123話『待ってたよ』セリ編

日に日にレイの束縛も監視も強くなっていく

誰かと話すくらいなら大丈夫だと思いながらも、何が引き金になるかがわからなくて怖くて

俺は自然と周りを避けるようになってしまった

いつからおかしくなったんだろう…

レイはこんな人じゃなかった…?

いつも…いつもレイは…

昔の仲良かった頃の記憶が、今を苦しめる

レイの言う通り、俺はずっと悪い意味で頭も心も身体もレイに染まっている


そんな中、俺はレイの目を盗んで香月の部屋に行くコトがあった

この部屋に来ると張り詰めていた緊張が少し緩むような気がして息が軽くなるようだった

香月を復活させるには魔王の力がいる…

だけど現状はレイから取り戻すコトはかなり難しい

後悔しかない、本当に…どうして俺は香月を殺したりなんか…

自暴自棄になってたとは言え、俺はバカか

「この香り…落ち着くな」

香月の匂いがまだ残っている

蓮の花のような、良い香り

いつも好きだったな、今もこれからだってずっと好きなのに

でも、あんまり長居はできない

レイに見つかったら怖いし、この部屋には誰も入ってほしくないから

香月の部屋から出ると、目の前がグラッと傾く

あ、あれ…?足にも身体にも力が入らなくて、自分が床に倒れるのがわかっていても手をつくコトもできなかった

そのまま意識が遠くなっていく



次に目が覚めたのは、騒がしかったからだ

目が覚めたと言っても俺の身体はいつものように動かない

「あっ、セリ起きた?」

ポップとキルラと、レイがいて

後は知らんおっさんがいる

「動ける~?」

ポップの言葉に俺は身体を動かそうとしたが、起き上がるのも厳しかったから首を横に振る

「何かの病ではないですが、強いストレスから来るものと思われます

あまり無理をさせないように、さすがの勇者様もご自分の体調の悪さは回復出来ませんでしょう」

ああこの人はお医者さんか

そうだ、俺は病気や体調不良を治すコトはできないから自力で元気になるしかない

「えっ?セリ様死ぬの?」

「死なねぇよ、オマエが静かにしてくれてたらな」

キルラは人が体調不良だと言っているのに、いつもと変わらずワッと騒ぎ出す

「貧弱すぎん!?これだから人間は

セリ様が寝込んだら誰が回復役してくれんだよ!?

毎日のように雑魚(より今は弱いくせにプライドが凄い)がこの城を潰そうとやってくんのによ」

魔王の死がまだ外に漏れていないとは思うが、香月がいた時からたまにそういうコトはよくあった

でも、ここ最近はたまにじゃなく毎日だ

魔王の死はわかってなくても不在ってのはわかっているのか…

「だーかーらー、それが無理だって言ってるんでしょー?

セリは人間の中でも弱い部類なんだから、限界も早いでしょーよー」

「はぁ!?じゃあセリ様の回復なしでやっていけんのかよ」

「それも無理だねー(笑」

ストレスか、自分ではわかってなかったけど

そうなのかも、香月の部屋に行って気が緩んだのがいけなかったのかな

キルラとポップは俺の回復魔法がどうのこうだと話しているが、正直俺の回復魔法があってもキルラポップをはじめ魔族魔物は役に立っていない

俺の回復魔法ありきでレイが全部片付けてくれているから

キルラもポップも魔族としてのプライドがあるから認めてないけど

「もういいから、早く出てってくれないか」

うるさすぎて治るもんも治らねーわ

「そもそも、セリの強いストレスってレイのせいじゃないのー?」

「それな!!この金髪野郎のせいで」

キルラとポップが睨むとレイが睨み返す

「なんでもありませーん!」

強い奴には逆らわないを信条としているキルラは笑ってごまかし部屋から出て行った

「バーカ!アーホ!マヌケ!!」

部屋を出てから暴言吐いて消えて行った

だせぇアイツ

「ポップは、そう思うとだけ言っとく

そうでしょ?何があったかは知らないけどー以前とは別人みたいだもん

今のレイはセリに嫌われて当然だねーバイバイ」

そう言ってポップは医者と一緒に部屋を出て行く

ポップの言葉にレイは何も言い返さなかった

沈黙が続く

レイは何も言わないし、俺もレイに声を掛けなかった

そのうち俺は眠りについたが、この日から俺の体調は悪化していく一方になってしまった



意識が朦朧として、起きているのか眠っているのかもわからない間をさ迷っている

苦しくてしんどいのに、そのせいでちゃんと寝るコトができない

「酷い熱だ…」

レイが額に冷たいタオルに変えてくれる度に少し楽になって少しの間だけ眠れるような気がした

息苦しくなったり酷い頭痛で目が覚める、知らない間に眠って起きて、の繰り返し

「セリ、何か食べて薬を飲まないと」

ぼんやりする意識の中でレイの声が聞こえる

だけど、俺は起きるコトも辛かった

ずっとずっと、悪夢を見せられている

後悔しかない、何もかも、全てが

「か、香月……ごめん……なさい…」

会いたい時に会えない、傍にいたい時にいられない

大好きなのに、大好きが届かなくなる

これが大切な人を殺すと言うコト

寂しくて、苦しくて、悲しくて、自分が大嫌いになる

和彦は俺を殺した時、同じ想いをしたんだろうか

再会したら後悔したって言ってた

そんなの俺はわかってたコトなのに…

香月を復活させられる気がしない、それまで俺が生きていられるかもわからない

このまま死ぬんじゃないかって思うんだ

だって、いつも俺はこの年齢で死んでしまう運命だって知ってしまったから

「セリ…」

ずっと、手を握られていたような感覚があったけど

そっと離れたのがわかった

「オレは…

君を守るって約束したのに

命を懸けるって誓ったのに

嘘になって、果たす事も出来ず

君と離れたくなくて死ぬ事も出来ない…

いつから、自分が止まらなくなったんだろう

いつから…もう戻れないとわかっているから、オレは自分を止められないんだ

弱くて情けなくて、甘えっぱなしの

今もオレを許してほしいとまで思っている

最低だな…

わかってるけど、離したくない離せない

セリがこのまま死ぬなんて…そんなの……」

声が、震えてる

顔に温かい何かがいくつも落ちて伝うように落ちていく

それから少しして、遠くでピアノの音色が聞こえてきた

とても悲しいのに、どこか心が落ち着くような心地よさを感じて素敵な音楽

懐かしい…この…

寝込んでしまってから、俺ははじめてゆっくり眠れたような気がした

和らいでる、少しだけ、落ち着いたかな



次に目を覚ました時、身体はだいぶ楽になっていた

本調子ではないとは言え、これなら身体を起こすコトも…

「セリくん、目が覚めたんだ」

………。

ん?この声…

嫌な感じがする、急に怖くなってきた

息が荒くなって身体が冷たくなるような感覚

「か、かず…和彦……どうして…?」

なんで、どうしてだ

ここに和彦が?夢か?

だって、だって…和彦は……

目が覚めた俺に気付いた和彦は傍へと寄って来る

何を、何も、聞きたくない……!!

「来るな!帰れ!!」

目を閉じて手で耳を塞ぐ

「オマエなんか、オマエなんか…いまさら」

傍に和彦の気配を感じると、和彦は両手で俺の頬をパンっと叩いた後に塞いでいた両手を掴み離した

ビックリした俺は目を見開き和彦の顔を見る

「偽者に騙されるほど、セリくんはオレを信じていなかったのか?」

叩かれた頬に温かみを感じて、俺は和彦の馬鹿力で叩かれたのに

全然…全然…痛みを感じなかった

別れ話の殴られた時は死ぬほど心も頬も痛かったのに、どうして

「にせ…もの?」

和彦はフェイから全部聞いたと話す

俺がどんな無様だったのかも、それは言うなよあのドS野郎

「だって、俺は凄く悲しかったんだから

ショックで…

和彦に他に好きな女が出来て俺に別れようなんて…」

「ありえない、オレがセリくんを手放す事をするなんて

セリくんはオレを信じてくれるほど愛してないのか?」

なんだろこれ、夢かな?

和彦とのコトがスゲー悲しかったから、俺は自分の都合の良い幸せな夢でも見てるのかも

ほら、さっき叩かれた時痛くなかったし…

痛くはないけど、あったかいのは…なんでかな

「愛しては…いるけど」

和彦に肩を掴まれ真剣に見つめられて、俺はよく考えた

今までの和彦のコト…浮気、浮気、浮気、浮気、浮気、浮気、浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気

「テメーの日頃の行いを自分の胸に聞けよ!!!信じるに値するかボケ!?

女取っ替え引っ替え浮気する奴をどう信じろと!?アホじゃねぇぞ俺は!」

思い出すと怒りしかなかった

そもそもこんなクズを好きな俺がダメじゃん

「セリくんと再会するまではやんちゃしてたけど、セリくんと再会してからの浮気はヤキモチ妬かせたいだけ」

アハハと和彦は悪びれるコトもなく言う

コイツは死んだ方がいい

「オレが浮気する度にセリくんは可愛い反応してくれるし、それが見たいから浮気する

つまりオレが悪いんじゃなくてセリくんが悪いって事」

「やかましい!!ただの女好きを俺のせいにするな」

「女好きは否定しない」

「オマエ…!」なんか嫌い

って言葉が出る前に強く引っ張られてそのまま抱きしめられた

「会いたかった…」

そんなコト言われたら…何も言えないじゃん…

いつもそうだ、いつも許しちゃう

俺が傷付くのは和彦が好きだから

本当に、本当に?本物の和彦?

もう俺のコト嫌いとか別れるとか言わない?

上げて落としたりしない?

もう、無理なんだよ…俺これ以上は

「和彦、いっぱい聞いてほしいコトがある…」

何かあったら、死んでしまいそうだ

鼻が痛くなる涙を我慢する

色んな感情が混ざって溢れそうだ

「頼りにしてくれて嬉しいよ」

「頼りたくないんだけどな、こんな弱ってる俺を見せるなんてダサすぎて最悪」

「それがセリくんのダメなところ

素直じゃない、もっと素直になった方が可愛いのに」

それは負けた感がするから嫌だ

でも、そう言って構えてくれると嬉しい…

和彦はいつも頼りになるから、口ではそんなコト言ってるけど本当は頼りにしてるよ

「それにしても和彦が怒ったのはじめてだな」

「ん?」

俺はさっき両頬を叩かれたコトを思い出す

痛くなかったけど、あれは本気で怒ってたってわかる

今まで和彦は俺に対して怒ったコトはなかったから

「和彦の部屋の高そうな壺割った時も怒らなかった」

「あれ割ったのセリくんか?」

「うっ…」

ニコッと笑う和彦が怖いと感じる

あっやべ、あの時壊したのは俺じゃないって嘘ついたんだった

「やっぱりって感じだけど、そんな事で怒らないよ」

「じゃあ俺が和彦の部屋の窓ガラス全部割ってカーテンビリビリに破いて物壊して荒らしても怒らない?」

「セリくんは犬か猫か?まぁ怒らないかな」

器がデカいってレベルじゃねぇ!?怒れよ!!

なんか逆に怒られたくて色んなコト試したくなるわ!!何したら怒んのかなこの人って

「セリくんがオレを信じてくれてなかったからな」

和彦は気楽で程よい距離感だと思っていた

最初から俺の気持ちは関係ないって言い切ってた奴だし

だから、基本の愛情だけじゃなく信じるとか頼りにするとか、それすらも和彦には必要ないんだって

それなのに、それをほしがると言うか…なんか、なんか…

俺…愛されてる?ちゃんと愛されてるって思ってなかったから急に恥ずかしさが湧く

「いや…それは…言い訳すると、和彦はいつも俺の気持ちは関係ないって言うから」

「関係ないよ、セリくんがオレを好きじゃなくなってもオレはセリくんを手放さない

それは今も昔も変わらない」

ほら、やっぱりそうなんじゃん

「だけど、セリくんがオレの事好きなんだな~って感じると

すげー嬉しい、すげー好きって思う」

「はっ?なにそれ」

い、今まで…そんな…コト言う奴じゃなかったから、急に緊張してきた…なんか、照れる…恥ずかしい

「信じてほしい、頼られたい、待っててほしい

最近はよくそう思うよ」

そうだ、和彦は嘘を付かない

だからだ、今そう思ってるからちゃんと言ってるだけ

昔はそう思ってなかっただけ

いや、だけど…そんな…和彦に本気で愛されたら…俺は心身ともに持つ気がしない

ふとレイのコトが過る

好きとか愛は、同時に独り占めしたいって考えに変わるんじゃないかと

俺もそうだ、好きな人が浮気とかしたら嫌だもん

「あっ…それじゃ、和彦は…俺を独り占めしたいって思う?」

「思ったら?」

良い雰囲気が流れてるのはわかる

和彦が俺にキスをしようとするから、手を挟んで止めた

「別れる、2秒で別れる、ソッコー振る」

「さっきまでの流れでそれ言える度胸を尊敬する」

俺は和彦を押しのけて少し離れた

「オレより、香月の方が好き?」

その質問は、正直答えられない

今の時点では俺は香月も和彦も同じくらい好きで愛してるから

「そう言うんじゃない、俺は誠実でいたいから

和彦と香月のどっちかでも俺を独り占めにしたいって思ったり他の人と恋人であるコトが嫌だったり辛かったら

俺は別れるよ」

大切な人を傷付けたくないから、傷付けてまで自分の欲求を満たしたくはない

俺だけ幸せなんて自分勝手なのは嫌だ

俺は大切な人を幸せにしたいから、俺を幸せにしてくれる人を不幸になんかしたくない

「セリくんが別れるって言っても、オレも香月も離さないよ」

それはわかってる

はいそうですか、って引き下がる奴らじゃないって

「セリくんは、真面目だね」

「オマエが不真面目なんだよ!?」

いちいちムカつくなおい

「心配しなくてもオレは今の関係が1番いい

セリくんが他の男に寝取られるのが良いからね」

「変態め」

うん…俺も…今の関係が良い

和彦も香月もどっちも大好きだから、2人が2人じゃなかったらこの関係はないワケだし

俺は幸せだ、でもどっちかがこの関係を不幸だって感じるなら俺はすぐにでも…

「そうそう、他にもセリくんを寝取ってくれる候補が9人はいるんだけど」

「きゅ、9人!?誰!?多くない!?急になんの話!?俺を殺す気なの!?」

「フェイと」

「俺、ソイツ嫌い」

「八部衆がセリカに惚れ込んでいて、男でもいけるって言ってたからセリくんにどうかなって」

「誰だよ八部衆って!?なんか強そうだけど!?

どうかなって、良いワケねぇーだろ!?」

めちゃくちゃなのは今にはじまったコトじゃないけど、本当に実現させそうで怖い

「とりあえず」

そう言って和彦は俺をベットの上へと押し倒した

「浮気もしないでずっと我慢してたんだ、病み上がりみたいだけど今夜は手加減しないよ」

「えっ?」

うん、わかってる、わかってるよこの状況がどういうコトかって!?

「いや手加減しろよ!いたわれ!!」

「無理」

「俺も無理!」

覆い被さる和彦の胸を押しのけ半身を起こす

「ってか、ダメ

暫くは和彦とそういうコトできない」

そんな気分には、なれない…色んなコトがあったのに

「セリくんの気持ちは関係ないんだけどな

浮気もしないで我慢しろって?」

「うっ…それは……」

酷だよな、それに和彦には俺の事情なんて関係ないし

俺の問題を和彦に付き合わせるワケにはいかない

「じゃ、じゃあ…口でする、から……和彦が満足するまで…」

和彦を信じてやれなかった負い目もあるし

そう言うと和彦はベットから下りると、俺の胸倉を掴み引っ張る

そのままキスを交わして

「いいよ、無理しないで

でも、キスだけはさせてもらうから

これで引き下がってやるって言ってるんだ

それも嫌とは言うなよ」

和彦は言った通り手を離してくれた

引っ張られた勢いでのキスはちょっと痛かったけど、久しぶりの和彦を感じて身体が熱くなる

ハハ…これを我慢しろなんて、俺は酷い奴だな

「和彦が優しいとか気持ち悪い、やっぱり偽者なんじゃ…」

「セリくんはめちゃくちゃに犯されるのが好きみたいだ?」

「ウソウソ!!和彦が優しいと嬉しい!!好き好き!」

いや本当に、和彦は昔よりずっと丸くなった

優しいと思うよ

だから、俺は久しぶりに口元が緩んで少しだけ心が軽くなった

色々と思い出して、まだまだ辛いけど

あの時の和彦が偽者で嘘なんだってわかって、本物の和彦がこうして傍にいてくれるだけで

俺はまだ生きていられる



翌朝、正式に和彦の新たな部下となった八部衆と天龍が魔王城へとやってきた

急に新キャラめっちゃ増えたな

「これからよろしくお願いします、セリ様」

「鬼神八部衆、我ら和彦様の下に」

「セリカ様と変わらず天女のようにお美しい」

待って、ツッコミどころ多すぎて困る

天龍デカくない?えっ鬼神ってなに?普通の鬼でもなく鬼の神?

それが、和彦の部下に?いやオマエ何者だよ、こえーよ

鬼神を従えるって

「鬼神って何!?イケメンしかいないじゃん!?」

「セリくんって自分はノーマルで女が好きだって言う割にイケメン好きだよね」

言い訳させて!?イケメン好きなのはセリカだから!!俺じゃないから!!

本当に俺にはそっちの気がないんだって!!

言い訳すると、たまたま好きになった恋人が男だっただけで

たまたま…モテるのが、男からってのが多いだけで……

たまたま……経験人数が、女0人で男が多数って…だけ…で……

「もしかして、俺って本当に男が好きな人だったの?」

「泣く事ないのに」

違うもん!!いや、もう自分でもわかってる

たぶん、俺は男しか愛せないんだろう

女の子を幸せにする自信がないし、そんな未来が想像できねぇ…絶望した

「ん?ちょっと待て、八部衆って昨日なんかで聞いたような…」

「セリくんが好きそうなイケメン揃いでよかったね

鬼神って凄そうだけど、普段からオレと魔王の香月相手にしてるセリくんならまぁなんとか……」

「……黙るなよ!?」

「死にはしないと思う…たぶん」

「たぶん!?和彦が自信ないって相当だぞ!?」

「さすがのオレも無傷では勝てなかった」

「あれ8人と戦ったの!?で、勝ったの!?

そんなヤバい奴らを紹介すんじゃねぇ!俺はオマエのおもちゃじゃねーんだぞ!!アホ!!?」

八部衆はズラッと俺の前に列ぶと、一斉にに手紙を手に差し出し頭を下げてきた

「ま、まずはははは、文通から、お願いします!!」

「一目見た時からてんてにょ天女のような貴方に、心奪われたまうぅ!」

噛み噛みだけど

この様子なら…和彦の思惑は叶いそうにないんじゃ…

「せせセリ様!!」

「おおねおねお願い申す!!」

「あ、あー…文通からってのは友達になって最終的に…?」

「「「嫁」」」

重い

「ごめん、俺には恋人がいるから」

八部衆からの手紙を受け取れず俺は頭を下げると、全員泣き出した

えぇ!?

「仕方ない、セリ様が幸せならそれで」

「我らは潔く諦めよう」

泣きながらも、みんなわかってくれる

ピュアと誠実で助かった!!まともでよかった!!

「しかし、セリ様を不幸にしたり泣かせたりするような奴なら…」

「容赦せぬ」

「何かあれば、いつでも申せ」

みんな…めっちゃ良い奴らじゃん…

隣にいる浮気野郎が浮気した時とか心強いな

和彦が無傷で勝てなかったって言ってたし

「ありがとう」

これから仲間としてよろしくと言うと、八部衆は笑顔で頷いてくれた

「ところで、セリカをフェイだけに任せてよかったのか?

八部衆の何人かを同行させた方が良いと思うが」

八部衆、天龍とともにセリカとフェイもこの城にやって来ていたけどすぐにここから離れた

和彦にはいなかった間のコトを色々と話したんだけど、どうしても言えなかったコトがある

レイのコトだ

和彦はレイと俺を今でも大親友だと思っている

だからレイがこの城にいないコトを不思議には思っているんだ

レイがこの城にいない…それはたぶん和彦がいるからだ

前にレイは香月と和彦がいるから俺に手を出せなかったって言っていたからな

和彦の気配を感じて城から出て行ってしまったんだろう

「いや…それでいい…」

つまり、今の俺にレイは手が出せない

そしたら…狙うはセリカ

セリカのコトは心配だが、レイは魔王の力を持っている

それを奪うチャンスがあるのはセリカだけ

ここにセリカを残して俺がフェイと行けばよかったのに、セリカはそれを許さなかった

これ以上何かあって自分が死なれたら困ると言って

もし俺が行くって言うなら、俺が全て背負っている憎しみと苦しみと悲しみを私に移せと言うんだ

それは…ダメだ、もう自分の弱さをセリカには押し付けないって俺は誓ったから

セリカは俺だ、俺はセリカだ

だから、きっと…俺なら……大丈夫

「もし、セリカに何かあっても全て俺が背負うから

どんなコトがあってもセリカは大丈夫…」

「それが…心配なんだけど」

和彦は俺の肩を掴み抱き寄せる

和彦に話せなかったのは、話したらレイを殺してしまいそうだったから

俺は…レイと大親友の関係に戻れないとわかっているのに、嫌なコトだってたくさんあって

会うのさえ怖くて、気持ち悪くて…苦しいのに

それでも…それでも……まだ、わからないから

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