131話『自分でもわからない』セリ編
イングヴェィの城に着くと、スゲー久しぶりで緊張する
現実味がないような幻のような不思議な場所だ
イングヴェィがふわっとしたような存在だからそう感じるんだろうか?
セリカの愛でしか存在できないみたいなコト言ってたような…
俺はそれはちょっと違うと思う
イングヴェィはセリカと出逢う前から存在していて、セリカを見つけ出したのもイングヴェィ自身だ
不老不死のイングヴェィはセリカの愛によってはじめて死ぬってコトなんだと思う
実際はどうかわかんねぇけど
「それじゃ、セリくんがしたいコトはなんでも言ってね」
イングヴェィは張り切っていこー!って元気だ
セリカはこの城にいてセレンのコトを見ていてもらうコトになった
アイツ、野放しにしたら何するかわかんねぇからな
「俺がしたいコト…そうだな、たくさんあるんだけど
結夢ちゃんを助けたい、フェイの石化を解きたい、セレンの国を取り戻す」
結夢ちゃんは俺が強くなって自分で助けたい
フェイは不本意だけど恩があるから助けてやってもいい、でも寝取られるのは死んでも嫌だ
セレンはこのまま腐り果てる前に女神に戻してやらなきゃな、BL趣味は個人の自由だがこのままいくと本当のヤベー奴になる
「……他は?」
「他は…思い出したら!!」
やるコトありすぎて改めて考えると逆にわからなくなるもんだよな
「とりあえずは、結夢ちゃんのコトが心配だからそこを目指す
それにフェイの石化悪魔はタキヤと関係してる可能性が高いから」
セレンの国を取り戻すには戦力が足りなさすぎる
タキヤとの決着は今の俺には無理かもしれないが…
そもそも結夢ちゃんの加護でタキヤが無敵状態とかどうやって勝てと…
とにかく、結夢ちゃんの様子だけでも確認できれば
もし連れ出せるならもう一度
「わかった、それじゃ支度が出来たら出発しようね」
イングヴェィはまた後でと言うが、その前に引き止める
「イングヴェィ…暫くセリカと離れるけど……いいの?」
「セリカちゃんはここにいれば大丈夫だよ、リジェウェィもカトルもいるからね」
「そうじゃなくて、セリカと一緒にいたいとか」
「もちろん一緒にいたいよ、でもその為には済まさなきゃいけないコトもあるんだよ」
セリカと繋がってる俺の問題が解決しない限り、セリカもそんな気分にはなれないってコトか?
確かに今のセリカは恋愛って感じじゃないもんな…
悶々としてるのは感じるけど
イングヴェィの言葉に頷き俺は出発の準備をしてからまたイングヴェィと合流した
イングヴェィと2人での旅は新鮮で変な感じだった
めっちゃ優しいし甘やかしてくれるし強いし頼りになるし
それは、何かを思い出すかのような感覚で複雑だった
全然似てなくて違うのに
レイとの楽しかった思い出が頭を過る
どうして、ずっと続かなかったんだろう…
前世の宿にさえ行かなければ…こんなコトにはならなかったのか
でも、レイは出逢った時からって言ってたから
きっと遅かれ早かれ同じコトにはなっていたのかもしれない
「セリくん、疲れた?」
次の休憩予定になる街へ行く途中の森の中だった
こんなところで野宿は嫌だ、早いところ抜けないと
目の前のイングヴェィの優しい顔を見てわかった
そうだ、イングヴェィは一緒にいて特別な感情があるけど
レイとは違う、レイと一緒にいたら楽しかった面白かった
大親友だったんだ…
「う、ううん…疲れてない!まだ何もしてないのに疲れてなんかいないよ」
違う、レイは酷いコトもたくさんしたしされたよ
良い部分と悪い部分が混ざり合ってわからなくなる
とりあえず…今は
イングヴェィに平気だって見せるために先を急ごうとしたら、イングヴェィに手で制される
「やっぱり、現れると思った」
イングヴェィの言葉の次に姿を現したのはレイと光の聖霊だった……
わかってたんだ…イングヴェィは……
本当は…俺だってわかってた
レイは俺を諦めない
だから、俺かセリカの前に必ず現れる
「邪魔者がまた1人増えたんだ
それなら1人ずつ消していけばいい」
有言実行かのようにレイの言葉とともにイングヴェィが後ろの木に張り付けになる
喉元には氷の矢が突き刺さり普通なら即死だ
ま、待って……見えなかった
レイが弓を引いたのも放ったのも…
何かがおかしい?レイから視線を逸らし横にいる光の聖霊を見る
すると光の聖霊は気まずそうに俺と目を合わせようとはしなかった
レイは、レイは人間じゃない
この感じ、この力…魔力が今までと比べて信じられないくらいの膨大な
「……ん~…厳しいな~…まだ本来の力は取り戻せてないみたいだからね」
喉元に刺さった氷の矢を引き抜いてイングヴェィは立ち上がる
俺はイングヴェィの傍まで駆け寄り傷を治す
「簡単には殺せないんだな」
「残念だけど、不死の俺は誰にも何にも殺せないよ」
イングヴェィは不死身だ
だからその心配はないけど、痛みは普通に感じる
俺がいれば無痛ではあるが
「それにしてもレイくんは性格悪いんだね
心臓じゃなくて喉を狙うなんて、俺の歌声に嫉妬してるんでしょ」
やられておいてそんな余裕みたいに笑ってられるのイングヴェィくらいじゃ…
「嫉妬しなければ、こうはなっていないさ」
誰が嫉妬なんかって言葉が返って来ると思っていた
だからレイの嫉妬しているって言葉に俺の胸は痛んだ
嫉妬って…いつから…
いつも笑ってくれていたから、わからなかった
いつもそんな素振りなかったから……
本当に、そうか…?
レイは俺とよくカップルに間違われていた時にいつも否定はしなかった
わからない…考えれば、思い出せば
何もわからなくなる
「レイくん、光の聖霊の力でエルフに戻ったんだ
人間じゃ強さに限界があるもんね
それにコンプレックスも抱いてた感じだったし」
そうか、イングヴェィが言ったコトでレイの違和感がハッキリとした
いつもと何かが違うと思っていたのは、レイが人間じゃなくなったからなんだ
もっと強くなりたいって…言ってたもんな
懐かしい…レイとはじめて会った前世はこんな姿だったコト…出会いは最悪だったけど
「でも、人外になったからって何も変わらないよ?
セリくんもセリカちゃんも人外だから好きとかじゃないもん」
あれ?イングヴェィなんでそんな意地悪にわざわざ煽ったりするんだ
イングヴェィはもっと優しい人なのに
「どんな姿になろうとも、レイくんってだけで受け入れてもらえないんだよ
嫌いなんだよ、君のコト
君の愛する人は君のコトが大嫌いだから拒絶するの」
イングヴェィ…それは言い過ぎ…じゃ
俺はレイのコト拒絶してるけど
また見えない氷の矢がイングヴェィのいた地面へと無数に刺さるのが見えた
でも、今度はイングヴェィはその攻撃を避けて俺には姿が見えない
俺の視界に入ったのは無数の氷の矢が突き刺さった地面とレイの両手が切断されてしまっているコトだ
反射的にわかった
今のイングヴェィじゃレイに勝てない
だからわざと煽って攻撃を仕向けそれを読んだ
つまり、ここから一気にレイの首を狙いに行く
それが直感でわかった俺は考えるよりも先にレイの前へと飛び出した
「…セリくんがそう行動するのはわかってたよ」
レイを庇った俺の前にイングヴェィの刃が寸前で止まる
自分でも…なんでこんな行動取ったかなんて、わかんねぇんだよ……
なのに、イングヴェィにはわかってるって?
「セリくんはセリカちゃんだから扱いに凄く困るんだよね」
イングヴェィは俺に向けてしまった武器をしまう
「俺の思い通りに動いてくれないんだもん
絶対に、レイくんは今殺しておいた方がいいのに
次はこんな隙を見せてはくれないよ?
セリくんのコト守れないかもしれないよ?」
わかってる……わかってるよ
でも、ここからどけない、足が動かなくて
イングヴェィは仕方ないなって苦笑する
だけど…何もかもわかってるかのように笑ってくれる
「俺は君を幸せにするって誓ったから…わかったよ」
イングヴェィは両手を開け何もしないと見せてくれた
俺は…イングヴェィにワガママ言ってる
そんなのダメだってわかってるのに…
レイはイングヴェィだって殺そうとした人なんだぞ
それなのに俺って……最低だ
イングヴェィに申し訳なくて何も言えなかった
レイの方へ振り返り両手を回復してやる
「レイ…引いてくれ」
「セリは…甘いな」
逃がすつもりだったのに、レイは回復したその両手で俺を掴み人質に取った
外道じゃん…イングヴェィの忠告を無視した俺のバカって本当いつまで繰り返すんだ
「引くのはイングヴェィさんの方だ
セリを殺されたくなかったら消えろ」
「そこまで堕ちるんだ…なりふり構ってられないんだね」
イングヴェィは素直にレイから後ずさる
まただ…俺が人質に取られたらみんな何も出来なくなる
俺は香月やイングヴェィと違って不死身じゃないから…簡単に死ぬ
即死なら簡単に…終わってしまうから手も足も出ない
こんなバカな自分死んでしまいたくなる
周りに迷惑ばっかりかけて、なのに自分のワガママを貫き通そうとする勝手さ
そんな自分が嫌になる
でも、誰も俺が死ぬコトを望んでいない
それこそ俺はみんなを裏切るコトになってしまう
自分が大嫌いだ、いつまでも過去の思い出を引きずって
人は変わる…悪い方にだって
「セリくん、大丈夫、信じて」
イングヴェィならまた機会を見て助けに来てくれるんだろうな
いつも…いつも…
それでいいのか?
レイは俺の問題だろ、俺が解決しなきゃいけないのに
イングヴェィが見えなくなったところでレイは俺を離してくれた
お互い、何を話していいかわからなくて黙ってしまう
そして、俺は無意識にレイに強く掴まれた手首をさすっていた
どうも偽和彦事件をきっかけに、心の負担にかかる痛みは回復魔法の無痛が効かないみたいだ
「……と、とりあえず2人とも帰りましょうよ!」
気まずさに耐えられなくなった光の聖霊が口を挟む
「帰りたければ1人で帰ればいい
オレはセリがいれば何処でもいい」
き、気まずさがさらに増した
レイは光の聖霊にキツいんだよ
光の力も与えてもらって人間からエルフにまでしてもらったのに、恩とかないんか
「もっと優しくしてやれよ、最低だな」
「前にも言ったが、気を持たせるような優しさの方が」
「バカ!言わなきゃわかんねぇの!?これは好意の話じゃないだろ
恩の話だよ恩の、光の聖霊のおかげでオマエは強くなれたんだろ」
そうです!と言わんばかりに光の聖霊は得意げになっている
「うるさいな、オレの態度が気に入らないならいつでも離れればいいって言ってあるんだ
この女が自分で納得して力を与えてるんだよ
セリに言われる筋合いはない」
だからってオマエな~!!むっちゃムカついてきたところで光の聖霊が俺達の間に割って入る
「やめて~~~!私の為に争わないで!!」
意味は合ってるけど、なんか使い道間違えた感のある台詞だな…
「「ふん!!」」
光の聖霊の仲裁で俺達はそっぽ向いたまま
また気まずい時間が流れる
おいおい、このしょーもない時間をどうしたら
「いや待て、俺は光の聖霊と一緒に行くぞだってそこには結夢ちゃんがいるんだ
レイは帰りたくなけりゃずっとそこに座ってれば」
「わざわざ言わなくていい最後の一言が生意気でムカつく」
「そんな生意気でムカつく奴のコト嫌いだろ?諦めたら?」
って待てや!生意気って俺はオマエより5歳も年上なんだぞ!?なんで年下に生意気言われなきゃなんねんだ!!
「口が減らないな」
レイは俺の口に親指を入れて顎を掴む
喋れなくても噛むって言う反撃は出来るんだぞ!
レイの血の味が広がるが、レイは痛そうにしない
まぁこの程度で痛がってたらこの世界では生きていけないか
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、痴話喧嘩してても仕方がないじゃない」
「……それもそうだな」
レイはすっと俺から手を離した
光の聖霊スゲー、レイの扱いわかってて言ったな
わざわざ痴話喧嘩って言葉使って、恋人同士の他愛ない喧嘩と表現した
俺はそんな風に言われんの嫌なんだけど、こんなメンヘラDV男が恋人なんて
「しかし、帰るには帰れないぞ
セリは連れて行けない
またタキヤを暴走させる気か」
「でも」
「女神結夢の事が気にかかるんだろうが、今のセリに何が出来る?
何か策があるのかい?」
何もないです、今の俺の弱さじゃどうしようもないです
心配だけが先走ってるか…レイに言われて気付く
「そうねぇ、女神結夢を助けたいなら勇者自身が強くならなきゃ
魔族や魔物相手とは違うもんね~」
「女神結夢の加護があるタキヤには傷一つ付けられない
それじゃオレの手助けがあっても何にもならないからな」
「超強いレイの協力があっても無理ってなると…」
えっ…手助け?
何か、普通に喋ってたけど…この会話って今までのレイと同じ…?
まだ…レイは俺を助けてくれるの?
「……その顔、可愛い」
俺は知らず知らずに嬉しいって気持ちが顔に出ていたのかレイに指摘されて、すぐにムッとした顔を作る
「レイの力を借りるワケにはいかねぇよ
結夢ちゃんのコトは俺の力だけで助けたい
俺の問題だから、俺が助けるって約束したから」
今はその時じゃなくても、いつかは…
「勇者って意外と男らしいとこもあるのね」
「意外ってなんだ意外って!!」
「女々しいお姫様かと思ってた
仕方ないわね~、私が色々と情報集めてあげるわ
タキヤの弱点とか女神結夢の弱体化もありじゃない?」
光の聖霊はふふふと笑う
この好意は素直に受け取っていいのか…?光の聖霊って俺のコトめっちゃ嫌ってたと思うんだが
セリカがちょっと仲良くなったとか喜んでたけど、変わりすぎじゃねぇか
「いや、いやいや待って!!」
俺は光の聖霊の手を掴み少しレイから離れこっそりと話す
「一緒にいてくれよ!?レイと2人っきりは怖いって」
「いいじゃない、お互いもう一度向き合う良い機会よ」
「襲われるわ!!!」
「かもね」
光の聖霊はにこやかに笑っている
「笑い事か!光の聖霊だって嫌だろ」
「勇者なら良いかなって、レイが幸せならそれが1番って思うようになったの
私も大人になったわ偉い褒めて」
レイの幸せのために俺に犠牲になれと…?
まぁ、百歩譲ってレイの幸せのためだとして
それなら結夢ちゃんのコトで協力してくれるのはレイのためとは関係ないような
……女の考えるコトはよくわかんねぇな…
「やだやだ!無理!一緒にいて!お願い!頼む!!」
ただをこねる自分が情けないってわかってるけど、この後どうなるかわかってて引き下がれるかっての!!
「これはチャンスなのよ
貴方だって本当はわかってるんでしょ
レイと決着つけなきゃいけない事を」
光の聖霊の言葉に俺は自分が甘えていたコトを恥じる
逃げてた…嫌なコトから、また目を逸らそうと
イングヴェィからレイを庇ったのは俺だ
これは俺が決めたコトなんだった
なのに、また逃げるのは違う
「……うん、良い顔になった
それじゃ私は行くから」
そう言って光の聖霊は俺の覚悟を見てから消えていった
………待って、すぐに揺らいだ
だってレイとの決着はいつかってぼんやり考えていただけで
ちゃんとしっかりまだ考えてない!!?
それをいきなり1人放り出されたら無理しかないんじゃ…
振り返るとレイが待っている
そろそろ日も暮れるし…いつまでもここでうだうだは出来ないってコトか
近くの町で休むコトになった
レイと決着付けるってどうすればいいんだ…
何が1番良い選択なんだ
「部屋は別々で」
「そんなわけないだろ」
やっぱり?だよね?
前は同じ部屋が当たり前で一緒のベッドで寝るのが当然で
今は同じ部屋が一緒のベッドが恐怖しかない
静かな宿の部屋でやっぱり沈黙が多い
俺がソファに座ればレイも横に座る
「あっ、レイの耳…懐かしい…
はじめて会った時もこんな感じだったよな」
最悪な出会いだったけど
はじめて見るエルフが物珍しくて、特徴と言えば美形な姿と長い耳
そういえば、エルフにはまだレイ以外に会ったコトないな
あんまり人間の前には姿現さないんだっけ
姿は人間の時とあまり変わらないか
人間の時からレイはイケメンだったし
「また触ってもいい?」
レイと2人っきりの恐怖心より好奇心が増した
「………あぁ…」
まだ触れてないのに見つめるだけでレイの耳は真っ赤になっていた
そうか…そっか…レイは、俺のコト本当に好きなんだな
「カッコいい!」
ゲームキャラとかエルフ選ぶくらい憧れてた!カッコいいもん!
後、俺弓使いめっちゃ好きだった
カッコいいから!もう理由がカッコいいからしかなかった
「そう…か…」
あんまりにレイが照れるから触るのはやめておいた
その代わりにふっと息を吹きかけてみた
たぶん、俺はアホで危機感とかないバカなんだと思う
「からかうな…!」
怒られた
レイは立ち上がると俺から離れた
エルフの姿になったレイはその時の前世の影響を強く受けているのか、めちゃくちゃ童貞感が強かった
ふっ、ちょっと優位な気分
でも、安心したかも
レイがこの調子なら大丈夫なのかもって
俺は張り詰めていた緊張が緩み一気に眠気が押し寄せてて、そのままソファで横になって眠る
起きて頭がスッキリしてから色々考えよう
どうしたらいいのか…
今日のレイはいつもと違うから、姿が変わったレイなら話し合えるのかもしれない
そしたら…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます