130話『またみんなと一緒にいられるために』セリ編

今日この日、またはじまる

みんなとは暫く別々の道へ行くコトになるけど

それはいつかまた笑って会えるために必要なコト

もう大丈夫、自信も元気も取り戻した俺はなんだって出来るような気がするから

みんながいるから頑張れる

「セリくんはもう何もしないでイングヴェィの言う通りにしていた方が良い」

めっちゃやる気出してる俺をへし折るかのように和彦が釘を差してくる

「……確かに」

言い返そうと思ったが、冷静に考えたらそれが1番良いコトしか未来を想像できなかった

く、悔しいが……イングヴェィなら俺が1番幸せな選択をして導いてくれる

和彦も香月も俺が勝手に動いて余計な心配をかけるよりは…

和彦の厳しい目から逃れるようにイングヴェィを見上げると、あの大好きな太陽のような笑顔を見せる

「それでセリが納得する形なら良いんでしょうけれど」

イングヴェィに任せる、それが1番良いとわかっていても心のモヤモヤが晴れないコトに香月の言葉が刺さる

納得…そうか、そうだ……ずっと

「幸せになりたい

俺はずっとそう願って来たから」

「セリくん…」

セリカの表情が今の俺を映している

自分の顔は

「でも、全てが丸く収まって幸せになれるなんてそんな無茶なコトわかってる

だから…例え不幸でも、自分が納得するまで向き合いたいんだ」

不安だらけでも、その道を選ぶ覚悟があった

それはここにいるみんながいるおかげなのもある

それだけで俺は強くなれるよ

バカみたいに単純だ

「心配かけちゃうけど…後悔する方がずっとずっと嫌だ……」

和彦は俺がこう答えるってわかってたみたいで、呆れながらも仕方ないなと肩をすくめる

「好きにしな、でもこれ以上は無理だと判断したら監禁するから

また死なれかけても嫌」

「そうですね、次はないと言う事で」

和彦と香月の圧が…死ぬほど恐いんだけど

恐いから逃れようと優しいイングヴェィの後ろに隠れてはみたものの

イングヴェィも困ったように笑って2人と同じように言う

「その時は仕方ないね…俺もセリくんが心配だから無理はさせないし

ダメだと思ったら、いくら君の言葉でも聞けないかも」

「……イングヴェィまで…」

セリカの真似をして、上目遣いでちょっと可愛こぶってみる

自分で自分がキモイ

「そうならないように俺が協力するんだよ

大丈夫、出来る限りセリくんの納得いくような形になるように俺も頑張るからね」

「やっぱいいです」

急に何!?って自分でも思う

なんか、こうやって他人に迷惑かけたり負担かけてる自分がなんか嫌になる

みんなもっと甘えて頼れって言ってくれるけど……俺だって男なんだよ!?

情けねぇじゃん!?

実際弱くてなんも出来ないあかん人間だってわかってるけど!!

でも見栄張りたいしカッコ付けたいし自分でやりたいもん!!

セリカはお姫様やってればいいよ、女の子なんだし可愛いから良いよ

俺は男らしくなりたいのに……

でも、きっとそんな理想の自分にはなれないってわかってる

だったら…俺はどんな自分が誇れるんだろう

自分の納得いく自分であるにはどうしたら

「そんなに急がなくても、セリくんも少しずつでも成長していけるよ

みんなより成長が遅いだけで、君には君だけのものがあるからね」

イングヴェィってなんでこんな優しいん?

セリカが羨ましいぞ

きっと恋人になってもめっちゃ優しいんだろうなって思うし

俺の恋人なんて2人もいるのに、見て?あれ?魔王と鬼神みたいな優しさの欠片もないんだけど

恐いわ

「それじゃ、セリくんの事は任せたよ」

和彦が鬼神達を連れて行こうとするのをセリカがちょっと待ってと止める

鬼神達は昨日の宴会ではしゃぎすぎて眠そうにしている

これ和彦の屋敷に帰ったら寝るやつじゃん

どんだけ疲れやすいんだ

「約束」

鬼神達が担いでいた石化したフェイをおろしてもらって、その手の小指に自分の小指を絡める

「フェイをこんな姿にした悪魔を倒して元

に戻すからね

それまで待っててね」

それを見ていた和彦がセリカをぎゅっと抱き締める

「セリカは良い子」

どさくさに紛れてまたセリカの胸を揉もうと手を近付けると触られる前にイングヴェィが和彦の手を掴んで止めた

「セリカちゃんはフェイくんにお世話になったから恩返しするとっても良い子なんだよ」

「ふーん、イングヴェィって恐いもの知らずだな

いいよ、セリくんに止められているから引いてやる」

「ありがとう、君が味方でよかった

もし敵にでもなったら結構大変だよ」

終始お互い笑顔なのになんか雰囲気がめちゃくちゃ恐いんだけど…

もしかして相性最悪なんじゃこの2人…

ってか和彦は香月とも相性最悪だ

和彦と相性良い人いないんじゃないか

それもそうだよな、和彦はセリカにセクハラするからイングヴェィにとったら許せないだろうし

でもイングヴェィの線引きがどうなってんだ

膝枕は許せるけど、胸へのタッチはダメなのか

火花が収まると和彦は鬼神達(石化のフェイも)を連れて行ってしまった

和彦を見送ってから俺は香月へ向き直る

「俺達も行くね、香月は明日からこの城を留守にするんだよな」

「えぇ」

「じゃあ…また……」

寂しい…けど、仕方ない

今はやるべきコトに集中しないと

香月の両手を掴んで一時の別れを惜しんでしまう

この手を放したら暫くは会えない

「…このまま攫ってもいいですか」

………えっ!?

香月の言葉にめっちゃ顔が熱くなって全身が沸騰しそうになる

パッと手を離して背を向ける

「そ、それは…また…今度」

恥ずかしくなって逃げるようにイングヴェィとセリカの手を掴んで外へと出る

はぁ…心臓死ぬかと思った

スゲードキドキする…あのままあの場所にいたら…俺は死ぬ

少し時間が経って冷静さを取り戻すと、香月はああ言って俺が行きやすいようにしてくれたのかなって思う

それも嬉しいけど…何もかも放り出して攫われるのも悪くないかもって俺は自己中な奴

「クス、セリくんってば真っ赤で可愛い」

「セリカだって真っ赤じゃん(俺のせい)」

「私もそんな身を焦がすような大恋愛してみたいなぁ」

羨ましいとセリカは夢見る乙女みたいな顔をしてる

やめて、大恋愛とか身を焦がすようなとか恥ずかしいから

ってか相手男だから、しかも俺2人も恋人いる反則なズルい奴だぞ

セリカはイングヴェィのコトが好きなんだと思ってた

俺がイングヴェィ大好きだから…まぁ人としてだけど

セリカと再会してからだ、セリカから大切なものがなくなっているような感じがする…

イングヴェィはそれに気付いてて…

2人が心配だな

俺はイングヴェィとセリカがくっついてくれれば嬉しいもん

前までは…イングヴェィじゃ…なかったのにな……



すぐにイングヴェィの城に向かうんだと思っていたけど、道中セリカから話を聞いた

ユリセリの所で世話になっているセレン達も一緒に連れて行くと

イングヴェィがいいよって言ってくれたみたいだ

ずっとユリセリに無理言ってたから助かる

今度はイングヴェィに甘えちゃうワケだが

ユリセリはセレン達を守る為に使い魔も出せないくらい結界に魔力を使っている

セレンは腐っても女神、自分の聖地を失ったセレンはとても弱く色んなところから狙われるようになった

普段ユリセリが使っている結界よりより強いものを、1人の魔力では出来ないコトをユリセリはやってのけている

凄い、強いぞユリセリ

そして俺はそこで再会するコトになる

ユリセリの洋館についてセリカは自分の家かのように

「ただいま!」

普通に入っていく

いつの間にそんな自分家みたいな…

セリカの声にユリセリがすぐに出迎えてくれた

相変わらず美しいなこの人、クールビューティー

「おかえり、心配したぞ

むっ?イングヴェィが一緒か」

「ユリセリさん、セリカちゃん達が世話になったね」

そういえばイングヴェィとユリセリは同族だった

めっちゃ珍しい伝説上の存在でなかなかいない種族だとか

セリカはユリセリにセレンの話などをして今までの感謝を伝える

そうこうしていると

「どなたかいらっしゃいましたの?」

奥の方からエプロン姿の楊蝉が…

「えっ…楊蝉……?」

俺に気付いた楊蝉が勢いよく俺を抱き締めてきた

「セリ様!お久しぶりですわ」

「うっ」

喋りたいのに楊蝉が俺の顔を胸に押し付けてきて息が出来ない

男として最高のシチュエーションなのに、そんなコトより楊蝉が生きてた…?

それが夢みたいで信じられなくて、俺は楊蝉の腕を掴んでちょっと引き離す

「待って!?楊蝉、あの時レイに…」

「えぇえぇ、死ぬかと思いましたわ」

思いましたってコトは死んでなかった、生きてた!?

「この通り、生きておりますわ

戻らなかったのはセリ様の負担になると思ったのです

悲しませてしまった事は申し訳ございません」

よかっ……た……

意識してないのに涙がぽろっとこぼれおちる

「ゆる…せなかった……レイが、レイは俺の大切な人達を殺すところまできていて……」

「はい…はい…」

喉が詰まって言葉が出にくい

それでも楊蝉はちゃんと聞いてくれる

「だけど…それ以上に、自分が許せなくて……」

もうこれ以上の言葉が出なかった

それを察した楊蝉はまた俺を抱き締めてくれる

楊蝉の体温を感じて柔らかさを感じて、この人は生きてるんだって示してくれる

「セリ様は悪くありませんわ…」

「悪いよ、だって」

奥の方からメイド天使の声が聞こえる

「あらいけませんわ、料理の途中でしたの

話の続きは後で」

「いや、大丈夫」

メイド天使の声で落ち着きを取り戻す

楊蝉に泣きついて甘えるなんて、なんて俺は情けない男なんだ

恥ずかしすぎて引きこもりたい

「ちょうど夕食を作っていましたの、皆様もどうぞ」

そう楊蝉に言われてお腹が鳴る

楊蝉はここに来てから料理のお手伝いをしてるとの事だった

「グータラで家事が一切出来ないセレンとは大違いだな~」

「私は女神だからいいんですの!!」

「俺達が稼いだ金も一瞬でオタク趣味に注ぎ込んで消すのは得意だよな~」

「お金より大事なものってあるんですのよ!!」

「余裕がある時は良いけど、ない時は控えろ!!」

同じ女神でも結夢ちゃんとは全然違うな

まぁセレンが引きこもりのオタクになってしまったのは、俺のせいでもあるか(腐女子のオタクは元々か)

楊蝉は魔王城にいた時は料理をあまりしていなかったみたいだが、薬膳料理が得意で漢方にも詳しく調合も出来るのだとか

俺の周りの女の子達って凄い人しかいないのでは?

「美容と健康にも良いの?楊蝉、素敵!」

セリカは美味しいとモグモグしている

セリカは美容オタクだから美容と健康に良いものが大好きだ

そんなセリカと楊蝉は話が合って仲良し

だから楊蝉は俺にも気遣ってくれるんだと思う

「まだ聞いてなかったけど、楊蝉も一緒に来てくれるのよね?」

夕食も終わり、お茶を飲みながらゆっくりしながら話す

「セリカ様、一緒に行きたいのは山々ですが…私では足手まといにしかなりません

私は、魔王城に戻りますわ」

楊蝉はごめんなさいと申し訳なさそうに笑う

そうだ…楊蝉は俺と一緒にはいられない

楊蝉が生きてるとレイが知ったら…今度は確実に殺しに来る

今日は泊まっていけとユリセリが言ってくれたけど、俺が誰かと一緒にいるってコトはその人が危険な目に遭うってコトなんだ…

忘れちゃいけないコトを思い出してお茶を置いて立ち上がる

「やっぱり…泊まってはいけない、すぐにここを出よう」

「セリ様!私はそんなつもりで言ったのではありませんわ

ユリセリ様の結界があるここは安全ですから」

「そんなのわかってるよ

でも楊蝉の顔を見てたら…レイと決着が付くまでは一緒にいられないって思うんだ

次は……次はきっと楊蝉のコト……」

確実に殺すんだって思うと、怖くてたまらない

ここにいるのが辛い…

こんなの俺が殺してしまうようなもんだ

だから…

「うん…夜だけど、今からでも出ましょう」

セリカがそう言うとイングヴェィもわかったと頷く

セレンにすぐ支度をするように言って、出来次第出発するコトにした

「セリカ、いつでも頼るが良い」

「ユリセリ…ありがとう」

その間にユリセリとセリカは話しをする

俺は楊蝉と

「ごめん、俺のせいで楊蝉まで危ない目に遭わせてしまって」

「私は天狐ですのよ、そう簡単には死にませんわ」

気を使って楊蝉は笑ってくれる

でも、俺はそれでも怖いんだよ

香月やイングヴェィのように不老不死じゃない

確かなものがないと不安でしかない

俺の表情が浮かないのを楊蝉は無理言うコトもなく

「今度会う時は…笑顔で会いに来てくれると信じておりますわ、セリ様」

最後のお別れの時までずっと気遣ってくれた

ちゃんと笑って、大丈夫だって自信を持って返せたらよかったのに

俺はずっと迷っていたから

香月と和彦と一緒だった時はなんでも出来そうな気になってたのに

現実を知れば、失敗は許されないんだって痛感する

自分の選択が間違ったら、間違った分だけ悪い方にいくんだから

そして、俺達はセレンとメイド天使を連れてイングヴェィの城へと向かう

いつか、またみんなと一緒に……

その為に俺は頑張るって決めたんだから

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