120話『しつこい奴ら』セリ編

香月を、この手で殺してしまった…

何もかも失った俺は自暴自棄になっていたと、香月を殺した瞬間に気付いて

強い後悔しか残らなかった

最後の最後で…最後の希望を自ら壊して失ったバカな自分

でも、もういい…

どうせ俺の命はそう長くはないのだから

それが俺の運命なのだから



「セーーリーー」

浅い眠りに入っていたみたいだ

ドアの向こうからポップの声が聞こえる

ゆっくりと目を開けて、でも起き上がる気力が沸かない

「セリ様~~~」

今度はキルラの遠慮がちな声が聞こえる

まぁ…無視でいいか

また目を閉じる

ずっとここにいたい

香月の部屋で、香月のベットで横になる

まだ香月の匂いが残ってて…だから離れたくない

あー俺って気持ち悪い奴かも

「「セ~リ~ちゃ~ん、あーそーぼー」」

うざっ

キルラとポップは声を合わせるが、それでも俺が返事しないと痺れを切らしてドアをぶち壊して入ってきた

あぁ、今は誰とも会いたくない話したくないのに

仕方なく俺はゆっくりと身体を起こす

「ちょっとセリ様なに引きこもってんすか!?全然飯も食わねーし!死ぬぞ!?」

「そうだよぉ、セリは人間なんだから食欲なくても食べなきゃダメじゃん」

「香月の部屋のドア壊して、殺されても知らんぞ」

横目で2人を見るとやべって顔を青くしている

でもすぐに気を取り直して俺の傍までやってきた

「香月様が戻って来る前に直しゃーいいんだよ

ったく、セリ様が香月様倒したりするから

ここ!!ここ!?見ろって!!」

キルラは自分の前髪をかきあげておでこを指す

「ハゲが進行してんだよ!?今朝鏡見たらはぁああよ!?

昨日風呂入った時にやたら髪が抜けるなってこれか!!」

「ポップもぉ…香月様がいなくなったから、胸がワンカップ減ったんだよねぇ最悪ぅブラ買い替えしなきゃあ」

ポップは自分の胸を両手で下から持ち上げてガッカリしている

香月、魔王が存在していると魔族と魔物は本来の力を得られるが、魔王が存在しないと大幅に力が失われる

魔力が大幅に失われるだけじゃなく、美形一族とも言われる魔族は何故か美しさも2割増しになったり減ったりするらしい

どうやらキルラは頭に、ポップは胸に、来ているらしい

どことなく見た目や雰囲気が少し変わっているような気がする

それでも一般的に見ても魔族は美男美女に変わりはないような…

「「……………。」」

暫く沈黙が続く

「いや!?別にセリ様を責めてるわけじゃねっすよ!?」

「そ、そうだよぉ?責めてるんじゃなくて

ポップの大事なおっぱいがこのまま小さくなってセリカと同じサイズになったら生きていけないって思っただけでねぇ!!」

ストレートにセリカによくそんな胸で生きてられるなって言ってる!?

「……オマエ達が俺を責めてもおかしくはない

魔王の仇って俺を殺してもいいハズだろ」

目を合わせられなかった

本当は、魔王と勇者は敵同士

コイツらだってそれはわかってるだろうし、魔王を殺した俺が憎くないワケがない…

「……セリの事は…殺さないよぅ

香月様を殺したのは許せないけど、セリの事は殺すなって香月様が言ったから

何よりポップはセリの事も香月様と同じくらい大好きだからね」

誰もが香月が死んだって、魔力の消失でわかるのに…

誰も、俺を殺そうとか…しなかった

だから俺はここにいて今も生きてる

どうして…殺された方が楽なのに

「あー!!そういうの!オレ様めっちゃ嫌いっ!

セリ様のそういうなんか暗いのな!無理無理無理!!!

もー行こうぜ、ポップ」

「う、う~ん……」

キルラはほなさいならと俺に背を向けて部屋を出て行く

その後をポップは俺の様子を気にかけつつもキルラについて出て行った

今はこれ以上話してもアイツらに嫌な思いをさせるだけだ

きっと俺は嫌なコトも言っちまうだろうし、嫌なコトもしてしまうだろう

余裕のなさがどんどん自分を嫌な人間へと変えてしまいそうで、死ぬほど自分が嫌いになっていきそうだ

このままじゃダメだとわかっていても…もうどうでもいいって無気力になる



それから暫くして楊蝉の声が聞こえるまで時間が経っているコトに気付かずにいた

「セリ様!大変ですわ」

時間がわかんなくなるな、こうも気が滅入っていると

誰とも話したくない、関わりたくない気分なのに

それでも誰かと話すと少しだけ自分を保てるような気がする

楊蝉に早く早くと強引に手を引かれる

「大変って、一体何が…」

「キルラさんとポップさんが大怪我して帰って来られたのですわ

魔王様がいない今のキルラさん達は自己回復が使えませんからセリ様のお力が必要でして」

大怪我って…また何やったんだ、しかも2人して

仕方がないなと楊蝉に連れられるままキルラとポップのいる部屋へと来た

部屋に入るとベットに運ばれたままでまだ何も手当てされていない2人が苦しそうに虫の息でいる

「オマエ達…なんだその怪我は」

すぐに回復魔法で痛みを感じさせなくしてやると2人はすんなりと安らかな眠りへと入る

怪我を治す前に気になって近くでポップの様子を見てみる

今の自分達に自己回復ができないのは本人達が1番わかっているハズ

なのに、なんでこんな死にかけになるまでの怪我を?

それにこの傷……矢の跡、そして氷魔法の気配が残っているのを感じた

ぞくっとする…まさか…いや、でも……どうしてだ

「セリ様…」

楊蝉に心配の声をかけられてハッとして、すぐに2人の怪我を回復魔法で治した

レイが俺を追って近くに…いるのか?

キルラやポップを狙って俺をあぶり出そうとしている…?

「セリ様、お顔の色が悪いですわ

もうお休みになって」

やんわりと楊蝉に肩を叩かれその手をそっと払う

「……ここにはいられない…俺がここにいたらみんなに迷惑が…」

「それは違いますわ!!」

「俺がここにいたら楊蝉も殺されるんだぞ!?他の魔族や魔物だってキルラとポップみたいに半殺しに…」

俺が出て行くと言えば楊蝉は俺に抱き付いて止める

レイはもう別人だ、手段も選ばないよ

ここにいたら…本当に……

…じゃあ俺はどこへ行けば…

「違いますの、違いましてよセリ様…

キルラさんとポップさんは…セリ様のために」

「俺のために…?」

振り返る俺と目が合うと楊蝉はしまったと目を逸らすけど、もう遅いと覚悟を決めたように話す

「そうです…キルラさんとポップさんは魔王復活をなさろうとしているのですわ」

魔王復活…?復活って…香月が生き返るってコトか…?

その言葉を聞いて、少しだけ目の前が明るくなったような気がする

「魔王復活…どうして俺に言わないんだ?そんな大事なコト」

「言えないでしょう、それには魔王の力が必要なんですもの

その魔王の力を持っているのは…あのお方でしょう?」

あ…あぁ…そうか、そうだったのか

キルラとポップは俺に気を使って自分達でなんとかしようって……

勝てもしないってわかってて…こんなにボロボロになっても……どうにかしようって

コイツらのコト…分かち合えない別の生き物だって思ってたけど……

香月の復活が1番の目的かもしれない、でも魔王の力が必要なら俺に言えばいいだけなのに

俺を利用すればいいのに…

それをしないで自分達でやろうなんて……

俺はこんな所で膝を地に付けてる場合じゃない

「キルラやポップが、そんな無理するコトじゃない」

香月を復活させる?

また香月に会いたい、キルラやポップ達に迷惑をかけた償いも、自分のやったコトに自分で責任を持って

まだ拳を握れる力があったんだ

「…んで…バラしてんだよ女狐」

「なんですの!?その様で!キルラさん達が情けない姿で帰って来るからではありませんか

貴方達だけでは無理だって事はさすがのお馬鹿さんでもおわかりでしょう」

眠っていたかと思っていたキルラは体を起こし楊蝉へと突っかかる

「はっ!?このオレ様に無理なんてッ」

「やーめーろ!バカ!女の胸倉掴むなんてダセーコトすんなキルラ」

2人を引き離して頭に血が上ってるキルラを落ち着かせるように俺は楊蝉の間に立つ

楊蝉の言うコトはその通りだ

でも、キルラにもポップにも…魔族としての想いがあるんだろう

魔王を復活させるコト、魔族なら王の復活を望むのは当然のコトだろうし

だけど、やっぱり今のキルラ達じゃ絶対に無理だ

レイが強いだけじゃなく、レイは魔王の力まで持っている

勝てるワケがない…

「ちょ、ちょっと皆!?喧嘩なんてしてる場合じゃないよ~~~!!??」

何かに気付いたポップは飛び起きて窓の外を指差す

珍しくポップがマズいと言った雲行きの怪しい顔で苦笑する

窓の外、遠くには見覚えのある大群が…

「ああああ!!?あいつらチョーしつけー奴らじゃん!?しかも卑怯!!」

植物のモンスターだ

よく香月やキルラ達強い魔族がいない時を嗅ぎつけて襲って来る

キルラやポップがいるのに来るってコトは、魔族の強さが著しく低下しているコトに気付いてるな…

それはマズい……

今この城が無事なのは、魔王が倒されたコトを隠しているから

それを知られ、魔族が雑魚に成り下がったとわかったら全世界から一気に潰される

魔族は俺の力じゃないと殺せないとは言え、ボコボコにされて負けは確定

今までのコイツらの悪行からして自業自得、当然の報いなワケだけど

……………。

見捨ててはおけないな

俺は人間達の敵だ…

悪い魔族の味方をするんだから……

本当なら俺が倒すべき敵はオマエ達なのにな

「どーしよーセリー!?戦って勝てるー!?」

「ねぇよ、無理、100%負ける」

俺の回復魔法があっても、力のないコイツらが勝てなきゃ戦いが長引くだけで最終的に絶対負ける

「植物は火が弱点ですわ、セリ様の炎魔法と私でそこそこはやれると思われますが…」

楊蝉もやっぱり最終的には負けるんだと歯切れが悪い

「ちょちょちょ!!セリ様の炎魔法はわかんけど、なんで楊蝉がやれる側なんだよ

オレ様の方がつえーんだから、香月様がいなくなった今はオメーも役に立たねーよ」

またキルラは楊蝉に突っかかる

そんな時間ないだろ

「キルラ残念だけど、今のオマエよりは楊蝉の方が強いよ」

「はぁあああ!?」

楊蝉に手を掲げさせ

「打ってみな」

キルラのその翼で楊蝉の手にパンチさせてみる

「怪我したって知らねーぞ!?おらああああ!!!ワンッツッ!!」

2発ばかり楊蝉の手にキルラはパンチを繰り出したが、楊蝉はピクリとも反応しない

「………あれ?ワンッツッ!」

もっかいとキルラはさっきより強くと渾身の力を出してパンチ

「……お、おん、おおおお女は殴らない主義ななんだよ」

わかりやすい震え声出すな

「キルラださーい!楊蝉なんて弱っちぃのに、次はポップが」

キャハハとキルラを指差して笑うポップを止めてネタばらしをする

「そんな時間ねぇし、オマエら気付いてないんだろうなって思ってたよ

楊蝉は魔族じゃねぇぞ」

「「……………。」」

「ホーホッホッホ!気付かないなんてお馬鹿さんね

私は魔族ではなく天狐なのですわ!!」

「うっ、ウッソーだ~~~」

ずっと楊蝉を魔族と信じていた自分の間抜けさを認めたくないキルラは目を逸らしている

ポップは開いた口が塞がらない

「香月もわかってたぞ」

「さすが香月様とセリ様ですわ」

楊蝉は嬉しそうに俺の肩に手を添えるとふわりと香る白檀の匂いが鼻を掠める

楊蝉の良い匂い、ちょっと心が落ち着くわ

「テンコ?何ソレ??」

キルラは初耳だと首を傾げる

「俺も詳しく知らないんだが、妖怪の一種じゃ?」

「へーふーんーほーん、妖怪ねー…カッパ見てぇええええ!!」

急に何コイツ

「ま、まぁそんな感じですわ…(この世界に来てから神通力も弱まってしまいましたから下手に天狐の話をすると馬鹿にされそうなので黙っておきましょう…)

そんな事より今はあちらをなんとか致しましょう!」

楊蝉の言葉に俺達は置かれた立場を思い出す

そうだ、今は無駄話してる場合じゃねぇな

でも…俺はチラリと楊蝉を見上げる

「どう致しまして?さぁセリ様、貴方の一言で皆さんが動きましてよ」

楊蝉はニコリといつものように上品な笑みを向ける

楊蝉は魔族じゃないのに、どうして魔族の中にいて危険なコトも一緒に乗り越えてくれるんだろう?

こんな勝ち目のない戦いも…付き合わずに逃げた方が良いのに

そう言えばいいのに、俺は楊蝉に甘えて一緒に戦ってもらってる

いつもこれまでもこれからも

「よし、行こう

この城を守り切って香月の死を復活まで隠し通すぞ」

「「ラッジャー!!」」

キルラとポップは元気良く返事をしては急いで植物モンスターを迎え撃つ準備をはじめる

いや、本当に勝てる気がしない

香月を倒してからこの城に残る魔族や魔物もかなり少なくなった

だけど、キルラ達は勝てない戦いでもここからは逃げ出したりはしない

だから…俺は負けるとわかっていても付き合わなきゃいけないんだ

俺が香月を殺してしまったのだから…


準備が出来たと報告を受けた俺はキルラ、ポップ、楊蝉、そして数少ない魔族と魔物達と城の外へ出る

とりあえずはやれるところまで…

セリカの持つ勇者の剣で俺の魔力は底無しだ

炎と回復と、体力が続く限りは戦える

敵が城には近付けないように炎で出来た巨大な壁を出現させる

「スゲー、魔力弱まったオレ様から見た今のセリ様は恐ろしいっすね」

炎の壁を開いた口のまま眺め鼻をほじるキルラに誰か緊張感を与えてほしい

「まっ要は、セリ様の体力が尽きる前に決着付けりゃー良いって事っしょ

サポートはオレ様らに任せていっちょ大暴れしてくださいっすよ!」

馴れ馴れしくキルラは俺の肩を叩こうとするから避けた

いやだってそれさっき鼻ほじってたし

「大暴れってキルラじゃあるまいし」

仕方ないか、植物に強い炎魔法が使える俺が1番アイツらと戦えるんだもんな

それじゃ、行くぞ!!

目の前に襲いかかってきた植物モンスター達にそれぞれが戦いをはじめる

そして、俺はすぐに植物モンスターのツルに足を掬われ吊り上げられた

「うそぉおおおお!!!???セリ様ああああ!!!?」

咄嗟にキルラがツルを切り落とし俺を助けてくれる

「早くない!?もう戦線離脱すんのかと思ったけど!?」

「忘れてた、俺が強いのって魔族と魔物相手だから

植物モンスターの動きが俺には見えないし付いていけないんだよ」

アハッと俺はマズいな~と笑う

「人に緊張感がどうのこうの言ってる場合か!!?あんたが1番緊張感ねぇよ!?期待して損した!この役立たず!!」

「おいおい、よく見ろよ

あそこで黒こげになって動かなくなってる敵達は俺が倒したんだから俺は役に立ってるだろ!!」

「オレ様が助けたのになんでキレてんの!?」

「つまり、ヤバいって言ってんだよな」

周りで戦う仲間の傷や怪我を回復魔法で治しながらキルラと話す

「はぁ???」

「植物モンスターは賢いってコトだよ」

一斉に植物モンスター達は俺へと向きを変え襲いかかってくる

「弱点の炎魔法、敵から見たら厄介な回復魔法、そして弱い人間

そりゃ俺を倒せば一瞬で決着は付く」

でもそれがわかっていれば俺に近付くより先に炎魔法で敵を瞬時に倒せる

「うわっあっつ!?こわっ!?」

キルラは飛び散る炎の欠片にぴょんぴょんと踊らされている

「倒させませんわ、私がセリ様をお守り致しますもの」

楊蝉が駆けつけて燃え残った敵を倒して俺の無事をくれた

「ダメだ、楊蝉は魔族じゃないから下手したら命を落とす

俺の盾になるな、盾ならキルラにやってもらうから」

「死ななかったら残酷な扱いも平気でするあんたはさすが魔王様の嫁って思うよ…セリ様しか無理だよ香月様の嫁は…」

「俺の回復魔法で痛くも痒くもないんだから文句なんかないだろ」

喋りながらも襲いかかってくる植物モンスターを炎魔法で灰に変える

ワンパターンだからタイミングさえ掴めば苦労はしない

って言えるのは、植物モンスターでもレベルが低い今までの相手まで…

「危ないですわ!!」

楊蝉に庇われ敵の攻撃から間一髪避けるコトができたがそのまま楊蝉と一緒に地面へと倒れる

「楊蝉…!?」

はっと気付いた時には楊蝉の心臓近くを貫く大怪我を負っていた

すぐに回復魔法で治して立ち上がるが

「だ、大丈夫ですわ…」

さっきのは冷や汗ものと楊蝉は無理に笑う

やっぱり…楊蝉はダメだ

楊蝉はこのままだと殺されてしまう

俺が敵から狙われれば楊蝉が庇う

それに俺が倒れでもしたら、その後楊蝉がやられる可能性だってある…

目の前の楊蝉を見上げるとどこからかまたツルが伸びて楊蝉の首へと絡まる

そのツルを掴み炎で燃やすと同時にキルラが切ってくれた

楊蝉の首元にはくっきりと強いあざの跡がついてしまった

これくらい回復魔法で治せるけど、後少し遅かったら楊蝉の首はへし折られていたかもと思うとゾッとする

「も…申し訳ございま…せん…足手まといで……」

地に膝を付く楊蝉を見下ろし俺はポップを呼んだ

「ポップ!」

「はいよ、セリ」

すぐに傍へ来てくれるポップに楊蝉を預ける

「ポップ頼む、楊蝉を連れて逃げてくれ」

「うんいいよ!」

「嫌ですわ!?私はまだ戦えますもの!」

ポップに引っ張っられる手を振り払って楊蝉は俺の両肩を掴む

それをすぐに払いのけて視線を逸らす

「足手まといなんだよ、わかるだろ楊蝉

死ぬとわかってるオマエがいると俺はオマエを気にかけて戦わないといけない

余裕のない今、そんな器用な戦い方は俺に出来ないって

邪魔だからいない方がいい…早く連れて行けポップ」

「オッケー!」

「セリ…様……」

楊蝉の悲しい声だけが耳に残る

すぐに楊蝉とポップの気配を感じなくなった

「ヒュ~、あのセリ様が女を冷たく引き離すなんてらしくねぇっすねー」

今の楊蝉ならポップの力を振り払うコトはできる

でも、それをさせないために俺はあえて冷たく突き放した

俺には守れる自信がないからだ…

もう誰も…死んでほしくないから……

俯き、ぐっと拳を握る

「…そうでもないか、セリ様はやっぱりセリ様っすね」

「うるせぇ、よそ見してるからそんな腹にいっぱい穴開けてんだろ」

回復魔法のおかげで痛みを感じないキルラは敵からたくさんの攻撃を受けて腹が蜂の巣みたいになっていた

「きも!?」

自分の腹を見てキルラは目を飛び出すほど驚いている

「じゃーあ!そろそろ本気出しますかね」

そう言ってキルラはごそごそと何かを出してきた

「なんだそれ?」

「ジャジャーン!ドーピング!!」

変な色の液体が入った瓶出してきた

「これを飲めば一定時間強くなれる!!」

ほいセリ様にも、ともう1本俺に差し出す

そんな良いものあんのか

じゃあ飲むしかないな、もっと炎魔法の威力がほしいところだったし

もしかして毒かもと疑ってキルラが飲みきってなんもないコトを確認してから俺も飲んでみた

栄養ドリンクみたいな味だ、飲みにくくはないな

「ちなみに副作用がある!!」

「ッ早く言えや!!!!」

もう全部飲んじゃった俺は空の瓶を思いっきりキルラにぶつけた

キルラは目に見えて身体が一回りデカくなり筋肉がムキムキになる

俺は…身体の変化はないが、炎魔法の威力が大幅に上がったのを感じる

なんだこれスゲー

「まぁまぁ、そんな深刻な副作用じゃねぇすから

女30人くらいいればなんとかなるって」

「は?」

「ドーピングが切れると異常なほどに性欲が湧くだけなんで」

「困るわボケ!!?」

「セリ様にもオレ様の女分けてやりますから心配せんでも」

「俺は自慢じゃないが童貞なんだよ!!!!!!!」

童貞の意味、まだ異性と接してない人のコト

俺は男、女と(性的な意味で)接したコトがこの23年間一度もない

「ガチで泣いてるこの人…」

「ってか、好きでもない女抱けるか!!」

「女好きになった事あるん?」

ない…けど……あったか…?

あの子かわいいなって思うコトはいっぱいあったけど…女の子に興味もあるけど…

そもそも俺には女の子と良い感じになったコトなんかなくて…

「えーじゃあ、どうするん?(香月様も和彦もいないのに)」

「副作用を先に言えよ!!」

もう遅ぇよ!いまさらもう…考えたって仕方ねぇ

今は目の前のコトを片付けるだけだ

さっきより強い植物モンスター達がワラワラと溢れ向かってくる

ドーピングで強気になったキルラは次々と敵をちぎっては投げちぎっては飛ばしで、俺や他の魔族や魔物の出る出番はなくなったかのように見えた

なんもしなくてもよくなったくらいキルラの独壇場で、俺が副作用付きのドーピング使った意味のなさに凄く後悔する

「あはははははははははは!!!オレ様1人で十分!おめーらは茶でも飲んでなぁ!!?」

そうやって調子に乗ると後で絶対足掬われると思うんだけど…と眺めているうちに

その後はすぐにやって来てしまった

キルラの足元の地面が大きく裂けて

「おっ!何ぇ!?!?」

咄嗟にキルラは飛び跳ねようとしたが、地面から勢いをつけて無数の鋭い牙を光らせた大きな口がキルラを襲い飛び出てくる

「き、キルラ!?油断すん……なっ!?」

キルラより俺の反応より早く地面から裂けた口をはじめデカい図体を現し空の一部を隠す

俺や数人の魔族に影を落とせるほどの巨大な植物モンスターの見るからにボスみたいなやつ、の登場

キルラはそのまま植物モンスターのボスに虫のように飲み込まれてしまった

マズい…死なないとは言っても戦闘不能に近いドーピングキルラがいなくなったとなったら、完全に勝ち目はない

とにかく、せっかくドーピングで炎の威力が上がってる俺がなんとかキルラを助けて2人でかかればなんとか…いけるか…?

そう考えながら俺が動くより先に植物ボスのツタが俺の足に巻き付く

咄嗟に炎魔法をツタに向けたが、ジュッと火が消える音と共に灯りが消える

「マジか…コイツ炎が……あっ!?」

そのままツタを強く引かれバランスを崩し背中を強く打つ

続いて植物ボスは鋭いツタで俺の胸に穴を空けた

ヒヤッとした…心臓を狙われて即死でもしたら俺は終わってしまうから

即死じゃない限り、俺はどんな攻撃でも治せる

だから……

「ぁ…れ……?」

俺の胸からツタが引き抜かれると、少しずつ力が抜けていくのがわかって意識まで遠くなっていく

起き…上がれない……意識も保てない…なんでだ

毒…?いや、俺は毒も浄化できるから…

重くなっていく手を胸に持っていくとボスに空けられたら穴に何かが刺さっている?

消えそうな意識が最後に見たのは俺の胸から一輪の真っ白な百合の花が咲いてるコトだった

百合の花の香りがする…

そして、その百合の花が俺やキルラ達が倒した植物モンスター達の傷を回復しているのがわかった

無傷になって起き上がる植物モンスター、残った魔族や魔物達が次々に倒されていく

俺は自分の胸に咲く百合の花を手折る力なく意識を失ってしまった

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