142話『歪んだ自分』セリ編

ラスティンが3バカ入りした事実を知った日から数日が経った

天使は相変わらずセリカにベッタリでイングヴェィもたまに一緒にいるのを見かけてウサギ3兄弟も元気にしている

カトルはいつもの大食い、セレンは趣味に没頭

実はセレンの想い人、リジェウェィが一つ屋根の下にいるってコトを忘れているようだ

リジェウェィはリジェウェィで趣味の魔法の研究でいつも自室に籠もってるからめったに会わないんだよな

とりあえず、みんなとくに変わったコトのない日々を過ごしていた

そんなある日

「セリ、今日も可愛いぞ」

朝からレイが抱き締めてくるから凄くウザかった

日に日にコイツのウザさに磨きがかかってるような気もする

「当たり前だろ、俺はセリカなんだから可愛いに決まってんだろ」

褒められるのは大好きだが、あんまりしつこいと逆に嫌になってくる

「正確には、セリは可愛い系より綺麗系だから」

「もういいよ、ってか最近ウザい

俺はベタベタされるのは好きじゃないんだよ

香月や和彦ともやらんって」

「確かに、セリは自分から甘えて受け入れてくれる人が好きだよな

香月さんも和彦さんもそうだ

わかった、それならほら来い」

レイは一旦離れ両手を広げて、俺に言う

「オマエ、アホ?

来い言われて、そんな気分じゃないのに行くか」

「セリはウサギっぽいな」

ウサギは犬より猫っぽいと言われている

レイがわかりやすく言いたいのは俺が気まぐれってコトだろうな

「レイだって、前はそうだったじゃん

俺から甘えてって感じで」

「最初からいつも可愛がりたいって我慢してた

触りたくても触れなかったんだ!?ずっと傍にいるのに!?」

「あーわかった、わかった、俺が悪かったですー」

またレイが面倒くさくなってる

「……すまない、オレも調子に乗ったな

セリが嫌がる事をしたいわけじゃないんだ」

レイが落ち込むと、ちょっと可哀想になる

俺の一言で一喜一憂するから…

「……別に嫌ってワケじゃなくて…」

ただウザいってだけで、嫌ではないんだよな

レイの傍に寄って落ち込む顔を見上げる

するとレイは俺に音を立てて軽いキスをした

「押して駄目なら引いてみろ、ってやつ?」

レイはちっとも落ち込んでなんかいないでいつものような爽やかな笑顔を見せる

「ッオマエな~!!やっぱウザいわ!!」

ウザいけど!!嫌いじゃない…

俺、強引なの…嫌いじゃないんだよな……あぁ、なんか俺って変態っぽい…

もちろん好きな相手限定だが!!

そんなやり取りをしていると、ドアが静かに開く音がした

その音に目を向けると、そこには覗きをしていましたって顔のセレンの姿が…

「はっ!?オホホホホ、セレンの事はお気になさらずに

もっと激しいコトをなさってもよろしいんですのよ」

開いたドアを閉めたフリしてガッツリ見ている

この変態女が!!

「朝からするか!!ってか、暫くはしねぇよ!!」

ドアを開けてセレンを怒鳴る

「いつするんですの!?いつ小悪魔ビッチ受けのセリ様が複数の様々な攻めから執拗に攻められるってシチュのエロいお姿を拝めるんですの!?」

この人が何言ってるかわからないんだけど、誰か通訳してくれるか

いやしなくていいわ

俺は怒ってるのにセレンはお構いなしに引かないどころか食いついてきた

小悪魔ビッチが何故浸透しているのか詳しく教えてくれないか

レイが言い触らすコトはないだろうし、もしかしてレイだけじゃなくみんなの中で俺はそうだと思われて!?

嫌だああああ!!

興奮しているセレンがひらりと1枚の手紙を落としたコトに気付いたレイが拾い上げる

「生死の神…からの手紙?」

レイは手紙を拾った時にたまたま目に入った差出人の名前を口にした

「そうですわ、今回は覗きに来たんじゃありませんの」

「今回は…?」

「細かい事は気にしないでくださいな」

「細かくねぇだろ」犯罪やぞ

セレンは、はぁっと深い溜め息をつく

深い溜め息つきたいのこっちなんだが

「生死の神からしつこくお見合いをお願いされまして」

「えっ!?マジ!?生死の神ってイケメン!?」

「セリカ様と同じ事を聞かれますのね

セリ様の好みではありませんわ

それにセレンも生死の神とセリ様のカップリングには萌えませんもの」

「男2人以上出てきたらカップリングとしか考えられんのかアンタは

それに生死の神はセレンにお見合いを何度も申し込んでるんだからそういう目で見るのは失礼だぞ」

「セリ様を見たらそっちの道に目覚めるかもしれないではありませんか!!

セリ様が虜にした男の数は一体何人だとお思いですか!?」

この話…やめねぇか…

「わかる!皆セリの事が好きだから困ったものだ」

「ですわよね!ですわよね!でもレイ様、セレンはレイ様とセリ様のカップリングが一押しですから!!」

この話やめようぜ!?レイも話広げんな!!

「生死の神ってコトはセレ」「女神結夢さんは守護と純潔の女神ですわ」

食い気味にきた

「セレンが無職の女神ってのはわかった」

「ちっ(ごまかしたのに)」

結夢ちゃん…元気にしてるかな

光の聖霊に探ってもらってるが、あれから報告はない

タキヤに勝つにはまだ何も手がないんだ…

「無職じゃありませんわ!セレンはBLの女神になりますの」

「なんだその腐った女神」

開き直ったぞこの女、自称でなれるもんなんか

「全人類の男は男にしか恋をさせない女神」

「人類滅びるわ!!!!!!呪いかそれ!!!!???

恋は自由にさせてやれ!!!」

男の俺は恋人が男だけど、全人類が俺と同じようになれなんて欠片も思わねぇ

好きになるのに性別は関係ないってだけ

男女でも男男でも女女でも、それぞれが本当の恋をすればいい

「オレもそれは困る

これ以上セリに恋人が出来たらオレは嫉妬で狂って自分が何をするかわからない」

「オマエは俺がどんだけ尻軽だと思ってんだ!!??増えるか!!!

今でもヤベェのしかいないのにこれ以上増えたら俺が死ぬわ!!!?」

「そうですわね、セレンの押しカップルが幸せにならない結末は見たくありませんから

先ほどの就職の話はなかった事に」

「理由がしょーもなさすぎんぞ!!??しかも就職じゃないからアンタのは趣味だからな!!」

「セリはそんなにツッコミばっかして疲れないのかい」

「そう思うならボケるのをやめろよ!?しんどいに決まってんだろ!?

ボケられたらツッコミせざる終えないドMの性分なんだよ、わかってやってんだろ」

元気じゃない時はボケを無視して話を広げないか、ボケをボケで返して終わらせるかな

「あー疲れた…

じゃあ話を戻すけど……あれ、なんの話してたっけ?」

「腐った話しかしてないと思うが」

「そうだよな、じゃあ解散!!」

セレンを追い出してドアを閉めようとしたら、足をドアの隙間に挟み無理矢理開けようと抵抗する

女の子がそんなはしたないコトをするもんじゃない!!

セレンを部屋に入れたくなかった俺はなんとか頑張ったが、2メートルはある女神のセレンを追い出すコトが出来るハズもなく無理矢理ドアをこじ開けて入ってきた

「話を聞いてくださいまし!!」

「散々聞いただろうが」

「セリ様は女の子に優しいとお聞きしておりましてよ

でもセレンにはちっとも優しくないではありません事?」

「オマエが俺に優しくないからだろ」

「えぇ!?どうしてわかるんですの!?セレンがいつも妄想でセリ様が様々な攻めに酷い陵辱をされる事まで」

そこまで思ってなかったし、知りたくなかったぁ…!!

話なげーよコイツ

コイツと話してるだけで日が暮れるぞ

「本題ですわ」

前置き?が長いんだって、セレンはいつも

「生死の神からのお見合いの申し込みがしつこいので、直接お会いしてお断りしようと思っていますの」

「ふーん、まぁ相手に興味ないならな

無理に付き合うのも違うだろうし」

セレンが普通の会話してるだけでマジの女神に見える

見た目は女神様だもんな、さっきの女と同じ女か?

「それで、付き添いとしてレイ様とセリ様にお願いしようかと思いましてお訪ねしたのですわ」

マジで覗きじゃなかったんだ…今回は

「セリが了承するならオレは構わないが」

レイが俺を見るから俺は頷いた

女の子の頼みは断れないもんな

「良いよ、セレンに同行する」

「本当ですの!?セレンはこれから数日はお2人のイチャイチャが間近で見られるのですね!!」

やっぱやめよっかな

「人前でイチャつくか!!」

「あらあら~、前仲良かった時はバカップルのようにどこでもイチャイチャしてたではありませんか」

うっ…それは、別にイチャイチャしてたワケじゃなくて普通に仲良くしてただけで

セレンは楽しみとニヤニヤしながら、では明日からよろしくお願いしますわと部屋を出て行く

嵐が去った後みたいな静けさだ

お見合いの相手に断りに行くのに、楽しみとはどういうコトだ

目的見失ってねぇか、まったくセレンの奴

とりあえず、俺は明日から暫くここを離れるコトになったからセリカに伝えておこうと思ってレイと一緒に中庭へと行く


やっぱり、思った通りセリカは今日も天使と一緒にここにいた

天使は相変わらずセリカにベッタリだな

「あらセリくん、またお出かけなの」

「うんセレンの頼みで、生死の神のところへ」

「気を付けてね」

生死の神…か、セレンと結夢ちゃん以外の神様って会ったコトあったっけ?

よく知らないんだよな…

でもこれって良いコトなのでは?

神様って存在をよく知らないなら、知るチャンスかも

もしかしたらそこに結夢ちゃんを助けるヒントが見つかるかもしれないだろうし

セレンの付き添いなんてやめよっかなって迷うくらいだったけど

結夢ちゃんのコトで何か気付くコトがあるかもしれないって考えるとやる気が出てくる

「セリカも一緒に来ないかい?その天使はお留守番させて」

レイがセリカに近付くと、天使はレイを押しのけてセリカは自分のものだと言わんばかりに抱き締めた

「この天使…!」

俺はレイが何か言う前に手で止めた

天使は前にも、ラスティンの時もセリカに近付くと押しのけていたな

誰もセリカに近付けさせたくないみたいだ

ふと、天使の真っ白で綺麗な翼の端の羽根が黒くくすんでいるのが目に入った

「ここ、汚れてる

せっかくの綺麗な羽根が…」

俺が触ろうとすると天使は気付いていなかったのか、その黒くくすんだ羽根を自分で引きちぎって手の中に隠した

「オマエ…」

天使が泣きそうな顔で俺から目を逸らすから…何も言えなくなった

きっと、天使はセリカの言葉以外聞けないんだろう

はじめて来た時と違って、最近は随分と内気になった

あの笑顔も…最近は見ていないような気がする

「何かあったらセリカには話せよ?それじゃ俺は暫く帰れないから」

そう言って天使の頭を撫でてやったが、天使はずっと目を伏せたままだった

セリカと天使から離れてから、レイが言う

「やはり、あの天使はおかしいな

セリが羽根が汚れていると言ったらそれを隠した

変じゃないか」

レイはあの天使とセリカを一緒にいさせるのは危険だと言う

それは俺も心配だ

でも…天使のあの悲しげな表情を見たら引き離すコトが出来なかった

レイの言う通り、俺は騙されてるのか…?

「ここにはイングヴェィがいる、いざって時はイングヴェィがなんとかしてくれるさ」

「イングヴェィさんはセリカが庇ったら何も出来ないと思うぞ」

「それはレイも一緒」

「そうだが…」

俺はイングヴェィを信じてるから、セリカのコトは大丈夫…

でも、セリカは天使にかなり懐かれてセリカ自身も天使のコトを信じているところがある

だから俺も強く言えないと言うか…

心配はあるが、俺にはどうにも出来ない

セリカが天使を見捨てられないから…



次の日から数日後!!

セレンの付き添いとしてレイと一緒に生死の神がいる死者の国へと辿り着いた

結構遠くて疲れたぞ…

セレンから聞いた話としては

どこかに死者の村もあるそうだが、そことはまた違うみたいだ

生死(いきしに)の神はその名の通り、生と死を司る神様

人間や天使が死ぬと、この死者の国へと魂は導かれるらしい

その後のコトはよくわからないみたいだが、だいたいの死者はこの国で生きてる?らしいのだ

死者の国は生者も足を踏み入れるコトは出来るみたいだけど、生死の神がそれを禁止しているから

こうして招かれた者(今回はセレン)とその同行者くらいしか入るコトは出来ないんだとか

余談だが、俺は天が創った人間だからまた違って死んでもここには来れないらしいな

それは納得

俺は死んだら何もかも忘れて生まれ変わるを繰り返すだけだから

「なんか、この国だけ不自然に雨降ってない?」

遠くから死者の国を眺めながら来たけど、変にこの国だけ雨雲に覆われてるんだよな

でも、俺が死者の国に足を踏み入れると雨は止んだ

雨雲は晴れないけど…

「生死の神が呪いで雨を降らせているのですわ

天はセリ様以外に操るコトは出来ませんから」

そういや、晴れたり雨降ったりは俺の心に左右されるみたいなんだよな

天の力なのか、無意識の天魔法なのか

天魔法を俺は持ってるらしいんだが、結局なんなのかわからないままだ

「呪いってなんで?」

「さぁ、わかりませんが雨が好きな方なのでしょう

セレンはジメジメした雨はあまり好きではありませんの

しかしセリ様がいらした途端に呪いの雨さえやみましたわ、さすがですわね」

セレンはニコニコと微笑む

「私はこれから生死の神にお会いします

レイ様もセリ様も自由に観光なさってくださいまし」

生死の神に同行者の俺達は会えないみたいだ

えーせっかく神様のコトを知るチャンスだったのに…

まぁ死者の国の中で何か得られるものがあるかもしれないか

とりあえず国の中に入ればセレンも危ないコトはないだろうし、俺達はセレンの言う通り観光でもして時間を潰すか


……って、何も観光するもんがねぇ!?

色々歩き回ったが、何もない

最低限の生活に必要なものしか売ってないんだ

セリカにお土産を買って帰りたかったが、アクセサリーとかぬいぐるみとかもなく

漫画や雑誌など、遊ぶ場所もなく、娯楽が一切なかった

しかも観光するような綺麗な景色とか、花すらない!!

花はその辺にあっても蕾ばかりで下を向いてしまっている

それもそうか…ずっとこんな天気じゃな…

太陽の光がないと花は咲かないよ

死者の国だから生きてる人もいないんだが、半透明な人間…死者だと思う人々が生気のない表情のまま日常を送っていた

話し掛けても、チラリと俺達を見るだけでまともに話せた人はいない

目は合うから一応、俺達がそこにいるってるコトはわかってるみたいだ

ホラータウンと違って本物の幽霊なのに、俺は不思議と怖くなかった

普通の人間と同じように感じたから…

ただ…普通の人間にはある心がないように感じた

「ちょっと待って…メニューが何もないー!!?」

やっと見つけたカフェに入ったのはいいが、メニューがなく出されたのはミネラルウォーターとバターも何もないトースト1枚

それで千円、いや高過ぎだろ!?

当然、お客さんも俺達だけ

テラス席を悠々と使わせてもらう

「パンケーキ食べたかった…」

「今度、美味しいパンケーキ食べに連れてってやるから」

レイが慰めてくれる…優しい…

「本当!?早くパンケーキ食べたい

ふわふわで生クリームたっぷりのやつね」

機嫌良く笑うとレイも爽やかに笑ってくれた

「わかったよ」

完全にデートの会話

俺は機嫌良く味のないトーストを食べていると、周りからヒソヒソとした声が聞こえて来るのに気付いた

「なにあれ」

「カップル?」

「ラブラブしてる」

「イチャイチャしてる」

「楽しそう」

その声の方へ視線を向けると俺達のいるテラス席を覗く複数の死者が…

えっ何、めっちゃ注目されてる?

俺が視線を向けると、死者達は見てませんよアピールをはじめて散って行った

「生者の俺達が珍しいのかな?」

「そうなんだろう、ここに生者はいないわけだし」

まっいっか

今日は1日何かないかと歩き回って疲れた

日も暮れて来たし、俺達はこの国の唯一のホテルへと移動した

「あー、何もしてないのに疲れた…」

ホテルの部屋も質素で狭かった

ソファがないからベッドへと倒れ込む

「セレンからの伝言メモがある」

レイはテーブルに置いてあるメモを手に取る

「なんて?」

「生死の神がしつこくて暫く帰れそうにありません

数日は観光でもして過ごしてください

だってさ」

「観光するとこないじゃんもーーー!!!!!???

お土産も買えないしーーー!!!

つまんない!飽きた!帰りたい!!」

「人の国をつまらないなんて言うもんじゃないぞ」

言いたくないけど

だって、本当につまんないんだもん…何もなくて…素直な感想だもん……ふん

ふてくされた

「お腹も空いた…おかわりくれないしトースト1枚って…」

お腹が鳴ってる…

「死者は食べないからな」

「俺達は食べないと死ぬの!!

このままトースト1枚で数日過ごすって言うなら最悪俺の肉を食って生きるしか…」

「食べたい、セリの身体色んな意味で食べたいから」

レイは急にベッドに寝転ぶ俺の上に覆い被さる

「バカ!冗談に決まってるだろ」

手を出して押し返そうとすると、腕を噛まれた

「痛い痛い!本気で噛んでる!?」

「ラスティンには食わせてあげてたじゃないか」

レイが噛んだところを見ると血が出てる

「ラスティンは人間の肉を食べないと生きていけない身体なんだよ、オマエとは違うだろ」

「オレだってトースト1枚じゃ生きていられないぞ?」

「屁理屈言うな!」

レイは噛んだ方の俺の手を掴み自分の口元へと持っていく

「痛そうだ」

「オマエのせいだけど?」

「…早く治さないのか?」

滲む血をレイが舐めると、生暖かくて痛いのにその鈍い痛みすらも気持ちいいと感じてしまう

「な、治すから…手を離して……舐めないで」

「なんで?セリならいつでも治せるのに、どうして治さないのか」

また傷口に歯を立てられる

痛みがゾクゾクと快感に変わる

「痛い…よ…」

「それって、痛いのが好きなんだろ」

「そんなコト…」

あるかもしれない…

痛いの嫌いだけど、嫌いじゃない痛いのもある…なんて……

いつから歪んでしまったのか、最初からかもしれない…

過去のトラウマが変にねじ曲がって性癖に変わる

認めたくないけど…それで、興奮する自分がいる

痛いのも無理矢理されるのも……本当は…そうされたいって

嫌だったのに、気持ち悪かったのに、怖かったのに、辛かったのに、苦しかったのに、悲しかったのに…

「もう許して…恥ずかしいから…」

腕を引っ込めて、レイに抱き付く

回復魔法は使わないからいつまでも程よい痛みを感じたまま

「セリ…ちょっと、意地悪だったか

でも、セリが痛いの好きなのは意外だったかも」

「好きじゃない、嫌いだけど……

レイにされたのは嫌じゃなかった…」

こんな…気持ち悪い俺でも、レイは知りたいのかな

トラウマが歪み過ぎて、もうそれじゃなきゃ満足出来ない身体なんだって

いつかの前世でラナに言われたコトがあった

スゲームカついて怒って喧嘩になったけど

それは図星だったからだ……

本当は大好きなレイに犯された時だって…気持ち悪いと思いながらも、それがよかったって気持ち良くなってた……興奮した

自分で自分が気持ち悪い…

誰にも触れられたくなかった

俺がもう救われないところまで来てるってコトに…

「俺…スゲー気持ち悪いかも…」

「オレは、どんなセリでも好きだよ

気持ち悪いなんて思わない」

レイは俺に顔を上げるように言う

でも俺はレイの顔を見るのが怖くて俯いたまま首を横に振った

なのに、レイは俺の顔を無理矢理自分へと向けてキスをしてくれる

「オレの事は受け入れるのに、セリは自分の事は受け入れられないのか?

そうならそれで、オレがセリを受け入れるよ」

あぁ…嫌いじゃない…無理矢理されるの……

「………でも、レイのコト愛してない…」

俺はずっと、レイが気持ち悪かったんじゃなくて

自分が気持ち悪かったんだ……

愛してない人に犯されるコトが、気持ち悪いと感じながらも望む

「傷付いた」

「でも…レイのコトは大好き……」

今度は俺からレイにキスをする

レイのコトはもう気持ち悪くない

受け入れてるから、その時が来たらちゃんと出来るよ

「オレばかりセリの事、独り占めして

香月さんと和彦さんに悪いな」

「悪いなんて思ってないくせに」

「まぁね」

レイに押し倒されたが、オヤスミのキスで終わる

「このまま襲ってしまいたいが、まだおあずけだからやめておくよ」

「うん…」

本当は無理矢理犯してくれてもいいんだけど…

って俺は本当に気持ち悪い奴だ

こんな俺じゃ香月と和彦に嫌われちゃうかな…

「2人は気付いているはずさ、セリの事

香月さんは長い年月の中で

和彦さんは出逢った時からの話を聞いてたらわかるだろう」

レイは俺が不安に思っていたコトを読み取って言う

和彦と出逢った時…あぁそうだ、アイツ無理矢理俺を…

そうだ、アイツとの出逢いは最悪だった

なのに今はこうして恋人なんかになって…そんな和彦なら俺のコト見抜いていたのかも

「レイ…ありがとう」

また俺はレイに抱き付く、そしたらレイはいつもと変わらず抱き締めてくれる

「いつもそんなに素直に可愛げがあったらな」

「いつもの俺が不満とでも?」

「いやいや!?ツンとしてるセリがあるから、今のセリが一段と可愛く見えるってだけで

小悪魔なセリもツンとしてるセリも生意気なセリも可愛げのあるセリも甘えてくれるセリも、オレはどれも全部好きって事だ」

「恥ずかしいコトをペラペラ…

俺はレイの好きなところは優しいとこだけ、メンヘラなとこは嫌いだしウザイ時はウザイし」

だけど…前よりもっと好きになった

仲良かった時代とはまた違った大好きがあるのは確か

言わないけど、調子に乗るからな

「もっとセリに愛されるように頑張るよ」

「無理だと思うけど」

そう言いながらも俺は自分が笑顔だってコトはわかっていた

レイが俺を見て笑ってくれるから

話が終わったところで、また気付く

ヒソヒソと声が聞こえて視線を感じるのを

「カップルだ」

「イチャイチャしてる」

「ラブラブしてる」

「楽しそう」

「ヤ………らんのかい!!」

1人残念そうにしてる奴がいるな

俺が窓の方へ視線をやると、また死者達は見てませんアピールをして散って行った

「窓開いてたのか…」

俺は窓とカーテンを閉めた

めっちゃ恥ずかしいじゃん…

「死者達はオレ達が気になるみたいだな」

「そうみたいだけど、数日したら帰るし

もう疲れたから寝るぞ」

あくびがたくさん出る…

お風呂は…明日の朝入ろっと、ちょっと疲れて…そんな元気な……スヤァ



-続く-

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