122話『鬼神の牢獄』セリカ編

鬼神の牢獄、その谷は深く空が見えなくなるほどの場所

そんな高さから落ちてしまったのに、生きている私

「……奇跡!?」

地面に身体が着いた時、私はビックリして飛び起きる

いや、生きてるって思い込んでるだけで実は死んでしまったのかもしれない

「私達は生きていますよ」

下の方からフェイの声が聞こえる

地面にしては柔らかいと思っていたら、私はフェイを下敷きにしていたようだ

「あっ、ゴメンねフェイ」

この谷へ落とされた時、フェイは私を庇ってくれたのか…

あの高さから落ちたらどう頑張っても2人とも死ぬところだけど

ここは…普通の場所じゃない

何か不思議な力が立ち込めているわ

「いえ大丈夫です、それよりまだ安心はできませんね」

私がフェイの上からどくとフェイは立ち上がり辺りを警戒する

ざわざわと何かがゆっくりと近付いて来る気配

フェイが言うにはその気配や足音は全部で8人らしい

薄暗い中で灯りとともに現れたのは、この谷の名前通りの鬼の象徴とも言える角を持った人の姿をした全員容姿の整った鬼達だった

「ヤバい…イケメンしかいない」

鬼じゃなくて鬼神か、鬼神の牢獄なんだもんね

「セリカ様は相変わらずですね…」

「もちろん私は香月が1番だと思ってるわ、香月の見た目が1番好きなの」

思い出すだけでも胸がいっぱいになって焦げてしまう

苦しいほどに好きすぎて吐きそう

香月は私(セリくん)の初恋だから仕方ないわね

キャーキャー、ヤバい

「この状況で能天気な…見えていないのですか?今にも襲って来そうなあの連中を

セリカ様は女性ですし、私が倒れたら酷い目に合うかもしれないのですよ」

「確かに!?」

いくらイケメンでもそれは絶対に嫌よ、そういうのに見た目は関係ないもん

イケメンだから許されるとかないわ

「人間の男と女が落ちてきたぞ…」

「ここがどういった場所か教えてやろう、女は殺さず男は始末だ」

うーん、どこにでもある展開になったわね

困ったわ

鬼神が8人、絶対勝てるワケないしね!?

それに、本当に鬼神がいて和彦がここに落ちたとして…

鬼神の姿があって和彦の姿がないとなると…もしかして…

嫌な想像に身体が震える

もし、もし、和彦が…死……

「セリカ様、しっかりなさってください

和彦様は相手が鬼神でも負けはしません」

「いくら自分の主人が凄いからってフェイ…和彦が人間辞めてる強さでも鬼神8人に勝てるワケないじゃない…

私は…自分が酷い目に合うより、和彦がもしかしてって思ったら…」

どうしよう…そんなの嫌

せっかく、悪魔カップルから別れ話をした和彦は偽者だってわかって

やっと…やっと、会えると思って

「震えているぞ、あの女」

「我らが怖いのであろう」

一歩一歩近付いてくる鬼神、私を守るようにフェイは前に立つ

フェイの影に、私は自分の弱さを振り払って飛び出した

「わ、私はどうなってもいいわ!でも、フェイは見逃してあげて!

私の為にフェイは協力してくれてるだけだから」

「やめてくださいセリカ様!危ないです」

フェイに掴まれて引き戻されるより先に私は走り鬼神の1人の手を掴む

もうこれ以上、誰も失いたくない

1人失う度に私が壊れてしまいそうになるから

フェイはもう仲間だもの、私を守って死なれるくらいなら

自分が犠牲になる方がマシだ…!!

「お願い、私は何されてもいいわ

陵辱したければ……すれば、いい……その変わりフェイの事は見逃してください」

お願いします、と私は鬼神を見上げると固まった表情の後パッと手を離された

「ひぃややあああああああ!!!???」

なにその痴漢に遭ったみたいな悲鳴!?

よく見るとこの鬼神は赤鬼なのか顔が真っ赤になってしまった

「そ、そんんんないきなり、手を繋ぐなんていけ、いけない!!

ちゃちゃんと、まずはお互いの事を知って

ままままままずはぶ、文通から……」

「きぇええあああああああああああ!!??あいつ女と手を繋いだぞ!?」

「最低だ!!不埒な!!気持ちが通じてはじめての行為をそんな、あっさりと」

待て、どうしたこいつら

はじめての行為が意味深に聞こえるからやめろ

鬼神達はみんながみんなただ手を握っただけで大罪だみたいな反応をした

「抜け駆け許すまじ!私もまずは文通からお願い申す!」

「我も、名乗り出よう!!」

フェイなんか最初からいなかったかのように鬼神8人は私を囲み、はじめて女と接する童貞みたいな反応を各々が見せる

「て、ててて天女のよう、におきぇれきおお綺麗で」

褒めるのに噛むな

「てててねんてんにょなょグハッ!?天女のお名前を聞いてもよろしいか?」

自分で自分を殴って興奮を鎮めた鬼神が名前を聞いてきた

「セリカです」

「素敵なお名前だ…」

名前聞いただけで鼻血出してる奴いる

予期しない光景に暫くフェイは呆気にとられていたけど、すぐに鬼神8人に埋もれていた私を引っ張り戻す

「ああ?んだおまーは、セリカさんの男か?」

急にヤンキーみたいになった

鬼神はフェイの姿を見ると私とは違う鋭い睨みを見せる

「私はセリカ様の男ではありません

そもそも私は恋人のいない人に興味はまったくないので」

わざわざ自分の性癖言う必要ある?

「えっ!?こんな天女のようなセリカさんがフリー??チャンスぞ!?」

鬼神って東洋系の見た目してるのに、凄いカタカナ使うじゃん

キャラがわからないよ

「いいか皆、誰がセリカさんの心を射止めても正々堂々戦って文句なしに決めよう」

「「「賛成!!」」」

「わしが!」「いやおれが!」「我が!」

どうしよう、私がここに何しに来たのか忘れそう

とにかく私には凄く好意的みたいだわ

それじゃあ、フェイのコト始末しないでってお願いすれば聞いてくれるかも

「あの、みんなお願いがあるの」

「はい!」

「絶対聞く!」

「セリカさんの言う事なら!」

なんかやりにくいなぁ…ハハハ

もしかしたら悪い人達ではないのかも

「男は始末って言ってたけど、フェイのコトは見逃してくれる?」

恐る恐るお願いする

鬼神の絶対的な掟みたいなものがあるかもしれないし

「「「もちろん!」」」

そんなコトはなかった

うん…じゃあ…ここは勇気を出して…聞いてみよう

怖いけど…どうか、無事で

「あの…ひとつ聞きたいコトがあって

和彦って言う、私とあまり身長が変わらない男の人

髪が長くて1つにくくってて、目がパッチリして顔は女の子みたいに可愛いのに

雰囲気がナイフのように鋭くて恐くて鬼畜で馬鹿力でめちゃくちゃ強くて人間辞めてるような

そんな人を知らない?」

鬼神達は和彦の名前を聞くと顔を揃えて頷く

「和彦様のお知り合いでしたか」

和彦…様!?様!?様って!?!?

鬼神に様呼ばわりって、アイツ何やったんだ…

「知ってるも何も和彦様は我らの主」

おいおい、アイツ本当に人間か?

鬼神までも舎弟にしてるぞ

「私達鬼神が8人がかりでも敵わなかったのです」

「さすが和彦様、私の主人」

急にフェイが後輩できたみたいな顔して鼻高々になってる!?鬼神が後輩って…

でも…でも…和彦が…和彦が!生きてる!?

う、嬉しい…よかった…本当によかった……

思わず目頭が熱くなる

早く、会いたい…

「和彦に…会わせて、くれる?」

鬼神達にそう言うと、みんな急にシーンと静まり返り口を重くする

「和彦様は…生粋の女好き

この女人のいない谷に落ちてしまってからはじめて会うセリカさんの身が心配です

ここは適当な女人を与えて、まずはセリカさんの身の安全を」

「やめろ!!知ってるわ!!その和彦の女好きに散々泣かされて来たんだよ!?

思い出すだけで悲しいわ!やっぱあんな奴とは別れ…」

「急にセリカさんが男っぽく!?」

「でもなんか可愛い、セリカさんが男でも絶対可愛い」

「男でもいける」

まあまあ落ち着いてとフェイに宥められる

はぁ…落ち着いたわ

確かにあの和彦が女なしで生きていけると思えないわ

最近は浮気してなかったみたいで余計に溜まってそうね

大丈夫かしら私…セリくんじゃなきゃダメなんだから…

「それでも私、和彦の無事をこの目で確認したい」

大丈夫、和彦を私は信じてる

「わかりました、案内します」

鬼神は私とフェイを和彦の所へと案内してくれた

この谷は小さな村になっている

鬼神が長い年月を過ごす為に、日本昔話に出て来るような村

奥へと案内され、やっと和彦の後ろ姿を見つけた

「あちらに和彦様が」

姿が見えた所で、気を利かせてくれた鬼神とフェイはそこで立ち止まる

私はゆっくりとゆっくりと和彦に近付いた

後数歩のところで和彦が振り返る

思わず私は背を向けてしまった

「うっ…」

泣きそうになったから、本物の和彦に会えるコトに

「セリ…」

声が聞こえて、足音が近くなる

和彦の声を聞いて私の涙がこぼれる

「セリくん…」

後ろから和彦にぎゅっと抱きしめられる

和彦だ…和彦……俺を好きでいてくれる本物の和彦

会いたかった…スゲーめちゃくちゃ……

本当に…よかっ、

「セリくん…会いたかった……」

和彦の回していた手がお腹の位置から胸へ移動してきて、めっちゃ揉まれた

「わざとだよね!?」

思いっきり手をつねって和彦の方へと向き直る

「わざとだよ、セリカ」

目の前には長年付き合ってきた和彦の変わらない姿があった

悪戯っぽく笑う顔が、好きだなって思うけどムカつく気持ちの方が勝つ

「私にセクハラはやめて!」

「大きくしてやろうって善意なのに」

「余計なお世話だわ」

和彦は私の頭を抱いて引き寄せる

和彦の胸に抱かれて、セリくんじゃない私はいつものように突き放そうと思ったけど

「無事でよかった…セリくん…」

何も出来なかった

和彦のその言葉で、私は悟ってしまった

貴方がここに落ちた理由が…

思った通り、和彦はここに落ちた理由を話してくれた

和彦はこの谷の上に呼び出されたのだ

セリくんを人質に取ったとあの大悪魔シンに言われて

当然それは嘘

昔の和彦ならそんな嘘に騙されなかったろうけど、そんな嘘に騙されるくらいセリくんの事好きなんだなって自分でも気付かなかったと和彦は笑う

和彦の話を聞いてわかった

そうやって和彦を鬼神の牢獄に突き落とし、あのカップル悪魔で一芝居打ったってワケね

まんまと騙された私はバカだわ…

冷静になればわかるハズなのに…和彦のコト…信じてあげられなかった……

「早く……会いに来てね……」

でも、謝るのもこうして抱きしめられるのも私じゃない

もう1人の自分へ

私はそっと和彦の身体を押し退ける

「……あぁ、会いに行くよ

すぐに、待ってろ」

和彦はふっと笑って私の頭を撫でてくれる

暫く見つめ合っていたけれど、聞きたいコトはたくさんあるから私は訪ねる

「でも、ここからどうやって地上に帰れば…」

困ったと首を傾げると和彦は指を差す

「ここから」

その先を見ると壁が階段状になっているのに気付く

まさか…この人、自力で階段作ってこの谷を昇るつもり…?

発想も実行力も、やべー…

「そのような事をしなくても、7日後には地上へ行けるとおっしゃってるんですけどね」

ずっと見守っていた鬼神達がわらわらと寄ってきて教えてくれる

「それって、どういう?」

「長い眠りからやっと目覚めるのです

天龍が目覚めた時、我らが鬼神もこの牢獄から解放される」

天龍…?えっ鬼神が地上に解放されるの?

それって凄い大事なんじゃ…

「地上には女の子いっぱいいるからよかったね」

「わわわわわわわわわわわわわわわわ」

「私達は目移りしませぬ!

セリカさんを一目見た時から一筋と誓いました」

「生涯セリカさん命ぞ」

天龍ってなんか凄そう

それじゃあ、どうして和彦は自分で階段作ってるの?

「どうして和彦様が階段を作っておられるか

じっとしてられないんだそうですよ

早く会いに行かなきゃならない人がいるんだとか」

そ、それって…セリくんのコト?

ドキッとする

和彦ってば…そういうの言わない人だもんな…

意外に照れ屋な所もあるんだよ、うふふ

やば、凄く嬉しい

でも、この高さを見ると7日に天龍が目覚める方が早そうね

そうして私達は地上へ帰れる天龍が目覚める7日をここで過ごすコトになった

和彦に会えたから一安心で力が抜けたように凄く疲れちゃったな


鬼神達は私を気遣ってくれて様々な持て成しを初日からしてくれた

「セリカさん、とってもお似合いです!」

「天女のよう」

自分達で着せておいて、8人が8人とも天女の私を見て鼻血を吹いて失神した

女に免疫なさすぎだろ…

ここに女人はいないのに、いつかを夢見て女人の服を作っていた鬼神はさっそく私に着せた

本当に、天女みたいな着物だわ

髪型も結ってもらって鏡を見ると本当に天女かと思う

こういう格好、はじめてだけど悪くないわね

和彦に見せに行こうっと

私は機嫌良く和彦の部屋を訪ねた

「どう?可愛い?」

「可愛い可愛い」

ふふー、ご機嫌だわ私

和彦の隣へと私はそこにあった座布団に座る

座布団とかこの世界に来てからはじめてでなんか懐かしい

「それにしても和彦凄いね、鬼神8人を相手に勝つなんて」

「当然」

ふと和彦の手が視界に入る

その手は傷だらけで痛々しかった

「ちょっと和彦!怪我してるじゃん!?

どうして言わないの?」

手を掴みすぐに回復魔法で治す

いつも…そうだ、和彦は自分からそういうコトを言わない

私に情けない姿、ダサい姿を見せたくない

弱音を吐きたくないって、プライドを持ってる

だからいつも私が気付いてあげなきゃいけなくて…

「もしかして…!?」

「おいセリカ?」

私は和彦の服をめくった

やっぱり…和彦の身体は傷だらけだった

手当てはしてあるけど、この大怪我でなんともない顔が出来るなんて人間じゃないわ

足や手もよく調べると骨折までしている部分もある

「和彦…」

すぐに私は和彦の全身に回復魔法をかけて治す

私はやっぱりバカだ

和彦に会えて浮かれてて、何も気付けなかった

いくら無敵の和彦だからって鬼神8人相手で無傷なワケない

かすり傷のワケない

死にそうになるまで戦ったに決まってるじゃん…

「どうしても、死ぬわけにはいかなかった

オレはセリくんの運命の人じゃないから、死んだらきっとセリくんの事を忘れる

生まれ変わったら、もう二度と触れられないんじゃないかって

知らずに生きて…死ぬ、を繰り返す」

鬼神8人と戦って負けそうになった時に思った

と和彦は珍しく私に弱音を吐いた

きっと…私がセリくんだけどセリくんじゃないから話してくれたんだ

和彦の気持ち、いつも言わないのは照れてるからなのかもしれない

「それは嫌だな

死にたくなかった、セリくんに会いたいから」

話してる時、和彦は恥ずかしいのか私を見ようとしなかった

でも

「そんなに」

「すげー好き」

その言葉をくれた時、和彦は顔をあげてまっすぐに私を見て伝えてくれた

なんだ…そっか…

セリくんはいつも和彦のコト

アイツは愛情とかない薄情な奴、身体目当て

なんて言ってたけど

めちゃくちゃ愛されてるじゃん

最初は違うかったかもしれないけど、今はセリくんのコト…

「それ、ちゃんと本人に言ってよね」

私はふふっと吹き出して和彦の頬をつねった

「最近は好きって伝えてたと思うけど、信じてくれてなかった?」

うっ…それを言われるとキツい…

結局は和彦を信じられなかったからああなってしまったワケで…

「わかってないなら、わからせるよ」

あらなんか怖い

「……お手柔らかに?」

「無理そうだ、すげー溜まってるから」

だよね……が、ガンバ!セリくん!!

って、その時は私にも伝わるんだけど



それから7日が経った

和彦はその間も、じっとしてられないからって階段を作り続けた

階段が出来るより先に天龍が目覚める

鬼神達もこの牢獄に落とされた日から今日を待ちわびていたワケで

私達は天龍の寝床で起きるのを待った

「今日が天龍の目覚めの時ですが、天龍は貴方がたを助けてくれるのですか?」

フェイはふと思ったように聞く

そうね、天龍と鬼神がお友達でもなければ目覚めた瞬間襲いかかってくるかもだわ

とても大きな龍だし、敵と判断されたらめっちゃ怖いんだけど

「目が覚めたら交渉する」

「天龍は空を飛べるって事しか知らぬ」

あっ、それダメなやつじゃん

「もし天龍が私達を敵だと思ってしまったらどうするの?」

急にもしかして帰れないかもと不安になった私は鬼神達に何か手があるのか聞いておきたかった

シーン

誰も答えなかった

鬼神が黙ったコトで和彦が口を開いた

「脅す」

あっ、いけそう

和彦は持ち手の長い斧を握り締め、手段は選ばないと言う

「さすが主」

「頼りになります」

「地上に戻っても、貴方様についてゆきます」

鬼神が地上に出たらどうなるか心配だったけど、それも大丈夫そうね

しかし鬼神を8人も従える和彦って…

鬼神も人間の和彦が主でいいのか…

そして、天龍目覚めの時が来た

みんなが静かに見守る中、天龍は薄目を開けて

「……あと5年…」

お母さんに起こされて後5分とか二度寝しようとする学生みたいなコトを呟いた

「今すぐ起きて地上まで飛ばないと殺す」

今までにない和彦の殺気に当てられ鬼神は恐怖で腰を抜かし、天龍はお母さんに怒られたみたいに飛び起き真顔で従った

い、一瞬!?戦わずして天龍を言いなりに!?

ここにいる全員を乗せられるほどの巨体で見た目も超カッコイイ龍で、凄い強そうな天龍が!?

人間の和彦に屈した!?

さすが和彦…和彦がいなかったら、私達5年は地上に帰れなかったよ

「一体和彦は何者なの…恐ろしいわ」

「ふっセリカ、勘違いしてないか?

セリくんのもう1人の恋人を忘れたわけじゃないだろ」

香月のコト、よね?

和彦は天龍の上から私に手を伸ばし引っ張りあげてくれる

「魔王の恋人のセリくんの恋人になる男なら、この程度出来ないと務まらないって」

「…ふふ、確かに」

出来過ぎやろ、どう考えても

香月は魔族と魔物を従え

和彦は鬼神と天龍を従える

その2人の恋人のセリくんは、凄いの一言だ

自分のコトなのに、変な感じ

和彦に天龍の上に乗せられ、それに続いてフェイと鬼神達もみんなが続く

みんなが天龍に乗ったコトを確認すると和彦は天龍に地上にと命令する

その足でセリくんの所へ行くと言った

「久しぶりの地上の空気!!」

「やりたい事ありすぎて何からしようか」

鬼神達は何千年振りだと地上の景色にはしゃいでいる

昼も夜もわからないくらい深い谷底の長過ぎる生活は、鬼神と言えどとても辛かった様子が見えた

あの悪魔カップルが言ってたコトは本当なのだろうか

鬼神をあの牢獄に閉じ込めて封印したのは神族だって…

もしそれが本当なら、セレンや結夢ちゃんと会ったら…(結夢ちゃんは見えないかもだけど)

色々と気になって心配はあるけど、今は早く和彦に会わせてあげたい

セリくんは私から憎しみも苦しみも悲しみも全て背負ってしまったから、これまでと違って私の良いコトは伝わらなくなってしまっている

だから私が和彦と再会した喜びも安心もわからない

今も絶望したまま

逆に私はセリくんの悲しみも伝わらなくなっている

どんな想いで、どんな状況かも想像がつかないくらい

私なのに、自分のコトなのに自分がわからない

こんな気持ち悪いコトは嫌だ…

でも、セリくんがそうしたコトの意味くらいわかる

自分が死なないために、私に全てを託したんだ

私は自分のために、全てを掴みにいく…

いつか…を信じているから、それがあるから私は頑張れるわ

「あれ?なんかスピードが落ちてきたような…」

セリくんのいる魔王城まで後少しのところで天龍の羽ばたきが鈍くなり地面が近くなる

みんながどうした?とざわついている間に天龍の腹が地面へと着地し、そのまま動かなくなってしまった

「…お腹空きました……」

天龍の呟きの後に地鳴りかと思うくらいの腹が大きく鳴る

よく考えたら長年の眠りからご飯も食べずにだもんね、可哀想に

「ここからはオレ1人で行く」

「待って和彦、私も一緒に行くわ」

セリくんが心配だから、と天龍から降りる和彦を追いかけようとした

和彦は天龍から飛び降りる私を抱き止めて地面へと下ろす

「セリカはここに残れ、セリくんの事ならオレに任せておけ」

鬼神は和彦を慕って従っているけど、まだ未知の存在だから放っておいたら何をするかはわからないと言う

私に好意的で私の言うコトなら聞くから和彦はここに残ってほしいと頼んだ

そうね…和彦の言う通り

ここに鬼神と天龍とフェイを置いて行ったら、どうなるかが予想もつかない

万が一のコトを考えて私は残った方がいいわね

「わかったわ、和彦…セリくんのコトお願いね……」

不安そうな顔をしていた私に和彦は大丈夫と頭を撫でてくれる

和彦を見送って、その後ろ姿に祈る

大丈夫、和彦ならなんとかしてくれる……

セリくん待っててね

「セリカ様、天龍がうどんを食べたいと」

和彦の姿が見えなくなるのを待ってからフェイは話す

「それどういう反応していいかわからないよ

ワニみたいな口と牙してて肉食じゃないコトにビックリだし

この巨体を満足させるほどのうどんどうやって作ればいいの」

「肉入りのおうどん、ネギは白いやつと卵は半熟、出汁は鴨」

肉は食べるんか、細かい注文多いな、グルメか

「材料があれば我らが作る」

「地上で買い物はテンションあがるーう!」

牢獄生活が長かったから料理洗濯掃除裁縫、なんでも出来るようになったらしい

「スゴーイ、スーパーイケメン八部衆ね」

「か、かっこいい!」

「セリカさんはなんてセンスのある」

いや、ダサいだろ

「私達はこれから8人で、スーパーイケメン八部衆と名乗ろうぞ」

やめろ、恥ずかしい

「愛しのセリカさんが名付けてくれただけで感極まり!!」

私が名付けたって言うなよ、絶対

「「「我ら鬼神!スーパーイケメン八部衆!参上!!」」」

ヤバーイ!!なんか急に各々ポーズ決めて定着しようとしてる~~~!!??

「や、やめといた方が…私が言い出してあれなんだけど

それは和彦に怒られるよ、シンプルに八部衆でいいんじゃない?」

「和彦様八部衆?いいですね!」

「和彦様八部衆!!」

八部衆の前になんか付けたがるのやめないか?

「わかったわかった!鬼神八部衆にしなさい」

和彦八部衆とか名乗って変なポーズで登場したら絶対殺されるよ

「あ、良いですねー」

「さすがセリカさん!我らの事を考えてくださる」

「天女のように優しいですね、一層惚れました」

「「「鬼神八部衆で、異議なし!!!」」」

あれ思い出すわ…自称魔王四天王の3バカのコト…

「ところで、八部衆のみんな名前を聞いてないけどいまさらだけど自己紹介をお願いしたいわ」

みんなイケメンだけど、似てないから兄弟ってワケではなさそう

角の生え方もそれぞれ違うし

「我らに名前はない」

「それじゃあ、仲間内でどうやって呼ぶの?」

「お前とか貴様とかそなたとかこやつとかアホ、バカ、マヌケ、ゴミとかぞ」 

「半分悪口になってんぞ!?」

じーっと鬼神達が私に何かを求めるように見つめてくる

もしかして…それぞれの名前も私に付けてほしがってる……?

「セリカさんならさぞ素敵な名を私達に授けてくれるだろう」

「異議なし」

「期待ぞ」

やっぱり!?

ポチ、タマとか名付けても喜んでくれそう

「う、うーん…そうね、良い名前があったらその時にね」

先延ばしにしたけど、鬼神達はニコニコと楽しみって顔をしている

こうして鬼神八部衆とフェイと私でたわいない会話を混ぜながら天龍の世話をした

その間、みんなの前で笑いながらも心の中はずっとセリくんのコトが心配だった

大丈夫、和彦を信じてるって私は何度も自分に言い聞かせて

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