレイのコト

喧嘩すんなって言ってもするんなら、俺はこうやって止めに入るから」

セリくんにとって大切な大親友と俺が仲悪いコトに複雑な気持ちを持ってる

悲しませてるってわかるの…

なんでもわかるって言うのはこういうコトなの

セリくんは頭の良い子だから俺達に仲良くしろとは言わない

無理だってわかってるから

でも無理だからってわかってても感じる心は仲悪いコトが悲しいんだ

「セリくん…」

俺はこの時になんて声をかければいいかわからなかった

セリくんのほしい言葉をわかってても現実にするコトが出来ないから

「なんだよ…」

「君が心配するコトも不安になるコトも恐いコトもわかるよ

それが現実になる可能性だって、ある

俺は君を傷付けたりしないって誓ってるのに、それでも傷付けてしまうコトになるかもしれない

だから…いつかのその時があるかもしれないから覚悟しててね」

「ハッキリ…言うんだな

ウソの優しい言葉、俺は嫌いだから…イングヴェィのそう言う素直な所は…嫌いじゃない」

セリカちゃんに愛されたいよ…でもウソはつきたくないの

君を傷付けるコトはしたくないから

「じゃあ、もしその時が来たら…

今日みたいにまた俺が間に入るから、間違って殺さないように気を付けるんだな」

「それ、セリカちゃんを人質にしてるみたいで困るな~」

いつか…殺すよ

俺の大好きな人を奪おうとする、君の大切な大親友を…ね

「セリカさんは大変

イングヴェィが運命の人、逃げられない」

静かに聞いていたカトルがポップコーンを食べながら口を挟む

「うーん、どうだろ

別に俺はイングヴェィがセリカの運命の人でもイヤじゃないし」

「それは運命に縛られている」

「そうかもしれねぇな」

アハハとセリくんは笑ってるだけで深く考えていないみたいだ

「でも、俺は大親友としてレイのコト応援するんだ

運命を選ぶか、運命に抗うか

セリカの運命はセリカが決めるコトだから俺は何も考えないよ」

セリくんの頭が良い所は気に入ってるケド、だからこそ視野が広く運命に抗う選択肢も出てくる

意志が強い君相手じゃ、運命に甘えてはいられないし油断出来ないな

「俺の運命はなんだろ…勇者だから魔王を倒すコトか?

香月はたまにムカつくケド戦う気ないんだよな俺、嫌いじゃないし…まいっか適当で」

「セリくんひとりに世界の平和がかかってる

いつか真剣に勇者である事を考える日が来るかも」

カトルの言葉は現実になる可能性は高い

今のセリくんは魔王の恐ろしさを知らないだけで…

その時が来たら、大丈夫なのか心配だな

「勇者であるコトを考える日…」

セリくんがカトルの言葉に眉を潜めた時、俺に突然妙な胸騒ぎが起きる

あれ…なんだろう…よくわからないケド、急にイヤな予感がする

本当に突然だ

俺の心は目の前のコトから離れていって、セリカちゃんのコトが気になって仕方なくなる

すぐにセリくんの様子を確認してみたケド、とくに何かおかしいコトはない…

カトルに言われて香月くんと戦うのかなってちょっと戸惑ってるのはあるケド

気のせい?そう思おうとするとイヤな予感の胸騒ぎが大きくなる

何これ…変な感じ、じっとしていられなくなる

「セリカちゃんに何かあったの…」

「えっ?」

俺の呟きが聞こえたセリくんはいつもの綺麗な笑みで俺を見つめた

「セリカ?何もないぞ

普通に元気だし、イヤなコトなんて感じないもん」

セリくんはウソをついてないし無理もしてない

セリカちゃんのセリくんの言葉を信じて大丈夫なハズなのに…どうしても、大丈夫な気がしないよ

「でも…心配だからセリカちゃんに会いに行くね!」

「おい、今から?俺、イングヴェィの歌とレイのピアノ伴奏楽しみにしてたのに…」

残念そうにされて、その顔に弱い俺は君のお願いを叶えたいけれど

それでも…今はダメなの

「ゴメンねセリくん、今度君の為だけに歌ってあげるから」

確かめたいんだ、このイヤな予感がただの気のせいであるコトを

そうじゃないなら、この胸にあるものが俺を君の元へと向かわせる意味は

「イングヴェィ、セリカのいる魔王城にはここから2日はかかる

今嫌な予感がしてるなら間に合わない」

カトルがペガサスを呼び降ろす俺に問い掛けた

「間に合うか間に合わないか、そんなの行ってみなきゃわからないよ」

「歌、皆楽しみにしてるのに」

「レイくんがいるから大丈夫

レイくん1人でも十分素敵な音楽をみんなに聴かせてあげられるからね」

急ぎたかった俺はカトルに後はヨロシクねと手を振ってペガサスを走らせる

「イングヴェィ………」

俺が音楽をすっぽかしてセリカちゃんの所に行ったって知ったら今度レイくんに何を言われるだろうか…

すっぽかすなんて最低だとか言われそうだね 

間違ってないよ

依頼を受けたのは俺自身なのに

でも…どうしても行かなきゃいけない気がするの

セリくんが大丈夫って言ってても

この街には今度ちゃんと謝って埋め合わせしないとね



2日かけて魔王城に向かうつもりだったケド、セリカちゃんは今そこにいないって途中で気付く

君が何処にいるのかなんとなくわかるんだ…

繋がった運命を辿っていけばたどり着けるから

「この要塞は…」

目の前に立ちふさがるのはよくない噂のある場所だった

その噂は気分が悪くなるほど酷い話

ここに…セリカちゃんがいるって言うの?

強い怪物がいて悪さをするって噂なんだよね

天使や周辺の力ある種族達が協力してもどうにもならなかったって

俺でも勝てるかどうか…でも迷ってはいられない

気を付けながら俺は要塞の中に忍び込む

すると、少しして気付く

あれ…結構、気合い入れて忍び込んだのに警備が緩いな

強い気配がまったくしない…ほとんどが出払ってるってコト?

今の力のない俺は無駄な戦いは避けたかったからよかったケド

セリカちゃんは…たぶんこっちにいる

俺は迷うコトなく君の下へと向かって走る

そしたら廊下の先で綺麗な炎が漏れている部屋を見つけた

すぐにわかったよ

そこに君がいるんだってコトに

部屋のドアを開くと一瞬だけ炎が俺に襲いかかる

とても熱い炎だったケド、俺が耐えられないほどじゃない

炎は部屋の中に引っ込み足元の違和感を確認する

「虫…?人の肉を食うって言うのかな…邪魔しないで」

この部屋に無数の虫がいるコトに気付いて鳥肌が立つ

なんとも不気味な光景をしている

俺の足を鋭い歯で噛み付いて食おうとするのを見て、振りほどき踏み潰して殺す

その硬い体はプラチナの怪力を持ってしてやっと死ぬと言う感じがする

人間じゃ勝てない…炎にも強い…

「セリカちゃん…!」

自分の身を守ろうとするこの炎の先に君がいて怯えてるんだって思うとどんなに熱くたって飛び込むコトを躊躇わない

炎の中を突き進むと思った通り君は人食い虫が迫るコトに怯えていた

人食い虫がセリカちゃんに近付くより速く…間一髪で俺は君を抱き上げる

「イングヴェィ…どうしてココに…」

「話は後でするね、今は先にここを出よう」

間に合った… 

俺の胸騒ぎは決して勘違いでも思い過ごしでもなく、未来の君の危機を予知するコトが出来たんだって思ったよ


ゆるゆるの警備で簡単に要塞から脱出して離れた木の影で少し息を付く

「セリカちゃん…」

間に合った…間に合ったと思った

でも君はあの場所から、人食い虫に触れるコトなく助かったハズなのに

その顔は晴れるコトなく何かが心を重くしてる

女の子なら誰だってあの虫の大群を見たらトラウマになってもおかしくないのかもしれない

でもそうじゃないってわかる…わかるケド…

それが何か、俺は知らない

君は話してくれないから…話さないから

君はそう言う人だから……

「……………。」

君が言葉を発しないのはそこから我慢が零れてしまうコトを考えて、無理して耐えてる

どんなに俺が心配しているか、きっと君はわかってない

もっと君の弱さを見せてくれたっていいのに

全部全部支えるから…

「セリカちゃん…俺は間に合っていなかったんだね……」

我慢してほしくないよ

俺はどうしたら君の辛いコトを取り除いてあげられるの…

俯く君をそっと抱きしめる

最初は弱い力で…君が突き放さないとわかったら、強く抱きしめてあげる

今はそれしか出来ないんだって思った

もっともっと早く…今日より早く、君の危機に気付くコトが出来たら…いいのにな

「間に合わなくても…でも、来てくれたコトに嬉しい…

今まで誰も気付いてくれない…気付いていても見て見ぬフリする…関わろうとしない……」

君の震える声も涙の冷たさも、少しずつ君の心に近付けてる気がする

「私はそんなコトどうでもよかった

それはとても悲しいコトだケド…

誰にも助けてほしくなかった

他人には関係ないコトだもの

他人に助けてもらうコトは私が求めるコトじゃなかったから…

でも、イングヴェィになら…それも…嬉しいかもしれない…ううん…嬉しかった……

迷惑かけるコトなのに、負担になるだけなのに、それが嬉しいなんてダメだよね」

セリカちゃんの考えが聞けて嬉しい

少しずつでも俺を信頼してくれるようになった気がするもん…

「何度も言ってる気がするケド!

俺はその君が思う迷惑も負担もどんと来いなんだよ!?

俺はそれを迷惑とも負担とも思わないから

君を幸せにしたいの…これが俺の願いで誓いだからね」

「………そうだったね…でも、いつか辛くなったらやめていいよ」

近付けたと思ったら、また突き放された

どんなに君が俺を突き放したって俺は離れないし離すつもりはないよ

セリカちゃんはまだまだ俺のコトがわかってないな~本当に

どんなに俺が君を想っているか…君の存在は俺の命そのもの

「残念だな~、それじゃまだ俺の下には帰ってきてくれなさそうだね」

「うん、香月の所に帰る…」

結構傷付く~…セリカちゃんは香月くんに恋愛感情がないってわかってても

俺より香月くんを信頼して安心してるコトが羨ましいのと悔しい…

「私…逃げてるね」

「追われてるからね、逃げるのは生き物の本能だよ

アハハ…いつか捕まえるね」

「なんか恐くなってきた」

逃げられると捕まえたくなるもんだよね

力で抑え付けて…どう足掻いても無理だとわかって君が逃げるコトを諦めた時の屈服した様子が…想像しただけでたまらないよね

なんちゃって…ふふふ

「大丈夫大丈夫、ちゃんと香月くんの所まで送ってあげるから安心して」

「……………。」

あっ本当に恐がってる…どうしよう

嘘じゃないよ、君を幸せにしたいと思うコト

俺はどんな手を使ってでも君を手に入れるだろうケド、それは君を俺の手で幸せにする為だもん

他の男じゃ君を幸せになんて出来ないよ…セリカちゃんのコト何もわからない運命でもない奴なんかじゃね……

「帰ろっか」

俺は優しく君の頭を撫でてあげる

すると少しだけ君の表情は和らいで頷いてくれた

今度は…もっと君のピンチに早く気付きたい…

ドコにいたって駆け付けるから…間に合わなきゃ、早く…早く…君が傷付く前に



―続く―2015/11/29

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