132話『霊媒師遊馬の危機』セリカ編

イングヴェィとセリくんが留守の間は大人しくしとくようにと言われたけれど

さすがに外出も許されずの毎日は退屈で仕方がないわ

こうして毎日、魔王城から一緒に連れて来たカニバとリズムとパレのウサギ3兄弟と中庭でまったりするくらい

カニバは走り回り、リズムは中庭の草を食べ尽くす勢い、パレは隅でジッとしている

たまに人の姿になってお喋りするコトもあるけど

「セリカさん退屈そう」

私の様子を見に来たカトルがみかん食べる?って差し出してくれたからありがたく貰う

みかんをむきむきしているとその匂いに気付いた食いしん坊のリズムが私の膝へと乗ってくる

「退屈だわ」

隣に座るコトなくカトルは私を見下ろしたままみかんを食べながら話し掛けてくる

カトルってばイングヴェィがいない時に会ったら、私を知らなくてめっちゃ敵視してたのに今普通ってどういうコトなの…

まっその辺はみんながみんなそうなのよね

今のみんなの認識としてはイングヴェィがいなかった期間は行方不明みたいな扱いになっていて存在自体はあったみたいな

なによそれ!私があれだけみんなに話しても私の妄想だとか夢だとか笑ったくせにさ!

ぷんぷん!!

「……外に連れてってあげてもいい」

カトルはその方が面白いから自分も退屈だし、と言う

それは確かに楽しそうね…でも

「ダメよ、私が外に出たらイングヴェィに迷惑がかかるわ

外は危険なの、いくらカトルが一緒にいると言ってもね」

本当は私だって動きたいわ

セリくんと私と別々に行動すれば2倍速く解決するかもしれないじゃない

だけど…ダメよ

本当はこの世界のどこも安全じゃない、この城だって絶対に安全って言えるかと言ったらわからない

何が起こるかなんて誰にもわからないもの

「前のセリカさんなら軽率に僕の話に乗ったのにつまらない」

つまらない女で悪かったわね

そんな挑発に乗らないわよ

カトルはイングヴェィの仲間だけど、信頼出来るかと言ったら微妙

イングヴェィでさえ手を噛まれるコトもある

それでもイングヴェィが私をカトルに頼んだのは、最悪なコトだけはしないって信じているから

らしいけど…イングヴェィって意外に他人を信用しやすい…?

純粋なのねぇ…そういうところも嫌いじゃないけど、心配だわ

まぁリジェウェィもいるしね

リズムは私の剥いたみかんを奪い取っていく、私1つも食べれてないよ

「とにかく、今はじっと耐えるのみ

イングヴェィが帰って来るまで大人しく待つのよ」

「退屈で腹が減る」

「寝たら空腹も忘れるわよ」

カトルは両頬にみかんをそのまま詰め込んで去っていった

リスの真似…?

あぁ…でもカトルじゃないけど、暇なのは暇よね…

私もセリくんと一緒に解決したいよ


夜になってオヤスミの時間が来る

寝る準備を済ませてベッドに潜り込む

疲れた~、女の子って寝る前の準備に時間がかかるのよね

お風呂の後はスキンケア、ヘアケア、ボディケア、ネイルケア、髪も長いから乾かすのにも時間がかかるもん

早く寝よーっと…スヤ~

寝ようと思ったら、急に過去のトラウマが強く襲いかかって来る

真っ暗な…真っ黒で、私を底なしの闇に落としていく

苦しい、悲しい、痛い、気持ち悪い、辛い…

眠気がなくなり、パッチリと目が覚める

ベッドから起き上がり部屋の明かりを点ける

「ふーん…オマエの方から来てくれるなんて思わなかったわ」

部屋の中に、真っ黒な影のようなものが姿を見せる

その影は私と目が合ったコトに驚き逃げるにももう遅いとわかりたじろぐ

「どうしてバレたのか?」

私が近付くと影は開き直った様子を見せる

「同じ手を使うからバレるのよ?

この感じ、セリくんを自殺に追い込んだ手口と一緒

フェイの石化もオマエの仕業かな?それとも他に仲間が?」

影は喋れないのか喋らないのか、私の質問には答えない

触ろうとしたけど、影は私の手をすり抜け掴めない

だとすると

「フェイの石化が解けるかどうかはオマエを倒せばわかるのに

私はオマエを倒す力は持っていないの」

ここからは長期戦か

「どっちが先にくたばるか勝負ね

私はセリくんと違ってしぶといわよ」

セリくんを責めてるワケじゃないけど、会うまではずっと弱い自分(私)に押し付けられていたのだから

これくらいで死ぬ私だったら、もうとっくの昔に死んでるわ

影は私が予想外の反応を見せたのか戸惑うばかりだった

逃げないのか、逃げられないのか…

この影はタキヤが仕向けたもの、しつこいわね

今度は私を責めようってワケか…

同じ手でやられるか

「とりあえず私は寝るわ、夜更かしは美容に悪いもの

オマエの始末は明日考えるわ、じゃあおやすみ」

またベッドに戻って眠ろうとする

影には強気に見せたけど、正直平気なワケじゃない

でも…耐えなきゃ、私1人でも頑張らなくちゃ

大丈夫、もう大丈夫……?



次の日、寝起きは最悪だった

悪夢で目覚めは悪い

影はずっと私の後ろに取り憑くコトで落ち着いたみたいだ

この野郎、絶対殺す

私は出掛ける準備をした

ウサギ達に出掛けるねと挨拶をして、城を出ようとしたら

「外には出ないって」

カトルに呼び止められた

「急用ができたの、むしろ今引きこもってる方が私は死ぬ」

「僕に一声かけるべき、何かあったらイングヴェィに怒られるのは僕」

カトルは仕方ないなと溜め息をつく

その香りがわたあめだった

すぐにわたあめ食べたばっかなんだってわかる

「あっ、それはそうだね…ごめん」

いや、悪いな

余裕がなかった

平気なフリを装うだけで平気ではないから…

カトルが一緒にいてくれるだけで私は外に出ても大丈夫なハズ

いざって時はカトルを逃がさなきゃね…

そうして私はカトルと一緒に、久しぶりにとある人物に会いに行ったのだった



影ことタキヤが仕向けた悪魔の一種と思われる

それらの対処が得意な人の心当たりがある

その名も

「遊馬、久しぶりね」

エクソシストかなんかだっけ

「セリカさん!?お久しぶりです!霊媒師の遊馬でっす!」

まぁなんかそういうのが得意な奴

久しぶりに会うと遊馬はパーッと顔を明るくして強引に握手される

「もうこの手は一生洗いませんよーーー!」

憧れのセリカさんと握手とかなんとか、そういえば遊馬は私のファンだったっけ

私、アイドルとか向いてないしファンになるほど魅力的な女でもないのよ…

遊馬の盲目さに苦笑する

「いや洗えよ!汚いだろ!?」

「汚くありませんよ!1週間後でもこの手を舐めれます!!」

「何この子供…」

カトルが全力でドン引きしてる

本当にこの子供が解決の糸口を?ってカトルに聞かれて、私も大丈夫かなぁって不安になってきた

「ところでセリカさん、今オレは元気がないんすよ」

えっめっちゃ元気に見えたけど?

それで元気ないって言われたらそれ以下のテンションの人達は死人なの?

「オレにはもう悪霊を祓う力がないっす」

「えっ…えぇ!?」

そんな、遊馬にこの厄介な影のコトで相談しようと思ってたのに…

セリくんを殺しかけた奴よ、憎いこの影を1秒でも早く滅殺したいわ

「どうして力を失ったの?」

「オレの力が通用しない悪霊がいるんすよ」

はぁ~~~っと遊馬は老ける溜め息をこぼす

かなり…深刻だわ

「用なし、セリカさん帰るよ」

カトルは冷たく言い放って私の手を引っ張る

「冷たいわカトル!」

「よくわからない力がなくなった事に僕達が出来る事はない

魔力じゃなく霊力は僕達とは住む世界が違う、専門外」

うっ…そ、そうよね…

なんでも知ってるユリセリもリジェウェィも霊力のコトは詳しく知らないだろうし

「でも、その悪霊に憑かれてる人は助けたいんす……」

「遊馬…」

自分ではどうしようもないのに、それでも誰かを助けたい

その遊馬の悩みは、私と同じ気持ちを感じた

自分ではどうしようもできない、でもどうにかしたい……

「この男が大人になっただけでは

よくある話、子供の時にあった不思議な力が大人になったらなくなったって」

「まじすか!?オレもついに大人の男に……」

ん?ちょっと大人ってフレーズに嬉しさ感じてる?

大人に反応してる時点で子供だぞ~

まだ背伸びしなくてもいい!青春せよ少年!!

「それならそれでいいんですが、最後にその悪霊憑きの人だけは救いたいです

見てるだけで強い悪霊が取り憑いてるってのがわかって、その人の将来が心配なんすよ」

遊馬はぐっと自分の拳を力強く握る

「もう一度…頑張りたいっす

セリカさんが応援してくれたら、男としてやる気も出てあの強力な悪霊も祓えるような気がします!!」

女の子がいたら頑張れるってやつか

そっかー、頑張れ男の子!!

「わかったわ、遊馬を応援する

悪霊との戦いで怪我しても大丈夫、私がいれば遊馬は無敵ね」

「もちろんす!!」

遊馬は目一杯の笑顔で私にやる気を見せてくれる

カトルは何これ…って呆れていた

でも私が遊馬と一緒に悪霊退治に行くコトになったらカトルは仕方なく付き合うコトになる

そうして私達は遊馬が言う悪霊付きの男の子がいる家に向かうコトになった


「ここです!セリカさん、危ないのでオレから離れないでくださいね!」

「僕もいるんだけど」

カトルには一切触れない遊馬に存在を示すが、やっぱり無視されている

そんなカトルは拗ねたのか1人離れた場所でカップ麺をすすり私達の悪霊退治が終わるのを待つコトにしたみたい

私の様子が見える範囲にいるってところがカトルもなんだかんだ優しいと思う

「やい!悪霊め!」

遊馬は覚悟を決めて悪霊のいる家の玄関から堂々と乗り込む

「もう一度オレと勝負だ!次は負けねぇ!その男子から離れろ!!」

遊馬が玄関で騒いだコトで2階にいたのか悪霊憑きの男子はゆっくりと階段をおりてくる

「くくく、性懲りもなくまた来たか」

悪霊憑きの男子が2階から一段一段とおり近付いてくると遊馬は私を背にしながらも強がりと弱気が揺れる

「あの悪霊はオレのどんな術も利かないどころか、強すぎるあまりに悪霊の気配も消してるんすよ

やはり…オレには勝てそうにない……」

んー…私が見る限り、普通の人間の中学生くらいの男の子って感じだけど

でも、格好が…そうね…

「サタンも恐れる闇の力で葬り去ってくれる!!」

おっ…

「くっ…さすがにサタンも恐れる闇の力を使われたら…

でも安心してください!!セリカさんはオレが守るっすから!!」

いや遊馬、何遊んでんだ?

「来い小僧!我の闇の力を恐れぬのならな!フハハハハハハハハ!!!」

これただの中二病だよ!?!?悪霊とか憑いてないから!!

あの年頃の男子はまぁ何割かは通る道なんだよ!?

しかも遊馬が乗ってくれてると勘違いしてるのか、ちょいちょい嬉しそうだよアイツ!?

すまん、中二病相手の正しい対処法とか私にはわからん

とりあえずは

「遊馬、これからも遊んであげなさい」

それが無難だと思うわ

大人になれば勝手に卒業していくものだし…たぶん

「何言ってんすか!?そんな余裕かますほどの相手じゃなくてですね!?」

「いいのよ遊馬、あの子には遊馬の力を使わなくていいの」

ってか普通の人間だから無理だし

「ただ、こうして会話してあげるだけで良いの

それが無難、無難よ…たぶん」

遊馬は私の言葉に困惑しながらも中二と会話を交わして時間が過ぎて行った

本当に悪霊が憑いていたワケじゃなかったから、攻撃されるコトもなく

終始何コレな空間が続いていったが

「今日はこの辺で見逃してやろう

雑魚に本気になっても我の名が廃る

次に会う時を楽しみにしておるぞ!ハハハハハハハ」

満足したようで2階に戻っていった

遊馬は青白い顔して疲れが全身から出ていた

「楽しかった?」

「楽しいわけありますか!?下手したら闇の力がセリカさんを巻き込んでたかもしれないんすよ!?

何もなかったからよかったものの」

「楽しかったみたいね」

うふふと笑うと遊馬はまた修行し直しだと意気込む

「闇の力に太刀打ち出来るほどの力を身に付けるっす!!」

「終わった?」

遠くで様子を見ていたカトルが声をかけてくる

遊馬は相変わらずカトルにはあまり良いイメージを持ってないみたいで、ちらりと見た後ぷいっとそっぽ向く

「帰りましょう、セリカさんがオレに会いに来た理由を聞かせてくださいっす」

最初から遊馬はわかっていたんだ

私がどうして会いに来たか

でも、自分の力がなくなったと思い込んで…

「今のオレが力になれるかわかりませんが」

そして、私達は遊馬の家に戻るコトになった

遊馬は私達を客人としてもてなしてくれる

お茶とお菓子を私とカトルに出してくれた

「和菓子…」

カトルはさっさと口に放り込む

「ばっちゃんが作ってくれた菓子だ!味わって食え!!ってか男は帰れ!!セリカさんに近付くな!!」

「美味」

「あたぼーよ!!くそー、オレだってセリカさんの護衛役したいのに」

おぼんをかじる勢いで遊馬はカトルに敵意を向けていた

「でもオレは悪霊退治しかできないから」

「それよ遊馬」

私の言葉に遊馬はおぼんを机に置く

「私、取り憑かれてるみたいなの

それで遊馬に相談しに来たのね」

「セリカさん…」

遊馬は身体を乗り出して私をじっと見つめた

私も遊馬を見つめ返す

だんだんと遊馬の顔が赤くなる

「セリカさんは見つめないで!?照れるっす!!」

「わかったわ」

言われて私は目を閉じた

「これはこれでまずい!?オレの理性が保たないと言うか…

アイドルに手を出すなんてファン失格だ!!オレの馬鹿野郎!!」

1人で騒いで1人で自分を殴る遊馬

「ふざけてないで早く見てくれる?」

「うるせー!!」

カトルに言われて遊馬はもう一度私を見る

暫くして遊馬は静かなトーンで話す

「……すいません、セリカさん…オレじゃ貴女の力にはなれそうにありません」

「悪霊ではないってコトね…」

「はい、禍々しい何かは感じたんすけど

悪霊ではない別の物、オレの専門外です」

遊馬は私の力になれないコトを悔しがった

十分よ、悪霊じゃないってわかっただけでも

この私に取り憑いてる影が何か知る一歩になる

「悪霊じゃない、悪魔とも違うっす

どっちかって言うと呪い的な要素が強いかもっすね」

そう言うと遊馬は奥の部屋に行って何やらゴソゴソと探し出す

「あったあった、これセリカさんにあげます

邪気から守ってくれる御守りっすよ

少しでもセリカさんを守れたら」

遊馬は私に手のひらサイズの鏡を渡した

その鏡を覗くとなんとなく心の重りが軽くなったような気がする

「これは…」

「ばっちゃんに教えてもらってはじめてオレの霊力で作った御守りなんす」

「そう…でもタダと言うワケにはいかないわ」

「セリカさんからお金なんてとれないっすよ!?

いつもセリカさんからは元気を貰ってますから

オレの憧れなんすよ、それだけで頑張ろってなるんすよね」

照れるって遊馬は頬をかきながら言う

私なんて…憧れるような存在じゃないのに

でも、いつも遊馬は私を慕ってくれる

恋心とは違う純粋な憧れ

それはこっちも恥ずかしくなってしまうような

遊馬が憧れてくれるなら、私は憧れの存在に恥じないような生き方をしなくちゃいけないのに…

それが出来る自信がない…

「遊馬の力は失ってなんかいないわ

大丈夫、遊馬なら大人になっても立派な霊媒師でいられる

これからも頑張ってね」

お世辞ではない、遊馬の力は本物だ

この鏡を持ち覗くだけで効果がある

そして私の影についてヒントをくれた

「セリカさん…ありがとうっす!!オレ!頑張ります!!

もしセリカさんが悪霊で苦しめられる事があったらその時は絶対に助けられるような立派な霊媒師に!!

本当は悪霊以外でも守りたいんすけどね~」

「気持ちは嬉しいわ、ありがとう遊馬」

照れる遊馬に微笑むと遊馬は最高の笑顔を見せてくれる

そうして私達はまた会える日を約束してサヨナラとなった


帰り道、カトルはお土産(全て食べ物)をたくさん抱えながら歩く

「それ急に敵に襲われたらどうやって戦うの…」

むしろ前見えてないよね?

「心配ない」

どこからそんな自信が…

「さっきの少年」

「ん?」

「セリカさんの事、慕ってた

あれだけ好意を持たれたら好きになる?」

「ならないけど」

それに遊馬は私に恋愛感情を持ってるワケじゃないしね

前は見えてないくらいの両手に抱えた荷物でもカトルは真っ直ぐと歩いている

なになに!?カトルと恋バナ!?

男子の恋バナってどんな感じなんだろ?

女子は恋バナ好きだね、ポップも楊蝉も好きだし

だけど、私はよくわからないのよね

「やっぱりセリカさんはそう

僕なら、仮に可愛い女があれだけ慕ってくれたら…好きになる」

「えっ!?意外!!カトルって恋愛とか興味ないと思ってた!!」

カトルとはあまり話をしたコトはないけど、まさかの意外な一面が今までのイメージと変わって親近感が湧く

えっこの人にも人らしい部分あるんだ~みたいな

むしろ私の周りって人間らしい人いないから新鮮なのかも?

「カトルは今フリーでしょ?どんな女性が好みなの?」

「ママみたい人」

「ふ…ふーん……」

母親を尊敬して出た答えなのか、マザコンなのか…

突っ込まないようにしよう

きっと母親を尊敬してるんだわ

「でも、カトルってモテそうだもん

興味があるならすぐ彼女出来ると思うよ?」

恋バナとかよくわかんなかったけど、こうして話してるとちょっと楽しいかも

他人の話だけど…自分のコトはよくわからないわ

「今のところママが1番」

「へ…へぇ……」

まぁ子供のうちはママが1番よね

カトルが何歳か知らないけど…たぶん私よりずっと年上……

「ママみたいな素敵な女性に出逢えるといいね!」

「うん

で、セリカさんは?イングヴェィの事好き?」

「私?私はイングヴェィのコトは」

急に自分に振られて、でも私は即答出来ると思ってた

私、ずっとイングヴェィに会いたかった…ずっと待ってた…

なのに、なんでかわからない

好き…?

嫌いじゃないコトは確か、それなら答えはわかるハズなのに

「ほら、心配ないって言った」

カトルが立ち止まると、目の前にはイングヴェィが待っていた

カトルが両手いっぱいで前が見えないくらいのお土産をどうして持っていたのか

カトルはイングヴェィはここに来るってわかってたんだ

「イングヴェィ…どうしてここに…?」

「セリカちゃん!」

私が気付くとイングヴェィはパッと明るい笑顔をして私へと駆け寄る

「僕は先に帰るから、2人でゆっくり帰ってきて」

カトルは気を利かせて、私の待っての言葉より先にさっさと行ってしまう

急に…緊張してきた……

カトルが変なコト言うから…

私はイングヴェィが何か言うより先に口を開く

「イングヴェィ、セリくんは…?」

一緒じゃないコトくらいはわかる

近くに自分の気配がないから

「色々あってね…セリくんのコトは凄く心配なんだけど、今はそれが1番かなって」

イングヴェィはそれ以上は語らなかった

私に心配かけたり不安にならないよう気遣ってくれる

わかってる、私にも…今はそれが1番なんだって

大丈夫…セリくんなら、きっと

私は自分を信じるしかない

「ありがとうイングヴェィ、いつも」

「お礼なんて、俺はセリカちゃんの為ならどんなコトだって!

大好きだからね、セリカちゃんのコト」

変わらない太陽みたいな笑顔が今の私には眩しすぎた

私も……って、言えたらいいのに

「……いつもイングヴェィは私を大好きでいてくれる

私は、イングヴェィと再会する少し前まではちゃんと自分の気持ちがわかっていたような気がするのに…

何も…なくなったみたいになって……」

私の中からなくなってしまったもの

不安しかない、焦るばかりだ

そんな私にイングヴェィはそっと優しく私の手を取る

「急がなくても焦らなくても大丈夫

なくなってしまったなら

また初めから始めよう、ねっ」

イングヴェィの体温のない手は冷たく感じるのに、とてもそれが温かく感じる

私は自然とイングヴェィの手を握り返す

不安が安心に変わる

焦りから解放される

もう一度…最初から…また貴方と恋がしたい

イングヴェィの瞳を見てるとそう芽生えてくる

「ゆっくり、ゆっくり…

セリカちゃんはまた人を好きになれるよ

愛する心がなくなったワケじゃないもん」

言われて、思い出した

そうだ、あの時あのクソ大悪魔シンは私の希望を奪い取った

それはあの時の私のイングヴェィへの気持ち

過去の恋心を奪われただけ

それならまた1から始めればいい

不安がないワケじゃないけど

本当に私に誰かを愛する心があるのか…

でも、イングヴェィとなら…

私はまた

「だから俺はセリカちゃんに愛されるような男になるよ!頑張るね!」

何度だってイングヴェィが私の心を奪ってくれるような気がする

「イングヴェィとなら……私も」

照れくさくなって言葉が詰まる

でも、イングヴェィには言葉がなくても伝わる

イングヴェィは私のコトならなんでもわかるみたいだもの

「うん!セリカちゃん、大好き!!」

たくさんたくさん愛してくれる貴方に、私はまた恋がしたい

その笑顔も手のぬくもりも、大切なものだってコトはわかるわ…



-続く-

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