147話『神と人間』セリ編
セレンに会えないなら釣ればいい
俺はレイが可能な限りで城の中へと侵入出来るところまで連れて来てもらった
簡単に言えば不法侵入
「これ以上は、骸骨天使の目が多くて行けないな」
骸骨天使ってレイに化けて俺を殺そうとしたアイツだけじゃなくてたくさんいるのか…
とりあえず、城の中に入ってしまえば十分
いくつもある部屋の一室へレイと俺は身を隠していた
部屋の作りからしてゲストルームかな
セレンが泊まってる部屋ではないみたいだが、誰も使ってないみたいで綺麗に整えられている
俺達の泊まってる何もないホテルより広く色々揃っていて、毎日水とトースト1枚と娯楽のないこっちからしたらこの部屋だけでも贅沢に見える
「本当に……いいんだな…?」
レイは顔を赤らめて俺を見下ろす
俺が頷くとレイは俺の肩を掴み強引にキスをした
そう、こっちから会えないなら
セレンから来させればいい
こうしてセレンの近くでレイとイチャついてたら、腐のセンサーとかなんとかで気付いてセレンは必ず覗きに来るハズ…
それに賭けるしかない
「んっ…」
レイの舌が入ってきて思わず声が漏れる
そのままレイは近くのソファへと俺を押し倒す
服をめくられレイの手が触れようとした時、レイは気付いたように俺の片足を持ち上げ自分の肩へとかける
さっきと同じように…
「ここ、治してないんだ」
レイに噛まれた内ももの傷に触れられてまた痛みを感じる
「このままだと酷い痣になるのに」
「それは…空腹を紛らわすためだから…」
レイが内ももを下から上へと舌を這わせ舐める
ヤバい…痺れる……変になりそう
傷のところを舐められると心地良い痛みが全身を駆け巡るようだった
「あっ…そこは…痛いから、ダメ…」
思わず、震える手でレイの頭を押しのけようとするけど
「ダメって言う割には、抵抗する力が弱くないか?」
レイは俺の手を掴み片手で拘束する
「それは…」
言われると恥ずかしさが込み上げる
傷にキスされて吸われると、今まで感じたコトのない痛みと一緒に快感がある
これ…思ってたんと違う…思ってたより、ヤバい
早くセレン来いよ!?何やってんだよアイツ!!!??
と思ってたら視線を感じて俺はそっちへと目をやる
………いる!?!?いたわ!?見てるよ!?覗いてるよあの女!?
スゲー息荒くしてガッツリ見てるぞ!?
「も、おしまい…レイ」
「まだ、もっと」
吸われる痛みと快楽の次は、軽く噛まれてさらに深い痛みが駆け巡る
思わず身体がビクッと反応してしまう
こ、これ以上はあかん!見られたら死ぬ!?
「このバカ…っ!セレンが来てるって気付いてんだろ!?」
俺はレイを蹴り飛ばした
「まぁな」
が、やっぱりレイはわかってたらしく俺の足を掴み蹴られるコトを回避した
俺から離れても悪びれるコトなく言う
「あまりにセリが可愛い反応をするから」
「う…うるさい…オマエがしつこいから…」
「まだセリに手を出せないし、楽しみは後に取っておくさ」
ハハハとレイは爽やかに笑って俺だけが恥ずかしいと顔を赤くしていた
思ってたのと違う…レイとイチャつくってのはキスして抱き合ってとかそういう軽いのと思ってたから…
だって、セレンに見られるって頑張ってそこまでくらいだもん
それでも人に見られるのは凄く嫌だし、俺は人前でイチャつくの好きじゃない
レイもレイだ、よくそんな気分になれるな
「どうしてそこでおやめになってしまうんですの!?
レイ様!もっと最後まで…最後までセレンに見せてくださいな!!」
セレンは俺達が離れたのを見て部屋に入ってくる
「これはセレンを釣るための囮イチャイチャだから、本番はオマエには絶対覗かれない場所でやるから」
俺はセレンに釘をさした
「本番…?」
セレンはその言葉だけで妄想して興奮した
どうしよう…この女神に何の協力を頼むと言うのか
「とりあえず、セレンが無事みたいで安心した
まだ長引きそうなのか?」
「そうなのですわ、思った以上にしつこくて」
「セレンの何が諦めきれないって言うんだよ」
「顔ばかり褒められますわ」
「えー?セレンにも顔以外に良いところあるだろ
好きならちゃんと褒めないとな」
……言っておいてあれだが、セレンに良いとこないかもしれん
「セレンは自分で言うのも何ですが、モテますのよ
でもどの殿方にもセレンの顔以外を褒めて頂いた事がありませんの」
………あー…俺も思い浮かばなくて…えっどうしよ、この空気…
「えーっと…セレンは…そう!面白いじゃん!面白いし悪い奴じゃねぇから!!」
ウソで褒めても意味ないだろうし、こういう時はなんて言えばいいのか…
レイも黙ってしまったし、話題を変えよう
「そうそう、お見合いって生死の神とどんな話をするんだ?」
「定番の趣味のお話とかお仕事の話とかですわね
セレンはニートの腐女子と申しておりますのに、それでも良いとおっしゃりますの」
話広がらなさそう
男相手にBLの話は盛り上がらないだろうし、無職ってそこで話終わるな
「良い奴じゃん、どんなセレンでも良いって言ってくれるなんて
なかなかいないぜ、そんな男」
俺は目の敵にされてるけど
とりあえず生死の神がどんな男なのか、セレンにこれまでのコトを話していいのか、少したわいない話を交わす
生死の神はセレンの前ではとくにおかしな様子を見せていないらしい
しつこいけどセレンと普通のお見合いを続けているとの事
骸骨天使に命じて俺を始末しようとしたコトも、この死者の国の在り方も、ローズのような自ら命を絶った人間の末路も
セレンは知らなかった
うーん…そろそろ踏み込んで聞いてみようか
「セレンが断る前提ってのはわかってるが、お見合い相手の国の話とか生死の神自身の話とかはないのか?」
「セレンは生死の神に興味がございませんもの
相手がセレンに質問して答える流れですわ」
まぁ…興味なかったらそうなるか
とりあえずセレンは生死の神に好意があるワケではないってコトでいいか
もしあったら、俺の話を信じてくれるかって心配はあったが
ここはちゃんと話してみよう
セレンなら協力してくれる…
「セレン、実は…」
俺はこの死者の国に来て、セレンと離れている間のコトを話した
この国の死者の状況、それを俺がコンサートをしてしまったコトで変えてしまった
死者は生者と同じ人間らしさが必要ない決まり
自ら命を絶った人間は穴に閉じ込められ生まれ変わりを許されない
俺をこの国に入り込んだ異物…天の異物と呼び始末されかけたコト
それと、俺は自分の思ってるコトも伝えた
人の幸せを禁止するのはおかしい
自ら命を絶った者に対して閉じ込め生まれ変わりを許されないコトへの罰が重すぎる
せめて期限を決めて救ってやれないか
セレンは俺の話を信じるとは言ってくれたが…
「生死の神は間違っておられませんわ
死者と生者は違いますもの
死者は死者らしく、生者は生者らしく
あるべきなのです」
「でも」
「人間はセレン達、神と呼ばれる一族が創った存在なのですわ
人間の在り方を決めるのは人間ではありません
神が決める事
そして、神が創った命を何故自ら絶つと言うのです?
許される事ではありませんのよ
永遠に罰を受けて当然の事ですわ」
セレンは……俺達人間とは違うと、はじめてわかった
いつもふざけててどこか俺に甘く、だいたいのお願いは聞いてもらっていた
でも、それは所詮人間程度のお願いだったからだ
神の領域に踏み込むと言うなら話は別…
神は人間を愛している…それはウソじゃない
愛しているからこそ…自ら命を絶つコトを許さないのかもしれない…
「なんだよそれ……価値観の違いか?
なんで自ら命を絶つかわからないって?
そんなの、死にたくて死んでんじゃねぇんだよ!!?
生きたいよ!生きて幸せになりたいに決まってんだろ!?
それでも、それが無理なんだって絶望した時……選びたくなくても
それしかないんだよ……
オマエら神には人間の気持ちなんかわかんねぇだけだ!!」
怒りなのか悲しみなのか…
自ら命を絶つ前に、死ぬほど辛くて悲しくて苦しくて……
楽になりたいって縋るのが死なんだ…
そんなにたくさん苦しんだのに…辛かったのに…
その後も救われないって…おかしいだろ?
例え、神が間違ってると言っても
俺は嫌だ
死んでから救われてもいいじゃん
俺は…ローズと、あそこにいる人達を助けたい
「セリ様…天の異物と呼ばれても当然ですわね
セレンは天が創った貴方でも、私の人間達と同じように愛しました
ですが、神に逆らうと言うなら話は変わりましてよ」
見たコトないセレンの冷たい眼差しが俺を見下ろす
はじめて敵意を向けられて、こんなハズじゃなかったのに……
「女神セレン、セリに危害を加えると言うなら…」
レイが俺を背にして庇ってくれる
「光の聖霊の力で人間から元の姿に戻った子ですわね
立ち去りなさい、長い付き合いのよしみとして今なら見逃してあげますわ
次会う時、まだ逆らうと言うならば神族全ての敵とみなします」
セレンに…敵宣言…なんだよそれ…
スゲーショックなんだけど
俺はセレンのコト仲間だと思ってた
いつもふざけてたしバカだと思ってたけど、この世界にはじめて来て保護してもらってお世話になって…仲良いって思ってた
でも、女神は…神は人間の俺と対等じゃない
この際、対等じゃなくてもいいや
ただ…人間の言葉にも、想いにも、耳を傾けてほしかった
「セリ、引き下がるしかない
ここじゃオレ達が不利だ」
生死の神の国の中心だもんな
俺が暴れたところで簡単に殺される
そんな状況にレイを巻き込むワケにはいかない…
俺は唇を噛む思いでレイと一緒にここから離れた
セレンは最後まで俺達を敵のような目で見ていた
悔しい……何も出来なかった
ローズに必ず助けると約束したのに…
ただの人間の俺は…なんて、無力なんだ
いつも…いつも
勇者の力があるからって何でも都合の良いように出来るワケじゃない
この力は魔族と魔物を唯一殺せるだけの力
俺は……何も出来ない…
レイと一緒に逃げるようにして死者の国を出た
何も出来ない自分に絶望した俺はレイに連れて帰ってもらうだけだった
「セリくんどうしたの?セレンさんは…」
俺の様子がおかしいコトにいち早く気付くイングヴェィは心配して顔をのぞき込む
「セレンは…」
悔しくて…声が震える…視界に涙が溜まる…
何も言えなくなった俺の代わりにレイが説明してくれた
傍にいたセリカにも
「そんなコトがあったんだね…」
「えっなにそれ、セレンめっちゃムカつく
いや、私がおかしいって言われてもいい
でも、私はそんなの絶対嫌よ
助けたいって思うのは人間として当然の感情よね
自ら命を絶った人間が
幸せになりたい、救われたいって、願うコトは許されないの?
それは人間のワガママとして片付けられるってコトなのかしら
絶望して辛いコトも悲しいコトも苦しみ抜いた人間に
それは神が決めたコトだからって一蹴されるのは、上手く言えないけどなんかムカつくわね」
セリカは俺の怒りの部分がかなり出て、紙をちぎりまくってる
こんもりちぎった紙の山が出来たらそのままゴミ箱へと捨てた
「意見が合わないのは仕方ないわ
あっちにはあっちの考えがあるんでしょうから
なら、喧嘩するしかないでしょ
勝って人間のワガママを手に入れるわ
苦しんでるのは誰?神じゃないわ、人間よ
だったら人間自身がやらなきゃね」
そう言ってセリカは神にどうやって勝つか考えを巡らせた
イングヴェィとレイはセリカの珍しく激おこな姿を見て圧倒されている
俺はそんなセリカを見て、やっぱり俺だなってちょっと口元が緩む
「俺とセリカが一緒ならなんでも出来るような気がする
俺も落ち込んでる場合じゃねぇな
何か手はないか…」
少し間を置いて、イングヴェィとレイが吹き出した
「アハハ、セリカちゃん良いね
だから大好きだよ」
「さすがセリカ!何かモヤモヤしてたのがスッキリしたぞ!」
セレンと意見が違って敵対みたいになって…俺が間違ってるのかと思った
でも、イングヴェィとレイはそんな俺の意見が良いと言ってくれる
それが…凄く安心した
大好きな2人が頷いてくれて、嬉しい
「私はスッゴいムカついてるけど、相手は神だからイングヴェィとレイを巻き込むワケには…」
「俺はセリカちゃんの考えに賛同だよ
神が決めたコトに苦しんでるのは神じゃない、人間だってコト
俺は人間じゃないけどセリくんとセリカちゃんの力になりたいの
いいよね?いまさら、ダメって言わないで」
「どちらも正義って話だな
なら、どちらの正義が好きか選ぶまで
オレはセリとセリカのために協力する
もう離れないって誓ったから、守るよ」
巻き込みたくないと俺は思っていても、2人は巻き込まれたワケじゃなく
自分もそうしたいからと言ってくれる
レイはローズを助けたい、お世話になった美樹先生が死者の国で幸せに暮らせるように
イングヴェィは俺とセリカの大切な仲間を助けてあげたいから
叶うなら、みんなでそれを成し遂げるよう力を合わせようって
「「イングヴェィも…レイも…ありがとう」」
俺とセリカが笑うと、イングヴェィとレイも同じように笑ってくれた
それから俺達はどう神と戦うかを考えた
俺としては、傷付け合いたくはない
出来れば人間の意見も聞いてもらいたい話し合いがしたいと思っている
でも、あのセレンの様子じゃ人間と対等に話し合えるとは思えない…
誰も良い案が浮かばなくて暗い空気の中、沈黙が続く
そんな暗い空気を吹き飛ばしたのは天使だった
「ただいまー!……あれ?なんか空気が重い…?」
明るく元気良くドアを開いた天使はきょとんとした顔をする
この前まで元気がなかったのに、いつの間に天使らしさ満開に咲き誇ったのか
セリカは俺がいない間に天使とあったコトを話してくれた
ふむふむなるほど…じゃあ天使は大切な人に会うコトが出来たんだな
俺はその話を聞いて自分のコトのように嬉しくなって、天使に手招きして寄ってきた天使の頭を撫でた
「大好きな人に会えたんだってな、よかったな」
「うん!!」
すると、天使は笑顔しか知らないといった顔をする
「こんなに天使が早く遊びに来てくれるとは思わなかったわ、いらっしゃい」
「せりかちゃんは結婚式の準備で忙しいからね
それにいつも俺がベッタリなのも悪いし、たまには2人っきりにしてあげたいもん」
「偉いぞ天使!良い子だな~オマエは」
ついつい抱きしめたくなる可愛さ、見た目俺なのに
「ねぇねぇセリカちゃん遊んでくれる?」
俺から離れて天使はやっぱりセリカへとベッタリだった
「ごめんね、今大事な話してるから後で遊ぼうね」
「はぁい」
天使はセリカに撫でられて素直に言うコトを聞く
子供っぽいと思っていたがやっぱり9歳だったのか
もっと幼く見えるような気もするが、それは純粋すぎる故なのかもしれないな
セリカは天使を撫でながらも考えてるコトはさっきの話であまり浮かない顔をしている
ムカついてるとは言え、セレンと敵対
人間が神という存在に勝てるのか…不安にならない方がおかしいよな…
「セリカちゃん元気ないの?元気出してね」
察して心配した天使はセリカの頬に可愛らしいキスをした
天使のキス…はじめて見た、こんな純粋で可愛いだけのキス
俺にこんなエロさの欠片もない真っ白なキスは出来ないと思った
セリカはちょっと驚いた顔で天使を見る
「えへへ、せりかちゃんがいつも元気ない時にこれをすると笑ってくれるんだよ」
天使の笑顔にセリカは釣られて笑う
「ちょっと待った!!!!!!!」
レイは動揺のしすぎでテーブルにあった自分のカップをこかし中身がこぼれても構わず、天使をセリカから引き離した
「セ、セリカに……キスっ…する…なんて!!このクソガキ許さないぞ!?オレだってまだした事ないのに!!」
下心丸出しのレイはキスって言葉が思春期の中学生みたいに小声になって顔を真っ赤にしてる
俺にはあんなコトやこんなコトまで執拗にするのに…?
「レイくん落ち着いて、相手は9歳の子供だよ?」
「羨ましいだろ!?」
一言にスゲー重みを感じる
「天使、後で遊んであげるからあっちに行っててくれる?」
「はぁい、セリカちゃん」
天使は部屋を出て行く前に、チラッとレイを見てクスッと笑って出て行った
「見たか!?あの天使の顔を!?絶対にいつか化けの皮を剥がしてやるからな!!」
「裏なんかないわよ天使に」
「そうだぞレイ、オマエにやましい気持ちがあるからそう見えるだけだろ」
「子供に嫉妬したところでね…」
誰もレイの味方はいなかった
イングヴェィはセリカのコトが大好きだがさすがに子供相手に嫉妬はなかった
「子供とは言ってもあの天使は男なんだぞ!?」
「はいはい、レイがウザくなったところで解散しましょうね~」
セリカはレイがこかしたカップを片づけはじめ、とりあえず一旦解散してそれぞれ考えるコトになった
俺も色々考えたいが帰って来たばっかだしまずは休もうかなと自分の部屋へ戻る
当然レイも一緒について来る
前と同じように一緒の部屋で生活したいって言うから
「オマエもしつこいな、天使に下心なんかないんだからいちいち噛み付くなよ」
部屋に戻ってソファに座る
やっぱ自分の部屋が1番落ち着く
レイのさっきの言動を注意する
これからも天使に対してあの態度はよくないしな
「オレはそういう男だってセリもわかってるだろ」
「ちょっとは大人になれって言ってんの
自分はこうだからってそれ言い訳だから」
どっちも引かない若干ピリついた空気
またしょーもないコトで喧嘩になってる
でも、レイが分からず屋だから悪いんだ
レイはウサギにすら嫉妬するくらいだ
まぁ…どうなんだろうな
あまりにそっちばっか構うとヤキモチしたりするのかも
セリカは天使に甘いから優先しちゃうし
そうなるとレイの気持ちもわからんでもないか
あーなんか痒い
腕をかいてからその部分を見ると虫に刺されたのか赤くなってる
すぐに回復魔法で治した
これでもう痒くない、便利な回復魔法
変わらずレイは不機嫌なまま俺の隣へと座る
「オレは虫にすら嫉妬する」
「虫!?虫になんの嫉妬するんだよ!?
どういうコト!?」
レイは俺の腕を掴み自分の口元へと持っていく
さっき虫に刺された場所をレイは強く吸って俺の白い腕が赤く染まる
「セリを赤くしていいのはオレだけだ」
「はぁ!?そこまで気にするって…どんだけ」
腕を引っ込めてレイから距離を取るように立ち上がる
「俺はオマエだけのものじゃないんだぞ…そんな言い方……」
虫にすら嫉妬するレイが、香月や和彦に対してどんな気持ちを持ってるか…
レイは理解してる、それも含めて受け入れるって言ってくれるのに…
だったら俺も、レイのコト受け入れなきゃ…受け入れたい
レイの嫉妬深いところなんてわかってたコトだ
「……天使に嫉妬なんて…するなよ」
俺はレイの膝の上に座って向き合うと、レイにキスする
「…天使にこんなコト出来ないよ
俺が出来ないってコトはセリカにも無理なんだから、何も嫉妬するコトなんてないだろ」
レイが嫉妬するコトないように
嫉妬したら苦しいじゃん、心が…
だからレイには苦しくなってほしくないから、嫉妬しないで
レイの手が腰に回ってさらに身を引き寄せられる
身体の密着する部分が増えて、お互いの体温を感じるのは…何か、妙な気持ちを加速させる
「そんな事くらいわかっているんだ
でも、他の人が触れてほしくない
もっと言えば、話すのも見るのも…嫌なくらい
オレだけが触れたい、話したい、見ていてほしい」
「それは無理」
俺が思ってたより重いぞ、この男…
「オレが嫉妬したら、セリにキスするだけで機嫌直すよ
そうするしかどうしようもない」
「わかった…レイの気が済むまで好きなだけどうぞ」
俺が目を閉じるとレイは何度もキスをする
レイがそんな奴だってコトはわかってるし、嫉妬するなってコトが無理なら
その後に俺がレイのストレスを癒やしてやればいい
「なーんか、丸く収まったみたいね~」
お互いのコトしか見えてなかったレイと俺は声が聞こえて視線を移す
しゃがみ込み下から覗くように光の聖霊と目が合う
「うっぇ…!?光の聖霊いつの間に」
見られてたと思うと、恥ずかしさが急増して心臓までバクバクで全身の体温が嫌に上がる
「もうヤッた?」
女の子がそんなコト言うんじゃない!?
「光の聖霊ってレイのコトが好きだったよな…ごめ」
「謝らないでよね、勇者がなかなかレイに振り向かないから諦め付かなかっただけ
上手くいってレイが幸せなら私はさっさと2番目に良い男を探しにいくわ」
光の聖霊の中で、レイはずっと1番良い男なんだ…
俺は…レイが1番じゃない…
俺より光の聖霊の方がレイを愛してる…
俺なんかより……ずっと相応しい
光の聖霊は俺の鼻を摘まんで引っ張る
「何その顔?あんたのためじゃないから!!
相応しいとか相応しくないとかあんたが決める事じゃないでしょ
レイが選んだ幸せのために私は諦められるの
あんたがレイに相応しくない事くらいわかってるわ!
それでも、レイはあんたを選んだのよ
あんたじゃなきゃだめってレイは百年近くも想ってきたの!!」
「百年近く…?そんなに」
知らなかった
レイといつかの前世で会った時はレイに買われて1時間くらいだったのに
「レイは、最初に勇者を殺す時からずっと好きだった
はじめてあんたを見た時から好きで
あんたが思うよりレイはしつこいのよ!?」
しつこいってしっくり来るな~
一途なのとかもっと綺麗な言葉もあっただろうに
「そんなレイを見てたら…気に入らないけど、こうなって良かったねって言える年月でしょ
これで私も叶わぬ恋とさよなら出来るし」
光の聖霊はぷりぷり怒っていた
レイは俺をソファに座らせると、光の聖霊の前に立つ
「百年近く、オレを好きでいてくれてありがとう
力を貸したり与えてくれた事も感謝してる
傷付けてばかりで長かった君の気持ちに応えられなくて、ごめん」
レイは光の聖霊に深く頭を下げた
こんなレイははじめて見た
いつも自分勝手なレイが…誰かに感謝の気持ちを伝えて、俺以外にちゃんと向き合った
「……ほら…レイは…1番良い男でしょ…」
光の聖霊はそんなレイの言葉と姿を見て、溢れ出る涙を震えながら我慢する
「うん…レイは良い男だよ…」
俺が答えると光の聖霊は私が好きになったんだから当然と笑った
「はぁ~…わかってたけど、はっきり失恋すると堪えるわ
でも!私は2番目に良い男を見つけて幸せになるからね~!」
涙を拭いて前向きな姿の光の聖霊は1人の可愛い女の子でしかなかった
「光の聖霊なら次は上手く行くよ、幸せになれる」
俺が言うと光の聖霊はまた俺の鼻を摘まんで引っ張る
「あんたに言われるのは何か気に入らないわね
レイを奪った奴なんかに」
光の聖霊は俺の鼻から手を離して俺の鼻を指ではじく
「まっ、私あんたの事嫌いじゃないわ
レイの事頼んだわよ」
ふふって光の聖霊が笑うから俺も鼻をさすりながら笑う
「うん、ありがとう…俺はレイとも幸せになるよ」
「それからレイ!振られて諦めたけど、レイの事は好きだからいつでも力を貸すわ!
何かあったらいつでも私を頼って!!」
光の聖霊は吹っ切れてもレイへの好意は変わらずで抱きつこうとしたけど、レイはいつも通り避けた
「それはありがたい、お願いするよ
光の聖霊の力は他にないからな」
レイは…そうだよな
俺だったら振った相手に悪くて気まずくて頼れないって思っちゃうけど
この2人は百年近く一緒にいたって言うし、俺にはわからない情や関係があるんだろう
百年近くどっちもが片想いか…その長い年月矢印が交わるコトなく
百年もレイは俺を、百年も光の聖霊はレイを…
俺にはその想いがどんなに深いのか…わかってないのかもしれない
ちょっとレイへの見る目が変わったな
百年も愛されてたなんて
香月も永遠の長い時間をかけて俺を愛してくれてるし
感謝しか…ないよな、嬉しい
急に……恥ずかしくなってくる
レイにそんなに長いコト愛されてるって知らなかったから、顔が熱い…
どうかレイに気付かれませんように
「勇者が発情した顔になってるからさっさと出て行ってあげたいけど、話があって来たのよねー」
「は、発情なんかしてない!?」
言われてさらに顔が熱くなる、耳まで感じる熱はどうやったら冷めるのか
また光の聖霊に鼻を摘ままれる
「ちゃんとレイを好きみたいで安心したわ」
う、好きなのは…認めるよ……まだ愛してるまでは…いかない…いや、どうだろ
「確か、光の聖霊は女神結夢の様子を見てくれると言っていたな」
レイが光の聖霊に俺の鼻を摘まむなと注意して離してくれた
「そうなの、おかしな事になってね
私に女神結夢の姿は見えない声も聞こえない
だからタキヤが女神結夢と会話してる独り言でしか状況を読み取れないけれど
どうやら神族に逆らった人間がいたみたいで、死者の国に神族を一同集めるらしいわ」
結夢ちゃんが…死者の国へ?
それを聞いて、結夢ちゃんが女神だったコトを思い出す
そんな、セレンだけじゃなく結夢ちゃんまで敵対するコトになるなんて
そんなの…絶対に嫌だ
結夢ちゃんのコト助けるって決めたのに、敵対するなんて変じゃないか
「その…神に逆らった人間…俺です…」
言いづらいが、話がややこしくなる前に名乗っておこう
「はぁ!?あんたバカ!?
それで天の異物がどうとか…納得だわ
死者の国に入り込んだ異物、それが天が創ったたった1人の人間だから
略して天の異物ってわけね」
呆れたわと光の聖霊
俺はどうしてそうなったか光の聖霊に話した
「なるほどねぇ、人間から見たら勇者の言う事はもっともかもしれないわね
でもねぇ、神からしたらルールを破ろうだとか覆そうとかしてるバカなのよ異物なのよ勇者は
私は神じゃないから、レイが仲間を助けたいって言うなら人間の味方をするけれど
女神結夢はあっち側よ、どうするの?
それでも喧嘩売るの?死者の仲間を諦めるの?」
……何も答えられなかった
「話し合いを…したい…」
「無理でしょ」
わかってる
でも、意見が合わなくても出来れば戦いたくはない
神が強そうとかじゃなくて
こうなってもセレンはやっぱり仲間だし、結夢ちゃんは…友達だから
でも…でも…ローズやあの穴にいる人達が永遠に救われないって言うなら…
俺は……戦う…
神にわかってもらうまで、戦うしかない
「それと、女神結夢自身の事も報告があるわ」
「結夢ちゃんの?」
光の聖霊は胸糞悪いと言った顔で眉をひそめる
「タキヤって男、女神結夢の貞操を狙ってるわ」
「はぁあ!!!??」
「タキヤの独り言からして、女神結夢は拒否してるみたいだけど
あの様子じゃいつ女神結夢が襲われてもおかしくないわ」
タキヤは結夢ちゃんに対してそういう目で見てる節はあったが、女神に仕える聖職者が女神に手を出すなんて許されるのか?
悪魔と手を組むくらいのあのタキヤなら…やるかもしれない
そんなのダメだ
「私そういうの許せないの、嫌がる相手を無理矢理どうにかしようなんて最低よ」
心当たりしかない加害者(レイ)と被害者(俺)は何も言えなかった
当然、レイも俺もその行為は最低だと嫌悪するし怒る
ただ、レイと俺の間でそんなコトがあったコトについては俺は許しているから2人の問題としては解決している
「結夢ちゃんを早く助けなきゃ…」
早く…助けたいのに、まだ助ける方法が何もない
神族と敵対するコトになって余計に複雑になったし、これからどうするのが良いのか…
考えなきゃ…納得する答えを出して、行動するんだ
-続く-
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