143話『天使の心の底』セリカ編
セリくんが拾ってきた天使はとても私に懐いてくれて、ただただ可愛かった
見た目はセリくんなのに、言動はまるで幼い子供そのものだった
綺麗で真っ白な翼に、混じり気のない純粋な笑顔が、本物の天使のようだった
だけど、日が経つごとに元気がなくなるのが見える
天使の大切な人がなかなか見つからないから…
「セリカちゃん見て見て、セリカちゃんの絵描いたよ」
それでも天使は頑張って寂しさに耐えて笑ってくれる
その健気な姿がまたほっとけなくなって、とことん甘やかしてしまう
「可愛く描いてくれたのね、ありがとう嬉しいわ」
その絵もやっぱり幼い子供が描く可愛いものだった
「ちょうど良いタイミングで来たね、ケーキが焼けたところだから一緒に食べましょう」
天使が来てから私はよく料理をするようになった
美味しいかどうかは自信がないけど、天使は私の料理を凄く喜んでくれるから
「やった!早く食べたい!生クリームたっぷりにしてね」
天使は良い子で座ってると言ってくれたから私は席から立とうとした時にイングヴェィが顔を覗かせる
「ケーキが焼ける良い匂いがすると思ったら、俺もセリカちゃんの作ったケーキが食べたいな」
「イングヴェィ…もちろん、持って行くつもりだったわ…」
最近、イングヴェィを目の前にするとなんだか急に部屋が熱くなるのよね
視線もどこに向けたらいいかわからなくて泳いじゃうし…変よね…
「それとねセリカちゃん」
イングヴェィが私の傍へ近付くと天使はイングヴェィを押しのけて私に近付かせなかった
「あーえっと、石を溶かす泉の話を聞いてこれから見に行こうと思うんだけど」
妙な距離でその間に天使を挟み会話をする
「それってフェイを助ける手掛かりになるかもしれないわね、私も一緒に行きたい」
「もちろん」
イングヴェィはケーキを食べたら行こうと言ってくれる
上手くいけばフェイを助けられるかも
「俺も一緒に行きたい」
話を聞いていた天使が口を挟む
「危ないからダメよ、天使はお留守番しててね
お土産買って帰るから」
お留守番って言うと天使はむーっと拗ねてしまった
街へ買い物にとか遊びに行くとかじゃないし、はじめて行く場所だから危ないかもしれない
可哀想だけど仕方ないわよね…
そして、何故かキッとイングヴェィを睨んだ
「たくさんお土産買ってくるから良い子で待ってるんだよ」
だけどイングヴェィは優しく天使に言い聞かせた
ふと天使の真っ白な翼の一部がまた黒く汚れているコトに気付く
私の視線に天使はサッとその部分の羽根を引きちぎって手の中に隠す
何かの病気だったらどうしよう、天使は何も言わないから
それに、そのコトには触れるなってオーラが凄くて私は心配するコトしか出来なかった
天使のコトはリジェウェィに任せてお留守番をさせた
私のウサギ達もいるから寂しくはないと思うけど、やっぱりちょっと心配だな
まぁ私がずっと四六時中ベッタリってのも難しいものね
そんな心配に後ろ髪引かれながらも、イングヴェィと私は石を溶かす泉へとやってきた
「なんだか…思ってたんと違う……」
石を溶かす泉、ドロドロボコボコの超高温の泉…なのかこれ?サラサラの泥と言った方がしっくり来るような
「これじゃ、フェイくんの身体ごと跡形もなく溶けちゃうかも」
石を溶かす泉はその名の通りで、フェイの石化を解かすとはまた違うわね
「うん、だって私の手がなくなっちゃったもん」
私は試しに自分の手を泉に突っ込むと一瞬で泉に浸かった部分の手が溶けた
「うわー!?セリカちゃん何してるの!?いくら回復魔法で痛みを感じないで治るからってそんな恐いコトしないで!?」
イングヴェィは私の手首を掴んでなくなった手を見て青ざめた
「いやだって、試してみないと実際にはわからないと思って」
「試さなくても見たらわかるよこれ!?」
あまりにイングヴェィが心配するから私はすぐに手を回復魔法で治した
ここもハズレか…
フェイの石化にはなかなか良い情報がなかった
やっぱり、この私に取り憑いてる影を倒すコトが石化を解く方法なのかしら
関連してるかどうかもわらないわ
影との決着も早めに付けないと、遊馬から貰ったお守りも長くは持たないかも…
「もう一度、フェイに会いに行くわ
何か新しいコトに気付くかも」
「そうだね、行ってみよう」
イングヴェィは嫌な顔を少しもせずに私に全力で協力してくれる
自ら色々やってくれたり…いつも、助けてくれる
一度、イングヴェィがいなくなって
その前のイングヴェィとは少し雰囲気が変わっていた
成長してると言うか…さらに良い男になって帰ってきたって言うか…
前のイングヴェィはちょっと自分の気持ちを押し付けがちでヤンデレな感じがあったような
今もヤンデレな兆しはあるにはあるけど、本当の意味で私を1番に大切にしてくれる
だから、前より緊張すると言うか…変な感じなの
そんなイングヴェィに、私も応えたいと思うのになかなか上手くいかない
「あの…ありがとう…イングヴェィ」
それでもちゃんと感謝の気持ちは伝えたい
少しでも私を伝えられたら…
「お礼なんて、フェイくんを助けるのは俺の気持ちでもあるんだよ
だってセリカちゃんを助けてくれたみたいだから
フェイくんがいなかったら、今こうしてセリカちゃんと一緒にいられなかったかもしれない」
確かに、フェイがいなかったら私は死んでいたかも
きっかけのフェイが引っ張ってくれて和彦に会うコトが出来て、もう一度立ち上がるコトが出来たと言ってもいい
だから、私はフェイに凄く感謝してる
私を助けてくれたフェイを、今度は私が助ける番
1日でも早く石化を解いて自由にしてあげたいの
そうと決まった私達は和彦の屋敷へとやってきた
和彦が帰っていないのはわかってたけど、いつも和彦の屋敷を訪ねるとフェイが出迎えてくれるのに
やっぱりそんなコトはなくて、鬼神八部衆の2人が現れる
「セリカ様!?まさかいらっしゃるなんて
一瞬、天女様かと見紛いましたよ
相変わらず天女様のようにお綺麗で」
「眼福」
「嬉しいわね、ところでフェイは?」
鬼神達の反応にも慣れたからサラッと流す
「その前に、この付き添いの男はセリカ様とどのような関係で?」
「この男、人間ではないな」
ニコニコと笑顔のイングヴェィとは逆にメンチを切るように身体のデカい鬼神達は上から見下ろし威圧する
「セリカ様の男か…?」
「ち、違うわよ!?まだ!!」
「まだ…?」
「う、うるさいわね!貴方達には関係ないでしょ!?早くフェイのところへ」
「我らはセリカ様をお慕いしている
セリカ様に近付く男がどんな男か試したい」
鬼神達は私を自分達の後ろに隠し、イングヴェィの胸倉を掴んだ
「戦うってコト?いいけど、まだ力を失ったままの俺には鬼神2人は厳しいかな
これに和彦くんは8人相手に勝ったって言うんだから凄い
でも、やるって言うなら負けないよ」
「ちょっと待ちなさい!喧嘩で相手を試すっておかしいでしょ!?
喧嘩で勝った方が良い奴なの!?
和彦は貴方達に勝ったけど、浮気しまくりの最低男よ!?
どれだけ泣かされたと思ってるの…そんな和彦を貴方達は良い奴とするの?」
セリくんから流れる想いに私はだんだんとムカついてきた
なんで、あんな奴好きなんだろ…
「セリカ様…そんなお辛い事が」
まぁ私じゃなくてセリくんだけど、セリくんが辛かったら私も辛いから
和彦のコト愛してるけど、決して良い奴ではないよな…
「それはさすがの和彦様でも許せぬ!!」
とりあえずこの場をおさめるコトは出来た
鬼神達の中で和彦へのイメージに傷が付いたけど、ウソは言ってないし和彦が悪いもん
「ところでセリカ様は良いものを持っていますね」
「えっ?」
「それから感じる力、我らの中1人くらいは封印出来るほど強い力の持ち主」
鬼神を封印できるってめちゃくちゃ凄いコトなんじゃ、私は心当たりがある遊馬のお守りを取り出し見せた
「へぇ、この時代にこれほどまでの力を持つ人間がいるのかぁ面白れぇなぁ」
遊馬のお守りから感じ取る力に鬼神は感心している
遊馬は霊力がなんとかかんとかで魔力の私達とは違う感じだったけど、魔族が魔力なら鬼神は霊力と言ったところなのかしら
なんだか面白い話ね、こんなところで繋がるなんて
「私のお友達なんだからいじめちゃダメよ」
「からかってやろうと思ったけどセリカ様のご友人ならねぇ」
仕方ないと鬼神達は笑って諦めてくれる
冗談なのか本気なのか、とりあえず遊馬には近付かせないようにしよう
遊びとか言って霊媒師の遊馬を殺してしまいそう
でも、鬼神達も認める遊馬のお守り
私が思っていたより凄かったんだね
ちゃんと私も守ってもらってるし、本当にありがとう
そんなこんなでやっと鬼神達に石化のフェイはフェイの部屋に置いてあるコトを聞いて私達は案内されて行くコトに
フェイの部屋の中は人の気配がなくシーンと静まり返っている
石になってしまったフェイはここにいるのに…人の気配はまったく感じない
「フェイ…」
フェイの時間はセリくんに駆け付けて手を伸ばした所で止まってしまっている
そこから何も知らない
もうセリくんが大丈夫だってコトもフェイは知らないんだ
「………なるほど…ね」
イングヴェィはフェイを見ると、言いにくそうに私を見る
鬼神達も気付いてるようだった
私はそんなみんなに首を傾げる
「セリカちゃん…ずっと、俺に隠してるコトあるでしょ」
えっ…
「セリカ様に取り憑いてる影みたいな奴の力をフェイからも感じますねぇ」
鬼神の言葉で私はどうしてイングヴェィが言いづらそうにしてたのかわかった
私が…イングヴェィに心配かけないようにと影を黙ってたコト…
イングヴェィは私が言わなくても影のコトに気付いていたんだ
鬼神はその事情を知らないから、サラッと言ったコトにイングヴェィは複雑な表情を浮かべる
「あ…私…イングヴェィに内緒にしてた
心配かけたくなくて」
「ううん、いいんだよ
わかっていたから、でもセリカちゃんが内緒にしてるコトを俺からは言いにくくてね」
鬼神は言っちゃったけどってイングヴェィは苦笑する
うー…イングヴェィはいつも、優しい……
「それじゃあ、この影を倒せばフェイの石化も解けるってコトでいいのかな?」
「それはわかりませんが、フェイからはその力を感じる
試す価値はあるでしょう」
「どうやって倒せばいいのかしら、この影って触れないのよね」
可能性があるならやってみたい
それでダメだったらまた石化を解く方法を探すだけよ
「セリカちゃんの影は呪いみたいなもの
君のトラウマに絡んでいるから…」
イングヴェィの言葉に、それは私のトラウマがなくならないコトにはなんともならないと言ってるように聞こえた
それは不可能なコトだった…
トラウマがなくなるコトなんて記憶喪失にでもならない限り…無理だよね…
それじゃフェイはずっと助けられないってコト…?
「他に…石化を解く方法を探すわ」
影はどうにもならないとわかった以上、他の方法でフェイを助けるコトを考えるべきだ
「セリカ様、フェイを助けたいのもありますが
影はセリカ様を苦しめます
このまま放置していてはセリカ様が…」
私のコトはどうでも…
「セリカちゃんのコトは、必ず助けるから
影を消し去る方法、俺が見つけてみせるよ
そして、セリカちゃんを助けてフェイくんも助けよう」
イングヴェィはいつも前向きで、私が落ち込んでも元気がなくても
いつも…上を向かせてくれる
イングヴェィの顔を見上げて、その笑顔を見るだけでなんでも上手くいくような気になる
また頑張れる
そのイングヴェィの綺麗で他にはない澄んだ瞳に引き込まれてしまう
いつもその中に私を映してくれていた
「そうだね、私頑張る」
私が笑顔を見せたコトで鬼神達もホッとした笑みを零した
フェイのところへ行って帰り道にたくさんのお土産を買って帰った
「セリカちゃんおかえりなさい!」
笑顔で出迎えてくれる天使にたくさんのお土産を渡すと、それをその場に置いて私へと抱きついた
「セリカの帰りをずっと待っていたよ
天使にとってお土産よりセリカがいてくれる方が嬉しいんだろう」
リジェウェィは子守は大変だったと笑っていた
「ありがとうリジェウェィ
天使、寂しい思いさせてごめんね」
「もうどこにも行かないで、ずっと一緒にいる」
こんなワガママも天使が言うと、ただただ可愛いだけだった
それから天使は寝る時間までずっと私から離れなかった
寂しかったんだろうし、今日は仕方ないよね
好きに甘えさせておこう
「セリカちゃん、俺が眠るまで傍にいてくれる?」
夜になると、天使はだいたい子供が寝るくらいの時間にベッドに入る
私はいつもそうお願いされるから天使が寝るまで傍にいるコトにしていた
ベッドに入って寝るのは早いし
天使が来てからはとても懐いてくれるから自然と私が面倒を見る形になっている
可愛いからついつい面倒見ちゃうってのもあるかな
「うんオヤスミ、天使」
「…………。」
少しすると天使がスヤスヤと寝息を立てる
そんなタイミングでドアが静かにノックされて、振り返るとイングヴェィが手招きする
「セリカちゃん、ちょっと良い?」
イングヴェィの部屋へと呼ばれ、天使の話になった
「セリカちゃんは天使にとても懐かれているね
あれだけベッタリだとレイくんが嫉妬するのもわかるな
あの天使は見た目はセリくんと同じ成人男性みたいだけど、中身は10歳にも満たない子供だね
まだそれ以上生きてないハズだよ」
「やっぱりそう思う?私も天使が子供にしか見えないの
だからほっとけないと言うか」
「そう、だからレイくんは子供相手に嫉妬してるってコトになるね
レイくんはウサギにすら羨ましがるから
セリカちゃんのコトが大好きなのはわかるけど、俺はそこまでは同感できないかな」
レイのウザイところはたくさんあるけど、子供や動物にまで嫉妬するのもその1つよね
イングヴェィがレイの話をする時、トゲがあるな
セリくんがレイを受け入れたコトがやっぱり気に入らないみたいだ
それでもセリくんが決めたコトだからイングヴェィは目をつぶってくれる
「イングヴェィがわかってくれて嬉しい…
セリくんにそっくりとは言っても、一応他人で見た目は男の人だから誤解されたらどうしようか…なんて……」
見た目そっくりな人と恋愛するってどんだけ自分好きなんだって感じだけど
話しながら自分が恥ずかしいコトを言ってるのに気付いて自然と顔が熱くなる
「誤解…?誰に、どんな誤解?」
イングヴェィは珍しく意地悪な笑みを浮かべて私へと顔を寄せる
「な、なんでも、ないわ…」
言わなくても…わかってるくせに
「ウソウソ、ごめんね意地悪言っちゃった
セリカちゃんがあまりにも可愛いから、ついね」
ニコッとイングヴェィは安心するいつもの笑顔を見せてくれる
「大丈夫、わかってるよ」
「うん…」
イングヴェィの笑顔を見ると私も口元が緩むのがわかる
「そういえば、天使の捜してる大切な人だけど今のところこれと言った情報はないかな」
「そう…最近、天使の元気がなくなって来ていて寂しいんだと思うの」
「そうだね、セリカちゃん以外に笑わなくなったし
この世界の隅々の情報が来たワケじゃないけど、もしかしたらこの世界にはいない可能性もあるよね…」
それは私も思っていたコトだ
このまま天使の大切な人が見つからないままで、この世界にいなかったら…
天使はどんなに悲しむだろう
いつも笑顔でいてほしい天使から笑顔を失わせるようなコトにはなってほしくないから
私達は最悪の結末の可能性の前に暫くの沈黙が続く
「…いや」
そんな重い空気の中、イングヴェィは口を開く
「かなり大変なコトだけど、別世界まで捜せばいつか見つかるかも」
「あっそうか!ユリセリにお願いして協力してもらいましょう」
「セリカちゃんがお願いすればユリセリさんも快く引き受けてくれるハズだからね
でも、もし別世界にいた場合はずっと一緒にいるってコトは出来ないから
天使にとっては会えても辛いかもしれないね…」
別世界…ユリセリの能力で少しの間この世界に召喚するコトが出来る(逆に行くコトも)
でも、住む世界が違うと長くはいられなくて無理に滞在した場合は死んでしまうの
それは前世の私にも経験がある
「そうね…でも、会えないよりはずっと良いと思うから
明日にでもユリセリに会ってお願いしてみるわ」
「俺も一緒に行くよ」
「ありがとうイングヴェィ」
それじゃまた明日に、オヤスミと私は自分の部屋へと戻った
はぁ…やっぱりイングヴェィといると凄く緊張するな
嫌な緊張じゃないんだけど…
一緒にいたいって思うのに、逃げ出したくなる妙な気持ち…
次の日、私はユリセリとリジェウェィに天使の大切な人を捜してもらえるようにお願いと相談をした
ユリセリもリジェウェィも快く協力すると言ってくれたわ
リジェウェィは天使にお留守番させていた時に面倒を見てくれてて、その時に天使の魔法力にとても興味を持ったみたい
そういえば、天使の魔法って私達のように回復魔法とか炎魔法とか氷魔法とかとは違って
自分の好きなようになんでも使えるらしい(難しいコトや無理なコトもあるみたいだけど)
私もたまに見せてもらったわ
室内なのに雪を降らせたり、重たい家具を動かしたり、美味しいおやつを出したりとか
それは魔法の研究をしているリジェウェィにはとても興味深いコトね
ユリセリには天使の抜け落ちた真っ白な羽根を渡して、それを使って天使に関わりのある人を捜すとのコト
天使の大切な人を見つけたらすぐに知らせると言ってくれた
2人が協力してくれてとても心強かった
見つかるかわからないし、いつになるかわからないけど…
それから私はイングヴェィの城の中にある図書室へとやって来ていた
この世界の文字は読めないものがほとんどだけど、挿し絵からなんとなくわかるものもあるからそこから石化について調べようと考えた
じっとなんてしてられないもん
フェイのコト早く助けたいから
「セリカちゃん、帰って来たと思ったら今度はお勉強?」
天使は私について一緒に図書室へ
「お勉強じゃなくて、石化を解く方法がないか探してるのよ」
私の隣に座る天使は、なんだかいつもより様子が酷く変だった
「私のお友達が石化の呪いにかかっちゃってね
早く助けたくて」
フェイが友達かどうかは微妙だけど、天使にはそう言っておこう
「……その人って…男の人…?」
「えっ?」
天使の翼が半分以上黒くなってるコトに気付く
笑いもしなくなった天使は、私の知ってる天使じゃないみたいで
「どうしたの天使…貴方の綺麗な翼が真っ黒に…」
天使は席から立ち上がると私の開けていた本を閉じた
「……俺…知ってるよ、石化を解く方法…教えてあげる」
「本当に…?」
天使は私の目を見なかった
おかしいとは思ったけど、私は天使を疑うコトが出来なかったから
「じゃあ…ついてきて」
天使に手を引かれて、私は素直について行った
城の外れにある小屋へと天使は私を連れてきた
この小屋って物置だったような…でも、人が生活できるような作りに変わってる…?
「ここに石化を解く方法が…?」
天使がドアを閉めるとそこから入っていた光がなくなり、小屋にある小さな灯りだけが頼りになってしまった
窓とかが塞がれてる?何かおかしい…
「そうだ、石化の方法がわかったならイングヴェィにも教えて」
ドアを開こうとしたけど、ビクともしなかった
これは鍵がかかっている感じじゃない
もしかして…天使の魔法で私は閉じ込められてる?
「もう…どこにも行かないで」
「えっ…石化を解く方法」
「そんなの、ウソだよ」
天使はもう笑顔を見せなくなっていた
その姿に私は酷く胸が痛んだ
私の異変にいち早く気付いたイングヴェィが小屋の外で叫ぶのが聞こえる
「セリカちゃん!?この中にいるの!?どうしたの、天使!?このドアを開けて!!」
「イン…!」
イングヴェィの名前を呼ぼうとしたら天使は私の口を手で塞ぎドアの方から離した
「…セリカちゃんは、外で君の名前を呼ぶ人のコトが好きなの?」
天使の明るく人懐っこかった声が、冷たい声に変わってしまっていた
どうして…
口を塞がれてるから私は何も答えられなかった
塞がれてなくても、私はイングヴェィのコトをなんて答えればいいかわからない
「ダメだよ
結婚するなんて、許さない
君が願ったんだよ
家族がほしいって…
だから、俺は君のクリスマスプレゼントで家族になったのに
せりかちゃんが結婚したら、お嫁にいったら…
もう俺とは家族じゃなくなるんでしょ
そんなの絶対に嫌だ
俺を捨てて新しい家族を作るなんて、絶対に………嫌…」
冷たい表情が、どんどん変わっていく
悲しみと寂しさに強く支配されて…苦しくてたまらないと吐き出すように
私は…何も言えなかった
「ずっとずっと、ここで俺と2人で暮らそう?
せりかちゃんの家族は俺だけでいいよね」
手を離してもらったけど、私のどんな返事でも天使には届かないとわかった私は何も言わなかった
天使はずっと私を私として見てなかった
ずっと自分の大切な人と重ねていたんだ
でも、本当は私が自分の大切な人じゃないってコトに気付いてる
だから…寂しくてたまらなかったんだ
もうここまできた天使の目に私は映っていなかった…
-続く-
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