121話『折れた心』セリ編

目が覚めると、俺は自分の部屋のベットにいた

「あ…れ…?」

夢…?と寝ぼけたコトを考えたのは一瞬

意識がハッキリすると今までにないくらいの性欲の強さを感じる

「夢じゃねぇ!?しかも副作用が我慢出来るレベルじゃないのがもうヤバい!!」

さらに起き上がると全身が筋肉痛かのようなダルさで痛くしんどい

「何これ!?スゲー身体しんどいし痛い!?これも副作用か!?」俺が人間だから魔族のキルラより強い副作用が?

どんな厳しい戦いがあった後でも一晩寝ればそこそこ体力は回復する

だってまだ20代の若い俺なんだし

でも、俺がこうしてベットでスヤスヤねんねできてたってコトは植物モンスターの襲撃はなんとかなったってコト…だよな?

俺が気を失ってる間に…勝てたのか?

それならよかった…

「と、とにかく……これはマズい…」

ダルい身体を無理して起こし俺は冷たいシャワーを浴びに行った

性欲がヤバすぎて、これをどうにか鎮めないと外に出れねぇよ!!誰にも会えねぇ!?

身体がこんなに熱い、けど筋肉痛みたいにしんどくて手も足もプルプルする

もう二度とあのドーピングに頼らねぇ…

冷たいシャワーを浴び着替えるとソファに座り一息つく

「いや…全然だ」

ダメだ…全然、落ち着かない

今すぐエッチしたい、セックスしたい

……いや俺最低…下品、自分で自分がキモイ

俺は元々普通の男と比べてあまり性欲が強くない方だと自分で思っている

だからあんまりそういうのをするのが好きじゃない

いつも和彦に強引にやられていただけで…

だからってまったくしたくないってワケじゃないぞ

俺だってそういう気になる時はある

でも、この副作用の強い性欲はもう怖いほどだ

自分の理性で抑えられるか不安になるくらい

とりあえずもう一眠りするか?でもこんだけ興奮してたら寝れる気がしない

お腹も空いたし、何か食べたいな胃に優しいもん

「あぁ…どうし……ん?」

頭を抱えているとふと目の前のテーブルに花瓶があるコトに気付く

その花瓶には淡く光る一輪の真っ白な百合が綺麗に咲き誇っている

見たコトある…この百合は…あの植物モンスターのボスみたいな奴に植え付けられて咲いた花……?

「綺麗なカサブランカだ」

急に後ろから声が聞こえてビクッとする

気が気じゃなくて聞こえなかったドアの開く音が

「セリみたいに」

後ろから声をかけた人は俺の目の前に来てテーブルの上にお粥を置いてくれた

「お腹空いてるだろう、食べるといい」

レ、レイ……思わず身体が強張る

久しぶりなような気がするし、久しぶりじゃないような気がする…

レイの姿を見て、すぐにわかった

あの植物モンスターの襲撃で絶望的な状況で、俺がこうして生きて副作用に悩まされてるってコトはレイが助けてくれたんだって

いつものコト、いつものレイ

レイはいつも俺を助けてくれるから…

でも……気持ちはもう違う……レイはもう…大親友じゃない…

だけど、今回の件に関しては礼を言うべきだ

助けてもらったんだから、この城を守ってくれたんだ

「ありが…とう……」

そして俺は程よく冷めたお粥を頂く

俺が熱いのダメだって知ってるからこのちょうど良い温かさにしてくれてるのも…レイらしい

スプーンにお粥を掬って口元まで……運べねぇ…

筋肉痛がヤバすぎて手がプルプルするし腕が上がらない

「あぁ副作用か、オレが食べさせてやる」

そう言ってレイは隣にやってきて俺の持つスプーンを取ろうとした

その時に手が当たってビックリした俺は反射的に弾いてそっぽ向いてしまう

「いい…自分で、食べれるもん……」

食べれてないけど!?

いや…だって…レイが手に触れた瞬間、全身に火がついたかのように熱くなって…

息苦しくて変な汗が……

「辛そうだな、ご飯より先にその副作用をなんとかしないといけないんじゃないか」

レイは後ろから俺の持つお粥の器とスプーンを取り上げてテーブルへと戻す

「えっ…副作用のコト?」

なんで知って

「キルラに聞いたんだ

オレがいない所でセリに変なものを飲ませてそんな風にするなんて、まったく」

ホントにな、もう得体の知れない物と人は信じないようにしよう

「最高だな」

「えっ?最低の間違いだろ…俺は嫌だ、こんな副作用…」

パッとソファから立ち上がってレイから距離を取る

かと言って…逃げられないのはわかってるけど

俺は副作用を抑え、自分の理性を保つように手に力を込める

「どうしてだい?」

俺が距離を取ればレイは距離を詰めて来る

「来ない…で」

逃げられないとわかった部屋が狭く感じる

「触られたら……」

「…触られたら?」

後ずさり足元も後ろも見ていなかった俺は何かに躓き倒れそうになるところをレイが手を伸ばし掴み引っ張る

「ダメ…ッ!」

そのまま抱きしめられそうになって俺はレイを引っ張叩いてしまった

「悪いけど…今日は部屋から出て行ってほしい

落ち着いたら…いいから……」

困る…嫌だ…

このままレイに触られたら、俺の理性はいつまでも保てない

好きでもないのに愛していないのに、自分から求めるなんて受け入れるなんて…

そんなの、絶対…ダメだ

「何故そんなにセリはオレを拒絶するんだろう

どうしてセリはオレを好きになってくれないのか?」

「何度言ったらわかるんだよ、俺には好きな奴がいるから

レイはずっとずっと大切な大親友、それ以上には絶対になれない」

大切だからこそ、誠実でありたい

レイを傷付けたくないから気持ちがないのにそういう関係にはなりたくない

もう…関係は持ってしまったしめちゃくちゃだけど…それでも、俺はレイとは…

「だからだ

セリがいつまでもオレを好きにならないから、他の男ばかり愛すから…許せない

だから…だから…その副作用でオレを受け入れて求めてくれる事に意味があるんだよ

セリは頑なにオレを受け入れないから、そんな人が負けて惨めな姿になるのを見たいんだ

許さないから、愛してくれないなら

他の男のモノになるくらいなら、泣かせてでも苦しませてでも頭も心もオレで支配したい」

セリカとの前世のコトもあるが、それより俺はずっとレイが…そういう風に思ってたコトがショックだった…

命を懸けて守ると誓ってくれた人…

絶対に傷付けたりしないと約束してくれた人…

そんな人を変えたのは俺が悪いから…かな……

「もう逃げられないな」

壁まで追い詰められ、レイは逃がさないように両手を壁に付けて俺を捕らえる

ぐっと目を閉じて自分を抑えようとしたが、レイにキスをされて熱い身体にもっと火が付くようだ

「何処まで我慢出来るだろうか、最後まではしないさ

セリが自分からオレを求めてくれるまでは」

酷い、レイはこんな酷い奴だったのか

わかっててやるんだから、俺が副作用でいつか自分に折れてしまうのを

それを俺は凄く嫌だって気持ちをわかって

「大嫌いだ…」

「もう余裕がなさそうだ、ハハハ」

視界のハッキリしない目が睨み上げるとレイは爽やかに笑う

そうしてレイは壁に押し付けた俺の首筋へとキスをして舌を這わせる

ゾクゾクする、熱くなる、息が苦しくなる

レイに触れられる場所が広く多くなるほど、足に力が入らなくなる

頭がボーッとする

何も…なくなるような気がする、自分がおかしくなるような……

「ダメ……レ、イ……」

「まだそんな事が言え」

「もう…我慢…できない……」

折れてしまった、自分に

情けなくも…悔しくて、悲しくて、愚かでバカな自分が嫌いになるほど

副作用のせいでなんて言い訳だ

結局は俺が、弱かっただけ……

「わかった、それじゃあキスしてお願いしてくれたら良いよ」

レイは満足そうに笑う

もう何も考えられない俺は言われた通り、自分からレイにキスをする

普通の触れるだけのキスは出来なかった

もう我慢出来なくて、ほしくてほしくてたまらなかったから

あぁ…キスだけで、痺れる……

久しぶりかも、こんなに熱くてぐちゃぐちゃになるの

「お願い、レイ…レイがほしい、早く…」

「セリがそうやってオレを求めてくれるのをどれだけ待っていたか

どんな形でも、セリの心も身体もオレだけで満たさせる時を望んでいたんだ」

腰に力が入らなくなった俺をレイは抱き上げてキスをする

もうなんでもいいよ、早く早く…俺をめちゃくちゃに犯してくれたら…




目が覚めると、あの副作用の異常な性欲はさっぱりなくなっていた

キルラは女30人は必要とか言ってたけど、そんないらんかったな

それとも俺は1人の男で女30人分の満足を得られるって言うもう男が相手じゃないとダメな身体になってるのか

いや待て、普段から香月や和彦を相手にしていて普通で満足できる身体じゃないのは確か

レイは2人に比べればそんなにだけど、一般的に比べれば十分凄いよ

……なんで俺上から目線なの?

「はぁ……最悪……」

自分が最悪…最低…

冷静になってやっぱり今回のコトは強い後悔しかない

自分からレイを求めて受け入れたコトが重く心にのし掛かる

「あっ」

隣で寝ているレイを見て、ふと思い出す

そうだ…魔王の力…今なら奪えるチャンスなんじゃ

俺は静かにベットから下りて、レイの服のポケットを探る

どこにあるかは勇者の俺はわかるもん、導かれるように俺は魔王の力が入ったポケットに手を入れると

「っ!?」

手に激痛が走り引っ込める

痛い…?手を見ると大きな何かに噛まれたみたいで血が流れている

ポケットからモゾモゾと噛み主が姿を現す

「フェレート!?」

俺に威嚇をして今にもまた襲い掛かって来そうな勢いだ

フェレート…レイの光と水の力を持ったフェアリー

いつも俺に懐いてあの可愛かったフェレットのような姿は邪悪でおぞましい姿に変わってしまっていた

そんな、もしかして主人のレイが変わってしまったからその影響を受けて…?

「セリ、何をしているんだい?」

レイの声が聞こえて俺はパッと服から手を離した

「いや…目が覚めたから服を片付けようと…」

このタイミング…フェレートがレイに知らせているのか?

クソ、これじゃあ魔王の力を奪うのは難しいだろ

どうすれば…

「今日からオレもここに住む事にするよ」

「レイが…ここに…でも」

「昨日のような問題をセリと今の魔族でどうにか出来ないだろう?

それにオレはずっとセリと一緒だったんだ

いまさら離れ離れはおかしいじゃないか

オレはセリを離すつもりはないし」

レイがいれば…この城を、魔族も魔物も守れる……それはありがたいコトで、みんなの為だよな…

「朝までまだ時間はあるから、もう1回しようか」

ベットから手を伸ばし俺を掴み引き込む

レイが一緒にってコトは…こういうコトだ

俺が我慢すれば良いだけのコト

俺がレイを受け入れれば…全部良いコト?なのか?

「バカ言うな、若いからって回数ばっか求められてもこっちはしんどいんだよ」

「香月さんと和彦さんよりはマシだと思うが」

それは確かに

昨日の俺から求めたコトが思った以上にレイにとって満足だったのか、あっさりと引き下がってくれた

メンヘラゲージでもあんのかコイツ

高くなると我を失うみたいな、今は0%に近いとか?

「お腹空いた」

レイからすり抜けベットから下りてシャワーへ行こうとしたら

「セリ」

手を掴まれる

振り向くとレイは何か言いたげにしていたが、そのまま手の力を抜いて俺を離す

「…いや、何でもないさ」

俺は何も聞かずに背を向けた

前の俺なら、どうしたんだ?ってレイの言いたいコトを聞いただろう

でも、今は関係が変わってしまったから聞かなかった


シャワーを浴びて何か食べようと思ってカフェに来たけど、やっぱりあんまり食欲がなかったからロイヤルミルクティーだけ頂く

他には誰もいない静かな空間

時間的にそうか、まだ夜だしレストランも開いてない

ホント…静かだな…

ずっとこんな静かなら良いのに……

今夜のコトを思い出すと、やっぱり悲しくなる

自分が悪いってわかってる、自分が自分に折れたんだってコトくらい

でも、レイはずっと俺のコトを大切にしてくれていたから

もしその時のレイなら俺を心配しながらも、部屋から出て行ってくれたろうし

俺を傷付けるってわかってるから何もしない

って信じてる

だけど、今のレイはそれをわかっててする

そのコトに俺はショックでたまらない

今までずっとレイに甘えてたんだな、俺…

ずっと頼って信じて、それがレイにとって長いコト重たいものだったのかもしれない

レイをこんな風にしてしまったのは俺のせい

なら、レイがやるコトは全て受け入れなきゃいけない

俺が悪いんだから、勝手に傷付いてレイはこんなんじゃないって押し付けてる俺が……

「セリ様!!」

声をかけられて顔を上げると窓から朝の光が差している

「楊蝉…?」

いつの間にか朝になっていて、俺を見つけた楊蝉が目の前に立っていた

「暗い顔をなさって」

ソファに座る俺の隣へと楊蝉も腰掛け、いつも持ち歩いている扇子を閉じてテーブルに置く

「無事だったんだな、楊蝉」

「えぇセリ様が逃がしてくださいましたから、セリ様もご無事で…何よりですわ…?」

俺の様子を探るように楊蝉はニコリと微笑む

あっ…いつも当たり前で気付かなかったけど、楊蝉はいつも口元を扇子で隠している

でもそれは俺以外の人に対してだ

俺と話す時はいつも扇子から顔を出して話して笑いかけてくれる

「楊蝉や、みんなが無事でよかったよ」

サッと目線を逸らしてしまう

「お一人で抱え込むのはよくありません事」

楊蝉の手が伸びて俺の頭を抱えて、楊蝉は俺の頭を自分の膝へと導く

……………えっ!!!!?????

生まれてはじめての女性の膝枕を体験中!?

なにこれ夢!?

すご…柔らかい…しかも胸が近い

俺は別に膝枕がはじめてじゃない、いつも甘えて和彦や香月達に膝枕してもらってる時とかあるし

でも男と女の膝ってこんなに心地が違うんか!?こりゃやべぇ!?こんなん安眠もんだろ!!

「セリ様?」

「えっなんて?」

さっき話してたコト全部忘れた

「レイさんとの事」

楊蝉には…見抜かれている…

それはそうなのかもしれない、楊蝉は1000年以上生きているから

こんな赤子のような人間の小僧の悩みなんて丸分かりか

「私はセリ様の事を大切なご友人だと思っておりますわ

愛情でも友情でも、大切な方を傷付けたくはありません

悲しませたくも苦しませたくもありませんわ

自然と湧く気持ちとして、心配もすれば守りたくもなって支えになりたいと思うものでしょう?」

大切な…人…俺が忘れかけていたコトを楊蝉は思い出させてくれる

そうだ、恋人だろうが友達だろうが

愛は押し付けるものじゃない

愛は相手を幸せにするコト

それは相手の言いなりになるコトでもない

自己犠牲をするコトでもない

もう少しで…わかる…ような…気がす……

「楊蝉…?」

ポタポタと顔に生暖かいものが流れ落ちる

そっと頬に手を当て付いたものを見ると、ぬるっとした血が……

「!?なん」

ばっと起き上がって楊蝉を見ると心臓に氷の矢が刺さっている

言葉を失って息が詰まっているうちに誰かが俺の手を掴み、楊蝉に刺さる氷の矢を掴ませる

「女が相手なら嫉妬しないとは言ってないだろ?」

「オマエ…レイ…?」

楊蝉を…殺すなんて……

怒りが全身を巡る、その勢いで掴まれていない手を振り上げようとするとすぐにその手もレイに掴まれる

「オマエなんか……オマエなんか……!!」

「まだわからないのか?セリがオレを拒絶するならオレは何処までもやるさ

セリが受け入れてくれるまで…

次は誰を殺せば言いなりになるだろうか

後何人殺せばオレを受け入れててくれるだろうか

キルラ、ポップ、ユリセリ、女神セレン、それから…他に誰か残っているなら教えてくれ

全員殺して、周りに誰もいなくなったらオレを選ぶしかないな」

「ふざけっ」

「ふざけてはいない

魔族や魔物は殺せないって?忘れたのかい?ラナの事

勇者に殺す意志がなくても、こんな風に殺せるって」

ラナは俺が持っていたナイフを今のレイと同じように俺の手ごと持ってそのまま自分に突き刺して死んだんだ

レイは楊蝉を魔族と思い込んでいるから、俺の力で氷の矢を抜くコトで魔族の楊蝉を殺せたと勘違いした

楊蝉の身体から氷の矢を抜く感触が俺の精神を揺さぶる

違う…こんなコトしなくても、楊蝉は魔族じゃないからレイが心臓に氷の矢を貫かせた時点で楊蝉は死んでしまっていた

やめ…て…やめろ……殺すなんて……

そこまでして…俺を追い込みたいのか

レイは俺のコトを愛してなんかいない

レイは俺に依存しているだけだ、異常なほどに

そんなレイなんか…誰が好きになるか

これがオマエの本性だって言うなら、俺は…

「セリの頭にいる奴、全員追い出してオレだけにしてやる

心も身体もオレだけの、誰にも渡さない…」

「……そうかよ……」

それしか言えなかった

失望して、嫌な感情が強く渦巻いていても

何か言ったらみんな殺されるんだって思ったら

俺は情けなくも唇を強く噛んで我慢するコトしかできなかった

「そうやって頭の中はオレだけで埋めててほしい」

レイは血の滲む俺の唇を舐め取るようにキスをする

楊蝉ゴメン…俺には無理だ

君が言うような生き方は昔も今も弱い俺には出来そうにない

もう絶望しかないんだよ

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