第77話『恋人(仮)のレイ』セリカ編
レイは、前世で騎士を
そして前世で聖女だった私と恋人同士
…だった噂がある
イングヴェィと同様、私には前世の記憶がないから何とも言えない
確かにレイはその噂を知る前からセリくんを守る騎士であった
無意識でそうなのか、たまたまその素質があったのか
わからないけれど、その行いにして今の前世からの恋人同士と言う噂をさらに盛り上げるコトになってしまった
そもそも最初からロックも仲間にいたのに、命を懸けて守るのはセリくんだけ
一目惚れにしても、何処の誰かわからない人に命を懸けるコトなんて出来るのだろうか…
それはもしかしたら前世の影響を強く受けて、そうせずにはおられなかったのかもしれない
と考えたりもするが、やっぱりどうなのかはわからない
夜が明けました
次の日、レイとデートだ
「いつも通りでいいよ」
そう最初に言ったけれど、レイはおとなしい
「デートなんてした事ないから困ったな」
「ウソつけ!!いつもしてるだろ!?最上級のバカップルっぷりはこっちまで話が流れてるくらいなんだぞ!!」
「どうしたんだいセリカ!?急にキレて」
ハッキリ言って、レイとの初デートはクソつまらないよ!!
もう夕方なのに何処に行くコトもなく何をするコトもなく、緊張しているのか9割沈黙
これでなんでキレずにいられる!?
辛いわ!!こんなんイケメンでもフラれるわ!!!
「いつもしてるでしょ!?(セリくんに)」
頭ナデナデ、手を繋ぐ、腕を組むは当たり前、すぐお姫様抱っこ、膝に乗せる、なんでもプレゼント、君の為に作曲
一緒にお風呂、一緒に寝る
お揃いのグッズ色違いで持ったり、たまに部分的ペアルック
誕生日には最高のプレゼントとおもてなし
同じホットドッグを端っこから一緒に食べて、真ん中くらいに来たら唇がちょっと当たっただのなんだので盛り上がって笑ったり…
ってアホか!?こんなんバカップルの称号当然のように得られるわ
「セリは大親友だ、セリカとは違う」
「世間から騎士と勇者はデキてるって公認カップルについて一言頼むよ」
「皆の誤解だ」
誤解させてるってコトに気付け
まぁいいケド、本人達が楽しそうだし
私関係あるケドないし
「レイは私とどうなりたいの?恋人(仮)なんだから、したいようにすればいいのよ」
「セリカと恋人になった後の事を考えていない結果だ…」
変わってんな…
好きな相手とのコト妄想しないなんて
「でも、レイは実はただうわの空なだけ
本当は朝からずっとセリくんが心配なのね」
レイが傍にいない間はロックに護衛を頼んでるみたいだけど、自分が傍にいないともしものコトがあるかもしれないと気が気じゃないんだ
「それは…すまない、セリカ」
「ううん嬉しいわ」
レイにとってセリくんを任せられるほど強い人が代わりにならないと安心できない
たとえば香月とかね
「だって、セリくんは私だもの
心底大切にしてくれて、ありがとう…いつも」
不老不死のイングヴェィと違って人間のレイは死ぬコトがある
なのに、いつも私を命を懸けて守ってくれてる…
いつも私を……セリくんを
セリくんが死ねば私も死んでしまうから
「セリカ…当然だ、セリを守るのもセリカを守るのもオレの役目
しかし、今日はセリカといるならセリカの事を1番に考えないといけないな」
そうよ、レイ!恋人らしいコトしよ!せっかくの恋人(仮)なんだから!
やっとこの退屈な時間から抜け出せると思ったら
「セリと違ってセリカとしたい事か………」
「そうそう」
なんだろなと楽しみになっていると、レイは顔を真っ赤にして目を逸らす
もしかして…お年頃か……
「いつもセリにベタベタしているから、それ以上の事と言ったら」
「待って待って!誰もセリくん以上のコトなんて言ってないから!!バカ!!」
なんかこっちまで恥かしくなってきたわ
レイって人間だから、イングヴェィと違ってやっぱりそういう欲求は人並みにあるみたいだ
年頃だし余計に…(年頃と言いたいだけ)
「それもそうだ、セリとは一線を越える以外全て済ませているのだから
気にしない、比べない、今日はセリカと普通に遊ぶぞ」
えぇ…何この人達、やだわぁ…
これじゃレイに彼女いない歴イコール年齢でも大納得よ
誰だって大親友とデキてるホモの人って思うわ
この人、私以外永遠に恋人できなさそう
大親友への溺愛っぷりがおかしいもの
「さっ、行こうかセリカ」
レイが私の手を掴み引っ張るけど
「もうお店ほとんど閉まってるよ…」
私が現実を教えてあげると固まった
そんな時だ、怪しい人物が私達の目の前に現れたのは…
「はーっはっは!!!!カップルは妖怪に狙われやすいって知ってるかーい!?」
知ってるよ
逆光でその姿は見えなかったが、私達が身構えるより早く奴の魔法か幻術かを受けてしまう
「セリカ!」
レイが庇うように前に出てくれたケド
目を閉じて、開いた次の景色は今まで見ていたものも音も変わっていた
幻術にハマったか…何か
私達は真っ暗な場所に閉じ込められてしまった
炎魔法を灯りにして調べてみると、どうやら迷路?になっているみたい
周りには複数の死体、白骨化しているものもあればつい最近亡くなったと思われる方も…
灯りのない真っ暗なこの場所で不安と恐怖を抱えながら息絶えてしまったなんて…酷い話だ
「迷路のようになっているみたいだケド、果たして出口なんてあるのかどうか怪しいものね」
「…心配するなセリカ、必ずオレがここから出してやる」
レイだって、出口があるかどうかなんてわからない…
でも、私を不安にさせないように
例え出口がなかったとしても、なんとかして私を助けようとする
いつも…
「行こう、セリカ」
レイは私の頭を優しく撫でて爽やかに笑う
いつも…セリくんはこうしてレイに守られてきたんだ
「うん…」
さっきまで恋人(仮)に緊張して沈黙と無行動の残念イケメンとは違って、レイはとても頼もしく見える
変に恋人とか考えるから、ダメになるって感じか
「レイが一緒でよかった、ひとりだったら恐かっ……」
暗闇の通路を炎で照らしながら進んでいると急に足元がパッカリ穴を開けて落ちる
「セリカ!?」
すぐにレイは落ちる私の手を掴む
ビックリした、助かった…
レイに引き上げてもらう前に私は穴の下の方に目を向ける
そこには迷路にはよくある串刺しのトラップ
何人かの人達もここに落ちたのか酷い姿だった
「今助けるから」
私を軽々と引っ張っている間、私は串刺しにあった人の首筋に噛み痕があるコトに気付く
「大丈夫かいセリカ?怪我がなくて、無事でよかった」
「レイが助けてくれたから大丈夫だったよ、ありがとう」
「礼はいらない、セリカを守るのがオレの役目だ」
「はいはい、騎士様」
くすっと笑うとレイは顔を赤くする
「………それは…照れるな」
こういう反応がセリくんとやり取りの違いなのかもしれない
だって、レイの瞳に映っているものは大親友ではないのだもの
さて、私はさっきの気になったコトをちょっと調べる為に近くにある死体の首筋を見る
「やっぱり…」
他の死体にも首筋に噛み痕がある
「レイ、この迷路…何かいるわ」
私達をここに閉じ込めたあの姿を確認できなかった奴か、それとも別の生き物か
「何か?」
「それはわからないケド、見てココ」
私は死体の首筋を指差す
「何かに噛まれてる、吸血鬼みたいな歯型ね」
「ヴァンパイアだって?それは物語りに出て来る怪物かい?」
「うん私のいた世界もフィクションのね
この世界のコトはまだ全然わかってないケド、吸血鬼の話は聞いたコトがないわ
吸血鬼か、それとも別の生き物か…
どっちにしても変な奴がいるってコト」
「セリカ、こっちの死体には噛み痕がない
それはあって、そこもないなんて」
言われて私はさらに多くの死体を確認する
噛み痕がある者とない者…なるほど、女性と男性の違いか
女性には噛み痕があるが男性には噛み痕がない
そして、女性の中でも血を抜かれている人と血を抜かれていない人に分かれている
「犯人は女好きってコトはわかった
そして、蚊みたいに好みの血液型があるのよ」
いや、知らんケド
血液型で決めてるかなんて
「女性の血…ならセリカは危ないじゃないか」
「女じゃなくても危ないわ、だって男も殺されてるんだよ
まぁ…レイは強いから犯人に遭遇しても大丈夫だとは思うけれど」
レイの強さに私の回復魔法があるのだから、無敵でしかない
「あっ良いコトを思い付いた!
犯人を捜して半殺しにして出口を聞き出すの!」
「ナイスだ、オレもそう考えていた所だよ」
そうと決まれば、私達は積極的に先を進むコトにした
暫く歩くと迷路の中なのに小さな森と洋館が現れる
さらにここは天井がなく、高い位置で穴が空いていて月の光が射し込んでいる
とても綺麗な所…いつの間にか夜になっていたのね
「外が見えるが…しかし、この高さはオレでも登れはしないな」
「困ったわ、外の空気に触れて嬉しいけれど
空以外の別の出口を探さなきゃね
その前にこの洋館で今日は休みましょ」
犯人の家では?危険では?という発想は私達にはなかった
犯人がいれば半殺し、犯人が出掛けてたら帰って来るのを待って半殺し
だからである
「そうしようか」
レイは先に洋館に入って中を確認すると、今は誰もいないとのコトだ
洋館の中は綺麗にしてあって、ベッドもフカフカ、食糧もある、シャワーも使える、と何不自由ない宿に満足する
「それじゃ、お腹も空いたし何か作るね」
「最近、料理を始めたみたいだが、何かあったのかい?」
今まで料理なんてあまりしないし、たまに作ったら不思議な味を生み出していた私だが…
なんとなく気まぐれで料理を始めたのよね
始めたばかりだから、まだ上手くはないし簡単なものしか作れない
「んー…花嫁修業?なんちゃって、アハハ」
「それほど遠くない未来のオレの奥さんか」
それちょっとウザイわ~
「ハンバーグでいいよね、野菜もあるし他はサラダとスープとパンとで」
「お願いします」
レイは楽しみだと笑い、手伝うコトを申し出たが断った
何故かって、いつも助けてもらってるし、レイは私を守るのにいつも頑張ってくれてるから
私は彼に何も返すコトが出来ないもの
だから、これくらい私はしたいのよ
それから夕食ができて一緒に食べると、レイは前より美味しいと褒めてくれる
ちょっと嬉しかった
その後は片付けている間にレイにはお風呂入ってもらって、私はその後にお風呂へ
シャワーを浴びながら、ふとなんだこの新婚生活は…とか思ってしまった
お風呂から上がるとピアノの音が聞こえる…?
その音を探して私は部屋のドアを開けた
そこには思った通り、レイがピアノを弾いている
この素敵な音色…やっぱりレイの音楽は大好き
でも、ちょっと切ない感じの音色だな…
私が傍へ寄るとレイは手を止めた
「どうして止めちゃうの?私その曲好きだな、もっと聴きたいよ」
「セリカ、髪が濡れたままだ
風邪を引くぞ」
レイが私の髪に触れる
「私が風邪なんか引くと思ってるの?」
バカだからね
でも、レイのピアノの音色に聴き入って髪を乾かすのを忘れていたわ
私は炎魔法で髪を乾かした
これめっちゃ楽、ドライヤーで乾かしてた時代が懐かしいし戻れないわ
「この曲かい?セリカを想った曲」
「私の…」
なんでそんなに切ない感じなの?
よくわかんないな、切なくて苦しくて、でも綺麗で美しくて…
「また聴かせてあげるさ、今日はもう夜も遅い
寝るとしようセリカ」
「うん…そうだね」
私はレイに連れられて寝室へと移動する
先にベッドに乗ると、レイは当たり前のように私の隣に来る
「一緒に寝るんだ?」
「…はっ!?癖で…」
いつもセリくんと寝てるから…
「いいじゃん、恋人(仮)なんだし一緒に寝ても」
遠慮してベッドから出ようとするレイの手を掴む
「恋人(仮)なんだから…いいよ、レイのしたいようにすれば」
「セリカ…」
レイから手を離す
「恋仲の男女が夜に一緒のベッドにいるってコトは…」
言わなくてもレイだってわかってる、レイは私を押し倒して見下ろす
「セリカの事、好きだ」
……改めて面と向かって告白されてドキッとする
レイの気持ちはわかってたコトなのに…
「でも、何もしない」
「どうして?」
薄暗くてもレイが顔を真っ赤にしているのは見えていた
「正直こうしているだけで、理性が吹っ飛んでしまいそうにはなる
はじめて会った日の時の事…今も後悔しているんだ」
はじめて…あぁ、レイが私に襲い掛かった日のコトか
未遂の
「あの時のオレはガキだった
自分はずっと大人だと思っていたのに、全然で…セリカの事を傷付けて……すまなかった」
仕方ないよ…私にはそういう変な魅力があるみたいだし、一度は触れたくなるような…穢したくなるような……ね…
「今も子供じゃん、十代でしょ
私より5歳も下なんだよ
あの時のコトなんて忘れたから気にする事じゃないわ」
「そうやって…セリカはいつもオレを見ようとしない
年下だからって……
オレはどんなに頑張ったって、セリカの年上にだけはなれないのに」
……レイは…強さも、時には知識さえも私を上回る
未熟な所はまだたくさんあるけれど、レイは努力していた
一生懸命に私を超える為に、私に見てもらう為に
私は…別にレイを見下したつもりなんてない
セリくんがそれを証明している
いつも守ってもらって助けてもらって、なんでもしてもらえるから甘えてワガママ放題…
でも、やっぱり時には年下扱いしたコトもあった
「……ゴメンなさい…
でも、恋人(仮)になったのはレイを見ていないってコトにはならないよ?」
「それは、嬉しかった…
だからこそセリカの嫌がる事はしないさ
それが恋人だろ
一方的なのは、そんなのは恋人なんかじゃない」
優しくて…一生懸命で…命を懸けて守ってくれる人…
セリくんの言う通りだ、俺が女だったら絶対レイに惚れてるって……
こんな素敵な人に愛してもらって、私は幸せ者なんだな
イングヴェィと同じくらい、レイも……素敵なんだから…
「もう二度とこんなチャンスないかもしれないのよ」
「……それでも構わない」
私って面倒くさい女だと思うの…それでもいいのかな
「浮気も許されないのに、それでも?」
「当然だ、セリカ以外考えられない」
さっきは間があったけど、この質問は即答か…
まぁそうだよね、男の子だもん
そりゃ好きな女の子と……ね…したいよね…
……でも…そろそろ上からどいてほしいな~…なんて……
ちょっと恥ずかしいし……
「セリカは…自分で気付いていないのかもしれないが」
レイは私へと手を伸ばす
「オレが近くに寄ると距離を取る
こうして手を伸ばそうものなら、腕で自分を守るように隠す」
言われて、私は今自分の腕が胸の前にあるコトに気付く
「それはオレだけじゃない、男なら誰でも
イングヴェィさんの時も口では鬱陶しがって何ともないフリをしてるが
固まっている
それらを隠しているつもりかもしれないが、イングヴェィさんも気付いているよ
もちろん、香月さんにも
セリカは香月さんなら大丈夫と言っておきながら、自分の記憶の中ではくっついていても
実際には香月さんとの間にも距離を取っているんだ」
……な、なんで……私はそんなコト……
そんなコト…ないって…言える?
今まで男達に何をされてきた?
それなのに、優しくされたから守ってもらったからって……
大丈夫になるワケ…ない
「……そんなコト…あるかもしれない」
ショックだった
自分で気付いていなかったコトにもそうだケド
私はこの世界なら憧れていた恋も出来るかもって、思い始めていたから
愛のある世界だって知っているのに…
私は無意識から…もうダメなんだ……男の人が…
「セリカ…セリカ…大丈夫だ、オレもイングヴェィさんも君を諦めたりしない
何年掛かったって…」
レイが静かに泣く私の頭を撫でようとしてくれる
でも私の身体はその手を許さなかった
手が私の頭を隠す、レイを拒絶している
どうしてレイのあのピアノの曲が、私の曲が切ないのかわかったよ…
こんなんで私は誰かをちゃんと好きになるなんて出来ないよ…バカだ、私……
「セリカを必ず幸せにする」
「レイ…レイ……」
ありがとうもゴメンなさいも言えなかった
情けない私を晒してしまって…
イングヴェィも、こんな私に気付いていてそれでも私を愛してくれて……
静寂なる部屋では私の静かに泣く音だけが聞こえていた
でも、それをぶち壊す騒がしい声がドアを開けて入ってくる
「女の匂いがするなぁ!僕の家に勝手に入り込んで悪い子猫ちゃんだー!」
あっ涙が一瞬で止まった
変な奴来たし
「ちっ…男と一緒かよぉ」
女の匂いで興奮してテンションの上がっていた見た目吸血鬼の男はレイを見てガッカリした
「なんだアンタは?外の連中を殺した犯人かい」
「僕は吸血鬼!外にいる人間を殺して血を吸ったのはこの世界最強妖怪の吸血鬼僕だぁ!!」
吸血鬼って2回言ったし、それだと僕って名前でいいのか?
私のイメージしてたイケメン吸血鬼と違って、残念だな
「男がいるって事は非処女確定!しかもこの味は女B型だな!
僕はB型の非処女が1番嫌いなんだよぉ!!
B型は総じてクソ…」
「うるせーな、蚊が」
B型ディスはもう前の世界で聞き飽きてっから
何型が嫌いとか悪いとか私はどうでもいい
それだけを見て、全てがそうだと決め付けてしまったらつまらないと思うだけだ
とりあえず、ムカついたから炎で吸血鬼のマントを燃やした
吸血鬼は情けなく外の泉まで走って炎を消している
しかし、吸われてもいないのにいつの間に私の血液型が…
なんとなく首元に手を当てると血がつく
クソ、知らない間にやられてやがる
アイツ素早いな
「ぜぇ…ぜぇ…死ぬかと思ったよ!!
いいですよ…カップルの夜の営みは邪魔しないので、どうぞ続きを
僕はここから覗いているだけで…
B型非処女には興味ないですし…見たいだけで」
吸血鬼は窓から私の炎に怯えながら覗いている
キモいわ!!ただの変態か
急に敬語なのは炎に弱いのか?
まぁ炎は聖なるものでもあるし…?
「セリカを侮辱する奴は許さない」
レイは光の矢を吸血鬼に向ける
「待て待てレイ、吸血鬼に光の矢は即死だろ
犯人は半殺しにして出口に案内させるって最初の作戦忘れたの?」
フェレートも珍しく毛を逆立てて吸血鬼を威嚇している
「即死しない程度に痛めつけるのはいいんだな」
レイの光の矢が氷に変わる
「まぁそうだね」
私も炎を見せる
レイと私の半殺し計画を知った吸血鬼はビビリまくった後、姿を消した
「消えた…何処へ行ったんだ?見えなかったが」
「あーアイツ、速いんだよね
さっき私それで血を吸われ……あっ、蚊だ」
飛んできた蚊を見つけた私はパーンと音を立てて叩いた
手を広げると蚊サイズの吸血鬼が瀕死の状態で見つかった
アホだろコイツ…なんで逃げずにこっち向かってきたんだよ
私の手には蚊の中から私の血と思われるものが付いていた
なんだ、素早いんじゃなくて本当に蚊になって気付かないうちに吸われていただけだったんだな
とりあえず、蚊化した吸血鬼を穴を開けた瓶に入れて閉じ込めた
回復魔法は使ってあげたから死んではいない、気絶しているだけ
「明日にしよ、もう眠いもん」
「そうだな…セリカ、あんな奴の言った事なんて気にするんじゃないぞ」
気にしないようにしてた、でもレイには表情に出てしまう私のコトに気付いてしまって
優しく手を伸ばしてくれる
でも、やっぱり私は身体が勝手にそれにビクついて恐れて…
それでも、自分の意思でそれを抑え付ける
いつまでもこのままじゃダメだってわかったから、私は慣れないながらも少し震えてしまっても
レイの優しくて温かい手を受け入れた
「……あぁ、私知ってるよこの手を
セリくんはいつもこの手に守られていたんだね…」
私の頬に触れるレイの手に自分の手を重ねる
我慢してるからなのか無理してるからなのか、涙で視界を濁すケド
嫌だからじゃないってのはハッキリわかってる、それだけは
私は私なのに、素直に受け入れているセリくんが、そんな自分がとっても羨ましかった……
レイの笑顔がいつもと違って、嬉ししそうにそして少し恥ずかしそうに笑った
そうして、ぐっすり眠った後の朝
吸血鬼を閉じ込めていた瓶の中を見ると灰になっていた
「あっ、死んでる!!」
それが妙にウケて爆笑してしまう私は、たぶん人間じゃない
その姿はきっと魔王の花嫁に相応しいだろう
「窓辺に置くから太陽の光でやられてしまったのか」
「暗い所に置いたら復活するんじゃない?」
アハハと私は瓶を影に置いて少し様子を見ていた
ついでに効くかどうかわからない回復魔法を使う
枯れた植物に水を与える気分だ
本当に死んでたら無理だけど…
すると、灰になっていたものは吸血鬼の姿へと戻っていき生き返ると瓶から飛び出し通常サイズに戻る
「殺す気かーーー!?危なかった!!」
「おー元気元気、死んでないからよかったじゃん」
吸血鬼は怒っているようだったが、私は生還したコトに笑って拍手を送る
「悪魔かこの女!?僕が死にかけてた時も笑ってたよ!?」
「悪魔じゃないし、人間だけどね
ほら私って魔王の未来のお嫁さんじゃない?(私じゃないケド)
とっても相応しいと思うのよね、うんうん」
魔王の名前を出すと吸血鬼の動きがピタリと止まる
「あ……ああああのの、、、ま、、、おおおあうさまままま……、、の」
そして異常なまでに震えて、何言ってるか聞き取れなかった
わかった、魔王の香月がめちゃくちゃ恐いのだけはわかった
「申し訳ございませんでした!!今までの非礼をお許しください!!どうか!どうか!魔王の花嫁様!!」
土下座までされてしまった…そこまでしなくてもいいのに
「いや…まぁ、そこまで恐れてるなら……
それより、出口を教えて」
顔を上げてと言うと吸血鬼は私を恐る恐る見上げて言う
「出口はこの上でございます」
「お空か…」
あの高さ、空を飛べない者は逃げられない
だから被害者には人間が多かったのか、単に自分より弱い奴を狙ったか好みかって所か
「わかったわ、それじゃアンタはレイを連れて出してあげてくれる」
「かしこまりました!」
すぐにでも!と吸血鬼はレイの腕を掴む
「待ってくれ、セリカを先に」
「大丈夫よレイ、だって私」
レイの優しさに微笑んで、私は天と同じ真っ白な光の翼を背に与えて軽く飛んでみせる
「少しの間なら飛べるんだもん」
はじめて見るかのようにレイは私を見上げて驚いている
セリくん、まだレイに見せてなかったんだね
この天魔法のひとつである翼を
私は気に入ってるの、この羽根とっても綺麗だから
ほんのりピンク色の輝きが含まれてるのも可愛いし
でも魔力は無限にあっても、天魔法はまだ扱いきれていなくてずっとは使えない
どれだけのコトが、どんなコトができるのかもわからなくて
ちょっとずつ出来るコトが見つかるって感じ
「でも、私が持ち上げられないものは連れて飛ぶコトはできなくて…」
レイを連れて脱出するコトは不可能だった
「いや……それより、それとても似合っているよ
セリカ、綺麗だ…いつも綺麗だけど今日はまた違った綺麗な姿…」
「褒めても何もないよ!!
これ人前でするの恥ずかしいんだよ、目立つし……」
目立つのは嫌いじゃないが、この綺麗な翼は私に不釣り合いで似合わないんじゃないかなって思ってしまって
私はこんなにも美しくはないから…
「さっ!早く帰ろ、セリくんが心配してるよ」
「あっ…そうだな、セリカに見惚れてしまって」
な、なんか照れる………
吸血鬼に運んでもらってレイは先に外へと出してもらう
私はその後を追って外へと出るが、着地場所が思っていたより低い場所にあり天魔法が持たないコトに気付く
まっいっか、この高さなら骨の何本かいってしまうだけで即死はない
天魔法が切れてゆっくり下りていた私の身体は重力に引っ張られスピードを増す
「セリカ!?」
でも、先に下りていたレイが落下する私に気付いて受け止めてくれた
「危な……いじゃないか!?」
「平気なのに、死なないもん」
「そういう問題じゃないだろ!」
レイに抱き締められてる…助けてもらったのだから当たり前だけど
これって……
「レイとはじめて会った時と一緒だね
私が崖の上から落ちて、そこに偶然レイがいた」
あの時の私はポップの攻撃で眠らされていたけれど
こうして抱き止められて助けてもらったコト、知ってるんだ
「……セリカ…偶然じゃなかったら、オレは君を守る騎士なのだからら」
レイにぐっと抱き寄せられて、顔が近付く
すっとぼけたい所だけど、そんなふざけてる場合じゃない…
レイは私にキスをするんだ…って思うと胸がきゅーっとする
変なの…こんな気持ち……
「…っダメー!もう恋人(仮)は終了でーす!!」
キスされる前にレイの唇を指で押し退ける
キス…されそうになった…その事実にドキドキが止まらないケド、私は悟られないようレイの腕から下りて背を向けた
「恋人(仮)…そうだな、セリカ」
残念そうなレイの声が後ろから聞こえる
それでも私はちゃんと話すの
「恋人(仮)はね、イングヴェィも昨日で解消したの」
私がレイとキスしなかったのは、イングヴェィのコトが頭を過ぎったから…
だからできなかった
私…どっちが好きとかわかんないもん……
なのに、ふたりに答えを出していないのにどちらかを受け入れるなんてできない
一度受け入れてしまったら、もう後戻りはできないのだから…
ふたりとも、私のコトを助けてくれる守ってくれる救ってくれる
一途で健気で
優しくて一生懸命で
どちらも素敵な人であるコトは間違いなくて…
私は贅沢で幸せ者だ…
「ふたりのコト、よくわかったからね
これからももっともっと知っていくでしょう
そして、いつか私は自分の気持ちを知るから……
その時まで、さっきのは待っててね」
「ハハ、オレがフラれる可能性もあるのに」
私の唇を名残惜しいとレイは指でなぞる
「セリカの心はしっかりと奪ってみせるよ、誰にも渡しはしない」
だから…そういうの恥かしいってば……
いつまでも、いつまでも…レイの優しくて爽やかな安心する笑顔から目を逸らせなかった
吸血鬼にツッコミされるまでは……
そういやいたな、オマエ
―続く―2017/09/18
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