第76話『恋人(仮)のイングヴェィ』セリカ編
自分で言ったコトだけれど、そうなるとは思っていなかったから正直驚いているし戸惑っている
「そんなに言うなら…お試しで私と付き合ってみる?ふたりとも」
ふたりとも、の言葉
嫉妬深く独占欲の強いイングヴェィとレイが簡単に頷くと思う?
……簡単に頷いたんだよ………
まぁ、ふたりともお試しだから同時に恋人(仮)になるコトを受け入れた
(仮)じゃなかったら、そんなコトは許されなくて殺し合いになる
私自身も二股なんて絶対無理だもの、わかってるの
ひとりしか好きになれないし
二股なんて不誠実なコトは大嫌い
しかし、咄嗟に悩みに悩んで出た答えがコレとは…
私はこの選択で合っているのか、何をわかるコトが出来るのか
イングヴェィもレイも私と恋人(仮)になれて喜んでるし……なんか可哀想………
ふたりとも私の何がいいのか、全然わからない
私は、どう想っているのか、わからない…
今日は恋人(仮)らしくイングヴェィとデートだ
レイはまた今度、どっちが先かはジャンケンで決めたみたい
イングヴェィは私と前世から恋人同士と言って運命の人らしい、永遠の恋人なんだって
ふーん、って感想しかない
だって私は前世のコトなんか覚えてないもの
前世なんて曖昧なコト、それは本当に私なのか
運命と言う言葉に縛られてるだけで私のコトが好きなんじゃない運命に支配されているのでは
あぁ…色々考えてしまう
私は慎重過ぎるのだろう、警戒心が強く不信を持って相手を見抜こうとする
私は私しか信じていない、私しか頼りにしていない
他人は…私を裏切る……かもしれないから……
「セリカちゃん!」
私が色々と考えていてもイングヴェィはいつも通り変わらない
私を抱きしめて全身で大好きと愛情表現
「歩きにくいよ」
「だって嬉しいんだもん、セリカちゃんとこうしてお出かけするのとっても久しぶりでしょ」
何よりイングヴェィは私が初恋
初恋と言えば、盲目で相手を美化し過ぎて実際は違っていたコトに気付き幻滅して冷めてはダメになる可能性が高い
「そうだね、でもイングヴェィ
私は貴方が喜ぶほどの良い女じゃないのよ気付いて」
…イングヴェィのコトは嫌いじゃない……
運命が本当みたいに…私も少しは気になってる……
だから、恐いのかもしれない
こんなコトなかったから、臆病なんだ
どうしたらいいかわからない
私の全てを知られたら嫌われてしまうのではないか
こんなにも汚い私を…受け入れてくれるワケないと
それとも、運命に流され私が私でなくなってしまうコトに抗っているのか…
「気付いてるよ、セリカちゃんは俺にとって最高の人!他に誰もなれないからね、大好き!」
「いや、毎回聞くケド好きってなに」
「ワガママで自己中で短気で」
いきなり悪口!?本当のコトだけど!!??
「気が強そうに見えて本当はとっても弱いから守ってあげたい
疑い深く警戒心が強くて、なかなか俺を信頼してくれないのは
どうしてか、わかるから……
君のコトならなんでもわかるんだ」
わかるから…なんでもわかる
他人に知られたくないコト、死ぬまで口にしたくないコトを、わかると言うの?
本当にわかってるかどうかもわからない…
何も知らないじゃん…なにも、私の憎しみも苦しみも悲しみも……
「言ってないのに…わかるもんか
知ったら嫌になる、私は…私」
言えないのは、自分が気持ち悪いから?それともイングヴェィに嫌われるから?
「セリカちゃんは、ああ言うのが嫌いだもんね…」
イングヴェィがそう言って指すのは、若い女の子が複数の男に襲われている所
おいおい…いくら日常茶飯事でもタイミングが合いすぎるだろ、この展開
イングヴェィは私が頷く前に男達を退け女の子を助ける
女の子が無事なのを確認すると、逃げた男達にトドメをさそうと追いかけようとするが
「待って!」
私の言葉に動きを止める
「殺さなくて…いい、次殺せばいい……」
「セリカちゃん…」
本当は殺したい
ケド、私は思い出したんだ
イングヴェィは私のコトならなんでもわかって…私のためならなんでもする
だからイングヴェィがアイツらを殺すのは…私の心がそう思っているから…
貴方は私の醜い部分まで映してしまうよう
私のために…私の願いならどんなコトだって……
それが嫌で私はイングヴェィの傍から離れた
本当は優しい人なのに、私の存在で貴方は表にも裏にも変わる
「セリカちゃん……も、あんな目に…たくさんあったんだね……」
えっ……
イングヴェィの言葉に私は視線も顔も上げられなかった
「最初からわかってた…
君の過去に俺はいなくて、君を守るコトも助けるコトも救うコトも出来なかった…
俺はそんな自分が許せない……
君を守れなきゃ意味がない、君を幸せに出来なきゃ……」
イヤだ…知ってほしくない……私、綺麗になりたかったから
貴方の想う私は綺麗なままでいてくれたら…よかった……そんなの私じゃなくても
「気にしないでって言ったって、なくなりもしない消えないコト
だから、それでも俺は君を愛しているよ
全部、全部…君の全てを
信じて、そのコトで俺に背を向けないで」
「なに…言ってるの……」
そんなコトがまだ言えるなら…まだわかってないんだ……私のコト
実際に見たワケじゃないんだから
……私…背を向けてる
「永遠を懸けて信頼してもらえるように頑張るからね」
イングヴェィは本当に私のコトがわかるように、悲しく笑った
「それじゃ、気を取り直してデートの続きしよっか」
いつものように太陽みたいに笑ってくれる
まだ私に、いつまでこんな私にそんな風に笑ってくれるのか
そんなこんなでいつの間にか夜になる
満天の星空は綺麗だな
私のいた世界にはなかった美しいもののひとつ
普通の恋人同士なら良い雰囲気になって
「それじゃそろそろ帰ろっか、遅くなると香月くんに殺されちゃう」
アハハとイングヴェィは笑う
スゴイ誤解、香月は一緒にいるのがイングヴェィやレイだったらそんな怒んないよ…
「キスしないの?」
「えっ!?していいの!?」
満天の星空、良い雰囲気、カップルがするコトは?
「恋人同士なら普通のコトよ」
「したいケド…」
イングヴェィは顔を真っ赤にしてる
なんだ、ただのヘタレか
「でも、セリカちゃんが嫌なコトはしないよ
したくないなぁ」
そう言われてドキッとしてしまった
やっぱり私のコトわかってる…
言ったケド本当はしたくない…
まだ好きなのかわからないし、そんな気分でもないから
「このチャンスを逃したら一生ないかもよ?」
「セリカちゃんが嫌ならそれでも構わないかな」
イングヴェィはニコッと笑う
「お試し期間中だからポイント稼ごうとかセコいわ」
「そんなコトないよ!?信じて!?」
「それじゃあ、この先ずっとキスもその先もなしね」
「うん、いいよ」
…マジかよ……迷いもなく即答なんて、いやイングヴェィは人外だから人間とは感覚が違うのかも
でもこれだと、そんな日が来たら私がしたいってコトになるの?えー
「したいと言えばしたいけれど
キスもその先も愛情表現のひとつやふたつだから、君に愛を伝えられるならなんでもいいんだ」
私…イングヴェィのコト、何も知らないんだ…
だから疑ってる
私はいつも背ばかり向けていて、貴方を見ようとしなかった
見ようとしないから、いつまでも警戒して不信で……
何度も助けてもらったのに、あの時もその時も
何度も守ってもらったのに…いつも
私はそれでもダメなの?
この笑顔も、私の心も、いつまで無視し続ける……
「……イングヴェィ」
私は深呼吸をする
「お試し期間は終わりよ」
自分を救えるのは自分だけ
差し伸ばしてくれる手を払い除けるのは、もうやめよう
この世界は違うんだってコトにもう気付かないと
「えー残念、早かったな」
終わりと言ったのにイングヴェィは私にベッタリ抱きしめては頬を寄せる
いつものコトだった
「今度は本当の恋人にならなきゃね」
「うん…」
その言葉、今は少し素直に嬉しい
私も…恋愛に憧れがないワケじゃないから
でも、考えなきゃいけない
心のままで上手くいけるコトではないから
「あっ、明日はレイとデートだから早く寝なきゃ」
切り替えは早いほう
「デート(仮)、(仮)は大事だよね」
笑顔だけど、レイのコトになるとやっぱり恐い
イングヴェィは世界を壊せるほどの力を持ち、いつかセリくんの大親友レイを殺す…
私がレイを好きになったらバッドエンド確定みたいな
いつか選ぶ日が来る…
でも、私はウソをつかない
たとえ世界が滅んでも…
誰にも許されなくても…
本当に好きになった人と一緒になりたい
「………。」
(仮)、そうわかっていてもイングヴェィからしたらやっぱりレイと私が2人っきりになるのは嫌みたいで、それがわかりやすいように顔に出てる
……私も意地悪だったわね、2人が同意してこうなっているとしても
イングヴェィを目の前にしてレイの名前を出すなんて
「……帰るのは薔薇のソフトクリーム食べてからにしよっかな」
多種多様で超人気のソフトクリーム屋さんを指差しながらイングヴェィに微笑む
「セリカちゃん…」
まだ一緒にいられるって正しい解釈をしたイングヴェィはとても嬉しそうに笑って頷く
「俺が買いに行って来るからセリカちゃんはここで待っててね」
適当に言ったから、よく見るとあの長蛇の列をならぶのか…
最後尾の看板に2時間待ちとか、人気テーマパークのアトラクション待ちか!
私ならソフトクリーム買うのソッコーで諦めるわ
「変な人に付いて行っちゃダメだから」
「何歳だと思ってんの」
「お金あげるとか言う人が怪しいからね」
「わかるわ、それくらい!!」
「最近はいかにも怪しい黒ずくめな感じより、普通の人を装って近付いて来るんだって」
「この前なんかテレビで見た!!」
「相手が女性や子供でも油断しちゃいけないよ
セリカちゃんは勇者でもあるんだからその力を狙う悪い奴らはたくさんいるの」
「もういいからさっさと行けよ!?」
「心配なんだよ!?」
「じゃあ一緒に列べばいいんだな」
「セリカちゃんはベンチで休んでてほしいんだもん」
そうしてなんやかんやしている間に待ち時間がプラス15分になっていた
あぁ、やっと行った…
別に一緒に列んでもよかったんだケド
イングヴェィは私と一緒にいるコトが大切だからその提案だったのに、これじゃあまり意味ないわ
私が疲れるだろうからってイングヴェィは気を遣う
確かに朝から出掛けているから疲れている
イングヴェィは私のコトならなんでもわかって、傍にいなくても私を大切に出来るコトがイングヴェィにとって幸せなんだ……
好きな人を幸せにするコトが自分の幸せか
私は自分のコトでいっぱいいっぱいで、ダメだな
「セリカ様、こんばんは」
考え事をしていると私に影が被る
見上げるとどこかで見たコトがある人
「あっ、貴女はイングヴェィの仲間の…」
名前なんだっけ、見たコトあるだけで話したコトない
花族の女性だ、私お花好きなんだよね
やっぱ可愛いし綺麗だし儚くて素敵
この花族の女性はカモミールみたいな愛らしい可愛さがある
「カモミールです」
「あぁ~…」
って、そのままか!!名前はじめて知りました
「カモミールさん、こんばんは」
「はい、そして申し訳ありませんセリカ様」
なんで謝られたのか、聞くコトも出来ず私は耐えられないほどの眠気に襲われ意識を失う
眠りの魔法であるコトは目が覚めてから気付く、そして私はこの魔法にもっとも弱いのだと…
カモミールの匂いがする…
ハッと目が覚めると私は彼女に攫われていた
「離して、私をドコに連れて行くの…」
小さく愛らしい姿のカモミール、しかしその香りは強いのであった………
カモミールの精油は敏感肌にも相性が良く、たまにお世話になっていて慣れては来ているがそれでも香りは好みではない
お花だからって良い香りがするものばかりじゃないのよね
「黙って連れ去られてください…」
なんで!?そんなん恐いわ
理由次第では黙って連れ去られてやるケド、それが私にとって嫌なコトなら全力で抵抗するし
もちろん今の不透明な未来も最悪の予想に身構えてしまうから
「きゃっ!?」
カモミールさんが私から手を離す
私が炎魔法を使ったためだ
花族は火に弱い、私は炎魔法が得意
絶対勝つやろ!?
「どんな理由があるか知らないケド、私に手出しはしないほうがいい
早死にするよ、知らないワケじゃないでしょ?」
香月に殺されるでしょ、イングヴェィに殺されるでしょ、レイに殺されるでしょ……
死ぬしかないんだよ君!?
「そ、それでも……貴女を連れて行かないと、私の弟が」
やっぱり、何か理由があるのね
イングヴェィの仲間が恐れのある中で私に手を出すコトなんてありえない
私に手を出す恐怖を知ってもやるならそれ以上の、命を捨ててまでやり遂げたいコトがある
つまり、カモミールさんは
「弟さんが人質に取られてるのね?」
「はい…」
誰に、と聞きたいがなんとなくわかる
「悪魔か?」
「そうです…」
弱々しく悲しみとともに俯く姿に私は責める気はない
大切な人を盾にされたら、心ではやりたくなくても助けたい一心で当たり前の行動だ
悪いコトじゃない
関わりのない私と彼女の大切な人、彼女の天秤では弟に傾く
正しいコト
勇者の力を狙ってるのは悪魔だけではないが当たりか
「わかった、大人しく攫われてあげます」
「セリカ様…!?
しかし、それでいいのですか?
悪魔に捕まったら何をされるか……」
「差し出そうとした貴女が今私を心配するのか?
何をされるかはわからん、私はセリくんと違って女だから男の悪魔だったらエロいコトをされるかもしれん」
そんなの嫌に決まってるだろ
でも…なんでかな、目の前の弱い存在を助けてやりたい
私の気まぐれだ、たまたまだ…
今機嫌が悪かったら知ったコトかと逃げているかもしれない
ただ…私は
「……それは……」
「…でも、殺されはしないよ
奴らは私の力がほしいからね」
「セリカ様…私は……なんて事を」
「弟を助けたくないのか?」
「ッ助けたいです!!」
「なら行こう、他人の私に気遣っている余裕はない
それに私の気が変わる前にね」
誰かの為に犠牲になるコトがカッコイイと思っているのか
彼女達を助けたコトに自己満足したいのか
善人になってみたいのか
私は…なんなんだ
カモミールさんに案内されながら後少しと悪魔のいる場所へ向かう
「あの、あの…」
「ん?」
「セリカ様は花族の中でも皆さんの憧れだったんです」
えっいきなり何、私に負い目を感じて気遣っているのか
「カサブランカのように美しい姿」
それただ私が色白なだけじゃ…
「そうだね、俺もそう思ったコトあるよ」
私達以外の声が後ろから聞こえて振り向く
見なくても誰かわかる、私を助けに来た
ケド、振り向くと同時にイングヴェィはカモミールさんに刃を向けて襲いかかる
「セリカちゃんをお花に例えるなら百合の花だってね」
「待って!」
イングヴェィのスピードに私が勝てるワケない
でも、私はそうなると予想していたからすぐにカモミールさんを庇うように前に出る
「……危ないでしょセリカちゃん」
イングヴェィの持つ武器の刃が私の鼻に触れるか触れないギリギリな距離でピタリと止まる
やべーやべー、私なら急には止まれないからそのまま刺しちゃうわ
寸止めできる人ってスゴイよね
「やめて」
「やめないよ
この女は俺の仲間なのに、裏切って君を攫ったんだからね」
イングヴェィ…凄く怒ってる…カモミールさんに
自分が裏切られたからじゃない
私に手を出したコトに怒ってるんだ
「俺の仲間なのに、イングヴェィそれおかしいと思わない?
カモミールさんが私を攫った理由があるんだよ
それってどんなに」
「だから何?他人の理由なんて俺には関係ないコトだよ」
あっ…そうか…これはさっき私が言った言葉だ
イングヴェィにとっての天秤は私より重いものはない
でも、でも…違う
そうじゃない、それだけじゃないよ…
「私…そんなのはイヤだ!!
私の為にそれ以外を、仲間ですら容赦なく殺すしかないなんてヤダ!!」
だから私は貴方の傍から消えたのよ!?
私と比べたら全てがゴミと化す
さっきと今の違いは対象が自分に向いたから
私はワガママだ、他人にはそうだと言って自分は違うと言う
「聞かなくてもわかるよ
カモミールが何故こんな事をするのか、誰かに脅されてとかでしょ
これでも俺はリーダーだもん
みんなのコトわかってるつもり
でもどんな理由があっても、それでセリカちゃんが酷い目に合うなら
見過ごせないし、許せない……」
イングヴェィの…気持ちはわかる……
「でも…仲間なのに……
いや、脅した相手を殺して人質を助ければ」
「今回それが上手くいったとしても
誰かに脅されて簡単に裏切って、君を傷付ける人なんていらない
殺さないと、また足を掬われちゃう
今度は君を助けられなかったら…?
俺は自分が許せなくなっちゃうよ…
あの時…なんでこの女を殺しておかなかったんだろうってね」
イングヴェィは器用に私の後ろにいるカモミールさんの首を跳ねた
彼の武器なら私を貫かなくても殺せる…
「イングヴェィ…」
どうして…
振り向いたら、私が庇っていた花は折れていた
命尽きて花を枯らしてもう咲くコトはない
乾き切った姿はいつか土にかえる…
「ありゃりゃ~、その花はだめか~」
私の視線はカモミールさんから動かない
上のほうで悪魔の男の声がしても
「セリカちゃんは攫わせないよ
力のない今の俺でも低級悪魔には負けないからね」
「僕を馬鹿にしたなぁ!?」
プンスカ怒ってる姿を見ると本当にバカそうだな
「私を攫うなら彼女の弟は解放するのね?」
遅れて私は悪魔を見上げた
「馬鹿を言うな!!」
馬鹿に馬鹿言われた…
「僕は花が嫌いなんだ!!さっさと殺したね!
花族はもちろん、花みたいに綺麗なお前も!!
勇者の力を持っている聖女は殺すなと先輩が言うから殺せなくとも
その代わりへし折る事はしたかったのに、役立たずな臭い花め!!!!」
弟さん…殺されたのか、そんな展開も考えなかったワケじゃなかったケド……
「危なかったねセリカちゃん
でも俺がいるから大丈夫、守ってあげられるね」
イングヴェィはいつもの太陽みたいな笑顔を私に向けてから悪魔と対峙する
あぁ…わかってた……気付いたのだ
私はイングヴェィを理由にして逃げてた
私がいるからイングヴェィは変わってしまうんだって
本当は違う
私を、助けてほしい守ってほしい救ってほしい
これは私のずっと昔からの願いだった
この先もずっと変わらない…
イングヴェィは私の理想そのもの、運命の人なのだから
私を映し出す鏡なんだ
『セリカちゃんのコトならなんでもわかる』
私はその言葉の意味を避けていた
イングヴェィの行動は全て私自身が望んでいるコト
それを見ないようにして、誤魔化すように気まぐれで他人に優しくして助けて…
私はただ弱いだけじゃないか
イングヴェィは何も悪くない
なのに、私は私を認めたくなくてイングヴェィを責める…
「アハハ、超弱かった
お待たせセリカちゃん終わったよ」
後ろで息絶えた悪魔が転がっているのが見える
イングヴェィは…いつもと変わらない笑顔で
これからもこの先ずっと永遠に私を愛している
考えろ、考えなきゃいけない
もうイングヴェィから目を背けたりしない
私自身に向き合って受け入れる
だから…いつか、私はあなたの所へ帰るかもしれない
「イングヴェィ…薔薇のソフトクリーム食べたかったね」
帰らないかもしれない
私が帰る時はあなたを好きになった時だから
でも、私はイングヴェィから目を逸らさないよ
私が望んでいるコトだもの…
自分から目を背けないって…決めたよね、あの時に
「あぁ…ゴメンね、もうこの時間じゃお店閉まってるか…残念」
「いいのよ、また今度」
「また今度?また会ってくれるの?嬉しいな~」
イングヴェィのこの、私大好きって笑顔…嫌いじゃないなぁ
純粋で一途で無垢な愛を向けられるって………心洗われるわ……
なんか私とは住む世界が違うって言うかキラキラがね
私こんなに穢いのに……
イングヴェィはそれも一緒に私を愛してるって言ってくれるケド……
「ねぇセリカちゃん
恋人同士(仮)なら、今日の最後に恋人らしいコトしてもいいの?」
「えっ?…それはもうやめたって…」
恋人らしいコト…えっ…何?
そもそも恋人ってなんだ?
知識として、それがなんなのか
私は知らないワケじゃない
でも、すっとぼけてしまう、わからなくなってしまう
なんで…
「今日が終わるまではまだ有効だよ
ふふ、大好きだよセリカちゃん」
イングヴェィの手が私の首に触れる、頬を包み込む
いつも抱きしめられて、そんな距離は挨拶みたいに当たり前のコトなのに
この時はもっともっと近く感じる
近付いてくる、イングヴェィの顔が目の前にいつもより近く…
キス…されるんだ……ってわかったら、私はぎゅっと目を閉じた
ちゅっと小さな音が聞こえたら、私は驚いて目を開ける
「あ…れ…?」
いつもと変わらなかった
イングヴェィは私の唇ではなく、額にキスをしたの
「いくら恋人でも、君が嫌がるコトはしないよ
ちゃんと好きになってもらって、セリカちゃんが俺を受け入れてくれてから」
(仮)を付けなかった…
それは私がもし恋人になっても、イングヴェィは私の嫌がるコトはしないってコト……
「だって、嫌われたくないもんね」
優しく微笑む、いつだって貴方は私の為に
私は…さっき、ちょっとドキドキしたよ
恋人ってなんだっけって、照れ隠しして
恥ずかしいから……
運命の人だからドキドキするのか、それともそんなの関係なく……
「…うん…
イングヴェィ残念
もし明日私がレイとデートしてキスしたらどうするの?
恋人(仮)なんだからあるかもしれない、もったいないな~」
「その時はレイくんを殺さなきゃ、いつかじゃなくてすぐになっちゃうね」
私が嫌がるコトだからレイを殺すのか、それとも
私がイングヴェィ以外の人を好きになるコトは、イングヴェィにとって唯一自分の為に行動する
私に嫌われたくないと言うのに、私が他の人を好きになったらその人を殺す
そんなの絶対私に嫌われるのに
わかってるよ
その時は…その時
「はい!ラブラブタイムは終わり!
そもそもお仲間を殺して、しかもそのすぐ傍でキスなんてどうかしてるわ
悪魔の死体も転がってるし」
「全然ラブラブしてないよ!?」
イングヴェィからしたらいつも通りだもんね
「可哀想だとは思うよ
俺だって、セリカちゃんを人質にされたら同じコトをするもん…
でも、俺が同じコトをして殺されても当然の結果だなって思う
その人だって、大切な人を守りたいんだから…」
やっぱり…イングヴェィは優しい人
わかってないワケじゃない
とても残念には思ってる…仲間だったんだもん……
私の額にキスはイングヴェィにとったら挨拶、いつも通りで
何もおかしくないわ
「まっ、俺は負けないで返り討ちにしちゃうケドね
俺が負けたらセリカちゃんを助けられないもん
あっでも、今回の場合はすでに人質を殺されちゃってるのか
それなら悪魔の言うコト聞くより、なんとしてでも自力で解決出来るように考えなきゃね」
だから大丈夫、安心して俺を頼って信じて待っていて、とイングヴェィは笑って私の手を取った
冷たい手…私の手をこの冷たい手が優しく握ってくれるのは、久しぶりね
恋人っぽくて…良いんじゃないかな
私も…ちょっとずつ変わるのかもしれない
少しずつ、心の変化を感じて…
-続く-2017/06/11
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