129話『決意の支え』セリ編

久しぶりに鬼神達が目を覚ましたかと思うと派手な宴会を始めた

香月の城の一部の部屋を勝手に改造して宴会場を仕上げ、酒や料理を持ち運ぶ

酒、飯と来て、女が追加されないのは見た目や気性に反してウブな彼らには無理な話だったのかもしれない

何千年振りの地上にはしゃぐ気持ちもわかるが、とりあえず今回の宴会は世話になったこの城、魔族や魔物達とのお別れ会みたいな感じらしい

和彦と共に鬼神達は和彦の屋敷へと行くコトになる

世話になったって……はしゃぎ疲れて爆睡してる方が多くなかったか?

「畳とか座布団とか超懐かし~」

鬼神達と意気投合してハチャメチャに騒いでるキルラ達に巻き込まれたくなかった俺は端の方でお茶を飲んだり料理を食べたりとまったりしていた

あれたぶん、また疲れて寝るぞアイツら…

俺の周りにはセリカとイングヴェィと和彦がいる

「勝手に改造したのはビックリしたけど、私も懐かしくてたまには良いなって思ったわ」

俺とセリカと和彦は和風が身近にあった世界だったから懐かしいってすぐに馴染めたけど、イングヴェィやキルラ達をはじめとした魔族や魔物達は見たコトない造りに新鮮さと興奮を隠し切れていなかった

しかも鬼神達はセリカに着物まで着せてそれがもうみんなにめっちゃ受けている

鬼神達の中ではセリカは天女様なのだそうだ

地上に出てきたら他にも女性はたくさんいるからすぐにセリカのコトは飽きるのではと思ったが

鬼神達の好みが東洋系となるとかなり珍しいのかもしれない

この世界は人も物も西洋色が強いし

楊蝉も東洋系だがセリカとは異なるタイプで妖艶さがある

そんなセリカの膝の上には和彦の頭がある

「酔っ払った」

なんて和彦は言ってるけど嘘でしかない

コイツはいくら酒を飲んでも酔わないし底無しだもん

そう言ってセリカに膝枕させて甘えてるだけだ

………まぁ…俺が悪いんだけど

「明日からセリくんと離れ離れだし、結局最後まで抱かせてくれないし」

まだ言ってる…

「無理しなくていいって言ったのはオレだけど、ここまで頑固だとは思わなかった

香月も悪い、中途半端に復活するから」

「でも、香月が来てくれなかったら和彦もセリくんもこうしていられなかったかもしれないよ」

酒で熱くなった和彦の頬にセリカは自分の冷たい手を当てる

「…わかってる」

これ見て、あれ?って思うじゃん

あの嫉妬深くて独占欲の塊のイングヴェィが黙ってるなんて

和彦のコトはイングヴェィの中で俺の恋人だってちゃんと認識しているみたいだ

俺がセリカだから、セリカは俺だから

俺がイングヴェィを好きって思って抱きついてしまうのと同じ感じ

上手く言えないけど、自分(性別)を超えない範囲は自然なコトみたいだ

わかりやすく言うと、性的なコトが線引き?

膝枕はセーフらしい、俺は十分セクハラだと思うが…

「そういえば、その香月くんはここには来てないみたいだね」

イングヴェィは広い宴会場を見渡し言う

「セリくんが子供扱いするから拗ねて引きこもってるんだろ」

拗ねて引きこもるとか子供じゃん…

「香月は元々こういう場所好きじゃないぞ

俺が言わないと来ないよ」

いつかの花火大会の時もそうだったし

「それならセリくんが誘ってあげないと」

えー俺もこういう騒がしい場所嫌いなのにー

鬼神が来てほしいってしつこいから来ただけだもん

「んーわかった、香月と話したいしな」

イングヴェィの言うコトってなんか聞いちゃうんだよな

俺が立ち上がると和彦も一緒に行くと言う

セリカの膝から離れ座った和彦にセリカは水を差し出し、その水を一杯飲んでから和彦は立ち上がった

「いってらっしゃい2人とも」

イングヴェィとセリカに見送られて俺と和彦は宴会場から出た

廊下に出るだけで随分と静かだった

この城のほとんどの人がこの中にいるからだろうけど、防音がしっかりしてて凄いよな

「和彦までついて来るコトないのに」

香月の部屋の方に足を向けながらそう言うと和彦は珍しく怒ったようにむくれる

「待て、酷くないか?」

「何が」

「オレに対して、冷たいよセリくん」

待ってと和彦は俺の肩を掴む

「いや普通だろ」

「明日から暫くオレはセリくんの傍にいられないのに?」

「うん、わかってるよ

オマエにもやるべきコトがあるんだって理解してる

ずっと俺にベッタリなんて無理だってコト理解してるから」

ずっと傍にいて守ってくれるなんてそんな自分中心な話なんてない

コイツがなんの仕事してるか生活してるかなんて、今でも俺は知らないしわからない

なんとなく、闇社会の闇世界の、俺とは住む世界の違うコトをやってるんだろうくらい

和彦の部下達は礼儀正しくて俺には優しいけど……その裏の顔はどうかなんて…

知ろうとは思わない、和彦が話そうとしないから

逆かもしれないけど、俺が聞かないからあえて和彦も話さないのか…

和彦が話すならいつでも聞くけど…

でも、怖い気もする

俺には到底理解出来ないコトもわからないコトも知らないコトも、あるんだろうと思うと

それは香月にも言えるコトで、俺は好きな人の都合の悪い部分から目を反らしてる臆病者なんだ

自分本位の物差しで衝突するんじゃないかって…それが嫌だから知らないままでいる

本当にワガママで勝手だな自分って

「俺は、仕事と俺どっちが大事なんだみたいなコト言わねぇよ」

「セリくんが大事なんだけどな」

突然で不覚にも照れる

だけど

「だから、何もしないで何も考えないでオレの傍にだけいてくれたらいいのに」

急に冷たいものが流れるのを肌で感じる

怒っているワケじゃない…敵意を向けられてるワケでも

元から和彦には独特な恐怖を感じる雰囲気を持っている

魔王の香月とは違った別の恐怖

「他の事なんて他の奴なんて、見殺しにすれば」

それが本気で言ってるのか、いや脅しにも聞こえてくる

和彦はただの人間だ

なのに、人間じゃない大きすぎる力を感じる

人間に勇者の力は通用しない

和彦が本気を見せたら……

「なんて、セリくんが大人しくしてくれるわけないか」

「和彦…」

ふっと軽く笑ってくれる和彦の表情に俺の緊張が解ける

「セリくんの決めた事を止めるような事はしないさ

でも、セリくんが言うようにオレにもやるべき事がある

暫くは守ってやれない、だから心配だ」

さっきとは変わっていつもの和彦だ

やっぱり…俺が知らない顔だってある

和彦が優しいと調子狂う

心配してるって頭撫でられると…

「…大丈夫、俺はもう自分から死ぬなんてコトはしない

和彦と…離れるのは寂しいけど……今は仕方ねぇの…」

ついつい俺も素直な言葉が漏れてしまう

恥ずかしいから言いたくないのに!!

俺はやらなきゃいけないコト、やりたいコトがいくつかあるんだ

もう俺の運命は俺だけのものじゃないような気がするから

1つずつでも、決着をつけていきたい

もう諦めない…って思えるようになったのは

改めて決意出来たのは、香月と和彦と

イングヴェィとセリカがいてくれるから

俺の心は揺らがない、貫き通せる

その強さをみんなが支えてくれるんだ

急に足が地面から離れたと思うと俺は和彦に抱き上げられていた

「やっぱ最後の夜だし、やりたい、抱かせろ」

「やっやめろ!!おろせバカ!」

キスしようとしてくるから全力で突っぱねる

香月が復活したらその時に3人でって約束で和彦に我慢させたよ

浮気も禁止させて…わかってるよ、俺が悪いって酷いって

でも、香月が中途半端に復活して子供の姿なんて無理じゃん!?犯罪だぞ!?

「香月がいいって言ったら?」

いいよな、って和彦は無茶を言い出しそのまま香月の部屋へと向かう

香月になんて言うつもりだよ!?変なコト言うなよ!?

香月の部屋の前につくと恥ずかしいからおろせと言ったら和彦はすんなりおろしてくれる

そして2人で香月を訪ねた

「香月!今、宴会やってるから香月も一緒に」

先に香月の部屋に入ると後ろで和彦がドアを閉めたのはいいが鍵の閉める音まで聞こえた

……妙なコト考えてねぇだろうなオマエ

「それじゃ、はじめようか」

「待て待て待て!?何もはじまらせねぇよ!!?」

和彦が胸元を緩めて近付いて来るから急いで整えてあげた

香月が何しに来た?って怪訝に見てるだろ…たぶん

香月は表情があまり変わらないからわからん

「やっと3人会えたのに、香月だって子供扱いされたままでいいのか?」

「仲間を増やそうとするな!!」

香月をその気にさせようとする和彦を通せんぼして近付かせない

「セリは私が子供だと思っているのですか」

「えっ?んー…まぁ……」

振り返り香月を見る

まぁ…中学生くらいにしか見えないんだよなぁ、今の香月は

魔力も完全な魔王の時より半分にもならないし、人間の時の香月の方がまだ強さを感じたかも

って甘く見ていると、香月に腕を掴まれ引っ張られるとそのままキスをされる

ビックリしたのはいきなりキスされたコトじゃなくて、意外にも腕力が強かったコトだ

魔力が半分にもならなくても、それは魔王基準での話

香月は元からめっちゃ強いってワケでその力が半分以下になったからってキルラ達よりはずっと強い

「か、香月…まっ……」

押し返そうとすると、今度は後ろから和彦が寄ってきて無理矢理香月から俺の顔を奪うと激しいキスをされる

後ろから抱きしめられ服の中へと手を入れてくる

香月は香月で俺の服を脱がそうと触れられる手から徐々に俺の身体も熱くなって、このまま流されそうになるくらいだ

でも……!!

「いい…加減にしろ!!」

勇者の力で香月の手をはじき、和彦には思いっきり顔面に後頭部をぶつけた

鼻を押さえながらも俺から手を離したが、振り返った時には和彦は笑っていた

「ちっ、いけると思ったのに」

正直、負けそうだったよ

だって好きだもん2人のコト…だから、その…久しぶりだし

俺だって、したいよ…愛されて愛したいけどな

「セリは一度決めた事はなかなか曲げませんからね」

「香月はこの姿でもオレ達よりずっと年上なのにな」

なんか俺が1人悪いみたいになってる…このままじゃ押されて負けそうだ

「いや、悪かった

香月を子供扱いしたのは失礼だった

でも子供に見えて…そういう気分になれないって言うか……」

香月がどんな姿だって、いつだってカッコ良いし大好きだよ

この姿の香月だって、目を反らしてしまうほど意識してるしドキドキするし恥ずかしい

大人の香月と何が違うって言ったら…なんか…なんか…初恋の時の気持ちが蘇るみたいな…?

なんか懐かしいけどやっぱスゲー好きみたいな?

香月と出逢う時はいつも完全な魔王の姿で大人の姿なのに、その時にはじめて好きになって…なのに

なんでか上手く言えないけど、大人と子供の恋愛は違うって感じ?んーなんだろわかんねぇ

「今の香月が嫌いとかダメとか無理とかじゃなくて

こういうのするのは…いつもの大人の香月とが良い…

好きな気持ちは変わんねぇよ、信じて…」

話してると不安になってくる

香月は何も言わないし、感情がないからそれを表すコトもない

さっきまでは愛してくれてはいたけど、それがいつ無になるかわからない

当たり前が当たり前じゃなくなったら…

思わず香月に抱きついてしまう

すると、香月はちゃんと抱きしめ返してくれるし

「疑ってはいません

あの男に先を越されるのではないかと、私らしくありませんでした」

「それオレの台詞でもあるんだけど、抜け駆けされるんじゃないかって」

そうちゃんと言ってくれたら…わかるのに

香月はいつも言葉が足りないから不安になるよ

でも、俺は香月のコト誰よりもわかってるって自惚れるから

香月はずっと永遠に俺を愛してくれる…

どんなに…俺がまた忘れて生まれ変わって、嫌な出逢いをしても

何度でも心惹かれ絶対に俺を落としてくれる

「私が完全に力と姿を取り戻したら、待っては聞きませんよ」

「うん…」

今はこうして抱き締めてもらえるだけで死ぬほど幸せだ

なんだって出来るような気がする、自信も勇気も元気ももらえる

「暫く私はこの城を離れます

無茶はしないでください」

「大丈夫!」

香月も心配してくれる

香月だってやるコトがある

和彦と同じでずっと一緒は無理だ

俺にやるべきコトがあるうちは

何もかも投げ出して、香月だけが全てだったらずっと傍にいられるけど

でも…暫く離れる前に話せてよかった

「あの人ならセリを守ってくれる

もし、そんな存在がいなければ無理矢理にでも貴方を傍から離しはしないんですが」

さすがに俺1人ってのはみんな心配しかなくて、俺はイングヴェィに面倒を見てもらうコトになった

本当は自分が強くなって俺1人で解決できる力があればいいし、そう願ってるけど

現実は…甘くはない

俺には守ってくれる人がいないとダメなんだって情けない現実

イングヴェィにだって迷惑はかけたくないのに

「全ての決着がついたら…香月とずっと一緒でもいいな」

2人っきりの時間って少なかったから

香月と出逢えるのは、いつも運命の中では

ずっと先の最後…勇者だから

そして、そんな長い時間経つコトなく死ぬ運命だった

香月と2人っきりで過ごす…色んなところに行って色んなコトして…

そういうの…なかったから…いいな

「セリくん、オレは?」

急に和彦は香月と俺を引き離す

「えっ和彦とはいつでも好きな時に会えんじゃん

それじゃあ、香月も気を付けて元気で

また会える日を楽しみにしてるからな」

「待て、何か違わないか?

オレと香月の差が激しい!いつも贅沢させてやって守ってやって気持ち良くだってしてやってるのに」

「ありがとう和彦、感謝してる

最後はオマエの独りよがりだけどな

後、何々してやってるって言っちゃったらダサいし器が小せぇぞ」

「なりふり構ってられるか、オレにも笑顔でハグはないの!?」

………だって、和彦を目の前にすると…素直になるのはなんかムカつく

でも……いつも助けてもらってるし…

「暫く香月に会えなくなるって挨拶がしたかったから、そろそろ戻るよ

またね香月」

「はい、何かあればいつでも私を呼んでください

何処にいてもセリのもとへ」

香月の頬にキスして、またねと手を振って部屋を出る

一緒に部屋を出た和彦はかなり不機嫌だった

「セリくんは香月にだけ特別に優しくて」

珍しくぶつくさ言ってる

そんなに和彦は嫉妬深かったか?

愛されるのは嬉しいけど、和彦が普通の感覚を持ち出して自分だけを選べって言い出したらこの関係は崩れる

それはそれで構わない…どちらかを決めるだけだから

普通のコトだ

俺達が普通じゃなかっただけ

「香月は特別だよ、でも和彦だって」

香月の部屋を出てドアを閉めてすぐに俺は和彦に抱き付く

「香月とは違ってちゃんと特別だよ…」

ずっとこうしたかった

和彦のコトも大好きだから

でも、他の人の目があると何故かツンとしたくなる

和彦に素直になるって凄く恥ずかしい気持ちになるから…

「……分かりづら…」

不満だって怒っていた和彦の感情が落ち着いてくるのが肌で感じる

「いつの間にかセリくんに振り回されてる」

和彦は強く俺を抱き締めてくれた

「香月も言ってたな

待っては聞かないから、その時が来たらオレも聞かないよ」

「いっぱい我慢させてるから…好きにしていい」

「死なないって約束したのに、死ぬ覚悟があるなんて」

「それはオマエが加減しろ!!殺すな!!」

「セリくんがオレには素直じゃないってわかってたのに

香月といるとオレはそんなに愛されてないんじゃないかって感じて」

あの和彦が不安になるコトが?

「でも、後でちゃんと同じくらい愛してくれてるってわかる

これがオレへの愛情表現なんだってね」

和彦は軽いキスをしてから俺を離してくれた

「……ちゃんと…わかってくれる和彦も俺は安心する

そこも…好き」

「可愛い、絶対誘ってる、今すぐ食べたい」

「誘ってない誘ってない!!」

また抱き寄せようとする和彦を全力で突っぱねる

「まっ、香月には早く本来の姿に戻ってもらわないとな

暫く会えないが、オレもセリくんが呼べばいつだって駆け付けるから」

「うん…いつもありがとな」

香月も和彦も、暫く会えなくても遠く離れてても

この気持ちがある限り、俺はもう大丈夫

ここから全てに決着が付けられるかどうかはわからない

上手くいくか、現状より悪くなるか

未来はわからなくても俺は自分が納得するまで足掻いてみせる

抗って…抗って……今度こそ、この運命の不幸を変える

大丈夫、今の俺なら出来る

今までとは違うから、自分にさえ負けなければ

きっと…大丈夫

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