第85話『魔女の行方』セリ編

セリカが喧嘩中のレイと俺を仲直りさせる為に交換を提案した

俺は香月の所へ、セリカはセレンの所へ

素直に受け入れるしかなかった

セリカは俺のコトならなんでもお見通しだから

魔王城で魔族と魔物達と暮らすか…

何度かセリカと入れ替わってここにいたコトはあるが、正直ついていけない

感覚が違い過ぎてて…

セリカは俺なのによく過ごせるなって思うのに、俺自身も気付いていない自分がいるだけなのかもしれない

キルラはいつもうるせぇ、ラナはいつも女の話モテ自慢ばっかでイラッとくる、ポップはもはや意味不明

さらに嫌なのが、あのルチアがここを出入りしているコトだ

キルラの彼女としてな

「聞いてよ~セリーーー!!あのルチアって人間の女に5人くらい彼氏取られたの~~!!」

ポップはカンカンになって俺に告げ口してきた

「私もですわ!あの魔女に4人!4人もの彼氏を奪われたのですわ!!」

楊蝉も信じられない泥棒猫だとお怒りだ

自称セリカの友達のポップと、セリカの数少ない友達の楊蝉が俺にこうして言いに来るのは自然なコトなのかもしれない

そんなコトより俺はセリカの部屋が乙女趣味すぎて、正直落ち着かない

全体的にピンクと白と真紅にお花がたくさんあって可愛いものだらけのフェミニンな感じ、動物のぬいぐるみもいっぱいだし

俺もピンクも白も真紅も好きで可愛いものも動物も大好きだが、部屋がこれはちょっと…

女はよくわからん

「どっちも100人くらい彼氏いるんだからいんじゃねぇの?それくらいあげても」

「数の問題じゃありませんのよ!!」

「そうだよセリ!セリだって、香月様と和彦様のどっちかを取られたらムカつくでしょーーー!?」

う、うーん…ムカつくって言うか、冷める

和彦は元から浮気性な奴だが、本命が俺だからってコトで許してるケド…

「そんな余裕こいてると、セリだって香月様をルチアに取られちゃうよ!!」

「いえいえ、ポップさん…あの香月様はさすがに無理なのでは?」

「う…確かにぃ、香月様はずっとセリ一筋だよねぇ…」

そうだ、和彦ならまだしも香月の心配なんてするだけ無駄

香月は俺だけ…だから

「面白い事を聞いたわーーー!!」

部屋のドアを音を立てて入ってきたのは噂をすればのルチアだ

俺達の話を盗み聞きしていたのか、嫌な女だ

「キルラに振られたセリさんの新しい彼氏が魔王様っかぁ~いいわーいいわー」

振られてないし、キルラとは付き合ってもいないから気持ち悪いわ

いまだに俺を女の子と思っているルチア

「ゾクゾクしちゃう~!今まで人間の男ばかりで魔族のキルラに次は魔王様ね

面白いわーセリさん、また奪ってあ・げ・るぅ」

「待て!ルチア!!」

キャハハハハとルチアは香月の部屋へと向かった

「セリ様もやっと私達の気持ちがわかりまして?」

「ねぇー!焦るよね!セリ!心配でしょー!?香月様取られたらどーするー!?」

「2人ともバカ言うな!」

楊蝉とポップの言葉に軽く返して、俺はすぐにルチアの後を追った

意外に足が速く、追いついた時にはもうルチアは香月の部屋へと入っている

「ルチア!香月に近付くな、すぐに離れろ」

「はぁい?嫉妬ー?それ嫉妬ー??キルラの時より凄く良い顔してるわよぉセリさん

良いわね良いわね」

ルチアは楽しそうに悪女の笑みを浮かべながら服を脱いでいく

手慣れたもんだ、あっという間に裸

こわ…恋人でもない相手に、そんなすぐに脱ぐ女、恐いわ…

女の子は大好きなのに、恐いと思った瞬間だった

他人の彼氏を横取りするのが趣味なルチアは気付いていない

何も…

「そこで見てなさいよぉ、また彼氏を奪われるのを…」

言っても、ルチアは俺の反応は全て嫉妬から来るものだと勘違いしている

「離れろって言ってるんだ、アンタ3回は死んでるぜ」

と警告する

「はぁあ?何言ってるの?」

ぽとっとルチアの右手首が床へと落ちる

「…何よぉ、これ……」

自分の落ちた右手首を不思議そうに見下ろす

俺が回復魔法で痛みを感じさせないで死なせていないだけ

ムカつく嫌な女だが、一応女だからと俺は回復魔法で助けてやってる

「ほら4回目、今度は切断された手は治さなかった

治してほしけりゃ香月から離れるんだな

アンタじゃ香月の相手はできないよ、その人は俺以外無理なの」

ルチアの服を拾い上げる

その中のひとつ、こんな夢のないブラジャーはじめてだわ

女の子が可愛い生き物ってのは幻想って、楊蝉に言われたコトを思い出す

頭ではわかってたぞ!?理想と現実は違うって!でも、どうせ男としか恋人になれない運命なら女の子には永遠に夢見てたかったあああ!!!

「はい帰って、バイバイ」

拾い上げた服をルチアに押し付けて右手首も治してやって部屋を出るように言う

「あ、あたしに…このあたしに…恥をかかせるなんて……」

今まで落ちなかった男はいなかったのかルチアは顔を真っ赤にして怒りで身体を奮わせている

「恥なんてかかせてないよ、だって香月は魔王なんだ

人間の男じゃない(今の身体は人間でも)

ルチアになびかなくても何も恥ずかしいコトじゃねぇから…って…えっ?」

ルチアは何故か、香月ではなく助けてやってフォローまでしている俺を悪魔のような顔で睨み付けた

な、なんで!?めっちゃ恐い!?

「その余裕な顔…許せない許せない許せないぃぃい!!!

あの時みたいにその顔をぐちゃぐちゃにして二度と見れない顔にしてやるんだからーーー!!

覚悟してなさいよぉ!!!」

嫉妬もせず悔しがるコトもなく、悲しむコトも苦しむコトもない俺に対してルチアは憎しみを持った

ルチアの屈辱は香月がどうこうではなく、俺が動じないコト相手にすらしないコトにあった

面目丸潰れのルチアは俺に怨みの言葉を吐き捨てて部屋から出て行く

次会う時に何されるのか恐くて今日から寝れないわ

「俺…あの女は苦手だ」

俺を蹴落とし踏みにじらないと気が済まないと言う根性がな

「それにしても、香月は本当に俺以外には何とも思わないんだ?

キルラやラナならあれほどの女の子に迫られたらコロッといくのに」

アハハと笑っても、香月にとってはそれの何が面白いのかわからない

「もし、私がそうなったら貴方はどうしますか」

「そんなの嫉妬する」

いつも和彦のせいでストレスになってるから、やめて、そうならないで

でも、他の魔族は感情を持ってる者もいるからこの先だって香月にそういうものがずっとないままなんてわからないから

今は俺だけで嬉しいコトだけど、もしかしたらそうじゃなくなる日が来るかもしれない

そんなの考えたくもねぇけどさ…

ふたりも恋人がいて、俺が言えるコトじゃないのに…ワガママなんだ

「嫉妬、私にはわからない事ですね」

「わからないほうがいいよ、しんどいだけだから」

どちらからともなくキスを交わす

「とにかくルチアのコトはなんとかしないと、俺の知らない所で香月に殺されそうだし」

「苦手なら殺しても構わないでしょう

貴方の大切なレイとは違いますよね」

「あれでも一応女の子なんだよ、優しくしなきゃ」

って言った所で香月は次は確実に殺す

ルチアは話した所で聞きはしない

俺はそこまで気を遣う必要があるのか?

勇者としての使命?人間を魔族から守れなんて無意識の正義に突き動かされるのか?

いや考えるのはやめよう

ルチアのコトはキルラに話して、アイツに捕まえておいてもらおう

「じゃあ俺…」

キルラに話しに行くって部屋を出ようとすると腕を掴まれ引き寄せられた

「夜も遅いのに、このまま帰すとでも?」

なんか前にもこんなコトが…

でも、嫌じゃないんだ…けど!!前も今も決して嫌ではなくて嬉しいんだケド…

「そんな気分じゃなくて…」

俺は思い立ったら即行動タイプだからキルラと話に…

「私が気分を変えてあげますよ」

もう変わってると言えば変わってたり…

「やっぱダメ!!なんかこのまま香月といたらどうでもよくなりそうだから!また今度ね!」

勇者の力で香月から逃れた俺はちょっと残念な気持ちが残りながらもキルラを捜した

ルチアはいつ来るかはわからないなら、早めに手を打たないと

キルラは自分の部屋にはいないか、でも城の中にはいる

勇者の俺にはキルラの魔力を辿るコトができた

中庭にいるのか、このクソ寒いのに何やってんだ?

「ほれほれ~このオレ様から逃げられると思ってるのかよー!?」

「キャー!!」

中庭を覗くとキルラは人間の女性を全裸にして追い掛けていた…

めっちゃ腹立ったからその辺に落ちていた小石を頭目掛けて投げつけた

「いてぇー!?」

何やってんだボケ!!また人間の女性を攫ってきて追いかけっことかナメてんのか!?

恐怖する女性をわざと逃がして追い詰めて楽しむキルラは俺が投げた小石の激痛でのた打ち回っている

「可哀想に…」

キルラから逃げていた女性を俺の背中に隠し上着を貸して、炎魔法でその冷えた身体を温める

「セリ様…っ…なんすか!?オレ様の楽しみを邪魔しないでくださいよ!!」

何オマエだけ楽しんでんだよ!?俺は香月を断ってまで来たのにムカつく!!

「やめろやめろ、嫌がってるだろ」

俺は人間の女性にとりあえず俺の部屋に避難しておくように言った

途中で他の魔族や魔物に襲われないように俺の炎を持たせる

「他の女の尻追いかけてる暇があんなら、あのルチアに首輪でも付けとけよ!

楊蝉もポップも迷惑してるし、さっき香月にちょっかいかけて4回殺されかけてたぞ」

「ルチアのする事なら全て正しい!!」

何言ってるか全然わからねぇ…洗脳でもされてるのか?

「しかしなぁ、香月様だけは駄目っしょ

香月様はセリ様だけっすし、香月様怒らせるのだけは勘弁」

「真面目に聞いてくれてありがたいけど、さっきから気になって仕方ないその汚いもの閉まってくれねぇか?見たくないんだケド」

キルラの股間を指差すとキルラは忘れてたとテヘペロっている

「キルラだって、ルチアが香月に殺されたら悲しいもんな」

「いんや別に」

ずっこけそうになった…意味わかんねぇ!?

「香月様のする事にオレ様は反対しないっすよ

レイとセリ様は気持ち悪って思うっすけど、香月様とセリ様ならちゃんとよかったって思うし

ルチアは大ファンで良い女でも、香月様が殺すなら殺されて当然の女って思うんで」

なんでレイを引き合いに出すのか…

キルラにとって香月は絶対の存在だった

頭で自分の考えや感覚をねじ曲げたりもしない

香月のコトならなんでも心から認めて受け入れられるんだ

魔の王様だから?それとも香月だから?

きっと香月だからだ

なんだろ、キルラが香月のコトそうやって思って慕ってくれててやっぱり嬉しい

「さすがに香月様に愛人になれと言われたら無理っすけど!?」

「ねぇーよバカ

でも、キルラはルチアのコト好きなんだろ?」

「もちのろんよ!」

「だったら、香月に殺されないように首輪付けとけよな」

俺の言葉にキルラは親指を立てて任せろと笑顔を見せた

楊蝉やポップと同じでキルラも目移りはするが、ルチアのコトはそれなりに好きみたいだ

キルラがしっかり見ててくれるなら、もう楊蝉とポップや他の魔族にも迷惑はかからないだろうし

俺を怨む暇もないだろう、そして香月にも近付かない

これでいいんだ

そうしてルチアのコトはキルラに任せて俺は自分の部屋へと帰った

「あっ、君は」

キルラに追いかけられた人間の女性を匿ったんだった

隣には結夢ちゃんが寄り添っていて、女性はセリカの服を着ていた

きっと結夢ちゃんが彼女に貸したんだ

胸の辺りのボタンが止まってないんですケド?

セリカのサイズじゃあ…キルラの好みのタイプのバストは全然足りない

「先程は助けて頂いてありがとうございます、セリカ様」

あっ…あぁ、魔王城にはセリカがいると言われているから俺とは気付きにくいか

「キルラに掴まって災難だったな、明日になったら近くの村まで送るよ

そのベッド使って」

俺はソファで寝ます

彼女は俺をセリカだとは思ってるケド、女の子と一緒に寝るのは俺が落ち着かないから

「いえ、セリカ様もご一緒に」

女性は部屋の灯りを消すと俺の手を引っ張りベッドへと引き入れる

…えっ、えっ!?なに!?

「お礼がしたいんです、セリカ様に助けてもらったお礼を」

押し倒されて胸へと手を置かれて…

「セリカ様って…胸が小さいんですね

可愛らしいです」

もしかして…この人、ビアンなんじゃ…

いやいやいや!俺が女じゃないってすぐバレる!?

結夢ちゃんがベッドの傍で顔を真っ赤にして見てるし、ダメだぞ!?

「あ、お礼はいらないです…ちょっと用事思い出したんで」

なるべく傷付けないように笑顔を作って俺は彼女から逃げるように部屋を出た

部屋を出る前に、残念と彼女から投げキッス

……えっ、俺なんか呪われてる?

仕方ないからキルラの部屋に一晩泊めてと言うと

「男を泊めるスペースはねぇ!帰れ!!」

人間の女性を助けたコトをいまさら腹が立ったらしく拒否され

ラナの部屋に泊めてと言うと

「いいですよ、セリ様もこの群れに混ざっても」

数人の女をはべらせハーレム中だった

「ほらーみんなーセリ様が来ましたよ~、可愛がってあげてくださーい」

「「「はいラナ様!」」」

無言でドアを閉めた

眠い…ね・た・い・!!

うぅ…行きたくないケド……

俺は香月の部屋を訪れた

「…ただいま……」

帰りたくはなかったよ、ここには

だって、香月は寝かせてくれないだろ

「今日は寝た…い」

ほら

香月は俺を抱き上げて逃がさなかった

俺は眠いのに…まいっか、目が覚めてしまうから



次の日は昼からキルラに襲われていた女性を近くの人間の村まで送った

道中はベタベタ触られたが、なんとか男とバレずに別れる

そして、疲れて魔王城に帰って来ると事件が起こっていた

この前イングヴェィが攫われた事件で、悪魔と人間がタッグを組んでいた集団の魔法無効化の話だ

あれは、やっぱりここから流出したみたいで何故バレたかと言うと

キルラがルチアにお願いされてあっさり渡した、良い女に最高のプレゼント出来るオレ様は良い男だなんだと自慢げに言いふらしてたからだ

「との事ですわ、セリ様」

楊蝉はその話に呆れて口元を扇子で隠す

アホだ…酷いくらいアホだ…

三馬鹿はもう冗談で済まされないくらいバカじゃん

「キルラ、オマエな…引くわ!?

何が良い女には良い物をプレゼントする男は良い男だよ!?何言ってんだ!!?」

好きな女性に良い物をプレゼントしたいのはわかるが、それとこれとは別物だろ!!?

「ルチアが喜んでくれたからオレ様は間違っちゃいねぇよ!?」

ルチアは大悪魔シンの魔女、シンから他の悪魔にそして人間に伝わってしまった

「バッカ!よく考えろ!

何故か知らないけど、一方的に敵対してくる悪魔が攻めて来て魔法が使えなくなったらオマエどうすんだよ

万が一にでも負けるかもしれねぇぞ」

万が一って言うのは、魔族は魔法がなくても強いからだ

それに、そうなると俺は完全にお荷物の足手まとい

回復魔法がない俺なんて価値なし

よく考えたら魔法無効なら聖剣も強さを失ってしまうかもしれないしな…

悪魔が本格的にそれを使い出したらセレンはさらに勝ち目がなくなる

黙って、彼女の国が滅ぶのを見なきゃいけないなんてのは絶対イヤだ

「勝ちゃあいいんでしょ?勝ちゃあよ」

「そうだけど…でも、香月が帰ってきたら今度こそオマエ本当に殺されるぞ」

香月は俺が目を覚ます前から出掛けて夜に帰るってさ

「……へっ?…もしかして、オレ様やばめ?」

やっぱり何も考えていなかったのかキルラは香月の恐ろしさと自分がやった事の大きさにやっと気付く

ルチアと付き合えて浮かれていたから気付かなかったなんて盲目も大概にしろ

冷静になったキルラは毛穴と言う毛穴から冷や汗を噴き出している

みんな目を合わせずに

「それでは私はこれで…」

「キルラ、骨は拾ってあげるねぇ」

キルラの周りから去っていった

俺だけタイミングを逃して残るコトになっては、ガチで怯えるキルラを見て哀れに思った


そうして香月が帰宅後、予想通りに殺されかける

「香月許してあげて!キルラはバカでどうしようもない奴だけど、殺さないでくれよ」

キルラの前に立ち香月にお願いするが、表情は変わらずとも香月はそれなりに怒ってるような気がした

香月には怒る感情はなくても…

「セリ、あれが世に広まればどうなるか考えましたか」

「もちろん、俺が価値なしになるってコトくらい」

「それだけで貴方の死ぬ確率が跳ね上がるのです

今でもよく死にかけているのに」

香月…俺の心配してくれてるんだ、わかってる

でも…

魔族を殺せるのは勇者ともうひとり、魔王なら可能だ

だからここで香月に殺されるとキルラはいなくなる

うるさいしムカつく奴だけど、何百年も前から何度も俺がお世話になったコトは変わらない

今だってそうだ、危なくなったらちゃんとセリカを守ってくれていたし力も貸してくれた

何より、キルラは香月のコトを慕っているから……

「まぁ貴方が死んでも、また待てば良いだけの事なので」

「香月…」

ちょっと…傷付いた

香月にとったら、俺なんて何回死んでもそのうちって感覚でも

俺にとったら、前世も来世も記憶がなくて自分なのに自分じゃないみたいな感覚だから…

今の俺を突き放されたみたいで嫌だった

香月にとったらどれでも同じでも、俺は…今しかわかんないのに

気に入らなければ殺せばいいのか…

香月には俺の気持ちなんて永遠にわからないって、知ってて好きになったのに……

バカだな俺は…こんなコトで傷付くコトすら意味がないのに

でも悲しい…否定されるのは

「ちょっと待ってくださいよ!香月様!

魔法無効の書物は必ず取り返してみせますから、またセリ様を守ってあげてくだせぇ!お願いしますって!!」

キルラは香月の足下まで駆け寄り土下座をしてみせた

はっ…?キルラらしからぬ言動に俺は目の前の光景を疑う

キルラが自身の命乞いをするならわかる

自分より強い者には逆らわない奴だから

なのに、俺の為に…俺がショックを受けたコトに感づいて庇ってくれた

身の危険を守ってくれたコトはあっても、こんな風に守ってくれたコトは…

今まであったのかどうかは知らなくても、キルラの見方が少しだけ変わって嬉しかった

一度出たものは書物を取り返しても、なくなりはしない

多少はその影響が残るだろう

でも、何もしないよりはマシだ

「わかりました

書物を取り返す事と、キルラがルチアと大悪魔シンを殺せたら

これからも私はセリを守り、キルラも許しましょう」

香月は書物の奪還とルチアとシンを殺せと命じこの場を去った

俺は間違ってたのか…?

香月がキルラを許そうとしなかったのは、魔法が使えなくなったら俺が死ぬかもしれないと考えてだった

なのに、俺はキルラを庇って香月を怒らせて勝手に傷付いて…

何なんだ自分はって感じだ…

さらにキルラに好きな女を殺させるコトになるなんて…

かと言って、キルラをあのまま香月に殺させるのは…やっぱり、それもダメなコトだよな…

「シンはともかく…キルラ、ルチアを殺せるのか?」

香月はキルラがと言った、だからルチアを殺すのは俺でもラナでもポップでもダメだ

ルチアの奴、俺がせっかく香月から守ってやったのにすでに取り返しつかないコトしてやがって

もう俺は庇えない

香月が見えなくなってから頭を上げるキルラに問う

「…オレ様がルチアを…」

あんな女でもキルラは好きなんだ

他人の彼氏を奪うのが趣味で、それが上手くいかないと女の子の顔を醜く傷付ける

そんな自分の正体がバレれば皆殺し

キルラはそれを全て知っていてもルチアが好き

俺は人間だから、魔族であるキルラの気持ちがわからないのか、種族関係なしにキルラが変わっているのか

「殺らなきゃキルラが香月に殺されるんだ

ルチアを生かす為にキルラは自分が死ねるのか?」

「はぁ?オレ様は自分の命が1番大事」

「だよな…」

好きな女を殺すコトに落ち込んでいるのかと思ったら、キルラは香月がいなくなった途端にいつもの調子を取り戻す

わかってた、キルラが好きな女の子の為に命懸けるような奴じゃないって

「どうせ、顔と身体が好きなだけなんだろキルラは」

「よくわかってるじゃないですかセリ様!オレ様はルチアのあのセクシーな身体が好きなんすよ

あそこまでタイプの女はいないっす」

「まだ世界中を探したワケじゃないんだ

今回は諦めて次探せばいいよ」

「ですよね!その為にオレ様達は世界征服やってっから」

みんな、オマエの花嫁探しの為に世界征服はやってないから…

「ルチアの事は諦めますわー」

次探せとは言ったが、この諦めの早さ…

キルラにとっての愛の形はこうなのか

それとも無理してるのか

「…本当に…これから好きな女の子を殺すのに少しも心が揺るがないのかよ?」

「何言ってんすか、自分の命が1番っしょ」

さぁ腹ごしらえしてからルチア捜すぜー!とキルラはお腹を押さえる

「いや…なんか、悪い…

キルラが俺を庇ってくれたからこんなコトになって」

土下座までして…一応敵である俺の為に

「セリ様の為じゃねぇからその顔やめてくんね?

香月様がわからねーから、殺すのも殺されるのも

オレ様が勝手に嫌と思ってるだけ」

香月はわからない、感情がないから

香月が俺を殺すのも、俺が誰かに殺されるのも

何も感じない、嫌も悲しいも寂しいも苦しみも辛さも

それが全て不幸なコトだって、キルラは近くで見ていて

香月の代わりに香月の気持ちが本当ならこう感じるのにって勝手に嫌な気分になってるだけ

香月を慕っているからこそなのかもしれない

「オマエ…めっちゃ良い奴だったのかよ……」

「セリ様の為じゃねぇし!!香月様が冷めて殺せって言うなら殺すし!!」

ラナもポップもそうだとキルラは喚く

そっか、そうなんだ

魔族とは合わない所のほうがたくさんあるけど、セリカがいつまでもここにいる理由はなんやかんや言ってこうだからなんだ

「キルラは俺には勝てねぇって」

笑って言うとキルラは悔しそうにした

やっぱり俺は魔王を倒さないし、魔族を敵にしない

勇者の力は宝の持ち腐れと言われても、みんなのコトそこそこ好きだし

俺は魔王の恋人なんだからさ



-続く-

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